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ミステリの祭典

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平均点:6.17点 書評数:333件

プロフィール| 書評

No.213 5点 シャーロック・ホームズの回想
アーサー・コナン・ドイル
(2020/07/23 12:32登録)
ホームズの初解決事件(『グロリア・スコット号』)、兄マイクロフトの登場話(『ギリシャ語通訳』)、一度はホームズシリーズの締めを飾った『最後の事件』などホームズファンなら必読な短編集。
このようにキャラものとして優れる一方、ミステリ的に尖ったギミックは少なく、ホームズに入れ込んでいない読者にとっては凡短編集という印象。


各話の書評

・白銀号事件(6点)
犬が吠えなかった事実から犯人を絞るのは、これぞミステリ世界の探偵が披露する推理という感じで嫌いじゃない。一方、羊の足の件はあまり上手い伏線と思えなかった。

・黄いろい顔(6点)
珍しくホームズの読みが外れる展開。ラストのホームズの台詞
「これからさきもし僕が、自分の力を過信したり~、ひとこと僕の耳に、『ノーバリ』とささやいてくれたまえ。」
は、幾分かっこつけな台詞だが、ホームズくらい失敗の少ないキャラが言うとばえますね。
比較的コンパクトにまとまっており、割と好きな話。

一つ気になったのは、冒頭でホームズの失敗記録例に『第二の汚点』が挙げられていること。『第二の汚点』って真相を見抜いたうえで、あえて見逃す話だったような・・・、記憶違いかしら?(現在手元に『シャーロックホームズの帰還』が無いので確かめられず。)

・株式仲買店員(5点)
第一印象は『赤髪組合』に似てるな、だった。(旨い話におびき出される依頼人から連想した。)上記のような焼き直し感が強いので、評価はまずまず。

・グロリア・スコット号(5点)
昔の悪事で脅される爺さんキャラは、ホームズ物に限らずちょいちょい登場するが、一話限りの爺さんの過去話なんて退屈な場合も多い。この話もJ・Aの過去話は退屈だった。
暗号が解かせる気のある良心的なものだったので、+1点で総合5点。

・マスグレーヴ家の儀式(5点)
この話の暗号は逆に簡単すぎで、わざわざホームズを出馬させなくても解けるレベル。(元々暗号じゃないしね。)
事件の顛末は予想通りで、微妙。

・背の曲った男(4点)
犯人不在の部屋から妙な動物の痕跡が発見されるという面白シチュエーション。しかし、忍び込んだ男がつれていただけで、動物自体にはなんの役割も無い。このような雑さが気になりイマイチ。

・入院患者(4点)
矛盾は無いが、小さくまとまっている感。何か工夫が欲しい。

・ギリシャ語通訳(5点)
ホームズの家族構成について言及する貴重な話なので、+1点してます。初登場の兄マイクロフトが大活躍するわけでもないのは、ある意味意表をついている?

・海軍条約文書事件(6点)
本短編集の中で一番好きな話。犯人に意外性は少ないものの、文書の隠し場所なんかはポーの『盗まれた手紙』のように、一工夫あり良い。犯人がベルを鳴らした理由(エレガントではないですが(笑))もスルーせずに説明しており、いい感じ。

・最後の事件(3点)
モリアティが雑にホームズを葬る話ということは聞かされていたが、想像よりも雑で、悪い意味でびっくりした。モリアティはぽっと出な上、作者が乗り移ったがごとく都合の良い先読みしてるだけ。「犯罪者中のナポレオン」と言われても・・・。
シリーズの中で重要な話なのは間違いないが、単体で見たら酷い出来だと思う。


No.212 6点 マスカレード・イブ
東野圭吾
(2020/07/23 12:25登録)
『マスカレード・ホテル』ファンに向けた続編(前作の過去話)。
本作(と前作)のテーマである「仮面」は、ミステリ小説と相性がいいので、私は本シリーズを気に入っている。というのも、読者が見ることが出来るのは、「年」も「性別」も「体形」も「名前」も「性格」も全て、作者が付けた仮面越しのキャラだからである。
キャラの仮面が取り去られ、素顔が暴かれる瞬間のカタルシスが好きなのよ。

最後に個人的な嗜好を述べる。普通の警察物の新田パートよりも、ホテルマンとして、少し変わった視点から仮面の下を覗く山岸パートの方がトリッキーで好き。


No.211 4点 こわれもの
浦賀和宏
(2020/07/14 00:32登録)
これまで浦賀さんはノーマークだったが、本サイトの掲示板で話題になっていたので読んでみた。

さて本作であるが、裏表紙のあらすじは魅力的で期待して読み始めた。
しかし、本編は売りが分からず、ワクワク感を維持できなかった。

・二転三転する最後の展開?
・メタ要素のある最後の里美の独白?

