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ミステリの祭典

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バードさんの登録情報
平均点:6.14点 書評数:324件

プロフィール| 書評

No.284 6点 漱石と倫敦ミイラ殺人事件
島田荘司
(2022/04/23 08:15登録)
一事件を二人(漱石とワトソン)が別個に語るので、そこの間にある齟齬を利用した叙述トリックでもあるのかと期待したが、そうではなく単にホームズ二次創作に漱石視点を組み込んだだけだった。
このように、こちらが勝手な期待をしすぎていたせいでやや肩透かしとも感じたが、一方で読み物としては中々にレベルが高く、本家ホームズの設定と夏目漱石に関する史実を上手く組み合わせて面白みのある物語を紡いでいる。
またページ数も多くないのでサクッと読める点もgoodで、悪い意味での二次創作感もほとんど無かった。

グダグダな要介護のホームズを読者が求めるかっこいい様で書いているワトソンの筆力は個人的に必見の笑い所。


No.283 7点 自由研究には向かない殺人
ホリー・ジャクソン
(2022/04/14 06:22登録)
捜査の過程で段々と重要手がかりが出てくるので、読者が推理に参加するのは難しい。青春物として甘酸っぱい彼ら彼女らの日常を共有しつつ、素直に真相に驚くのが本書を一番楽しめるスタンスな気がする。ただ、疑えるキャラがメタ的に絞られてたからか、どんでん返しはあるものの残念ながら私は真相にそれ程驚けなかった。
本格度の高い作品を書けそうな作者と感じたので、次作ではその辺の改善を期待したい。

最後に非常にどうでもよい事だが、作中にピカチュウという単語があり、最近だと海外の小説にも登場するキャラなのかと驚いた(笑)。


No.282 7点 マリオネットの罠
赤川次郎
(2022/03/26 08:27登録)
赤川次郎さんらしい読みやすい文章とどこからか不協和音が聞こえてくるかのような不穏さがマッチしている。誰にでも薦めやすい佳作という印象。ただ同時に傑作まではいかないとも感じた。
タイトルから例の人がマリオネットなことは容易に想像がつく上、操ってる人も登場直後からうさん臭さが滲み出ており、真相のカモフラージュが弱い。また、マリオネットの動機は終盤に書かれる手記まで一切不明で、うさん臭ささを放っていたものの操ってる人の動機も完全に後出し。この辺の情報の出し方についても改善の余地有りと感じた。


No.281 6点 火村英生に捧げる犯罪
有栖川有栖
(2022/03/20 07:48登録)
火村シリーズ短編集にしては収録作ごとの好き嫌いが大きかった。特に表題作はタイトルが格好良く、その使い方も上手い良作である。表題作以外では「鸚鵡返し」が短いながら切味抜群。反対にケツの二つの話は水増し感があり、無い方が良かった。

<個別書評(ネタバレあり)>
・長い影(7点)
トリック自体は無難だが、「長い影」というタイトル回収の上手さが光る。

・鸚鵡返し(7点)
文庫本でわずか9ページだが鮮やかに犯人を告げる鸚鵡。策士策に溺れるとはまさにこのこと。

・あるいは四風荘殺人事件(5点)
作中作形式にした意味も薄く、無駄にごてごてした微妙な話。里中の構想が火村の想像通りだったとしたら、現代視点ではインパクトが足りなさそう。それこそまんまの展開の作品が既にあるし。

・殺意と善意の顚末(6点)
これも「鸚鵡返し」に並んでコンパクトな良作。しょーもないと感じる人もいそうだが。

・偽りのペア(5点)
アリスも言っているようにトリックがしょーもない。

・火村英生に捧げる犯罪(7点)
事件の真相自体の面白みは薄いが、散々火村に注意を向けさせる書き方をしておき、キーはアリスというのが良い。格好いいタイトル自体がミスリードな点も含め構成力で魅せてくれた。本短編集のマイベスト。

・殺風景な部屋(4点)
『名探偵コナン』辺りにありそうな安直なダイイングメッセージ。申し訳ないがあまり面白くなかった。

・雷雨の庭で(4点)
この話の強みってなんだろうかと考えた時に何も思い浮かばない。


No.280 7点 ロンドンの傘
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2022/03/20 07:46登録)
『刑事コロンボ』シリーズ2冊目。
犯人側と警察側の攻防で逼迫する場面が多く面白かった。犯人を罠にかけるラストのやり方は賛否両論でそうであるが、良い意味で緩さのある『刑事コロンボ』シリーズでは有りだと思う。もっと厳格な作品で、犯人を追い詰める決め手がこの方法だったらどうかとは思うが。

