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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.61 5点
麻耶雄嵩
(2012/03/12 21:09登録)
大きな2つのメイントリックが見所。
1つめのトリックはある有名なトリックを極めて大胆に使用している点で作者ならではの奇想。
ただここまで突拍子もない設定とするからには、合理的に説明し得る、少なくとも蓋然性を予感させる程度の背景は必要で、それが皆無である点でファンタジーの域を脱しない。
もう1つのトリックも無理を感じるレベルで正直あまり感心できるデキとは言い難い。
本来ならもっと低い評価が妥当だが、最初に示される真相の完成度が高くこの評価とした。
ネタバレしないように書評するのが難しいが、一言で言って好き嫌いが分かれるとしか言い様がない。


No.60 4点 天使のナイフ
薬丸岳
(2012/03/06 20:02登録)
世評の高い作品だが基本的には少年法という注目度の高いテーマをミステリに仕立てたアイデアの勝利だろう。
性急に結論を求めるのではなく、双方の主張を丁寧に汲み取るようなストーリーテリングにも好感が持てる。
問題はプロットだが評価に値しない。
奇怪・非現実的な状況をどのようにして合理的に説明し、読者に納得してもらえるかがミステリの要諦である。
だから作者は舞台設定・人物造形をはじめプロットを練りに練らなければならない。
ところが本作は真相の恐るべき偶然に対して、何らの合理的説明、共感を得られるような舞台設定もしておらず、結果としてすべてが偶然で片付けられている。
ミステリとしては努力不足と言わざるを得ず、この評価


No.59 6点 99%の誘拐
岡嶋二人
(2012/02/29 20:02登録)
ミステリというよりサスペンスと呼ぶべき作品だが、相変わらずプロットは抜群。
起伏の少ない一本道のストーリーだが、平易かつ簡明な語り口で一気に読ませる魅力がある。
ただ事件の全体像があまりにも早い段階で明らかになってしまう点、盛り上がりに欠けるラストでやや減点


No.58 6点 生首に聞いてみろ
法月綸太郎
(2012/02/28 19:26登録)
首切りの理由、殺人の真相はよく考えられており、ロジックとしては斬新。
しかしロジックにこだわり過ぎるあまり、ストーリーテリングが平板かつ地味で盛りあがりに欠ける印象。
加えて主要キャラクター間の人間関係とそこに起こる事件、終盤の叙述トリック的な仕掛けに強くご都合主義を感じて減点。


No.57 3点 暗闇坂の人喰いの木
島田荘司
(2012/02/24 19:31登録)
御手洗シリーズを書きたいと思いながらも、社会派トラベルミステリ全盛の時代ゆえに心ならずも吉敷シリーズを書かざるを得なかった作者が、約9年ぶりに書き下ろした御手洗長編と聞いていた。
それがこれだとしたらファンとしてあまりにも残念。
島荘の作品だからハードルを上げた訳ではなく、公正に評価してこの点数であり、正直言ってスコットランド編以外は評価に値しなかった。
島荘中期作品の世評を残念な意味で裏付ける作品。
未読の方は「占星術」「斜め屋敷」「異邦」の後は「北の夕鶴」に向かうべきだろう。
(以下ネタバレを含みます)
プロットとボリュームだけを膨らませた「北の夕鶴」の劣化版と断ぜざるを得ない。
メイントリックは完全に同作からの借用。
しかも同作で物理的に不可能との指摘を受けたからか、実現可能性を高めるためにトリックを複雑化させたことで衝撃は希薄化し大きく劣化した。
2つの殺人の奇怪な状況をすべて●●で片付け、地下室との奇妙な一致についても何ら説明しないなど、論理的解決を放棄している。
さらに第2の殺人における犯人の犯行経緯・状況(特に死体運搬と遺書)は全く説明がつかないもので荒唐無稽と言わざるを得ない


No.56 6点 シャドウ
道尾秀介
(2012/02/20 20:43登録)
本格ミステリというよりサイコ・サスペンス風の作品。
真相が見えそうで見えないように計算された多視点の論述構成。
随所に散りばめられた伏線がダブルミーニングをはじめ多種多彩でミスディレクションの嵐。
見事なテクニックは相変わらず。
それだけに犯人に待ち受けるラストには引っかかるものがある。
主題の処理の仕方もやや安易な感は否めず、パッケージ全体としては軽量級の印象。


No.55 6点 マジックミラー
有栖川有栖
(2012/02/19 17:07登録)
第一のトリックは実行困難と思われる点もあるが、チケットに秘められた巧妙な仕掛けがさすが。
第二のトリックはH氏の人気作の先例とも言うべき非常に独創的なもので鮮やかな出来映え。
いま一つ盛り上がりに欠けるストーリーテリング、最終盤の真相解明にあたっての探偵の動きなど不満な点もあるが、単なるアリバイ崩しに終わらない本格魂は感じた


