斎藤警部さんの登録情報 | |
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平均点:6.69点 | 書評数:1304件 |
No.1044 | 6点 | 超・殺人事件―推理作家の苦悩 東野圭吾 |
(2021/04/05 18:03登録) 各作、面白いし手堅くまとまっている。 何度か笑ったし感心もした。 KS.54と来るか。。(笑) 「超税金対策殺人事件」⇒ クスクス笑い、弱から強へ。題名、そういう意味でしたか~~、いきなり攻めるなあ。ひょっとして、風刺の本当の対象は小説家ではなく。。? 「超理系殺人事件」⇒ ほぼ笑い抜きの面白小説。風太郎風。作中作ミステリに始まり、悪ノリでミステリから外れて行って、最後ミステリで締める。 「超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)」⇒ オチ、というか真相はちょっと見え透いてますが、、ミステリ短篇のクセに何故かそこには力点置いてないから問題無し。安易な叙述トリックをおちょくったりとか、色々。 「超高齢化社会殺人事件」⇒ 本気で笑ってはいけないという意見もありましょうが、、私はこれが一番大笑いでした。何度も噴き出しました。ちょっとした叙述(なんとか●●)トリックのセコいダメ押しも、よく計算されてる。 「超予告小説殺人事件」⇒ 唯一、純粋なミステリじゃないのかな(本格じゃなく、サスペンス)。 面白かった。 「超長編小説殺人事件」⇒ 業界への風刺がいちばん純粋に凝縮されてるのは本作か。嘲笑の花吹雪。 「魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚)」⇒ リドルストーリーと解釈すればちょっとした趣。そんなニクい箸休め。 「超読書機械殺人事件」⇒ メインのアイディアに拡張性と現実性が高い故、最もスキャンダラスな一篇と言えましょう。”ショヒョックス”って、どんな商品名にしたらいかにもテキトーに付けた感じになるものか、よくよく検討に検討を重ねたんでしょうなあ。惜しむらくは、他の評価モードでも少し書き分けて欲しかった。 しかし、黄泉よみ太ww 『名探偵の掟』とは似て非なるコンセプトの一冊だが、敢えて比較すれば、向こうさんの勢いある統一感、完成度に軍配かな。 |
No.1043 | 5点 | 日本殺人事件 山口雅也 |
(2021/04/02 18:50登録) 気持ちは分かるが。。ピリっとしねえなあ。 決して詰まらない本ではないんですが。。 結局この『趣向』がミステリ根幹にほとんど影響しないなら、もっとタガが外れた様に多方向へ、メタパロディ的にふざけ切ってくれりゃあ良かった。ノタリのエスカペシュでキュッとやりたいねえ。。ってが。。 まああの「セップク」の話は、現代日本にもその風習が残っているというファンタジー前提あってこそのトリックなんだろうが、他はその点、必ずしも。。 「お茶」の話はなかなか真相が深かったし、「廓」の話も意外な人間関係に引っ張られるトリックが光ったけど、何ですかね、このおふざけ趣向と上手く噛み合ってなくて、結果ミステリとしてトータルの面白さ減のような。。甘味だけのエピローグもミステリ魂が宿ってない。まあプロローグでモータウンのレアなシングル掘り出すとこは良かったです。 |
No.1042 | 6点 | 殺しの報酬 エド・マクベイン |
(2021/03/31 11:14登録) 落語で言うマクラからの。。一瞬だけ思索に迷うも。。持ち直してファーストシーン鮮烈(過ぎず、手堅過ぎず。。恐喝業者が走る車中からの狙撃で即死)、、と冒頭はハードに決めたもんだが、なんか中盤に入るにつれユル面白いお話になって行くんだけど。。 時々文学の森に逍遥しつつ、やはり人間臭い人間たちの適度にヴィヴィッドな描写、チョイ役らしき人たち(?!)まで入れて、いかしてます。 しかしこのびっくり真犯人とニサス風?バタバタは笑ったが、、つまりはこう見えてしっかりミスディレクションが効いたって事でないの!! しかも、◯学的大ヒントまで、アカラサマにあったのに! 違和感独白のダメ押しまで付いて!!! んで最後は文字通り、朝飯前の解決とな。 それにしても、サザエさんが読んでる架空の推理小説みたいな題名ですね(笑)。 |
