名探偵ジャパンさんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:370件 |
No.130 | 7点 | 私という名の変奏曲 連城三紀彦 |
(2016/10/27 17:06登録) 本格トリックと美しい文体の融合、それが連城の魅力であり、本作においてもそれはいかんなく発揮されていますが、初出が1984年という比較的早い段階だからでしょうか、まだ板についていない感じがします。「美文を書こう」という意識が前に出すぎているというか、文章を目で追ってもなかなか頭に入ってきません。これよりも早くに書かれた「戻り川心中」ではそんなことは思わなかったため、連城はやはり短編型の作家、ということなのでしょうか。「登場人物の心情をつらつらと述べるよりも、どういう状況なのかを説明してくれよ」みたいなことを何度か思いました。 「七人もの人物が、それぞれ同じ人間を殺したと思い込む」せっかくのこの非常に魅力的なガジェットが頭に入ってくるまで、かなりのページ数を要してしまいました。 しかしそれも中盤まで。文章に慣れるころには、ぐいぐいと読ませる力がやはりある作品でした。 トリックの肝は、確かに前段階でフェアにヒントが書かれてはいるのですが、美文に振り回されて(?)、いまひとつ「そうだったのか」という感じにはならなかったことが残念です。 そのトリックも魅力的ではあるのですが、あまりに「ガチミステリ」っぽくて、こういった「リアル系」作品との親和性が低く、浮き上がってしまった感は否めません。(「ガンダム」にいきなり「機械獣」が出てくるような?) |
No.129 | 6点 | 幽女の如き怨むもの 三津田信三 |
(2016/10/23 20:27登録) 皆さんの書評でシリーズの異色作として位置づけられるのも納得です。 今までの刀城シリーズとは構成が全く異なり、本作で探偵刀城がやったことといえば、日記を読んで女将さんと話しただけ。これは刀城シリーズではなく、ノンシリーズとして出したほうがよかったかも? とはいえ提示される謎はやはり魅力的です。戦前、戦中、戦後と十数年間に渡り、都合九回も人が身投げをした、もしくは未遂に終わったという、飛び降りのメッカと化したある遊郭の謎。その中に、戦前、戦中、戦後、同じ名前を継いだある花魁が常に絡んでいる。 最後に明かされる真相は、遊郭の風俗移り変わり的な資料小説の様相を呈していたところに提示されるというタイミングも手伝って、なかなかに驚かされました。「ああ、これはやっぱり本格ミステリだったんだ」という安堵も得られました。 ストーリー作品としては面白く、このボリュームにも関わらずぐいぐい読ませます。でもしかし、やっぱり「本格ミステリ」としては、ギリギリのバランスではないかと思います。 |
No.128 | 7点 | 黒猫館の殺人 綾辻行人 |
(2016/10/18 22:33登録) 「館の見取り図」は、綾辻のこのシリーズの名物で、不可欠のものと言えるでしょう。当然本作にも冒頭に見取り図が付いています。これは綾辻は悩んだのではないでしょうか。読者は当然、逐一見取り図を見ながら事件を追っていくので、「館」の構造が大まかにでも必然、頭に入ってくるのです。このため、探偵鹿谷が謎解きをする前段階のある記述で、メタ視点にいる読者は、「あれ? 変だぞ」と思います。そこでそっと本を閉じて、その記述のおかしさから、連鎖的に謎が解けてしまう人が多いはずなのです。 「見取り図さえ、見取り図さえなければー!」綾辻は苦しんだのではないでしょうか。見取り図さえなければ、文章でさらっと書いて流せたはずです。しかし、綾辻は見取り図を入れます。本作だけ見取り図がないと、その段階で変だと思われる危険性も考慮したのでしょうが、綾辻はフェアに横綱相撲を挑んだのでした。 本作の魅力は、この大トリックだけでなく、犯人の殺人の動機。