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ミステリの祭典

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風桜青紫さんの登録情報
平均点:5.62点 書評数:290件

プロフィール| 書評

No.210 5点 クビシメロマンチスト
西尾維新
(2016/01/28 10:03登録)
なんとなく好きになった男のために、なんとなく人を殺す、キャラクターを全面に推しているわりにはなんとも荒唐無稽な話。師匠(?)の森の作品でも思うんだけど、登場人物の行動を狂気だの人格分裂などで片付けるのはどうもいただけない。いーちゃんも自分のマゾっぷりを見せつけてるヒマがあったら、犯人に飛び蹴りでもを食らわせちまえ。いろいろと不満はあるけども、まあ、キャラクター小説としては悪くなかった。西尾ワールドの空気に慣れたこともあるんだろうけど。いーちゃんがキムチ食ったり、刑事に喧嘩売ったりしてがんばってるし、零崎くんも何のために出てきたかはよくわからんが、いい歌声の持ち主だった。個人的には前作より面白かったです。


No.209 5点 クビキリサイクル
西尾維新
(2016/01/28 09:28登録)
メフィスト賞といえば、森や流水を始めとして、漫画チックな作品が多いけれど、それをとことん突きつめたのは、西尾だろう。師匠(?)の流水は、キャラクターになにやら色々な必殺技を持たせていたけれども、神の視点の自我が強すぎて、どのキャラも頭の中身が同じようになってしまい、どいつも内面がなんとも無個性なことになってしまっていた(それゆえキャラ短編集らしき『カーニバル』は読むのが退屈)。対して西尾は、キャラに特殊能力を持たせ記号化するにとどまらず、その特殊能力から個性をしっかり確立させている。いーちゃんと玖渚はもちろん、真姫さん、赤音さん、メイド三人組、どいつも一筋縄でいかない連中だし、彼らの掛け合いもなかなか冴えていて見応えがある。とはいっても、このノリを楽しむには、それなりに才能が必要だろう。私の場合、麻耶や流水みたいな作風は、「なんじゃこりゃあはは」と笑って見られるんだが、西尾の場合は「オタク向けの漫画」みたいな色合いが強く出ているので、読んでるとなんだか疲れてくるのだ。「ブルーハワイの髪の色をした女の子」だけでも割ときついのだが、その髪をいい歳した大学生のいーちゃんがいじくり回す……。うーん、きつい。恐らく西尾は天才肌で、このようなシーンも日頃の空想癖ですぐに作れてしまうタイプなんだろうが、その分、西尾の趣味に乗れなくてはいまいち拒否感が出てきてしまう。話運びはうまいし、絵的にインパクトのあるトリックなんかは面白いと思ったけど、どうも私は西尾にハマれるタイプではないようだ。


No.208 7点 白昼の死角
高木彬光
(2016/01/27 22:47登録)
一応実話を元にしてるんだから、手形詐欺は説得力に乏しいうんぬんとかいうチープな批判は的外れ。そもそもリスキーな犯罪じゃなきゃスリルがないから小説として面白くないだろうに。しかしまあ、このようなタイプの作品は「よくわかんないけど、世の中そんなに甘くないんじゃね?」的な曖昧な思考の持ち主から、安直な批判を受けてしまう運命にあるんだろう。

神津恭介もそうだけど、彬光作品の天才キャラって適度にマヌケなので、見ていてかわいい。光一くん、天才天才盛り上げられてるわりには失敗続きだし、むっつりスケベだから、なんだか応援したくなってしまう。七郎も「恐るべき天才」とか盛りたてられてるわりには、ところどころ抜けていて、妙な親近感あり。太陽クラブの連中も、「これは仕事だ」みたいに割り切ってるわりには、変な友情が芽生えてやがる。木島とか悪党のくせして七郎に身をささげてくれるし、いい奴じゃん(人殺してるけど)。てかゴンザロwwwww。うーん、主人公たちが力を合わせて悪いことをしていく姿がなんだか微笑ましくて楽しかったです。しかし因果応報の法則なのか知らんけども、太陽クラブのメンバーにはもう少し救いがあってほしかったなあ……。