No.1041 | 6点 | 体育館の殺人 青崎有吾 |
(2021/03/29 17:17登録) 「疲れたなあ。一日に何人もの人間と話すってのは、だめだな。三人が限度だ」 いきなり登場人物一覧外の人間を犯人名指しする探偵役(笑)。 緻密なロジックと、地味さが味な殺人舞台/背景の重ね具合にいまひとつ妙味ってもんが足りないな。。 密室構成要素のうち、施錠の経緯はちょっと目を引いた。 真犯人の意外性は薄いけど(そこはキズではない)、更に奥があるとは思わなかった。。(だが、更にあるとしたらこの方向でしょうって見え透いてるから意外性は低い)。 だがちょいと引っ掛かりのあるバッドエンド、ってのとは違う、以降作に気を持たせる最後の悪い台詞。。 ともあれ全体的に悪くない。 アニヲタっぷり全開な台詞やら何やらも、門外漢ながら愉しい。 不良のフの字も無いよな高校生の殺しの手際が良過ぎるのは確かにファンタジーの領域。傘の件にしてもゆらぎの大きい部分を白黒付け過ぎとは感じるが、そのへん勢いで押し切ってくれてれば何も問題無かった。 ただ、そこまで勢い付けるエネルギーは無いし、意欲的なよく伸びるロジック(やはりこれが本作最大の美点でしょう)にも、手堅いトリックにも、地味派手とはまた別の次元で、いま一歩華がないのがな。。 真犯人特定ロジック披露のクライマックスはちょっとワクワクしましたが。。 惜しいな。。 だけど全体的に面白いし、作者の未来を感じるんだよな。。 しかし、ナウなヤングの作品だとばかり思ってたら、既にほぼ(古い数え方で)ひと昔も前の刊行なんですね! |
No.1040 | 7点 | のるかそるか 梶山季之 |
(2021/03/26 13:15登録) “<オリンピック! どげなもんか知らんばってんが、なんかこう・・・・・・金もうけのにおいばしよる!>” 先制パンチ快調! 流石は訳知りの著者、素っ頓狂な方向にすっ飛んでも、リアリティはがっつり掴んだまま! タイムリーなのか逆タイムリーなのか、’64の東京オリンピック(実は第二回パラリンピックも)開催を巡って狙ってガッツリ儲けようと山師たちが躍起になり駆け回る物語。 ペテン行為とは言え、小説の絵空事だけにも見えない、泥臭い地道な努力や、人間臭い逡巡、失策からの機転を利かせた挽回とその根性、グリッティな手触りが魅力の昭和ど真ん中メモラビリア。 自由闊達に行こうじゃないか。。 「ユー、ホンコン? ホンコン・ジョー?」 「イエース、アイアム・香港ジョー。 マダム・キラー」 「おい、やっぱり香港ジョーじゃわいや。自分でそう言うとるけん」 ( ↑ 何なんだこの会話w!) 不謹慎なヘレンケラージョーク… 明からさまな後進国差別… ハワイの土人だの、メッカチだの、チンバだの。 サノガベッチ(笑) ノウ・パンティとかシロクロとかww “ホステス達の、パンティが何色かを当てっこする賭けをはじめた”って何だよ(笑)。 武蔵小杉は連れ込み宿が多いって。。(隣の新丸子は今も少し..) まあ色んな意味で、いまこの瞬間に復刊するのは難しそうな、悩ましい一篇ですわいな。 「とにかく、オリンピックは、私たちが生きている間には、もう日本へ来ないかも知れないわね」 「よくわからないけど、なんだか、 (中略) 、胸がもやもやして来たわ。希望が湧いてきたみたい・・・・・・」 終盤寄り、意外な人物の再登場と、まさかの人間関係再構築(ここは熱かった。。。)。。おー、これは思わぬ展開で攻める攻めると思うとったら、、まさかのな。。エンディングが犯罪小説と呼ぶには微妙過ぎて、というか、これぁミステリの終わり方じゃない(笑)!