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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.33点 書評数:1177件

プロフィール| 書評

No.957 6点 リバー
奥田英朗
(2022/11/06 20:46登録)
 群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で相次いで発見された女性の死体。その手口は、10年前の未解決連続殺人事件と酷似していた。かつて容疑をかけられながらも不起訴となった男、その取り調べをした元刑事。娘を殺され、執念深く犯人捜しを続ける父親。若手新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち。10年分の苦悩と悔恨は、真実を暴き出せるのか──

 10年前に容疑がかけられた男、解離性同一性障害の県会議員の息子、そして10年前も町に来ていた期間工。3人の男に容疑がかけられ捜査が進められていく過程が緻密に描かれていく。その過程は読み応え十分で、600ページを超える厚みも気にはならない。
 話が進行していくにつれ、期間工の男の容疑が濃くなっていくのだが、描かれている人物像からは真犯人とは想像しがたい。うーん…どういう結末になるのか?とかなり期待を込めて読み進める。
 結果は…まぁ点数のとおりです。物語としては面白いが、ミステリとしてはそれほどでもってとこかな。


No.956 6点 彼は彼女の顔が見えない
アリス・フィーニー
(2022/10/29 21:55登録)
 夫婦関係が行き詰っていたアダムとアメリア夫婦に、くじで旅行が当たる。滞在先は人里離れた元教会。何とかこれを再出発の機にしたい2人だったが、外から2人を覗く顔、停電、そして猛吹雪と、まるでホラー映画のような展開に。誰かが2人を狙っているのか、それともパートナーが…?互いに疑心暗鬼になる夫婦に、静かに魔の手が忍び寄る―

 次々に起こる不可解な出来事と、ちらつく不審な人物の影。その不審人物も早々に表に登場するが、誰が真の犯人なのか油断がならない。アダムとアメリア2人それぞれの視点から交互に描かれる構成は「彼と彼女の衝撃の瞬間」と同じ。そこに結婚記念日ごとに書かれる妻から夫への手紙が挿入され、それらによって3人(アダム夫婦と不審人物)の背後関係が次第に見えてくる。
 アダムの相貌失認という設定がそれほど物語の核に絡んでいないと感じる。数十年前に会っていた人の顔が分からないのは、普通の人でもある気がするし。改装された、人里離れた古びた教会を舞台としたホラー映画のような絵図はなかなかスリリングで面白かった。


No.955 8点 彼と彼女の衝撃の瞬間
アリス・フィーニー
(2022/10/20 21:15登録)
 完全に作者の目論見にはまり、手玉に取られた一人です(笑)
 「彼(ジャック警部)」と「彼女(アナ)」の2人の視点から交互に描かれる物語の中で、2人ともそれぞれに秘密があり、「どっちかが最終的に真犯人なのか?」と思って読んでいたら、それ以外の登場人物もすべて腹に一物を抱えた人物ばかりで…。「信頼できるのは誰?」「結局、真犯人は?」という謎が最後まで引っ張られ、ページを繰る手が止まらなかった。
 誰も彼もが怪しく見える構成は、かえって「誰が真犯人でも意外ではない」ということにもなるため、「意外な犯人、どんでん返し」という印象はよい意味で消えてしまったが…

<ネタバレあり>
 唯一、キャサリン(キャット)の首吊り死体(のふり)で、「口の中にミサンガ」が入っていたことがあとの真相では説明がつかない気がするのだが。


No.954 5点 カインの傲慢
中山七里
(2022/10/20 20:34登録)
 相変わらず読みやすく、テンポの良さで一気読み。
 「平成の切り裂きジャック」事件捜査に携わった犬養が、類似の連続殺人事件の捜査に。今回も臓器移植問題をテーマに、社会的なメッセージも含まれた内容になっている。
 しかし中山氏の作品に読み慣れてきたせいか、中盤くらいで「意外な犯人」のあてがつくようになってしまった。今回も見事思っていた通り。そもそもわずかな兆候から真相に迫る嗅覚を持っている犬養が、「どんでん返し」に関わる部分だけ手がかりをスルーしているのが見えてしまう。本作でいうなら、「送襟絞」という柔道技の犯人の手口が見えた時点で、警察関係者に目が向かないはずがないのに、一切そうした描写がなく(むしろ避けて)物語が続けらていることで、作者の目論見に感づいてしまった。
 それ以外のドラマ性が強いので面白く読めるが。


No.953 9点 揺籃の都 平家物語推理抄
羽生飛鳥
(2022/10/16 22:01登録)
 治承四年(一一八〇年)、平清盛は京から福原への遷都を強行。清盛の息子たちは都を京へ戻すよう説得するため清盛邸を訪れるが、その夜、清盛の寝所から平家を守護する刀が消え、「化鳥を目撃した」という物の怪騒ぎが起き、翌日には平家の悪夢を喧伝していた青侍が、ばらばらに切断された屍で発見された―清盛の異母弟・平頼盛は、甥たちから源頼朝との内通を疑われながらも、事件解決に乗り出す……!

