home

ミステリの祭典

login
ミステリ初心者さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:388件

プロフィール| 書評

No.288 5点 告白の余白
下村敦史
(2021/10/18 19:46登録)
ネタバレをしています。

 突然帰省してきた兄が遺書を残して自殺するという、衝撃の始まりでした。双子の弟が兄の元恋人?の女性やその関係者に探りを入れ、真相を暴く…という内容なのですが、始まりに対してミステリ要素が薄く、ただ読むのに疲れました…。
 京都の独特な文化や気風になにかしらの伏線が張られているとは思ったのですが、中盤あたりまで読んでも、あまりミステリらしいことが起こらず、本格好きとしては読むのに苦労しました。
 ラストの展開も、ものすごく驚きのあるドンデン返しというわけでもなく、最後の100ページぐらいは斜め読みしてしまいました。キャラクター達の本音やこれからにもあまり興味が持てず…。


No.287 6点 ドロシイ殺し
小林泰三
(2021/10/11 19:20登録)
ネタバレをしています。また、シリーズのネタバレもしてしまっているかもしれません。

 シリーズ3作目です。ちょっとかわいくてどこか狂ったメルヘンな世界と、それと連動したような現実世界での出来事が交差するのが恒例になっています。とても読みやすく、毎回読了まですぐです。メルヘンの世界での登場人物の一部と、物語の主観の一人のビルが、ちょっとアホな会話をしているところが合わない人もいるかもしれません。ただ、個人的には、今回のビルはアホなようで賢いような、哲学的な問答があって面白かったです。

 推理小説部分もなかなか満足しました。
 犯人当ての核となる部分は勘違いから生まれたもので、それほど濃厚ではありませんが、ヒントを残してくれているのがありがたいです。また、これまでのシリーズを逆手に取ったような叙述トリックも用いられており、シリーズファンも驚かされてる工夫があり、マンネリ感は感じませんでした。
 私は、ドロシイとおばあさんの会話を露骨に疑っており、メルヘンが舞台での会話ならどうなるか?を考えていました。会話を成立させるために、おばあさん側が狂っていることも考えましたが、それがイマイチ犯人当てにつながってこなくて、本全体を解くことはできませんでした。

 大変読みやすく、推理小説部分も損なわれていないシリーズで重宝しておりますが、作者が亡くなられてしまったようで、次のティンカー・ベル殺しが最後になってしまいます。ショックです…。


No.286 6点 聖母
秋吉理香子
(2021/10/04 19:19登録)
ネタバレをしています。

 苦労を重ねた不妊治療の末に生まれた我が子を守るためなら何でもする母親と、幼児を連続殺人する犯人の視点が交互に書かれた作品です。

 不妊治療と幼児の殺人、一部を切断する…など、やや読みづらい内容が多かったです。しかし、文章自体の読みづらくなく、内容のわりには早めに読了できました。

 序盤から、叙述トリックの臭いがプンプンしていたので、あからさまに警戒して読みました。
 田中真琴が女性であること、真琴の母親が死体処理をして証拠隠滅をしていたことは読めたのですが、肝心の保奈美が真琴の母であるということと、真琴が薫の母であることが予想できませんでした(涙)。結末を読んだ瞬間に、どうしてこれが気づかなかったのか、自分はなんてアホなのか…と慟哭しました(笑)。真琴が女性であるならば、作者は何かしらの目的があってやっていることなので、必死にその可能性を考えたのですが…。やられた感はあったし、しかも、「これは絶対にわからないだろう」という感じではなく、わかった可能性も十分にあった、そんな絶妙な難易度が心地いいです。

 推理小説としては、ツボが抑えられた叙述トリック系としてよくできていたと思います。ただ、2018年発売としては、もう少しだけプラスアルファが欲しいところです。しかし、母と息子・母と娘の構図を母・娘・孫娘の構図と錯視させることをフルに活かすならばこれ以上のひねりはいらないのかもしれません。