No.207 5点 人形はなぜ殺される
高木彬光
(2016/01/27 22:24登録)
この作品のカミーがヘタレすぎて笑えてくる。終始犯人に驚かされてばっかりじゃん。マネキン消失とか、美女の身体が粉砕されるとか、殺伐とした雰囲気は楽しめたし、それを凝ったトリックに絡めるのは嫌いじゃないけどね……。どうもしっくりこなかった。彬光の文章って読みやすいけど、神の視点が妙にハイだから、「これからすごいことが起こるぜ!」みたいなノリについていけないと、どうにも萎えてしまうし、ライバル(?)の横溝や清張に比べると、なんだか格調がないから、テンションの高さだけが先行してしまう感じがするのよね。島荘とかハゲはそこのところ彬光から影響受けてるんだろうけど。それなりに面白かったけども、正直肌には合わなかった。カミーものだったら、『刺青殺人事件』のほうが好きです。


No.206 5点 点と線
松本清張
(2016/01/27 19:05登録)
今では手垢がついた時刻表トリック。初めて発表さらたときは衝撃的だったんだろうけど、今となってはそこまで印象に残らない。この分量で話の風呂敷を日本全国まで広げる(それもリアリズム指向の世界観で)のは清張ほどの力量がなくては無理だろうし、読み物としては確かに面白かったけども、オールタイムベストでトップにあがるほどのレベルの作品かは大いに疑問(作家票だろうけど)。清張なら他にもっと面白い作品があると思います。


No.205 6点 砂の器
松本清張
(2016/01/27 18:53登録)
1974年の映画版は、間違いなく邦画史に残る名作。「オラ、そんな人知らね〜」が泣かせてくれる。というわけで、原作もけっこう期待して読んだのだけど、映画版で感動した部分がことごとく削られていて(というかもとも存在してなくて)ショック。千代吉死んじゃってるじゃん。しかも犯人がめちゃくちゃ冷酷だし。そんなさくさく人殺しちゃうなよ。こんなん死刑やん。トリックもねえ……。さすがは大インテリの清張、とは思わせるけど、なんかなんでもあり感があって釈然としない。というわけで、映画版のほうがはるかに面白かったです。といっても、まあ、清張は細部描写が妙にうまいので、読んでる間は普通に楽しめました。今西さんの日常が、ごはんに味噌汁かけたり、奥さんと祭りにいったり、なんとも親近感があります。まあ、それは清張のどの作品にも言えることなんだけど。そういうわけで、映画版だったら9点。原作は6点といったところ。


No.204 6点 虹の歯ブラシ 上木らいち発散
早坂吝
(2016/01/27 03:06登録)
「ポケモン図鑑とか集めたいじゃん?」とか、なんだか2ちゃんねるの書き込みみたいに投げやりな台詞回しが笑えてくる。全体的にチープさが漂っているものの、なかなか優れた本格ミステリ短編集で、器用な伏線の張りかたには驚かされた。特に紫の章と青の章は伏線と絵的な面白さとからみあっている。馬鹿話と思えるエピソードのなかにもしっかりと伏線を張っていくあたり、油断のならない作家だ。賛否両論臭いが、赤の章も作者の遊び心が伝わってきて楽しい。早くも次のらいち作品が楽しみである。


No.203 6点 ○○○○○○○○殺人事件
早坂吝
(2016/01/27 02:55登録)
手作り感あふれる文章に、投げやりな話運び、そして予想の斜め上を行く結末。もう笑うしかないでしょう。つーか解決編の前に出てくる奴誰だよwwww。同期の京大組のうち、アイデアの充実ぶりを感じさせるのは円居とモリカワだけども、作品として面白いのはやぶたん。この学生がふざけて書いたのをそのまま書籍化してしまったようなノリがたまらない。しかしなんだかんだで、本格ミステリとしてはなかなか良くできています。ふざけた部分を物語の仕掛けに結びつけるのは好印象。肩を抜いて楽しめる作品でした。人には薦めづらいけど。


