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ミステリの祭典

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グリーン車の子供(講談社版)
中村雅楽

作家 戸板康二
出版日1982年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 斎藤警部
(2021/05/12 00:08登録)
“老優がこういうと、金四郎は、にぎり拳を目に当てて、男泣きに泣いた。”


演劇、歌舞伎、狂言、能、舞踊、オペラ、、著者の本業(演劇・歌舞伎評論家)を自然と活かした、芸能世界ならではのお話が実に巧みに、余裕ある叙述で記された温かな物語群。 謎解きやサスペンス、伏線に反転も柔らかめで一向に構わない。 まるでその筋のファン雑誌か業界紙に連載されたかのような風情だが、初出は様々な小説誌。 どの作も、ラストセンテンスの機智ある優しさが印象的です。

とは言うものの、野暮な言い草ですが、全体的にやたら手掛かりなり伏線があからさまだったり、カチカチの推理小説と思って読むと何気にギャフンだったりするトコも目立つのですよ。。 そこは品の良さで丸め込まれちまうってトコですかね。 後年作になるにつれ、ちょこっとミステリ風味付けした「ちょっといい話」みたいになります。 しかし、全体のイメージで「日常の謎」短篇集などと括ってしまうには、あまりに痛ましい一篇も入り込んでいるんですがね。。


滝に誘う女
手が赤いとか子供を機敏に助けるとか、細かい手掛りからホームズばりにポイントを突きまくるやり過ぎ感はともかく、最初に大枠で掴んだ心理的違和感から被害者の隠れた属性をするすると引き出す機微はなかなか。 

隣家の消息
庭師(?)がどうとか、手掛かりがあからさまに過ぎるミステリ真相はズッコケ大将だが、物語の優しい締めは悪くない。

美少年の死
この動機を「うん、わかるわかる」と納得させる気か(笑)。 ある小道具を移動した理由が光る。

グリーン車の子供
貫禄の日常ホワットダニット古典。 読後、伏線の夥しさに唸る。 しかし、手の込んだ事を。。

日本のミミ
音楽が彩りを添える、ちょっとした酒場人情ドラマ。 女性心理の読み違えにはちょっと笑った(そこが大伏線にしても。。) 消えたサインのトリックに文句言っちゃいかん(笑)。 

妹の縁談
専門知識頼みとは言え、歌舞伎の演目に掛けたアレはなかなか渋い。多重解決ならぬ多重展開(?)もどきの趣向がサスペンスを盛った!

お初さんの逮夜
最後に明かされる小粋な日常心理トリックも然る事乍ら、その少し前に現れる人情トリック(!)の大きさに心動く。。 ドラマ性ある駄目押しまで。。 本作がいちばん好きですね。 

梅の小枝
奔放な若い娘がカラフルに登場して。。日本画の作法に纏わる手掛かりのトリックが綺麗な人情譚。

子役の病気
手掛かりに関して微妙にぎしゃくした所もあるが、、なんともあたたかく微妙な、歌舞伎界ならではのリドル・ストーリーもどき。。なのだろうか。。

二枚目の虫歯
ミステリ的にはほとんどバイリンガル空耳ネタ一本。 面白噺だが、あれこれ軽くて締まり無し。

神かくし
泣かせる人情話だが、泣かせ所にもう少し裏ってやつがあればな。。 ここまでくるともうミステリ云々は結構ですから、って感じですけどね。


小泉喜美子さんの巻末解説、やはり得意分野である所為か、やたら生き生きと「語って」おり、時折うざい程でした(笑)。

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