 連作歴史ミステリ短編「蝶として死す」に続く平頼盛を主人公としたシリーズ、第2弾は長編。
 平安後期を舞台にしながら、「いにしえのエラリイ・クイーンか!」とさえ言いたくなるような、緻密なロジックによる本格的なミステリ。時代の文化に彩られた描写に伏線が巧みに組み込まれ、解決編でそれらが見事に回収されていく。絶対的君主・清盛の差配にすべての命運がかかる平家一族の面々の、それぞれの出世を目論んだ企みも絶妙に事件に絡み、こんなミステリを編み込める作者はすごいなぁと思ってしまう。
 めちゃめちゃ面白かった。


No.952 9点 キュレーターの殺人
M・W・クレイヴン
(2022/10/10 18:28登録)
 クリスマスのプレゼント交換の場に、教会の洗礼盤に、精肉店の商品陳列棚に、切断された「2本の指」が晒された―。猟奇的な犯行に、ポー刑事と、ITの天才・ティリーが立ち向かう。捜査を進めるうちに、ネット上の闇サイトで、与えられた悪事の「課題」をクリアしていくというコンテストを主宰している黒幕の存在が浮かび上がる―

 無差別殺人のように見え、捜査方向も見定めきれない混沌とした中で、わずかな手がかりを嗅覚鋭く追いかけ、一つ一つ事を明らかにしていくポー&ティリーの捜査過程は相変わらず見もの。特に、後半「キュレーター」の存在が分かってからの展開は怒涛。

<ネタバレあり>
 「ABCパターン」の範疇に入るたぐいだと思うが、その「AB(C)」にブラフのミッシング・リンクを仕込み、それが本筋のように捜査陣(と読者)を誘導する企みは成功していると思う。
 キュレーターを操っている「真の黒幕」とその動機が最後に明らかになるのだが、これはかなり予想を超えていて……ゾッとした。

 シリーズ第3作、十分期待に応えてくれた快作。
 それにしても、ポーとティリーの友情はいいなぁ。


No.951 6点 残星を抱く
矢樹純
(2022/10/10 17:58登録)
 主婦・青沼柊子は娘と行楽に出かけた帰り道、休憩所で暴行の現場を目撃する。急いでその場を去った柊子だったが、暴漢たちは車で執拗に追いかけてきて、ついに柊子たちの前に立ち塞がった。構わず柊子がアクセルを踏んで振り切ると、サイドミラー越しに、男の影が崖下へと転落していくのが見えた―。自分は罪を犯してしまったのではないか…?県警捜査一課の刑事を務める夫の哲司に話すこともできないまま、悶々としていると、マンションのポストに告発文めいた脅迫状が投函されていた……。

 はじめのエピソードからのサスペンス的な展開かと思っていたが、物語は柊子の父親が20年前に起こした交通事故の真相という意外な方向へ。柊子の夫婦問題に絡む公安警官も関わってきて、編みこまれたストーリーはそれなりに読み応えがあった。
 ただ、最後まで読み通してから、「最初のアクシデントはどういういきさつだったのか?」を思い起こそうとしてもパッと出てこないややこしさはあった。「言いたいことも我慢して家庭に尽くしてきた主婦」というようなイメージだった柊子が、ハードボイルド女探偵ばりのたくましいキャラに豹変していく様は異様でもあり、面白くもあった。


No.950 7点 入れ子細工の夜
阿津川辰海
(2022/10/09 13:07登録)
 ある本を探して古本屋をめぐる私立探偵、「犯人当て」を入試問題にすると言い出した大学、現実と思ったら劇、というのも全部劇…とマトリョーシカのように延々と続く物語、大学のプロレス同好会で起きた奇妙な殺人劇…さまざまな仕掛けで一味違ったミステリを提供する短編集。

 「透明人間は密室に潜む」に続く、作者の第2短編集。個人的にはこっちのほうが面白かった。
 特に、入試問題を「犯人当て」にするというイカれた大学をめぐる物語「二〇二一年度入試という題の推理小説」は、設定としてもそれなりのミステリとしても面白かった。あとはやっぱり表題作「入れ尾細工の夜」。何層にも渡る入れ子構造はややくどい感じもあるが、ここまで貫かれると笑ってしまう。
 粒ぞろいの作品集。