最後は山師達が凄まじいエネルギーで衝突、爆発して色とりどりの破片が天空を舞う、、 わけじゃないのか。。 あの人物が実は“それどころじゃない”食わせ者で。。とか来るのかとキャッチャーミット嵌めて待っておったんじゃが。。最後、まさかテキトーにやった?!w はじけそうではじけない伏線もどき死屍累々とか。。 登場人物の産み出すアイデアは拡がりまくったが、物語のアイデアは、さほどか。。 作品としてちょーっと完成し損なってる気がするんじゃが、何しろ読んでる間は切れ目なく面白さに翻弄されっぱなし! 記憶に残る読み捨て本ってのは、こういうものなんだろうな、とその心理メカニズムが見えたような気になった。 「むろん、お譲りしますとも、ただで!」 さて巡り巡って二度目の東京オリ・パラがもう目の前。まして今回は、時代がテレにDXにSDG花盛りな(上に、いったん一年延ばしておいてほんとに開催されるのかもまだ怪しいような..)コロナ禍の空気の中で、山師の入り込むニッチもおッそろしく広々としてそうじゃないですか。。 どうですか、ご同輩。。 「どうな? あんたらも一つ、オリンピックで金儲けな、しんしゃったら?」 ポケット文春裏表紙、完成間もない旧国立競技場前にてラフな背広ネクタイ姿の著者。 郷愁の一枚です。 |
No.1039 | 5点 | 将棋殺人事件 竹本健治 |
(2021/03/24 21:56登録) 時折の小難しい言葉遣いも、凝った構成も、大掛かりで込み入った真相さえ、小説を根底で支配する軽さ浅さに呑まれて、どこ吹く風。。。折角のキャラクター含め、いろいろ活かされてない。バランスおかしい。だが詰将棋の蘊蓄は愉しい。美しい数学的イメージも空を舞う。 出来は良くないと思うが、決してつまらなくない。 さて、犯人消した(!)のはいいけれど。。。(あんな終わらせ方、許されるの?!) 風景も人情も良く浮かぶ併録「オセロ殺人事件」の、されどバランス悪さは、、小味な短篇だから許せる類。最後の最後、推理クイズに化け過ぎで笑う。 こちらも蘊蓄が読ませる。源平碁とオセロの決定的違いとか。。 |
No.1038 | 5点 | ガーデン殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2021/03/22 21:19登録) 音に聞くまさかの恋愛要素は、印象的なラストシーン、競馬の隠喩に集約されていましょうか。。(集約されるほど大きなものでもないけど)。 フーダニットとフーズラヴド(ヴァンスがフーに恋しちゃったのか)が強烈に絡み弾き合いそうな予感で、結末に寄るにつれ結構ハラハラしたもんですが、、 あの『見せ場』の呆気なさも手伝い、おっと、アッサリ締められちゃったかな。。 とは言え、小ぶりによく纏まった本格と思います。 犯人が臨機応変に小道具を使い切ってみせた所なんか、そこそこシブいです。 様々な”賭け”要素を並べてみせたのは或る種あたりまえというか、弱いな。。 終わってみれば何だか、有栖川さんの緩い短篇、を少しだけタフに仕上げたよな印象。 地味ながら不思議な愉しさがあり、5.4で惜しくも5点! この長篇を短篇に凝縮したらもっと良くなるか、っつったらそんな単純なもんでもありますまい。 まー、競馬そのもののスリルとか、放射性物質の扱いとか、もうちょい濃ゆい演出があればより良かったかも。 あの無色透明が売りのヴァンが、妙にユーモラスな存在感出しちゃってるシーンは、軽く噴き出しました。 最後に、ネタバレ&逆ネタバレになるけど、、 この表題、まさか処女作の二番煎じ(本作の場合は逆ミスディレクション?)ではあるまいな、と疑ってました。。序盤だけ。。(何故なら、あまりに光る容疑者が登場したもんだから..) |
No.1037 | 8点 | 片想い 東野圭吾 |
