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ミステリの祭典

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緋文字
エラリイ・クイーン

作家 エラリイ・クイーン
出版日1956年09月
平均点5.56点
書評数9人

No.9 5点 HORNET
(2022/09/11 17:56登録)
 エラリイと秘書のニッキー・ポーターが懇意にしているローレンス夫妻は、誰もが認める“おしどり夫婦”だったはずなのに、最近夫のダーク・ローレンスが妻マーサの挙動に神経質になり、異様に嫉妬深くなってしまった。ダークの行き過ぎた杞憂をとりなすはずだったエラリイ達だったが、ニッキーが、マーサが本当に不貞を働いていると見られる事実を見つけてしまう。「本当なのか?」エラリイは不貞が事実なのか、調べるはめに。日に日に疑いが濃くなっていくマーサ、「こんなことがダークに知れたら…」心配が募る中、ついに事件は起こる。

 かのエラリイ・クイーンが、浮気調査をする市井の探偵になったような前半。それはそれでなかなか面白いが、まぁ厚みはない展開。それより、「靴に棲む老婆」で登場したニッキー・ポーターが別人のよう。ラジオドラマにでていたニッキーともキャラが違って、出る作品ごとにキャラが変わる面白さがある。
 長編ではあるが、要はダイイング・メッセージに仕掛けられた謎1本勝負といった感が強い。上に書いた前半部分もそれなりに楽しかったので不満はないが、ミステリとしては普通作。

No.8 4点 レッドキング
(2020/09/10 22:57登録)
売れない小説家の夫と富豪で演出家の妻、そして名うてのジゴロ。夫の異常な嫉妬心と妻の不貞疑惑が、恐るべき結末を迎えるのを防ごうと奮闘する探偵にしてミステリ作家のクイーンと女秘書。目次で、ん?「ABC・・Z事件」?て振っといて、結局、クリスティ十八番の人間関係トリックものだったが、半ひねりツイストのオマケつけて終結する。

No.7 7点 虫暮部
(2020/08/12 13:09登録)
 動機を理由にアレが(減刑や猶予でなく)無罪になるとは驚き。しかもそれが当然の不文律として広く認知されている? どの程度リアルな話なのだろうか? 実際にああいう事件を誘発しかねないのでは? 陪審員制の危うさが印象に残った。
 ダークなんて名前アリなのかと思ったらスペルは Dirk とのこと。

No.6 6点 クリスティ再読
(2017/02/12 22:46登録)
まず本作が、ホーソンの「緋文字」を読んでいないと、何か面白味を味わい損ねる?という疑問について。評者は両方未読だったのを幸いに、今回はホーソンのを読んでから、クイーンを読むという趣向である。結論は「ほぼ関係なし」。ホーソンは読まなくても全然オッケー。それでもホーソンは独特の絵画的な才能があるし、キャラは独自で面白く、読んで損になるような小説ではないから、御用とお急ぎでないなら読むのもよろしかろう。
クイーンの本作だが...これホントにクイーンっぽくない小説だ。クイーン世界での立ち位置が一定しないニッキーが大活躍して秘書というか恋人?をほのめかす描写さえある(抱きかかえて運ぶんだよ)。エラリイがMWAの会合に出てたり、EQMMの投稿を読んだり...と、他作ではあまりない、エラリイとクイーンを同一視する描写があったり、エラリイが尾行するどころか、殴り・殴られる描写まである。他の作品で暗黙のタブーになってることを、平気でやっているような例外的な小説だ。これは本当に空想レベルの憶測だが、プロット=ダネイ、執筆=リーというのがクイーンの合作の定法だというが、本作は役割を試しに逆にしたのかも?と考えてみたがどうだろうか...
本作ではエラリイが行動的で、ハードボイルドみたいなものだ。そこら結構新鮮で評者とか面白く読んでたよ。クイーンだからま、タダでは済まないだろうね、と思ってた... ダイイングメッセージは英語の洒落みたいなものを知らないとダメだから、日本人はちょっと無理か。血文字だから「緋文字」と洒落たわけで、ホーソンのそれとは不倫の内容からしても共通点はほぼなきに等しい。クイーンは The Scarlet Letters で複数形だが、ホーソンではヒロインが生涯付けることを強制された姦通を示す「A」の文字を示すから当然単数形で、あまり混同の余地はないように思うよ。ホーソンのそれをミスディレクションに...というのは、ヨミ過ぎじゃない?
真相はまあ無理のないリアルなもの。そこらもクイーン流のハードボイルド?って感じ。評者意外なことの連続でびっくりしてるが、印象はいい。
(ややネタばれ)
っていうけどさ、そう重要な見地じゃないから言っちゃうけど、ホーソンのそれとクイーンのそれと、それぞれある人物から見た真相の骨格がほぼ同じなんだ...そういうのはミスディレクションと呼ばないように思うんだがねぇ。