ちなみに自分が一番気になったのは死因偽装に関するある点。ロジャーの死体をトランクに詰めて運んだのだから、死体は折りたたまれた体勢に硬直してしまい、階段から落ちたにしては不自然な体勢になるのではないかな。硬直前に素早く偽装が終わった感じでも無かったので気になった。致命的な問題とまでは思わないが。


No.279 7点 秘密
東野圭吾
(2022/02/23 12:24登録)
少しずつ読み進めようとしていたのだが、ページをめくる手が止まらず二日で読了。ストーリーはほぼ予想通りで、あっと驚くことは無かったが魅せ方は非常に上手く、読者の期待には応えるいい作品に仕上がっている。ラストも正直予想はしていたが、余韻を残しつつ平介にも読者にもそれ以上突き詰めることを許さない良い締め方だったと思う。


No.278 6点 禁忌
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2022/02/19 11:16登録)
主人公の色盲?設定が鍵かと予想していたがそうではないよな?事件の表面的な構造は明確だが肝心なところは今一つ分からず消化不良。非常にマイルドにではあるが『ドグラ・マグラ』風味を感じた。文章の雰囲気などは気に入っただけに、もう少し自分に読解力があればと残念になる。点数は純文学的な要素を楽しめたことによる評価です。


No.277 2点 王様ゲーム
金沢伸明
(2022/02/19 10:36登録)
何となくだが、デスゲーム系ジャンル全体に対して物語の締めが雑というイメージがある。本作もそのイメージを覆すものではなかった。読んで得たものは何も無いが、元々ほとんど期待してなかったので1点(最低最悪・・・)よりは高くてもいいかな。
小中学生に刺さる要素はあると思われるので、本作を足掛かりに他の本にも挑戦して欲しいものである。


No.276 5点 高校事変
松岡圭祐
(2022/02/06 22:01登録)
作者の本は4冊目だが、青春物としての爽やかさは本作でも健在。また、『水鏡推理』に見られた理工系の小ネタも存在し作者の良いところが十分発揮された作品と言えるだろう。
その一方で明確に殺人が扱われたせいか、逆に展開が安っぽい。黒幕の計画は杜撰すぎる上、武装軍団の幹部キャラの知能も終盤で下がりすぎである。松岡さんの作風には殺人事件は合わないんだなあと肌で感じた一作だった。
シリーズ化されてるようだが本作の続きは読まなくていいかな。


No.275 8点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2022/01/31 21:10登録)
(軽くネタバレあり)

事件の顛末はほぼ予想通りだった。ジムが犯人でないのなら論理的に真犯人はあの人しかありえないので。また、真犯人の見当さえつけば、Why?の部分もある程度推理できる。本作は自分的にはちょうど良い難易度だったが、高難易度な謎を所望する読者には物足りないかもしれない。

ただ犯人当てだけでなく、ライツヴィルの人々のキャラクター性も本作の見所と思う。クイーンの作品にしては登場人物達が全体的に人間臭く、ストーリーを装飾している。
ちなみに悲劇のヒロイン臭が鼻についたためノーラさんはあまり好きでなかった。最後まで読むとその理由も明らかなのだが。一方パットは探偵の助手としては落第だが良いキャラだったね。裁判中にやりたい放題なのは笑った。


No.274 5点 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2022/01/29 11:27登録)
ギャグパートが滑っている、ミステリ部分がチープすぎるといった悪印象は無いのだが、好きという程でもない。イチャモンみたいになってしまってファンの方には申し訳ないが、自分のセンスが本作とずれていたのだろう。
ただし、以下に示す話は良かった。マイベストは「綺麗な薔薇」か「死者からの伝言」で迷うが、僅差で「綺麗な薔薇」だな。

<好きな話について個別に書評>
・綺麗な薔薇には殺意がございます
犯人が死体を薔薇の上に置いた理由、犯人推定のロジックなど本格度が非常に高い話で好みである。謎の難易度は低めで、自分でも犯人を当てられた。

・花嫁は密室の中でございます
影山が犯人を罠にかけるシーンで叙述トリックをくらったかと錯覚した。あの辺の物語運びは上手かったね。また、ラストでこれまでギャグ一辺倒だった麗子と影山の関係にも少し変化があり良かった。

・死者からの伝言をどうぞ
読者の裏をかいていく話運びは本格度が高く読み応えがある。隠蔽工作の論理にいくらか苦しい部分はあるものの、フィクションなら許容範囲内である。
他作者の名前を出すのはあれだが、これでもかと事件を複雑化させるところに法月テイストを感じた。


