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ミステリの祭典

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アイス・コーヒーさんの登録情報
平均点:6.50点 書評数:162件

プロフィール| 書評

No.122 7点 美濃牛
殊能将之
(2014/08/08 10:36登録)
著者第二作にして石動戯作が登場するシリーズ第一作。美濃の小さな村を舞台に一家殺人を描くという、いかにも横溝正史な設定が特徴。

700ページを超える超大作になっているのは恐らく各人物ごとの視点に立った、徹底した情景・人物描写によるものだろう。これのおかげでキャラクターの個性は細かく表現され実に活き活きとしているし、小説としてのエンターテイメント性は極めて高い。
また、一見脱線に見えるようなシーン一つ一つに伏線が隠されていて実に面白い。それによって導き出される真相も中々驚きのあるものだった。
正史へのオマージュは物語の展開から真相に至るまでそこら中にちりばめられていて、特にメイントリックは代表作のアレを見事にひっくり返している。未読の方はその目で確かめて頂きたい。
ところで、本作の裏テーマになっているのが引用である。各章の冒頭に配置された膨大な数の引用は実に的確で笑えるほどだ。引用元も海外のマイナー作家から日本の歌謡に至るまで様々。本編自体は衒学趣味に満ちている訳ではないが、殊能氏の博識は誰の目にも明らかだ。これで「不勉強」とは…。
「ハサミ男」のアクロバティックさはないが、とにかく面白い本。従って一つ一つの文章を面白がりながら読むのが得。


No.121 9点 夏と冬の奏鳴曲
麻耶雄嵩
(2014/08/08 10:13登録)
本格ミステリ界の異端児にして数々の問題作を世に送り出してきた著者の、最大の問題作にして最高傑作とも呼ばれる第二作。シリーズ探偵のメルカトル鮎、後の作品に登場する如月烏有たちが登場する孤島クローズド・サークルものだが…。

「翼ある闇」をはるかに凌駕するスケールと(色々と)驚愕の結末で賛否両論、空前絶後の問題作だ。700ページを超える分量を読まされてあの結末では確かに怒り出したくもなるだろう。
キュビズムに関する膨大な説明、謎に包まれた如月烏有と舞奈桐璃の過去、真宮和音と彼女を信仰する人々の狂気…そして雪の密室と連続殺人が重なる展開は前作に引き続き装飾過多だ。文章も長ったらしくて目障りではある。
しかし、古今東西の本格に対するオマージュも随所に見受けられ、麻耶氏が正統派の血を受けたうえでこの本を執筆していることも察することが出来るだろう。ペダンチズムも全く関係のないわけではなく、むしろ本編に深く関わってくる。
雪密室の真相は「翼ある闇」の首切りをですら可愛らしく見えるほどのとんでもないもので、最早まともな解決を期待する方が間違っているように思えてくる。これから読むという物好きな人物もその点に注意しなければいけない。
そして、メルカトルのもたらす「解決」とは…。もう一歩で見事に「本格ミステリ」らしい結末を迎えるというのに敢えて拒否していく天邪鬼な姿勢には、まさしく本作の主題が現れているように思う。背後から迫る底知れない狂気と本格ミステリの存在意義を、見事に掛け合わせた傑作と表現することもできる。一方でわけのわからない御託を並べて装飾しただけハリボテとも云えるだろう。
これまたネタバレになってしまうので深くは語れないが、本作の評価はそのハリボテの背後に何を感じるかで変わってくるだろう。何も感じなければ最低最悪の烙印が、何かを感じれば世紀の大傑作の賛辞が。
たとえ訳が分からなくとも、自分なりに本作のことを考えてほしい。その上で何も感じるところがなかったのなら、それはそれで一つの感想だろう。私的には後世に伝える価値のある名作だと思っている。


No.120 6点 死なない生徒殺人事件
野崎まど
(2014/07/21 15:40登録)
「永遠の命を持つ生徒」が殺される、というパラドックスを描いた作品。その内容はかなり非現実的なものではあるが、一方で推理小説的な解決を持たせる興味深い作品だ。
首切り殺人のホワイダニットやフーダニットは地味で新鮮味はない。しかし、メインテーマとなる「不死の疑問」については実に納得の真相が提示されていて驚かされた。しかし、ここまで来るとホラーのレベルだな~とも思う。
また、思わぬ伏線やミスディレクションも随所に配置され極めて密度の高いミステリだ。まさか受村先生のアレまで…。
唯一疑問に残ったことは不死を証明するために識別がわざわざ図形を書いていたことで、それはあんまり関係ないような気が。結末の意外性を高めているとも云えるけど…。
ところで、本作のテーマは「教育」なのか?


