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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:547件

プロフィール| 書評

No.367 6点 ほうかご探偵隊
倉知淳
(2018/01/12 20:55登録)
作品冒頭に提示される不可解な謎と、その解明プロセス、二転三転する真相に至るまで、隙のない完成度を誇り、大人の読書に耐え得る作品。
想定している読者層からやむを得ないのだが、スケールはやや小粒であり、プロットのごく一部に無理も感じられることから、この評価に止めるが、一読の価値のある佳作であることは間違いない。
挿入されたイラストが非常にかわいらしい点も特筆したい


No.366 4点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2018/01/12 20:54登録)
まず、「登場人物を殺しすぎてしまい、根拠はないが、犯人が察せてしまう」というプロットが失敗。
それにもかかわらず、捜査陣の無能ゆえに、犯人を断定する決定的証拠が得られず、心理的な駆け引きで犯人を特定するプロセスや、登場人物の行動の不合理性など、本格ミステリとして高く評価することはできない。
作品の本質としてはむしろ、見立て殺人を活かしたサスペンス・スリラーと考えるべきだろうが、犯行動機の納得性、見立て殺人の必然性など、その視点でも高い評価は難しい


No.365 7点 クロスファイア
宮部みゆき
(2018/01/06 13:52登録)
大ヒット漫画「デスノート」と同一の主題であり、同工異曲と言うべき作品。
主人公に対する批判・悪意の反映かもしれないが、登場する悪人がチンケすぎる、主人公の行動原理が純粋な正義感ではなく恋愛感情が混入している、無関係な人間を巻き添えにするなど、主人公の行動に大義がなく、行動もあまりにも不用意である点等から、同作のような強烈な緊迫感・問題意識は伝わってこない。
そうした点から、主人公を待ち受けているラストは明々白々であるが、その着地も呆気なさ過ぎる印象を受ける。
ミステリとしての面白さ・リーダビリティは高く評価するものの、主題を十全には活かしきれていない点で画竜点睛を欠いており、消化不良と違和感が残る作品


No.364 4点 ゴーレムの檻
柄刀一
(2017/12/12 18:06登録)
類例のないアイデアに著者の並々ならぬ意欲が感じられるが、提示された不可能状況の説明は、破綻こそないものの、「詭弁」の印象があまりにも強く、納得感は弱い。
また、1個の作品として見ると、情景・心理ともに描写が不足しており、舌足らず感が否めないところ。
力作であることは間違いないが、非常に読者を選ぶ作品


No.363 4点 オレたち花のバブル組
池井戸潤
(2017/12/01 14:26登録)
作品全体から受ける印象は前作と同様。
リアリティの欠如と、主人公の行動原理への嫌悪感がわずかながら改善され、近藤のエピソードに対する評価で加点したが、官僚的大企業における人間模様として、牧歌的なファンタジーであることに変わりはない。
4点の中位


No.362 3点 オレたちバブル入行組
池井戸潤
(2017/12/01 14:25登録)
ドラマ「半沢直樹」は見ていないが、興味本位で手に取った。
高視聴率ドラマの原作というプロフィールから、期待してはいなかったのだが、その低いハードルをさえ、大幅に下回る内容。
まず、各登場人物の造形と言動が類型的すぎ、犯人による物証の取扱いがあまりにも不用意であるなど、プロットにリアリティが感じられない。
そして、それ以上に、主人公の「力・強さこそ正義」という行動原理にまるで共感することができない。
主人公は「倍返し」というが、自分が憎み、軽蔑する相手に、相手以上に下世話かつ陰湿極まりない手段で報復することの深刻な自己矛盾に気付いているのだろうか。
本物の大人物は、このように小人物と同じ土俵に立つことはない。
また、私も銀行に負けず劣らず官僚的な大組織に属しているが、このような組織では過度に目立つこと自体が大きなリスクであり、いくら優秀な人物でも個人の力で組織に打ち克つことはできない。
したがって、敵対する相手に対しても、常ににこやかに笑顔で接しつつ、その裏で事後にさえも気付かれないように刺すべきであって、部下本人にさえ見抜かれるような露骨な本部工作に奔走する支店長や、衆人環視の状況で他セクションの上席に土下座させる主人公は論外である。
最後に、主人公が支店長の悪事を暴きながら、それを隠蔽することと引き換えにポストを得るなどに至っては、自身も背任・詐欺に荷担することになり、愚劣を極めると言わざるを得ない。
銀行組織の硬直性・閉塞性というプロットの着眼点は買うし、リーダビリティは高いのだが、作品としては非常に稚拙なファンタジーであり、読後感も至って悪い。
3点の下位


