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ミステリの祭典

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オリンピックの身代金

作家 奥田英朗
出版日2008年11月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 6点 いいちこ
(2018/07/27 08:43登録)
客観的事実が一部先行し、その後に各登場人物の行動・心理が叙述される、倒叙的な構成を取っており、その時間軸の間隔が短縮する作品後半においては、サスペンスが大きく減退する構成となっている。
その点において、本作の構成は全体として非常に緻密であるものの、長尺すぎるという評価にならざるを得ない。
また、本作の主題、つまり日本社会が敗戦から立ち直っていく高度経済成長時代、とりわけその象徴的な存在である東京オリンピックの背景にある、理不尽な格差社会に対する課題認識は評価する。
しかし、その課題認識に対する主人公のアクションが、テロリズムという形態を取ることに違和感が拭えないのである。
確かに、日本の富の多くがオリンピックの開催地たる東京に落ちるのであろうが、主人公の仲間たちをはじめ、各地方もその恩恵に多少なりとも浴するのは間違いない。
にもかかわらず、それに対する反発がテロリズム、しかもそのエネルギーが政治ではなく警察に向かうのが不可解と言わざるを得ない。
主人公による麻薬の常習が、そうした行動原理の不可解さに対するエクスキューズであるように感じられる点は非常に残念

No.3 7点 HORNET
(2017/11/06 22:24登録)
 時は戦後。初の開催国となる東京オリンピックを間近に控えた東京を舞台に、社会的下位層が繁栄の犠牲となる日本社会に怒りを覚える東大院生の反逆と、国家の発展を守ろうとする警察との戦いのストーリー。
 東京近辺で起こる爆破事件に対処する「警察側」と、その「犯人側」とが交互に描かれる構成だが、同じ時制で並行して描かれるのではなく、例えば警察側の9月ごろと犯人側の7月ごろ、というように警察側を少し先にずらした描き方がしてある。よって物語の前半は、警察側=爆破事件の捜査:犯人側=犯行前(犯行に至るまで)という構成になり、一応、「この人が(2か月先の警察側で捜査されている事件の)犯人なのかな?違うのかな?」と思いながら読められて面白かった。
 話が進むにつれて少しずつ両者の時制が詰まっていき、結局やっぱり犯人だったことが分かる。するともう、とにかく「犯人側」の方を読み進めたくなってしまい、間に「警察側」が入ってくる交互の構成がちょっと煩わしくなってしまった。

 がしかし、国威発揚の最たるケースであるオリンピック招致を題材として、民主政治(と名乗る政治)の現実を描き出した本作は、読み応えのある一作だった。

 2度目の東京オリンピックを前にした今読むと、またいろんな思いや考えに馳せられる。生活水準が全体的に底上げされただけで、本作で主人公・国男が憤りを感じる社会の仕組みも、国策で旗を振られると誰もがそちらを向く国民性も、基本的は何も変わっていない気がする。

No.2 4点 ねここねこ男爵
(2017/10/29 05:20登録)
当時の社会情勢や人物描写は面白い。が、お話がイマイチ魅力的でない。
この作者はあちこちで公言している通り、最後まで組み立ててから書き始めるのではなく書きながら次の展開を考える人で、本作はそれが悪い方に出ているというか…次にどうなるかが予想の範囲内におさまってしまいがち。後半から隠れ家バレる⇒逃げるの繰り返しになる。
エリートが薬と女によって堕落していくのを眺める物語、かな。
やはり奥田英朗氏はユーモアとエッセイの人かと。

No.1 9点 パメル
(2016/01/13 19:29登録)
とにかく主人公が魅力的
東大生でありながら出稼ぎ労働者と共に肉体労働をし
高度経済成長が地方の肉体労働者を人柱にして成り立っていることを身を持って知っていく
都市と地方の格差社会に我慢できず国家に対し反骨精神を剥き出しにし
オリンピック開催を妨害していくさまが緻密なディテールで
描かれた申し分ないサスペンス

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