いいちこさんの登録情報 | |
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平均点:5.68点 | 書評数:570件 |
No.230 | 7点 | 龍神の雨 道尾秀介 |
(2016/01/21 20:39登録) 二組の兄弟の偶発的すぎる接触、「雨」や「龍」のこじつけめいたメタファー、読者に対するミスリード(特に脅迫状等)のあざとさ等には難を感じるし、真相は美談にまとめすぎてやや安易な印象を受ける。 ただ、登場人物ごとの虚実を微妙にずらした巧妙なプロットと、それを活かしたミスリードの手際はさすが。 例によって少年を描き出す手腕には卓越したものがあり、圭介の母と兄を想う切ない気持ちは心を強く打つものがあった。 ラジオニュースを活用して作品に余白を持たせる手際も洗練されており、作者の余裕すら感じる |
No.229 | 5点 | 化石少女 麻耶雄嵩 |
(2016/01/19 18:09登録) 推理の無謬性を保証するのは、推理そのものの合理性・論理性ではなく、探偵存在の絶対性であるとの認識に立ち、その探偵を「神様」→「赤点女子高生」→「あぶない叔父さん」と遷移させてきた昨今の試みの一環。 ミステリの本質的構造・脆弱性に斬り込む企みとしては面白い。 探偵が生徒会メンバーを犯人とする恣意的な前提に立ち、与えられた手掛かりからその前提を満たす解決を構築する手順は、受容性こそ全く相違しているものの、基本的には「さよなら神様」と同工異曲。 したがって、同作と同様に、蓋然性を無視した推理が乱発されるものの、推理の反証は存在しない。 この点は連作短編集としての仕掛けには不可欠であるものの、それ故に真相が予測しやすく、衝撃を大幅に減じている点は否めない。 著者ならではの先鋭的な問題認識が読物としての面白さにダイレクトにつながっておらず、昨今の軽量コンパクト路線は脱していない |
No.228 | 5点 | 切り裂きジャック・百年の孤独 島田荘司 |
(2016/01/13 17:02登録) (以下ネタバレあります) 1世紀の時を隔てたロンドンとベルリンを往復しながら、真相を解明するプロットは、傑作「写楽 閉じた国の幻」を想起させるが、真相の衝撃度や合理性、犯行のフィージビリティの点などで遠く及んでいない。 本件原因を猟奇殺人以外に求める立場であれば、5人の連続殺人が立て続けに発生し、それで殺人がストップしたことから、「怨恨」に辿り着くのはそう困難なことではない。 次に、5人もの娼婦が殺害され、性的暴行の痕跡が皆無であるとしたら、犯人が女性であることは当然想定される真相であり、警察がそれを全く顧慮しなかったとは考え難い(「ハサミ男」と同様)。 死体が切開されている理由も、猟奇殺人でないのであれば、現実の犯罪ではともかく、ミステリの世界では真っ先に疑うべき真相である。 こうした意外性に乏しい真相に対し、一方では意外性を演出するため平々凡々とした犯人像を選択したため、その動機の納得性や犯行経緯の合理性に疑問が残り、手際の異様な洗練とのギャップも激しい。 死体によって損壊の度合いが大きく相違する点も、単に犯行が露見しそうだったためという褒められない結論。 一方で、犯行動機や犯人の人物像に対する掘り下げも弱く、サスペンスとしての盛り上がりもいま一つ。 題材の選択や目の付け所が興味深く、5点の評価としたが、ワンアイデアに賭けた作品でありながら、そのアイデアが弱く、これ以上の評価は付けられない |
No.227 | 6点 | 砂の城 鮎川哲也 |
(2016/01/13 16:58登録) 時刻表の盲点を突いたアリバイトリックは、非常に古典的なもので、現代の読者にとっては、いささか古さを感じさせる印象。 しかも、犯行に利用された経路以上に合理的な経路が存在することが判明し、後日加筆・修正されているのだが、相当に苦しいエクスキューズとなっている。 サブトリックも含めて、論理性・合理性・フィージビリティには見るべき点もあるのだが、トリックの難易度が低く、衝撃を演出できていない。 |
