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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.33点 書評数:1177件

プロフィール| 書評

No.797 5点 白が5なら、黒は3
ジョン・ヴァーチャー
(2021/04/29 20:48登録)
 青1995年、ピッツバーグ。ボビーは幼い頃からの親友、アーロンが出獄してきたところに出会う。以前は黒人のスタイルにあこがれを抱いていたアーロンだったが、出獄した彼は白人至上主義者に変わり果て、ある黒人青年に対し傷害事件を起こしてしまう。期せずして旧友の逃走に手を貸してしまったボビーは捜査に怯え、アーロンに怯える。そんなとき、黒人である死んだはずの父親が姿を現しーー

 短く読み易い。アメリカの黒人差別問題がメインテーマ、ミステリとしてはそこそこ。


No.796 6点 蒼海館の殺人
阿津川辰海
(2021/04/25 19:56登録)
 高校生の田所信哉は、「紅蓮館」の事件以来学校に来なくなってしまった名探偵・葛城に会うため、葛城家の別荘「蒼海館」を友達の三谷と共に訪れる。そこには葛城の両親・兄姉を始め、叔父・叔母夫婦など一同が揃っていた。折しも強大な台風により帰れなくなった田所と三谷は、蒼海館に泊まることに。しかしその晩、大雨により出入りのできない館で、葛城の兄・正が殺され、閉ざされた空間での連続殺人の幕が上がる―

 複雑であるが精緻に織り込まれたロジックには感心するが、ちょっとやり過ぎではないか?とも思う。しかも要所要所で、「ある人物に何かをするように仕向ける」という要素があるが、そんなに思惑通りに人が動くとはとても思えない。真犯人を特定していく過程はロジカルなのだが、犯行手段にちょくちょく織り込まれているそうした要素が腑に落ちず、手放しで賞嘆する気にはなれなかった。
 とはいえ、令和の時代に館もの、クローズドサークルものに真っ向から挑む作風には非常に好感がもてる。是非、今後も書き続けて欲しい。


No.795 8点 悪の芽
貫井徳郎
(2021/04/25 19:37登録)
 アニコンに殺到する人たちを標的にした無差別殺人事件が起きた。大手銀行で出世街道を歩む銀行員・安達は、そのニュースを見て戦慄を覚える。というのも、犯人は小学校時代の同級生で、自身がいじめのきっかけを作った子だったからだ。メディアは小学校時代に受けたいじめが、犯人の人生を狂わせたと報じる。自分は無差別殺人の原因なのか―。仕事も手につかなくなってしまった安達は、独自に調べ始める。
 無差別殺人はなぜ、アニコンを標的に行われたのか?ホワイダニットの謎解きを核としながらも、いじめの構図、社会の格差、日本人の階級意識など、さまざまな社会的テーマに切り込みながら進められていく物語に釘付け。さすが、貫井徳郎である。
 ベテランの域に入った作家だと思うが、昨年の「罪と祈り」に続いて、昨今ますます脂が乗ってきた感があるなぁ。


No.794 7点 揺籠のアディポクル
市川憂人
(2021/04/25 19:23登録)
 タケルは、病原体に極度に弱い病気になり、「クレイドル」と呼ばれる無菌病棟で生活する。クレイドルには同じ年頃の女の子、コノハがいた。毎日顔を合わせるのは医師と看護師だけの隔絶された毎日。ある日、台風により病棟が孤立し、タケルはコノハと二人だけに。そこで、コノハが何者かに刺殺された―
 意を決して、「クレイドル」の外にタケルが出てから、怒涛の展開が。よくここまで考えて仕掛けたものだと唸らされる。
 面白い!


No.793 7点 元彼の遺言状
新川帆立
(2021/04/04 20:07登録)
「僕の財産は、僕を殺した犯人に譲る」―弁護士の剣持麗子が学生時代にか月だけ交際していた「元彼」森川栄治が遺した奇妙な遺言状。栄治は遺言状の中で、犯人に与える財産とは別に、これまで交際してきた女性にも財産を分け与えるとし、その名前を律義に一人一人挙げていた。麗子も元カノの一人として軽井沢の屋敷を譲り受けることになっており、避暑地を訪れて手続きを行なったその晩、くだんの遺書が保管されていた金庫が盗まれ、栄治の顧問弁護士が何者かによって殺害されてしまう――。
 ミステリとしての出来もさることながら、「男が何度変わっても女ともだちは変わらない。そんな私たちの、当たり前の日常を日常を伝えたくて書きました」との筆者のコメントが示すように「元カノ」として集められた女性たちの関わり合いがなかなか楽しい。敵愾心を露わにし、マウントをとろうとする女性、はなから勝利者のように超然としている女性、さまざまなタイプの女性たちが、事件を通して次第に近しくなっていく様を楽しむのも一興。
 遺言状がらみの遺産相続にスポットが当たりながら、犯人の一番の動機の視点がそこではなかったことも上手かった。その点からももちろん、ミステリとしても上々の出来である。


