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ミステリの祭典

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不穏な眠り
葉村晶シリーズ

作家 若竹七海
出版日2019年12月
平均点6.83点
書評数6人

No.6 7点 まさむね
(2021/01/31 11:13登録)
 葉村晶シリーズの短編集。
 4短編いずれも、スッと物語に入り込まされ、ユーモアを交えつつのクールな語り口の中で、どんどん転がされます。スピーディーに拡大・展開していくため、作者の技術を堪能するためにも、一定の短期間でそれぞれの短編を読み切ることをお勧めします。
 個人的ベストは、一気に読まされた「逃げ出した時刻表」。一作目の「水沫隠れの日々」のラストの儚さ(と言っていいものか)も記憶に残りそう。

No.5 7点 HORNET
(2021/01/31 07:47登録)
 短編ながらどれもしっかりミステリとして楽しめる4編。短編というサイズで、ハプニングも交えながら事件背景や人間関係が次々に明らかになっていくので、テンポが良いとも言えるが、ちょっとめまぐるしく感じたり、ついていけなかったりする人もいるかもしれない。「逃げ出した時刻表」はちょっとそんな感じだった。
 ちょっとした依頼だったはずがどんどん大事になっていく展開の妙と、葉村のキャラクターによりユーモラスに描かれる作風は相変わらず小気味良く、240ページという文量以上に楽しめる質の良いミステリ短編集だった。

No.4 6点 E-BANKER
(2020/06/24 20:57登録)
”いつも不運な私立探偵”葉村晶シリーズの最新刊。
今回も円熟味の増した不運ぶりが堪能できる・・・のかな?
2019年の発表。

①「水沫隠れの日々」=「親友だった女性の娘を連れてきて欲しい・・・」それが今回の依頼。そして訪れた場所は刑務所だった・・・。またまた晶が巻き込まれる過去の殺人事件と高価な薬物(?)の隠蔽。不運の結果、彼女が捕まえたのは何と「カ〇」だった! ここでやっとタイトルの意味が分かる仕掛け。
②「新春のラビリンス」=大晦日の夜、廃ビルの警備の仕事に就くことになった晶。なにもこんな日に仕事することないのに・・・って思ってるとやっぱり妙な事件に巻き込まれる。
③「逃げ出した時刻表」=<Murder Bear Bookshop>のフェアで展示された珍しい「ABC時刻表」にまつわるひと騒動。古書の世界ってよく分からんけど、好事家にとっては絶対手に入れたいものなのか。事件はかなりややこしい。
④「不穏な眠り」=これもかなり込み入った事件。ひとりの謎の女性をめぐって晶が多摩の山奥で右往左往することに・・・。最終的に判明するのは、なかなか寂しい事実。

以上4編。
大好きな本シリーズ。今や大人気(?)となったためか、発表ペースがかなり早くなってきた。
それが原因かどうか、今回どうもレベルが低下したような印象が残った。
晶がいつの間にかややこしい事件の渦中に立たされ、不運&不幸なトラブルに巻き込まれながらも真相にたどり着く。これはいつもどおりのプロットで今回もほぼ同様。
なんだけど、どうもね・・・
これがマンネリだとは思わないんだけど、ここ数作の評価が高かっただけに、それとの格差が気になってしまった。

いつもの調子で、というのはシリーズファンにはうれしいんだけど、そろそろ違うテイストも加えていかないと飽きるかも。今回はそういう感想。
まぁ面白いか面白くないかと言われると、「面白い」の方ではあるんだけどね。
本シリーズへの期待の高さの裏返しということで。
(個人的ベストは②。④もいいんだけど、どうもややこしい気がする)

