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ミステリの祭典

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バードさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:332件

プロフィール| 書評

No.292 4点 『クロック城』殺人事件
北山猛邦
(2022/09/22 06:47登録)
(ネタバレあり)

メインの物理トリックは中々良いを超えて非常に好み。時間を利用して断絶された空間に道を作る、なんて大仰な表現が可能でかつ鮮やかな切り口。本格ミステリと呼ぶにふさわしいトリックかと思います。
しかし、それだけに他の部分(ファンタジー的世界観、キャラクター、文章力)の力不足が顕著である。正直、妙な設定をかぶせすぎており、読みにくい事この上なかった。
以上の感想なので、全体通しての評価は残念だがイマイチ。ただし、本作者の他作品がどういった書き口かは少し気になった。


No.291 8点 ガニメデの優しい巨人
ジェイムズ・P・ホーガン
(2022/09/22 06:44登録)
『星を継ぐもの』の続編である本作。前作知識は頭に入っている前提なので、この本から読むのは控えるべき。
前作に比べ最大謎のインパクトが弱いので一点引いたが、前作と同水準で面白かった。情報が惜しくもシャピアロン号に届かないというほろ苦さと、先にある希望を両立させた締め方が好み。

本シリーズの良さは嘘(フィクション)の数を絞っているところだと思う。SFでの嘘は当然作品の売りだが、多すぎるとなんでもありになってしまい作者の妄想を聞かされてる感が強くなるのよね。


No.290 7点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2022/09/13 08:53登録)
(ネタバレあり)

見立て殺人物にありがちな、インパクト重視で見立てる意味がないという大味な作品ではない。
犯人が殺人を手毬唄通り見立てた意図は(金田一の推測ではあるが)本文中に明記されており、お庄屋さんのキャラ描写が十分だったため私は納得できた。その動機を許容できるかは個人の感性によると思うので、そこが本作評価の分岐点になる気がする。

個人的にはその他にも物語をかき回す要素がふんだんで、例えば下記のような素晴らしい工夫がある。
・途中で嘘の手毬唄を出す
・三番目のすずめのミスリード
・件の一人二役

淡々と殺しが進み、読み物として起伏が弱いという点は少し残念だが、昔の作品だからと侮るなかれ、非常に精巧な作品である。


No.289 5点 怪盗ニック全仕事(1)
エドワード・D・ホック
(2022/09/13 08:36登録)
ニックの小粋さが心地よいキャラもの。依頼人たちの裏事情が絡み合うことで単なる盗難事件では終わらず、全体的に先の読めない面白さがある。
重厚なストーリーが好みな人には物足りないと思われるが、ウィットが効いた小ネタ・小噺が好きな方にはお勧め。
個人的に気に入った話(6点以上)は下記。

・プールの水を盗め:依頼人の作戦は相手が冷静になれば看破されそうだがはったりが効いてて面白かった。
・真鍮の文字を盗め:詐欺をやるにもやり方が個性的すぎる。
・邪悪な劇場切符を盗め:割と予想通りの顛末だが、そういう話もあって良かったかな。
・弱小野球チームを盗め:これだけ派手にやって捕まらないのは流石です(笑)。
・囚人のカレンダーを盗め:こんなもの盗むとは看守も流石に思いつかんわな。


No.288 5点 そして五人がいなくなる
はやみねかおる
(2022/07/09 09:39登録)
不可思議な消失が中だるみ無しに発生するのでサクサク読める。名探偵がフェイクの謎解き後に事件の真の構造を語るというのも王道で良かった。
事件最中の緊張感が終始薄めという点、事件の裏も比較的容易に想像付くという点に物足りなさを感じるものの、総合的にはまずまず面白かった。そもそも子供向けの作品に対し大の大人が文句を言うのがナンセンスだしね。
ただし子供向けなどは関係なく夢水清志郎のキャラデザはもう少し深みのある感じにした方が良かったと思う。ただの三下にしか見えない・・・。(文庫本のデザインです。)


No.287 4点 元彼の遺言状
新川帆立
(2022/05/02 10:26登録)
第19回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞作品であるが、出来は可も無く不可も無くで、絶賛されている程かなぁとは思ってしまった。
一番の見所であるキャラ描写が個人的にそれほど好みでない。主人公の剣持麗子を含め、残念ながら今一つ突き抜ける魅力を感じなかった。ジャックナイフなキャラ描写は良いが、共感できる部分が少なく魅力が薄いのよね。