No.273 7点 7人の名探偵
アンソロジー(出版社編)
(2022/01/20 20:25登録)
帯の煽りに「7人のレジェンド作家の競演」とあるように、新本格ファン大興奮のメンバー勢揃い。豪華なお祭り感に非常にワクワクし手に取った。しかし意外と手堅い話ばかりという印象で、正直、読む前のワクワク感 > 実際の面白さだった。もっと遊んでくれても良かったのに。
平均点は6.14。大好きな作家達のお祝い本なんで全体ではおまけで7点です。

<以下個別の書評>

麻耶雄嵩 「水曜日と金曜日が嫌い-大鏡家殺人事件-」 6点
麻耶さんのセンスはこのメンバーの中でも特に尖ってると思うが、本作は案外読みやすかった。小部屋の被害者が○○という真相を難なく受け入れられたのは、それだけロジックが良かった証と思う。オチは酷い(笑)。

山口雅也 「毒饅頭怖い 推理の一問題」 8点
本短編集で個人的なNo.1。下手人と嘘つきを切り分けており、拗らせたミステリ好きらしさ全開のめんどくささが面白かった。(めんどくさいは誉め言葉です。)
あとオチがくだらなすぎて好きなので+1点してます(笑)。

我孫子武丸 「プロジェクト:シャーロック」 5点
正直微妙だった。我孫子さんは当たり外れが大きいイメージだが、今回は外れ側かな。

有栖川有栖 「船長が死んだ夜」 6点
手堅い印象の火村シリーズとしても地味な作品。量産型火村短編の一つで特筆点無し。

法月綸太郎 「あべこべの遺書」 6点
謎の提起段階では短編集の中で一番凝ってて面白い。ただ短編なのでしょうがないのかもしれないが、綸太郎の発想力がすご過ぎる気がする。探偵の推理が飛躍気味というのは、本作に限らず短編ミステリが抱える普遍的な課題だがね。

歌野晶午 「天才少年の見た夢は」 7点
人間は合理性の無い行動をとり得るという主張が見所だと感じた。経験を積んだミステリ作家が言うと結構重い主張よね。
叙述トリックに関しては、本作家達の過去作を読んできた多くの読者にとっては物足りないだろう。

綾辻行人 「仮題・ぬえの密室」 5点
読み物としては面白かったが、名探偵というテーマに沿っていないような。他作家が一応名探偵を出している中で一人逃げを感じた。ちと残念。
内容に関しては登場人物達(我孫子、法月、綾辻、小野)の著書を読んだ状態の方が小ネタを拾えて面白さアップかも。


No.272 9点 戻り川心中
連城三紀彦
(2021/12/23 06:52登録)
平均点の高い作品であることを承知で読んだが、期待以上に良い出来だった。
特に表題作は複数のミスリードからの真相到達で、インパクト大の満点。短編集としても9点です。

古い時代の話にもかかわらず非常に読みやすく、文章力の高さも伺えた。謎と薄暗い舞台が上手く溶け合っており、面白さを高めあっている。もしどちらかが欠けていたら良くて7点だったろう。

最後に面白さとは別の感想だが、全体的に動機で謎を盛り立てており、連城さんの得意な手法なのかしら?と感じた。


<各話の書評>
・藤の香(7点)
真相をミスリードっぽく見せて驚かせるって構造は、他作品にもありそうだが案外パッと思いつかないな。まあまあ面白く好調な滑り出し。

・桔梗の宿(7点)
非常にむなしいお話。収録作の中で一番鬱度が高い。

・桐の柩(8点)
動機が面白く、物語に引き込む導入も上手い。表題作以外では一番好き。

・白蓮の寺(7点)
収録作の中で唯一読みづらさを感じた。やはり他人の夢の話にはのめりこめないっす。夢説明パートが終わり事件の核心に迫ってからは一気に面白くなった。例の犯行によって母の目的が達成できるかは相当綱渡りだがその分印象的だった。犯罪関係以外にも蓮に役割がある点には推理小説の枠を超えた上手さを感じた。

・戻り川心中(10点)
文句の付け所無し。完全に余談だが苑田の動機って『ネウロ』の世界観にマッチしそう。


No.271 6点 幻惑の死と使途
森博嗣
(2021/12/19 18:34登録)
『詩的私的ジャック』、『封印再度』に比べるとまとまっているように感じ、割と好きな話だった。SとMのラブコメパートはコテコテで正直しつこいが、個人的には許容範囲かな。