No.119 5点 リロ・グラ・シスタ
詠坂雄二
(2014/07/21 15:28登録)
独特の文体と本格ミステリ的な趣向が特徴の詠坂雄二のデビュー作。一人称ハードボイルドの高校生が、「名探偵」として学校で起きた殺人事件の捜査をする異色の一冊だ。
トリックは使い古されたもので、核となる「あるテクニック」も前例があるものだ。ある程度読み慣れた読者にとっては、あまり意外性はないだろう。しかし、その組み合わせの巧みさやストーリーの独創性は十分評価に値する。
何より一見乱雑に見えるトリックがそれぞれ連動しているところが凄い。本作ではあまり美しく作動していないが、今後進化する可能性は大いにあるだろう。
残念なことに、真相が分かった後になっても物語の歪さは残る。ハードボイルド調の文体が目障りでもあるし、あまりにも非現実的で著者の云わんとするところがよく分からない。これが致命的な欠陥となっている。
詠坂氏の作品が気になったので、文庫化された他の作品も読みたいと思った。
(ふと気になって買ってみた本書だが、丁度ここ最近連日感想が書かれているので驚いた)


No.118 6点 ミステリマガジン700 国内編
アンソロジー(国内編集者)
(2014/07/21 14:04登録)
ミステリマガジン700号を記念したアンソロジー、国内篇。
時代とジャンルを越えた傑作短編が集められていて、マガジンの歴史の長さを感じる。
鮎川哲也「クイーンの色紙」のような日常の謎ものの秀作や、ミステリを題材にした詩である田村隆一「死体にだって見おぼえがあるぞ」のように個性的な作品が並んでいて飽きさせない。
最近の作家も活躍し、中でも結城充考「交差」や原尞「少年の見た男」は力量を感じる作品だった。
以前から読みたかった作家の作品も数多くあり、読んで損はない一冊だった。


No.117 7点 メルカトルかく語りき
麻耶雄嵩
(2014/07/20 12:52登録)
メルカトルと美袋による連作短編集。どれも破壊的なトリックと結末が仕掛けられた異色作だ。
「メルカトルと美袋のための殺人」に比べると各々のストーリーの奇抜さは薄れるが、一方短編集としての完成度は高くなっている。中でも気に入ったのは「九州旅行」だが、ロジックの独創性としては「収束」も傑作。
読み終えてみると、つくづくメルが「真相を究明する名探偵」ではないことが分かる。作中で本人が語っている通り「不条理を不条理でなく」する「銘探偵」なのだ。(「答えのない絵本」では必ずしもそうとは云いきれないが。)
「死人を起こす」でも「答えのない絵本」でも、メルは自分の依頼に関して最前の解決を導いている。彼にとって真相を究明することが解決なのではなく、事態を収束させることが解決なのだ。そのためには手段を選ばないし、納得のいく結末も放棄する。
また、相変わらずロジックに重点が置かれているところも好感が持てる。内容が内容だけに気やすくおすすめ出来る本ではないが、メルカトル入門書としては悪くない。


No.116 5点 クビキリサイクル
西尾維新
(2014/07/15 19:40登録)
メフィスト賞を受賞した西尾維新のデビュー作。孤島を舞台にした首切り不可能犯罪を描く、「戯言」シリーズ第一作。
舞台となる鴉の濡れ羽島にはあらゆる分野の「天才」が集められ、そんな中で事件は起きる。ただ私は、あまりにも個性的な彼らのキャラクターが馴染めなかったというか、世の中実際に非常識な「天才」がいるものだからウンザリしてしまった。主人公の「いーちゃん」による文章も「戯言」塗れで回りくどく、読んでいて嫌になる。
また、肝心の首切りトリックは珍しいものだったが、犯人特定はある部分から簡単に分かってしまう。その点にもう少し重みをもたせてほしかった。ミステリは水準レベルだろうか。
ところで、ラノベは作者自身の感情を表現する手段としては間違っているように思う。あまりにも独りよがりで、残念なだけだ。本書がそうだとは云わないが、物語の内容や語りをもう少しコントロールして欲しかった。


No.115 7点 眼球綺譚
綾辻行人
(2014/07/12 18:56登録)
ホラー作家としての綾辻行人による短編集。それぞれの作品には一応繋がりがあるようだが…。所々グロテスクなので多少読者を選ぶ。

