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ミステリの祭典

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名探偵ジャパンさんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.70 7点 怪盗ニック全仕事(1)
エドワード・D・ホック
(2015/04/10 10:59登録)
子供の頃「名探偵大集合」みたいな企画の新書でその名前だけは知っていた怪盗ニック。「価値のないものだけを盗む」という設定に興味を持ち、「いつか読んでみたいなぁ」と思いながらも、いつしかその存在を忘れ時は経ち、ある日書店で本書に出会った。
プールの水、看板の文字、野球チーム、ニックが盗むものは多岐に渡り、「どうやって盗むんだろう」というニックの手段への興味と、「こんなものをどうしてほしがるんだろう」という依頼人の秘密への興味が毎回冒頭で提示され、読者の目を引きつける。
基本盗む盗まないのドタバタがメインだが、時折本格っぽい殺人事件に発展することなどあり、読者を飽きさせない工夫がされている。
一編が短くちょっとした待ち時間で読めてしまうし、全体を通した謎みたいなものもないので、一気に読んでしまうのでなく、鞄に忍ばせて週に一話くらいのペースでゆっくりと読んだ。
収録作はどれも一定以上の水準のクオリティで、2巻移行もこれが持続されるかという不安はあるが、続刊も楽しみに待ちたい。


No.69 6点 インディアン・サマー騒動記
沢村浩輔
(2015/04/06 10:17登録)
「夜の床屋」のタイトルで文庫化したもので読了。
ミステリーズ!新人賞受賞作である「夜の床屋」を皮切りに、連作短編集の形となっている。
あまり多くを語るとネタバレになるし、かといって、個人的には諸手を挙げておすすめできるものでもない。まあ、私も書店サイトなどの評判が気になって購入したのではあるが。
表題作が受賞した「ミステリーズ!新人賞」は、読んでのごとくミステリ小説の賞だが、こうして連作として組み込むことでその様相は変わってきてしまう。途中で明らかに「これは解決してないぞ」という短編が出てくるので、「最後に何かある」とは感づいてしまうのだが。
こういう構成、好きな人は好きだろうが、私は、どうにも据わりが悪い短編集だと感じた。
三津田信三の刀城言耶シリーズ(怪奇だと思われたものが実は人為的なものだった)の逆パターン? って、これだけでネタバレしちゃうから。





No.68 4点 子どもの王様
殊能将之
(2015/04/03 09:23登録)
子供向けミステリ「ミステリーランド」の一冊。
もしかしたら、本作の作者、殊能将之と麻耶雄嵩は、「小学生向けのミステリ」じゃなく、「小学生が主人公のミステリ」と発注を勘違いして書いてしまったのではないだろうか? 麻耶の「神様ゲーム」と同じ匂いを感じ取った。
本格ミステリらしい仕掛けはほとんどなく、小学生の冒険譚という印象が強い。作者(かつての子供)の懐古が強い作品で、現役の子供がこれを読んで楽しめるかは分からない。
自分のころを思い返してみても、家と学校の往復(と、その途中にある友人宅)が(自力で行ける)世界のすべて。その中にいつもとは違う怪異が発生していたら。そんなことを考えながら読んだ。決してつまらないわけではなかったが、ミステリとしての評価をすると辛くせざるをえない。


No.67 7点 殺人喜劇の13人
芦辺拓
(2015/04/03 09:09登録)
「デビュー作にはその作家のすべてが詰まっている」
まさにこの言葉を体現したかのような芦辺氏の処女作だった。
本格ミステリ愛。トリックへのこだわり。ちりばめられたミステリ小ネタ。等々。
それがゆえに上滑りしてしまいがちな筆致もそのまま。(私が読んだ創元推理文庫版は初期から改訂されたもののようだが)
手記の書き手がミステリ作家志望の大学生、という設定ゆえの文章、ということを考慮しての書き方だろうが、森江春策が登場してからの神視点での三人称になっても、そんなにスタイルは変わらなかったと感じた。やはり作者特有のものだろう。
多少無理を感じるものもあったが、個々のトリックの完成度はさすがで、本当にもっと読みやすく書ければ、和製ミステリの旗手は、綾辻や有栖川ではなく、芦辺拓その人である。というふうになっていたはず。
私は芦辺拓を諦めない。


No.66 5点 眼鏡屋は消えた
山田彩人
(2015/03/30 14:47登録)
読んでまず思ったのは、皆さんの書評通り「みんな記憶力凄すぎ」
最後のサプライズのために主人公の記憶を失わせたのだが、記憶喪失のまま日常生活はおろか、生徒に対する授業までこなせてしまうなど、おかげでちょっと無理のある展開になってしまったのは残念。
ただ、転落死体をめぐる、すれ違いが生み出した不可能状況など、これは、と思うものはあった。鮎川賞は伊達じゃない。

ひとつ気になった点は、後付けでパソコンに遺言書を書き加えたというところ。ファイルの作成日時からバレるのでは?