あたりが売りっぽいけど、どっちもパンチ力が弱いかな。キャラクター造形もステレオタイプな人物ばかりでイマイチ。

このように本作は、残念ながら私のハートに響かなかった。次読む浦賀作品(おそらくデビュー作)では作者の良さを掴みたいところ。


No.210 6点 レッド・ドラゴン
トマス・ハリス
(2020/07/14 00:28登録)
異常犯罪者を追う話としてはまあまあ。
しかし、『ハンニバル』でレクターというキャラクターにほれ込んだ私にとっては、本作はレクター博士成分が不足している。
決定版の巻末には、レクターの出番が控えめな本書こそがレクターシリーズ最高傑作であると書いてあるが、私の感覚ではそうは思えなかった。

本作の二人のメインキャラ(捜査官のグレアムと異常犯罪者のダラハイド)は、読者が理解できる平凡なキャラで、レクターが持っている「奥底にある何か」がない。(レクターの魅力は共感もできなければ理解もできない唯一性だと思っている。)
メインの二人が役割としてはレクターの噛ませなんで物足りないのよね。

『羊たちの沈黙』にはレクター博士並みに魅力のあるクラリスが出るようなので期待。


No.209 7点 弥勒の掌
我孫子武丸
(2020/06/22 21:34登録)
(ネタバレあり)

本作の仕掛け(以下参照)の一つ一つは、前例があったり、小粒だったりするのかもしれないが、個々の仕掛けが上手く噛み合い、全体としては中々に凝った作品な気がする。
我孫子さんのナンバー1が『殺戮にいたる病』なのは揺るがないにしても、『殺戮』は話が話なので、こちらの方が無難に勧めやすい気がする。といっても本作のストーリーも割とえげつない話だけどね。(特に茂木は気の毒よ。)

本作の仕掛け
・『〇〇〇〇〇殺し』の手法の二段構えによる犯人隠匿
・第二章(刑事)、三章(教師)の自然な時系列シャッフル
・一人物を二人に錯覚させるトリック(時系列シャッフルとのシナジーが気持ち良い)

このようにまとめると、主人公が一人でなく二人というのが重要なようだ。この構造は『十角館の殺人』の2軸構造に似てるのかも。(「島&本土」の2軸を「教師&刑事」に置き換えた構造。)


No.208 8点 虚無への供物
中井英夫
(2020/06/22 21:32登録)
『ドグラ・マグラ』についで三大奇書二冊目。残る一つは『黒死館』だが・・・、非常に読みにくいと伺っているので今現在読むモチベが低いです(苦笑)。
さて本作は、三大奇書という大層な看板に反し、意外にもミステリのオーソドックスな構成(事件が発生し、ラストで真相が明かされ幕引き)で、『ドグラ・マグラ』に比べ格段に読みやすかった。

本作を語る場合、おそらく例のオチだけがクローズアップされがちだと思う。しかし、本作のオチはそれだけを見ると賛否両論だろうし、下手に真似事をしたら思考放棄と叩かれそうなものである。
つまり、本作が現代でも人気なのは、例のオチに読者が納得するだけの過程をきちんと書いているからだろう。道中、探偵役達が第三者のごとく好き勝手な珍説を披露するのは、一見ギャグっぽいようで実は肝なのよね。

奇怪な要素だけでなく、ラストに向けての丁寧な構成にもぜひ注目して欲しい一作。


No.207 3点 魔王
伊坂幸太郎
(2020/05/21 00:59登録)
伊坂さんの良さは、重めの題材をも軽快に感じさせる書き味、と思っている。しかし日本国憲法九条改正を扱った本書は、重苦しい題材が重いままの仕上がりで、作者の良さが出ていない。