No.792 6点 ドラゴンスリーパー
長崎尚志
(2021/04/04 19:34登録)
 “パイルドライバー”の異名をとる元刑事・久井重吾の元に訃報が届いた。元上司だった諸富幸太郎が残酷な手口で殺害されたというのだ。しかも十三年前の未解決少女殺害事件の手口と酷似していた。イマドキの刑事・中戸川俊介とコンビを組み、アドバイザーとして捜査を開始した久井。やがて、諸富が引退後も追っていた未解決事件の裏に、不法滞在中国人―鼠族の存在が浮かび上がり、県警警備部も事件を追っていることが判明。直後、第二の殺人が…。謎が謎を呼ぶ事件の犯人の正体は?進化を遂げた警察ミステリー。(「BOOK」データベースより)

 読ませる。中国系の犯罪結社の話はちょっとややこしかったり、やや短絡的な感もあったが、それらと中学時代のいじめの話との関わらせ方はなかなか面白かった。何より展開がスピーディかつ読み易く、前作「パイルドライバー」に続いて著者の作品には好感がもてる。


No.791 9点 エラリー・クイーンの新冒険
エラリイ・クイーン
(2021/03/16 19:55登録)
とてもよかった。これまでの方も書いているように、中編『神の灯』が世評の高い作品ということだが、それはもちろんのこと、その他の短編も押しなべて面白く、私としては「冒険」より印象に残る作品が多かった。
 後半の、ポーラ・パリスとカップルで活躍する「スポーツ・ミステリ」の連作短編が、長編との色違いが感じられて興趣が尽きない。読者として作者と推理合戦をするにもちょうどよい手応えだと思う。『人間が犬を噛む』の毒殺トリック、『正気にかえる』の、エラリーの紛失したコートから犯人言い当てるロジックなどはさすがクイーンという感じ。ラスト『トロイの木馬』は、真犯人も隠した場所もすべて当てることができて非常に気分が良かった(笑)
 クイーンの「謎解き小説」の魅力をてっとり早く堪能するには最適の一冊ではないかと思う。


No.790 6点 僕の神さま
芦沢央
(2021/03/14 15:20登録)
 小学5年生の「僕」は、ある日おじいちゃんの家で、桜の塩漬けをひっくり返してダメにしてしまった。それはおじいちゃんが、亡きおばあちゃんが作ったものとして毎年春の楽しみにしていたもの。どうしよう…と窮地に立たされた僕の頭に浮かんだのは、どんな謎でも推理して解決してくれる「神さま」、同級生の水谷くんの顔だった―。

 1話目「春の作り方」はハートウォーミングなストーリーで、穏当なコージー・ミステリという作者の新境地?と思いきや…いやいやそこは芦沢央、それだけで終わるわけがない。作者の巧みなストーリーテーリングを改めて実感する良作だった。


No.789 5点 マーダーハウス
五十嵐貴久
(2021/02/23 19:04登録)
 鎌倉にある瀟洒な洋館風のシェアハウスに、新潟から出てきた新女子大生が入居することになった。奥まった丘にある不便さを除けば、きれいなつくりや設備、広い自室などで月4万5千円の家賃は破格。入居者も美男美女ぞろいで、まるで某テレビ番組のよう。ただ、現実はテレビのように美しいことばかりではなく、ちょっとした入居者同士の確執や事故で、一人、二人と人がいなくなっていく。
 作品登録の際に、ジャンル何にするのか迷った。正しかったか自信ない。一応フーダニットの体だが、真犯人に結び付く情報提供が事前にあるわけでもなく「最後に一気に真相明かし」というスタイルなので。
 「事故」と処理される住人の死など、コトは起こっているのだが、作品上は普通に共同生活が送られている体でずっと話が進んでいくので「ミステリ」を前面に出すのはラストだけだった。退屈はしなかったが、盛り上がりもしなかった。