(2021/03/18 11:50登録) 「事情をはっきりさせるわけにはいかないから、オレたちみんな、死ぬほど悩んだんじゃないか」 話が早くて何よりだ、東野。 導入部に無駄口無し。 アメフト引退して久しい登場人物たちの体はナマっているが、物語は機敏で筋肉質。 分かり易く整理された上で枝分かれする重厚なストーリーがエキサイティング過ぎて、頼もし過ぎて、結末よ、頼んだぞ、裏切るなよ。。。。と何度も祈りました。 「ただ、見せるのはあなたにだけです」 「あの人も仲間?」 トランスジェンダー、トランスセクシャルに半陰陽をぶつけて来た。(ってそんな単純なもんじゃなかった。。) そこに犯罪と逃走の灼熱が伴走し、鈍痛のように付き纏う疑惑も睨みを利かせる。割り切れない恋愛と友情、親子関係が立ちはだかる。チームスポーツと個人競技。ハードな犯罪サスペンスであることを忘れかけた頃に目の醒めるリマインダー急襲。。 「そういうことをするのは正常な人間だよ。(中略) 異常者は、他人のとびきりの秘密を嗅ぎつけた時でも、常人には理解できないような行動を起こす」 北の湖とか森進一とか堂本剛とか。。(笑) 会話の中の強めのユーモアが、後から振り返ると泣ける、熱いシーンもあったな。。 「あいつは今どこにいる? おまえたちと一緒か」 めちゃめちゃリーダビリティ高いんだけど、終盤前の際どい所、貴重なスリルを温存したくて、辛いけどわざと一気読みを止めました。。。と決めた筈が、やっぱり強い誘惑に負け結局、スリルよりサスペンスが一歩先行する地点まで読書続行し、やっと一旦ブックマーク。 「・・・・・・一緒だよ」 とにかく最後まで続いた展開の大圧力。そこへ来て予想外の犯罪までいくつも出て来やがる。。■■■■の理由はそこだけじゃなかった、と。。 「フェイクか」 「そういうことだ」 深い層まで喰い込む伏線も煩くなくリアリティをサポートした。(少しアケスケ過ぎるのもあったが..) エピローグ前のエンド部分、様々な機転の利いた目まぐるしい展開でダメ押し、参ったな。 しかし前世紀末に、この主題でここまで複雑なフーガを完成させていたとは。。 そして、これほどの完全犯罪。。。 酒盛りに始まって酒盛りに終わるこの小説だが、その中で何気にしっかりと完全犯罪を。。。。 グッと来る要素のタペストリーみたいな本作だが、中でも神髄は実はそこじゃないのか。。。。。。。。何故なら。。 「十数年越しの片想いが実ったんなら幸せなことだ。今じゃ一心同体って感じらしい。奴らが幸せになってくれたら、俺たちのボール遊びにも意味があったってことになる」 |
No.1036 | 5点 | 一寸法師 江戸川乱歩 |
(2021/03/16 20:38登録) 退屈だ。 コケオドシ、ヤスい文章、読みづらし。。 途上で視点が意外と錯綜する趣向は面白く、そのへんからボチボチ火が点き始め、最後の皆さん呼び出し真相披瀝の場面で漸くハラハラドキドキできた。。。。真犯人。。。。。。の意外性と奥深いその落とし穴には参った!! しかしそれと結んでの唐突なバカ大団円と、不躾(!)な締めのツイスト。ちょっと困惑します。。こんだけ人権蹂躙しといてこんだけの話かイと思います。いくら当時とは言えPCコスパが低過ぎる。高けりゃいいってモンでもなかろうが、それこそ「踊る一寸法師」なんかはあそこまで酷いこと書いただけの物語力が補償していると思います。が、本作はちょっと。。(時代の空気でしょうが、障ガイ者のみならず商バイ人への偏見も怖るべし。) 作者本人が嫌悪のあまりどっか飛んじゃったのも人間の良心が成した業かと感ず。とは言え乱歩さん自身「通俗のクズ」と唾棄した割に、本格ミステリ度は高いですよね。指紋抹消の件なんか、うっかりしてるとやられます。 |
No.1035 | 3点 | クラリネット症候群 乾くるみ |
(2021/03/14 21:29登録) 設定都合上、リーダビリティが瞬間風速めちゃ低い所もちょいちょい、が全体通せば無意味に快調!! 瞬時瞬時面白いし、楽器等の知識も綺麗に纏めたし、真相はぐるぐる重ねて闇からの使者っぷり、秘めたる社会要素も滲んだのが見えたが、、それでもこりゃただの××だ。いいぞ。俺は推さん。俺のSOWとは無縁。試しに読んでみ、これも経験よ。 |