まとめるとライトでさっと読めるのは良い点なので、月9作品の原作として話題作りに読む分にはいいかもという感じ。


No.286 5点 長い長い殺人
宮部みゆき
(2022/05/02 10:09登録)
『模倣犯』のプロトタイプという印象だが、あちらの方が犯人側の描写が丁寧で、決着の付け方もはまっており総合的に出来が良い。個人的に『模倣犯』と一番差を感じたのは、犯人組のキャラ付けだ。ピースは好きでないが本作の薄味な犯人組と違い嫌いなキャラとして印象に残るよう書けていたので。

他に本作のオリジナル要素として財布視点で話が進行するという点があるが、何だか子供向けの絵本を読んでいる感じで、そこに良さは見出せなかった。子供向けのような語りとサスペンスのアンバランスさには少しくすっとできるが加点ポイントというにはちと弱い。


No.285 4点 星降り山荘の殺人
倉知淳
(2022/04/23 08:16登録)
(ネタバレ無しだがヒントあり)
本格物の雰囲気やしっかりとロジックを組み立てる姿勢など非常に良いと思える部分が多かった作品。ロジックに関しては少し無理矢理感もあったが私個人の感性では許容範囲内だった。

しかし、本作はメインの仕掛けがあからさますぎていただけない。
星園登場チャプターで「おいおい、まさかこのパターンじゃないよな?」と心配し、麻子が登場した段階でほぼオチを確信。そして予想通り終わってしまった。作者的には読者への真実の語りでミスリードを狙ったのだろうが逆効果だった。言葉は悪いがやり方が子供騙し。余計な小細工が無ければ素直に驚いたかもしれないのに・・・。

上記の点で大幅減点(7点→4点)。『さよならドビュッシー』の書評に同じ事を書いたが、バレバレの手品は高評価に値しない。


No.284 6点 漱石と倫敦ミイラ殺人事件
島田荘司
(2022/04/23 08:15登録)
一事件を二人(漱石とワトソン)が別個に語るので、そこの間にある齟齬を利用した叙述トリックでもあるのかと期待したが、そうではなく単にホームズ二次創作に漱石視点を組み込んだだけだった。
このように、こちらが勝手な期待をしすぎていたせいでやや肩透かしとも感じたが、一方で読み物としては中々にレベルが高く、本家ホームズの設定と夏目漱石に関する史実を上手く組み合わせて面白みのある物語を紡いでいる。
またページ数も多くないのでサクッと読める点もgoodで、悪い意味での二次創作感もほとんど無かった。

グダグダな要介護のホームズを読者が求めるかっこいい様で書いているワトソンの筆力は個人的に必見の笑い所。


No.283 7点 自由研究には向かない殺人
ホリー・ジャクソン
(2022/04/14 06:22登録)
捜査の過程で段々と重要手がかりが出てくるので、読者が推理に参加するのは難しい。青春物として甘酸っぱい彼ら彼女らの日常を共有しつつ、素直に真相に驚くのが本書を一番楽しめるスタンスな気がする。ただ、疑えるキャラがメタ的に絞られてたからか、どんでん返しはあるものの残念ながら私は真相にそれ程驚けなかった。
本格度の高い作品を書けそうな作者と感じたので、次作ではその辺の改善を期待したい。

最後に非常にどうでもよい事だが、作中にピカチュウという単語があり、最近だと海外の小説にも登場するキャラなのかと驚いた(笑)。


No.282 7点 マリオネットの罠
赤川次郎
(2022/03/26 08:27登録)
赤川次郎さんらしい読みやすい文章とどこからか不協和音が聞こえてくるかのような不穏さがマッチしている。誰にでも薦めやすい佳作という印象。ただ同時に傑作まではいかないとも感じた。
タイトルから例の人がマリオネットなことは容易に想像がつく上、操ってる人も登場直後からうさん臭さが滲み出ており、真相のカモフラージュが弱い。また、マリオネットの動機は終盤に書かれる手記まで一切不明で、うさん臭ささを放っていたものの操ってる人の動機も完全に後出し。この辺の情報の出し方についても改善の余地有りと感じた。


No.281 6点 火村英生に捧げる犯罪
有栖川有栖
(2022/03/20 07:48登録)
火村シリーズ短編集にしては収録作ごとの好き嫌いが大きかった。特に表題作はタイトルが格好良く、その使い方も上手い良作である。表題作以外では「鸚鵡返し」が短いながら切味抜群。反対にケツの二つの話は水増し感があり、無い方が良かった。