密室トリック。と見所は多くあります。密室トリック自体は使い古された手なのですが、それを行えたのは誰か? がテーマのため、陳腐に写ることはありません。手掛かりもしっかりと出します。 騙す意図のない人物が書いた手記なのに、明らかに読む人を騙す記述がある点に疵を見いだす方も多いですが、この手記は、作中冒頭に記されているように、「記述者が探偵小説としても読めるように書いたもの」なのです。意図してそういう記述を省いたと考えることも出来ます。 さて、「館シリーズ」もここまで来て、次はいよいよ「暗黒館」です。恐らく書評を書くのは当分先になるでしょう…… |
No.127 | 6点 | この闇と光 服部まゆみ |
(2016/10/18 18:10登録) 何でしょうか、このもやもや感は。 いわゆる「反転もの」なのですが、作者はネタをかなり序盤から小出しにしていってしまいます。おおまかな概要が掴めたところで、さらなるサプライズが。そして一気に物語は収束に向かうのかと思われましたが…… 寸止め、というか、あえて全てを語らない、こういうのがやはり文学の世界では「かっこいいスタイル」というものなのでしょうか。当サイトの分類も「本格」ではなく「サスペンス」となっていますし、実際その通りです。 「何度も読み込んで感じろ」「答えは自分でみつけろ」ということなのでしょうか。すぐに「正当」を求めたがるせっかちな現代人への警鐘。読者の数だけエンディングがある。これが分からないお前はアホなのか。作者が本作に込めたメッセージが重くのしかかります。 投げたんじゃないよね? |
No.126 | 10点 | 時計館の殺人 綾辻行人 |
(2016/10/10 21:26登録) レジェンドシリーズ書評として「十角館」から再読してきた「館シリーズ」も時計館に到達しました。 初読のときは、ダイナミックなメイントリックに「本格ミステリ、ここまで来たか」と、本を閉じてしばらく部屋の天井を仰いだものでした。 再読において、「こんなに厚かったっけ?」と(文庫改訂板にて約600ページ)思い、「数日に分けて読むか」と考えていたのですが、いざ、ページを捲り始めると、ほぼ一日で読んでしまいました。やはり優れたミステリには中断を許さない引力があります。 本作の凄さは、メインである前代未聞の超アリバイトリックにあることは言うまでもありませんが、そのトリックを補完する枝葉の設定の練り込みも見逃せません。 綾辻以降、多くの作家が様々な「館」と、それにまつわるトリックをこしらえてきましたが、綾辻の成功におんぶにだっこして、「館ものだから、ちょっとくらいのご都合主義は許されるだろう」という甘えを意識したような作品が少なくないと思うのは、私だけでしょうか。 綾辻は徹頭徹尾、設定にこだわります。「そこは『お約束』でいいでしょ」と流してもよいところにまで手を抜きません。かくも細かに手を入れられた末、「時計館の殺人」は完成したのです。まるで実際に「時計館」という建物を設計する建築士のようです。 本家綾辻がここまでやっているのですから、フォロワー作品を書く作家には、「そこには触れないのがお約束でしょ」などと逃げずに、真剣に、実際に「○○館」を建築する心づもりで作品作りに当たってほしいと願います。 このメイントリックは、本作以外では決して使われようがないオンリーワントリックのため、綾辻はこれでもかと、このトリックに対して考え得る設定、ヒントを盛り込みました。カップ麺、レコード、カメラ、時計塔の針。読後、これらが意味していたことについて、「そういうことだったのか」と分かったときの納得感といったら、数あるミステリの中でも群を抜いているのではないでしょうか。 本作で数少ない不満点を上げるとするなら、犯人に対する、探偵島田の態度でしょうか。