No.949 6点 夜の道標
芦沢央
(2022/10/08 18:02登録)
 1996年、横浜市内で塾経営者・戸川が殺害された。元教え子の阿久津弦が被疑者として浮かぶが、阿久津はその後姿をくらまし、事件から2年経った今も足取りはつかめていない。そもそも阿久津は戸川を非常に慕っており、なぜそのような犯行に至ったのか。旭西署刑事・平良は、なかなか進展のない事件捜査に奔走する。一方、小学6年生の男児・橋本波留は、父子家庭内で父親に虐待を受けていた。空腹に耐える日々の中、ある日、近所をうろついていた時に、ある家宅の地下に潜んでいる阿久津に遭遇する―

 匿われて隠れ住む阿久津、虐待被害児童の波留、刑事課で冷たい扱いを受けている刑事・平良、物語はこの三者の視点で展開する。そして阿久津と波留がつながることで、予期せぬ展開になっていくのだが、それぞれにドラマがあり、かつ「これらがどう結びついていくのか?」という興味もあり、非常にリーダビリティは高い。
 ミステリとしては「阿久津はなぜ戸川を殺したのか?」というホワイダニットが核なのだが、阿久津の母親の新証言が出てきたところで推理することができた。
 3つのドラマが一つに集約されていくさまは非常に面白かったが、ラストは少年・波留のドラマの終結で終わっており、波留と父の問題や、平良の刑事課のドラマの決着がなかったのがやや不満として残った。


No.948 7点 黒牢城
米澤穂信
(2022/10/08 17:41登録)
 戦国時代を舞台にした、「安楽椅子探偵もの」。歴史に詳しくないので史実はよくわからないが、時代背景に彩られた描写、武士の世界における価値観による物語、十分に堪能した。

 ミステリ読みなら、最側近の十右衛門が真犯人であるかのようにミスリードしている(と思うんだけど)のはだいたい気づき、終盤には「黒幕」のあたりはついているんじゃないかと思う。しかしこうした歴史を舞台としながらも、きちんと伏線が張られており、丁寧に織り込まれている構成には感服する。
 本当に引き出しの多い作家さんです。すごいなぁ。
 個人的には、羽生飛鳥の「蝶として死す」と並んで、歴史ミステリのお手本のような作品だと思う。


No.947 5点 ようこそ、自殺用品専門店へ
ジャン・トゥーレ
(2022/10/08 17:17登録)
 首吊りロープ、切腹セット、毒リンゴにタランチュラ…自殺するためのアイテムを多数取り揃える「自殺用品専門店」を営むテュヴァッシュ一家。来客時のあいさつは「お気の毒です」、見送りのあいさつは「またどうぞ」ではなく「さようなら」。長男のフィンセント、長女のマリリンも順調に(?)悲観的な世界観をもつ子に育っていたが、唯一末っ子のアランだけが「明るく前向き」な子になってしまっている。途方に暮れる両親、テュヴァッシュ一家の行く末はいかに?

 まるで普通の商売ごととして、売り上げUPの工夫や市場(?)の動向をうかがっているさまに笑ってしまう。暗く悲観的な考え方を我が子に植え付けようと腐心する両親と、それを裏切る末っ子アランのやりとりも、毒があるはずなのになんだか微笑ましい。
 ただラストがなんだか…切ないなぁ…


No.946 7点 生者と死者に告ぐ
ネレ・ノイハウス
(2022/09/26 21:02登録)
 犬の散歩中の高齢女性が突如射殺された。通り魔的な犯行かとも思われるが、80メートルの距離から正確に頭部を狙撃する腕はプロ並み。続けて翌日、森に建つ邸宅のキッチンにいた女性が頭部を撃たれて死亡。さらには自宅前で若い男性も―。ねらいを定めた殺人なのか、無差別殺人なのか、オリヴァーら捜査本部が迷走する中“仕置き人”と名乗る謎の人物から、警察署に死亡告知が届く。おなじみオリヴァー&ピアの名コンビが、連続射殺事件の謎に挑む。

