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ミステリの祭典

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ノワールをまとう女
西澤奈美

作家 神護かずみ
出版日2019年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 HORNET
(2020/10/27 20:17登録)
 前評、人並由真さんの「21世紀のフツーのノワール、フツーの事件屋稼業ではないか」という評価に全く同意。リーダビリティも高いし、読み進めるのは楽しい。だが、「今年の乱歩賞受賞作は…!?」という高い期待があるのなら、それに応え得るのは難しい。
 もちろん、面白い。私も満足している。ただ他と比して突出した、印象的な作品ではなかったということ。組み立ての精緻さは素晴らしいと思う。

No.1 7点 人並由真
(2020/02/15 04:08登録)
(ネタバレなし)
「わたし」こと35歳の西澤奈美は、大手の医薬品メーカー「美国堂」の広報スタッフ、市川進から連絡を受ける。市川は、数年前に自社の重役に迎え入れた韓国人の実業家がかつて過激な反日発言をしていたことが露見したと語った。そのため市民運動家による美国堂を糾弾するデモ活動が日々かまびすしいので、この対策を奈美に願ってきたのだ。奈美の秘めた稼業は、裏工作を用いてネット上のヘイト発言や炎上案件の火消しなどを行うこと。今回の彼女は、デモ活動の中心組織「糺す会」の代表である青年「エルチェ」に接触。組織の切り崩しを図るが、そこで奈美が出会ったのは意外な人物だった。

 昨年2019年度の乱歩賞受賞作品。作者はすでに20年以上前から著作があり、さすがに書きなれた文章はこなれて読みやすい。
 一方で選考委員の一部が称賛するほど、Web上の火消し屋というのが斬新な設定とも思えないし(そもそも火消し探偵なら、同じ講談社に「おひいさま」こと岩永琴子さんがいるよな)、何より実際の作中での奈美はネットよりも現実の世界のなかで狙う標的に罠をかけている。それほど発想にも叙述にも飛躍のない、21世紀のフツーのノワール、フツーの事件屋稼業ではないか。
 とはいえ中盤からは、ある人物の退場を機にフーダニットめいた興味も発生。そちらの方をサイドストーリとして語る一方、奈美の仕掛けた組織への罠、さらに奈美自身の恩人に関わる案件……と複数の物語がよじりあうようにもつれながら進んでいく。
 主人公・奈美の秘めた過去も中盤以降に明かされ、そこで語られる昔日のエピソードも人によっては苛烈に思えるかもしれないが、並みいるバイオレンスノワールの中には、もっと過激なものもいくらでもある感じもする。人間の普遍的な暴力性を描いてもどこか節度があるようなのが、何とはなしに古めかしい。
 それでも筆慣れた文体は最後までリーダビリティが高いし、小さい山場を惜しみなく繰り出す作劇のテンポも良い。さらに終盤には(前もって最後に闘う相手を読者に半ば予期させたその上で)、斜め上? のクライマックスを用意。その辺の盛り上げ方にも達者さを感じる。さすがベテラン作家。
 そもそも乱歩賞は一般に新人作家の登竜門と思われがち? だが、実際には応募資格は誰にでもあり、プロ作家でも応募は自由。高木彬光なども自分を見出してくれた乱歩への畏敬の念から、デビュー後かなり時が経ったのちでも恩人の名を冠した賞の受賞を狙っていたと聞く。そんななかで今回の作者は、実際に受賞した作家の内では相応にそれまでの著作歴の長い方の一人ではないか(厳密に最長かどうかは、確認してみないとわからないけれど)。

 帯の「新ヒロイン誕生!」の文句がそのまま今後のシリーズ化を予想させる気もする。そういえば歴代の乱歩賞受賞作品でデビューし、そのままシリーズキャラクターになった主人公って、何人くらいいるのであろう。そのうちカウントしてみよう。

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