大いに同情すべき点はあるとはいえ、この犯人は、本来の復讐対象ではない人物も、トリックの露見を阻止するためという理由で殺しています。この手の殺人を犯した時点で犯人はただの殺人鬼に墜ち果ててしまうのですから、島田にはもっと厳しく犯人を糾弾してほしかったのです。 ただ、この「トリックが露見してしまう状況」というのが、このトリックをさらに際立たせるワイダニットのため(あの人物が秘密の通路を抜けて見た景色。どんなにか驚いたことでしょう)、綾辻はどうしても犯人にこの殺人を犯させたかったのでしょう。 数ある「館もの」(綾辻の「館シリーズ」だけでなく、フォロワー作品も含めて)の中で、私が知る限りの最高傑作と自信を持ってお勧めできます。 |
No.125 | 6点 | 貴族探偵対女探偵 麻耶雄嵩 |
(2016/10/05 12:20登録) あの「貴族探偵」にライバル登場? と思いきや、さにあらず。 もっとも、ラノベの主人公よろしく完全無欠、女性にモテモテで向かうところ敵なしの貴族探偵相手に、対等なライバルなど存在が許されるはずもなく、新登場の「女探偵」は徹頭徹尾貴族探偵の後塵を拝する目に遭わされます。設定では、他にはまともに難事件を解決している実績があるようですが、「本当か?」と疑ってかかりたくなるみじめさ。 いいちこさんの書評に書かれているとおり、「まず、女探偵が必ず貴族探偵を犯人に名指しする」というお約束があるため、(それを成立させるために作者は大変な苦労をしているとは分かるのですが)トリックや推理が極めて人工的な、推理パズルのような様相を呈しているのは仕方がないのですが、ちょっと残念です。 一編上げるなら、やはり「幣もとりあへず」ですね。変化球(麻耶にとってはこれが直球?)で攻めるこの作品。うん、確かにどこにも嘘は書いてない…… それにしてもこの「貴族探偵」シリーズ化されているということは、人気があるのでしょう。単に麻耶ミステリとしての需要なのか、それとも、「貴族探偵」自体にファンが付いているのか。貴族探偵というキャラクターを好きになるのって、どういうファン層なんでしょう? やっぱり女性に人気があるのかなぁ? |
No.124 | 7点 | 人形館の殺人 綾辻行人 |
(2016/10/04 17:03登録) 「館シリーズ」の異色作として有名な本作。異色作というか、最後まで読むと「外伝」といってもいいような内容で、大きく評価が分れてしまうのは致し方ないでしょう。内容も、「ミステリ」というよりは「サスペンス」に近く、最後に明かされる主人公の秘密もそれに拍車を掛けています。 問題の主人公の秘密については、「それがありなら、何でもありだろ」と言いたくもなってしまいますが、綾辻もそこは当然気にしていたでしょう。必要な場面以外は、基本、主人公の一人称視点で描くことで、読み手と主人公を同一化させ、驚きの効果を最大限引き出しています。 特に、クライマックスの「島田潔」が登場する場面と、その顛末は、頭をぐらり、と揺さぶられるような感覚を憶えるでしょう。「一人称」で書き続けてきた効果が、ここで爆発します。加えてここで、「中村青司の館、イコール、秘密の抜け穴」という「館シリーズ」だけに許されたトリックが、読者(と作中の人物)を翻弄します。このトリックを検証する場面の真相のやるせなさったらありません。綾辻はこの「禁断のトリック」の使い方を完全に熟知しています。さすがです。 私は「館シリーズ」は、どれから読んでも大丈夫な、それぞれが独立した作品だと(作品としては実際そうなのですが)思っていました。(テレビゲームの「ロックマンシリーズ」のように、どのステージから攻略するかはプレーヤーの自由。みたいな)そのため、第一作「十角館」の次に、何を血迷ったか、この「人形館」に手を出してしまい、「出て来ない画家の名前とか、いやに強調してくるなぁ」と妙に感じながらも同時に、「何だこれは。ミステリかこれ? 思ってたのと違うぞ」と非常に困惑した記憶があり、個人的に大変思い入れ深い作品です。 |
