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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1163件

プロフィール| 書評

No.763 6点 引き攣る肉
ルース・レンデル
(2020/12/13 17:37登録)
 連続強姦犯のヴィクター・ジェナーは、ある強姦未遂の時に、捕まることを恐れて逃げ込んだ家で、少女を人質に取るハメになってしまった。そして踏み込んだ刑事ディヴィット・フリートウッドを意図せずに撃ってしまう。服役したのちに出所したヴィクターは、フリートウッドが半身不随になりながらも、社会から英雄のように扱われ、美しい恋人クレアとともに過ごしていることを知る。「自分がこうなったのはフリートウッドのせいなのに」と昏い怒りをたぎらせるヴィクターだったが、ひょんなことからフリートウッドと和解することになり…

 病んだ犯罪青年の病的な心理を描く長編。レンデルのノンシリーズらしい作風だが、ヴィクターの一人称で延々と描かれる描写はやや退屈。フリートウッドと対面してから物語が一気に動き、目の離せない展開になった。
 精神的に病んでいるヴィクターだが、非常に内気で思索的な面があり、なんとなく共感的に読んでしまう。そういう匙加減は絶妙だな、と思った。


No.762 7点 その裁きは死
アンソニー・ホロヴィッツ
(2020/11/29 19:43登録)
 実直さが評判の弁護士が殺害された。裁判の相手方が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた謎の数字“182”。被害者が殺される直前に残した奇妙な言葉。わたし、アンソニー・ホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、奇妙な事件の捜査に引きずりこまれて―。絶賛を博した『メインテーマは殺人』に続く、驚嘆確実、完全無比の犯人当てミステリ。(「BOOK」データベースより)
 著者・ホロヴィッツ自身がワトソン役になり、ホーソーンが探偵役となるシリーズ第2弾。そうした設定の妙を別にすれば、いたって正当な本格ミステリ(良い意味)。謎解き嗜好の読者、昔ながらのフーダニット好きの読者なら、十分好まれる内容(私も)。
 あとがきによると、著者は本シリーズを10作シリーズと考えているらしく(!)、本作で端緒に触れたホーソーンの秘密が今後明らかになっていくらしい。うーん、釣られていると分かっていても、結局読んでしまいそうだ…


No.761 4点 ティンカー・ベル殺し
小林泰三
(2020/11/22 19:18登録)
 今回の舞台はピーター・パンのネヴァーランド。ピーター・パンは平気で(無邪気に)人殺しをする残虐な性格で、殺し合いそのものを楽しんでいる。一緒にいる子どもたちはそんなピーターにびくびくしながら、上手く機嫌を取りながら過ごしていた。そんな矢先、ティンカー・ベルが無残に殺される。ウェンディに「犯人を明らかにして」と頼まれたピーターは、この世界に迷い込んだ蜥蜴のビルと一緒に捜査を進める。

<ネタバレあり>
 シリーズも4作目。地球の現実世界と、夢の中の世界とで存在を共有する「アーヴァタール」の設定は変わらず。そして、夢の世界(今回はネヴァーランド)で起こっている出来事を、現実世界の井森たちが解き明かすという基本スタンスも変わらず。本シリーズ初読の人なら驚く結末だったかもしれないが、読み続けている人にとっては新鮮な驚きはない。しかも今回は、そっくりの名前(例:酢来酉男・すらいとりおがスライトリイ)という前振りをさんざんしておいて、ウェンディが予想外の人物だった、という仕組みも読めてしまって、興趣を削いだ。
 売れ筋なで出版社からの要請が強いのかもしれないが、このシリーズはもう畳んでもよいのではないかと思う。


No.760 7点 憎悪の化石
鮎川哲也
(2020/11/15 19:16登録)
 鮎川氏得意のアリバイもの。捜査を進めるうちに容疑者は12人にもなり、特に怪しい容疑者のアリバイ崩しがメインかな。
 昨今の無駄のない、シャープな展開に慣れてしまうと、地道に一人一人のアリバイをあたる捜査過程を描く(つまりムダ足が多い)この頃の作品は逆に新鮮で、たまに読みたくなる。ただそれも鮎川哲也という、その「ムダ足」の部分も読ませる筆力のなせる業だということは読むほどに実感する。
 真相に迫ったかと思われる最終版、再度の「ひっくり返し」も用意されていて、今読んでも十分欲求を満たしてくれる本格推理もの。