安藤兄弟の微妙な超能力(?)と詩織ちゃんのふわっとしたキャラは伊坂さんらしさがあり気に入ったが、ストーリーは上記の理由から好きじゃないです。
また、締めもこれで終わり?、という唐突な印象を受けた。


No.206 5点 日曜の午後はミステリ作家とお茶を
ロバート・ロプレスティ
(2020/05/14 03:00登録)
殺人や強盗といった重めの犯罪もあるものの、これぞcozy mysteryといった雰囲気。それこそタイトルに習い休日にお茶でもいれながらなんてのが理想の読み方かも。

主人公のシャンクスは中々にひねくれ者で毒の強い皮肉を飛ばす場面も多々あるが、その毒を引きずらずカラッとしたお話に仕上がっている。この辛辣だがドライな空気は海外作家ならではの良さと感じた。

本サイトには彼の本がもう一冊(『休日はコーヒーショップで謎解きを』)登録されているので、どこかで見かけたらそちらも読んでみようかな。本作はミステリ的なパンチ力が弱いと感じたので次はそこのところが強化されてることを期待します。



<気に入ったシーンやら展開やらその他色々>

・『シャンクス、昼食につきあう』のシチュエーション。著者のコメント通り、独特で面白かった。

・『シャンクスはバーにいる』で昼飯の決定権がニックのゴルフ成績に委ねられてしまったこと。シャンクスの思考パターンが妻に完全に読まれているのが笑えた。

・『シャンクス、物色してまわる』でシャンクスがデレス警官に入れ知恵した理由。
「ちょっとしたお詫びのしるしだよ」
「辞書で確認したんだ。”プラウル”は他動詞として使われることもある。」
まさに作家らしい理由でくすっとした。

・『シャンクス、殺される』のロジカルなホワイダニット。本短編集の中でミステリ的に一番感心した。

・『シャンクスの記憶』でロニーが通報した後の
「ああ、もし僕たちがまちがっていたらどうしよう?」というセリフに対するシャンクスの心の中のコメント。
「いきなり僕たちになるわけか、」

・『シャンクス、スピーチをする』
スピーチで心にもない事を言わなければならない事をぼやくシャンクスに対するコーラの
「問題ないでしょ、シャンクス」
「つくり話を書くことがあなたの仕事なんだから」
というセリフ。

・『シャンクス、タクシーに乗る』での
「いやちょっと待った」離婚訴訟のなかでーあるいは、もっと悪いことが起こってー自分の名前が出るなど、シャンクスは絶対にごめんだった。
という一瞬の思考。ずっと酔っ払いのダル絡み対応だったのに、
自分に影響が出ると判断するや否や急にシャキッとすな(笑)。

・手短にまとまった小噺として、『シャンクスは電話を切らない』全体。


No.205 7点 天使が消えていく
夏樹静子
(2020/05/03 06:58登録)
夏樹さんといえば日本を代表する女性ミステリ作家の一人(といって平気ですよね?)だが、そんな夏樹さんの作品を読むのは実はまだ二度目。それも一度目はアンソロジーで読んだので、単行本は本作が初。
大物ということでおおいに期待していたが、無事ハードルを越えてきた。今後も積極的に夏樹作品に挑戦していきたい。

本作についてだが、要所要所で新たな謎が発生するので終始緊張感があり、中だるみせずに読めた。
また、
・犯人のミスリード要因(男女一人ずつ)が機能している
・最後に驚きの真相あり
と、良サスペンスの基本をしっかり押さえておりgoodでした。
本作で最もミステリ色の強いギミックである志保殺しの密室であるが、
亜紀子提唱の推理(被害者が逃げ込み自ら鍵をかける)が真相でも十分良作だったと思う。(トリック自体は弱いかもだが、使いどころは良いので。)
その上で、最終的にこの推理は捨てられるのが本作の良く出来ている所だろう。