No.285 6点 姑獲鳥の夏
京極夏彦
(2021/09/28 00:11登録)
ネタバレをしています。分割文庫版を読みました。

 全体的にホラーや怪奇の色が濃い小説です。
 登場人物の多くがどこか変であり、事件の焦点である久遠寺の家族が一見まともなのですが物語が進むにつれて異様な感じになっていきます。最後には、タイトル通り妖怪の要素も絡みつつ、衝撃のあるストーリーで終わります。
 また、この小説には妖怪的な怪奇は起こっておりません(たぶん)が、榎木津が過去に起こったことを映像として見えるような、特殊能力?のようなものを持っています。また、それがミスリードにもなっております。
 京極堂による、妖怪や宗教や脳科学的な話はかなり長いです。私には難しい話もあったので、読了までかかってしまいました。京極堂の話が正しいかそうでないかはさておき、読んでいて興味深いものが多数ありました。苦痛ではありませんでしたし、また、伏線も多く含んでおり、ただの衒学では終わっていないのが良いところでした。

 推理小説的要素について。
 推理小説としてみた場合、登場人物に嘘つきや常識では考えられない行動をとる人がおおく、また精神が不安定だったり、記憶障害だったり、主観の関口すらその傾向があり、推理することは不可能かと思います。
 推理小説としてでなく、ホラーあるいは広義としてのミステリーとして読めば、読み物として面白かったです。

 総じて、ストーリーや怪奇的なものは乱歩っぽく、人間の汚いところは横溝っぽく、丁寧にちりばめられた伏線とミスリードはクリスティーのような小説でした(ちょっとほめ過ぎか…?)。
 やや現実的ではない要素が多いため、読者の推理が楽しめる小説ではなく、私の好みではないのですが、つまらなかったわけではありません。


No.284 7点 兇人邸の殺人
今村昌弘
(2021/09/20 18:26登録)
ネタバレをしています。

 待望のシリーズ第3作! 非常に読みやすい文章に、丁寧な描写や館見取り図、ワトソン役葉村による容疑者タイムテーブルなど、全くストレスがありません。かつ、今回も現実には存在しない巨人や、人体実験を受けた生き残りなどをうまく絡めつつの犯人当てや不可能トリックは健在です。

 非常に濃厚な本格要素がおおいです。主に4つあり、それぞれすべて水準が高かったです。

 前半の、探偵剣崎比留子による犯人当ては、倒叙形式でのミステリになっており、これだけでも1冊分の価値がありました。正直いって、この部分が一番出来が良かったです。ただ、挑戦状、あるいはそれを示唆する文が無かったために(自分はそう感じましたw)、私があれこれと考える前に比留子が解いてしまいました(涙)。読者と共に解く本というよりかは、探偵比留子が勝手に解くのを眺める小説のようで残念です(笑)。まるで、石持浅海。挑戦状がついていれば大幅加点するのですが、この作者は従来の推理小説を揶揄することを多く書いており、絶対に挑戦状などつけないでしょうね。

 次に、誰が雑賀を殺したか?という犯人当てについてです。中華包丁関連の話や、不木の首切りなど、非常に論理的で隙が無い犯人当てでした。たとえ、雑賀の首の謎(いつ切ったのか、いつ運んだのかなど)がわからなくても、とりあえず犯人当てはできるという趣向(?)であり、フェアさを感じました。

 雑賀の首はいかにして切られたか、については、密室などと同じ系統の不可能犯罪ととらえて読みました(笑)。血のトリックによる、首を切られた時間の詐称は盲点でした…。剛力が雑賀の死体の発見した後では、首を切るのは非常に難しくなってしまうため、むしろ剛力が発見した時点で切れていたのではないかとも考えてしまいましたが、それだと馬鹿ミスですね(笑)。ただし、生き残りは出血死しない的な要素がありますが、これは説明不足と思います。あと、巨人が雑賀を発見して首を切るか?は偶然の要素が絡みますし、第一犯人の狙った通りの時間ではなかった偶然もあっての不可能犯罪なので、どちらかというと好みではありません。

 最後に、いかにして鍵をゲットするかという問題。まるで、北山猛邦氏のような狂気じみた方法で、大変気に入りました(笑)。負け惜しみですが、北山猛邦作品だったなら、解いた自信があります(笑)。