No.1034 | 8点 | 大誘拐 天藤真 |
(2021/03/12 11:42登録) “しなくてもええ小細工をして得意がる、いうような子どもっぽいところも、かれらにはあったようでございます。” けったいやなあ、スリルもサスペンスも無抵抗でユーモアに蹂躙されとるのに、まるで気にならへんわ。ドタバタのハイパーインフレすらアリやで。それはやはり、こう見えておそろしく高いゲーム性に担保された物語だからでありましょうか。そのゲームを支配出来る人物の存在と未来への影響力こそが。。 さて少なからずサスペンスは削がれるものの、終盤に寄るにつれ内側に籠って微熱を放ち始めるスリルはなかなかだ。 まさかのタイミングでまさかの急展開もしびれた。回想の中の回想やないか。。 “・・・・・・が何かひっかかるものがある。” ああああーー 作中人物のみならず⚫️⚫️も騙しに来たかーー それも小さいのと大きいのと。 ちょっと油断しましたが、こりゃ完全にミステリ小説ですわ。叙述トリックもどきの要素すらある。まさかそんな巨大過ぎて気付きゃしないミスディレクションが。。。。 そこに■■というものが存在するからこそ成立する大犯罪(他人事やおまへんで)。 確かな計算に裏打ちされた或る錬金術は、計算の種類こそ異なるものの、なんとか二人氏某作の身代金奪取トリックを連想させます。 “・・・・・・ここまで来て、「何か変だな」と気がついた視聴者たちも少なくなかった。変なはずだった。” 所々文の意味が取りにくく、読むのに突っかかる箇所もある。だが大きく取ればリーダビリティは高い。 明るいが、スッキリし過ぎないエンドも味わい深い。 個人レベルの悪人を生成させない配慮の裏で、実は或る’巨悪’がうっすら影をしのばす少しの苦味も残すからこそ、よく締まっている。 それにしても、これはある種の◯人◯役あるいは◯役? 更には多重ダニット?? |
No.1033 | 7点 | 死人はスキーをしない パトリシア・モイーズ |
(2021/03/05 11:58登録) 「訂正しましょう。あの方はあなたを、自分のいのちよりも愛していたのです」 題名に違わず、山とスキーこそが様々な鍵を握っている華やかさ。正統の英国本格推理。怪しい偽証タペストリーがもたらした味わいのアラベスク。この、◯◯◯二段底は。。それは、冷たく温かい、未必の故意なのか。。二つ目の殺人のアリバイ偽装を露骨にしといて、、って事か。。あの時点で真犯人をいかにも分かり易く見せたのも、その際どいバランスが結局は物語の感動に繋がった。 そっかぁあーー ある意味、逆仕事ミステリともいえるかなーー イタリア人とドイツ人がやたら出て来ると思ったら、日本人も真っ青の細か過ぎる超アリバイ時間管理が登場したのは、ちょっと笑った。 ■■の物理的心理トリックも良し。 結末直前のコージー過ぎる緩さから、真相暴露&モアの急斜面の熱さへと雪崩れ込む所は、センチメンタルなスリルがあったな。 いろいろ思う爽やかなエピローグ。 しかし、クリスチャニアと来たか!(古い翻訳) 「鉄面うどんすき」こと「DEAD MEN DON’T SKI」こと「死人はスキーをしない」。近頃の若者はスキーをしない様だから、この「死人」というのも現在の閉塞した状況に置かれた若者の事を譬えているのかと思いましたが、違うようです。 「なんでもありません、 (中略) 嬉し涙です」 |
No.1032 | 7点 | 猫の舌に釘をうて 都筑道夫 |
