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ミステリの祭典

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鉄の骨

作家 池井戸潤
出版日2009年10月
平均点5.29点
書評数7人

No.7 6点 麝香福郎
(2021/11/01 18:39登録)
中堅ゼネコン一松組の若手社員・富松平太は、建設現場から"花の談合課"こと業務課に異動となった。慣れない仕事に戸惑う彼は、常務の命により、談合を仕切るフィクサーの三橋萬造の家に出入りするようになる。二千億円規模の地下鉄工事の受注を担う一松組だが、入札をめぐる各ゼネコンの談合の動きを見て、平太の心は激しく揺れる。また、私生活でも銀行員の恋人との間がぎくしゃくしてきた。公私ともに波乱に満ちた平太の人生はどこに向かうのだろう。
平太の見た談合の実態。それはゼネコンの生き残りと、深くかかわっていた。ならば談合は必要悪なのか。しかし一方で、フィクサー三橋に談合を否定させるなど、作者は談合を単純な善悪で割り切らない。だから平太の心の揺らぎが、そのまま読者の揺らぎとなり、談合について深く考えるようになるのだ。ここが本書の読みどころといえよう。
さらにラストに控えた、ミステリの仕掛けも見逃せない。談合と密接に関係したサプライズが、テーマをより際立たせるのだ。あくまでもエンターテインメントとして読者を楽しませながら、現代の問題に鋭く切り込んでいる。

No.6 7点 haruka
(2016/07/09 22:44登録)
面白かった。
城山の資金洗浄の手口を追いかける過程なんかは作者の十八番だろう。
脇役のキャラが立っていて楽しめた。

No.5 6点 風桜青紫
(2016/01/27 00:31登録)
平太がなんとも災難続きで笑えてくる。平易な文と先行きを気にさせる話運びが生み出すリーダビリティは見事で、まったく分厚さを感じさせなかった。読んでる最中は間違えなく楽しめた……が、読後感にはやや釈然としないものが残る。結局のところ、平太は、談合を始めとした社会なブラックな面に押されたまま、敗走してしまったように感じたのだ。『坊っちゃん』なのだ。もちろん裏社会の天皇と馴れ馴れしく話せることをのぞけば、平太は名前の通りの単なる平社員なんだから当たり前といえば当たり前なのだが、そこがどうにも読み終わったあとに悔しいと感じたおこほだった。「私って卑怯な女なのかしら?」などと宣いながら男二人を振り回したクソ女(言うまでもなく卑怯である)に対しても、階段から蹴落とすなりして地獄を見せてやってほしかった。あれでは銀行の先輩がかわいそうではないか。読んでいる間は8〜7点だったのだが、結局は無難なところに話が着地してしまったのが残念である。

No.4 4点 こう
(2012/11/18 23:57登録)
 池井戸作品を全作品読んだわけではないですが、この方の作品は中年社長が頑張る作品の方が共感しやすく成功作なんだと思います。読者の自分が年取ったからかもしれませんが。
 この作品の主人公は青臭く、まだこの作品の舞台に上がるには早い印象が強かったです。非現実的ながら面白い作品だとは思うのですが主人公への共感がいま一つでした。

No.3 7点 akkta2007
(2012/02/22 19:06登録)
「企業小説」読みにくいのでは・・・と思いつつも、何のことやら・・・
とても読みやすく、夢中になり一気に読んでしまった。
読後感も大満足。

No.2 5点 E-BANKER
(2011/12/10 00:38登録)
600冊目の書評は、吉川英治文学新人賞受賞の本作で。
今や、乱歩賞&吉川英治賞&直木賞まで受賞した作者の、躍進のきっかけとも言える作品。

~中堅ゼネコン・一松組の若手社員・富島平太が異動した先は「談合課」と揶揄される、大口公共工事の受注部署だった。今度の地下鉄工事を取らないと「ウチが傾く」・・・技術力を武器に真正面から入札に挑もうとする平太らの前に、「談合」の壁が。組織に殉じるか、正義を貫くか。吉川英治文学新人賞に輝いた白熱の人間ドラマ~

これぞ「空飛ぶタイヤ」以降、作者が確立した熱血&勧善懲悪経済エンタメ小説。
今回の舞台は、未だ旧態依然とした「談合」により、業界の利益を守ろうとする建設業界。作者は、1人の若者を通して、この「暗い闇」にスポットライトを当て、見事な人間ドラマに仕上げてます。
「工事落札」に心血を注ぐ平太と上司、「談合事件」を摘発しようとする検察特捜部、銀行員である平太の恋人とライバルの融資課員など、すべての人物が、その良し悪しに関わらず、己の矜持を貫いているわけです。
(相変わらず、分かりやすい勧善懲悪の図式は今回も健在。)

ただねぇ、あまりにもデフォルメし過ぎているような感覚は持ってしまった。
無論、一般読者向けに平易で分かりやすい表現やプロットをというのは、販売サイドから見ればあるんだろうけど、実際、日頃厳しい社会の端くれとして働いている私自身として、「こんな単純な話じゃないよ!」って突っ込みを入れたくなるシーンがあまりにも多い。
(もちろん、フィクションだと分かってますけどね・・・)
本作は、主人公である平太がいっぱしのサラリーマンとして成長していく、というのが1つの大きな本筋ではありますが、いくらなんでも入社して3年目のヒラ社員が、ゼネコン談合のフィクサーと対等に話をするという図式は、ちょっと荒唐無稽すぎるよなぁ。
というわけで、『ホントは、こんなに簡単じゃないんだよ、平太君!』って諭したくなる場面が何度もありました。

ミステリー度は極めて低いし、もう少し「厳しさ」や「緊張感」のある作品を書いて欲しいという願いをこめて、評価はやや辛めに抑えておこう。
(作品中の兼松課長や西田係長みたいな地道な人が、日本経済の底辺を支えているんだよなぁ・・・)

No.1 2点 江守森江
(2010/03/16 16:12登録)
現代社会をリアルに描いたエンターテインメント作品としては非常に面白い。
現代を舞台にエンタメ風味をまぶした山崎豊子作品と言った趣き。
最近の東野圭吾作品とは違う方向性でミステリーの境界線を考えさせられる。
私的なミステリーマップの範疇には含めたくない作品なのでポリシー通り2点。
もっとも、作者の近作は一般的ジャンル分けでも経済小説・サラリーマン小説に分類されている。
建設業界・談合・東京地検の捜査にサラリーマンの哀愁を絡め読ませるので一般小説で採点すれば7点は下回らない。
※但し書き
梶山季之や清水一行の経済絡みな小説をミステリーに含めている私の節操の無さはスルーして下さいm(_ _)m
※追記(6月2日)
NHKでドラマ化され近々放送される。
その広告で経済ミステリーと表記されていた。
ミステリーとして宣伝した方が一般には食い付きが良いのだろうか?

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