 総じて、個人的シリーズ最高傑作の魔眼の匣よりかは劣るものの、推理小説としての密度と水準は依然として高く、早くも次の新作が待ち遠しいです。


No.283 4点 黒い仏
殊能将之
(2021/09/06 19:31登録)
ネタバレをしています。

 前半は事件を追う中村警部による警察小説と、探偵石動によるトレジャーハントのような内容です。警察小説は情報が徐々に出るタイプが多く、個人的にはあまり得意ではありません。トレジャーハント部分もあまり興味のない仏教や漢詩の話が出てきて、いまいちページが進みませんでした。
 かと思ったら、いきなり幽遊白書(?)のような法力による妖怪バトルが始まりました(笑)。これには仰天です(笑)。
 やがて、探偵が犯人(?)のアリバイに利用されてことを知ってから事件が大きく動きます。指紋を全て消す必要があったことから、石動の推理は私も予想することができたのですが、その先はさすがに無理すぎますね(笑)。

 以下、難癖点。
 これまでも、現実に実現不可能な力や存在を前提にした小説を見たことがありますし、それに対して抵抗はありません。しかし、本作品は過去読んだどの作品よりもミステリになっていませんでした。
 大きく2パターンあると思います。
①名探偵が推理を披露し、事件が一件落着したとおもわれたが、よく考えると論理的に間違った点が1点あり、やはり幽霊や妖怪だったのか…というオチ。
②あらかじめ現実にはないもの(幽霊や超能力やゾンビや魔法)の存在を明らかにし、能力を細かく定義しておき、それを推理に組み込むタイプ。
本作品は、そのどちらでもなく、夢落ちなどと同レベルの話でした。ぶっちゃけると全く好みではありませんでした。


No.282 6点 誰も僕を裁けない
早坂吝
(2021/08/29 18:06登録)
ネタバレをしています。

 この作者の本は、たしか4冊目になります。どれも明るい作風で読みやすく、一瞬で読み終わります。この本も例外ではなく読みやすかったです。しかし、レイプ事件や自殺が話に絡み、さらに上木らいちのチョメチョメも失敗し、前作よりかは暗いというかまじめというか?

 ギャグ調や、メタ的なネタ、チョメチョメシーンなどユニークな要素があるシリーズですが、実は無駄な場面があまりない、洗練された本格推理小説でした。ギャグっぽい文章に推理小説がすこし付け加えられたものではなく、すべての要素が解決・ミスリード・伏線となっていると思います。さんざん使われた回る館のネタもあまり既視感がないように思える工夫がされていましたし、ラストの驚きの要素にも寄与してました。
 わたしは、戸田と埼の物語と上木らいちの物語を別々に書くということは叙述トリックと決めつけていました(笑)。なので、戸田が行為を行った館は、東蔵邸だと決めつけていたのですが…あとのことはさっぱりわかりませんでした。殺人(三世殺し)を、犯人と人が同居する部屋で殺人が行われるとは、前代未聞?のトリックですね(笑)。
 戸田の目撃した春日部に似た女性は上木らいちだったということは、いくつかのヒントで感づきました。

 読みやすい本が読みたいが、質も確保したい。そんなときに重宝するシリーズです。


No.281 6点 だれもがポオを愛していた
平石貴樹
(2021/08/21 20:04登録)
ネタバレをしています。

 雰囲気が大変よく、まるで翻訳物のように楽しめます。魅力的な謎もおおく、ポオ作品の見立て3連続であり、かつ推理小説的要素以外の無駄なものが一切なく、ページ数の割に内容が大変濃かったです。
 挑戦状付きということもあり、メモを取りながら読んだのですが、メモだけでものすごい分量になってしまいました。にもかかわらず、解決編ではそのことごとくが回収され、無駄のなさを再確認できました。
 若い女性が探偵役なのですが、必要以上に漫画的でもない点もいいですね。
 実は、この作品が読みたいために、アッシャー家の崩壊がはいった短編集を買って読みました。アッシャー家の崩壊を事前に読んでおくことで、この作品全体を楽しむだけでなく、”アッシャー家の崩壊を犯罪小説として読む”も面白く読むことができました。

 推理小説部分について。
 非常に細かい論理によって驚きの真相が明らかになります。この、どんでん返し的結末と、論理的な犯人当ては相性が悪いと個人的には思っています。どんでん返しには多少無理がつきものですしね。ちゃんと推理小説として両立しているのが素晴らしいです(しかし、難癖点もあり)。