 無差別殺人なのか、何らかの背景がある殺人なのか?被害者のつながりを洗ううち、救急搬送された家族に臓器提供を強要されたある一家の悲劇が浮かぶ。その像が見えたらそこから突き進めていけそうなのだが、事件の背景は見えてきても「誰が」凶行に走っているのかが見えてこない。じりじりした展開の中、悲劇はさらに重ねられていく。
 本シリーズの特徴として、本筋の謎解きと並行してオリヴァーやピアのプライベート面での物語が描かれていくことがあったが、本作はその色はやや薄め。言い換えれば物語が本筋の事件捜査で占められており、ミステリとしては濃度が濃い。(が、オリヴァーやピアのプライベートの話も読者としては苦ではなく、むしろ話の面白さを増していたので何とも言えないが)
 事件の背後に巨悪が潜んでいる、という構図は「穢れた風」にも似たものがあるが、その内実が明らかになっていくうちに、純粋な被害者と思われていた者が悪に反転していく様は非常に読み応えがある。
 やはりネレ・ノイハウスは技巧者だと、改めて認識した。


No.945 7点 invert II 覗き窓の死角
相沢沙呼
(2022/09/24 20:45登録)
 同性に嫌われ、友達がいない城塚翡翠。そんな自分に悩んでいた彼女についに友達ができた―。喜びはしゃいでいた翡翠だったが、その友達・江刺詢子が殺人事件の容疑者に。そしてそのアリバイを証明するのが、なんと翡翠自身だった。やっとできた友達を糾弾するのか、傷つかないために立ち入らないようにするか、悩む翡翠だった…(「覗き窓の死角」)

 「生者の言伝」「覗き窓の死角」の2本立て。
 ここまでくると、翡翠の「霊媒探偵」という設定はほとんど生きなくなっており、普通に物理的に推理を進める名探偵である。
 1作目「medium」が、1回限りの渾身の仕掛けだったので、まぁそれ以降はこうならざるを得ないところはある。つまり、オーソドックスな正道のミステリとなるのだが、それとして読んでも十分に面白い。
 2作目以降続く倒叙スタイルだが、「作中に示された何が手がかりとなって、どう真相にたどり着いたのか」を謎として提示する展開は堂に入っており、古畑任三郎ばりの演出も面白い。
 今後は翡翠のキャラと演出を売りにしていくことになるのだろう(続くのであれば)。


No.944 9点 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件
白井智之
(2022/09/24 20:21登録)
 探偵・大塒宗(おおとやたかし)の有能な助手・有森りり子が所用でアメリカへ行くと言い旅立ったまま帰ってこない。不審に思った大塒が調べると、実はりり子はガイアナ共和国に拠点を置く新興宗教団体の調査に赴いていたことが分かった。急ぎりり子を追って現地へ向かう大塒。そこに待っていたのは、「教祖の奇跡」を信じる異様な集団と、連続殺人事件だった―

 今回は作者らしいエログロはなりを潜め、実際にあった「人民寺院事件」をモデルにした本格ミステリ。帯に「圧巻の解決編150ページ!」とあるように、4つの事件の推理が二転三転する究極の多重解決もの。
 3回目の謎解きに入ったときは「さすがにもういいわ…」という感覚もあったものの、そこを読み終わったところで主人公・大塒が教祖に選択を迫ったシーンで「これがそのねらいだったのか!」と腰が浮き上がった。
 「後日譚」まで、三重にも四重にも仕組まれた仕掛けに驚かされ(白井智之作品を読んでいる人にはうれしい仕掛けも)、その手腕に改めて唸らされる一冊。


No.943 9点 しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術
泡坂妻夫
(2022/09/19 21:00登録)
 各オールタイムベストでいつも上位にランキングされるわけがわかった。
 うーん…これは…すごい。空前絶後、唯一無二の仕掛け。

 「ネタばれあり」とされている本サイトでも、これまでの評者の皆さんが極力気を遣われ、言明を避けているのがよくわかる…
 声を上げて感嘆します。
 脱帽です。


No.942 5点 殺しへのライン
アンソニー・ホロヴィッツ
(2022/09/19 20:54登録)
 探偵ダニエル・ホーソーンと主人公・作家のアンソニー・ホロヴィッツは、文芸フェスに参加するため、チャンネル諸島のオルダニー島を訪れた。霊能者、歴史家、児童文学作家など、寄せ集めのようなゲストで開催されたフェスだったが、スポンサーであるカジノ経営者の登場で、どことなく不穏な雰囲気が漂いだす。そして、文芸フェスの関係者のひとりが刺殺体で発見される。のどかな島でのイベントのはずが、一転して陰惨な連続殺人の舞台に…!

