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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1163件

プロフィール| 書評

No.783 8点 マジックミラー
有栖川有栖
(2021/02/07 14:53登録)
 ノンシリーズの、アリバイトリックを主題にした長編。(ただ、作家アリスシリーズの編集者、片桐光雄は登場しているが)
 鉄道ダイヤを駆使した、複雑で手の込んだトリックではあるが、カーの「密室講義」の向こうを張らんとする「アリバイ講義」があったり、ダイアローグ・エピローグにまで仕掛けが施されていたりと、二重三重に工夫が凝らされていて全体的に厚みのある作品だった。
 重要人物が双子である時点でトリックの概要は何となく予想がつくのだが、それでも各登場人物の言動をテンポよくつないでいく展開は魅力があり、最後まで非常に興趣が尽きることなく読み進められた。
 鮎川哲也氏による最後の解説も読後の余韻を後押ししてくれる。


No.782 5点 双蛇密室
早坂吝
(2021/01/31 07:58登録)
 ・・・よくもまぁ、こんな奇抜なミステリを考えるものだと感心してしまう。ぶっ飛んだ発想だが、これこそがこの作者の色であり、らしいのだが。
 藍川刑事の生い立ちに隠された過去の謎を解いていく話。軽い文体と展開、170pほどという長さで、あっという間に読める。そうしたサイズなので、奇抜でおバカなミステリを楽しめばいい、と割り切れるかな。大きく二つの密室の謎を解くのだが、どちらも(とくに二つめは)とても読者が推理して真相を看破するような類のものじゃない。
 繰り返しになるが、よくもまぁ、こんな仕掛けを考えるものだ(笑)


No.781 7点 不穏な眠り
若竹七海
(2021/01/31 07:47登録)
 短編ながらどれもしっかりミステリとして楽しめる4編。短編というサイズで、ハプニングも交えながら事件背景や人間関係が次々に明らかになっていくので、テンポが良いとも言えるが、ちょっとめまぐるしく感じたり、ついていけなかったりする人もいるかもしれない。「逃げ出した時刻表」はちょっとそんな感じだった。
 ちょっとした依頼だったはずがどんどん大事になっていく展開の妙と、葉村のキャラクターによりユーモラスに描かれる作風は相変わらず小気味良く、240ページという文量以上に楽しめる質の良いミステリ短編集だった。


No.780 6点 透明人間は密室に潜む
阿津川辰海
(2021/01/24 22:13登録)
 世に「透明人間病」が発現して100年余りが経った。発症した人間はまさしく無色透明になってしまうという奇病だ。しかし長年の研究を経て、ついに透明人間をもとの体に戻す新薬が開発されることになった。そのニュースを聞き、透明人間病の一人・内藤彩子は、開発者である大学教授を殺害しようと計画する。いったいなぜ―(表題作)
 表題作のほかに3作を収めた作品集。SF的な特殊設定のものは表題作だけ(超人的な聴覚を持つ探偵助手が活躍する「盗聴された殺人」もかな?)だが、まぁ作者らしく他作品も現実性より楽しみを重視。ミステリとしての出来はあまりかもしれないが、「六人の熱狂する日本人」は面白かった。
 2020年末の各ランキングで非常に評価が高いが、私としては平均水準の楽しさだった。


No.779 5点 仁侠シネマ
今野敏
(2021/01/24 12:35登録)
 任侠シリーズ第5弾。今回の立て直しは、映画館。
 今回は、阿岐本組の面々が乗り込んでいき活躍するというような、これまでのような展開とはちょっと毛色が違った。主に代貸・日村と組長・阿岐本が、企業役員や政治家に相対する場面が多く、割と淡々と物語が展開していく感じだった。マル暴の甘糟、女子高生の香苗の登場場面も多かった。
 それでもこのシリーズには飽きが来ない。続けて欲しいなぁ。


No.778 7点 暗黒残酷監獄
城戸喜由
(2021/01/24 12:20登録)
 学校に友達はおらず、家族の不幸にも涙一つ流さない、まるでサイコパスのような高校生・清家椿太郎(ちゅんたろう)は、独特の価値観を貫いて毎日を飄々と過ごしていた。ある日、姉の御鍬が十字架に磔にされて殺され、財布の中には「この家には悪魔がいる」とのメモが。真犯人を自分で捜査しようと思い立った椿太郎は、嬉々として独自に調べ始めるが、次々と家族の暗部が明らかになっていく―