No.788 5点 ワトソン力
大山誠一郎
(2021/02/14 17:56登録)
警視庁捜査一課の刑事・和戸は、自分ではなく自分の周りにいる者の推理力を上げる「ワトソン力」という特殊な能力を持っている。なぜかプライベートでたびたび事件に遭遇する和戸だが、いつも周囲の人々(容疑者含む)の推理合戦となり、真相にたどり着く―
 という設定に立ったうえでの連作短編集。一風変わった設定だが、その「ワトソン力」という設定が特に謎や真相に関わってくることはなく、中身はいたって普通のロジカル謎解きである。謎解きのためのロジックありきのような犯人の行為は「推理クイズ」のようにも感じられるところもあるが、それは作者の特徴。荒唐無稽と感じないこともないが、推理クイズ気分で読めばよいかと思う。


No.787 7点 家日和
奥田英朗
(2021/02/14 17:33登録)
 「家族」シリーズの初作。私は他作品を先に読み、さかのぼって本作を読んだ。普通の家庭に起きるエピソードをユーモラスに描き上げる筆致は相変わらず面白く、シリーズ化してくれてありがとう!と思った。
 作家の家族の話は、シリーズを通して描かれているんだね。このあと「我が家の問題」でマラソンに挑戦し、「我が家のヒミツ」で市会議員に立候補するという展開を知っているので「はじめはこうだったのかぁ」と思いながら楽しんだ。
 シリーズ3冊は結構 間を空けながら出されているので、次も出してほしいなぁ、と期待する。


No.786 6点 山伏地蔵坊の放浪
有栖川有栖
(2021/02/11 16:28登録)
 毎週土曜日にバー「えいぷりる」に集う常連たちに、山伏地蔵坊が、自身が関わった事件を語って聞かせるという形の連作短編集。事件の概要を山伏が語ったあと、常連たちが犯人を推理するパターンで、読者も同様に推理を楽しむことができる。
 有栖川氏らしいオーソドックスなフーダニットで、犯人・トリック当てクイズの体で楽しめた。


No.785 7点 我が家のヒミツ
奥田英朗
(2021/02/07 15:50登録)
 大ファンのピアニストが患者としてやってきた歯科事務員の主婦、ライバルとの出世競争に敗北の終止符が打たれた会社員、本当の父親が著名な劇作家であることを知った女子高生、母親を亡くして激しく気落ちしている父親を心配する息子…など、市井の一般家庭に起きた波風を軽妙なタッチで描くシリーズ第3作。ラスト「妻と選挙」には、「我が家の問題」でも出てきた作家先生の家庭が再び搭乗する。
 いずれも家庭内、あるいは職場でのゴタゴタを描きながらも、すべて心温まるハッピーエンドなのが良い。特に私は「正雄の秋」が、心に沁みた。


No.784 7点 緋色の残響
長岡弘樹
(2021/02/07 15:33登録)
 杵坂署の女性刑事・羽角啓子は、先輩刑事であった夫に先立たれ、中学生の娘・菜月と2人暮らし。家を空けることも多い多忙な母親だが、新聞記者を目指す菜月は、事件について母親と話すことも多く、良好な親子関係だった。本作は、そんな羽角母娘を主人公にした全5編からなる連作短編集。
 「翳った水槽」「緋色の残響」「暗い聖域」の3編は、菜月の通う中学校での事件であり、最後の「無色のサファイア」も含めて、本作品集は娘・菜月の活躍場面が多い。どの話も独特の切り口から真相解明に至る仕掛けで、各話ともユニークだった。特に最後の「無色のサファイア」は伏線の描き方からオチまでの流れが非常に巧みだった。
 日本推理作家協会賞短編部門受賞の「傍聞き」の母娘が、作者のフィールドである短編で三たび、存分に魅力を発揮する。


No.783 8点 マジックミラー
有栖川有栖
(2021/02/07 14:53登録)
 ノンシリーズの、アリバイトリックを主題にした長編。(ただ、作家アリスシリーズの編集者、片桐光雄は登場しているが)
 鉄道ダイヤを駆使した、複雑で手の込んだトリックではあるが、カーの「密室講義」の向こうを張らんとする「アリバイ講義」があったり、ダイアローグ・エピローグにまで仕掛けが施されていたりと、二重三重に工夫が凝らされていて全体的に厚みのある作品だった。
 重要人物が双子である時点でトリックの概要は何となく予想がつくのだが、それでも各登場人物の言動をテンポよくつないでいく展開は魅力があり、最後まで非常に興趣が尽きることなく読み進められた。
 鮎川哲也氏による最後の解説も読後の余韻を後押ししてくれる。