No.65 6点 さよなら神様
麻耶雄嵩
(2015/03/30 14:39登録)
問題作「神様ゲーム」の続編登場。
今作は、別段「子供向け」と謳ったりはしていないらしいが、例によってやりたい放題。
体は子供頭脳は大人探偵も裸足で逃げ出す、殺人事件に見舞われまくる小学校。異常に大人びた小学生など、この辺りは作者、わざとやってる。突っ込み待ち状態。
作家として自分が何を求められているか、よく理解している。
謎は解けるが事件は解決しない。周りがみな不幸になり誰も得しない。これが麻耶ワールドなのだ。


No.64 6点 Bハナブサへようこそ
内山純
(2015/03/26 18:18登録)
第24回鮎川哲也賞受賞作品。
「ビリヤードハナブサ」に持ち込まれる事件を、アルバイトの青年が安楽椅子探偵よろしく解決していくという連作短編集。
実にオーソドックスで、この手の連作短編集にありがちな、最後にどんでん返し的なものもなく、奇をてらわない本格。
各事件の謎を解く鍵が、ビリヤード用語から連想される、という、最近流行の職業うんちくものの要素もある。
事件、トリック、キャラクター、全てが、敷かれたレールから一ミリたりとも外れない作りで、作品を言い表すとするなら、悪い言い方に聞こえるかもしれないが、「偉大なるマンネリ」(一作目なのに)。刺激を求める若い読者には物足りないかもしれないが、こういう路線はなくしたらいけないと思う。
エキセントリックな設定や、びっくり箱のようなどんでん返しもない、本作のようなものがミステリの賞を受賞したというのは、喜ぶべきことなのかも。


No.63 7点 体育館の殺人
青崎有吾
(2015/03/16 09:38登録)
今どき、こんなコテコテの本格を書く人がいたとは。
しかも、クイーン好きをこじらせたオールドファンかと思いきや、作者は、隔世遺伝的まさかの平成生まれ!
無愛想で失礼、しかもアニメオタクという名探偵は好き嫌いが分かれるだろうが、これが、奇抜で変人、という名探偵のお約束を新世代が解釈した形なのだろうか。
大胆なトリックや叙述などの仕掛けもない、ファンタジックな特殊設定もない、あくまでロジカルに犯人を追い詰めていくクラシカルなスタイルは、今時の若者にはあまり受け入れられないかもしれないが、それを書いているのがまた読者に近い若い作家だというのは希望だ。
青崎有吾、本格ミステリの救世主となるか?


No.62 2点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ
森川智喜
(2015/03/12 13:47登録)
文庫版の法月綸太郎の解説によれば、本作は「謎と論理の探偵小説の構造を組み替えていく可能性」を「真正面から追求する」作品ということだ。解説でも引用している笠井潔の言葉と合わせると、要は「複雑な構造でページを戻って内容を確認しながら推理するようなミステリはもう古い。若い世代には受け入れられない。もっと手軽に、考えなくても答えが分かるようなミステリがこれからは必要なんじゃね?」ということらしい。
確かに法月、笠井の言いたいことは分かる。私もあまりに込み入った話は苦手だ。しかし、本作がそれらに代わる新世代のミステリだとは、どうしても思えない。

鏡に万能性を持たせすぎている。計画、立案まで出来てしまうというのは、あまりにやりすぎ。この機能を使えば、yoshiさんの書評の通り、あっという間に話が終わってしまう。
これだけなら、ただの「バカミス」として片付けてしまえるのだが、問題は、本作が「本格ミステリ大賞」を取ったということ。
審査員の方々は、本当にこれが「本格」「ミステリ」「大賞」に相応しいと思ったのだろうか?
本格ミステリが複雑化して、新規お断り、みたいな状況に填り込んでいるのは間違いないだろう。だが、それを打開するのは、「何でも答えてくれる魔法の鏡」では決してないはずだ。