 私は、いまいち当てられませんでした。
 予想できたことは、作品のあらゆるところから、かなりロバートが事件にかかわっていることがわかりました。さらに、チェリー・ジャックリーンの犯行時刻の矛盾から、共犯的だと感じました。
 小屋の窓が割れていたことから(ペンチ問題も含む)、まずロバートが棺を運び(アッシャー家の崩壊の見立て)、何者かが解錠できないかつドアを破壊できないものが窓を壊して何かし、犯人が黒猫やベニレスの見立てを行った順だと思いました(3人存在した)。窓を割ったのはメアリアンだとも感じましたが、まさか内側で割られていたとは…これには、自分のバカさを呪いましが。
 ロバートが妹を殺すために爆破したわけがないと最後まで思っていて、そこから推理が進みませんでした。小屋の問題(メアリアンが棺に入れられていたこと)がわかれば、メアリアンが死んだと装ったこと、メアリアンが家に戻ったことなどがもしかしたらワンチャン予想できたかもしれません…。

 以下、難癖部分。
 読者から見れば、共犯が3人いるようなものです。しかも、全員が全員、どこかで不幸な偶然や幸運な偶然が起きていて、これでは真相を完璧に予想できるのは不可能と思われます。少ないながらもヒントが出ていて、解決編の真相ならば最も無理なくすべての謎を解決できるとは認めますが。
 難易度的に、”アッシャー家の崩壊を犯罪小説として読む”は解決編前に入れても差し支えないと思うのですがどうでしょう(笑)。ニッキもこれを読んで犯人を当てたようですしね。すこし、真相に触れているので難しいのでしょうかね。しかし、やはり本作品は難易度が高すぎる気がしますよ(笑)。


No.280 6点 だれがコマドリを殺したのか?
イーデン・フィルポッツ
(2021/08/18 19:54登録)
ネタバレをしています。

 2015年の割と新訳を買いました。実は、赤毛のレドメイン家を買おうとしたのですが、なかなか新訳で買えませんでした(笑)。

 さて本作ですが、訳が新しいためか、非常に読みやすく、ページが進むのが速かったです。しかし、事件発生までが長く、主人公ノートンと妻ダイアナの愛憎劇でかなり費やされます。自分には合っていなかったようで、「はやくだれか死んでおくれよ…」と思いながら読んでしまいました(笑)。

 ダイアナが謎の病気にかかってからが事件性がでてきて面白くなるのですが、まあこの手のトリックはミステリファンならば1度は体験するような類ではあり、察してしまいました(笑)。それに、ちょっと現実離れしているとも思えます。姉妹が似ているところ、ダイアナの演技力が高く女優志望だったこと、事件後はノートンとマイラ(ダイアナ)があまり会っていないことなど、読者に納得感をもたらす要素がちりばめられているところはよかったです。


No.279 6点 ウッドストック行最終バス
コリン・デクスター
(2021/08/12 20:01登録)
ネタバレをしています。

 ニコラス・クインの静かな世界以来のコリン・デクスターの作品を読みました。
 個人的には、非常に読みづらかったです(笑)。警察視点で事件の捜査が進むので、情報が少しずつ明らかになっていき、途中でモース警部が推理をする→新情報が明らかになり否定される→新しい推理…の流れなのですが、私はこの流れの推理小説があまり得意ではありませんでした。事件の最初から読者が推理を楽しめる情報が提供されるアリバイトリック系・犯人当て・不可能犯罪などは、それについて考えながら読み進めるので退屈しないのですが。
 多重解決系としてみても、ちょっとパンチ力が足りない感じでした。論理的な推理、突飛な推理、いろいろな可能性が語られるとよかったのですが、モース警部による最後の推理以外はよく覚えていません。多重解決というより、後期クイーン問題(?)の連続のほうが正しいのでしょうか?
 また、主観の人物の文章もころころと入れ替わり、それも読みづらさを感じました。
 しかし、モース警部による真相の解明のシーンの推理は圧巻でした。非常に論理的だったと感じましたが、読みづらさもあり、私にはとても当てられなかったでしょう(笑)。
 あとは、モース警部の悲恋が書きたかった?のか作品全体的にまじめな雰囲気なのが残念でした(笑)。私のモース警部のイメージはもうちょっと面白おかしいキャラターだったような気がしますが、まあ私のモース警部歴はまだ2冊目なのでよくわかりません(笑)。