<個別書評(ネタバレあり)>
・長い影(7点)
トリック自体は無難だが、「長い影」というタイトル回収の上手さが光る。

・鸚鵡返し(7点)
文庫本でわずか9ページだが鮮やかに犯人を告げる鸚鵡。策士策に溺れるとはまさにこのこと。

・あるいは四風荘殺人事件(5点)
作中作形式にした意味も薄く、無駄にごてごてした微妙な話。里中の構想が火村の想像通りだったとしたら、現代視点ではインパクトが足りなさそう。それこそまんまの展開の作品が既にあるし。

・殺意と善意の顚末(6点)
これも「鸚鵡返し」に並んでコンパクトな良作。しょーもないと感じる人もいそうだが。

・偽りのペア(5点)
アリスも言っているようにトリックがしょーもない。

・火村英生に捧げる犯罪(7点)
事件の真相自体の面白みは薄いが、散々火村に注意を向けさせる書き方をしておき、キーはアリスというのが良い。格好いいタイトル自体がミスリードな点も含め構成力で魅せてくれた。本短編集のマイベスト。

・殺風景な部屋(4点)
『名探偵コナン』辺りにありそうな安直なダイイングメッセージ。申し訳ないがあまり面白くなかった。

・雷雨の庭で(4点)
この話の強みってなんだろうかと考えた時に何も思い浮かばない。


No.280 7点 ロンドンの傘
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2022/03/20 07:46登録)
『刑事コロンボ』シリーズ2冊目。
犯人側と警察側の攻防で逼迫する場面が多く面白かった。犯人を罠にかけるラストのやり方は賛否両論でそうであるが、良い意味で緩さのある『刑事コロンボ』シリーズでは有りだと思う。もっと厳格な作品で、犯人を追い詰める決め手がこの方法だったらどうかとは思うが。

ちなみに自分が一番気になったのは死因偽装に関するある点。ロジャーの死体をトランクに詰めて運んだのだから、死体は折りたたまれた体勢に硬直してしまい、階段から落ちたにしては不自然な体勢になるのではないかな。硬直前に素早く偽装が終わった感じでも無かったので気になった。致命的な問題とまでは思わないが。


No.279 7点 秘密
東野圭吾
(2022/02/23 12:24登録)
少しずつ読み進めようとしていたのだが、ページをめくる手が止まらず二日で読了。ストーリーはほぼ予想通りで、あっと驚くことは無かったが魅せ方は非常に上手く、読者の期待には応えるいい作品に仕上がっている。ラストも正直予想はしていたが、余韻を残しつつ平介にも読者にもそれ以上突き詰めることを許さない良い締め方だったと思う。


No.278 6点 禁忌
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2022/02/19 11:16登録)
主人公の色盲?設定が鍵かと予想していたがそうではないよな?事件の表面的な構造は明確だが肝心なところは今一つ分からず消化不良。非常にマイルドにではあるが『ドグラ・マグラ』風味を感じた。文章の雰囲気などは気に入っただけに、もう少し自分に読解力があればと残念になる。点数は純文学的な要素を楽しめたことによる評価です。


No.277 2点 王様ゲーム
金沢伸明
(2022/02/19 10:36登録)
何となくだが、デスゲーム系ジャンル全体に対して物語の締めが雑というイメージがある。本作もそのイメージを覆すものではなかった。読んで得たものは何も無いが、元々ほとんど期待してなかったので1点(最低最悪・・・)よりは高くてもいいかな。
小中学生に刺さる要素はあると思われるので、本作を足掛かりに他の本にも挑戦して欲しいものである。


No.276 5点 高校事変
松岡圭祐
(2022/02/06 22:01登録)
作者の本は4冊目だが、青春物としての爽やかさは本作でも健在。また、『水鏡推理』に見られた理工系の小ネタも存在し作者の良いところが十分発揮された作品と言えるだろう。
その一方で明確に殺人が扱われたせいか、逆に展開が安っぽい。黒幕の計画は杜撰すぎる上、武装軍団の幹部キャラの知能も終盤で下がりすぎである。松岡さんの作風には殺人事件は合わないんだなあと肌で感じた一作だった。
シリーズ化されてるようだが本作の続きは読まなくていいかな。


No.275 8点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2022/01/31 21:10登録)
(軽くネタバレあり)

事件の顛末はほぼ予想通りだった。ジムが犯人でないのなら論理的に真犯人はあの人しかありえないので。また、真犯人の見当さえつけば、Why?の部分もある程度推理できる。本作は自分的にはちょうど良い難易度だったが、高難易度な謎を所望する読者には物足りないかもしれない。

