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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.70点 書評数:1368件

プロフィール| 書評

No.1028 6点 世界の終わり、あるいは始まり
歌野晶午
(2021/02/15 10:54登録)
“私はやはり自分がかわいい”

これは間違い無く、真っ当な平成の新本格ミステリなんだよな。。違うのか。。と疑いが芽生えたのは物語進行のどのあたりだったか。途中から、妙にこの小説に不似合いな気がする、格好よくないユーモアが頻出。この親父何やってんだよーー いろんな意味で。。だがしかし、物語の半分にも遠い地点でギラつきすぎるスーパークライマックスらしきものが露出。これによる、物語後半というか全体像への期待感の勃興ったらない!ハードル上げまくったもんだなあぁ、やけに、と感心する。これは間違い無く、真っ当な平成の新本格誘拐ミステリなんだよな。。気付けば、何なんだこの章立ての。。おい、どういう展開のハンドル切りなんだ。。徐々に、これはもしや、アガサ流の真犯人隠匿術を真相隠匿に拡大応用しているのではないかとの疑いが。。最後の最後近くに、推理クイズというか鮎川さんの緩い倒叙短篇みたいなの、の更に多重解決版みたいなのが出て来ちゃったよ。。まさかそこで。。エンド、唐突に気分が変わるなあ、これでいいのかなあ。拳銃の件もあるだけに。。(アレの確認とかどうするつもりだろ)。。何より、このエンディングで受け止め切れてないでしょ、それまでの物語の圧力を。恐るべきリーダビリティを持ってはいましたし、読んでてとても愉しかったですよ。文庫解説にもありましたが、その後の歌野さん快進撃を想うと、実験敢行した甲斐は充分あったのではないでしょうか。

これを言うとネタバレになると思いますが、途中から西澤保彦「七回死んだ男」を読んでるような気分にもなりました。多重解決ひとひねりは若干うるさかった、的な。 


No.1027 8点 五匹の子豚
アガサ・クリスティー
(2021/02/12 18:09登録)
くっきり魅力的な目次構成は、見立て容疑者の趣向自体まさかの欺瞞じゃなかろうかと、愉しい疑義も唆しました。 十五年前の殺人事件(?)、死んだ父と、犯人とされた母の間に生まれた娘。。事件当時は幼い子供で今は成人。。が、その真相を改めて究明して欲しいとポワロに依頼、ポワロは容疑者を五人に絞って直接に話を聞きに赴き、また後日には文書に纏めて送らせます。文書を読み再検討した上で、も一度、各人に最後の質問を投げかける。。締めには依頼者を含め一同六人集めて大団円。。。。。。 無駄なく厚みある中盤を惜しみながら読み進み、なかなか顔を見せない終盤へゆっくりと入るにつれ、いっそいつまでも物語よ終わらないでくれと、人生最終読のミステリはこれくらい趣深い謎を残して読書中絶のまま死んでしまったらそれも良いなどとあらぬことを考えてみたり。 終わってみれば、向く方向が全く異なる二人の「永遠の■■」が生成された物語、だったというわけですか。。。 嘘を吐き通した筈の真犯人が実は漏らしていた心情吐露の部分、振り返るとディープ過ぎて泣けて来ます。真犯人は勘で薄っすら疑ってた人物で正解でしたが、真相全体像は、まさかの想像範囲外でしたね。。。。(「●●い」が鍵になってるんだろうな、というのはその通りだったけど、まさかここまで深く爪刺す要因だったとはね。。) 味覚と嗅覚がポイントとなる話でもありました。 tider-tigerさんもご指摘ですが、人情ドラマを隠れ蓑に(?)パズル性で押した凄みがある一篇ですね。 最後にポワロが指摘した「それ」の怖さ、連城の某短篇が頭をよぎりました。