No.226 | 7点 | 猫丸先輩の推測 倉知淳 |
(2016/01/08 20:09登録) まず「推測」というアプローチ自体が強烈な奇想。 一見、作者の開き直りや稚気であるように見えて、後期クイーン問題「作中で探偵が提示した解決が真の解決であるか、作中では証明できないこと」に関する秀逸な回答とも言える。 猫丸先輩の推測には高い納得性があり、推測される真相がもたらす衝撃も十分。 本作のプロットは、真相が飛躍しすぎていると納得性に欠け、真相の飛躍が足りないと面白みに欠けるが、実に絶妙なバランスを保持しており、作者の力量の高さは疑い得ない。 ほのぼのとしたユーモアあふれる作風は、長編では軽量さが目に付くところ、短編では軽妙さと斬れ味が相まって完全にフィット。 登場人物に悪人が皆無で、爽やかな読後感も素晴らしい。 短編、しかも日常の謎系としては満点に近い評価 |
No.225 | 4点 | 高層の死角 森村誠一 |
(2016/01/05 17:26登録) 密室トリックは添え物程度の扱いで、メインはアリバイトリック。 移動経路のトリックは、ただ複雑なだけで警察が地道に捜査すれば必ず真相が判明するだけに、本質的には単なる眼くらましでありトリックとは言い難い。 チェックインのトリックは、ディテールに巧緻さが感じられるものの、その構造上必ず共犯が必要である点、それが第二の殺人の動機と矛盾しているように感じられる点等が非常に難点。 刑事・被害者女性・犯人の歪んだ三角関係をより深く抉り出せば、違った展開も見えたように思うものの、その方向には展開しなかった。 以上、力作感はあるものの、本格ミステリとしては構造的に極めて脆弱であり、評価としては4点の最上位クラス |
No.224 | 6点 | 太陽黒点 山田風太郎 |
(2015/12/29 12:56登録) 犯行計画の成立性をはじめ、本格ミステリとしての色彩は淡泊だが、序盤に大胆な伏線を仕込みつつ、一風変わった恋愛小説のようなプロットで、読者を煙に巻く手際は鮮やか。 古典的ミステリとは一線を画す仕上がりは、その時代性を考えれば、著者の高い先見性を窺わせる |
No.223 | 6点 | 動機 横山秀夫 |
(2015/12/25 16:56登録) 4作とも水準を超えるデキであることは間違いない。 無駄のない硬質な文体ながら、各登場人物の心理を抉り出すような描写が冴えている。 ただ各話における反転の構図にやや一本調子さも感じてこの評価 |
No.222 | 6点 | 白昼の死角 高木彬光 |
(2015/12/25 16:55登録) 天才的犯罪者との触れ込みにもかかわらず、手形詐欺の手口がチープでリスキーであり、説得力に乏しい。 力作であることは認めるものの、時間の経過とともに陳腐化した印象を禁じ得ない |
No.221 | 6点 | 祈りの幕が下りる時 東野圭吾 |
(2015/12/22 18:02登録) 既読感の強いプロット・トリックで目新しさに乏しく、本格ミステリとしても食い足りなさを覚える。 一方、偶然をご都合主義と感じさせない伏線・心理描写の妙、読者の共感を呼ぶ筆力の高さ(下世話な表現をすれば「お涙頂戴」)は例によって際立っている。 タイトルのネーミングの拙劣さは相変わらずで、ストーリーテリングがやや劣化している印象を受けたのは気になった。 昨今の軽量コンパクト路線の象徴的な作品とも言え、畢生の本格大作が待望されるところ |
No.220 | 6点 | 天帝のみぎわなる鳳翔 古野まほろ |
(2015/12/18 14:39登録) 強烈な不可解性を秘めた謎の提示、巧緻極まる叙述、繊細と迫力を兼備した筆致、堅牢なロジックなど、引き続き極めて高い水準にあり、かつ作品を重ねるごとに前進が感じられるのはお見事。 しかし一方で、やはり前作と同様に犯行のフィージビリティと真相解明のプロセスに違和感が残り、納得感は弱い。 トリック自体は至って脆弱であるところ、あのように困難な犯行を完結できるだろうか。 いずれの探偵も、あれほど些細な手掛かりから見事に真相に到達し得るであろうか。 本格の高みを極めんとするチャレンジスピリットは大いに認めるものの、そのプロットに綱渡り的な危うさも感じてこの評価 |