巻頭の「再生」がやはり最も印象に残った。途中で展開がある程度読めるのは仕方ないが、それでも読後の戦慄は本物。底知れない狂気がヒシヒシと伝わってくる。
「呼子池の怪魚」「人形」などは中々意味深長な内容。ホラーというより、それこそ奇譚の名にふさわしい作品だろう。余韻のある締めくくりもよく出来ている。
「特別料理」「鉄橋」は面白かったが、内容にもう一工夫欲しいところ。
表題作は、本当の意味で怖い。実に作者らしい話というか。作中作の使い方も巧い。しかし、眼球であることの意味は…?
風間賢二氏の解説みたいに深読みすることなく読んだ自分ですが、十分楽しめました。


No.114 6点 孤島パズル
有栖川有栖
(2014/07/12 18:35登録)
学生アリスシリーズ第二作。英都大学推理小説研究会の新入部員マリアの別荘がある嘉敷島へやって来た、江神とアリス、マリアが島に秘められた謎と殺人事件の真相を追う。

メインとなるのはフーダニット。さりげない伏線から精緻なロジックによって真相を導き出すやり口は文句なし。ただし、犯人の意外性はなかった。物語の構成上仕方のない事ではあるが。
密室殺人まで発生するものの、トリック自体に新鮮さはなかった。ここの部分にはもう一工夫欲しいところ。
いい意味でも悪い意味でも若さを感じる一冊。ストーリーの瑞々しさには好感が持てる。江神探偵も相変わらず魅力的だ。
「月光ゲーム」「双頭の悪魔」もまた読みたくなった。


No.113 6点 私たちが星座を盗んだ理由
北山猛邦
(2014/07/11 22:43登録)
最後の一撃をテーマにしたノンシリーズ短編集。
印象に残ったのは表題作「私たちが星座を盗んだ理由」と、「妖精の学校」。どちらもダイナミックな仕掛けが施された傑作だ。天体や星座が好きな自分としては、表題作のトリックは何とも云えない感動があった。後者は伏線の凄まじさに驚愕。どちらも、ほのぼのとした平和な筋書きでありながら、スパイスを利かせてくるところが見事。
その他、器用なテクニックで読者を欺く「恋煩い」や、ありがちな構図でありながら少し哀しい「嘘つき紳士」、奇妙な余韻を残す「終の童話」など異色の力作が並ぶ。

「物理の北山」的物理トリックは見受けられないが、本作の童話的世紀末的世界観は北山氏にしか書けないものだ。


No.112 8点 幻の女
ウィリアム・アイリッシュ
(2014/07/11 17:35登録)
妻殺害の疑いをかけられた男が、アリバイを証明してくれるただ一人の人物「幻の女」を追っていくが…。

サスペンスとしては、ストーリーの完成度の高さ、タイムリミットが迫る中でのスピード感、そして都会的な雰囲気が調和してかなり面白いものになっていると思う。出版から半世紀以上たった今でもその魅力が褪せないというのは、一定の評価に値するだろう。
ミステリーとしての工夫は、よくあるもの。幻の女の正体も…。ただ、そこがまた皮肉の利いたラストに繋がっていて、本作の印象をより強いものにしている。
途中出てくるロジカルな推理もよく出来ていた。伏線も見事に回収され、結末にも納得。

未読の方には是非読んでもらいたい一冊。決して損はしないはず。


No.111 6点 コフィン・ダンサー
ジェフリー・ディーヴァー
(2014/06/29 12:31登録)
シリーズ第二作にして、四肢麻痺の科学捜査官リンカーン・ライムが最強の殺し屋として知られるコフィン・ダンサーと戦う。
ストーリーはよく出来ていて、登場人物たちも魅力的。結末の意外性も抜群だった。また、最大の見どころであるライムとダンサーの熾烈な頭脳戦は実に面白く、読者を惹きつける。
内容は「ボーン・コレクター」からさらに進化を遂げている。前作で気になったご都合主義的設定は大幅に少なくなり、事件の真相も納得のいくものだった。
ただ気になったのは二点。一つは、一連の事件の犯人がコフィン・ダンサーであるという根拠が薄弱な点。かなり冒頭でダンサーが動き出しているから犯人に違いない、という描写がさらりとあるだけだ。しかし、これは物語の進行上やむを得ない事だったのだろう。
二つ目は、パーシーが強引に飛行機を飛ばしたこと。色々と理由は書かれているが、それでもなお「いくらなんでもないだろう」という思いは払拭されなかった。これまたストーリー上最重要なシーンの一つなので、一層残念。
しかし、全体としてはかなり楽しめる。さすがディーヴァーとしか云いようがない。