最後に本書のテーマである母性愛について触れるが、まぁ概ね共感できたかな。といっても私は原理的に母親にはなれないので、「共感」とは言えないかもですが(笑)。


No.204 5点 幻想運河
有栖川有栖
(2020/04/27 15:36登録)
空間的に隔てた大阪、アムステルダム両所で起こったバラバラ死体遺棄事件、という本格色の強そうな本作。当然本格よろしく、探偵役があっと驚く真相を解明するものだと思って読み進めたら、まさかの真相を明示せずに終了。
悪いとは言わないが、「そう来たか」という感じ。
異国の地で暮らす者同士の親しいようで他人事な距離感を描いた一つの物語としては面白かったが、私が有栖川さんに求めているのはこういう話じゃないんだよね。

本作は(私の基準だと)解釈を読者に委ねすぎだと思う。
例えば、
・遥介の超能力
・水島の殺害方法(恭司の推理は証拠無し。余談だが恭司が主張したアリバイトリックは上手い手と思えなかった。)
・水島殺害の動機(美鈴の予想だけ)
・美鈴の自殺理由
などである。登場人物の見解が述べられているものもあるが、いずれも予想の域を出ない。もちろんあえて語らないことで物語に深みを出す作戦なのだろうが、全体的にもう少し白黒つけて欲しかった。


No.203 6点 続813
モーリス・ルブラン
(2020/04/22 19:39登録)
『813』の書評を投稿したのが2019/06/08なので、10ヵ月以上空いてしまった。
『813』と同様、訳が古く少し読みにくかった。私が読んだ新潮の第一版は1959年。翻訳家の感性が今と違うのだろう。

本書のストーリーはご都合主義全開のルパン劇場で、ルパンのキャラがはまらない人には退屈な展開が続く。特に七人の盗賊を丸め込むシーンなどは、流石に敵がまぬけすぎる(笑)。
しかし最後にはなんとも渋い展開が待っており、全体としてはメリハリがきいている。
ルパンが特別嫌いじゃなければ、『813』と本書は楽しめるんじゃないかな。

最後に点数に関してだが、『813』よりも一点低い理由はルパン=ルノルマンというネタに比べ本書のサプライズが弱かったから。事件の真犯人は途中で読めたので。


No.202 6点 不連続殺人事件
坂口安吾
(2020/04/15 07:00登録)
本書はネタバレくらった上で読んだので書評は簡単に。

角川文庫版の法月さんの解説によると安吾さんが特に重きを置いたのは合理性だそうだ。確かに犯人の行動理由には相当気を使っていたように思える。作者のこだわりがにじみ出ているのは良作の証だろう。

本作の不満点は登場人物一覧が無い事である。これだけ多くの容疑者候補が登場するのなら、ぜひ付けて欲しかった。(多分当時の日本は海外と違い登場人物一覧を付ける文化が無かったのだろうが。)
ネタバレ済みに加え一覧不備もあり、碌に考えずに読んだので、犯人を一意に当てられる構造なのかはよく分からない。発表当時には一部読者に対し「犯人当ての挑戦」があったそうだが、直感では別解もありそうな気も・・・、どうでしょう。その内時間が出来たらゆっくり検証してみたいです。


No.201 5点 月館の殺人
綾辻行人
(2020/03/29 12:23登録)
(再読シリーズ8)
本屋で見かけ僅かに見覚えがあったので自宅を漁ったら見つかった。たしか館シリーズにはまっていた頃に本書もシリーズ作と誤認して買った。まんまとミスリード狙いのタイトルにひっかけられた迂闊な読者です(笑)。
所有していたことすら忘れていたので、ほぼ初読の感覚での再読。

<以下ネタバレあり>
吹雪で外界と隔離された館に胡散臭いメンバーが集まり連続殺人が起こる、という王道ミステリの構成。ミステリ的ギミックが豊富に盛り込まれており、いかにも「原作:綾辻行人」らしい物語である。
好きなギミックの一例は、

・読者視点だと一つ目の大きな種明かしである、列車が動いていないと判明するシーン(上巻ラスト)
・現場検証が進み弁護士が疑われる展開(犯人のミスリード役としての機能)

