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ミステリの祭典

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塩狩峠

作家 三浦綾子
出版日1968年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 斎藤警部
(2021/04/16 15:00登録)
“激しい衝撃と共に、心のどこかに、揺らがないひとところがあった。全身をゆさぶられるような衝撃のはずなのに、心のひとところだけは、きわめて静かだった。”

『その時』に向かってスリリングに、情感豊かに進行する人間成長サスペンス。 主役、準主組、脇役陣と充実の存在感。 手探りで理解を深め行く若者の道とキリスト教。 おそるべし、たよるべし、信仰の底力。

押し花のシーンは泣ける。 あまりに温かい、札幌での別れのシーンも忘れられない。

“せめてこの昼だけでも、しあわせな食事をさせてやりたい”

列車内で懐かしき人と再会し大団円ムードのうちに雪崩れ込む、殺人的に熱いあのクライマックスにさえ決して物語の熱量が偏らない誠実さ。 クライマックスから引き継ぐラストシークエンスとエピローグの温かさ、そして最後に残された起伏。

“ここで驚いてはならないと、自分の首の根を、自分自身でおさえつけるように、自分のあぐらの中に目を落としていた”

新潮文庫裏表紙はあらすじ抜きのネタバレ一本勝負だが.. 先にそこを知ってしまったからこそサスペンスフルな小説として読めたのだから。。(いや、よく見ると、最後に何が起こったのかは決して書いていないぞ。。。。)

“ひとことも発しなかった。そっと掛布とんを胸元まであげ、次に首までかくし、ついにはすっぽりと顔までかくしてしまった。掛布とんがかすかに動き、その下で、声を立てずに泣いているようであった。”

明治の世も終わり近く、北海道は旭川近郊”塩狩峠”で起きた、或るクリスチャンの青年に纏わる事件と、そこに至るまでの青年や周囲の人々の人生、事件のその後を簡潔にドラマチックに描く、実話に基づいた作品です。

「ふじ子はしあわせな奴だなあ・・・・・・」

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