No.759 7点 コープス・ハント
下村敦史
(2020/11/15 19:07登録)
 婦女連続殺害事件の法廷。死刑判決が下された後に、取り調べ中も沈黙を続けていた被告が突如叫んだ。「最後の一件だけは俺の犯行じゃない。俺は真犯人たちを知っている。真犯人のうちの一人は―俺が殺した。俺は"思い出の場所"に真犯人の遺体を隠してきた。さあ、遺体探しの始まりだ!」―その捜査に関わった折笠望美は、当初から別の人間の犯行を疑っていた。捜査方針に異議を唱えたことで謹慎となっていたが望美だが、再び独自に捜査を始める。

 交互に章立てされているYoutuberたちの「遺体探し」の件が、後半に意味をもって意外な融合をするという上手い構成がとられている。昨今のミステリに慣れている人であればその仕掛けに気付く可能性も大だが、私も途中で気付きながらも興趣は削がれずに最後まで読み進められた。
 表題や冒頭の展開からは、世間が「遺体探し」に沸き立つ混乱ぶりが描かれるのかと想像していたが、そういう類ではなかった。
 面白かった。


No.758 7点 ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ扉子と空白の時
三上延
(2020/11/07 19:50登録)
 大輔と栞子が結婚し、二人の間に扉子という娘が生まれ、「Ⅱ」として再開した新シリーズ2作目、通算9作目。とはいえ今回は、扉子が両親の「事件手帖」を読み返すという体で、多くは栞子の代の話になっている。
 古書を取り巻く人たちの謎を解決していく本シリーズだが、その古書がミステリだとさらに興趣をそそる。今回はまさにそれで、題材は「横溝正史」。以前、乱歩が題材になった巻と同様、ミステリファンにはそれだけで評価が底上げされてしまう(笑)
 第1章と第3章が、「大輔と栞子」の過去の事件簿を読む内容で、第2章が現在の扉子を中心とした話なのだが、なんとなく2章が一番、本来のビブリオらしさが出ていたかな。全体的に、現在の女子高生・扉子と親友の圭の様子から始まり、過去にフィードバックする章が挟まれ、最後現在に戻るまで、ストーリーとしてきちんと紡がれている構成が非常にうまいと思う。作者の巧みさ、精緻さを実感する。
 ラストの感じでは、扉子がどちらかというと祖母・智恵子に近い資質に描かれている気がして、それが今後の展開で波を起こすのかもな…と思った。
 今後も続けて読みたいと思わせるには十分だった。


No.757 6点 とめどなく囁く
桐野夏生
(2020/11/03 17:27登録)
 塩崎早樹の夫は、ある日海へ釣りに出掛けたきり船だけを残して行方不明となった。遺体も上がらず、生死不明のまま7年、ついに死亡認定をして早樹は区切りをつけ、年の離れた裕福な老齢男性と再婚をした。若い頃のような情熱はないものの、穏やかな安定のある暮らしに満足していたある日、前夫の母から連絡が。それは、亡くなったとされていた前夫を見かけたという話だった―

 前夫は生きているのか?何かの間違いなのか?友人の協力を得ながら独自で探っていこうとする早樹、その過程で明らかになっていく知らなかった夫の過去に動揺する心。さすがのリーダビリティではあるが、なかなか進展しない展開にややじれてくるところもある。ラストはその段になって初めて出てくる人物もいる「真相の一気出し」の体で、面白い結末ではあったが丁寧ではなかったかな…


No.756 6点 私の中にいる
黒澤いづみ
(2020/11/03 16:43登録)
 10歳の少女、羽山萌果は、自分を疎んじる母親からの虐待を受ける中、自己防衛のために殺してしまった。児童自立支援施設に入所させられた萌果は、指導員たちに更生に向けた指導を受けることになるが、学校在学中は「無口で内気な子」だったはずの萌果が大人びた理屈で反抗ばかりする問題児に。萌果の内面で何が起こっているのか…別の施設に移り、少しずつ心を開いていった萌果が語った驚きの内容。

 このテの題材を扱ったものはこれまでにもごまんとあるが、今までにない切り口で仕掛けられている面白さがあった。ただ、萌果の内実が明らかになってからの後半はある意味順調な展開で、間延びした感もあった。実吉野学園の指導員、齋藤の価値観・考え方が興味深く、物語に深みを与えている。


