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ミステリの祭典

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暗黒残酷監獄

作家 城戸喜由
出版日2020年02月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 5点 SU
(2023/10/31 22:35登録)
暗黒、残酷、監獄。韻を踏んだタイトルからも伝わってくるが、この作品は言葉遊びの楽しさをふんだんに作中に盛り込んでいる。
言葉遊びが面白く、かつ恐ろしいのは言葉の意味や文脈を無邪気に転倒させていくうちに、それまで意識していなかった類の真実を探り当ててしまうところにある。本当に不思議なほど満ちている哲学の気配は、それが理由だ。「真の真相」が明かされる前段階の「偽の真相」の作りがやや甘いように感じられたものの、純然たる本格ミステリたらんとする作者の意識は高い。
一人称のぶっ壊れた語り手による、言葉遊びによって物語が駆動し、「生き死に」にまつわる哲学の気配が濃厚に作中に満ちる。

No.2 6点 メルカトル
(2021/04/23 22:47登録)
同級生の女子から絶えず言い寄られ、人妻との不倫に暗い愉しみを見いだし、友人は皆無の高校生・清家椿太郎。ある日、姉の御鍬が十字架に磔となって死んだ。彼女が遺した「この家には悪魔がいる」というメモの真意を探るべく、椿太郎は家族の身辺調査を始める。明らかとなるのは数多の秘密。父は誘拐事件に関わり、新聞で事故死と報道された母は存命中、自殺した兄は不可解な小説を書いていた。そして、椿太郎が辿り着く残酷な真実とは。第23回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

物々しいタイトルからどんな大層な小説かと思ったら、ラノベじゃん。別にラノベを軽視している訳では決してありませんが、果たして文学大賞に相応しいかどうか疑問に思わざるを得ません。だから余計に選考委員の寸評が巻末に欲しかったところです。しかし、内容としては名前負けしているとは思いません、むしろそれに見合ったものとの印象はあります。

それにしても主役で語り手の椿太郎(ちゅんたろう)は、血が通っている人間にはとても思えませんでしたね。感情が常人とは違う感覚を持っており、家族や友人関係も全てに於いて所謂良い人は見当たりません。誰も彼もが一癖あり誰が「悪魔」でも可笑しくないような状況にあります。
そんな中、メインがどこにあるのかと感じるくらい、事件(主に過去に)が起きます。それを椿太郎が追っていくわけですが、その道中も一筋縄ではいきません。ツッコミどころは多いです、例えば何故磔にされたのかなどの説明もされていませんし。普通そんな面倒な事はしないだろうと。
総体的に言えば、色々なネタの寄せ集めで成り立っている作品でしょうか。それぞれの事件が絡み合ったり合わなかったりしながら進行し、多分にカオスを含んだ怪作と呼ぶべきものだと思います。

No.1 7点 HORNET
(2021/01/24 12:20登録)
 学校に友達はおらず、家族の不幸にも涙一つ流さない、まるでサイコパスのような高校生・清家椿太郎(ちゅんたろう)は、独特の価値観を貫いて毎日を飄々と過ごしていた。ある日、姉の御鍬が十字架に磔にされて殺され、財布の中には「この家には悪魔がいる」とのメモが。真犯人を自分で捜査しようと思い立った椿太郎は、嬉々として独自に調べ始めるが、次々と家族の暗部が明らかになっていく―

 序盤は次々に登場人物が増えていき、話があちらこちらに散逸しているような印象だったが、感情を欠いたような椿太郎と周りの人たちとのやりとりが軽妙に書かれていて、気にせず読み進められた。読み終えてみれば「ここまでやるか」というくらい幾重にも仕掛けが施されており、よくここまで考えたものだと感心してしまった。「この家には悪魔がいる」の真意も・・・。設定やキャラクターが突飛ではあるが、謎解きに主眼を置いて、その楽しみを十分に味わわせてくれた。

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