No.1026 6点 七回死んだ男
西澤保彦
(2021/02/09 18:33登録)
ご都合特殊設定ハピネス最高!品の無いドタバタ最悪(笑)!何が因果律だよ。。笑 日程だの抑止力だの伏兵だとか何だとか。とは言えしかしまあ、よくここまでバターン考えたものですね。殺人を防ぐための ”アレ” の範囲が泥縄式に際限なく拡がって行くのが何とも滑稽!本筋とは何だか違うような?本筋そのもののような?気になる謎や違和感もしっかり道連れにするからミステリ興味も充分キープ。本格ミステリにおける「真犯人像」のパロディという趣向が見えなくもない。重い社会問題である⚫️⚫️をこれ幸いと?ミステリ核心へ軽妙に引っ掛けるとは、何たる!!w ロジックの多重解決とは非なる、問題の多重解決というか回避、なかなか斬新。文庫あとがきの北上次郎氏もおっしゃる通り探偵役の在り方としても画期的なのかも。何気にショッキングな筈のメイントリックその2(?)もこの終始パープーなムードの中で一瞬しか響かなかったwもったいない!(でも後から結構じわじわ来ないこともない) 逆叙述トリックとも違う、半叙述トリック?? んだどもエンディングのイヤコメディぶりは後味最悪!!w  ことはさん、語り口の件、同感です。もうちょっと最低限のシリアスな緊張感というのが無いものかと。。 それと、これはネタバレ案件と思いますが、、、、Dマンさんご指摘の通り、、、 弁護士の扱い、惜しいよなァ。。。


No.1025 6点 バルコニーの男
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2021/02/05 14:38登録)
リアリティ磐石に落ち着いた書きっぷりで、被害に遭った少女とその親の悲惨さにも、証言する男児の可愛いさにも、殺人鬼の異常さにも強盗犯の兇悪ぶりにも焦点が偏らない、道の真ん中を往く不偏不党のストーリー。その所為かこんなバーッドな犯罪がテーマでも意外とあっさり風味。警察小説ならではの展開意外性も発揮。悪くない。

クリスティ再読さんの
> 「偶然も絞られていって、蓋然的に必然に近づいていく」という風に読むといい
に強く賛同です。実生活の仕事等でもその側面は大きいですよね。


No.1024 8点 他殺岬
笹沢左保
(2021/02/01 15:52登録)
いいタイトルだ。この作品は薫る。素晴らしい導入部から書き下ろしの力作オーラが漂い尽くします。殺人犯人追究の動機があまりに特殊!!それに従い容疑絞り(選び?)の在り様も独特。タイムリミットの存在理由さえトリッキーそのもの。そして”もう一つの殺人”の、意表を突くほど素っ気無い置き方。何と言っても機動力ほとばしるプロットと各人の行動、そして最終解決への数歩の友情含む味わい深さ。父子の情愛はハードボイルド流儀で描写(ラストシーン。。)。社会派要素は煩過ぎず控え目過ぎず、くすぐる様にスリルを助長。板チョコ好きな探偵役(!)。最後の、謎を引き摺ったままの冒険行脚は頼もしい。心理面大いに含めて犯罪物語の構図がグラリガタリと大きく間を取って崩れ再構築される逞しい筋運び。最後まで緩む事無く走り切ったね。振り返れば、誘拐の”そこまでする”理由にかなりの数の疑問符も飛翔したが。。いや、よく考えたら、そこはそうか、分かった納得。 ところで天知と真知子が結婚したらアマチマチコ。。そのあたり、微妙なアレとして作者は扱っていたのかな。。 それにしても最初に自殺した男、IKKOさんとショーンKのイメージなんだけどどうしても両者が混じり合わなくて悩んだ(笑)。