No.361 9点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2017/11/23 16:04登録)
犯行動機を一切考慮せず、犯行機会と犯行プロセスのみを辿って、犯人を特定する正統的・古典的なパズラー。
そのパズラーとしての志向・態様の徹底度、真相解明プロセスにおける論理の美しさ、明快さ、蓋然性の高さ等において、有栖川有栖の「スイス時計の謎」と並び、それを超える最高傑作の一つであろう。
多すぎる登場人物と、やや単調さも感じさせる抑制の利いたストイックな前半部分は、本作の数少ない、わずかな瑕疵であるが、真相解明時のカタルシスを増幅させるためのレッド・へリングと考えれば、やむを得まい。
一切の反論と余白を許さない完成度の高さは圧巻と言えよう


No.360 6点 連鎖
真保裕一
(2017/11/17 21:46登録)
出版時期を考えれば、汚染食品という題材に目新しさと先見性があり、読者をグイグイと引き込む筆力は一定の評価。
一方、最終盤のどんでん返しの連続は、納得感に乏しく明らかに蛇足。
画竜点睛を欠いた惜しい作品


No.359 6点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2017/11/06 20:56登録)
ご都合主義的なプロットと、登場人物の不可解な行動をもってしてもなお、フィージビリティに疑問が残り、犯行プロセスが複雑すぎるが故に、真相解明時のカタルシスに乏しい。
冒頭に示される不可解な謎に、果敢に挑んだ意欲は買うが、よく考えられたミステリパズルという印象


No.358 5点 天使の傷痕
西村京太郎
(2017/11/06 20:55登録)
著者の他の作品にも言えることだが、本作は「描写に無駄がない」というより、「単に描写がなさすぎる、直接的すぎる」だけだろう。
全体として描写が極めて少なく、登場人物の心理描写が直接的すぎることが、高いリーダビリティを生んでいる反面、プロットのリアリティの欠如や作品の奥行きの無さ、言葉を選ばずに言えばテレビの2時間ドラマ的な安っぽさという副作用につながっている。
メイントリックも非常にチープで、フィージビリティは大いに疑問。
全体として見るべきところもある作品だが、それ以上に欠点が目に付く印象


No.357 6点 殉教カテリナ車輪
飛鳥部勝則
(2017/10/27 21:36登録)
まず絵画から事件の背景や登場人物の心理を洞察していくアプローチが斬新。
同一の凶器で2件の密室殺人が発生するという謎の不可解性にインパクトがある一方、その真相はやや期待外れの感があるが、真相の解明プロセスにおける論理性は一定の評価。
しかし、それ以上に真相を隠蔽する叙述トリック、随所に張り巡らされた伏線に冴えを見せている。
一読の価値のある意欲作


No.356 6点 家日和
奥田英朗
(2017/10/27 21:32登録)
日常的なテーマ・登場人物を題材に、リアリティのあるエピソードを、少し皮肉っぽく軽妙なタッチで描いている。
それぞれのエゴが見え隠れしつつも、至って善良な登場人物たちの活き活きとした姿が、読後感の爽やかさにつながっている。
「イン・ザ・プール」「マドンナ」ほどのインパクト・パンチに欠ける分、両作には及ばないが、読者の期待を裏切らない作品と言える