No.5 5点 青い車
(2016/09/27 00:44登録)
 本格ミステリーとしての魅力はダイイング・メッセージ一本です。つまり、そのメッセージが解けてしまえばすべての真相が割れてしまうという訳で、付随する推理がないためこの『緋文字』の印象は薄味なものになってしまっています。物語の発端が浮気調査という地味なものでなかなか事件が起きないプロットは後期クイーンの工夫なのでしょうが、それも成功しているとは言い難いです。『十日間の不思議』ほど劇的な展開があればインパクトは違ったのでしょうが。

No.4 5点 nukkam
(2016/08/01 01:20登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のエラリー・クイーンシリーズ第23作はユニークな趣向が多い異色作で、このユニークさがどこまで受け容れられるかで読者を選びそうな作品です。まずエラリーの助手としてニッキー・ポーターが登場しています。彼女は映画やラジオドラマの脚本を小説化した中短編に何度も登場していてその代表作は本書と同年に単行本化された「犯罪カレンダー」(1953年)ですが、全く別人のような描写にびっくりします。また事件がなかなか発生しません。エラリーとニッキーの浮気調査が延々と続くプロットです。いつどこでカタストロフィーを迎えるかわからない不安がサスペンスを持続させ、陰鬱なムードに拍車をかけています。かなり後半になってようやく事件が起きるのですが犯人当ての謎解きは放棄されています。事件の背後にある秘密をエラリーが推理で明らかにするのですが、この謎を解いてみよという形で明確に提示された謎ではなかったのでああそんなところに秘密があったのねというのが私の読後感でした。

No.3 5点 TON2
(2013/01/15 18:49登録)
ハヤカワ文庫
 物語の4分の3まで、クイーンと相棒のニッキーが、妻が不倫をしていることにより不仲となっている友人夫妻の世話を焼く話がえんえんと続きます。妻と間男との密会現場を尾行するクイーンは、まるでストーカーのようです。
 最後の最後にミステリーらしいどんでん返しがあります。
 ピューリタン社会における未亡人と聖職者のあやまちを描いた、アメリカ文学の古典・ホーソンの「緋文字」をベースにしています。

No.2 7点 Tetchy
(2011/05/02 18:46登録)
本書は短編では名(迷?)コンビとして数々の事件を解決しているニッキー・ポーターがパートナーとして登場し、エラリイの助手を務めた初めての長編作品である。そしてそのコンビが挑む事件はなんと浮気調査。本格ミステリの探偵らしからぬ事件である。

どこに推理の余地があるのか、本格としてのサプライズとクイーンのロジックが入り込む箇所はあるのか、実に判断しにくい題材と事件だが、一見普通の事件に見える事象にも論理の光を当てることでサプライズを引き起こすことが出来ることをクイーンは試みたのではないだろうか。

そして最後に知らされるのはこの題名さえもがミスディレクションとなっていることだ。つまり本書はホーソーンの作品があまりに有名な作品であるがゆえに起こる先入観や既成概念を上手く逆手に取って描かれたミステリなのだ。長編20作以上超えてなお野心的な試みとアイデアでミステリを突き詰めようとする作者の姿勢に感心する。

本格ミステリの方向と可能性を追求し続けた作者のチャレンジ精神は上に述べたように非常に素晴らしいと感じる。しかし読後にそれは気付かされる文学的業績と創作アイデアなのであって、必ずしもそれが物語としてミステリとしての面白さに通じているかはまた別の話だけどね。

No.1 6点
(2009/02/02 22:18登録)
ほとんど最後近くにならないと殺人が起こらない点は、『十日間の不思議』をも思わせますが、作品の雰囲気は全く違います。ホーソーンを引用した、書き方によっては当然深刻になるモチーフであるにもかかわらず、ライツヴィル・シリーズのような重さはむしろわざと避けている感じがします。逆にバーナビー・ロスの名前を出してきたりするような遊び心は、やはりニッキー・ポーターが登場する『靴に棲む老婆』(ニッキーが同一人物かどうか不明ですが)に通じるようにも思えます。さすがにダイイング・メッセージにかけて「XYの悲劇」という遊びはありませんが。
クイーンによるニューヨーク・ガイドといった趣もあり、かなり楽しめました。

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