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ミステリの祭典

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夜の道標

作家 芦沢央
出版日2022年08月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 パメル
(2025/05/31 19:39登録)
二年前に評判の良かった塾経営者が、なぜ殺されたのかという謎を中心にして物語は進む。
バスケットボールの才能に恵まれながら、父親から利用されている小学生、その彼に親愛の情を抱く同級生、地下室に正体不明の男を匿う女性、傍流に追いやられながら事件を追う刑事。この四人が視点人物となって群像劇を形づくっていく。
登場人物たちの複雑な心理描写、それぞれが抱える過去や葛藤が丁寧に描かれており、彼らの心情に深く共感させられる。児童虐待、障害者差別、貧困など現代社会が抱える様々な問題が織り込まれており、深い問いを投げかけている。単なるミステリとしてではなく、社会派小説としての側面も持ち合わせている。
予想を裏切る展開の連続で、結末で真実が明かされ各ピースが収まるところに収まり、納得感が得られる。タイトルの「夜の道標」とは、登場人物たちが暗闇の中で見つけようとする希望の光、あるいはそれぞれの人生を導く指針のようなものを象徴しているように感じた。

No.1 6点 HORNET
(2022/10/08 18:02登録)
 1996年、横浜市内で塾経営者・戸川が殺害された。元教え子の阿久津弦が被疑者として浮かぶが、阿久津はその後姿をくらまし、事件から2年経った今も足取りはつかめていない。そもそも阿久津は戸川を非常に慕っており、なぜそのような犯行に至ったのか。旭西署刑事・平良は、なかなか進展のない事件捜査に奔走する。一方、小学6年生の男児・橋本波留は、父子家庭内で父親に虐待を受けていた。空腹に耐える日々の中、ある日、近所をうろついていた時に、ある家宅の地下に潜んでいる阿久津に遭遇する―

 匿われて隠れ住む阿久津、虐待被害児童の波留、刑事課で冷たい扱いを受けている刑事・平良、物語はこの三者の視点で展開する。そして阿久津と波留がつながることで、予期せぬ展開になっていくのだが、それぞれにドラマがあり、かつ「これらがどう結びついていくのか?」という興味もあり、非常にリーダビリティは高い。
 ミステリとしては「阿久津はなぜ戸川を殺したのか?」というホワイダニットが核なのだが、阿久津の母親の新証言が出てきたところで推理することができた。
 3つのドラマが一つに集約されていくさまは非常に面白かったが、ラストは少年・波留のドラマの終結で終わっており、波留と父の問題や、平良の刑事課のドラマの決着がなかったのがやや不満として残った。

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