No.3 7点 パメル
(2020/05/11 20:15登録)
私立探偵葉村晶シリーズで4編からなる短編集。
収録されているのは、刑務所から出所されたばかりの女性の拉致騒動に巻き込まれる「水沫隠れの日々」、家に帰ってこない警備員捜しが殺人事件へと発展する「新春のラビリンス」、古本の時刻表の行方を追う「逃げ出した時刻表」、死亡した女性の周辺をを調べる表題作の「不穏な眠り」の4作。
いずれもハードボイルドらしいスピーディーな語り口、皮肉な比喩、ユーモラスな軽口、屈折した会話が読ませるし、作者らしい凝りに凝ったプロットも素晴らしい。
特にプロットの点では予想外の事実を次々と明らかにしていく「不穏な眠り」がいい。葉村晶はパートタイムの古本屋の店員であり、古本ミステリとしての味わいも濃いが、それは二転三転する「逃げ出した時刻表」にあらわれている。葉村晶シリーズのエッセンスが詰まった短編集といえる。

No.2 7点 人並由真
(2020/01/25 16:37登録)
(ネタバレなし)
 一編60ページ前後の中編(長めの短編)が4本。例によってミステリとしての密度はどれも高いし、葉村晶のキャラクターの魅力は従来以上に炸裂。一本たりともつまらない話はない。
 しかし第一話で、あまりに仕事の依頼が来ないからって、WEBの匿名掲示板でステマを行う葉村晶の描写には本気で泣けた。ここまで切実なビンボー描写をされた私立探偵がこれまでのミステリ史上にいたであろうか……。

以下、簡単に寸評&感想&メモ
「水沫隠れの日々」
 事件の流れ、ゲストキャラクター、葉村晶の奮闘、そして最後の(略)。すべてがバランスの良い作品で、巻頭からこれが来たので本全体への期待が高まった。秀作。

「新春のラビリンス」
 怪談風の雰囲気からあれよあれよと話が転がっていく。真相の意外性はなかなかだが、そこに行くまでにかなり読み手もカロリーを使う話。個人的にはこれが本書の中で、一番ややこしかったかも。

「逃げ出した時刻表」
 ミステリファンの大勢が喜ぶであろう古書の稀覯本テーマの事件。最後に明かされる明快なホワイダニットの真相は、ホックのできのいい印象的な短編みたい。

「不穏な眠り」
 被害者の肖像が変遷していく「被害者ミステリ」タイプの話かと思いきや、登場人物がどんどん増えていくに従って予想外のふくらみを見せてくるエピソード。クライマックスのアレは作中の現実としてはただごとならぬ甚大な出来事だが、このシリーズならではのすっとぼけた語り口でつい笑ってしまう。映画化……とまでは望まないけれど、演出のいい2時間ドラマなどでも観てみたい一編。

以下・余談。
1:巻末の解説の辻真先先生は、このシリーズのファンとして呼ばれたっぽいが、くだんの解説本文の中で語る話題がこの新刊の本書の4編のことばかり。まさかこれまでのシリーズを実は読んでないってことはないだろうけど、少なくとも旧作を読み返してシリーズを俯瞰するためのメモを取ったりする労力はまったく払わなかったようで(?)、ある意味で潔い。まあ大御所の古老に編集部も無理は言えなかったのでしょう。
2:昨夜から始まったTVドラマ『ハムラアキラ』。まだ録画したばかりで観ていないが、どんな感じになっているのか、けっこう楽しみにしている。

No.1 7点 makomako
(2019/12/20 21:14登録)
 葉村晶シリーズの最新版。今回は連作短編集ですが、なかなか楽しめる内容でした。
 一般にシリーズものは読者が主人公たちに慣れてくると読めばそれなりには楽しめるのですが、3作4作と重ねていくとどうしてもマンネリとなりがちです。ところが葉村シリーズは主人公が年を重ねるにつれだんだん円熟味を増してきて、今回の出来は初期の作品よりはるかに良いものとなっているようです。
 短編なのに、きちんと話ができています。一発トリックではなく複雑な話がコンパクトにまとめられており、その中に葉村シリーズ特有の雰囲気も味わえます。
 ただ表題の不穏な眠りは話が複雑でもう一つ分かりにくかったなあ。
 

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