No.278 6点 木製の王子
麻耶雄嵩
(2021/07/30 18:59登録)
ネタバレをしています。

 この作者の作品は割と久しぶりに読んだ気がします。
 この作者にしては、わりと王道な本格推理小説の色が濃い作品でした。ところで、私はこの木更津悠也が出るシリーズは、初作の翼ある闇しか読んでないのですが、大丈夫だったんでしょうかね(笑)。
 ちょっと不思議な館で起こる連続殺人。館で暮らす一家は常識人にみえて、すこしずつ異常さがでてくる。登場人物(主観の一人)の過去には、この一家の子供かと思われる人もいて、かといって冷たくあしらわれたりして、興味がそそります。
 ただ、文章自体はやや読みづらさを感じました。主観の人物がコロコロ変わり、かつ人数も多いです。さらに、音楽、絵、宗教などについての文が個人的に興味がなくて読むのがきつかったです(笑)。主観人物や、宗教の話は、それぞれラストにもかかわってくるのですが、もうちょっと短くしてほしかったです。

 推理小説的要素について。大きく分けて、晃佳殺しのアリバイと、宗教的で意外な動機が良かったです。一家の秘密もダイナミック(?)で楽しめました。
 晃佳殺しについて。容疑者達の非常に細かいタイムテーブルと、それについての検証がなされています。図を文を交互に見て、やっとのことで理解していきました。ピブルの会で毒チョコ張りの推理合戦(?)していましたが、吉村の解答は単純ながら盲点で楽しめました。私は吉村の答えにはたどり着けませんが、タイムテーブルを見た瞬間、全員グル臭いな…と感じてしまいました(笑)。晃佳が整形を繰り返していたという情報が出てからは、白樫家偽家族を確信しました(笑)。
 作者視点では、犯人の犯行の動機と偽一家は、晃佳殺し(全員グルでタイムテーブル通りに動いてアリバイ形成)がやりたかった結果作られたのだと思いますが、動機面もなかなか狂っていて(?)楽しめました。私は全く予想できませんでした。ただ、あれだけ血を見た殺人事件の割に、ラストが極めてあっさりですね。安城と倉田の何かしらのリアクションを書いてほしかったですね。

 総じて、若干読みづらさもあったものの、本格推理小説として破綻していないレベルでの驚きがあり楽しめました。この作者は、すべてをぶち壊すラストを書きがちという印象が、個人的にはありました(笑)。


No.277 5点 涙香迷宮
竹本健治
(2021/07/23 20:24登録)
ネタバレをしています。

 暗号ミステリは今までに読んだことがなく、新しいジャンルに挑戦するつもりで読んだのですが…合いませんでした(笑)。

 涙香に対する情報や、囲碁やいろは歌などの情報の多さがすごいし、作者が作った(?)いろは歌49首とそれにまつわる暗号は作るのが大変だしすばらしい…とは思うのですが、読んでいて面白いものではありませんでした。

 推理小説的殺人事件も起きます。それも、クローズドサークルで…。しかし、これも論理的に犯人を当てるものでもなく、不可能犯罪でもなく、あっと驚く動機があるでもない。暗号ミステリのおまけという感じでした。

 私はコテコテの本格しかダメなのかもしれません(涙)。


No.276 6点 悪霊の館
二階堂黎人
(2021/07/16 19:45登録)
ネタバレをしています。

 ページ数が800を超える、超大作長編です(笑)。
 非常に本格度の強い作品でした。名家骨肉の遺産争い、奇妙な館、魔女狩りや黒魔術めいたオカルト、密室による不可能犯罪、連続大量殺人、意外な犯人とドンデン返し。すべてつまっていました。本格好き垂涎の内容であり、本格以外の部分があまりなく、800ページであっても長いとは感じさせないのがすごいとおもいました。横溝作品とカー作品を合わせて欲張りセットしたみたいに感じました(笑)。

 推理小説部分のメインの謎はというと、大きく分けて2つ。密室と、首無し殺人による2重の入れ替わりがありました。
 まずは密室について。犯人の狙い通りであり、偶然の余地のない、密室らしい密室でした。物理的トリックと、心理的トリックが合わさった、内容の濃い密室でした。ただ、私の頭が悪く理解力に乏しいため、蘭子による密室の解説を聞いてもいまいちピンときませんでした(笑)。
 次に、首無し殺人による犯人入れ替わりトリックです。こちらのほうが私の好みなのですが、双子・首無し死体・首と胴体が離れた死体・硫酸によって顔を焼かれた美幸?・顔をめちゃくちゃに殴られて殺された好子?…とこれだけ要素がそろうと、結末を予想できないほうがおかしいレベルです(笑)。わかりやすすぎて、ミスリードを疑ってしまいました…。