No.1023 8点 トライ・ザ・ガール
レイモンド・チャンドラー
(2021/01/26 16:40登録)
シラノの拳銃..夥しい登場人物と高速展開に翻弄された末、血流が戻ったようにじんわり来るエンディング。。 
犬が好きだった男..引き摺り込む導入部と、やはりピカ一の終結部。 
ヌーン街で拾ったもの..またしても最高の上に最高過ぎるエンディング。リドルのふりなんかしやがって。。 
金魚..腐れ縁的友情の相手がノンケ同士の異性というのがいい。推理クイズもどきの小さなトリックも味がある。 
カーテン..この真犯人、真相意外性をミステリとして成立させるだけのために、本格とは違うハードボイルドなるジャンルを発明したとしても悔いは無かった事だろう。 
トライ・ザ・ガール..ストーリーの中で最も沁みるエンディング〜ラストシーンに尺たっぷり取ってくれてるのがありがたい。 
翡翠..コミカルなドタバタ劇、ワイズクラックも心なしか喜劇的。お決まりとは言え噛み応えある真相を道連れにラブコメ調エンドへ。。

どれもこれもじんわり沁みる愛おしい作品たち。後の長篇に一部再構築して組み込まれたのも数篇あり、どこかで見たようなシーン、聞いたようなストーリーに時々遭遇するのが面白いが、どれも長篇とは違う独立した中短篇として、じゅうぶん愉しめましょう。


No.1022 7点 天に昇った男
島田荘司
(2021/01/21 18:40登録)
赤い公園の「108」曲想を彷彿とさせる、時系列行ったり来たりの複雑な一筆書きを一気に書き切ったような疾走作。短篇でなく、長~い長篇でもなく、中篇に近い短めの長篇だからこそ活きる、このエンドでしょう。しかしこんな渋い主題の作でも微妙にバカな偽装トリックを持って来るなど、流石はしまそうです。 こういう内容の●を●●って事は、つまり、主人公の心の奥底に。。。。 というもう一つのどんでん返しも含んでいるわけか。。残酷だ。。 しかし(作者本人も語る)死刑に関する問題提起方向の押しはさほど感じられなかったです。


No.1021 6点 われはロボット
アイザック・アシモフ
(2021/01/19 11:31登録)
超虚数キタア。。 回顧録インタビュー相手の肩書が何しろ「ロボット”心理”学者」!

クリスティ再読さんのおっしゃる「デバッグの面白さ」「パズルのよう」等々、本当にその通りと思います。 かの『ロボット三原則』その前提というか枠組みの中で展開されるミステリ興味であったり冒険であったり、問題解決であったり議論であったり、闘争であったり。 プログラマー的立場で、自ら提唱した三原則に穴が無いか再検証するため様々なテストケースを作って小説の形で実験してみたら(それにしてはファンタジー性が強く緻密さは敢えて避けてる感じだが)想定以上に穴だらけで、こりゃ小説として滅法面白いという事が判明したぞ、みたいな? ロボット進化史の大河小説的側面もぶつけて来てることを考えると、その大胆な構成は益々知的興味を唆ってくれますね。 SFならではの割り切ってしっくりはまる論理パズル、という性格もあるかも。

以下、創元の表記になりますが  「証拠」。。熱い! 「避けられた抗争」。。深い。。 「堂々めぐり」の数学的面白さ! 「嘘つき!」「迷子の小さなロボット」のロジックも面白い(それぞれ性質は違うが)。 「理性」「逃避!」の危険なドタバタクレイジーっぷり。 やさしい「ロビー」に、滑稽な「あの兎をつかまえろ」。 バッサリした全体エンディングも印象的です。 人間及び人間社会のダメなところを、三原則を高次元で遵守した上で巧みに補完してくれる存在、それは。。。。

しかし令和三年現在から見てもしばらく未来の話なのに、所々昭和三十年代を彷彿とさせるワードが出て来るとは。。青写真(比喩じゃない方)とか。。


No.1020 7点 君らの魂を悪魔に売りつけよ―新青年傑作選
アンソロジー(国内編集者)
(2021/01/13 19:13登録)
永遠の女囚 木々高太郎
心理の閃光。忘れ得ぬ名篇。暴風のホワイダニット。時系列がダイナミックに移動を重ね、回想が謎とスリルを焚き付ける前半。切なくも熱過ぎる真相吐露が押し寄せる後半。壮絶なエンディング。やばい。