No.755 5点 天使に見捨てられた夜
桐野夏生
(2020/10/27 20:27登録)
 作者としてはかなり心を砕いて何気ない登場のさせ方をしたのだろうが、タイトルからしても、何気なさを意識しすぎて却って際立ってしまっている運びからしても、落ちぶれミュージシャンが事件の核に絡んでくることはあまりにも明白。まぁ「どうつながるのか」は確かになかなか見えなかったからそれだけで興趣を削ぐことはなかったけど。
 ミロのフットワークがいい割には、展開に時間がかかりすぎな気もする。物語を厚いものにしようと無理に右往左往して引っ張っている感もある。尽きない臨場感とスピード感で飽くことなく読めはしたが、必要以上に寄り道をさせられた感じもある。
 真相は予想外で、いい裏切り方ではあったが、長い引っ張りを経て最後に「一気に」ひっくり返したような感じも受けた。


No.754 6点 ノワールをまとう女
神護かずみ
(2020/10/27 20:17登録)
 前評、人並由真さんの「21世紀のフツーのノワール、フツーの事件屋稼業ではないか」という評価に全く同意。リーダビリティも高いし、読み進めるのは楽しい。だが、「今年の乱歩賞受賞作は…!?」という高い期待があるのなら、それに応え得るのは難しい。
 もちろん、面白い。私も満足している。ただ他と比して突出した、印象的な作品ではなかったということ。組み立ての精緻さは素晴らしいと思う。


No.753 7点 死のカルテット
ルース・レンデル
(2020/10/27 19:56登録)
 「悪い」めぐりあわせが連鎖する、レンデルのノンシリーズらしい物語。
 ただ、主人公のグルームブリッジにとっては悪いめぐりあわせばかりではなかった、というかむしろ悪に踏み出してしまったからこそめぐりあえた喜びがあったということなのだが。まぁ、そういった幸と不幸との板挟みというか、両極端というか、そういった込み入った展開もやはりレンデルらしい。
 彼女のノンシリーズのサスペンスが好きな人は、概ね好む話ではないだろうか。


No.752 5点 黙示
今野敏
(2020/10/04 12:27登録)
 古物収集家の家から、ある指輪が盗まれたという。持ち主の館脇友久は、その指輪を手に入れるのに4億を使った。しかし、指輪は鉄と真鍮でできたものとのことで、なぜそんなに価値があるのかと萩尾警部補は疑問に思う。すると館脇は、それは考古学界で伝説の「ソロモンの指輪」だからだ、と答えた。
 何かを隠しているような館脇。途中から捜査に加わった捜査一課からの横槍。事態が混迷を深める中、萩尾と、コンビの秋穂の、盗犯刑事としての嗅覚が働く。

 このシリーズの面白さは、萩尾の三課刑事としてのプロフェッショナルぶりにあるのだが、本作はなんとなくその魅力が薄かった。同じところをずーっとめぐっているような展開で、物語に深まりがなく、短編でよかったのではないかと感じた。


No.751 7点 白昼の悪魔
鮎川哲也
(2020/10/04 12:02登録)
 「五つの時計」が非常に有名作品らしいが、その他の作品も全体的に高水準で、謎解き主体の「推理小説」を堪能できた。
 7編のうちの6編は筆者の得意とするアリバイ崩し(犯行時刻誤認)に関するもの。「五つの時計」はもちろん、表題作「白昼の悪魔」、「古銭」、「首」なども面白い仕掛けだった。
 前出の書評にもあるように、「そこまで周到に準備するか?」とやや凝りすぎに感じるものもあるが、謎解きを堪能すると思えば十分に楽しめた。


No.750 5点 この謎が解けるか?鮎川哲也からの挑戦状2
鮎川哲也
(2020/10/04 11:42登録)
 昭和前半の、テレビドラマの匂いがぷんぷんするシナリオで、それだけで結構興趣をそそられる。
 一般視聴者を対象にしたエンタメなので、小説で展開するような精緻な仕掛けは望むべくもないが、短いタームで確実にヒントを示して唯一無二の解答を引き出せるようにするというのはむしろ別の意味でハードルが高いかもしれない。
 一話目の「おかめ・ひょっとこ・般若の面」は、文章では分かりようがない(?)気がしたが、概ね楽しめた。犯人の失言が解明のもとになる「制服の少女」「騎士と僧正」などは、謎解きドラマ的には面白かったんじゃないかな。


No.749 6点 絵に描いた悪魔
ルース・レンデル
(2020/09/26 18:45登録)
 ノンシリーズの処女作となる本作。
 とある町を舞台にした狭い人間関係の中で、その愛憎が織りなすドロドロした感じはこの頃から健在。ただ、この後のノンシリーズ作品で見られる、人の異常性や秘められた嗜好性などの点ではまだまだ振り切れていないとは思う。
 しかし、ノンシリーズ作品はサスペンスという評価が定まるレンデルだが、本作はフーダニット(&ハウダニット)のミステリとして成り立っている。そのトリックも真犯人も、十分に意外な仕掛けだった。
 ノンシリーズ作品を今後もこまめに読み続けたい。