 事件の捜査を進めていくうちに、フェスの主催者たちと島民たちの間に起きていた軋轢や、関係者たちの過去の関わりが明らかになっていく…という展開は、ミステリとしてはいたってオーソドックスな展開では。さまざまな裏事情が複雑に絡み合っている様が解かれていくのだが、真相はまたちょっとそれとは別で…うーん。よく言えば意外な結末、悪く言えば断絶的飛躍。
 昨今のミステリ事情から、正道のフーダニットという時点でミステリファンに好まれるのかもしれないが、ミステリ的には平均的な出来(面白い)だと思う。


No.941 7点 或るアメリカ銃の謎
柄刀一
(2022/09/11 18:24登録)
 カメラマン南美希風と法医学者エリザベス・キッドリッジは、愛知県のアメリカ領事私邸で起きた射殺事件に出くわす。庭で発見された射殺死体の犯人が分からぬまま、皆の面前で第二の射殺事件起きる(「或るアメリカ銃の謎」)
 琵琶湖にある大学教授の別荘に招かれた2人。ふいに起きた電磁波障害でクローズドサークル状態となった中、二ヶ所同時の殺人事件が発生。一つの現場に残された地の文字が指し示す意味は…?(「或るシャム双子の謎」)

 2作ともオーソドックスな本格の様式で、腰を落ち着けて本格ミステリを堪能できる。「アメリカ銃」のほうは、二つの事件の解決は完全に別々で、特に後に起きたほうの真相はちょっと…な感じだった。
 タイトル作より「シャム双子」のほうが私は好みで、クイーンの本家作に近づける雰囲気だけでなく、クローズドサークルでの2か所同時殺人という魅力的な不可解状況にダイイングメッセージまでつけられ、そうした状況が複雑ながらも非常に論理的に解明されていて、よかった。


No.940 6点 #真相をお話しします
結城真一郎
(2022/09/11 18:08登録)
 アルバイトで家庭教師の派遣サービスに従事する大学生が営業先で感じた家族の異変(「惨者面談」)。精子提供がもたらした15年後の真実に驚愕(「パンドラ」)。学生時代の親友とのリモート飲み会中、その一人が「今からあいつを殺しに行く」と席を立つ(「三角奸計」)。子供が4人しかいない離島で、スマートフォンに初めて触れた子どもたち(「#拡散希望」)。

 「惨者面談」「ヤリモク」「三角奸計」は、おおよその仕掛けが読めるし、予想通り。読む分には面白い、普通作。
 着想が面白く、秀逸だったのは「パンドラ」。その動機には唸らされたし、ラストの締め方も絶妙。
 「#拡散希望」は既読だったが、本作品集の中ではやはり光る。


No.939 5点 緋文字
エラリイ・クイーン
(2022/09/11 17:56登録)
 エラリイと秘書のニッキー・ポーターが懇意にしているローレンス夫妻は、誰もが認める“おしどり夫婦”だったはずなのに、最近夫のダーク・ローレンスが妻マーサの挙動に神経質になり、異様に嫉妬深くなってしまった。ダークの行き過ぎた杞憂をとりなすはずだったエラリイ達だったが、ニッキーが、マーサが本当に不貞を働いていると見られる事実を見つけてしまう。「本当なのか?」エラリイは不貞が事実なのか、調べるはめに。日に日に疑いが濃くなっていくマーサ、「こんなことがダークに知れたら…」心配が募る中、ついに事件は起こる。

 かのエラリイ・クイーンが、浮気調査をする市井の探偵になったような前半。それはそれでなかなか面白いが、まぁ厚みはない展開。それより、「靴に棲む老婆」で登場したニッキー・ポーターが別人のよう。ラジオドラマにでていたニッキーともキャラが違って、出る作品ごとにキャラが変わる面白さがある。
 長編ではあるが、要はダイイング・メッセージに仕掛けられた謎1本勝負といった感が強い。上に書いた前半部分もそれなりに楽しかったので不満はないが、ミステリとしては普通作。


No.938 6点 第八の日
エラリイ・クイーン
(2022/08/29 22:58登録)
 かなり特異な設定だが、私はそれがかえって面白く興味深かった。
 「誰か」と勘違いして、村の救世主のように迎え入れられていることに、何の抵抗もせず身を任せているエラリイの良識はちょっと…と思ったが、まぁ本作の設定のためと目をつむれば、それ以降はなかなかに面白い。
 クイーンの長編にしては短めで、それが「シンプルな一発もの」という分かりやすさとしてよくはたらいている気がする。
 後半初めにみる一応の解決がダミーなのは誰の目にも明らか。そしてそう悟ったときに、真犯人もほぼ明らか。そういう意味では犯人あての「謎解き」としては浅いのだろう。だが、その動機や、そこにいたる村人たちの心理がまたミステリであり、魅力的な物語として持続し続けた。
 唯一、エピローグがちょっと飛躍しすぎていて、あまりしっくりこなかった…

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