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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.361 9点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2017/11/23 16:04登録)
犯行動機を一切考慮せず、犯行機会と犯行プロセスのみを辿って、犯人を特定する正統的・古典的なパズラー。
そのパズラーとしての志向・態様の徹底度、真相解明プロセスにおける論理の美しさ、明快さ、蓋然性の高さ等において、有栖川有栖の「スイス時計の謎」と並び、それを超える最高傑作の一つであろう。
多すぎる登場人物と、やや単調さも感じさせる抑制の利いたストイックな前半部分は、本作の数少ない、わずかな瑕疵であるが、真相解明時のカタルシスを増幅させるためのレッド・へリングと考えれば、やむを得まい。
一切の反論と余白を許さない完成度の高さは圧巻と言えよう


No.360 6点 連鎖
真保裕一
(2017/11/17 21:46登録)
出版時期を考えれば、汚染食品という題材に目新しさと先見性があり、読者をグイグイと引き込む筆力は一定の評価。
一方、最終盤のどんでん返しの連続は、納得感に乏しく明らかに蛇足。
画竜点睛を欠いた惜しい作品


No.359 6点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2017/11/06 20:56登録)
ご都合主義的なプロットと、登場人物の不可解な行動をもってしてもなお、フィージビリティに疑問が残り、犯行プロセスが複雑すぎるが故に、真相解明時のカタルシスに乏しい。
冒頭に示される不可解な謎に、果敢に挑んだ意欲は買うが、よく考えられたミステリパズルという印象


No.358 5点 天使の傷痕
西村京太郎
(2017/11/06 20:55登録)
著者の他の作品にも言えることだが、本作は「描写に無駄がない」というより、「単に描写がなさすぎる、直接的すぎる」だけだろう。
全体として描写が極めて少なく、登場人物の心理描写が直接的すぎることが、高いリーダビリティを生んでいる反面、プロットのリアリティの欠如や作品の奥行きの無さ、言葉を選ばずに言えばテレビの2時間ドラマ的な安っぽさという副作用につながっている。
メイントリックも非常にチープで、フィージビリティは大いに疑問。
全体として見るべきところもある作品だが、それ以上に欠点が目に付く印象


No.357 6点 殉教カテリナ車輪
飛鳥部勝則
(2017/10/27 21:36登録)
まず絵画から事件の背景や登場人物の心理を洞察していくアプローチが斬新。
同一の凶器で2件の密室殺人が発生するという謎の不可解性にインパクトがある一方、その真相はやや期待外れの感があるが、真相の解明プロセスにおける論理性は一定の評価。
しかし、それ以上に真相を隠蔽する叙述トリック、随所に張り巡らされた伏線に冴えを見せている。
一読の価値のある意欲作


No.356 6点 家日和
奥田英朗
(2017/10/27 21:32登録)
日常的なテーマ・登場人物を題材に、リアリティのあるエピソードを、少し皮肉っぽく軽妙なタッチで描いている。
それぞれのエゴが見え隠れしつつも、至って善良な登場人物たちの活き活きとした姿が、読後感の爽やかさにつながっている。
「イン・ザ・プール」「マドンナ」ほどのインパクト・パンチに欠ける分、両作には及ばないが、読者の期待を裏切らない作品と言える


No.355 6点 張込み
松本清張
(2017/10/13 11:01登録)
抑制の利いた筆致でありながら、登場人物の内面を抉り出すような心理描写、高いリーダビリティは相変わらずで、筆力の高さを感じさせる。
ただ、ミステリとしては、プロットや登場人物の行動が合理性を欠き、小さな偶然から事態を反転させるプロットのパターン化が目に付くところ。
8編のいずれもが水準以上に達しているアベレージの高さはさすがだが、突出した作品はなく、「黒い画集」とは確実に差がある印象