No.54 8点 リピート
乾くるみ
(2012/02/18 13:18登録)
リピートするまでの前半部にかなりの紙数が割かれ、やや冗長な感は残るものの設定としては秀逸。
登場人物の言動が微妙に現実を変えていく様と、カオス理論のバタフライ効果を重ね合わせたような主題が見事。
何より彼らに秘められたミッシング・リンクの謎がシンプルかつ抜群のキレ味で、恐るべき悪意と人生の無常さを思わせる。
ラストはあっけなさが残るがベストの選択だと思う。
イニ・ラブには及ばないまでも、必読の作と評価


No.53 4点 インシテミル
米澤穂信
(2012/02/15 17:52登録)
本格ミステリのコード進行を意図的に乱すような稚気あふれる試みは好感。
骨格とロジックは本格だしストーリーテリングも悪くない。
ただプロットが十分に練られていないため、後半から激しく失速しラストは尻すぼみ。
個性的な舞台設定を全く活かし切れていない。
加えて主催者・犯人の動機をはじめ圧倒的に説明不足。
結局何が書きたかったのか消化不良の感が否めない


No.52 4点 すべてがFになる
森博嗣
(2012/02/12 14:49登録)
これまでで最も世評との乖離を実感した作品。
メフィスト賞受賞作と決定的に相性が悪い。
本作も1個の読物としてはともかくミステリとしては評価すべき点がない。
随所に散りばめたコンピュータ用語と処世訓で装飾しているが、ミステリの本質としては欠陥が多く空想的。
(以下ネタバレを含みます)
そもそも殺人の動機が十分に説明されておらず、想像しようにも非常に無理があり、それを登場人物の個性として片付けるのはアンフェア。
「すべてがFになる」というメイントリック自体が陳腐。
これだけのメイントリックを仕掛けられる犯人なら、こんな迂遠かつリスキーな手段に訴えずとも、目的を達成できるはず。
主人公が他殺体の身元を断定した根拠が不明であり、かつ警察の解剖でも見抜けなかったというのはあまりに無理がある。
第二の殺人の真相がいくら何でも無理筋。
衆人環視の状況の中、犯人があんなに簡単に脱出できるはずがない


No.51 9点 首無の如き祟るもの
三津田信三
(2012/02/11 09:41登録)
ある主要キャラクターに隠されたトリックがわかれば、連続殺人の様々な謎が芋づる式に解ける点で極めて端正で完成度の高いパズラー。
そのトリックが仕掛けられた背景もホラー部分と有機的に連動しており説得力抜群。
加えてメイントリックはご都合主義の恩恵は若干受けているものの、恐るべき企みと言え、切れ味が極めて素晴らしい。
プロットとトリックだけなら10点の評価にも値する。
それだけに前半の冗長なストーリーテリングでスピード感とリーダビリティに欠けた点が惜しまれる。
最終盤のメタミス的展開も明らかに余計で、メイントリックの衝撃を希薄化させた。
荒削りさは感じさせるものの世評どおりの傑作に間違いない。


No.50 8点 悪意
東野圭吾
(2012/02/05 16:13登録)
世評の高い作品だが冒頭が手記である時点でこちらも身構えている。
真犯人は容易に想像がつくので後はミスディレクションを探すだけ。
案の定、犯人はすぐに逮捕され悲しい背景と恐るべき悪意が見えてくると思ったら一転・・・
殺人自体が真の目的ではないという斬新なプロットを評価。
救いがなさすぎる真相だが共感を感じる部分もある。
まとまりが良すぎてややパンチ力不足の感もあるが、類稀なテクニックと完成度の高さを評価


No.49 7点 悪魔が来りて笛を吹く
横溝正史
(2012/02/04 18:07登録)
本格ミステリとしては瑕疵が多く脆弱な印象。
第一の殺人を密室とする必然性の乏しさ、真相に辿り着くプロセスがロジカルに説明されていない、「あざ」の遺伝、帝銀事件に範を取った冒頭の事件がご都合主義に過ぎる・・・
ただ、イントネーションの相違からの推理や、タイトルと同名の曲に秘められた謎はさすがのキレ味。
明かされた陰惨な真相も極めて衝撃的で、多くの伏線を回収し犯行動機を納得させるに十分なもの。
それでいて若干の希望が垣間見えるラストの読後感もよく、読み物としての完成度の高さを評価


No.48 6点 黒い家
貴志祐介
(2012/02/02 18:34登録)
ミステリ要素は少なく純然たるサスペンス。
生命保険のモラルリスクの生々しい描写を通じて、社会保障制度の根幹を揺るがすフリーライダーを想起させる主題はいい。
しかし肝心のサスペンスは想定を下回るレベル。
読了順が逆だったためか後の著者の飛躍ぶりを実感させる結果となった。
リーダビリティの高さを評価に加えてもギリギリの6点