家常茶飯 佐藤春夫
題名の通り、ちょっとした日常の知恵。行方不明の本を捜す。まるで実用エッセイのようだが、登場人物の●●がポイントとなっているあたり、やはり小説。

変化する陳述 石浜金作
はいはい(笑)。 奔放な新劇女優が前言を覆し続ける心理の動きは面白いが、結末はミステリ流儀の反転とは違うかな、医学随想を小説風に仕立てたみたいで。躍動する中盤と悲劇的真相は読ませる。(ただ、最後が。。)

月世界の女 高木彬光
抜群の書き出しから、、随分とギャフンな真相までユーモアたっぷりに快走。ドタバタ大道具に見えた◯◯にそんな意味がね。。

彼が殺したか 浜尾四郎
やっぱこのタイトルに凄いインパクト。いっけん真相明白にしか見えない夫婦惨殺事件に、辻褄の合わない点が多数存在。それどころか、考察してみれば或る種の不可能状況! 大山を翻す最後の告白と、寄り添う補足が、絶妙のバランスでどちらも熱い。

印度林檎 角田喜久雄
奇妙なだけの小噺かと思ったら。。この●●●●工作の奥深さ味わい深さは、なかなかだぜ。決まってるね。

蔵の中 横溝正史
耽美の深さと●●●トリックの咬み合わせに幻惑されて、騙されました。 オチがただの落とし穴とも見えるが、だとしてもこの落とし穴は、床いっぱいの大きさだよねえ。。。しかも深い。

烙印 大下宇陀児
こいつアしびれる! 引き締まって痛快な、倒叙サスペンス娯楽大作(短篇だけど)! 背任の疑惑を抹消せんと、ずぶずぶと犯罪の泥沼にはまって行く美貌の青年実業家。 最後にヒネリがもう一つ無いのと、残った謎がミステリ的に深くない恨みも、このギラギラした面白さにぶっ飛ばされました。

解説・「新青年」の歴史と編集者 中島河太郎
戦争を挟んだ雑誌の黎明~興隆~凋落を纏めた資料は濃密なる文章。社会風俗史にも言及。興味津々。


「ははア、小説家などというものは、どうせ皆片輪みたような半気違いばかりじゃわい。」


No.1019 7点 蒼い描点
松本清張
(2021/01/08 17:05登録)
“校了前の戦争のような多忙さと、そのあとの快い疲労とは、雑誌編集者だけが知る特殊な苦楽であろう。”

小出版社に勤める若い男女が、業務の合間を縫って(実はこの設定がちょっとしたミソ…)、或る人気女性作家の滞在先、箱根で起きた”スキャンダル売文家”の死亡事件を、編集長のサポートを得て調査開始! 控えめなユーモア、ささやかな旅情を道連れに .. 箱根だけじゃない、浜名湖のあたり、美濃国や、秋田までも行きます .. 爽やかな青春後期の躍動。 関係者が殺されたり失踪したり自殺したり実在しなかったり(?!)で次々と消えて行く、どこかに大きな盲点がありそうで大いに気を揉むストーリー。

「あっ」
典子は思わず声をあげた。
「あれが、あれが、そうだったの?」

ミステリ展開は、まるで初心者に見せつけるかの様な甘さを含んで始まり、前半にハードなサスペンスは漂わないがソフトロック的に心地よい律動がキープされ何とも快適。 中盤から謎が微妙な複雑性を振り撒きつつ増殖し始め、分厚いやや辛口にシフトチェンジする。着実に加速するスリル、更に拡がる疑惑対象が醸し出す、リーチの長いサスペンス。 実質的「読者への挑戦」のページも存在。 何気に本格ミステリ要素色々詰め込んだ仕事ミステリだねえ!(だが、この真犯人設定は.. ?? ←ん?)。 エモーショナルな真相クライマックスの後、理知的な会話の補足と爽やかなエンドで締めるのは素敵。 殺人トリックのヒントをくれた”国電に座り週刊誌の時代小説を読む自衛隊員”ってのも時代っぽくて良いな(S30年代前半)。 探偵役の男子、脳内でまたしても野田クリスタルが演じてくれた。 意外と、恋でもしちゃったか!?w  そういやこの男子(竜夫君)、 「その理由は後で話す」 というパターンがやけに目立つんだよなあ、それも味。

