| いいちこさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.68点 | 書評数:574件 |
| No.514 | 5点 | 誰か Somebody 宮部みゆき |
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(2023/10/03 16:08登録) 筆力の高さは相変わらずで、よく描けている。 作品の主題も悪くはない。 ただ、いかんせん、ミステリとしてはプロットや真相があまりにも平凡であり、回収されていない設定の存在等も含め、抜群の完成度とはいえない。 ストレスを感じることなく、読書を楽しめるものの、読者の心に何かを強く残す作品ではない。 5点の中位 |
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| No.513 | 4点 | むかしむかしあるところに、死体がありました。 青柳碧人 |
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(2023/09/24 09:00登録) 本作のコンセプトを着想した発想力・構成力、論理性・整合性等は、それなりに評価できるのだが、緻密である反面、冗長という印象が拭えないうえ、ここまで改編してしまうなら、著名な昔話を題材にとった意味がほとんど感じられない。 また、重要な設定の後出しが散見される点で、読者の納得感が得られにくい。 発想の奇抜さは買うものの、それが読み物としての面白さにつながっておらず、4点の下位 |
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| No.512 | 5点 | メソポタミヤの殺人 アガサ・クリスティー |
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(2023/08/24 14:02登録) 犯行プロセスの合理性・フィージビリティの低さ、意外性を追求するあまり、フィージビリティを無視した真犯人の設定、実証性に欠ける捜査プロセス等、ミステリとして評価できる要素に乏しい。 また、タイトルとは裏腹に、舞台を中近東とし、主要登場人物が遺跡調査に携わっているとする必然性が感じられない。 世評ほどの傑作と評価することはできない |
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| No.511 | 5点 | ウランバーナの森 奥田英朗 |
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(2023/08/14 20:54登録) 本作の主人公は「ジョン」とされているが、これは明らかにジョン・レノンであろうし、妻の「ケイコ」はオノ・ヨーコ、「ジュニア」はショーンだろう。 著者は、ジョン・レノンが4年間の空白を置いて発表したアルバムの作風が大きく変わった点をふまえ、その「空白の4年間」を埋めてみたかったと語っている。 悪い作品ではないと感じたが、本作が普遍的な意味をもっているのかどうかは、判断が難しいというか、読者によって分かれるところであろう。 本サイトで評価すべき作品ではないことは百も承知で、この評価とする。 著者のもっている引き出しの多さは評価されて然るべきだとは思う |
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| No.510 | 4点 | ダークゾーン 貴志祐介 |
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(2023/08/09 16:51登録) 紙幅の大半が費やされる、将棋を模したバトルゲームは、それなりに描けている。 ただ、目次から勝敗の推移が概ね予想できるという点が決定的な欠陥だろう。 勝敗の帰趨を決定的に左右する重要な設定が、言わば後出しジャンケン的に、徐々に明らかになっていく点、獲られたはずの駒が絶命する前に相討ちにもっていく場合と、そうでない場合がある点など、小説である以上、当然とは言え、著者の匙加減一つという印象をあまりにも強く受ける点でも少なからず減点。 そうなると読者の興味は「このゲームの舞台は何なのか」という一点に集中するのだが、予想どおりの最悪の真相。 著者の筆力は感じるものの、好意的に評価することはできない |
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| No.509 | 4点 | 黄色い部屋の謎 ガストン・ルルー |
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(2023/07/12 17:00登録) 当該真犯人は、本作の刊行当時においては大きなサプライズであったろう。 しかし、現代ミステリを渉猟してきた人間であれば、「奇想天外な犯人にするなら、この人物だろう」と考える人物であり、そのような意味で意外性がない。 また、明かされた真相は拍子抜けであり、犯行プロセスにフィージビリティが感じられない。 このように見ると、現代においては、本作のミステリの歴史における位置づけ以外には、読む意味が見いだせない。 4点の下位 |
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| No.508 | 5点 | イコン フレデリック・フォーサイス |
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(2023/07/09 15:04登録) 現代ロシアの政情を理解するうえで非常に興味深く、また筆力の高さも健在ではあるのだが、主人公のあまりにも超人的な能力・資質が、予定調和的なストーリー展開という印象を生んでいる |