(2021/03/02 17:07登録) 単語もフレーズも、文章も小説構成も、無駄にと言いたいほど勿体ぶって解りづらい要素が多く、短い割には読破に時間を要するかも知れないが、そこんとこアタイは好き。 前代未聞?の「読者への挑戦」の趣深さがアッと言わない間に捲られるのは歯痒さメランコリーだが、その忙しなさも独特の味。 やはり、完成品として締まっていると思います。 「三重露出」がもんじゃ焼きずっころびだったアタイも、本作にはジルバを踊るコツを教えてほしいです。 予告一人三役自体は、面白いアイディアだけど、さほど決まっちゃいませんよね。。でもそこは捨て石ながらアシスト一点ゲットしてますよね。。 虫暮部さん仰る様に、猫舌ホットコーヒーのアレは、アイラテ一本のアタイには盲点返しの伏線引き倒しも上等で、硬くて噛めない白い恋人を巡っての宮大工アクションシーンin札幌もある意味究極の逆アリバイトリックとして珍重します。 前期ZOOファンだったアタイとしては、後期ZOOとEXILEに足りないのは本作のような余裕ある遊びだよなー、と切に唇を噛む。いや噛まん。 最後に、これはマジネタバレですけど、 「そっくりさん」ってのが実は本格ミステリの核心を突いていたってのはね、わかりませんでした! 目眩まし大成功! |
No.1031 | 6点 | 大穴 ディック・フランシス |
(2021/02/28 11:14登録) 「オザケン」こと「ODDS AGAINST」こと「大穴」。原題は「見込み薄」って意味合いに賭博用語を絡めてるんでしょうが、邦題はちょっと厳しいですね。それでも競馬用語に落ち着かせたあたり苦心が伺えましょう。 序盤~中盤にこんだけやっといて最後の最後にこそ圧縮されたミステリ妙味が噴射するニクい構成。お蔭で期待を持たせた格闘スペクタクルは犠牲になりましたが、冒険小説として失ったものは少ないでしょう。ラストカンバセーションも最高に締まります。(だったらもうちょっと全般的にミステリミステリしてよい気もするが、、面白いから良し。) 写真に写った何がそんなにヤバいのかというホワッツホワットが謎解(ほぐ)しのベクトルへ牽引。 冒頭近くの「石を並べる」シーンも謎めいたまま有無を言わせぬ謀略推進で読者興味をはじけさす。 善悪の区別はスッキリしたもんだが、悪役側のメンバー構成にちょっとした味な所もある。 主人公はいい友人達(異性含む)に恵まれている。忘れ難き会話やお別れのシーン等いっぱい。チコが、病床のシドに或るパンフレットを置いていくシーン、泣けました。 非ハードボイルド文体の影響もあると思いますが、主人公がマーロウの様な無名タフガイとは真逆の、弱さの目立つ人間臭い有名人って造形が、少しばかり面白い。 |
No.1030 | 7点 | 共犯マジック 北森鴻 |
(2021/02/22 18:52登録) 長篇じゃん、って思ったりもするが、各話で完結する登場人物や各話ならではの味わいも充分あるから、やはり連作短篇集なのか(この微妙な構造、いいねえ)。それにしては最終話。。よくも繋げきったなあ(連城「暗色コメディ」を彷彿とさせた)。だけどちょっと大袈裟空回りかなあ、、ファンタジーの力を借りたとは言え。。無理筋の行動もあるし。。エンドも特に怖い拡がりがあるわけでは。。でもやっぱよくよく緻密に構築されてる話だわ。 それぞれの短篇があからさまな結末積み残し感を見せつけて終わる分、全体結末への期待値は高まる。 一方でそれぞれの短篇も実に面白い。 フォーチュンブックなるキーガジェットが放つ何やらの平成的安っぽさも手伝い、最初は軽い軽い連作短篇かと思ったけど、どっこいだぜ。。問題のブックが悪の主役として前面で立ち回るのでなく、悪意の傍観者的狂言回しの役に徹するのも良い感じ。連城を思わせる細かな、或いは大きな真相意外性もたっぷりだ。横須賀線爆弾の件、未完成彫像の件、贋作トリックの件、偽500円硬貨の件、通りがかりの親切な人の件、或るものの入手動機の件、それらの、より大きな事件との繋がり方がそれぞれレベル違いの複雑怪奇っぷりで実に面白い。時系列のアレもねえ。。。。中小叙述トリック的なものもあるけれど、それより大叙述ギミックの爆発が見得切りまくりですよね。 戦後昭和犯罪史をストーリーの背景と見せつつ、実は。。 あと一つ、強烈なクサビを打ち込んでほのかに漂う何気なチープさと残留違和感をぶっ飛ばしてくれてたら8点行ったなあ。。 再読じゃなくて、すぐ読み返したくなるよなあ。。 |
