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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.684 7点 カササギの計略
才羽楽
(2017/03/15 12:34登録)
これ、ホワイト反転なの? 純白ってより、臙脂か、濃いめの(ちょっといやらしい)青緑でね? と思ってたら、最高に刺さるあの脇役さんが全面的結末ホワイト化の演出家に突如変身。参ったね! これぞ『逆クリスチアナ・ブランド』の精髄。彼女(クリス)が生きてたら本作の爪の垢でも反面教師にして、更なるブラック反転、否ディープターコイズブルー反転への精進にますます勤しんだかも知れない、などとあらぬ妄想しました。 「後者であることを祈ります」なる独白には笑った。

ミステリとして重要な「或るパーツ」に、小説としても実質ある重みを蒸着させた、ラストシーンの泣け過ぎるダブルミーニングには胸をつかまれました。 タイトルの、ちょっと冷たい『計略』というワードにもあらためて泣けたね。いいなあ、老衰。。

ネタバラシをちょこちょこ出したり、某叙述トリックが作品自身に一瞬にして呑み込まれちまったりしてるくせに、この。。。。 いや、その叙述なんとかの伴走者たるもう一方のアレが小説全体の厚みある何かしらと密接に絡み合い、なにしろ味わい濃く深かった(こんなに読み易いのに!)。 敬語による殊更の念押しか。。

大きな苦言は、主人公男子が「その事」に気付かなかった理由が単に 特別な経緯も無く 忘れていたから .. というあまりに大味な主要パーツの立ち位置だが .。.。.。それすらどうでもよくなるこの気持ち良い小説輪郭と、終結の、雨上がりの虹っぶりよ。 8点に大きく迫る7点を!


No.683 7点 盲目の鴉
土屋隆夫
(2017/03/07 22:50登録)
警察と言う名の盲点! (←これいっそ、メイントリック的なものに使えるんじゃ!?)

或る犯行手段暴露の端緒となった時計の件、トリック側の事象はささやかなもんだが、ロジック側の、意外に伸びしろの有る推察絵巻はなかなかの鳩尾(みぞおち)連打。 あとその、トリック側の、念押しの機微ね。。

生体反応をごまかす。。。 まさか!!  ぁ、そこは違ったのね。 (しかも更にもひとつ真相の奥座敷があって、とかちょっと期待しちゃった)

んで、もう一つの犯行のトリックに纏わる「偶然」がね。。何とか歯を喰い縛って「必然」に持ち込めなかったかもんかと惜しまれますけどね、しかしそっすっと余程の無理が生じちゃうってワケで諦めて、まだしも有り得そうな偶然設定にしたのかな、って土屋さんの苦渋の選択に想像巡らしましたよ。 偶然と言ゃア「偶然が生み出した夜の芸術」!これゃ笑ったぞぇ(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎

謎めいた表題の意味がミステリ的には決して深い抉りの軌道を見せるものでもなかったってのは、少しばかり惜しまれます。
位牌の件、、勝手なものよとその心を訝りつつも、泣けましたね。
それと、各章タイトルがね、さり気なくも唆るんだよね。
やっぱり、いい本ですよ。


No.682 8点 レーン最後の事件
エラリイ・クイーン
(2017/02/24 00:21登録)
ユゥモアたっぷりの導入部はロスと言うよりまるでクイーンの様! おまけに、危うく日常の謎と見紛いそうな不可解盗難&返却事件が連発!! マスタード付きハムサラダ三人前!!!

小説的に、どう考えても怪し過ぎる奴が一人いる。。しかし、いやしくもドルリー最後の事件がそんな安直な真犯人像を歓迎するだろうか。。。 そうですか、やはりそいつではなく、あの人が真犯人でしたか。。。。

緊張の手綱は中盤微妙に緩まりも見せるが、かの堂々たるラストシーンが全てを(ダブルミーニング?)眩しく包みこむ。そこへ辿り着く最後の急転直下も、突然の悲劇性と相俟って心を掴んで離さない。
どうしても先行三作を含めた四部作の終結部として読んでしまいますね。。それもまた良し。終わってみれば、前半折り返し前の予想を大きく上回る高評価領域へ。 それにしても、凄いな、この「動機」たちのぶつかり合いは!