No.123 | 8点 | 迷路館の殺人 綾辻行人 |
(2016/10/03 15:54登録) 本作「館シリーズ」第三弾は、一作目「十角館」の驚きと、二作目「水車館」の本格風味を混ぜ合わせたようなハイブリッド作品に仕上がっています。 始まりからおしまいまで、様々な形のトリックがふんだんに使用され、「作中作の解決」「作中作の外の解決」「作中作の作者の謎」と、多段階的に謎が解明されていき、最後の最後まで気を抜けません。 中でも、先中作に仕掛けられた例のトリックは、読者を驚かせるため、というメタ目的だけではなく、作中にそうした記述をする理由がきちんと説明されていることに好感が持てます。 そして本作で、作者綾辻は、「館シリーズ」だけに使用が許された掟破りの手段の確立に成功します。その手段とは、ずばり、「中村青司が建てた建築物だから、隠し通路があってもおかしくない」という、本格ミステリとしては前代未聞の、「隠し通路容認トリックの使用」という大偉業です。 だからといって、綾辻が「実は隠し通路でした」などという安易な使い方をしないことは言うまでもありません。「隠し通路」があるからこそのトリック。それを見破る論理というものを出してきます。「転んでもただでは起きない」というのとはちょっとニュアンスが違いますが、「隠し通路が使えてもただでは使わない」ミステリ作家綾辻行人の矜持がここにあります。 他のレビュワーの方々が言われる通り、「首切りの論理」における「血の扱い」のくだりで、真相のディスカッションが一切行われないというのは、読み返すと違和感を憶えます。(我々読者と違い、作中の人物は、「あの人物」が「実はああいう属性である」という事実を認識しているわけですから、特に) ですが、それを差し引いても本作が抜群に面白く、驚きに満ちた本格ミステリであることに疑いはないと信じます。 |
No.122 | 6点 | ら抜き言葉殺人事件 島田荘司 |
(2016/09/27 12:16登録) 文化庁が行った2015年度の世論調査で、「ら抜き言葉」を使う人の割合が、調査以来初めて多数派になったそうです。 この調査が始まったのが1995年。本作の出版はその前年の1994年で。そして、私が古本屋で購入して忘れていたこの本を発掘したのがつい最近と、なにやら因縁めいたものを感じ読んでみました。 さしたるトリックのないタイプのミステリですが、さすが島荘の筆力で飽くことなく読ませてきます。圧巻なのはやはり、作中の読者と作家の書簡と誌面での応酬で、そのタイトルから、ほんわか脱力系ミステリ、みたいなものを想像していたのですが、すっかりやられてしまいました。(笑) 作品の根底にも、時代を反映した、非常にドロドロとした人の悲哀が描かれており、何とも、過ぎ去った昭和、に思いを馳せてしまいました。 それと、内容にまったく関係ないのですが、このカバーイラスト! 昭和感バリバリですが、本作の刊行は平成に入ってから。1994年は平成6年。まだ昭和の香りがあちこちに普通に存在していました。 |
No.121 | 8点 | 百蛇堂―怪談作家の語る話 三津田信三 |
(2016/09/24 09:23登録) 前作「蛇棺葬」の解説で作家の柴田よしきは、この二冊は「決して前編後編や上下巻というだけの関係ではない」と書いていました。 では何なのかというと、前作(という言い方は的を射ていないのですが)「蛇棺葬」は、本作「百蛇堂」のあまりに長大な作中作なのです。 前作と雰囲気は打って変わって、本作はいつものおなじみの「作家三津田信三シリーズ」の軽快な一人称の語りから始まります。この「作家三津田」の一人称の文は読みやすく、まるで目の前で語ってもらっているかのような分かりやすさで、すっと頭に入ってきて、私は大好きな文章です。 