No.219 | 6点 | 新世界崩壊 倉阪鬼一郎 |
(2015/12/10 19:21登録) 作者の作品は初読だが、バカミスと認識したうえで手に取った。 異様に焦点のぼやけた描写や、あからさまに怪しい童話など、仕掛けがあることは歴然としていたが、それでも舞台設定にかかる真相は強烈。 あらかじめ登場人物の性格付けが提示されているとしても、地の文は明らかにアンフェアであるし、裏表紙のあらすじさえも活用するアイデアには脱帽しつつも、その記載内容はやはり明らかにアンフェアであるのだが、それでも非現実的な「トンミス」に陥ることなく、現実的な「バスミス」の枠に留まりつつ、比類ない驚愕と失笑を演出している真相は圧巻。 そのうえで、上下段同時進行という前例のない趣向と、それを活かしたグラフィックデザイン上の仕掛けは、論理性は皆無であるものの強い説得力があり絶妙。 ただ、この2つの仕掛けがあまりに素晴らしいだけに、この2点にフォーカスすべきであった。 作者のサービス精神は理解するものの、童話はじめ他の仕掛けや丁寧すぎてやや下世話な解説は不要だし、犯行動機はもう少し現実的な線で料理してほしかった。 以上、変化球が来るとわかっていても打ち取られてしまう奇想と熱意は手放しで認めるだけに、ややもったいなさを感じる作品 |
No.218 | 5点 | 歪笑小説 東野圭吾 |
(2015/12/10 19:19登録) 最も手堅く笑いが取れる文筆界の楽屋ネタに絞り込んだことで、大きなハズレはなく、水準を超える2~3編も存在。 その結果、「黒笑小説」はもちろん、「怪笑小説」もわずかに超えたものの、強烈な毒のある作品は見当たらず、やや単調さも感じてこの評価 |
No.217 | 6点 | 幻惑の死と使途 森博嗣 |
(2015/12/08 16:58登録) 「堂々たる変化球宣言からの変化球連投、最後にストレートで一閃と見せかけて、再び変化球」という組み立ては教科書的な美しさでお見事。 作品の主題と密接に関連したタイトルのネーミングにもさすがの冴えを見せている。 一方、マジシャンであることを差し引いてもトリックのフィージビリティが疑問である点、2番目の殺人事件にほとんど何らの工夫も見られない点、第一の真相はともかく第二の真相は論理的に解明できないであろう点などを勘案してこの評価。 全体として演出やミスディレクションの手際には長けているが、プロットの骨格は脆弱な印象 |
No.216 | 4点 | 黄金を抱いて翔べ 高村薫 |
(2015/12/07 16:44登録) 「リヴィエラを撃て」と同様に、各局面における描写が非常に詳細な反面、登場する組織・人物の背景・意図が明示的に語られない。 こうした点はプロットを追うに従って徐々に浮かび上がってくるのだが、それが読み難さに繋がっているのも間違いない。 また、本作がミステリではなく、犯行計画の立案・実行を通じた人間模様を描くことが主眼であるとしても、犯行は計画の緻密さとは裏腹に、極めてあっけないものでやや不満が残る印象 |
No.215 | 7点 | 悪の教典 貴志祐介 |
(2015/12/01 19:11登録) 作品を通じて抜群のリーダビリティとサスペンスを維持しており、筆力の高さは疑い得ない。 一方、「天才サイコキラーが学校内で大量連続殺人に及ぶ」というプロットありきの作品であるが、緻密な取材と伏線の妙に苦心の跡が伺われるにもかかわらず、プロットに明らかに無理が感じられるのが残念なところ。 「アメリカ名門大学卒業後に金融界で活躍したエリート」という経歴は、天才サイコキラーの人物造形には不可欠であるが、そうした人物が日本の高校教師の地位に留まり、しかもその地位を保全・補強するためだけに、ここまでの犯罪を犯すのか。 