No.354 6点 レーン最後の事件
エラリイ・クイーン
(2017/10/12 21:49登録)
プロットが一本道で登場人物が少なく、リーダビリティは高い。
ただ、本格ミステリとしては、推理における合理性・論理性の瑕疵、真相が明かされない、無理がある点等が散見され、真犯人も想定の範囲内に止まっており、目覚ましいデキとは言えない


No.353 5点 百鬼夜行 陰
京極夏彦
(2017/09/28 11:43登録)
各登場人物の心理を丹念に描写しつつ、それを妖怪とオーバーラップさせる手法は長編と同様。
さすがの冴えを見せているが、紙幅の不足から長編に比してスケールと説得力の見劣りは否めない。
悪い作品ではなく5点の最上位


No.352 6点 毒を売る女
島田荘司
(2017/09/22 19:44登録)
サスペンス作品の揃った短編集。
本格長編のような壮大なプロットと驚愕のトリックはないものの、サスペンスフルな展開と意外性に満ちた真相が光っている。
小粒ではあるものの、一読の価値のある佳作


No.351 4点 赤い帆船(クルーザー)
西村京太郎
(2017/09/22 19:43登録)
ハリウッド的なビジュアル映えするプロットではある。
しかしながら、プロットから真犯人が容易に推定できる点、犯行プロセスが綱渡りすぎるうえに、サプライズに乏しい点、犯行プロセスが論理的に特定されておらず、真犯人の自供に頼っている点で、評価することはできない


No.350 6点 本格篇「眼中の悪魔」
山田風太郎
(2017/09/22 19:41登録)
本格編と銘打っているものの、ロジックの堅牢性やトリックの妙よりも、登場人物の内面に迫る心理描写に重点が置かれている作風。
真相は比較的予想しやすい作品が多く、サプライズには物足りなさが残るものの、手記を利用したメタフィクショナルなアプローチを多用するなど、新本格にも繋がる先駆的なプロットで古さを感じさせなかった。
大きな外れがなく水準以上の作品が揃っている点も評価


No.349 2点 QED 百人一首の呪
高田崇史
(2017/09/05 09:28登録)
織田正吉の「絢爛たる暗号-百人一首の謎を解く」を既読の立場としては、この画期的な考察をベースに、さらなる新説の展開に期待していたのだが、著者のオリジナリティは百人一首が曼荼羅状に配置されているということだけで、それを成立させるにあたっては強引さも目立ち、何より面白みが感じられない。
これでは客観的に見ても「コピー」との誹りを免れないだろう。
一方、作風として著者が京極夏彦をめざしていることは明らかであるが、京極作品の凄味は一見して無関係と思われる事件や知見が収斂して、事件の核心を示唆する点にあるところ、本作は百人一首にかかる考察と殺人事件の解明が全くリンクしていない。
また、五芒星はじめ、叙述が親切すぎて、あるいは謎の底が浅すぎて、読者にすぐに看破される箇所も散見。
ミステリとしては、幻覚のような飛び道具を使用し、かつ真犯人が意図せざるサヴァンの存在をもって、偶然に不可能犯罪となったものであり、全く評価に値しない。
本作を読んで百人一首の謎に興味を持ったみなさまには、織田正吉の作品をご一読されることをお勧めする


No.348 6点 白昼の悪魔
アガサ・クリスティー
(2017/09/05 09:25登録)
トリックは平凡であるものの、それを支える伏線・ディテールの巧みさに、確かな構成力が感じられた。
犯行動機に納得感が感じられないのが残念


No.347 4点 六枚のとんかつ
蘇部健一
(2017/08/28 16:50登録)
本サイトのみならず、各処で酷評されていることを承知したうえで読んだからかもしれないが、アプローチ自体は想像以上に「本格」である印象。
トリック・真相が極めて安易・平易で、ミステリとは言えない不出来な作品もある一方で、水準に達している作品が散見されるのも事実。
叙述は非常に平易でスマートであり、下ネタや下世話なネタが多いにもかかわらず、それほど下品な印象を与えない点も好感。
各短編のミステリとしての核・スケールの小ささを考えると、さすがにこれ以上の評価は難しいものの、「ゴミ」という印象は受けなかった