とある出版社のパーティーで三津田は、ある男を紹介され、彼の体験した恐ろしい話を聞くことになります。それが「蛇棺葬」で、この話は後に男の手により実際に原稿に書かれることとなります。この男こそ、「蛇棺葬」の主人公であった「私」です。 本作は「作家三津田シリーズ」の集大成といえる内容で、本作のテーマは「ホラー対ミステリ」です。「ホラー&ミステリ」は、まさに他の追随を許さない三津田の得意分野ですが、その二つの武器を打ち合わせてしまおうという、何とも贅沢な試みです。「マジンガーZ対デビルマン」です。 「ホラー対ミステリ」「因習対論理」「怪異対推理」この戦いに挑むのは、このシリーズで探偵役を務める飛鳥信一郎です。(三津田やもうひとりの友人、祖父江耕助も当然戦いに加わりますが)信一郎は密室からの人間消失の謎に明快な回答を披露しますが…… もうひとつ本作のテーマとなっているのは、「小説におけるホラー」です。 圧倒的に文章よりも映像のほうに分があるジャンルというものはあります。俳優が実際に五体を駆使するアクションだったり、空想ロボットなどのビジュアルが売りになるSFだったり、怪異を視覚的に見せられたり音で驚かせたり出来るホラーもそのひとつでしょう。 ここに三津田は「文章だけによるホラー」しかも「他の媒体では決して真似の出来ない形での怖さ」を見せて(読ませて)きます。 現実と虚構が折り重なった本作の拘りは徹底しており、それは最後の「主な参考文献」にまで及びます。 だからこそ、どうしても作中を跳び越えたメタ視点にならざるを得ない「解説」は本作には不要だったかなー? などとまで思ってしまうのです。(本作も担当した柴田よしきは、非常に楽しい解説を書いてくれたのですが) |
No.120 | 6点 | ダンガンロンパ霧切4 北山猛邦 |
(2016/09/24 08:50登録) 「密室十二宮」も残すところあと六宮。 タイムリミットまで猶予のない霧切は、「3」の「幽霊屋敷密室殺人事件」で顔を合わせた三人の探偵を呼び、それぞれがひとつの事件を担当することで、六つの密室の平行捜査、解決を提案する。 前の戦いでの敵(容疑者)が味方になり、それぞれが個別に敵に戦いを挑むという、ますます少年漫画っぽい展開に。 書店で見た背表紙の薄さから分かってはいたことですが、この「4」でも事件に決着はつかず、トリックが明かされる密室の数も二つだけです。 どちらも大胆なトリックで楽しめるのですが、次巻がいつ出るか分からない連続ものミステリを追い続けるというのはストレスが溜まります。 もうここまで来たら、完結してから一気読みしたほうがいいのかもしれません。 というわけで書評は「ダンガンロンパ霧切5」に続く! |
No.119 | 5点 | 蛇棺葬 三津田信三 |
(2016/09/20 19:22登録) 本作と続編『百蛇堂』からなるホラーミステリ巨編。 続編がある、と知らずに読んだら、最終ページに近づくに従い、「(残りページの厚みをチラ見しながら)おいおい、本当にあとこれだけで終わるのか?」と、非常な不安を憶えながら読んだであろうこと請け合いです。 三津田の作品は、「ホラー風ミステリ」と「ミステリ風ホラー」の二系統に分れるのですが、本作は恐らく後者です。「密室から人が消えた謎」といった、ミステリ要素に納得のいく回答は得られるのか? 書評は『百蛇堂』に続く! |
No.118 | 6点 | ダンガンロンパ霧切3 北山猛邦 |
(2016/09/20 19:13登録) 大掃除をしてたら出てきた。買ったの忘れてた。 人気ゲーム「ダンガンロンパ」のスピンオフミステリ第3弾。 「密室十二宮」という派手な煽りが帯に踊っていたので、漫画「聖闘士星矢」のように、十二個連なった密室を次々に解いて先を目指すような展開なのかと思っていたのですが、ちょっと肩すかしでした。 とはいえ、出てくる北山の十八番、物理密室トリックは大胆で読み応え(というか、図解での見応え)があり満足出来ました。 事件はこの巻だけでは終わらず、第4弾に持ち越しです。 というわけで、書評は「ダンガンロンパ霧切4」に続く! |