ただ、ドラマティックな真犯人特定の決め手となる心証(同種三件)が、その雄大な悲劇性に較べると若干こじんまりしているきらいはあるかも。。まぁそれは瑣末な問題ですね。


【ドルリイ・レーン最後のネタバレ】
手に伝わる振動の微妙な違いで分からないもんですかね、中が空洞か詰まってるかなんて、、 感覚が鋭敏になっているであろう人が、、、聴覚以外の。


No.681 7点 日光中宮祠事件
松本清張
(2017/02/19 12:09登録)
日光中宮祠事件/情死傍観/特技/山師/部分/厭戦/小さな旅館/老春/鴉
(角川文庫)

渋みと鋭さの光る銘品集。音楽に喩えればまるで『戦前BLUES』のような。
そんなんが好きな方にだけ薦めます。


No.680 7点 焦茶色のパステル
岡嶋二人
(2017/02/16 20:24登録)
終盤、事件に関わるカネの額がまるで等比級数の如く膨れ上がる真相暴露のスリル。血統やら汚職やら、起伏豊かなミスディレクションに気持ちよく翻弄されました。四段半つづら折り(いっそ五段で良かった?)の果てに見せ付けられる三重底、見事に落とされました。。。こりゃあ反転てより、大逆転だねえ。8点に大きく迫る7点を! 「ノックス」なる競走馬の登場にはちょっと萌えましたよ。


No.679 4点 本格推理⑤犯罪の奇術師たち
アンソロジー(国内編集者)
(2017/02/16 18:53登録)
編者は鮎川哲也。 山口三樹「クロノスの罠」は熱いね、好きですよ。Tetchyさん仰る通り「時計館」を彷彿とさせる、かなりディープな領域にまで侵入したアリバイトリック。偽装のバレるきっかけがまたタマりませぬ(セクハラっぽいけど)。単体で8点やっちゃいます。他のはどれもだいたいゆるい。


No.678 7点 世界短編傑作集5
アンソロジー(国内編集者)
(2017/02/15 07:06登録)
やっぱパトリックことクエンティン「ある殺人者の肖像」結末が胸に残像ですよ。
企画勝負に〆も綺麗なヘクト「十五人の殺人者たち」も印象深い。
仄暗く陰惨な魅力のベイリー「黄色いなめくじ」は定番名作。
いやらしい最後の一撃にヤられるコリア「クリスマスに帰る」で悶えよう。

チャンチャンな感じのも結構入ってるが、上記4作はやはりアンフォゲッタブルな味わい。


No.677 6点 閉ざされて
篠田真由美
(2017/02/14 06:48登録)
容姿が原因で、大邸宅の一室に引き篭もること数年の主人公。兄の助言を受け、一種のセラピーとして自らの来し方を三人称の客観文章で手記に認(したた)め続ける。その文章が本小説の根幹だが、時おり手記外の独白等も混じり。。

最後に●●●●ッ●が暴露されますが、決して天地がひっくり返るわけではなく、視点が斜めに30度ずれる程度です。しかしその裏打ちとなる社会意識と人間悲劇のそれなりの厚みと、物語がそこに至るまでのそれなりに切実なサスペンスがあるから、やっぱり読んでそれなり以上に面白い。

ハンマースホイの絵は私も好きでね、自宅冷蔵庫のメモ用マグネットに使ってるんで毎日目にしてます。何ともミステリ心が惹かれる画風の人です。


No.676 7点 浅草偏奇館の殺人
西村京太郎
(2017/02/11 16:09登録)
犯人はかなり見え透いてましょうがね。。。。雰囲気で押し切られちまいまさぁね。古い浅草。。。京太郎さんの内に秘めた暗い情念が最善の方向に勢いよく噴出したかのようで。
金持ち代表エノケン登場も貧乏芸人の希望の象徴として頗る良し。心に残る一作です。