ただ犯人当てだけでなく、ライツヴィルの人々のキャラクター性も本作の見所と思う。クイーンの作品にしては登場人物達が全体的に人間臭く、ストーリーを装飾している。
ちなみに悲劇のヒロイン臭が鼻についたためノーラさんはあまり好きでなかった。最後まで読むとその理由も明らかなのだが。一方パットは探偵の助手としては落第だが良いキャラだったね。裁判中にやりたい放題なのは笑った。


No.274 5点 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2022/01/29 11:27登録)
ギャグパートが滑っている、ミステリ部分がチープすぎるといった悪印象は無いのだが、好きという程でもない。イチャモンみたいになってしまってファンの方には申し訳ないが、自分のセンスが本作とずれていたのだろう。
ただし、以下に示す話は良かった。マイベストは「綺麗な薔薇」か「死者からの伝言」で迷うが、僅差で「綺麗な薔薇」だな。

<好きな話について個別に書評>
・綺麗な薔薇には殺意がございます
犯人が死体を薔薇の上に置いた理由、犯人推定のロジックなど本格度が非常に高い話で好みである。謎の難易度は低めで、自分でも犯人を当てられた。

・花嫁は密室の中でございます
影山が犯人を罠にかけるシーンで叙述トリックをくらったかと錯覚した。あの辺の物語運びは上手かったね。また、ラストでこれまでギャグ一辺倒だった麗子と影山の関係にも少し変化があり良かった。

・死者からの伝言をどうぞ
読者の裏をかいていく話運びは本格度が高く読み応えがある。隠蔽工作の論理にいくらか苦しい部分はあるものの、フィクションなら許容範囲内である。
他作者の名前を出すのはあれだが、これでもかと事件を複雑化させるところに法月テイストを感じた。


No.273 7点 7人の名探偵
アンソロジー(出版社編)
(2022/01/20 20:25登録)
帯の煽りに「7人のレジェンド作家の競演」とあるように、新本格ファン大興奮のメンバー勢揃い。豪華なお祭り感に非常にワクワクし手に取った。しかし意外と手堅い話ばかりという印象で、正直、読む前のワクワク感 > 実際の面白さだった。もっと遊んでくれても良かったのに。
平均点は6.14。大好きな作家達のお祝い本なんで全体ではおまけで7点です。

<以下個別の書評>

麻耶雄嵩 「水曜日と金曜日が嫌い-大鏡家殺人事件-」 6点
麻耶さんのセンスはこのメンバーの中でも特に尖ってると思うが、本作は案外読みやすかった。小部屋の被害者が○○という真相を難なく受け入れられたのは、それだけロジックが良かった証と思う。オチは酷い(笑)。

山口雅也 「毒饅頭怖い 推理の一問題」 8点
本短編集で個人的なNo.1。下手人と嘘つきを切り分けており、拗らせたミステリ好きらしさ全開のめんどくささが面白かった。(めんどくさいは誉め言葉です。)
あとオチがくだらなすぎて好きなので+1点してます(笑)。

我孫子武丸 「プロジェクト:シャーロック」 5点
正直微妙だった。我孫子さんは当たり外れが大きいイメージだが、今回は外れ側かな。

有栖川有栖 「船長が死んだ夜」 6点
手堅い印象の火村シリーズとしても地味な作品。量産型火村短編の一つで特筆点無し。

法月綸太郎 「あべこべの遺書」 6点
謎の提起段階では短編集の中で一番凝ってて面白い。ただ短編なのでしょうがないのかもしれないが、綸太郎の発想力がすご過ぎる気がする。探偵の推理が飛躍気味というのは、本作に限らず短編ミステリが抱える普遍的な課題だがね。

歌野晶午 「天才少年の見た夢は」 7点
人間は合理性の無い行動をとり得るという主張が見所だと感じた。経験を積んだミステリ作家が言うと結構重い主張よね。
叙述トリックに関しては、本作家達の過去作を読んできた多くの読者にとっては物足りないだろう。

綾辻行人 「仮題・ぬえの密室」 5点
読み物としては面白かったが、名探偵というテーマに沿っていないような。他作家が一応名探偵を出している中で一人逃げを感じた。ちと残念。
内容に関しては登場人物達(我孫子、法月、綾辻、小野)の著書を読んだ状態の方が小ネタを拾えて面白さアップかも。

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