No.117 | 6点 | スラッシャー廃園の殺人 三津田信三 |
(2016/09/18 13:58登録) 作者得意のホラー風ミステリです。 文章と登場人物の台詞などから、早々と作品全体に仕掛けられたトリックが分かってしまいました。 私はもう、この手のトリックには引っかかりません。過去に痛い目に遭っていますから。 とはいえ、本作においてのこのトリックは、ただ単に読者を驚かせよう、というメタ目的だけでなく、作中にもきちんとした目的をもって使われています。そこのところの工夫は、さすがだなと思いました。 気をつけて読めば、あまりミステリに造詣の深くない方でも、トリックに気付いてしまう可能性がありますので(トリックに気付くということは、フェアに書かれているということですので、決して悪いことではないと思います)「驚きたい」という方は、あまり深く考えずに一気に読んでしまうことをお勧めします。 |
No.116 | 5点 | 異次元の館の殺人 芦辺拓 |
(2016/09/12 21:03登録) もっと複雑怪奇なものを想像していたのですが、要は「ループもの」 正しい答えを見つけるまで謎解きが繰り返されるという分かりやすい構造で、安心したやら、拍子抜けしたやらでした。 その都度導き出される答えは、「針と糸」の物理的密室から、虚言、入れ替え、考え得る限りのパターンが出し尽くされます。最終的な真実は、それら全てが収斂したともいえる、本格の鬼、芦辺拓に相応しい決定版なのですが、事件全体が凝った構造であるが故にこぢんまりとした、若干肩すかし的な感があることは否めません。 ここまでやったなら、最後まで思い切ってアクロバティックに、異次元が関与しないと実行不可能な超常的トリックを真相にしてもよかった気もしますが。 関係ないですが、私は「ループもの」を読んだり観たりするたびに、「正解にならなかった世界はこのあとどうなるんだろう?」ということばかり気になってしまいます。 物語の視点はあくまで主人公(語り手)の主観のみのため、「不正解(失敗)」の世界は途端に主人公の目の前から消えてしまいます。が、それはあくまで主人公の主観であって、例えば、海外旅行から帰り、海外の異国が自分の目の前から消え失せたとしても、その異国が消滅してしまうわけもなく、自分という主観がなくなっただけで、異国とそこに住む人々の生活は続いています。当たり前ですが。 本作の語り手、菊園が推理に失敗した平行世界では、真犯人が完全犯罪を成し遂げて悠々と暮らしているのかな。などと思いに耽ってしまいます。 |
No.115 | 6点 | サム・ホーソーンの事件簿Ⅳ エドワード・D・ホック |
(2016/09/11 22:13登録) 四作目ともなると、さすがに厭きが……「何だよ」と言いたくなるようなトリックも少なくありません。シリーズ的に中だるみをする頃なのでしょうか。 「偉大なるマンネリ」これは、往年の人気番組「クイズドレミファドン」の司会を務めた高島忠夫が、番組を指して表現した言葉です。決して自虐の発言ではありません。同じ事を続けることがいかに簡単そうで、実は難しいか。それを言い表した名言でしょう。 本シリーズもまさにこの言葉がぴたりと嵌ります。これだけの量の短編を、全く同じ舞台、登場人物で、しかも「本格ミステリ」という量産の効かなそうな題材で書き上げているというのは素直に偉業です。 とはいえ、「偉業」ではありますが「マンネリ」であることも変わらないわけで、一週間に一編くらいの頻度で読んだため、Ⅲから随分と間が空いてしまいました。 他の方のレビューの通り、ベストは何と言っても「革服の男の謎」でしょう。 サム医師と同行した男が、一緒に宿に泊まり朝になると消えていた。それだけならばいいのですが、宿の主人も、昨日会った二人の人物も、「サム医師はひとりだけだった」と証言してきかない。 証言者の三人が、それぞれの思惑で虚偽の発言をしたというのがいい。特に踏切番の男性の理由がうまいと思いました。 |