No.61 5点 チャイナ蜜柑の秘密
エラリイ・クイーン
(2015/03/09 18:49登録)
子供の頃に読んだミステリは、ほとんど内容を忘れてしまっているが、本作は、トリックが理解できす「?」となったことを強烈に記憶していた。
角川から、「謎」ではなく「秘密」のシリーズとして新訳されているものを読んだ。
この新訳の素晴らしいのは、巻末にトリックの図解が載せてあることだ。まあ、私は「針と糸」系の物理トリックは好きではないので、(あまり好きな人はいないだろう)疑問が解けても「ふーん」程度だったが。
本作の骨子はそれではなく、また、「あべこべ」でもなく、犯人が施錠されたドア側にいた、だから、犯人はこちら側のドアをトリックを使って施錠して、容疑の圏外に逃れようとした。ということをあぶり出すエラリーの推理だと思う。密室トリック、あべこべの理由などのほうを本作の「売り」としてしてしまうと、時代遅れの「バカミス」扱いされてしまうのは仕方がない。


No.60 7点 神様ゲーム
麻耶雄嵩
(2015/03/08 10:56登録)
聞くところによれば、本作は「ミステリーランド」という児童向けに書かれた作品だとか。他には、綾辻の「びっくり館」、有栖川の「虹果て村」などもそうだという。
その二作は私も読了済みで、少年少女が初めて触れるミステリとしては、申し分ない作品だな、と思ったものだったが、そこに麻耶雄嵩が出した答えとは?
これはアウトでしょう。確かに、子供が時として年齢不相応なものを見聞きしたり読むことを全面的によくないことだ、とは言わない。私も幼少の頃、大人向けのサスペンスドラマ(残酷な殺害シーンや、女性のヌードなど出てくる)を、おっかなびっくり見たこともあった。児童向けにリライトされていない江戸川乱歩ものを読んで、「なんじゃこりゃ?(僕の知ってる明智探偵と違うぞ)」と思ったこともあった。
だがそれは、子供の側から、能動的に大人の世界を背伸びして垣間見た結果。今風に言えば「自己責任」の結果だ。そうやって子供は、「これはまだ見ちゃいけないんだな」ということを学んでいく。
最初から「児童向け」と謳ったものに、必要以上のグロを仕込むというのは違うのではないだろうか。
この作者のファンの方々は、「さすが麻耶雄嵩、子供相手でも容赦しないぜ!」と歓喜するのだろうが、大人は子供に容赦するべきです。大人げないです。
子供が安全面を考えた年齢相応のおもちゃで遊んでる横で、大人向けの尖った部分がたくさんある危険な(子供にとって)おもちゃを見せて、「こっちのほうが角も尖っててディティールも細かいし、塗装も完璧で、君の『DX完全版ジェノサイドロボ』とは出来が違うよ」と悦にいるような大人げなさを感じた。
作品自体は面白かった。


No.59 8点 虹の歯ブラシ 上木らいち発散
早坂吝
(2015/03/04 08:56登録)
作者二作目にして、まさかの上木らいち続投。
前作のネタも相当なものだったが、今作ではボリューム、仕掛け、バカ度、大幅アップでの登場。
ドラクエがⅠからいきなりⅣになったような、いや、ファイナルファンタジーが、ⅠからいきなりⅣになったような、機種の壁を越えた大幅パワーアップ。(ファイナルファンタジーはⅢまでがファミコン。Ⅳからスーパーファミコンで発売された)
下ネタ下ネタと言われるが、性生活は人間の営みと無関係では決していられないわけで、本格ミステリ界にこういった犯罪、トリックが出てくるのはむしろ必然。そこへ堂々と斬り込んだ作者とらいちは偉い。
エロバカだけでなく、本格としてもしっかりしている。相変わらず映像化は無理な内容で、作風とも伴ってメジャーになることは難しいかもしれないが、我々本格ミステリファンの中に作者の名前はしっかりと刻み込まれるはず。これからもこの路線でがんばれ、とエールを送る。
でも、いきなり期待を裏切って、エロバカなしの超ド本格を書いてきてもいいんだよ。


No.58 4点 ベストセラー「殺人」事件
エリザベス・ピーターズ
(2015/03/02 14:31登録)
不勉強ながら、私は本作も、作者も全く知らなかった。「たまには贔屓の作家や話題作でなく、まったく知らない作家の本でも適当に選んで読むか」という、「ミステリロシアンルーレット」で選んだのが本作だった。
ジャンルでいえば、「ユーモアミステリ」とでもなるのだろうか。地の文で登場人物に突っ込むノリなどは、東川篤哉くらいにまで突き抜けてはおらず、「こういうの、ちょっとお洒落でしょ」的なハイソサエティな笑いを目指しているのかと思った。(スベってるが。翻訳だからだろうか)
事件自体はまことに単純な話で、どうしてこれだけの事件でこれだけの分量を書けたのか? と、感嘆してしまう。(そしてそれを読了した自分にも)
作者は本国ではかなり名のある作家のようで、日本ではさして知られていないところを見ると、言語でネイティブが読んでこそ本領を発揮できるタイプの作家(作品)なのかなと思った。