である。大した事ないという感想の人もいるかもしれないが、個人的には悪くないミステリだった。

しかし、本書の評価がまずまずなのは「漫画」の命であるキャラクターがイマイチだったからである。
(人気漫画の『名探偵コナン』が完全にキャラクター人気で売っているように、ドラマ、映画、漫画といった視覚からも情報が入る媒体では、登場人物のキャラクター性が小説に比べ重要である。)
本書は主人公、脇役共にキャラ付けが今一つで、例えば容疑者役のテツ共である。こいつら全員質の悪い鉄道オタクというキャラで嫌な感じの奴らなのよ。で、序盤から終盤までこいつらの鉄道オタ悪ノリギャグがちょいちょい挟まれるのだが、嫌な奴のギャグほど寒いものもなく、読んでいて冷める要素だった。そういうギャグを繰り返すなら、なんとなく憎めないキャラ付けをするべきだった。
(綾辻さん原作物だと『Another』のアニメなんかは上手くキャラ付けできていたと思う。)
シナリオそのものが悪いのではなく漫画への落とし込みが上手くなかったという印象。


No.200 3点 ボトルネック
米澤穂信
(2020/03/29 12:20登録)
コンパクトにまとまっておりささっと読めたが、ミステリ、SF、青春物、どれとして読んでも中途半端で、これだという個性が無かった。
肝であるパラレルワールド設定が効果的に働いていない気がする。また、ボトルネックというタームの意味が説明された中盤で想像したまんまのオチで、意外性という点でも物足りなかった。内容もすぐに忘れてしまいそう。


No.199 8点 カーテン ポアロ最後の事件
アガサ・クリスティー
(2020/03/27 11:23登録)
シリーズの締めに始まりの地、スタイルズ荘を選ぶとは・・・、ファンのツボを押さえた実に粋な計らいだね。
あの小憎たらしくも溌剌としていたポアロが老いと病で弱っている様子が象徴的だが、全体を通し暗めな雰囲気の本作。ヘイスティングズがポアロの手足となり捜査をするも、Xが巧みに暗躍し事態は好転しない。そして最後は・・・。
非常にやり切れない物語で読み終わってもスカッとしない、がこの構成がシリーズ物の最後特有の喪失感につながっている。作者の計算通りなのだろう。
ミステリ的に好みでない仕掛け(最後の犯人が〇〇〇)もあるが、それらを枝葉の問題に追いやる堂々の完結ではないか。点数は一ミステリとしての出来と、シリーズ最終作としての出来両方を考慮した。


No.198 3点 まどろみ消去
森博嗣
(2020/03/22 06:55登録)
がっかり。
「一発ネタ思いついたからとりあえず話にした。面白いかどうかは知らん。」
という印象。出来の良いものと悪いものの差が激しく、かつ打率も低かった。

森さんのシリーズを追ってる人でもスルーでよいと感じたので、短編集としての評価は個別の平均からマイナス1。『詩的私的ジャック』、『封印再度』、本書、と3連続で外しており、森作品にトライする気力が低下してる今日この頃(悲)。

<個別の書評>
・虚空の黙禱者(4点)
本短編集の中では地味。特にコメントなし。

・純白の女(2点)
精神が不安定な女の一人称視点なので、全体的に何を言っているのかが分かりくい。オチも大した事なく悪い意味ですぐ読み終わった。

・彼女の迷宮(4点)
一つ前の話に比べると筋が分かりやすく読んでいてストレスは無いが、面白くもなかった。むしろ作中作の方をきちんと読みたい。

・真夜中の悲鳴(5点)
森さんお得意の工学部が舞台の話。工学部の描写に妙なリアリティがあるのは森さんの職業柄当然とはいえ流石です。建物の振動が実験結果にのってしまうのもあるあるで思わず苦笑した。
個人的には読みやすく、本短編集の中では好きな方。

・やさしい恋人へ僕から(3点)
まず、個人的にこの話のようなすかした語り口調が嫌いということもあり、ストーリーの点数は1点。
だが、スバル氏に意識を向けさせて、メインのネタである主人公の性別から意識をそらさせる構成は地味に上手い気がする。だから2点分おまけ。

・ミステリィ対戦の前夜(4点)
知ってるキャラが出てきて一安心したが、悲しい事に岡部君の原稿はつまらなかった(萌絵と同じ感想)。どうやら私は限定された読者ではなかったようだ。