No.202 5点 踊る人形 名探偵三途川理とゴーレムのEは真実のE
森川智喜
(2016/01/27 02:45登録)
三途川の悪党ぶりがどんどん酷くなっていくwww。つーか、予想以上に俗っぽくてせこい奴だった。この調子だと次回作ではどこまで突き進むんだろうか。ミステリ部分に関してはいつものモリカワ。充実したアイデアを惜しげもなくポンポン発射してくれる。とはいっても、前の二作品に比べると道具(ゴーレム)のハチャメチャさが足りないかな。というわけで5点。


No.201 6点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ
森川智喜
(2016/01/27 02:41登録)
yoshiさんのおっしゃる通り、本格ミステリとしての構造を破壊すれば、それが面白くなるというものでもない。モリカワの作品はどれもアイデアに富んでいるものの、謎を出してすぐに種明かしするようなスタイルは、正直面白いのかどうか疑問なのである。ところがモリカワ本人は作品としての面白さを演出するためにこの用法を採用しているらしいから面倒だ。魔法の鏡にデスノートのようなルールをつけていないのはその印だろう。言うまでもなく、「一定の条件下でなんらかの現象を起こす鏡」よりも「なんでも叶えてくれる魔法の鏡」を出した方がハチャメチャさが増して面白いのである。しかしその一方で、三途川が魔法の鏡に「解決策」を訊かないような理由について、「話の都合上です」ということを読者側が把握してあげなくてはいけないから、読む方も大変なのである。そういうわけで、どうにもモリカワという作家は才能がうまく生かせていないように感じる。でもそこがモリカワの特徴でもあるのよね……。

まあ、荒唐無稽なお笑いライトノベルとしては面白かった。三途川があまりにも外道すぎて笑えるし、ママエの投げやりな推理姿勢もなんか微笑ましい。どいつもこいつも魔法の鏡を好き放題に使ってくれる。つーか、もゆるくん死んだwwww。うーん、パーツひとつひとつを拾って見れば、間違えなく本格ミステリだけども、作品としてはギャグ小説として評価したい。どうもモリカワは判断がむつかしい作家だ。


No.200 6点 キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人
森川智喜
(2016/01/27 02:23登録)
出だしからハチャメチャなスタートで爆笑させてもらった。人間缶詰工場ってなんやねん。ノリノリで登場したペンタメローネくんが勢いであっさり死亡したり、ひやま君が放置プレイを食らったりとなかなか笑えるシーンが続く。たぶん冗談のノリの延長線で作品を書くタイプの人で、書いてて楽しかったに違いない。ファニーな設定で笑いをとる一方、そこから話を広げる手腕は見事。とはいっても、謎解きものとして面白いかと言われれば微妙なところ。仕掛けは良くできているんだが、「ここが謎の焦点ですよ!」という見せ方があまり上手くないので、種明かしをされてもあまり驚けないのだ。どうも円居挽と同じく、軽いタッチでありながら、読者に高い水準を求めすぎている。京大ミス研の身内にはウケるのだろうけども、これを買い求めるなかにはもちろん水準の低いクソ読者もいるわけで、「なんだかよくわかんなかった。こんなの小学生の作文だぜ」という感想を持たれても仕方がないだろう。仕掛けの充実ぶりは評価するけども、作品としてはまだまだぎこちない感じ。


No.199 6点 河原町ルヴォワール
円居挽
(2016/01/27 02:07登録)
落花さん脂肪という結構ショッキングな出だしからスタート。ダラダラとしたやり取りもなく一気に双龍会に入ってくれて、スラスラと読める。やっぱり、円居挽は仕掛けで見せてくれたほうがいいなあ……。大袈裟になっていく推理合戦はなんだか少年マンガっぽいけど、なかなか燃えました。大仕掛けなトリックもそれなりに満足。途中で出てきた「神の声的な何か」はちょっといただけないけども。しかし、このシリーズ終えて、まどばんはどこに向かおうというのか。とりあえず、また何か話題作を出すまでは様子見しておきます。