No.675 8点 招かれざる客
笹沢左保
(2017/02/10 16:10登録)
海の底みたいな娘。。 昔の大井町。。(昔みたいな一画、今も残ってますが)

ちょっと肩に力が入ってそうだが最後は上手く収まった。大胆な二部構成も却って全体像見えやすいかな、何しろトリックにロジックに社会派(労組スパイ)に恋愛に人間悲劇に男の生き様と盛りだくさん。トリックに限って見ても、色んな方面のが規模感大小入り混じりでね、面白いけどちょっと詰め込み過ぎって思う人も多いだろかね、だけど、謎の核心の所で言えば、本作実は「時計館のなんとか」に(原理は違えど)ちょっと通じるかなり悪魔チックな、でもぐっと人間臭い、灼熱系豪快アリバイトリックの話じゃねえの!? ってか【以下、伏字にしたけどネタバレ】ある意味人工的な●定時●でキメやがったって話じゃないのさキキーッッ!!(ハンケチを噛む)

探偵役(休暇中警部補)の、やっぱり何とも人間臭い足掻きっぷりも読ませてくれます。この人は良かったです。妹さんも幸せになってほしい。妹さんと言えば、なかなか無い類の余韻をくれるこのエンディング。。。

清張に先立ち自ら(昭和三十年代の)「新本格」を名乗ったという作者の、旧新本格(へんな言葉)堂々のデビュー長篇。こりゃ三十年代フェチの人に限らず、世界中のミステリファンに幅広く読まれて欲しい快作ですよね!


No.674 6点 聖女の救済
東野圭吾
(2017/02/07 18:56登録)
俺の東野とは思えないほど、つかみが弱い、引き込み緩い、落としは、、 最後までなんだか出涸らし番茶味のガムを噛まされてるみたいなもどかしさ。逆トリックならぬ逆犯行てが? 大胆企画を消化しきれなかった試作品ってんじゃ。。森博嗣の失敗作っぽくないか?(って氏の作品はまだ数えるほどしか読んでませんが。)

でもまあ湯川教授はいいこと時々言うよ。「たとえ虚数解であっても。。」その虚数解の正体に魅惑されそこなったのが残念なんですけどね。 少なくとも例の(そうは言ってもなかなか凄い)トリックの方はね。。

微妙にネタバレ交じりの褒め言葉でフォローさせてもらうと、本作はフーよりハゥよりホヮイよりホヮットより「ホェンダニット」の’大きさ’で魅せる、というなかなか画期的な作品なのかも知れませんね。それともう一つ、何ダニットと呼んでいいのか全くわからない、真犯人の”その間”の気持ちね。「別な意味のハゥダニット」とでも言ったらいいのか。 うん、中盤はイマイチでも、最後に明かされる真相はやっぱなかなかだよな。そうそう『最後の物証』を巡るちょっと切ない背景物語もね。。本格推理(というか犯罪捜査)として全く無駄になってなかったってのが分かるあたり、振り返れば泣けますよ。 「存在の有無を確認するという作業は曲者でね。。」 そんなわけで読後じわじわ来て、4点⇒5点⇒6点とぐいぐい上がっちゃいましたね。 

川崎フロンターレの人気サブマスコットを連想させるキャラクターが登場したのは萌えた。
それと、湯川教授と福山雅治が同一人物ではない設定だったのには笑いました(笑)。


No.673 8点 名探偵篇「十三角関係」
山田風太郎
(2017/02/04 18:26登録)
ごく限られた作品に登場する風太郎のシリーズ探偵、びっ★を引く豪傑、荊木歓喜(いばらきかんき)地下医師の人情残酷活躍譚。短篇、中篇、そして長篇(表題作)。時代は戦争の煤煙も風中に残留する昭和二十年代。