No.47 6点 りら荘事件
鮎川哲也
(2012/01/29 14:13登録)
黒いトランク同様、精緻なロジックで組み上げられた本格パズラーで論理性は評価。
ただし連続殺人が発生しているのに被害者が一向に逃げ出そうとせず、緊迫感に欠けた描写が淡々と続くストーリーテリング、偶然性の混入と登場人物の特異体質に頼った2つのトリックも減点材料


No.46 8点 ラットマン
道尾秀介
(2012/01/25 21:16登録)
非常にテクニカルなストーリーテリングと見事なミスディレクションに加えて、二転三転する真相もインパクト十分。
ただ全体に伏線が少ないうえ、地の文で明らかに嘘を書いている箇所があり、アンフェアな印象を残す点でミステリとしては減点。
それでも着地点で明かされる本作の主題と、プロット、タイトルが完璧に符合する美しさ、完成度の点で高く評価。
読み手側の嗜好によって評価がわかれやすい作品と思う。


No.45 6点 時計館の殺人
綾辻行人
(2012/01/24 21:08登録)
館シリーズ最高傑作との評価にも納得できる佳作だと思う。
舞台設定とプロットが壮大かつ有機的に連携しており、張り巡らせた伏線が遺漏なく回収され、メイントリックも効果的に機能していた。
ロジックと完成度の点では文句なし。
ただ殺人が多すぎる点が大きな難点。
残されたキャラクターから犯人の想像が容易であるうえ、厳しい時間的制限の中で膨大な連続殺人とアリバイ工作を1人でやってのけた超人的技量に違和感が残る。
6点の最上位


No.44 3点 密室殺人ゲーム王手飛車取り
歌野晶午
(2012/01/19 19:39登録)
ネット上での殺人推理ゲームという特殊なプロットと、作者の18番とも言うべきメイントリックだけが見せ場。
内実は単独では短編さえ支えられない不良在庫ネタの一掃という評価が相応しい。
プロットの性質上フーダニットにはならず、動機なき殺人であるためサスペンスにもならない厳しい制約条件を、鮮やかなトリックで乗り越えて欲しかったのだが一部を除いて貧相なデキ。
とても高い評価は付けられない


No.43 10点 容疑者Xの献身
東野圭吾
(2012/01/15 15:06登録)
(以下ネタバレを含みます)
メイントリック自体は古典的でありふれたものだ。
しかも、●●の記載の不在、犯行直後のXの発言、死体の状況、Xの勤怠表と弁当購入の事実、技師の存在、娘の友人の証言等、決定的な伏線がごまんとある。
とりわけ「幾何の問題に見せかけて実は関数の問題」は極めて秀逸な含蓄のある伏線である。
にも関わらず見事に騙されてしまったのはひとえに倒叙形式によるところが大きい。
何と言っても我々読者にとって犯行経緯はすべて明らかになっているはずだから。
その先入観と、崩れそうで崩れない映画館のアリバイ、平々凡々とした下町の描写、そしてタイトル自体が強烈なミスディレクションとなり真実を隠蔽してしまった。
これほど倒叙形式が遺憾なく効果を発揮しているケースは寡聞にして知らない。
ただこれだけでは古典的なトリックに新たな光を当てたテクニックは賞賛できるとしても、スケール感はそれほど感じない。
衝撃を受けたのは本作の主題である。
どう考えてもXは通常の倫理観から逸脱した精神異常者であり、歪み肥大化したエゴの持ち主である。
彼の行為は自己中心的な卑劣極まるおぞましい犯罪行為であり、献身や自己犠牲などでは断じてない。
最大の犠牲者は無論技師である。
それを探偵には「とてつもない犠牲」と呼ばせ、ヒロインには「底知れぬほどの愛情」と呼ばせ、作中のどの人物もXの異常性を弾劾しない。
そしてタイトルには「献身」の2文字。
これは一体どういうことだろうか?
断っておくが私は倫理観をもってXの行為を断罪しているのではない。
そんなことを問題にしていたらミステリは読めない。
問題はXではなく筆者だ。
Xの行為を賛美していると理解されかねない作品を描いた筆者の真意に思いを馳せるのである。
本作のラストは様々な解釈と感慨を許容する柔軟構造になっている。
Xの行為への感動、Xの行為自体への非難、Xの行為が結果としてヒロインをより苦しめたことに対する非難、Xの人間・女性理解の乏しさへの指摘・・・
どれもが正解になり得る。
この問題作を様々な批判を覚悟のうえで敢えて描ききった著者の凄みを感じざるを得ない。
本作の素晴らしいストーリーテリング、巧緻極まるテクニック以上の衝撃がそこにある。


No.42 7点 扉は閉ざされたまま
石持浅海
(2012/01/13 20:47登録)
作品全体のプロットの秀逸さと解決に至る精緻なロジックは評価。
しかし、キャラクター造形と展開されるストーリーに強いギャップを感じてしまい、終始リアリティに欠ける印象。
そして決定的に問題なのは動機とラスト。
犯人に共感できず、従って結末に納得ができずカタルシスは得られなかった。
技術的には水準以上なだけに惜しい作品

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