No.57 6点 恋と禁忌の述語論理
井上真偽
(2015/03/02 14:16登録)
かつて、これほど読了に難儀したミステリはない。
探偵が真っ当な(?)不可能犯罪の謎を解く、などという凡百な「本格」ミステリなぞ、もうお腹いっぱい。これからは、「変格」いや、「解格」「脱格」だ。と、そっち方面の作品が大好きなメフィスト賞。納得の受賞作だ。
しかしながら、BLOWさんもご指摘の通り、いくら論理だ何だと事件をこねくり回しても、結局最後は「そういう人物なら、こういう行動はしない(をする)はず」という、昔ながらのクラシカルな人物観察による推理を決め手にせざるを得ない。
語られる各事件は、難しい論理式などを挟まなくとも、十分「本格」ミステリとして観賞に堪えうるものだっただけに、余計蛇足に感じる。(だが、「普通」の安楽椅子探偵ミステリでは、同賞は受賞できなかったはずで、悩ましいところ)
作者も恐らく、「普通の本格ミステリを書いただけでは、歯牙にもかからないに違いない」と、こういう脚色をしてきたのだろう。
次回の同賞は、悪い言い方をさせてもらえば、どんな「ゲテモノ」が受賞するのか。楽しみでならない。


No.56 6点 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題
法月綸太郎
(2015/02/19 17:21登録)
黄道十二星座をモチーフにした連作短編集。
とはいっても、綸太郎シリーズは比較的リアルな本格ものなので、こういった星座にまつわる事件ばかりが起きる世界、というのは相容れないと思うのだが。
(「機動戦士ガンダム」の敵として宇宙人が出てくるような違和感。綸太郎シリーズは、リアルかスーパーかで言えば、リアル、なのだ)
最後になって、「星座にまつわる事件を意図的に引き起こしていた黒幕が登場し、綸太郎と最後の対決」なんて展開も頭をよぎったが、そうならないで安心(笑)
とはいえ、個々の作品はさすがの完成度で、他の方もおっしゃっていたように、このプロットを生かして「星座」というしがらみを外した自由な短編として書いたほうがよかったと感じる。
「Ⅰ」のほうも既読だが、あまりに昔のことなので、ほとんど記憶になく、また機会があればレビューしたい。


No.55 6点 純喫茶「一服堂」の四季
東川篤哉
(2015/02/19 17:05登録)
「ガンダム」後のリアルロボットアニメ。あるいは、「ストⅡ」後の対戦格闘ゲーム、あるいは、「エヴァンゲリオン」後の、謎ばらまきアニメ。
ヒット作の生まれたポイントには、二匹目のどじょうを狙おうと、我も我もと押しかけるのが世の常で、ミステリ界も例外ではない。
そもそもホームズの大ヒットが後の名探偵ブームを生み出し、現在に至っているのだから。
店の美人店主がお客の持ち込む事件を聞いて謎を解く、安楽椅子探偵もの。今もっとも熱いミステリジャンルではないだろうか。
「この東川篤哉が、二匹目(三匹目とかそれ以上かも)のどじょうになってやろうではないか」と、堂々と立ち上がったのかどうかは知らないが。
この手の作品が、ともすれば安易な「キャラ萌え」に傾向しがちであることに、「本格ミステリとは、こういうものだ」と、我らが東川篤哉が叩きつけた挑戦状。それが本作である。
そもそも扱う事件すべてが、人が死ぬ血みどろの殺人事件。事件の惨劇度は回を追うごとにエスカレートしていき、最終話でその汚れ具合は頂点に達する。
そして迎える大団円。これには賛否両論出てくるだろうが、私は、作家、いや、ミステリ作家、東川篤哉の矜持を感じた。その気になれば、もっとこのシリーズで商売できたはずだ。
「流行り物に乗ったけど、俺、ミステリ作家だからね」
そんな作者の声が聞こえてくるような潔い結末だった。