No.110 8点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2014/06/21 18:33登録)
マジキ・クラブなるアマチュア奇術クラブを巡って起こる、奇術にまつわる見立て殺人を描いた本作。最初から最後までまさに奇術尽くし。
見どころはやはり作中作「11枚のとらんぷ」だろう。奇術に関するトリックを小説風にまとめた短編集というこれは、各々が面白くてよく出来ていた。確かに実演は難しそうだが、そこが推理小説においての騙しの面白さだろう。
本筋の物語では、この作中作を見事に利用して殺人事件の真相を解き明かしていく。張り巡らされた伏線といい、犯人当てのロジックといい、本格ならではの楽しさが堪能できる。
しかし、重要な役割を占める作中での奇術のトリックなど、視覚的なイメージが思い起こせないと分かりづらい部分があり少し残念だった。(この問題は「しあわせの書」にて克服される。)
著者のマジシャンとしての才能を存分に発揮し、凝りに凝って書かれたという点で、驚くべき作品。そして、ユーモアも忘れない著者には感服。


No.109 7点 日本殺人事件
山口雅也
(2014/06/21 18:19登録)
日本推理作家協会賞を受賞。パラレルな現代日本が描かれる作者らしい挑戦的な作品だと感じた。
『薔薇の名前』を思わせるプロローグの設定からして胡散臭い。そして肝心の事件、真相に至ると…嫌いな人にとことん罵倒されるタイプの作品だろう。
連作中編の形態をとっているようだが、どの作品も目新しいトリックはない。また、著者の『生ける屍の死』のように特殊設定を応用したロジックなども登場しない。一見、駄作に思えるかもしれない。しかし、本作の見どころはそこではない。各々の事件の背景にある「日本人的な事情」こそがメインテーマなのだ。
詳しくは書かないが、山口氏は現代において失われつつある日本人のアイデンティティを、本格ミステリという形で表現している。題名通り、それぞれのストーリーは日本でしか成り立たないであろう「日本殺人事件」。極端な世界観だからこそ見えてくるものがあるのだ。
そういう意味で、発想の勝利ともいえる一冊だ。


No.108 6点 珈琲店タレーランの事件簿3
岡崎琢磨
(2014/06/21 18:05登録)
シリーズ第三作にして初の長編。珈琲店タレーランの切間美星がバリスタの大会に参加し、そこで起こった事件に巻き込まれていく。結局美星とアオヤマの関係には進展がなかったような…。

そもそも日常の謎をテーマにしたシリーズで、長編にするにはネタが不足気味だと思った。本格ミステリ的趣向はあり、ロジカルな推理も比較的よく出来ているとは思ったのだが少し展開が退屈。
一方、不可能を可能にしていくトリックはスタンダードだがよく出来ている。特に食紅のアレは(色々と)衝撃的。
安定の面白さはあるが、もう一歩インパクトが欲しい。同系統の他の作品とは違った「何か」があれば、と思う。ストーリーの発展も含め、次回作に期待。


No.107 8点 隅の老人 完全版
バロネス・オルツィ
(2014/06/21 17:47登録)
作品社かた出版された本作は、世界初の『隅の老人』完全版。日本で紹介されていなかった何作かに加え、そもそもある理由により単行本に収録されなかった「グラスゴーの謎」も翻訳されている。
ただ、単行本2段組みで600ページ超という圧倒的なボリュームで、図書館の貸出期間内に読み終えるのは中々大変だった。

隅の老人は、シャーロック・ホームズのライバル格として登場した名前の公表されない探偵。尚、彼は安楽椅子探偵ものの代表として語られることが多いが、実際にはそうでない事は「検死審問」や「裁判」で積極的に傍聴する描写から分かる。
また、創元推理文庫の『隅の老人の事件簿』は単行本から翻訳しているようだが、完全版では掲載雑誌から直接訳している。これにより、短編集『隅の老人』掲載作中での三人称の語りが元来一人称であったことや、老人の話を聞かされる婦人記者の名前(設定上はポリー・バートン)が本来登場しないことなどの事実が判明した。
他にも様々な発見があり、感心させられた。画期的な一冊といっても過言ではない。

さて、物語について。隅の老人が婦人記者に事件のあらましを語った後に、自らの推理をひけらかすという一連の流れは全作品に共通している。従って、話がマンネリ化することは避けられないのだが、そんな中でも面白く読めたのは新鮮な驚き。展開やトリックが使いまわされることもあるが、全体に貫かれたロジックは比較的固く完成度は高い。
初期の「フランチャーチ街駅の謎」「フィルモア・テラスの盗難」「地下鉄怪死事件」などはトリック、プロットともによく出来ている。そして異色作の「パーシー街の怪死」より後はご当地ミステリが続く。ダブリンにまで足を延ばすのだから、老人の野次馬根性は相当なものだ。
『ミス・エリオット事件』収録作の中では「シガレット号事件」「誰が黒ダイヤモンドを盗んだのか?」などが良作。(「シガレット号事件」と「アルテミス号の運命」は題名こそ似ているが、片方は馬の話でもう片方は船の話だった。)
第3短編集『解かれた結び目』は隅の老人の復活編。トリックは使いまわしが多いものの、ストーリーに工夫が感じられるようになった。