No.114 | 6点 | 虚構推理 鋼人七瀬 城平京 |
(2016/09/09 23:54登録) タイトルの「虚構推理」とはよく名付けたものでして、分かりやすく言えば「でっちあげ推理」とでもなるでしょうか。 「目の前で起きていることは正真正銘の怪奇現象なんだけど、どうすればこれを論理的に説明出来るか、考えようぜ」というのが本作の切り口です。 これはまさに、島田荘司の得意技の逆説バージョン、「掟破りの逆島荘」です。(違う) 適当に棚から引き抜いたものを購入して読む「ミステリロシアンルーレット」で選んだ一冊だったため、(読んでから知ったのですが、『名探偵に薔薇を』の人だったんですね)私は本作の構造を全く知らず、いきなりのラノベっぽいキャラクターと展開にちょっと面食らいました。 聞けば本作は漫画化されているとのこと。そちらのほうが絶対に合っています。 |
No.113 | 6点 | 武家屋敷の殺人 小島正樹 |
(2016/09/09 23:40登録) これが噂の、やりミス、こと「やりすぎミステリ」か! 講談社文庫版の解説によると、この呼び方は作者自身が言い出したものとか。 ……何だ。こういうのは自分で言ったらダメでしょう。 およそ幻覚を見たとしか思えない怪奇現象が羅列された日記を読んだ探偵が、「ここに書かれていることは全て事実だと考えよう」と、いきなり島荘イズム全開。さすが正当後継者(?) もう、「どこのページを開いても何かしらのトリックがある」トリックの金太郎飴状態。 あまりに「やりすぎ」なため、ラストの「どんでん返し」で初めて触れられる作中の違和感については、もうすっかり忘れてしまっていて、「あ、いけね! まだその謎が残ってた!」となりました。 読者も全ての謎をいちいち覚えていられず、いえ、把握出来ず、これは本当に、本来の意味とはちょっと違いますが「やられた」と感じました。 物量に、文字通り「物を言わせて」読者の記憶容量を圧迫してしまう。文庫本で600ページ近くという大作ですが、本作をお読みになる場合は、肝心なところを忘れてしまわないうちに一気読みをおすすめします。 とはいえ、やっぱりこの「出し惜しみなし」のサービス精神は凄いです。 なお、以前のレビュアーの幾人かの方が書かれていた、ワトソン役の、方言の残る喋り方は文庫版にて標準語に改定されています。 |
No.112 | 8点 | 法月綸太郎の冒険 法月綸太郎 |
(2016/08/22 11:01登録) 「死刑囚パズル」 久しぶりに本書を再読して、まずこの一編。「こんなに辛気くさい話だったのか」と、過去に読んだときとは印象が全然違っていました。「死刑直前の死刑囚をわざわざ殺さなければならない理由とは何か?」にだけ焦点を絞った、もっと明朗快活なパズラー(もちろんこの評は全く当てはまりますが)だった記憶がありました。本書後半の「図書館シリーズ」での探偵綸太郎のイメージで上書きされてしまったのでしょうか。 作品の雰囲気はともかく、丁寧で論理的なミステリであることに変わりはなく、非常に完成度の高い作品です。こういうのを「本格ミステリ」というのだなぁと、読後にため息が漏れました。 個人的には、捜査の途中で綸太郎がボタンを押すところが好きです。この行為の結果を見るに、まるで神の采配かのように、犯人の想いは無駄にならなかったのかなと。切ないながらも、ある種のハッピーエンドといえる物語なのではないでしょうか。 「黒衣の家」 ブラック落ちの一編です。 「誰がやったのか?」「どうやったのか?」