 総じて、本全体の雰囲気と読みやすさ、驚きの展開のプロットは非常に満足しましたが、本格推理小説としてのトリックは軽め…という印象です。


No.275 6点 本格推理⑤犯罪の奇術師たち
アンソロジー(国内編集者)
(2021/07/10 01:48登録)
ネタバレをしています。

 ちょっとずつ読んでいったので、最初の方は大分忘れてしまってます。軽く再読して思い出しつつ書評します。

・犬哭島の悲劇
 犬がいる島ということで、嫌な予感がしました(笑)。

・アリバイのゆくえ
 非常に細かい論理で犯人に迫る推理が良かったです。

・クロノスの罠
 犯人の犯行が成功するかどうかわかりませんが、なかなか面白いトリックです。ヒゲに関しての話も面白くて、すこしだけ叙述トリックのようなものを入れているのもいいですね。

・鬼神たちの夜
 半分ぐらいは予想しましたが、半分ぐらいは外しました(笑)。ページ数に対して、かなり濃厚な話でした。

・夜間飛行
 いまいち印象に残らなかったです。

・黒い白鳥
 トリック+動機面の予想も楽しい作品でした。

・鬼が躍る夜
 まず、不思議な事象があり、それに対して合理的な解決を予想する系。短編向きだと思います。

・天に昇る足跡
 ちょくちょく見る、足跡の問題ですが、単純ながら全く分かりせんでした。面白かったです。

・鳶と鷹
 推理するには少しだけ知識のいるような気がします。しかし、ネタばらしされた直後は、なるほどと感じます。私はこのタイプの時計を見たことがなかったので、ちょっとだけイメージがしづらかったです。

・シャチの住む密室
 これはいまいち(笑)。

・疾走する殺意
 非常に面白い殺され方をしていて興味がわきました。しかし、トリックはというと、まあこれしかないだろうというものでした。どんでん返しが面白く、一人芝居の台本のような小説が活かされている気がします。

・極魔術師ドクター・フランケン
 私はさっぱりわからなかったのですが、犯人の手際が良すぎてアサシンズ・クリード(笑)。読者からは2重の罠を仕掛けられているように見えて、凝っています。

・妻は何でも知っている
 安楽椅子探偵。ABCDの記号がつかわれていて、読みやすい(笑)。共犯者がいるとはいえ、偶然の余地があまりない密室で楽しめました。

 総じて、これまでと同じように、本格色の強い短編集で、満足しました。クロノスの罠と天に昇る足跡が心に残りました。


No.274 7点 ブルーローズは眠らない
市川憂人
(2021/07/01 20:28登録)
ネタバレをしています。

 前作に引き続き、魅力的で読みやすい本です。
 マリアと漣の掛け合いやキャラクター、サイエンスフィクション(ノンフィクション?花万博でみた薔薇は、白っぽい青紫のカーネーションのようでしたが、結構昔なんで今はどうなっているのか)、密室殺人事件、サスペンス性のある過去の事件。非常に多くの要素を含んでいる本ですが、テンポもよく読者の理解もスムーズになるように書かれています。
 前作、ジェリーフィッシュより格段に読みやすさを感じました。私が苦手な科学的な話も、面白く読むことができました。

 密室殺人事件についてですが、これもポイントが高いです。
 犯人(ここではエリックとアイリス)が自分を有利にするために、自分の狙いを持って、偶然や幸運の要素が一切ない状態で作られた密室です。この密室を成立させるためには、共犯でないといけないし、殺人事件と思われたものが他人の手を借りた自殺なければならず、それは私の好みではありませんでした。とはいえ、真っ向から密室に挑んでいる作者には好感が持てましたし、トリックも渋めで好みでした(笑)。
 共犯とはいえ、非常に作りこまれたトリックであり、おどろきと感動(?)を味わえました。
 槇野茜殺しと、クリーブランド襲撃が、警察の犯行なのも好みではありませんでしたが、そこまでルールがガチガチなフーダニットではないので、まあいいでしょう(笑)。

 次に、いくつかの叙述トリックとドンデン返しがありました。
 過去の事件と現在の事件が大きく異なっていて、おそらくは日記に書かれている日にちよりもずっと昔だろうことは私にも気づけましたが、他のことはさっぱりでした。またもや、性別詐称トリックに引っかかってしまいました(笑)。女性にフランキーって名前つけるんですかね(笑)。
 