No.1029 | 8点 | ペスト アルベール・カミュ |
(2021/02/19 17:00登録) 或る人物の書いた手記が時折、別の人物の書いた手記を引用しながら進むという構成の本作は、ささやかな叙述トリック的なものを含んでいるのですが、書評サイト等を見るとそこんとこ普通に(ほとんど無意識で)ネタバラシされてますね。。いくら狭義のミステリ小説じゃないからと言って、そこは伏せておいた方が感動もより大きいと思うのですよ。。小説なんだからよ。。 コロナ環境でよく売れている様ですが、実際読んでみると、今の状況と(時系列込みで)符合する箇所のあまり遍在っぶりに舌を巻いてしまいます。本作では疫病の一旦終息までが語られます。これから終息の時を迎えんとする(かも知れない)現実世界でも果たして本作で描かれたような現象が今後起きるのか、優しく見守って行きたいものです。 本作でペストが時ならぬ蔓延を見せるのは第二次大戦後アルジェリアの中都市一つだけですけど、COVID-19の方は地球の全陸地を跋扈、その大部分はネットで繋がった高度IT化社会(言い方が古いw)。そういった違いも少し念頭に置いてアナロジーを脳内拡大させながら読むとまた一段と興味深いかも知れません。 確かに理解しづらい箇所には出くわします。それをハイジャンプで上回る面白さがあります。印象的なプレーズや台詞も頻発。広義のミステリにギリギリ含まれる(この時代に不謹慎ですが)エンタテインメント書として読んでみてはいかがでしょうか。と言っても冒険小説でもサスペンスでも政治スリラーでもなく、感触はやはりハードボイルドです。(チャンドラーを思わす夜の海のシーンは本当にアンフォゲッタブル。)友情の喜び、愛の苦しみ、生きる迷い、有難み等々を一歩引いた観測点から冷静に叙述している、実はそこに、前述した叙述トリック的なものが絶妙に機能しているわけですが。。 |
No.1028 | 6点 | 世界の終わり、あるいは始まり 歌野晶午 |
(2021/02/15 10:54登録) “私はやはり自分がかわいい” これは間違い無く、真っ当な平成の新本格ミステリなんだよな。。違うのか。。と疑いが芽生えたのは物語進行のどのあたりだったか。途中から、妙にこの小説に不似合いな気がする、格好よくないユーモアが頻出。この親父何やってんだよーー いろんな意味で。。だがしかし、物語の半分にも遠い地点でギラつきすぎるスーパークライマックスらしきものが露出。これによる、物語後半というか全体像への期待感の勃興ったらない!ハードル上げまくったもんだなあぁ、やけに、と感心する。これは間違い無く、真っ当な平成の新本格誘拐ミステリなんだよな。。気付けば、何なんだこの章立ての。。おい、どういう展開のハンドル切りなんだ。。徐々に、これはもしや、アガサ流の真犯人隠匿術を真相隠匿に拡大応用しているのではないかとの疑いが。。最後の最後近くに、推理クイズというか鮎川さんの緩い倒叙短篇みたいなの、の更に多重解決版みたいなのが出て来ちゃったよ。。まさかそこで。。エンド、唐突に気分が変わるなあ、これでいいのかなあ。拳銃の件もあるだけに。。(アレの確認とかどうするつもりだろ)。。何より、このエンディングで受け止め切れてないでしょ、それまでの物語の圧力を。恐るべきリーダビリティを持ってはいましたし、読んでてとても愉しかったですよ。文庫解説にもありましたが、その後の歌野さん快進撃を想うと、実験敢行した甲斐は充分あったのではないでしょうか。 これを言うとネタバレになると思いますが、途中から西澤保彦「七回死んだ男」を読んでるような気分にもなりました。多重解決ひとひねりは若干うるさかった、的な。 |
No.1027 | 8点 | 五匹の子豚 アガサ・クリスティー |