No.198 4点 今出川ルヴォワール
円居挽
(2016/01/27 01:49登録)
うーん、カイジみたいなギャンブルものをやってみたかったんだろうが、文章ではいまいち緊迫感が伝わらず、荒唐無稽なやり取りになんだか萎えてしまった。円居挽は仕掛け作りはうまいが、小説はどちらかといえば、ヘタな部類に入るだろう。横溝ネタや麻耶ネタも執拗すぎて少し興醒め。そもそもパロったところであまり意味があると思えないし。撫子の「女だからってナメんなよ」とか「男と女をくっつけるぜ!」みたいなノリもなんかねえ……。男が書いた女って感じが強くてダメだわ。円居挽はどうも本格ミステリ以外の小説をあまり読んでこなかったのではないかと思える。最後の大仕掛けなトリックはそこそこ面白かったので4点。うーん、期待と不安が入り交じる作家だ。


No.197 5点 烏丸ルヴォワール
円居挽
(2016/01/27 01:36登録)
円居挽の作品はキャラが立ってるという意見をよく見るのだけど、個人的にはそう思わない。どのキャラも特性が漫画的で、なんていうか、キャラの内面があんまり滲み出てきてない気がするわけです。漫画的なキャラ付けというのは京大組には結構多いのだけど、メル、JDC、三途川、らいち、あたりが作品ひとつを成立させるキャラクター性があるのに対して、ルヴォワールシリーズはあくまで双龍会が主役で、キャラ一人一人は装飾品って感じなんだよね。というわけで、今回はみつるさんが主役なんだけども、みつるさんを追って作品を楽しむのは少し難しかった。円居挽自身はこういう話を書いたりするわけだから、キャラ付けに凝っているんだろうけども、それがどうにもうまく決まってない気がする。みつるさん、かわいい奴だけど、地味なんだよな……。双龍会も小粒だったので残念。仕掛けはうまい、と思ったので5点だけども、もう少し面白くできたという気持ちが残ります。


No.196 6点 丸太町ルヴォワール
円居挽
(2016/01/27 01:19登録)
次々と繰り出されるとんでも推理の数々に笑わせてもらいました。そのくせ当事者たちは必死にやっているのが、なんとも面白いです。しかし、論語くんはあんな結末に落ち着いてよかったのかwwwww。叙述トリックの連射が注目されてるようだけども、こちらはそこまで面白いと思えなかった。なんだかくどい感じする。それに今回メインになっているトリックは叙述で一番手垢がついてるやつだからねえ(だから円居は採用したんだろうけど)……。技術力は高いんだけど、どうにも見せ方がぎこちない気がするわけです。森川智喜もそうだけど。ともあれ、なかなか楽しい作品でした。


No.195 6点 民王
池井戸潤
(2016/01/27 00:53登録)
安定のリーダビリティの高さで楽しく読めた。冒頭では、「また俗情の結託みたいな麻生叩きか……」と引いてしまったが、読み進めていくと、安直な政治批判ものではなく、むしろ国民やマスコミの政治に対する無理解な姿勢を指摘しているようにも感じられた(なのに文庫解説は安直な政治批判だから嫌になる。まあ村上貴史はバカだから仕方ないけど)。親父と息子が入れかかわった結果、なんだかんだでうまくおさまるなんて展開はあまりにもベタなのだが、これがまた痛快で面白い。「リンゴもバナナもあるか!」と「泰山は私の父です」のくだりには思わず興奮してしまった。それだけに「ある人物は入れ替わりの事実」を知っていたというオチには、ややがっくりとくるんだけども、まあ、話をきれいに落とすには仕方がないか。翔の「父は生まれながらの政治家です」という台詞には満足。池井戸潤の巧みな話運びが感じられる一冊だった。


