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ミステリの祭典

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彼は彼女の顔が見えない

作家 アリス・フィーニー
出版日2022年07月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 YMY
(2024/06/08 22:28登録)
脚本家のアダムは相貌失認で妻の顔さえ認識できない。13歳の時、母がひき逃げで死んだ時にも犯人の顔を警察に教えることが出来なかった。妻との関係は悪化しており、週末のスコットランドへの旅は結婚を救うための最後の手段だった。雪嵐の中の長旅で到着したのは人里離れた古い教会だった。歓迎のメモはあったが持ち主は姿を見せない。引き続き不穏なことが次々と起こり、夫婦は互いを疑い始める。
夫アダムと妻アメリア、近所の謎の女性ロビンの3人の視点、加えて毎年結婚記念日に妻が夫に宛てて書いた秘密の手紙で進行する個のスリラーは、最初に抱く印象と予測を見事に裏切ってくれる。緻密なプロット、不気味な雰囲気もなかなかのもの。

No.2 6点 HORNET
(2022/10/29 21:55登録)
 夫婦関係が行き詰っていたアダムとアメリア夫婦に、くじで旅行が当たる。滞在先は人里離れた元教会。何とかこれを再出発の機にしたい2人だったが、外から2人を覗く顔、停電、そして猛吹雪と、まるでホラー映画のような展開に。誰かが2人を狙っているのか、それともパートナーが…?互いに疑心暗鬼になる夫婦に、静かに魔の手が忍び寄る―

 次々に起こる不可解な出来事と、ちらつく不審な人物の影。その不審人物も早々に表に登場するが、誰が真の犯人なのか油断がならない。アダムとアメリア2人それぞれの視点から交互に描かれる構成は「彼と彼女の衝撃の瞬間」と同じ。そこに結婚記念日ごとに書かれる妻から夫への手紙が挿入され、それらによって3人(アダム夫婦と不審人物)の背後関係が次第に見えてくる。
 アダムの相貌失認という設定がそれほど物語の核に絡んでいないと感じる。数十年前に会っていた人の顔が分からないのは、普通の人でもある気がするし。改装された、人里離れた古びた教会を舞台としたホラー映画のような絵図はなかなかスリリングで面白かった。

No.1 7点 人並由真
(2022/09/27 06:11登録)
(ネタバレなし)
 2020年2月。売れっ子脚本家で40代初めのアダム・ライトと、その同世代の妻で保護犬センターで働くアメリアは、うっすらと夫婦関係の不順を感じていた。そんな二人はカウンセラーの進言を受け、愛犬のラプラドール、ボブを伴って遠方までドライブ旅行に出るが。

 2021年の英国作品。この作者の邦訳はこれで3冊目で、評者は昨年に翻訳された『彼と彼女の衝撃の瞬間』に次いで2冊目。
 それで去年はその『カレカノ~』がちょっと心の琴線に引っかかったので、今回もまた早め? に読んでみる。

 ちなみに題名の意味は男性主人公のアダムが脳の疾病で、相貌失認症(要は他人の顔が覚えられない認識障害)を負っているから。これはもう本文の1ページ目から語られるので、ネタバレでもなんでもない(笑)。
(ちなみに評者はまったくの偶然にも、同じ症状の主人公が登場する国内作品をついこないだ読んだばかりであった。あ、そっちの作品も、すぐにいきなりその設定は開陳されるので全然ネタバレにはなってないから、ご安心を。) 

 で、このアダムのキャラクターの文芸設定で、さらに創元文庫の表紙周りにはおなじみの登場人物一覧表もない。これはもう誰だって、とにかく当初から作中に「何か」あるであろうことは、予測がつく。作品の勝負どころは、それがどのように、どのくらいの手数で、そして、どの程度に深く作りこんで、だ。

 で、400ページを3時間弱でイッキ読み。
 もちろんあまり詳しいことは、絶対に言えないし言わないが、大ネタの一部は先読みできる。しかし、あれもこれもの作者の手数の多さは、実にパワフル、という感じ。

 とはいえあんまりホメあげる気がしない部分もあって、それはここまで作りこんでしまうと、作中のリアリティとしてどうしてもウソ臭い部分が出てしまうから。登場人物の会話やいくつかの時系列のなかでの叙述、それがみ~んなココまで(以下略)。

 本文読了後の創元文庫巻末の解説を読むと、担当の村上貴史氏もその辺のフィーニーの作家的弱点について言葉を選んで触れているようで、ああ、わかってますね、という思い。
 ブレーキのゆるい、しかしその分、跳ね回る感覚がハラハラ楽しい、あのリチャード・ニーリィの後継者みたいな印象だ(と言いつつ、評者はしばらくニーリィ読んでないなあ。そのニーリィの著作そのものも、片手の指プラスアルファくらいの冊数しか、読んでないかもしれんが・汗)。

 まあその手のモノがお好きな人なら、あれこれと良かれ悪しかれ思いながらも、それなりに楽しめるとは思う。
 どっかで読んだようなという意味で、嫌う人は出るかもしれんが。
 
 個人的には『カレカノ~』よりは、ずっとオモシロかった。

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