 密室事件、叙述トリック、過去の事件と現在の事件、そのすべてが、ラストのドンデン返しと、物語全体の悲しい復讐劇につながっております。こういった本はなかなか希少だと思います。
 密室やアリバイトリックを楽しむ本は、プロットに無理がある本が多いように思えるし、プロット重視の作品は小粒な叙述トリックのみで終わってしまって本格推理小説として物足りなかったり…。本作品は、そのどちらもおろそかになってないと思います。
 救いのあるラストもいいですね。


No.273 6点 クール・キャンデー
若竹七海
(2021/06/23 18:53登録)
ネタバレをしています

 非常に読みやすい文、かつ160ページで終わるため、2日ぐらいで読み終えました。
 タイトルと、表紙から感じるさわやかさとは裏腹に、結構おもたくて本格的な推理小説での話でした。しかし、主人公・渚のキャラクターと、行動力によって、物語が徐々に明るくなっていき、閃きによって兄が救われ、大団円で終わり!…かと思いきや、ラストの1行で急転直下のイヤミスと化しました(笑)。

 推理小説的には、2つの点が興味深かったです。
 まず、渚の行動の"柚子に変装し田所浩司を脅かす"が意図的に書かれておらず、また渚自身の聞き込み調査のシーンもあって、事件当日に田所を起こした人物=渚とは全く思えませんでした。これって叙述トリックでしょうかね?
 また、最後の一言で、"田所浩司殺人事件"ではなく、"柚子殺人事件"だったのでしょうね。読者に被害者を錯覚させていたのですね。

 ちょっと削れば短編にもなりそうなぐらい短い作品ですが、ミステリ本来の楽しみが味わえる作品だと思います。
 全く関係がありませんが、私は過去にニコ〇コ動画にはまっていたことがあり、ある人物の名前に反応してしまいました(笑)。1字違いですね。


No.272 6点 魔偶の如き齎すもの
三津田信三
(2021/06/20 18:55登録)
ネタバレをしています。

 全て刀城言耶シリーズの中短編です。これまでのシリーズ同様、妖怪や宗教や民俗的(?)なホラーと、多重解決が楽しめる本格推理小説です。シリーズのファンなら楽しめると思います。

・妖服の~
 どうやって凶器を運んだか?ということが焦点になっています。
 電話線を使ったり、花火を使ったりする推理は楽しめました。郵便局員のコスプレをした推理が一番現実的に感じました。
 私は、回覧板を使ったのではないかと一瞬だけ考えましたが、まさかあの時点ですでに殺し終えてるとは思いませんでした(笑)。

・巫死の~
 いかにして不二生は消えたか?が問題です。
 設定が面白く、話に引き込まれました。しかし、最終的な推理は私の好みではありませんでした…。

・獣家の~
 2人の獣家についての不思議な証言と、インチキ宗教に騙された男の証言から合理的な解決をする話です。
 大学生の証言が坂を下っていることはわかりましたが、歩荷の証言を照らし合わせるのが面倒で、真相には気づけませんでした(笑)。ドラマのトリック的な、大がかりな真相でしたが、面白さは普通ていど…。

・魔偶の~
 密室に近い事件です。不可能犯罪というわけではなく、4人の中から誰が犯人であるかとうのが問題です。卍堂の見取り図を見ると、思わずワクワクしてしまいますね(笑)。
 実は私は、祖父江偲が登場したとき、露骨に怪しんでしまいました(笑)。シリーズを読んでいる人にとっては、みんなそうだと思います。関西弁やうちなどの特徴がみられませんし、微妙にキャラクターが異なっていますもんね。
 祖父江偲犯人説は置いておき、他に考えたのは、お里犯人説に近いものでした(笑)。
 小間井犯人説は、連作短編特有の、それまでの話にヒントが隠されている感じで面白かったです。
 魔偶の~全体として、動機や印象で犯人を決めつけている感じがあり、本格推理小説としては叙述トリックありきな印象でした。