ものものしい舞台設定、そして物語背景の割に、終わってみればなーんだか小粒ッちィ味わいの短篇が続くのがちょっともどかしい。。個々の題名が魅力的なだけに余計そう感じるのかも。とは言え詰まらない代物じゃァ全くないわけなんですが。しかーしやっぱりラスト三作で一気に力技逆転の感が強い。すなはち:

・最後の手紙in文語体に感動の全てが集約された「落日殺人事件」(短篇)。 8.4点!
・立派だ。実に立派な結末だ。意味の深い反転の連続、こりゃあ人も褒めようぞ「帰去来殺人事件」(中篇)。鮎哲の黒トラじゃないが”荊木歓喜自身の事件”でもある。陰惨無比な事件話のクセに、振り返れば妙にイイ雰囲気、晴れたる青空、雨の日も伸びやかに。。なんだよな、舞台となる邑が(獄門島に通じる)。9.3点!!
・単体で書評済みの「十三角関係」(長篇)については、ここでは長く語りません。流石の「帰去来」と較べると少しの緩みは見られるものの、興味津々の人間関係に推進力あるプロット、最後はかなり悪魔領域侵入のアリバイトリックが露にされる風太郎刻印入りの力作ですね。 四捨五入で8点に迫る7.42点!

巻末に森村誠一、適量に青臭い双方向抱擁型の、良い意味で軽量級な解説もまた旨からずや。
(氏はホテルマン時代、貸本屋で風太郎の忍法帖シリーズに淫しまくっていたそうな)

チンプン館の殺人/抱擁殺人/西条家の通り魔/女狩/お女郎村/怪盗七面相/落日殺人事件/帰去来殺人事件/十三角関係
(光文社文庫)

ところで「歓喜」と言えば韓国のブットい美声R&Bシンガー、「歓喜」と書いて「ファニ」君をどなたかご存知でないですか? その昔はFlytothesky(略してFTTS)というデュオに属してました。いや、解散はしてないのかな? 元々いい顔してるのにわざわざ整形手術を受けたら「きれいなジャイアン」みたいな顔になっちゃって一部の失笑を買ったのも今は良い想い出。


No.672 7点 自殺の殺人
エリザベス・フェラーズ
(2017/02/03 12:08登録)
本作における二段階事件を、日常の謎の世界にハイパー翻案したらいったい。。。 なんて軽く妄想カマしてたら、そんな甘いモンじゃなかった!

セイヤーズ「雲なす証言」の複雑真相からポイント絞った一工程にインスパイアされて、更に複雑な悪夢に培養させたような。。堂々の結末!

これで中盤が、手に汗グリップの展開だったら、8点は固かったね。ほんわかし過ぎのムウドがおいらにはちょっとな。ま、これから日本でももっと読まれて然るべき、古びない古典名作と言えましょうぞ。

「名前を忘れたらマクラスキー」ってのは笑ったぜ。おいらの場合は「サイトウ」だ。


No.671 4点 クイーンの色紙
鮎川哲也
(2017/02/02 01:13登録)
鮎哲大好きな私がどうにものめり込めない三番館シリーズ。前半諸作はまだしも見所があったが、後半いいとこ第五弾の本作ともなると露骨な創造的疲弊がそこかしこに垣間見え。特に表題作の虚脱座り込み真相のやり切れなさは何処の裏山に捨てて来いと仰るのか。鮎川さん、もういいですからゆっくりお休みください、そして「アレ」を完成させる英気を養っていてください、とレイトエイティーズ(昭和末期!)に遡って後ろ向きのエールを送りたくなる、(小説家としては)晩年作。そっかこの頃って故PRINCEの全盛期かァ~ 鮎川さんは聴いてなかっただろうなァ。