ただ一番肝心なところは『笑わない数学者』の焼き直しだね。本作を読む人は前のシリーズ作を読んでる場合がほとんどだと思うので、この焼き直しは少し印象悪く一点引いた。
ただ、有里匠幻はなぜか笑っていた天王寺博士より好きなキャラだな。最後もちゃっかりと脱出決めてたりしないかなぁ。


No.270 8点 パーカー・パイン登場
アガサ・クリスティー
(2021/12/06 11:19登録)
始めの方は地味な話が続き物足りなさを感じたが、中盤以降は豊富なギミックが登場し読み応えアップ。終わってみれば非常に満足度の高い短編集だった。
ポアロ、ミス・マープルに比べると知名度で劣るが、クリスティが嫌いでなければ本書もぜひ読んでいただきたい。


<各話の書評>

・中年夫人の事件(5点)
ほっこりする終わり方で好みだが、ミステリとして特筆すべき点は無し。パーカー・パイン氏の紹介的な話で、可も無く不可も無い出来。

・不満軍人の事件(6点)
全てはパーカー・パイン氏の手のひらの上。オチは予想できる範囲だが退屈しない。

・困った婦人の事件(6点)
本短編集の中でも後味悪めな話。悪党にこのままでは不幸になると忠告するも無視されるところに嫌なリアリティを感じる。ミステリ的な部分ではなくストーリーの見せ方が光る話だね。

・不満な夫の事件(6点)
オチが全て。自分的にはまあまあ。

・サラリーマンの事件(5点)
悪くはないが、特にコメントする点も無し。

・富豪婦人の事件(7点)
まあ臭い話といえば臭い話だが、本作の如しシンプルな人情話?は嫌いじゃない。人間何が幸せかはいつも考えておかないとね。自分の稼ぎだとまだまだお金は必要なので、ライマー夫人のように割り切れないですが。

・あなたはほしいものをみな持ってますか?(8点)
海の上という共犯者を使えない状況で宝石を盗むとなると作中の方法しか無いのだが、真相を上手く隠して面白くしていると思った。本短編集はこの話から一気にエンジンがかかったという印象。

・バグダッドの門(8点)
犯人特定の方法が古き良き探偵という感じで大好き。小技の効いたいい短編と感じた。

・シラーズの家(9点)
本短編集で一番好きな話。別の作家の長編でほぼ同じネタを見たことがあるが、あちらは早々にボロが出ているのに対し本作は短いページで見事にトリックを決めている。ラストに明かされる伏線も巧妙でアガサ・クリスティの実力を堪能できる素晴らしい短編。

・高価な真珠(6点)
前三話の出来が良かっただけに少しトーンダウン。つまらなくはないが話の構成的にボケっと読んでても犯人が分かってしまうのが傷。

・ナイル河上の死(4点)
パーカー・パイン氏が旅に出てからの話の中でワースト。犯人の見通しも甘く、まともなトリックもないのでイマイチ。

・デルファイの神託(9点)
露骨な伏線が張ってあるので正直オチは誰でも予想できると思う。その上でわずか20ページでこのトリックを採用し面白くまとめているのは見事。また、最後を本トリックのような変化球で締めるという短編集の構成も褒めたい。というのもラストにインパクトの大きい話があると短編集自体が強く記憶に残るからである。


No.269 5点 邪馬台国はどこですか?
鯨統一郎
(2021/11/23 19:27登録)
こんな妄想の垂れ流しは小説じゃねぇって一蹴したい一方で、宮田の説に妙な説得力があり「そうかも・・・。」と思わせられる部分もある。
話作りの部分が史実に頼り過ぎており釈然としないというのが私の率直な感想だが、歴史素人の自分には作中の話が学術的にどれだけディフェンスできる話か分からないので、この評価が適切かも分からない。きちんと歴史を勉強した人がどう感じるかが本書の正しい評価だろうね。

個人的に好きな話の順番は
「謀叛」=「維新」>「奇蹟」>「聖徳太子」>「悟り」=「邪馬台国」で、
表題作が一番退屈だった(笑)。
あと静香(才女に見えない)、三谷(置物感あり)の二人の書き方はもう少し頑張って欲しかったかな。とはいえ全体的にリーダビリティは高く、私のような歴史素人でも読めるように書けているのは見事。変則的なミステリを楽しみたい場合、選択肢に入れても良いかと。


No.268 8点 りら荘事件
鮎川哲也
(2021/11/23 19:26登録)
(ネタバレあり)
細かい点まで練られており、館物のお手本+αの出来と感じた。
個人的に気に入ったギミックは