当時創刊したばかりの『週刊明星』に連載されていたそうです。 全体的に若やいだ感じは読者層を意識したものでしょうね。


No.1018 5点 地層捜査
佐々木譲
(2020/12/31 09:05登録)
正味の話、事件そのものより、捜査に纏わる或る事のホワット及びホワイ(&少しハウ)ダニットが肝であり、その比重を物語の中に大きく感じられるほど感動も大きくなる事でしょう。私の場合は、まあこんなもん。いっそ、この 【次の一言はネタバレかも知れません】    “捜査妨害” がもっと強力なファクターとしてガッツリ根幹を貫いていたら、、 ちょっとヤバいくらいの作品になっていたかも。 【次の一文はネタバレかも知れません】    ただ、その上でシリーズ化するとなると、それなりのトリッキーな技倆と胆力が要りそうですが。。 そういう世界も見てみたい。

嘗ての花街、四谷は荒木町で起きた十五年前(地上げブームが収まった頃)の未解決殺人事件を再捜査する筈が、その途上で三十年前の失踪事件が露呈、それは地層の掘り起こし。。。事件が起きるのは現場だけじゃない、地域だ。。という物語。 だけどね、警察小説だからどうってんじゃなく、ミステリ的に微妙な捌きで、真犯人像も膨らみ切らずに終わるのが恨めしいが。。そもそもの言い出しっぺも放り出されっぱなしだが。。こんだけ登場人物出し散らかしといて。。ん~~ん、、とは思う。歳が離れているせいか、片方が退職警官のせいか、バディがバディになるまでの確執等ほぼ皆無でスルッとし過ぎかな。。でもまあ、読んでる間は面白かったですよ。水戸部が脳内でずっと野田クリスタルでした。


No.1017 7点 龍神の雨
道尾秀介
(2020/12/29 16:39登録)
ターニングポイントとなる”お墓参り”のシーンがやけに沁みます。

“ものの五分ほどで、椿の蕾はばらばらになった。魚の鱗のような、緑色の萼(がく)が作業台の上に散らばり、水っぽい、少しピンクに色づいた幼い花びらが、その真ん中で無惨に千切れていた。”

ヒリヒリ来る攻めのカットバック(二家族それぞれの兄弟/妹愛と、義親との軋轢と..)は早期に点で交接。双ストーリーは一旦分離、ややあって再会、接面がじわりじわりとサスペンスフルに拡大。。。。まさかの方向からの参戦者と思い切りぶつかり合ってクタクタに萎れた最後、ダークグレイの雲間から淡い光が差している。。最後のラジオニュース連打。。(聞いている彼等には、その意味がまるで分からない)。。。大きな考えオチなのか、救い切らずに終えるのか。 スッキリ見せない匙加減が凄く良い。 

“長いこと自分の周りにまとわりついていた重たいものが、手品のように消えるのを感じた。それが何だったのかはよくわからない。しかし、わからなくてもいいと思った。もう消えてしまったのだから。”

本作のミスディレクションは、道尾さんらしい読者側へのものと、かなりの意外性と衝撃孕む小説内部のものと、両方向に向けて強烈です。 “想像は人を喰らう。” 

目次にも視覚的/意味的ギミックと魅力があります。 ご注目ください。

最後に、これを言うとネタバレっぽくなるわけですが。。。。。 翔子はどうなったんだ。。。。


No.1016 7点 お前が犯人だ
エドガー・アラン・ポー
(2020/12/27 11:00登録)
容疑者一人、物語上は二人、いや本当は三人、だが実質的に二人(ただし後年の読者が最初からミステリと決め付けて読むならば)。 パニックホラーと見紛うクライマックスが熱い! 真犯人特定の決め手がいくら何でも緩すぎるんじゃないかと、訝しくも思うが。。 深夜、暗闇の中で読みたい佳品です。