だけどまあ、最後の作品群だと思えば(この後十数年ご存命とは言え)何とも言えない寂しさの様な感慨が走ってしまいます。


No.670 7点 真昼の悪魔
遠藤周作
(2017/02/01 13:30登録)
昼夜を問わずシュイシュイ読めちゃう、ちょいと古風なユーモア・イヤミス。 主舞台は病院。と言っても医療ミスを装った謀殺や重大な過失で人が死ぬわけでは無く。。。
世評に見えるような重みは感じないけど、面白かったっすよ。こういうスカッと爽快に楽しめる本っつのは私たいてい6点ですが、コイツはもう一声、7点行くね。

確かに、四人の女医のうち誰が「名を伏せられた彼女=悪者」なのかという趣向は引っ張る。が、【こっから、厳しく見ればネタバレ】最後にシラっと正体が明かされる結婚式のシーンはミステリの感慨方面からは見事にソッポを向いていた。かと言って文芸の深みなど有りそで無い。。と思うが、面白さで勝負だ。大丈夫。

んでね、まさかとは思うけどいちおう疑ってみたんですよ【こっからまたちょいとネタバレ】まさか医局長(実は女性で..?)が犯人でないかとか、某看護婦が全ての黒幕でないかとか。そういうギラギラした叙述トリックの世界とは違いました。叙述ギミックは使ってますが。

今やってるTVドラマでは最初っから犯人の正体てか名前バラしてるね。そうでもしないと映像化は不可能ってわけで。


No.669 8点 騙し絵の檻
ジル・マゴーン
(2017/01/31 07:00登録)
無実の二重殺人罪で無期懲役となり、十六年ぶりの仮出所で復讐に燃え尽きようと決意した男。
そこへ、事件当時まだ駆け出しだった一人の女性記者が寄り添って来るが、心を堅くした彼は。。

魅力的過ぎる、不規則極まりないフラッシュバック&カットバックの畳み掛け。時は飛ぶ。カットバックの中のフラッシュバックが今、見えた!
こんだけストーリー運びの密度が剛健だと、会話や何やらの多少の気の効かなさ(マーロウ基準)などまったく蚊帳のアウトサイド。ってもサスペンス集中を減じない程度に気は効かせてる。その、写真による閃き、って何よ。。

最後の反転は、一瞬の閃光に目の眩む様なモンではなく、ドミノが高速でパタパタ倒れた挙句じんわり来るやつ。別に世界まではひっくり返らない。もちろんそれで合格なんだが、こりゃ、後続の者共にもうひとひねりフタひねりを誘発しねえワケがねえ。。 だがそれでも、分厚い中盤(全体の9割弱)が面白過ぎたんだ、最低で8点だ!! 「どうだ、議長?」
正直、こういう隠蔽真相の肝なら、強烈さが欲しいだけなら連城の短篇演出などで味わいたかったとは思う。が、中盤の熱さの魅惑は長篇ならではのマロングラッセ大人喰いだ。スコッチソーダも4杯ほどお供したい。。 「コンテストは落選した。」

作者があまりに頭の冴えた読者を想定・期待し過ぎの渋い考えオチ、その燻し香はサンタ・クロースをも煙突から追い返す勢い。。とは少し思ったが、仮にこの結末に爆殺されずスローな憤死を余儀無くされたとしても、現実世界へ生還のあかつきには何かしら満足気なほんわかした球状のものが、心の中に小さく揺れている事でしょう、と未読の方々のために祈っておきます。  

最後の台詞の熱さと、機転がまたいいね! 以上!


No.668 5点 モラルの罠
夏樹静子
(2017/01/29 18:01登録)
21世紀初頭(2002)のソーシャル・イシュー(特に民生ハイテクにおけるセキュリティ問題)を取っ掛かりとし、割と日常の中にヒョィと飛び込んでくるダークマターを描いた、統一感ある短篇集。全体表題から伺える様に、煎じ詰めれば心の問題がベースとなる物語ばかりで、たとえテクノロジーがずっと進化した後でも内容が古びはしない。(と言っても私が読んだのは発表からまだ4年後、大昔の2006年ですが..) 古びないからと言って、内容がさほど優れているわけでもないと思いますけど。。合格点の域。