・トランプによる殺人順誤認 : 自分は複数人での犯行を連続的な事件と誤認させる目的でトランプを使っていると思ったので、この使い方はシンプルながら上手いと思った。最後は逆に利用されてしまったが・・・。
・色盲に関する伏線 : 新規性は薄くとも上手く機能した仕掛けと思う。それで殺された彼は気の毒だが。
・ココアへの毒の仕込み方 : 砒素の性質は知らなかったが大胆にやったなぁ。これは現場にいたら疑えないだろうね。現実的かどうかはさておき良いトリックだ。

あたりである。また、初心者にも勧めやすい読みやすさも加点ポイント。
最後に気になった点であるが、流石に人殺しすぎじゃないかとは思った。あれだけ容疑者が減ると消去法である程度犯人が分かってしまうからフーダニットの点が苦しかった。と軽く苦言を呈したが、余計な容疑者候補を増やして作品を無駄に太らせるくらいならこれで良かった気もする。本書は伏線回収やハウダニットの点で十分良いと思えたので。


No.267 4点 カリ・モーラ
トマス・ハリス
(2021/11/15 16:10登録)
トマス・ハリスは個人的に好きな作家だが、本作は作りが雑な気がした。
終盤の金塊奪取からシュナイダーとの直接対決のあたり(文庫本ラスト100P分くらい)はサクサク読めて楽しかったが、そこまでの内容は展開が遅い上に余計な描写が多く散逸的、今一つ物語に集中できなかった。ワニの視点の章とかどう考えても要らないでしょ。

途中まで3点、ラスト100ページは5点で、好きな作家補正も込みで4点。作者のニッチなファンでなければ態々読まなくていいレベルだな。


No.266 4点 シャーロック・ホームズ最後の挨拶
アーサー・コナン・ドイル
(2021/11/06 14:56登録)
私の既読短編集『冒険』、『帰還』、『回想』に比べて、ミステリの華であるトリックが雑な話が増えてきており、なんなら無い話も多い。率直に言うと物足りない短編集だったね。主語が大きいかもしれないが、非シャーロキアンのミステリ好きならそう感じる人は多そう。

と少し辛くなったが、5点以上付けた話は結構面白かったです。

<各話の書評>

・ウィステリア荘(5点)
ホームズものに精巧な組み立てなどは期待していないので、雰囲気が良ければOK。無関係な紳士が奇妙な体験と称してホームズ達(と読者)を事件へと誘うので、出来の良い怪談の如く引き込まれた。

・ボール箱(4点)
あまりコメントすることが無い微妙なお話。

・赤い輪(5点)
この話は好きな方。下宿人の入れ替わりは予想通りだけど良く言えば奇をてらわず王道の話でそれなりにまとまっている。ひねりが無さすぎる気もするけどね。

・ブルース・パティントン設計書(6点)
単純に好きな話だったので本書の話の中で最高点。犯人像の推理には説得力もあり一応ミステリとしての体裁がとれている(?)のが良し。

・瀕死の探偵(3点)
探偵が仮病使って犯人がアホみたいな自供。くだらない。

・フランシス・カーファクス姫の失踪(5点)
本書で二番目に好きな話。推理要素は無いが、先が気になるハラハラ感があり冒険もの的な良さは十分。

・悪魔の足(4点)
謎の演出は良かったが、謎を作り出した手法が特殊な植物というのが好みでない。不出来というよりはあくまで私の琴線に触れなかったという感じかな。あくまだけに・・・・・・。

・最後の挨拶(4点)
ホームズの掲載順について詳しくないのだが、これも区切りの話なのかな?普段と違う空気の話だったという位しか感想が出ない。


No.265 6点 キングを探せ
法月綸太郎
(2021/11/06 14:53登録)
(ネタバレあり)
スマートに洗練された話ではなく、中盤以降も複雑に混ぜ返していくのが実に法月さんらしいと感じた。(『密閉教室』、『誰彼』などからそのような印象を持っている。)

本作一番の売りは綸太郎からの手紙を利用した、りさぴょんの犯行偽装である。後の話を踏まえるとりさぴょんの策は逆転の一手ではなく応急対策であり、カネゴンの「ーこんな切り札を~」という台詞はオーバーな気がする。勿論愚策ではなく機転も利いたいい手ではあり、上手いとは感じた。しかし、どんでん返しの大逆転ではなく今回の修正策レベルだと読者目線での盛り上がりがそこそこで落ち着いてしまう。
評価は6点か7点かで迷ったものの、以上の感想なので6点。

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