 序盤は次々に登場人物が増えていき、話があちらこちらに散逸しているような印象だったが、感情を欠いたような椿太郎と周りの人たちとのやりとりが軽妙に書かれていて、気にせず読み進められた。読み終えてみれば「ここまでやるか」というくらい幾重にも仕掛けが施されており、よくここまで考えたものだと感心してしまった。「この家には悪魔がいる」の真意も・・・。設定やキャラクターが突飛ではあるが、謎解きに主眼を置いて、その楽しみを十分に味わわせてくれた。


No.777 7点 巴里マカロンの謎
米澤穂信
(2021/01/24 12:03登録)
 高校生・小鳩常悟朗は、同級生の小佐内ゆきと、必要な時に互いに手を貸し合うという「互恵関係」を結んでいる。ある日ゆきから、新装開店した名古屋の人気カフェにつき合ってほしいと頼まれ共に店を訪れる。ゆきのお目当ては季節限定のマカロンを食べることだったが、注文したマカロンがなぜか一つ増えていた。そして、そのマカロンの中にはなんと指輪が仕込まれていた・・・
 なんと11年ぶりの「小市民」シリーズ。春、夏、秋ときて、「冬(続編)は出ますか?」という質問に作者は「書きます」と答えていたが、なぜか急にタイトルが「国名シリーズ」に(笑)。これは、「冬」で終わらせずに今後も続くということなのだろうか・・・?
 2人の特異なキャラクターを軽妙に描きつつ、巧妙に伏線を忍ばせながら「日常の謎」を解き明かしていく作者の手腕は健在。「伯林あげぱんの謎」は、いかにも普段やりそうな人の行為をうまくすくい上げた真相で唸らされた。古典部シリーズと並んで、学生を主人公にした日常の謎もこの作者の重要な領域なのだと感じた。


No.776 6点 ローズガーデン
桐野夏生
(2021/01/17 17:21登録)
 表題作は、ミロの死んだ夫が主人公の話で、村野ミロの知られざる背景が見られてシリーズを読んでいる人なら楽しめるだろう。まったくミステリではないのだが、ミロの亡き夫・博夫が回想する高校時代のエピソード内でミロが話していたことは果たして本当なのか、フェイクなのか?そういう意味ではミステリアスだ。
 他の短編もなかなか面白い。一番私立探偵小説らしいのはラストの「愛のトンネル」かな。「独りにしないで」は、結構予想外の真相で面白かった。


No.775 6点 頼子のために
法月綸太郎
(2021/01/17 17:11登録)
 著者が学生時代に書いたものを大幅加筆して長編化したものというだけあって、ミステリとしては始めから真相が見通せるものだった。
 ただ、真相解明に行きつくまでの物語自体が結構面白く、予想していた結末ではあったが、それまでの過程を楽しんで読むことができた。


No.774 5点 愛なんてセックスの書き間違い
ハーラン・エリスン
(2021/01/17 17:06登録)
 著者は有名なSF作家らしく、本作はそのエリスンのSFではない初期の短編を集めたものということ。
 作品により多少の雰囲気の違いはあるが、概ねセックス、金、暴力が飛び交うアメリカの俗文化というイメージで、短絡的でわかりやすいものもあれば、持って回った言い方の連続で話がつかみにくいものもあった。ただどの話もテンポよく展開していき、一話一話はそう長くないので苦なく読み進めることができる。
 読み慣れてきたからか、「クールに行こう」「人殺しになった少年」「パンキーとイェール大出の男達」などの後半の方の作品が印象に残った。


No.773 5点 あの子の殺人計画
天祢涼
(2021/01/10 18:57登録)
 児童虐待をテーマとしていて、話としては面白かったのだが…
 ・・・うーん・・・
 ラストのどんでん返しは、意表を突くことに凝りすぎててなんだか。
 それまで読んできた部分を見返して、どっちがどっちの「きさら」なのかを復習しようとも思ったけど、面倒になって投げ出してしまった。
 前作「希望の死んだ夜に」がよかったので、期待して読んだが、期待以上ではなかったなぁ。


No.772 9点 カッティング・エッジ
ジェフリー・ディーヴァー
(2021/01/10 18:06登録)
 ダイヤモンドのカッティングを手掛ける宝石店に男が押し入り、店主と居合わせたカップルを惨殺した。多くあるダイヤモンドには手を付けず、原石のみを持ち去ったらしき犯人のねらいは?その後、「プロミサー」を名乗る男が、婚約中のカップルを次々と襲う事件が続く。ダイヤモンドへの妄執を伺わせる言動から犯人と犯行動機に迫るライムたちだったが、物語は後半から怒涛の展開を見せる。