No.346 3点 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人
倉阪鬼一郎
(2017/08/24 19:10登録)
ミステリとしては持ち前の奇想で読者の期待に一定程度応えているが、やや無理も感じる点で画竜点睛を欠いている印象。
テキスト自体への仕掛けは、その前提としてメタフィクショナルな構成を採用するなど、よく考えられているのだが、着想自体が過去の有名作品の二番煎じであり、それが存在することによって作品が面白くなっている訳でもない。
しかし何よりも問題なのは、バカミスとしての趣向が著者の他のバカミス作品と全く同一である点。
著者のバカミスを初めて読んだ読者以外にとっては、サプライズが極めて乏しいし、そのアイデアを高く評価することもできない。
したがって、世評では「新世界崩壊」より本作の方が相当に上らしいが、私にとっては最初に読んだ「新世界崩壊」の評価に遠く及ばない


No.345 5点 64(ロクヨン)
横山秀夫
(2017/08/23 10:45登録)
著者の各作品は、組織の論理に対する個人の葛藤を延々と抉り出す内面描写が特色であり、それが作品の奥行きに繋がってきたし、私自身も愛読してきた。
しかし、本作では叙述があまりにも演出過剰であり、かつボリュームもやたら多く、いくら何でもクドすぎる。
過剰な情感を込め、著者はお涙頂戴に盛りあがっているのだが、私には大袈裟な表現・演出に映り、シラけて置いてけぼりになってしまった。
読んでいて疲労感を感じるし、作品の余白にも乏しく、何よりリアリティ・臨場感が感じられない。
ミステリとしては、犯人特定のプロセスがあからさまに無理筋であり、主人公の娘の失踪が結果として当該プロセスを成立させるためだけのご都合主義的な設定に終わってしまった点でも減点。
散々批判したものの、作品全体としては一定の水準に達していることも事実だが、期待外れの印象も強く、本サイト上における毀誉褒貶の激しさも、さもありなんという印象


No.344 7点 マドンナ
奥田英朗
(2017/08/19 16:24登録)
企業の中間管理職を主人公に配し、会社や家庭におけるドタバタをコメディタッチに描いた短編集であり、いずれの作品も純粋に読物として面白いのだが、それだけに止まらない。
「ダンス」では「個の尊重」と「協調性」の両立、「総務は女房」では主人公の硬直した価値観・倫理観に起因する葛藤、「ボス」では女性の上司を持った男性管理職の悲哀・憤慨等、各短編の主題に著者の高い先見性と今日的な問題意識が活かされていて、実に見事。
人間観察眼の確かさと人物造形の巧みさもあいまって、誰もが共感できる、実に読ませる作品に仕上がっている。
会社人間・仕事人間と、その家族にとって必読の作品と言えよう


No.343 7点 十五少年漂流記
ジュール・ヴェルヌ
(2017/08/19 16:17登録)
明快で完成度の高い舞台設定・プロット、登場人物の配置の妙などもさることながら、勤勉・勇気・思慮・熱心があれば、いかなる困難にも打ち勝つことができるとのメッセージが強く印象に残る佳作


No.342 5点 邪魅の雫
京極夏彦
(2017/08/08 16:49登録)
本シリーズは、これまで「やたら長いが無駄はない」計算された構築美に見どころがあったが、近作はいずれも完成度が低下し、「やたら長くて無駄が多く感じる」。
とりわけミステリとしては、真相解明が論理的とは言えない点に加え、その核が小さい割りには事件・登場人物のいずれもが、余りにも多すぎる。
読物としての主題のまとめ方には唸らされる面もあるが、真犯人(?)の人物造形が魅力に乏しい点も大きな減点材料

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