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ミステリの祭典

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砂の女

作家 安部公房
出版日1962年01月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 斎藤警部
(2022/08/04 06:42登録)
じんわり来るエンディング(特に、七年後?の方)は、いつまでも記憶に刻まれる事でしょう。

新種の昆虫を求めて、真夏の砂丘の村を訪れた学校教師が、村人の策略に遭い、蟻地獄のような窪地の家に囚われた。その住人の女は、夫と子供の命を流砂に奪われている。生きるために、村を生かすために、絶えず流れ落ち続ける砂を、延々と運び上げ続ける女。協力しつつも、いつか脱出しようと足掻く教師。 

いかにも寓話らしい引っ掛かりが、一本の筋は見えるものの、一面的でなく乱反射する様に遍在しています。そこに息づく隠喩の腰が強過ぎて、時にサスペンスを削ぐきらいもあるけれど(ゴリゴリの純文学だから仕方ない!)一方で、まるでマーロウが露悪的学士になったが如き(?)巧みな直喩の乱れ撃ちが実に愉しい。物語の主題も然ることながら、そのへんの言葉の遊戯に文学的歓びを見出すのも悪くないでしょう。

““砂””の異様な物理的様相、体中から絞り出される汗と、村から与えられる貴重な水、食事と性(的)行為、痛む肉体、暑さと渇き、感覚に訴えるリアリティは盤石で、理屈っぽい寓話ファンタジーに傾いてもおかしくない物語を、現実側にぐいと引き寄せる力があり、際どい所でエンタテインメントとしての可能性を本作に付与している気がします。 罠だの溜水装置だの、メカニカルな興味に訴える道具使いも上手いね。

名声が世界に広まったのも納得の一冊。 本籍地は明らかにハード純文学ですが、面白サスペンス小説のつもりで呑み込むように読むと、いいかも知れません。

No.1 7点 虫暮部
(2021/07/25 10:17登録)
 俯瞰的に見ているうちは、集落が砂に埋もれていくメカニズム等、具体的なヴィジュアルとしてはイメージしづらい設定が,言葉で無理矢理頭の中に捩じ込まれる。
 物語に或る程度以上没入すると、暑さやじゃりじゃりした砂の感触と言った皮膚感覚がやけに鮮明。
 “左肩が、割箸を割るような音をたてた”とか“トンボの羽に火をつけたようなあっけなさ”とか、文芸っぽいくせにエグい表現が散見されて、痛過ぎて笑っちゃう感じが持続する。総じて、瘦せ細った足腰で心許なく踊り続けたような読後感。

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