No.1015 8点 黄金虫
エドガー・アラン・ポー
(2020/12/27 10:43登録)
暗号解きも古いながら良いが、某人物が何故そこに(英語の)暗号があると気付いたかの機微が素晴らしい(ちょっとした叙述トリック?含む)。 理論と実践に跨る冒険の進行も爽やかで、これ言うとネタバレかも知れないが、陰に始まり陽に終わる物語の逆転感も興味深い。 だが陽なばかりにせず、ちょっと怖い考察で締めるのも流石。


No.1014 6点 特急「あずさ」(アリバイ・トレイン)殺人事件
西村京太郎
(2020/12/25 10:49登録)
タイトルに、こう見えてなかなかヒネリ有り。アリバイと言っても、目の前の事件より一つ奥の事件に絡む特殊過ぎる謎。。ううーむ、堂々のアリバイ剛腕変化球!しかもその奥の方の謎がふてぶてしくドオンと膨らみみやがるんだね。無駄なく味わいも失わず、推理小説として最適化された素晴らしい文章と展開。ただ、そのトレードオフで悪癖の思い込みズバズバ的中がちょっと目を覆う暴走レベルだったりするが。。旅情まで見事に素っ飛んでますが。。極限まで体を絞ったご都合ミステリもまた良し!ラストクォーターの冒険アクションでアンチクライマクスほぼ回避!不当なほど爽やかなラストシーンも、、されど優しい。馬鹿だなあ、俺。新井優子ってのが新木優子に思えて仕方ない。ちょっと過激な社会派要素は強烈なスパイス。仮に本作をガチ社会派と想定したらいくらなんでもリアリティがグラグラ過ぎる(だが小説より奇なるリアル世界では逆にありそう)。 何気に奇想が光る一冊。 忘れ難き読み捨て本、になりそうな予感。


No.1013 6点 裏切りの街角
生島治郎
(2020/12/23 00:12登録)
裏切りの街角/墓場からの船出/腐った金/明日がない/彼等、地の塩とならず/腹中の敵 (旺文社文庫)

ミステリでもハードボイルドでもない冒険短篇が目立ち(ん~~、ほんとはちょっと違う)、行きずりの雑誌で読んで愉しそうなB級臭の強いブツが並ぶが、最後の「腹中の敵」はA級ハードボイルド近代史ミステリ。「彼等、・・」は気持ち良くミステリ性を抛り投げた熱い冒険小説だが、妙に爽やかで前向きなエンドが気になる。。


No.1012 6点 暗い国境
エリック・アンブラー
(2020/12/21 16:11登録)
第二次大戦前、デスパレートな架空の東欧小国を舞台とした、ユーモア政治サスペンス、面白スパイスリラー、そこへ来て革命家や権力者の魅力的なシリアス演説が言葉力も高らかに絡み、独特のメタパロディ味が滲み出して来ます。公言された一人二役に覆い被さる、語り手チェンジの妙。恋愛要素を引き摺りそうで引き摺らないのも好感触(このあたりもパロディの一環か?)。何かが元に戻ってのエンディング(エピローグ前)が妙にセンチメンタルですね。エピローグも締まっています。あの原子科学者がもう少し熱く語ってくれたら良かったかな。


No.1011 6点 マスカレード・ホテル
東野圭吾
(2020/12/17 22:03登録)
「だからあたしは髪を切ったの」

『⚫️⚫️⚫️⚫️連作』と『連続殺人捜査長篇』がお互いにバックパスを繰り出しながら併走する魅力的構造。青春サスペンス展開もあり。(とばかり思っていると。。流石は俺の東野、必ず何かヤラシイ事を仕掛けて来るねえ。)昭和には無かった小味なアリバイ偽装も良し。毎度おなじみ●●ネタも、背景の人間ドラマ(ってほどでもないか..)と親和性があるから、まず納得。○○さん、疑ってすまなかった。まあ、最後のドッカーンは小さかったけどね。エンディングも爽やか過ぎるだろ。。もちょっと苦味ってやつを道連れにしないのか。。って思わなくはないですけどね、おかげで準主に近い脇役1の存在感が盤石となり、物語がふくらみましたかね。 しかしこの読みやすさは尋常でないな。

