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ミステリの祭典

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残星を抱く

作家 矢樹純
出版日2022年07月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 6点 猫サーカス
(2024/08/12 18:25登録)
青沼柊子が娘の李緒とドライブを楽しんでいた時、展望台でワンボックスカーの男たちの暴行現場を目撃、彼らに追いかけられる羽目になる。彼らを何とか出し抜けたまではよかったが、その際、男の一人が崖下に落ちたような。窮地を脱した柊子だったが、男の安否は不明のまま。県警一課の刑事である夫・哲司にも打ち明けられずにいると、翌日彼女はマンションで耳の下に8のタトゥーを入れた不審な男とすれ違う。さらにポストには告発文めいた脅迫状が入っていた。柊子は唯一の相談相手、中学時代の同級生・葛西康晴に連絡を取る。どこにでもいそうな三十代の主婦の日常がある日を境に突然狂い始める。絵に描いたようなサスペンススリラーの図式だが、ワンボックスカーの男たちや8のタトゥーの男には謎めいた点が多く、さらには刑事である哲司の挙動にもおかしなところがあったりする。そもそも柊子自身、二十年前タクシー運転手として事故死した父親に強いわだかまりを持つなど葛藤を抱えているのだ。峠の展望台の出来事、脅迫状と8のタトゥーの男、哲司が携わっている事件、二十年前の柊子の父の死。一見、何の繋がりもなさそうな事象が次第に収斂してくる。後半の展開はスリリングの一言。どこにでもいそうな柊子のキャラクターもそれとともにアクティブなものへと変化していくところも同様で、終盤の対決もいい。

No.3 6点 HORNET
(2022/10/10 17:58登録)
 主婦・青沼柊子は娘と行楽に出かけた帰り道、休憩所で暴行の現場を目撃する。急いでその場を去った柊子だったが、暴漢たちは車で執拗に追いかけてきて、ついに柊子たちの前に立ち塞がった。構わず柊子がアクセルを踏んで振り切ると、サイドミラー越しに、男の影が崖下へと転落していくのが見えた―。自分は罪を犯してしまったのではないか…?県警捜査一課の刑事を務める夫の哲司に話すこともできないまま、悶々としていると、マンションのポストに告発文めいた脅迫状が投函されていた……。

 はじめのエピソードからのサスペンス的な展開かと思っていたが、物語は柊子の父親が20年前に起こした交通事故の真相という意外な方向へ。柊子の夫婦問題に絡む公安警官も関わってきて、編みこまれたストーリーはそれなりに読み応えがあった。
 ただ、最後まで読み通してから、「最初のアクシデントはどういういきさつだったのか?」を思い起こそうとしてもパッと出てこないややこしさはあった。「言いたいことも我慢して家庭に尽くしてきた主婦」というようなイメージだった柊子が、ハードボイルド女探偵ばりのたくましいキャラに豹変していく様は異様でもあり、面白くもあった。

No.2 7点 人並由真
(2022/09/11 08:07登録)
(ネタバレなし)
 37歳の専業主婦・青沼柊子。彼女は5歳の幼稚園児の我が子と二人だけで、山間へのドライブに出かける。だが思わぬ事件と身の危険に巻き込まれ、命からがら幼児とともに生還した。柊子は事件のことを夫の哲司に告げようかとも思ったが、過去のある出来事も関係して、逡巡してしまう。そんな彼女の周囲に不審な人物が出現。さらに夫の上司からかかってきた電話が、柊子をさらに劇的な状況のなかへ導いていった。

 読んでる間はとにかく面白かった。いま目の前にタイムマシンがあれば数十年前の世界に行って、テレビシリーズ「火曜日(土曜日)の女」の局側プロデューサーに、ここにおたくの番組に恰好の原作がありまっせ、と本書を強引に押し付けてきたいような、そんな気分である(笑)。

 でまあ、得点法的にはウハウハな、ノンストップ・サスペンス編であったが、それとは別に思うこといくつか。
 なるべくネタバレにならないように、以下、箇条書きしたい。

・中盤~後半の、主人公が出先でうまいものを喰い、風呂に入る時の長々とした克明な描写はなんだろ。くだんのシーン周辺での一時的なダブルヒロインものっぽい描写とあわせて、書き手の方が、さあ、旅もの番組要素もありますよ、食い物番組要素もありますよ、人気の中堅女優をキャスティングできる、熟女の入浴シーンも用意しましたよ、だからテレビドラマ化してくれ、版権料は奮発してくれと言っているようで、やや引いてしまった(笑・汗)。設定もストーリーそのものも、とてもテレビドラマに向いている作品だとは思うが、作者の方からそういうイロケに走る(?)のは、なんか違うように思える。

・最後の方に明らかになる「作戦(?)」に関しては、いや、それこそ無理筋でしょう。(中略)が当人なりの理由を語って(中略)を説得したところで、とても成立するとは思えない。だって……(以下略)。

・ラストで明かされる某メインキャラの素性というか文芸設定は、それで確かに文芸的には作品を固めた気はするんだけど、すんごい唐突感は免れない。ただまあ作者もその辺は百も二百も承知で大技を見せた気配もあるので、まったくダメということはないのだが。う~ん……。

・で、なにより一番、感じたこと。
 評者はこの作者の作品はまだ『がらくた少女』一冊しか読んでないのだが、ただしそっちでは相当のインパクトを覚えており、同作の一番のポイントの部分は、4~5年経ったいまでもすごく鮮明に印象に残っている。
 そして、ああいうケタ外れにオフビートな(いい意味で、だが)作品を書いた人の新作ミステリとしては、良くも悪くも今回は本当に全体的に手堅く攻めた、作法的にオトナな一冊だったなあ、という思い。まだたった一冊しか既刊を読んでないくせにアレコレ言うのもナンなんだけど、矢樹作品って、もっともっと毎回、どっかイカれたものが来る予感があったので。
(くどいようだが重ねて、まだ二冊目の段階で、作家のカラーについてどうこうを語るのはおこがましいだろと言われれば、まったくその通りなのですが・汗。)

 評点は先に書いた、何はともあれ面白かった、の側面を重視してこの点数で。
 とにもかくにも、一時間枠で5~8回くらいの連続ドラマにして、よっぽど演出と配役をハズさなければ、かなり楽しめるものができるだろうとは確信する。

No.1 6点 虫暮部
(2022/08/18 13:20登録)
 矢継ぎ早に事件が積み重なり、ページを繰る手が止まらない。どの件が主軸になるのか摑めず振り回される。主人公の行動が半端に思えてイライラしたのも、それだけ作品にのめり込んだからだ。
 しかし。その達者な書き方が却って作品を “普通” に留めてしまった感もある。こういう形で読者を騙すことが、ありふれた手法になってしまった現在。贅沢だけど素直な感想。

 もともと事件の関係者だった人物を、そうと知らずに主人公が引っ張り込んだ――御都合主義だと思う。でもそういう展開って結構エンタテインメントの “伝統” なのかなぁと最近思えて来た。

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