 もうすぐ、シリーズ長編新刊がでるようですね。たのしみです。


No.271 6点 第二の銃声
アントニイ・バークリー
(2021/06/15 00:27登録)
ネタバレをしています。

 個人的には毒チョコ以来のバークリー作品です。
 読み初めは、なかなか読みづらかったです。一気に登場する登場人物、様々な場所設定、エリックのキャラクター、いけ好かないピンカートン(笑)。しかし、シェリンガムが登場したあたりからピンカートンが変わっていき、物語も明るくなっていき、そこからは時間をかけずに読み終えることができました。

 推理小説的要素は、事件が1件だけにもかかわらず、二転三転する展開が濃厚で満足感が強いです。多重解決的なのりもあり、さらに最後にはどんでん返しが2回ほどあります(笑)。
 私は、この小説が作中作になっていることを知って、嫌な予感がしました(笑)。まあ、こういう展開では、まず記述者犯人を思い浮かべますよね。私の知っている、超有名作品の記述者犯人ものは、この作品よりもわずかに早く出版されているようですね。
 私の嫌な予感は最後には当たっていたのですが、まあとりあえず記述者の記述を100%信じるとして作品を読み進めました(笑)。メタ的な読みで、なんとなくエリザが犯人だと思いました。理由は犯人ぽく無いからです(笑)。
 どんでん返しが楽しめる作品ですが、真相を当てるのは不可能かと思われます。あえて隠している記述がありますし、そもそも偶然の要素が強すぎますよね。

 不満を書きましたが、ピンカートンの恋愛小説としてもなかなか楽しめました(笑)。被害者がくずなので、後味が悪くならないのもいいですね。シェリンガムが無能っぽくなってしまって残念なのですが…。


No.270 6点 第四の扉
ポール・アルテ
(2021/06/01 19:57登録)
ネタバレをしています。

 本当に海外翻訳ものかと疑いたくなるほど、素晴らしく読みやすい本です。人・場所・時間の情報が徐々に出てきて、混乱がしづらいです。それでいてテンポが良く、割と早い段階で事件が起きます。ページ数の割に第二の事件が起こるし、さらに不可能犯罪なので、どんどんページが進みます。

 推理小説的要素について。
 2つの大きな不可能犯罪と、最後に大きなドンデン返しがありました。また、本全体的に複雑な事件でした。
 1つ目の不可能犯罪について。かなり強固な密室であり、ドルー警部による推理も楽しめます。私は全く分からず、解決編には驚きました。この系統のトリックは似た趣向の物を2~3作品見たような気がしますが、バレる可能性が高いように思えます(笑)。人間の目ってなかなか騙せませんよね。マジック的で好みですが。
 2つ目の雪の密室について。これは犯人に有利な偶然が重なりすぎていて、ほぼウミガメのスープ系ミステリになってしまっていますね(笑)。雪の密室自体が偶然の要素が強いため仕方がありませんが、ちょっと肩透かしを食らいました。
 最後のドンデン返しですが、私は予想がつかなかったし、驚きではありました。しかし、最後にとってつけたようですね。このラストを活かしたいなら、序盤から作中作であることを明かし、ロナルドと作中作登場人物の共通点を伏線として入れたりしたほうが面白いと思うのですが。

 ページ数の割になかなか内容が濃い、本格度の強い作品でした。初めて読んだ作家なのですが、何作品か買って読みたくなりました。


No.269 5点 九人と死で十人だ
カーター・ディクスン
(2021/05/28 18:03登録)
ネタバレをしています。

 新訳のほうを買いました。そのためか、文章が読みやすかったです。しかし、船内の図などがないため、そういう意味では読みづらかったです。

 指紋のトリックは全く分かりませんでした。私は、指紋をあれこれいじることはできない→死体のほうをどうかしたのかと思い、いろいろと考えてみましたが、どうも整合性ない考えばかりでした。あんなに単純なことで指紋の専門家をだませるものなのですかね(笑)。しかも同じ指紋が2つあるのに気づかない(笑)。現実的とは関係なく、単純に知識がいる問題なので、どちらにせよあまり好みではありません。

 ブノワ大佐(大佐だっけ?)に変装し、一人二役を演じたトリックは、過去に同様のトリックを見たことがあるにもかかわらず騙されてしまいました(笑)。解決編を見ると、いろいろなところにヒントがあり、読者に解かせようとしている作者のフェアさに好感が持てます。ただ、変装系トリックを見るたびに、「これって本当に成立するかな?」と思ってしまいますね(笑)。私が大好きな名作もこのトリックをつかったものがありますが。

388中の書評を表示しています 101 - 120