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ミステリの祭典

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或るアメリカ銃の謎
南美希風/柄刀一版「国名シリーズ」

作家 柄刀一
出版日2022年07月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 HORNET
(2022/09/11 18:24登録)
 カメラマン南美希風と法医学者エリザベス・キッドリッジは、愛知県のアメリカ領事私邸で起きた射殺事件に出くわす。庭で発見された射殺死体の犯人が分からぬまま、皆の面前で第二の射殺事件起きる(「或るアメリカ銃の謎」)
 琵琶湖にある大学教授の別荘に招かれた2人。ふいに起きた電磁波障害でクローズドサークル状態となった中、二ヶ所同時の殺人事件が発生。一つの現場に残された地の文字が指し示す意味は…?(「或るシャム双子の謎」)

 2作ともオーソドックスな本格の様式で、腰を落ち着けて本格ミステリを堪能できる。「アメリカ銃」のほうは、二つの事件の解決は完全に別々で、特に後に起きたほうの真相はちょっと…な感じだった。
 タイトル作より「シャム双子」のほうが私は好みで、クイーンの本家作に近づける雰囲気だけでなく、クローズドサークルでの2か所同時殺人という魅力的な不可解状況にダイイングメッセージまでつけられ、そうした状況が複雑ながらも非常に論理的に解明されていて、よかった。

No.1 6点 人並由真
(2022/08/31 05:48登録)
(ネタバレなし)
 書き下ろし中編を二本収録。
『或るアメリカ銃の謎』……名古屋在住の首席アメリカ領事ゲイリー・オルブライトの自宅で殺人事件が発生。アメリカ人の美人検死官エリザベス・キッドリッジとともに、たまたま現場に居合わせたプロカメラマンでアマチュア名探偵の南美希風は、この事件に介入するが。
『或るシャム双子の謎』……エリザベスとともに、琵琶湖の湖畔にある生体未来学の研究家・久納準次郎の屋敷を訪れていた美希風。だがその周辺は突発的な異常現象の影響で事故が生じ、大火災となった。その中で生じた怪異な殺人事件の真実は?

 柄刀作品は何冊か読んでいるが、自分でも意外なことに南美希風ものに接するのは今回が初めてだった(同じ世界観の外伝的な? 作品『密室の神話』は読んでるが)。当然、柄刀版「国名シリーズ」も本書が初。

 これまでの柄刀作品数冊は、ものによって楽しめたりそうでなかったり、本当にマチマチなのだが、これはなかなか面白かった。
『アメリカ銃』は小技と中技の組み合わせだが、大きなギミックがなかなかのインパクトで、都筑の後期~ホックの一部の系列のモダーン・ディティクティブ・ストーリーの方向を今風に再構築した感じ。特に先に真相が語られる殺人の方で読み手の度肝を抜いたあと、もうひとつの謎の真相を丁寧にかつ解きほぐしていく手際が光る(後者も後者で、実際の事件時のイメージはなかなか印象的)。
『シャム双子』は『アメリカ銃』以上に原典EQ作品へのリスペクト度が高いが、根幹となるアイデアはかなり異彩を放つもので、『アメリカ銃』とはまた違った種類の余韻が残る。ちなみに評者は、結構とんでもない真犯人をイメージした(推理というほどのものでもない)が、ソレはものの見事にハズれた。

 これまで評者が出会った柄刀作品の中では、もっともまとまりがよく完成度の高さを感じる一冊。
 難点は、登場人物それぞれが素性や容姿の情報は用意・設定されているものの、全体的に各人が記号的で、魅力があまりないこと。この辺がもうちょっと良かったら、もっと秀作になっていただろうとは思う。
 あと『アメリカ銃』で、結局(中略)は(中略)だったということに、なるのだな?

 評点は新人作家なら十分に7点だけど、ベテランなのでちょっとキビシめに。でも現在形のパズラー好きなら読んでおいて損はない今年の一冊だとは評価。

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