巻末の詳細な解説も興味深いものでとても満足。


No.106 5点 雪密室
法月綸太郎
(2014/06/14 18:59登録)
著者第二作にして名探偵・法月綸太郎初登場作。その名の通り「雪の密室」がテーマとなる。

トリックは定番中の定番であり、工夫は感じられるが驚きはない。ストーリーもまだまだ描き足りないところはあるように思った。新本格ならではの欠点が良く目立つ。
しかし、個人的には決して嫌いじゃない。法月警視の苦悩や、事件の裏にある暗い過去、そこから著者自身の苦悩が感じられて驚いた。あとがきにある「法月警視自身の事件」という副題が、ぴったりだ。「密閉教室」とはだいぶ印象が異なるものの、本作もまた作りこまれている。
他にも、真相に至るまでの論理や綸太郎の捜査手法など、見どころは多い。今後も法月氏の著作を読んでいきたい。


No.105 6点 風ヶ丘五十円玉祭りの謎
青崎有吾
(2014/06/14 18:36登録)
県立風ヶ丘高校に住むダメ人間、裏染天馬が探偵役を務めるシリーズ初の連作短編集。
テーマが日常の謎だけに、肝心のロジックには強引さが生じるものの全体としては中々よく出来ていた。長編ではあまり描かれなかったキャラのアナザーストーリーもあり、次回作(図書館の殺人?)への期待が高まる。
ミステリとしては「天使たちの残暑見舞い」や「その花瓶にご注意を」あたりが面白かった。
前者は二人の女子高生が、一見不可能に見える状況で消失するもの。トリック自体は何とも言えないが、残暑の設定をうまく活かしている。
後者は、天馬の妹・鏡華が活躍する。真犯人との論破合戦が見どころだが…いまだに彼女のキャラがよく分からない。仙堂警部の娘・姫毬も登場する。
他にも、夏の風ヶ丘を舞台にした作品が並び、中々楽しませてもらいました。


No.104 5点 波形の声
長岡弘樹
(2014/06/14 18:08登録)
ノンシリーズ短編集。どれもラストに皮肉を持ってくる、少しブラックな内容だった。
ただ全体的に面白みがなく、これといって印象に残った作品もなかった。よく出来ているとは思うのだが…。
表題作「波形の声」カニの前歩きに始まり、様々な珍事件が連発するが…このトリックは実現できるのだろうか?
「宿敵」はどちらが若さを保てるか競い合う二人の高齢者の話。真相は確かに意外だったが、それ以上のものは感じなかった。
「わけありの街」こちらは真相が早いうちに分かってしまうが、被害者遺族の悲しい現実に心を打たれた。
「暗闇の蚊」ブラックユーモアと日常の謎の融合だが、もう一工夫欲しかった。次の「黒白の暦」もそうだが、ストーリーにひねりが感じられない。
「準備室」冒頭の自殺はあっさりスルーされ、淡々と進んでいく物語に違和感を感じた。
「ハガニアの霧」幻の名画を巡る騒動。スケールは大きいが、従来の日常の謎と何ら変わらない。
人物の描き方や、ストーリーの持って行き方は器用だが全体的に物足りない印象を受けた。「教場」のような、独特の雰囲気・設定を持っている作品の方が私的には面白く感じる。


No.103 6点 殺意の構図 探偵の依頼人
深木章子
(2014/06/14 17:52登録)
自分の義理の父親・峰岸厳雄宅に放火し、彼を殺害したとして逮捕された峰岸諒一。現場のあらゆる証拠が彼を指し示す中で、弁護士の依田は慣れない刑事裁判での弁護を依頼されるが…。

元弁護士の作者が、「峰岸家」を巡る一連の殺人事件を描く。複雑に交錯した殺意が分解され、ことの真相が明かされる様はまさに圧巻。大がかりなトリックや奇抜な設定はないものの、全体の完成度は高かった。
特に、各章での演出や伏線、ロジックによる犯人の特定などは見事。本格要素を前面に押し出しつつ、特異な真相を描き出す手法は鮮やかだった。さすが、裁判の展開もよく出来ている。
難点は、やはりこれといった特徴に欠けること。もう一息、何かインパクトが欲しいところだ。ストーリーも、もう少し工夫して欲しい。

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