No.355 6点 張込み
松本清張
(2017/10/13 11:01登録)
抑制の利いた筆致でありながら、登場人物の内面を抉り出すような心理描写、高いリーダビリティは相変わらずで、筆力の高さを感じさせる。
ただ、ミステリとしては、プロットや登場人物の行動が合理性を欠き、小さな偶然から事態を反転させるプロットのパターン化が目に付くところ。
8編のいずれもが水準以上に達しているアベレージの高さはさすがだが、突出した作品はなく、「黒い画集」とは確実に差がある印象


No.354 6点 レーン最後の事件
エラリイ・クイーン
(2017/10/12 21:49登録)
プロットが一本道で登場人物が少なく、リーダビリティは高い。
ただ、本格ミステリとしては、推理における合理性・論理性の瑕疵、真相が明かされない、無理がある点等が散見され、真犯人も想定の範囲内に止まっており、目覚ましいデキとは言えない


No.353 5点 百鬼夜行 陰
京極夏彦
(2017/09/28 11:43登録)
各登場人物の心理を丹念に描写しつつ、それを妖怪とオーバーラップさせる手法は長編と同様。
さすがの冴えを見せているが、紙幅の不足から長編に比してスケールと説得力の見劣りは否めない。
悪い作品ではなく5点の最上位


No.352 6点 毒を売る女
島田荘司
(2017/09/22 19:44登録)
サスペンス作品の揃った短編集。
本格長編のような壮大なプロットと驚愕のトリックはないものの、サスペンスフルな展開と意外性に満ちた真相が光っている。
小粒ではあるものの、一読の価値のある佳作


No.351 4点 赤い帆船(クルーザー)
西村京太郎
(2017/09/22 19:43登録)
ハリウッド的なビジュアル映えするプロットではある。
しかしながら、プロットから真犯人が容易に推定できる点、犯行プロセスが綱渡りすぎるうえに、サプライズに乏しい点、犯行プロセスが論理的に特定されておらず、真犯人の自供に頼っている点で、評価することはできない


No.350 6点 本格篇「眼中の悪魔」
山田風太郎
(2017/09/22 19:41登録)
本格編と銘打っているものの、ロジックの堅牢性やトリックの妙よりも、登場人物の内面に迫る心理描写に重点が置かれている作風。
真相は比較的予想しやすい作品が多く、サプライズには物足りなさが残るものの、手記を利用したメタフィクショナルなアプローチを多用するなど、新本格にも繋がる先駆的なプロットで古さを感じさせなかった。
大きな外れがなく水準以上の作品が揃っている点も評価


No.349 2点 QED 百人一首の呪
高田崇史
(2017/09/05 09:28登録)
織田正吉の「絢爛たる暗号-百人一首の謎を解く」を既読の立場としては、この画期的な考察をベースに、さらなる新説の展開に期待していたのだが、著者のオリジナリティは百人一首が曼荼羅状に配置されているということだけで、それを成立させるにあたっては強引さも目立ち、何より面白みが感じられない。
これでは客観的に見ても「コピー」との誹りを免れないだろう。
一方、作風として著者が京極夏彦をめざしていることは明らかであるが、京極作品の凄味は一見して無関係と思われる事件や知見が収斂して、事件の核心を示唆する点にあるところ、本作は百人一首にかかる考察と殺人事件の解明が全くリンクしていない。
また、五芒星はじめ、叙述が親切すぎて、あるいは謎の底が浅すぎて、読者にすぐに看破される箇所も散見。
ミステリとしては、幻覚のような飛び道具を使用し、かつ真犯人が意図せざるサヴァンの存在をもって、偶然に不可能犯罪となったものであり、全く評価に値しない。
本作を読んで百人一首の謎に興味を持ったみなさまには、織田正吉の作品をご一読されることをお勧めする


No.348 6点 白昼の悪魔
アガサ・クリスティー
(2017/09/05 09:25登録)
トリックは平凡であるものの、それを支える伏線・ディテールの巧みさに、確かな構成力が感じられた。
犯行動機に納得感が感じられないのが残念

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