No.54 6点 密室の鍵貸します
東川篤哉
(2015/01/19 17:29登録)
ドラマで観賞後だったため、トリックなどは既知の状態で読んだ。
あくまで本格、あくまでミステリに徹し、そこへ、「少しかけ過ぎ」とも思えるユーモアというスパイスを振った本作は、何とも独特な味わいのある作品となった。
新本格が市民権を得て幾年。その新本格に影響されて書かれた作品に、解説で有栖川が語ったような「本格ミステリを出汁にして遊ぶ」ような作品が多い中、(「脱格」というネーミングはこの手のスタイルを的確に表現している)本作の作者は、数少ない「正当派本格ミステリ書き後継者」と呼べるのではないだろうか。
デビュー作を読んでみて改めてそう感じた。
妙にパーソナリティを持った三人称の語り手(お前は誰なんだよ 笑)も、普通にやっては「ふざけてるのか」と言いたくなるが、東川作品では許せてしまう。
これも有栖川の言葉だが、「ユーモアというのは、作るのが難しい割に、シリアスや浪花節より低く見られがち」で、決して利益率(?)の高い仕事とは言えないのだが、デビュー作からそこに挑戦し、今もそのスタイルを守り続けている作者の心意気は凄い。


No.53 4点 帝王、死すべし
折原一
(2015/01/16 10:07登録)
「久しぶりに折原一の叙述トリック(読む前から決めつけてる)に騙されるか」と、文庫新刊コーナーにあった本書を購入した。
まあ、裏表紙に「叙述トリックの名手、折原一の…」としっかり書かれちゃってるし。
読了して、何だろう。騙されたことは騙されたが、いまひとつ、かつての折原作品を読んだ時のような、「うわー」感がなかった。
どんな凄いマジックも、見慣れてくると凄いと感じなくなるようなものだろうか。
叙述トリックというものが、「読者を驚かせる手段」から、「それを使うこと自体が目的」になってしまった感じがある。
折原一のそれは、もはや「名人芸」の域に達して、「驚く」というより、「さすが」と喝采するようなものになってしまったのではないだろうか。
大ベテラン漫才師の漫才に、爆笑はしないが、「うまいなー」と感心してしまう心境に似ているだろうか。

「帝王の正体はこの人だったんです」
「そうでしたか」
「嘘は書いてませんよね」
「そうですね」
「騙されましたか」
「はい、騙されました」
何だか小説を通して作者とやりとりする会話が、無機質なドライなものに感じてしまった。


No.52 5点 バリ3探偵 圏内ちゃん
七尾与史
(2014/12/20 11:56登録)
ライトノベルというスタイルでのミステリは始めてで、館や島の見取り図やトリック解説でない、純然たる挿絵が頻繁に挿入されるミステリというのは少し新鮮だった。子供のころに読んだジュブナイルアレンジのミステリを思い出した。
事件自体は全然ライトでなく、冒頭のネット晒し祭りから、いきなりエンジン全開。ミステリというよりは、サスペンスものに近い印象を受けた。
主人公の圏内ちゃんが既婚者というのは、ライトノベルのヒロインとしてはどうなのだろうか? と、どうでもいい疑問が浮かんだ。


No.51 6点 魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?
東川篤哉
(2014/12/20 11:25登録)
いつテレビ朝日で金曜夜にドラマ化してもおかしくない、ライトな短編集。
魔法で犯人に自白させ、そこから証拠固めというほぼ一貫したスタイル。犯人特定に至るプロセスを大幅に短縮できるこのシステムはいいのだが、ひとつ問題がある。それは「その魔法による自白は常に100%不可謬なのか?」という点だ。
魔法も万能ではなく、万が一の確率で犯人でない人物に自白をさせてしまったのだとしたら。主人公たちは冤罪を作るために一生懸命証拠捜しをするという、笑えないある意味現実的(?)な事態になってしまう。
これを防ぐために作者が取った小説としてのシステムがいわゆる「倒叙もの」である。冒頭で犯人が犯行を行っている場面を読者に見せて、「間違いなくこの人が犯人ですよ」と宣言しているのだ。
だから、読者は後に魔法使いが指摘する犯人が、間違っていないと認識でき、安心して読み進めることができるのだ。
しかしこれは作品世界の外にいる我々読者だけが知りうること。作中人物の主人公刑事が、魔法使いの魔法をまったく鵜呑みにしてしまっているのは少し問題だと思うが、そんな重箱の隅をつつくような作品ではない。作者特有の7割笑って3割すべるギャグとともに気軽な気持ちで楽しみたい。

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