(2021/02/12 18:09登録) くっきり魅力的な目次構成は、見立て容疑者の趣向自体まさかの欺瞞じゃなかろうかと、愉しい疑義も唆しました。 十五年前の殺人事件(?)、死んだ父と、犯人とされた母の間に生まれた娘。。事件当時は幼い子供で今は成人。。が、その真相を改めて究明して欲しいとポワロに依頼、ポワロは容疑者を五人に絞って直接に話を聞きに赴き、また後日には文書に纏めて送らせます。文書を読み再検討した上で、も一度、各人に最後の質問を投げかける。。締めには依頼者を含め一同六人集めて大団円。。。。。。 無駄なく厚みある中盤を惜しみながら読み進み、なかなか顔を見せない終盤へゆっくりと入るにつれ、いっそいつまでも物語よ終わらないでくれと、人生最終読のミステリはこれくらい趣深い謎を残して読書中絶のまま死んでしまったらそれも良いなどとあらぬことを考えてみたり。 終わってみれば、向く方向が全く異なる二人の「永遠の■■」が生成された物語、だったというわけですか。。。 嘘を吐き通した筈の真犯人が実は漏らしていた心情吐露の部分、振り返るとディープ過ぎて泣けて来ます。真犯人は勘で薄っすら疑ってた人物で正解でしたが、真相全体像は、まさかの想像範囲外でしたね。。。。(「●●い」が鍵になってるんだろうな、というのはその通りだったけど、まさかここまで深く爪刺す要因だったとはね。。) 味覚と嗅覚がポイントとなる話でもありました。 tider-tigerさんもご指摘ですが、人情ドラマを隠れ蓑に(?)パズル性で押した凄みがある一篇ですね。 最後にポワロが指摘した「それ」の怖さ、連城の某短篇が頭をよぎりました。 |
No.1026 | 6点 | 七回死んだ男 西澤保彦 |
(2021/02/09 18:33登録) ご都合特殊設定ハピネス最高!品の無いドタバタ最悪(笑)!何が因果律だよ。。笑 日程だの抑止力だの伏兵だとか何だとか。とは言えしかしまあ、よくここまでバターン考えたものですね。殺人を防ぐための ”アレ” の範囲が泥縄式に際限なく拡がって行くのが何とも滑稽!本筋とは何だか違うような?本筋そのもののような?気になる謎や違和感もしっかり道連れにするからミステリ興味も充分キープ。本格ミステリにおける「真犯人像」のパロディという趣向が見えなくもない。重い社会問題である⚫️⚫️をこれ幸いと?ミステリ核心へ軽妙に引っ掛けるとは、何たる!!w ロジックの多重解決とは非なる、問題の多重解決というか回避、なかなか斬新。文庫あとがきの北上次郎氏もおっしゃる通り探偵役の在り方としても画期的なのかも。何気にショッキングな筈のメイントリックその2(?)もこの終始パープーなムードの中で一瞬しか響かなかったwもったいない!(でも後から結構じわじわ来ないこともない) 逆叙述トリックとも違う、半叙述トリック?? んだどもエンディングのイヤコメディぶりは後味最悪!!w ことはさん、語り口の件、同感です。もうちょっと最低限のシリアスな緊張感というのが無いものかと。。 それと、これはネタバレ案件と思いますが、、、、Dマンさんご指摘の通り、、、 弁護士の扱い、惜しいよなァ。。。 |
No.1025 | 6点 | バルコニーの男 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー |
(2021/02/05 14:38登録) リアリティ磐石に落ち着いた書きっぷりで、被害に遭った少女とその親の悲惨さにも、証言する男児の可愛いさにも、殺人鬼の異常さにも強盗犯の兇悪ぶりにも焦点が偏らない、道の真ん中を往く不偏不党のストーリー。その所為かこんなバーッドな犯罪がテーマでも意外とあっさり風味。警察小説ならではの展開意外性も発揮。悪くない。 クリスティ再読さんの > 「偶然も絞られていって、蓋然的に必然に近づいていく」という風に読むといい に強く賛同です。実生活の仕事等でもその側面は大きいですよね。 |