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| No.507 | 6点 | 儚い羊たちの祝宴 米澤穂信 |
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(2023/05/26 10:38登録) 各短編のいずれもリアリティやフィージビリティがほとんど顧みられておらず、ミステリというより、むしろサスペンス・ホラーに類する作品であろう。 著者の筆力の高さが確かに感じられ、水準には達しているが、敢えて説明しない作風も相まって、読後にジワジワと染み透るイメージであり、強烈なインパクトには欠ける。 「身内に不幸がありまして」をベスト、「玉野五十鈴の誉れ」を次点と評価 |
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| No.506 | 6点 | 死が招く ポール・アルテ |
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(2023/05/24 18:43登録) 真犯人の意外性は掛け値なしに認めるのだが、少ない紙幅に多くの要素を盛り込みすぎたことによる副作用が強い。 とりわけ犯人解明の決定打となった犯人の行動は、あまりにも唐突で、かつ内容が非常に不自然であり、伏線としてはあまりにも上手くない。 本作のプロットはよくできているだけに、残念な印象が残る作品 |
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| No.505 | 4点 | ノースライト 横山秀夫 |
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(2023/05/15 13:59登録) 重厚長大な作品のようでいて、ミステリとしての本作の眼目は、結局のところ施主が3,000万円もの大金を払いながら、建築士に設計内容を一任した点と、当該施主がその家屋に居住せず、連絡もとれなくなっている点のみにある。 しかし、そもそも3,000万円もの高額な契約を締結しておきながら、受託側が施主の住所・家族構成等を把握していないということがあり得るのか。 仮に連絡がとれなくなっているとしても、警察に連絡することなく、東京から長野に何度も足を運んで、その行方を捜すものなのか。 最終盤に明かされる真相は、きわめてチープであり、まるでリアリティが感じられない。 このプロットの骨格に魅力が感じられないから、著者の高い筆力が却って冗長・水増しと映るし、さまざまな脇道を経由し、拡散していく話が夾雑物・水増しにしか見えてこない。 まあ、「ノースライト」というタイトルで明らかなとおり、本作の眼目は以上の点にはないのであろう。 すなわち、本作はミステリではなく、主人公に投影・仮託されたバブルからの再生物語ということなのであろうが、そうだとしても、その目論見が成功しているようには感じられない |
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| No.504 | 6点 | 名もなき星の哀歌 結城真一郎 |
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(2023/05/15 13:58登録) 人間のアイデンティティは記憶にこそ存在するという着眼点は鋭い。 ただ、記憶を保管・分離・削除・共有・移植することが可能という設定では、どれほど荒唐無稽な話でも成立してしまうから、却ってサプライズを演出しようがない。 いや、それ以前に、そもそも本作の各描写が現実に発生している出来事なのか、誰かの記憶なのかさえ、区別が付かないという強烈な副作用を生じてしまっている。 ファンタジー・ライトノベルとしては水準を超える作品であり、6点の最下層と評価する。 ただ、本作はミステリとしては評価できないし、そもそもミステリとはいえないのではないか |
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| No.503 | 4点 | メルカトル悪人狩り 麻耶雄嵩 |
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(2023/04/11 16:07登録) 著者の作品を散々読んできた者として、執筆意図は理解できるし、それに意味がないとも思わないが、作品として面白いかどうかは別の話。 同工異曲と比べれば、相当に、非常に強く、見劣りすると言わざるを得ない |
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| No.502 | 4点 | R.P.G. 宮部みゆき |
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(2023/04/06 13:54登録) 本作に底流する、現代社会における家族のあり方に対する問題認識は鋭く、十分に共感性があるのだが、プロットそのもの、犯行動機のリアリティが乏しく、1個の作品として昇華されていない。 また、ミステリとしての基本的なお作法を破ってまで仕掛けた割には、真犯人と、その解明プロセスの双方に意外性がない。 著者の作品としては相当に凡庸なデキで、4点の最下層 |
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| No.501 | 4点 | 乱鴉の島 有栖川有栖 |
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(2023/03/28 18:48登録) まず、相応の紙幅を割いているにもかかわらず、その造形がまるで描けていない登場人物が多く、そうした人物が犯人と指摘されても、何らの感慨も呼び起こされない。 次に、登場人物たちが本島に集まっている理由は、端的に言ってリアリティに欠けるが、それをカバーするような雰囲気づくり、舞台装置の準備が不十分であり、まして、それが犯行動機とは無関係という点に至っては脱力モノと言わざるを得ない。 最後に、犯行プロセスは一貫して偶然の産物であり、真相解明プロセスにも見るべき点が乏しい。 プロット・叙述の双方において、著者の作品としては最低クラスの出来栄えであり、4点の最下層と評価 |