No.194 6点 鉄の骨
池井戸潤
(2016/01/27 00:31登録)
平太がなんとも災難続きで笑えてくる。平易な文と先行きを気にさせる話運びが生み出すリーダビリティは見事で、まったく分厚さを感じさせなかった。読んでる最中は間違えなく楽しめた……が、読後感にはやや釈然としないものが残る。結局のところ、平太は、談合を始めとした社会なブラックな面に押されたまま、敗走してしまったように感じたのだ。『坊っちゃん』なのだ。もちろん裏社会の天皇と馴れ馴れしく話せることをのぞけば、平太は名前の通りの単なる平社員なんだから当たり前といえば当たり前なのだが、そこがどうにも読み終わったあとに悔しいと感じたおこほだった。「私って卑怯な女なのかしら?」などと宣いながら男二人を振り回したクソ女(言うまでもなく卑怯である)に対しても、階段から蹴落とすなりして地獄を見せてやってほしかった。あれでは銀行の先輩がかわいそうではないか。読んでいる間は8〜7点だったのだが、結局は無難なところに話が着地してしまったのが残念である。


No.193 7点 下町ロケット
池井戸潤
(2016/01/27 00:15登録)
骨組みは単純な勧善懲悪でも、徹底して王道を貫けば面白くなる好例。登場人物が善玉なり悪玉なり、どいつもこいつもポジティブで見ていて気持ちがいい。ソクラテスのいう「最良と思うことを固守すべし」の魂がどの人間にも行き届いており、それによって敵役だった財前なり、会社の人事部連中なりが味方になってしまうような有り様がなんとも面白い。「佃がラッキーマンすぎやしないか?」と思うし、あまりにご都合主義な面も目立つのだが、ストーリーテリングの高さを維持するため、そのようなところで腰引けしないところに、池井戸潤の強さがあるのだろう。なんともハッスルした元気な作品だ。


No.192 4点 果つる底なき
池井戸潤
(2016/01/27 00:02登録)
いかにも乱歩賞の受章を狙って書いたような作品。銀行の構造についての説明がだらだら書き流されているものの、作者の経歴アピールのために入れられたような感じがあり、読むのがダルい。池井戸の著名な作品はどれも抜群のリーダビリディを持っているんだけども、デビュー作のこれはなんというか退屈な話運びだった。文庫解説では、「銀行ハードボイルド」など表現されているが、話の筋や最後の格闘シーンが『大いなる眠り』とか『ゴッドウルフの行方』にちょっと似てると思っただけで、ハードボイルドとしてもそこまで楽しめる作りとは感じなかった。まあ、良くも悪くもデビュー作といったところか。


No.191 4点 ビブリア古書堂の事件手帖6
三上延
(2016/01/26 23:04登録)
うーん、微妙……。4の乱歩のときも思ったが、割と好きな作家が取り上げられているときはなんか釈然としない思いが残る。別にこれを読まんでも、そこらへんで太宰治の小説をテキトーに買って読んだほうが、よほど太宰の人間性について分かるし、ずっと充実した読書時間を送れる(ライトノベルと太宰を比べるのもどうかとは思うけど)。そういうわけで、太宰のエピソードを使って作品を盛り上げようという考えはいかがなものかと思ってしまうのだ。栞子さんも太宰好きらしいけれども、作中の人物たちの太宰への感想が中学生の投げやりな読書感想文みたいで、どうにも熱さが伝わってこない。そもそも太宰の作品を楽しんでもらいたいんだったら、『駈け込み訴え』のオチをさらっとばらしちゃダメではないか。「うねるような告白に胸がひりひりした」じゃないよ大輔くん。さらっとラストシーンをばらした栞子さんを恨まなきゃいかんでしょう。『断崖の錯覚』なんぞよりこっちのほうがよほどミステリ小説っぽい楽しみかたができるのに……。

ミステリとしても4、5に比べて弱く、作品を支えられるほどではないです。一応のメイントリック(?)である本の消失についても見当がつきやすいので、カタルシスは得づらい。短編ならばいいのだろうけど。それにしても犯人の栞子への思いがなんともわからない。「栞子さんがたくさん本を読んでて悔しい!」って……。だったらあんたも本を読めばいいだけやん。そもそも本をたくさん読んでるからって劣等感を抱く気持ちが意味不明である。『こころ』で先生が語った「いくら本を読んでいてもえらいと思えなくなったのでね」という言葉を噛み締めてほしいものだ。

田中くんと大輔くんの妙なやり取りとか、それなりに見所はあったので、まあ、4点ぐらいで。最終章はどう決着をつけるのやら……。

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