モラルの罠/システムの穴/偶発/痛み/贈り物


No.667 7点 主よ、永遠の休息を
誉田哲也
(2017/01/26 23:40登録)
読み始めからしばら~~く経っても、なんか、おかしなくらいヒリヒリしないんだがね。こんな表題と見え隠れする主題の割には妙にタッチが軽いんだよなぁ。てかページがスイスイ進むに連れユーモーミステリ風様相が濃くなり、タイトルとの乖離感が増幅の一途。これはいったい。。。。

“己の正義を正義を曲げてでも隠したい何かが。。。 彼の中にはある。” 父親。母親。 桐江エレイゾン。。
【ここだけネタバレ】 そういうトリック使いもあるんだな、性別誤認には。。

本来なら耐えられない程おぞましかるべき社会派人生劇場がどうにも弱い分の補填か、集中的にしっかりミステリとして興味深い結末を浴びせてくれたのは、却って良かった。
終わってみれば、全く悪くなかった。外見だけじゃ分からんって、こういう事か。

でもやっぱり、タイトル負けはしているね。それで構わんです。
(最後にホノボノとした感動で〆、ってのもこういう題材の小説としてどうかとは思うが、何処かバランスがおかしいんだが、何しろ面白いんだからしようがねえ)


No.666 8点 ヒューマン・ファクター
グレアム・グリーン
(2017/01/24 12:21登録)
カーストの最底辺よりずっと下の逆頂点近くに位置するであろう「x重スパイ」の生活と人生を巡る物語。

出だしのあたりは然程つかんでも来ないんだが、徐々にじわじわ沁みて来て、終盤からはもう、静けさの矜持を保ちながらも大変な展開の渦ですよ。

そして、これほど共鳴容積の豊かなエンディングも無いね。深く長く響きます。


No.665 7点 黄色い風土
松本清張
(2017/01/18 00:35登録)
清張たのしい通俗。人が快調にヒョイヒョイ死ぬよ。まさかの人までヒョイと死ぬ。調子いい偶然ポンポン弾け、いよいよおォッと目をミハる、ってな寸法だ。

社会派を確信犯でダシに使ったつもりが、ついうっかり滲み出ちまった深淵なる社会派魂にちょいと染め上げられてしまいました、そんな感じだ。それでも、物語の核たる部分は飽くまで通俗スリラー(陰謀系)ではなかろうか?

思うに、しまそうの「奇想」なんかはその真逆で、本人の社会派たる覚悟にはいささかの踏み込み浅さが垣間見えるにも関わらず、物語そのものはほぼ完璧なる「本格にして社会派」として立派に成立しているんでないか? やはりバランスの問題か? 不思議なものだ。

鰊に、古代文字。。 わたしも日本のO.V.Wrightこと宮史郎さんは大好きなんですが、本作の主人公は若宮四郎という名の爽やかなる青年。熱海に住まう「松村京太郎」氏の名前も気になる。その夜の銀座裏はいいね。。

犯人は意外な人物です。でも途中でその「いかにも意外オーラ」と露骨度強のヒントちら見せで分かっちゃいます。だけど最初に登場した場面ではまったくのノー・ノー・ノーマークでした。いつこっそり物語に合流したのかさえ記憶は曖昧。相当に手練れの犯人隠匿と思います。嗚呼、清張。



【ここから、犯人イニシャルネタバレ】

今時の作家だったら、真犯人にして黒幕のMをむしろダミーに、Kを真犯人に設定するのかな、なんて途中で思ったけど、Mを黒幕にする昭和らしい設定も大いに味わい深いです。うん、Kが黒幕を張るような世界は嫌だな!短篇小説だったら面白いが。

【犯人イニシャルネタバレここまで】



突然の犯人視点で締めるエンディング、めちゃめちゃ残りますね。

それと、あの●●が最後に颯爽と艶やかに登場、なんて事にはしなかった清張の剛直な筆さばき、何とも言えねえ!

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