・誰もいなくなった(6点)
この話は好きですね。
ここまでの話に比べ非常に王道な話で、いい意味でさくさく読めた。
消えた30人のインディアンの謎は、犀川が答えを言う前になんとか正解でき、にんまり。
ただ、作中で萌絵が述べているように、作者のフィルタを通した文章を読むのと実体験には大分差がありそうだ。自分もミステリィツアー参加者側だったら、騙される気しかしないわね。

・何をするためにきたのか(1点)
初読時:は?意味わからんのだが。
二回目:この話はゲームのフラグやキャラの内面を書いてるのかね?
二回読んだが、ただただ意図が分からない話だった。作者に聞きたい、「何のためにかいたのか」。

・悩める刑事(8点)
本短編集のマイベスト。シンプルな仕掛けで読者を欺く王道の〇〇トリック。この話で一番のヒントは
「自分は刑事になるか、そうでなければ刑事の妻になる」
という文章です。これは見事な伏線ですね。素晴らしい。

・心の法則(5点)
これも初読時は話の筋がよく分からず、二回読んでなんとなく把握できた。意味が分かると中々面白かった。ジャンルはホラーもので合ってるよね?

・キシマ先生の静かな生活(3+1点)
理解はできるが共感できない話だったので、心情描写で魅せる作品としてはイマイチ。
そもそも、ずっと自分で研究したいのなら大学なんぞに勤めない方がいい。昇進するに従い研究に割ける時間が減るという話は、理工系の者なら誰でも知っていることなので、「キシマ先生可哀想」とはならず、「アホちゃう?」と感じた。
ただ「学問には王道しかない」という言葉には100%同意です。このフレーズに+1です(笑)。


No.197 5点 10分間ミステリー THE BEST
アンソロジー(出版社編)
(2020/03/22 06:52登録)
講談社が出している「自選ショート・ミステリー」と同様のコンセプトの本。収録作の9割が4点(イマイチ)~5点(まぁ楽しめた)の間だった。ショートショートの難しさを考慮すると、6点(楽しめた)超えが少ないのはしょうがない。
本編の他に「このミス」大賞作家50人分の著書一覧がついており、お得感満載。

<4点~5点外の作品書評>
越谷友華 「刑法第四五条」(6点)
普通の小説では、逮捕する、されないのために警察と犯人が攻防を繰り広げるが、本短編では逮捕後の刑期に関する駆け引きをしており、一風変わっていて面白かった。
また、刑法の勉強にもなった。

伽古屋圭市 「記念日」(7点)
主人公が思い出を語る中に潜む罠のスイッチが途中でONに切り替わる。その境目に気付けず自然に騙された。気付いた時には騙されているというのが、質の良い叙述物なんでしょうね。

柊サナカ 「靴磨きジャンの四角い永遠」(6点)
タネ明かしで「なるほど、そういうことか!」と腑に落ちる。純粋に話が好き。

塔山郁 「獲物」(3点)
残念ながら本アンソロジーワーストです。
中身が際立って酷いわけではないのだが、タイトルがいかん。このタイトルで素直に女の子が獲物だと思う読者はいないでしょ。書き出しとタイトルでオチまで読めてしまったので、他の作品より評価が低い。もう少し工夫が必要と思う。

影山匙 「脱走者の行方」(8点)
本アンソロジーのマイベスト。これも綺麗に騙された。
タクシー内から交番に場面が移る所に間を入れており、当然読者はそこで何かあったと考える。そういった読者心理を逆手にとった仕掛けがお見事。読後感も良く、総合的にvery good。

<もう一押しあれば6点だった作品>
加藤鉄児「五十六」
拓未司「澄み渡る青空」
篠原昌裕「最低の男」
水田美意子「七月七日に逢いましょう」
堀内公太郎「ゆうしゃのゆううつ」


No.196 6点 孤島の鬼
江戸川乱歩
(2020/03/18 00:05登録)
本書は序盤から中盤にかけて雰囲気が大きく変わる。普通(?)の殺人事件の捜査をする『D坂』のような序盤と、中盤以降の冒険もの(横溝さんの『八つ墓村』に近い?)が滑らかにつながる見事な構成で、本書は両雰囲気を一冊で楽しめるお得な作品である。
また、かたわ者や同性愛者といった登場人物達が不気味さを醸し出し、作品に良い味付けをしていた。乱歩さんにこの手の題材を書かせると自然と筆が乗るのか、良い感じ。私が読んだ創元推理文庫には竹中英太郎さんの挿絵があるが、これも不気味さの演出に一役買っていた。