No.748 7点 九度目の十八歳を迎えた君と
浅倉秋成
(2020/09/26 18:28登録)
 まもなく30歳を迎える会社勤務の男・間瀬は、ある朝駅のプラットフォームの向かいに高校の同級生・二和美咲の姿を見た。信じられないことに、彼女は18歳の姿のままで、高校へと通学する途中だった。学生時代、二和に淡い恋心を抱き、玉砕していた間瀬は、信じられない二和の姿にその真相を探ろうと動き出す。

 謎を解くべく高校時代の同級生の話を聞いて回る間瀬の行動が、いつの間にか「現実に落ち着いた同級生たちの、魂の解放」行脚になっているところが面白い。二和が18歳にとどまり続ける真の理由を探ることが主のミステリになっているのだが、その真相は正直やや陳腐に感じた。しかし、30近い社会人が、甘酸っぱい青春時代を振り返っていくその過程に、多くの読者が共感したり、切なさを感じたりするのではないだろうか。私自身もその一人で、楽しく読み進めることができた。


No.747 7点 サーチライトと誘蛾灯
櫻田智也
(2020/09/13 18:48登録)
 昆虫好きのおとぼけ青年・魞沢泉(えりさわ せん)が探偵役の短編集。
 どこかかみ合わないユーモラスな会話でテンポよく展開しながら、しっかりとしたミステリ。あとがきによると作者は泡坂妻夫の亜愛一郎をこよなく愛しているそうで、それを意識したとのこと。
 短いストーリーの中にも無理なく、さり気なく手がかりが散りばめられ、しっかりとした解決編になっていると思う。私としては、表題作(第10回ミステリーズ!新人賞)と、「火事と標本」がよかった。


No.746 6点 筋読み
田村和大
(2020/09/13 18:39登録)
 第16回「このミス」優秀賞受賞作。
 警視庁捜査一課の飯綱は、都内で起きた30代女性の殺人事件の捜査本部にいた。事件は自首してきた男の犯行として起訴されようとしていたが、飯綱はそれに反発し、捜査本部を外された。そして、管理官の命によりある交通事故の捜査に充てられる。その交通事故は、車からドアを開けて飛び出してきた男が対向車にはねられるものの、同じ車から降りてきた者たちがその男を再び車に乗せて走り去ったという不可解なものだった。車の行方を追う飯綱だったが、そんな折に殺人事件の捜査本部から信じられない連絡が。それは、自首してきた殺人事件の被疑者と、車ではねられて連れ去られた男とのDNA型が一致したという、ありえない事実だった。

 筋読みの飯綱、「ヨミヅナ」が二つの事件のつながりを明らかにすべく活躍する。十分に面白かったが、警察小説としては平均水準かな。DNA型の一致という最大の謎と、真犯人の解明(事件の真相解明)という二つの命題がある中で、展開としては後者が主眼で、前者のDNAの謎は冒頭にぶち上げられた割にはあまり重要視されていなかった印象。


No.745 7点 我が家の問題
奥田英朗
(2020/09/13 18:18登録)
 家族、とりわけ「夫婦」を題材にした、コミカルかつハートウォーミングな短編集。小粒ながら作者らしい巧みな語り口で、読んでいて非常に楽しい。
 ラスト2編、「里帰り」と「妻とマラソン」なんかはホントによかったなぁ。「絵里のエイプリル」だけ深層が分からないままで、ちょっともどかしいけど、これも奥田氏の技巧なのかな(解説によると)
 家庭生活や妻の問題を取り上げる話は、昨今はブラックな内容になるものが多い中、ハッピーエンドで統一されている本短編集は非常に読後感が良かった。


No.744 6点 この謎が解けるか?鮎川哲也からの挑戦状1
鮎川哲也
(2020/09/06 19:28登録)
 昭和の時代にテレビで放映された犯人当て番組の台本(?)を書籍化したもの。昭和の「推理小説」的な興趣、当時のテレビの雰囲気が楽しめた。
 短時間のテレビ視聴者向けのため、藤原宰太郎の推理クイズ本のような謎の質・レベルであり、その点で評価を高くすることはできないが、上に記したような感覚で、鮎川哲也の軌跡や時代を楽しむ娯楽として評価させてもらった。
 もちろん、自身で推理を巡らす行為自体も楽しかった。

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