犯行露見の危険性が明らかに増すことを知りながら、自分が担任するクラスの女子生徒と関係を持ち、さらには校内で密会する等といった軽率な行動を取るだろうか。 また、多くの方がご指摘のとおり、作品後半では大味な犯行と軽率な判断が散見。 皆殺しを達成するまでは何を置いても銃弾をセーブしなければならず、また生徒に犯行の進捗が露見することを防いで警戒心を殺ぎ、周辺家屋からの通報の可能性を低減させる意味でも、可能な限り銃声の発生を避けるべき局面で、体力面で勝る女子高生相手に1対1の接近戦で発砲するだろうか。 とりわけ大量殺人に追い込まれる引き金となった校内2人目の殺人は、天才には考えられないボーンヘッド。 また、その時点でも皆殺し以外のよりスマートな解決手段が模索できたであろうし、あの隠蔽工作で警察の捜査から完全に逃れられると考えていたのか。 ある殺人を隠蔽するために、次の殺人を犯さざるを得ないというプロットは「青の炎」と同様。 スケールやサスペンスでは本作が勝っても、犯行の緻密さと合理性、読後感等の点から総合評価では「青の炎」に軍配 |
No.214 | 3点 | ステップファザー・ステップ 宮部みゆき |
(2015/11/25 16:51登録) 本作は一言で言えば「キャラ小説」であり、本サイトでの高評価をミステリとして高水準であると誤認したことが失敗。 登場人物の特殊な人間関係に鋭く斬り込むアプローチがないため、舞台設定がほとんど活かされておらず、連作短編集的な捻りも見られなかった。 各話に対するミステリ的な味付けも非常に強引な付属品の印象が強い。 ミステリとしてはこの評価が妥当と考えるが、作者の執筆意図に照らせばそれほど批判的スタンスに立つべき作品でもない |
No.213 | 4点 | 匣の中の失楽 竹本健治 |
(2015/11/25 16:50登録) 現実と虚構が高度に錯綜したプロットと、多すぎる登場人物の書き分けの不徹底が、読者を強烈な眩惑に陥れているところ、作品の大半が推理合戦に費やされるのは、いかがなものか。 推理合戦は、推理の前提たる事実関係が厳格に限定されてこそ効果を挙げられる。 その点、本作は前提事実が曖昧であるため、提示される推理の妥当性・合理性が検証できないまま、推理とは異なる現実が次々と明らかになっていく。 いわば「暗黙のうちに外れと予見される推理」を延々と読まされ続けるプロットとなっている。 また、読者によって様々な読み方を許容する柔軟構造としての着地は、それに意味がないとは断じて言わないが、当方の理解力不足・努力不足を差し引いても執筆意図としては弱い。 結果、読者を眩惑すること自体を目的とした作品と映り、それが読物としての面白さには繋がってこなかった |
No.212 | 6点 | 準急ながら 鮎川哲也 |
(2015/11/17 19:26登録) 地理的に遠く離れた一見無関係と思われる2つの事件が、警察の地道な捜査を経て、その密接な関係が浮かび上がってくる興味深いプロット。 メイントリックにはややチープさも感じられるところ、仮説の構築を繰り返す真相解明プロセス、とりわけ「なぜ遠方の写真店に現像を依頼したのか」というささやかな謎から解明に至る手際は実に見事。 人物造形やストーリーテリングは味わいに乏しく、一見して無味乾燥した印象を与えるものの、無駄のない筋肉質な構成はパズラーのお手本であり、一読の価値ある佳作と評価 |
No.211 | 6点 | 悪霊の館 二階堂黎人 |
(2015/11/16 19:28登録) 例によってコテコテのコード型本格。 提示された謎の不可解性は評価するし、その解決は網羅的ではあるものの、表層的で推理の飛躍も散見される印象。 すべての謎に一応の説明は付けられているものの、探偵は論理的に真相に辿り着いておらず、かつ犯人がこれほどまでに複雑かつ難度の高い犯行プロセスを選択したことの必要性・合理性を説明しているとも言えず、鮮やかさには欠ける。 ストーリーテリングも上手いとは言えない。 意欲作ではあるものの、ブレイクスルーにはいま一歩 |