“ホテルの中で仮面を被っているのは客たちだけではないーー”


No.1010 8点 コフィン・ダンサー
ジェフリー・ディーヴァー
(2020/12/15 11:52登録)
「親父がよく言ってたよ。難題にぶつかったときにね。辛くても問題と考えるな、一つの要素だと思えって。頭を使って片づけなくちゃいけない要素だと考えろって。」

出し抜きたくなる男、リンカーン・ライム。 作者自身が彼を出し抜きたい欲求にあわや負けそうになったかの趣きが垣間見える、ような気になってしまう、悪魔領域に挑む一篇。

“クーパーは先を読み進み、やがて見た目に分かるほど体を震わせた。 「覚悟はいいか?」”

命を狙われる三人の証人達のうち誰か一人でも(一人は冒頭で消されてしまうが..)生き残って大陪審に出廷させるまでの48時間タイムリミットサスペンス。冒頭から面白さがじわじわと動きまくり、自然と信頼を寄せてしまう。所々甘い?と思う展開もあるが、何しろ面白過ぎて気にする隙も無え、その丁々発止の仕掛け合い。殺し屋とホームレスの、地獄ほど切ない友情。。。。。。と呼ばせてくれ。。会話と、気持ちの揺らぎ。。 最終章の謎の反転連続には翻弄されたなあ。大反転の後にこそ、反転前には顕在化していなかった最大の謎が眼前に立ちはだかる、という構造は凄まじく魅力的。最後の最後の最後の。。終わりに近づくにつれまるで逆入れ子構造のようにしぶとく搾り出される新たな謎。最後に明かされた●●そのものは然程ビックリでももないが、ライムがそれにピンと来たアレにはグッと来る(●●●市場って。。。)。。 嗚呼。。。。ラストシーンだけちょっとお洒落過ぎの感もあるが。。。かと言ってここを生々しく描写するわけにもいかんだろうw

「きっと俺が恋しくなるぜ。俺がいなくなったら、あんたは退屈するだろう。」


No.1009 6点 ささらさや
加納朋子
(2020/12/13 14:24登録)
「だけど赤ん坊には魔力があるからさ。」  軽犯罪と犯罪もどきと日常の謎とを解く連作短篇、全体通してのサスペンス展開もある。

前評判に照らして、何だかさっぱり泣けない話が続くなあ、と少しばかりがっかりしていたら、表題作一つ前の終盤あたりから急に何かが蠢き始めた、そして表題作の次の最終篇でやっと現れた意外性とミステリ稚気に溢れた或る”仕掛け”、これが本当に泣けたねえ。 あれもこれも全ては、亡くなった人を想う心から。

もう少し、例えば「さや」の夫を交通事故で死なせた若い女性とか、夫の友人の住職とか、郵便配達夫とか、更に言えばエリカさんの過去と現在だって、限られた文字数の中でもっと深堀りしてもいいのにとは思ったが、そこまで重くしないのが、というかそこまで文章を濃縮しないのが、いいのかも。

表紙絵と、各話冒頭のイラスト(目次にも掲載)、どちらも必ず「さや」の息子のあかちゃんがいる、これが実にいいですね。 実は、文庫の表紙絵にはサスペンス展開の鍵を握る或るモノが描かれている。。 各イラストのほうも、特に最後の二つには特別に強い意味が込められていて、読前にその意味を予想するだけでもう、じんわり来ます。 

だからと言って、深い深い感動に呑み込まれる、というのとは違う。 けど、読後にはきれいな気持ちになれる、素敵な一冊です。 おばあちゃん達も、お元気で。。

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