No.782 5点 双蛇密室
早坂吝
(2021/01/31 07:58登録)
 ・・・よくもまぁ、こんな奇抜なミステリを考えるものだと感心してしまう。ぶっ飛んだ発想だが、これこそがこの作者の色であり、らしいのだが。
 藍川刑事の生い立ちに隠された過去の謎を解いていく話。軽い文体と展開、170pほどという長さで、あっという間に読める。そうしたサイズなので、奇抜でおバカなミステリを楽しめばいい、と割り切れるかな。大きく二つの密室の謎を解くのだが、どちらも(とくに二つめは)とても読者が推理して真相を看破するような類のものじゃない。
 繰り返しになるが、よくもまぁ、こんな仕掛けを考えるものだ(笑)


No.781 7点 不穏な眠り
若竹七海
(2021/01/31 07:47登録)
 短編ながらどれもしっかりミステリとして楽しめる4編。短編というサイズで、ハプニングも交えながら事件背景や人間関係が次々に明らかになっていくので、テンポが良いとも言えるが、ちょっとめまぐるしく感じたり、ついていけなかったりする人もいるかもしれない。「逃げ出した時刻表」はちょっとそんな感じだった。
 ちょっとした依頼だったはずがどんどん大事になっていく展開の妙と、葉村のキャラクターによりユーモラスに描かれる作風は相変わらず小気味良く、240ページという文量以上に楽しめる質の良いミステリ短編集だった。


No.780 6点 透明人間は密室に潜む
阿津川辰海
(2021/01/24 22:13登録)
 世に「透明人間病」が発現して100年余りが経った。発症した人間はまさしく無色透明になってしまうという奇病だ。しかし長年の研究を経て、ついに透明人間をもとの体に戻す新薬が開発されることになった。そのニュースを聞き、透明人間病の一人・内藤彩子は、開発者である大学教授を殺害しようと計画する。いったいなぜ―(表題作)
 表題作のほかに3作を収めた作品集。SF的な特殊設定のものは表題作だけ(超人的な聴覚を持つ探偵助手が活躍する「盗聴された殺人」もかな?)だが、まぁ作者らしく他作品も現実性より楽しみを重視。ミステリとしての出来はあまりかもしれないが、「六人の熱狂する日本人」は面白かった。
 2020年末の各ランキングで非常に評価が高いが、私としては平均水準の楽しさだった。


No.779 5点 仁侠シネマ
今野敏
(2021/01/24 12:35登録)
 任侠シリーズ第5弾。今回の立て直しは、映画館。
 今回は、阿岐本組の面々が乗り込んでいき活躍するというような、これまでのような展開とはちょっと毛色が違った。主に代貸・日村と組長・阿岐本が、企業役員や政治家に相対する場面が多く、割と淡々と物語が展開していく感じだった。マル暴の甘糟、女子高生の香苗の登場場面も多かった。
 それでもこのシリーズには飽きが来ない。続けて欲しいなぁ。


No.778 7点 暗黒残酷監獄
城戸喜由
(2021/01/24 12:20登録)
 学校に友達はおらず、家族の不幸にも涙一つ流さない、まるでサイコパスのような高校生・清家椿太郎(ちゅんたろう)は、独特の価値観を貫いて毎日を飄々と過ごしていた。ある日、姉の御鍬が十字架に磔にされて殺され、財布の中には「この家には悪魔がいる」とのメモが。真犯人を自分で捜査しようと思い立った椿太郎は、嬉々として独自に調べ始めるが、次々と家族の暗部が明らかになっていく―

 序盤は次々に登場人物が増えていき、話があちらこちらに散逸しているような印象だったが、感情を欠いたような椿太郎と周りの人たちとのやりとりが軽妙に書かれていて、気にせず読み進められた。読み終えてみれば「ここまでやるか」というくらい幾重にも仕掛けが施されており、よくここまで考えたものだと感心してしまった。「この家には悪魔がいる」の真意も・・・。設定やキャラクターが突飛ではあるが、謎解きに主眼を置いて、その楽しみを十分に味わわせてくれた。

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