 シリーズ14作目にしても、まったく色褪せない面白さ、作者のアイデアに脱帽。「どんでん返しの帝王」と冠されていることにより、作者にとってはただでさえハードルが高いと思うのだが、それでも驚かされてしまう手腕、手数の多さに本当に感心する。
 ダイヤモンドへの偏執狂による狂信的犯罪というストレートなパターンと思わせておいて、後半から怒涛のどんでん返しに向かう展開は圧巻。
 とてもよかった。


No.771 8点 病院坂の首縊りの家
横溝正史
(2021/01/03 21:00登録)
 なんだか本サイトではあまり評価が芳しくないが、私はかなり楽しめた。
 昭和28年に起きた生首風鈴殺人事件。真犯人と思われる小雪という女性の手記と失踪で、一応の解決を見たように感じられた事件が、20年の時を経て動き出す。生首風鈴事件の被害者「ビンちゃん」がリーダーを務めていたジャズコンボの同窓会中、生首写真を撮影した写真館の当主が目の前で墜落死。次いでジャズコンボの元メンバーの一人も殺害され、20年前の真相を金田一が暴いていく。

 生首が風鈴のごとく吊るされているという、正史らしい舞台演出もよかったし、愛憎交差する人間関係も各巻に付されている家系図でそれほど苦にならず理解でき、絶えず動的な展開に上下巻という厚みも苦にせず読み進められた。相似の人物の入れ替わりというトリックは確かにやりつくされた(特に横溝作品では)感はあるものの、婚礼写真撮影の謎や、胴体消失の謎など、そこには数々の謎が散りばめられており、それらを一つに結ぶ結末はなかなかに読み応えがあった。
 氏の有名作品は閉ざされたムラ社会での陰鬱な展開のものが多く、もちろんそれは大きな魅力だが、本作は20年という時期をまたいで(作者の事情で結果そうなったようではあるが)比較的近代的な舞台となっており面白かった。
 私としては金田一耕助シリーズの中でも決して見劣りする作品ではなかった。


No.770 6点 たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説
辻真先
(2021/01/03 20:37登録)
 終戦直後の昭和24年。進駐軍により急激な民主化が進められる中、カツ丼こと風早勝利は、名古屋市内に急遽設けられた新制高校3年生になった。それまで決然と分けられた男女が民主化の方針によって共学に。すぐに順応するカツ丼たちを「軟弱なヤツラ」とさげすむ一派もある中、推研と映研に所属するカツ丼たちは、顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ、修学旅行代わりの小旅行へ。そこで事件は起きた。

 各ランキングで1位をとっている本作だが、それは多分に昭和24年の世情を描いた物語全体の味と、ベテランの作者への畏敬によるところが大きいのでは。と記すように、私も十分楽しんだが、本格ミステリとして傑出した出来とはさほど思わない。序盤から最も怪しかった人物が、その通り真犯人だった。これが物語の中では好人物で、読者の心情的には裏切ってほしくないという思いもあるが、第一の殺人での不審な行動や、第二の殺人での状況からはストレートに怪しかった。それが裏切られる結末を期待していたのだが、その通りだったところがミステリとしては拍子抜けの感がある。
 ただ初めに書いたように、終戦後2年当時の世情・風俗事情をリアルに描き、その中で青春時代を過ごす若者たちの青春群像劇は、それはそれで非常に面白かった。


No.769 6点 ダブル・ダブル
エラリイ・クイーン
(2020/12/30 21:14登録)
 病死、自殺、失踪と、それぞれ自然死や事故に見える出来事。失踪者の娘がエラリイを頼ってきたことから、エラリイは事件の地ライツヴィルへ向かう。そこでそれぞれの被害者が、童謡の歌詞をなぞっていることに気づいたエラリイは、すべて仕組まれた殺人ではないかと疑い出すのだが・・・

 限られた登場人物でありながら、どの人物も様々な形で一連の被害者に関わっていて、それなりに誰もが疑わしい状況が上手く作り出されていた。童謡殺人とはこれまた今さらな感じはあるが、前作「十日間の不思議」の「十戒」よりは分かりやすく、入っていきやすかった。
 ただ、物語が進んでいく中で一向に推理が進まず、最後のどんでん返しに期待するしかなくなっていく感じはあった。真犯人は私としてはなかなかに予想外だった。