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| No.500 | 5点 | ZOO 乙一 |
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(2023/03/23 08:35登録) 独創的・トリッキーな舞台設定・作風の短編ばかりであるが、いずれの作品も水準に達しており、著者の力量の高さは疑い得ない。 ただ一方で、突き抜けるものがないのも事実で、上手さは感じるが、それ以上ではない 5点の上位 |
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| No.499 | 4点 | 十三角関係 山田風太郎 |
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(2023/03/23 08:35登録) プロットそのものに若干の無理を感じる。 本件真相であれば、実証的な捜査を丹念に続ければ、必ずや解明できるであろうし、犯行動機のリアリティが弱い点でも不満が残る。 全体として平凡な印象 |
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| No.498 | 5点 | invert 城塚翡翠倒叙集 相沢沙呼 |
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(2023/03/07 16:32登録) 第1話は、地味な印象は拭えないものの、全体として堅牢な造りの佳作であると感じた。 第2話は、それより落ちるものの、やはり同様の印象。 第3話は、プロットそのものが荒唐無稽であり、かつそれが読物としての面白さにもつながっておらず、率直に言って論外。 これらを全体として5点の最下層と評価。 第3話がなければ、異なる評価を下していたのは間違いないが、倒叙形式であることの難しさを割り引くとしても、前作の水準には遠く及んでいない |
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| No.497 | 6点 | 山魔の如き嗤うもの 三津田信三 |
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(2023/02/27 12:55登録) 導入部をはじめ、著者の確かな力量を感じさせる力作ではあるが、アラも相当に目に付いた。 まず、舞台装置としての超常現象があまりにも多すぎる。 それらの一つひとつをことごとく、極度の恐慌状態に陥っていた登場人物の誤認と認定していくのだが、かなり無理も感じられ、読者の納得感は得にくい。 ここまで丁寧に説明するアプローチをとるのであれば、これほど大量に設定する必要はなく、却って逆効果になっている。 また、最終盤に二転三転の展開にもっていくのであれば、ここまで皆殺しにするのは得策ではなかったように感じる。 残された容疑者が非常に少なくなり、いずれの真相も予測の範囲を出ないうえ、真相解明プロセスに論理性が乏しく、説得力にも欠けた。 以上、世評が高い点も理解できるものの、やや批判的な立場から6点の下位 |
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| No.496 | 4点 | ボトルネック 米澤穂信 |
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(2023/02/06 19:13登録) 本作のタイトルとエンディングから大きな違和感を受け、それゆえに本作の主題がよくわからない。 「ボトルネック」といえば、そのとおりだが、それが何なのか。 そのように感じる必要はないと言いたいのか。 ただ、このエンディングを提示されてしまうと、そのようには解釈しにくい。 結局のところ、著者がこの物語を通じて、読者に伝えたかったメッセージが何なのかが非常に見えにくくなっている。 これは私の読解力不足かもしれないが、書評を拝見する限り、同じように感じている人も多い。 パラレル・ワールドという思い切った飛び道具まで使うからには、もう少し明確なメッセージがほしかったところ。 4点の上位 |
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| No.495 | 6点 | 巡礼者パズル パトリック・クェンティン |
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(2023/01/23 11:30登録) 著者と翻訳者の、いずれの力量に負うのかは定かではないが、闘牛・カーニバルといったメキシコの異国情緒満載のガジェットを活かしつつ、登場人物の息遣いさえ聞こえてくるような描写は、ミステリとしては出色のデキであり、とにかくよく描けている。 探偵が足下のトラブル解決に振り回され、真相解明が後回しになっていくのだが、そうした展開を通じて、登場人物の造形を掘り下げつつ、その複雑な人間関係がどのように収拾されるのかという興味で引っ張っていく。 多重解決風の趣向は、登場人物が非常に少ないがゆえに、難易度が高かったことと推察するが、読み応えが感じられた。 明かされた真相はサプライズに欠けるものの、十分な納得感を演出しており、また最後にもたらされた人間関係の清算も非常に印象深い。 一読の価値のある佳作であり、6点の上位と評価 |
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