ただし、面白いが手放しに褒められない、というのが本書に対する私の総評だ(理由は後述)。
文庫版の背表紙には、本書が『パノラマ島奇談』や『陰獣』に並ぶ乱歩さんの長編代表作、とあるが、コンパクトな『陰獣』の方が本書よりも好き。(『パノラマ』は未読。)
テーマや事件を考えると、7~8点に到達するポテンシャルがあったはずなのだが、惜しい作品という印象。

手放しに褒められない理由
・大胆な省略がある一方、もったいぶる、回りくどい言い回しが多すぎてテンポが悪い。乱歩さんらしいこれらの文章表現は、短編や小噺では語り手に親しみを覚えさせる表現としてプラスに機能しているが、長編で多用されると、早く言えよ!とイライラ。

・序盤の殺人事件の真相がしょぼい。(書かれた時代を考慮すると致し方ないですが。)

・ストーリー展開が全体的にご都合主義すぎる。
例えば終盤で「偶然」生きていた徳さんに「都合よく」再会して、おまけに事件の真相まで語ってもらうというのは中々にご都合主義よね。これ以上の列挙はあえてしないが、他にも都合の良すぎる例はあるように思える。


No.195 9点 ダ・ヴィンチ・コード
ダン・ブラウン
(2020/03/13 07:35登録)
いや~面白かった。
しつこい蘊蓄、専門知識が無いと解けない暗号、神の視点を持つかの如く機転が利きすぎる登場人物達、と普通ならば低評価の原因になりそうな要素がてんこ盛りなのだが、面白かった。
上記のようないくつかの問題を抱えているにもかかわらず楽しめたのは、扱っている題材(宗教の歴史、絵画、科学など)が自分の趣味とマッチしていたのが大きい。宗教関連のバックグラウンドを知っていればより楽しめたと思うと、そこは悔しいが、それを差し引いても非常に豪華な一品だった。
ただ本作の評価は、あまりにも読者の題材(宗教の歴史、絵画、科学など)への興味に依存しており、趣味が合わない人にはてんでダメだろう。幅広い支持は集めにくいと思うのだが、映画の評判はどうだったのかな?

題材以外での加点ポイントは

・ソニエールの徹底的にダブルミーニングをこさえた暗号
やりすぎ(笑)な気もするが、守っている謎を考慮すればこの難解さも妥当か。また、ダイイングメッセージ以外は急ごしらえの暗号ではないので、凝りすぎでも不自然さは少ない。

・導師の正体
聖杯の行方に次ぐ本作の肝となる謎。エンタメとしての面白さの大部分はこの謎が担っており、ここで驚けないと本作の評価は辛くなりそう。私は迂闊だったので、見事に裏をかかれましたが、勘のいい人なら当てちゃいそうだな~。これについてはボケっと読んで、素直に驚いた方がいいかも(笑)。

である。

最後に、ラングドンはシリーズキャラクターということを巻末の解説で知ったが、象徴学者というマニアックな設定のキャラで何話も作るのは大変そう。他のも読んでみようかしら。


No.194 6点 クビキリサイクル
西尾維新
(2020/02/26 11:26登録)
最近、勘(笑)が冴えているのか、事件の表面は途中で看破できた。
(見破れた部分:真犯人&共犯者(Who)、首を切った理由(小さいWhy)、倉庫からの脱出方法(How))
ただし最終パートで明かされる、事件の根幹のWhy部分に対する推理までは読み切れなかった。最終パートが無く、表面的な解決で終わっていたら5点だったが、そこで終わらず裏があったので1点加点。

最後にキャラクターに対する印象であるが、西尾流のキャラ付けは、はっきりと好みが分かれるものと思われる。本作に関しては設定ばかりが先走り描写が薄いという印象で、私の好みではないですねぇ。ただし、キャラが薄いことの副産物か、無駄話や余計な蘊蓄が少なく、全体的に読みやすかった。

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