No.768 6点 十日間の不思議
エラリイ・クイーン
(2020/12/30 20:59登録)
 それが却ってよい、という人もいるようだが、私は事件が起きるまでの前半は長く退屈だった。「十戒」という、宗教色の濃い(キリスト教)話は当然なじみがないから、そのつながりに気付いたエラリイの興奮もあまり共有できない。
 章立てとして「9日間」と「10日目」に分けられている時点で、最初の解決が真相ではないことは分かる。10日目で開陳された真相(真犯人)はそれほど意外性が高いわけではないが、内容的には面白かった。


No.767 5点 楽園とは探偵の不在なり
斜線堂有紀
(2020/12/30 20:40登録)
 ある日世界に「天使」が降臨した。顔のない頭部に長い手足、蝙蝠のような羽根と、見た目はグロテスクだが、彼らは2人以上の殺人を犯した者を地獄に落とす。それが逆に「一人までは殺せる」という不文律を生み、凶悪事件は却って増える傾向に。そんな社会状況の中、探偵・青岸焦は天使に異常な執着をする大富豪・常木王凱に誘われ、天使が集まる常世島を訪れることに―

 「1人までは殺せる、2人以上になると地獄行き」という特殊設定を生かしたミステリの仕組みは確かに面白かったが、主人公・青岸の芝居じみた心象描写はちょっとうるさく、なんだか「早く読み終えてしまいたい」という気持ちになってしまった。各ミステリランキングで高評価を得ているが、自分的にはそこまで特に秀でた印象はなかった。


No.766 7点 蟬かえる
櫻田智也
(2020/12/30 20:29登録)
 昆虫マニアのおとぼけ探偵・魞沢泉が活躍する、「サーチライトと誘蛾灯」に続く連作短編集第二弾。災害ボランティアの青年が16年前に体験した不思議な出来事の謎を解くタイトル作。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件のつながりを解き明かす、「コマチグモ」など五編。
 脱力系の筆致でありながら、ひとつひとつがミステリとしてしっかりとした構成。前作からの期待に十分応え得る出来。本シリーズはぜひ続けて欲しい。


No.765 8点 名探偵のはらわた
白井智之
(2020/12/13 18:19登録)
 原田亘、通称ハラワタは、幼い頃危機を救ってくれた名探偵・浦野灸の助手として働いていた。彼女のみよ子の父親がヤクザの組長という悩みを抱えつつ、今日も浦野について事件の捜査へ。事件は、みよ子の生まれ故郷・津ヶ山で起きた放火事件。そこでは77年前、向井鴇雄という青年が未明に30人の村人を殺して回ったという凄惨な事件があったところだった―

 作者と題名から、お得意のグロ路線が想像されたが、「はらわた」は主人公の通称というだけのことだった。とはいえ、日本犯罪史に残る数々の凶悪事件をモチーフにしながら、ゾンビめいた特殊設定も交えつつ、あくまでロジカルな謎解きにまとめあげている筆者の力量は圧巻。「津山30人殺し」「阿部定事件」「帝銀事件」などの昭和史に残る事件を写し取った設定自体が大いに興趣をそそるだけでなく、ユーモラスな雰囲気を交えつつもミステリの本筋は失わない内容に脱帽。
 面白かった!


No.764 7点 ジョン・ディクスン・カーの最終定理
柄刀一
(2020/12/13 17:59登録)
 大学生・深道恭介は、テイラー教授のゼミのメンバーで、夏期合宿と称して友坂夕也の別荘に集っていた。合宿のメインは、かのディクスン・カーの直筆の書き込みがある「カーの設問詩集」と呼ばれる本を見ること。そこには、実際にあった未解決事件の記録と、その真相を読み解いたらしいカーのメモがある。そのメモを手がかりに、皆で推理合戦を巡らすはずだったのだが…合宿中に、メンバーの友坂夕也がスピアガンで撃たれて殺された。

 2006年に、カーの生誕100周年を記念して刊行されたアンソロジーに収録された短編を、大幅に改稿して長編として出版された作品。アンソロジーが文庫化される際に、この作品だけが文庫収録から外され、あえて長編化したのだから、それだけのものだったのだろう。
 物語は、「カーの設問詩集」内の未解決事件を読み解く筋と、現実で起こった友坂夕也殺害事件を解く筋とで額縁構造になっている。どちらもロジック重視の本格ミステリで、一粒で何度もおいしい。本格ファンなら、好みの作品ではないかと思う。

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