を推理させながらも、最後に明かされるのは、恐ろしくも切ない「ワイダニット」でした。 「カニバリズム小論」 前代未聞の食人の理由もですが、そこに至る蘊蓄も面白いです。最後にちょっとした落ちも用意されており、サービス精神満点の一編です。 「切り裂き魔」 ここから問題の(?)図書館シリーズに突入。ミステリファンならば、この犯行動機には情状酌量の余地ありとしてくれるでしょうが、普通は司書に申し出ますよね。 「緑の扉は危険」 本書収録の図書館シリーズで唯一殺人が起きます。被害者の奥さんが蔵書の寄贈を断った理由。被害者の言い残し。それにより導き出される密室トリックの真相。全てが見事に決まった快作です。タイトルもかっこいいです。 「土曜日の本」 私は本作のもとになった競作集を読んでいないため、他の作家さんとの比較は出来ないですが、題材をメタに取り込んで仕上げた、さすが法月といった一編でした。肝心の大元の謎が解かれないのは、本作がメタ作品だから許されます。 題材の真実は、本当にゲームセンターあらし(炎のコマとかを使う人じゃない)だった可能性が高いでしょう。 「過ぎにし薔薇は……」 「そこまでするか?」と言いたくなってしまいますが、切ない犯行動機の一編で最後を飾っています。 初読時のベストは何と言ってもやはり「死刑囚パズル」だったのですが、今回再読してみて、ベストは「緑の扉は危険」に変更しました。好みの変化なのでしょうか。「緑の扉が開かない謎」が解明されると同時に、全ての言動の謎が氷塊する一発逆転に爽快感を覚えました。 私はいわゆる「日常の謎」系のミステリを読むのは得意としないのですが、法月の図書館シリーズは別でした。普段、殺人犯相手にガチな探偵を行っている綸太郎が、たまに息抜き的に日常の謎に携わる。恐らくこのギャップに惹かれたのです。 しかし、自分と同名の探偵に作中で異性に恋慕させるとは(地の文で綸太郎が穂波に惚れているということを明確にしてしまって)、これを書いていて法月先生は随分と面はゆかったのではないでしょうか。(同じ、探偵と作者が同名のクイーンは、ご存じの通り二名の合作ペンネームですので、そういった面はゆさはなかったのでしょう) 我が身を削って(?)読者を楽しませてくれる法月先生はプロ中のプロです。私、大好きです。 |
No.111 | 7点 | そして名探偵は生まれた 歌野晶午 |
(2016/08/19 20:47登録) 「そして名探偵は生まれた」 メタミステリというか、「リアル名探偵もの」です。ミステリ作家はやはり誰しも、こういったテーマには一度手を出してみたくなるものなのでしょうか。 リアルと虚構に折り合いはつくのか? 藤子不二雄の怪作「劇画オバQ」を思わせる作品。(…って、前にもこんなこと書いたな) 「生存者、一名」 「孤島もの」の宿命である、「閉じ込められた理由」と「外界と連絡を取れない(取らない)理由」に一石を投じた意欲作です。こういう設定の孤島ものは初めて読みました。 サスペンス的展開になっていった辺りから、「これは推理や予想しながら読むともったいない」と思い、文章を受け入れるがままに読んでいったためか、私はかなり楽しめました。 「館という名の楽園で」 「そして名探偵は生まれた」に続くメタミステリもの。 本作のポイントは、「館の見取り図がきちんと製図されたものでなく、作中の登場人物が描きなぐった(という設定の)ラフ画がそのまま使われている」というところです。この館の見取り図を綾辻作品のようなメタ視点からの「製図」にしてしまうと、アンフェアになってしまうための処置です。こういう心配りは、さすがだなと感じてしまうのです。 「夏の雪、冬のサンバ」 他の方の書評にもありましたが、さすがに傾きすぎ(笑)地盤沈下や事故でそうなったというよりも、わざとやってるレベル。 最後、探偵が一杯食わされるところなんかは好きです。 全4編。バラエティに富んだ力作揃いの一冊でした。 |