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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2224件

プロフィール| 書評

No.764 5点 ティンカー・ベル殺し
小林泰三
(2020/07/31 12:24登録)
 このシリーズがこんなに続くとは思わなかった。こうなると評価の仕方も微妙になって来る。つまり、設定を生かしたねじれたロジックやトリックの作り方がパターン化していないか、そして、土台にあるのは他人のネタじゃないか、と言うことである。しかし“アーヴァタール”の設定と既成のメルヘン世界の親和性は高いし、それ自体がコンセプトだし。うーむ。
 本作にはもう一つ問題があって、メインのトリックには先行例(結構知名度あると思う)があるのだ。私はそのへん比較的鷹揚なつもりだが今回はがっかりしてしまった。


No.763 5点 弓形の月
泡坂妻夫
(2020/07/31 12:20登録)
 ミステリをとろとろ煮込んで、半分煮崩れたところでハイどうぞ。スープは珍味だけど具の歯応えは無くなっちゃった。両方の美味さを具有するタイミングで火を止めるのは難しいんだろうなぁ。

 真吹三津雄の血縁つながりでの関係者と、劇団つながりでの関係者が、同じマンションに住んでいて互いにそれと知らずに知り合いになっている。これはどうも御都合主義的。現実には有り得るその手の偶然も、フィクションだと私は気になる。
 本作に限らないが、泡坂作品は隙あらば和服の販促小説になるので苦笑。


No.762 7点 しらみつぶしの時計
法月綸太郎
(2020/07/31 12:19登録)
 十年ぶりに再読。「猫の巡礼」が素晴らしい――けど、ずっとこれ有栖川有栖作品だと思っていた。何処で記憶が混乱したのやら。
 「使用中」他者の作品をあんな風に引用しなくても、法月本人のアイデアは単独でちゃんと伝わるのに。
 
 以下、ネタバレになっちゃうかな?
 「ダブル・プレイ」ラスト前の“この見ず知らずの男こそ、本物の○○にちがいない”は余計な一文ではないだろうか?
 どういう思考回路でそこに到達したのか。
 ①自分と●●の殺意のタイミングが偶然かち合ったわけではなく、全体が一つにつながった事件である。
 ②未知の共犯者が存在するわけではなく、既に出て来た名前だけで事件は完結している。
 以上二点を前提にしないとその結論には至らない。主人公の持つ情報だけではそれはクリア出来ないと思う。


No.761 8点 偽りの春 神倉駅前交番狩野雷太の推理
降田天
(2020/07/27 12:09登録)
 倒叙形式の警察モノ短編集。さほど鮮やかな推理が炸裂するでもなく、入り組んだトリックが仕掛けられるでもなく。犯罪より人物の造形を中心に据えた、つまり小手先ではない筆力がより求められるスタイルに挑み、しかもかなり成功している。素直に感心した。「見知らぬ親友」が特に良い。
 ――と思ったら最後に飛び道具。コレが中途半端。と言うか主人公の企ては面白いが、“天才”の描き方が表層的で説得力不足。このネタだけ別個にもっとじっくり書けばいいのに。


No.760 6点 悪の起源
エラリイ・クイーン
(2020/07/26 14:59登録)
 前回読んだのは中学校の頃。読み返す意義はあった。英語がそこそこ判るようになったので、あの手紙の部分をしっかり味わえたから。
 犬の死体と脅迫状で相手が死んだ。それは殺人罪に該当するのか、と言う問題が全然問題にされていない。
 もう一件。殺すつもりで空包を撃った、当人は実包だと思っていた、撃たれた側は空包だと承知の上で、敢えて撃たれる状況を作った。コレは殺人未遂罪? 不能犯? あの人が何罪で起訴されたかも明記されていない。そういう法律談義は作者の手に余ったのか。
 ところで“アボカド”を“西洋梨”としているのは変だね。


No.759 7点 あなたの知らないあなたの部屋
青柳友子
(2020/07/26 14:56登録)
 こちらの予想を覆す矢継ぎ早な展開に唸らされた。複数視点のそれぞれに寄り添う文章も的確で、読みながらあっちの味方になったりこっちの味方になったり。難点は、誰が誰かアンフェアな表記があること。ラストで取り違えが生じる明確な原因が見当たらないこと。
 第42回日本推理作家協会賞長編部門候補作。


No.758 7点 襲撃のメロディ
山田正紀
(2020/07/26 14:54登録)
 '70年代のうらぶれた世相のようなムードにそのまま巨大電子頭脳など幾つかのテクノロジーをぶち込んだ、今読むと少々奇妙な'90年代ディストピアを舞台にした反体制アクション。勢いと冷たさを併せ持つ筆致に胸が躍る。作戦内容に理屈として判らない部分(何故そういう行為によって列車がそういう対応を示すのか、とか)があるけど、それは私の理解力の問題。


No.757 5点 時をきざむ潮
藤本泉
(2020/07/26 14:50登録)
 泥臭い警察小説と“まつろわぬ民”云々の伝奇ネタのツギハギ。破綻を恐れない物語の核の存在感は力強い反面、推進力には欠ける。捜査が停滞するとこちらも退屈してしまった。水江・海江とヒロイン(?)が二人いる設定はあまり生きていない。ラストの場面に何か予想外のびっくり自然現象を期待していたら、単に“規模が大きい”だけでがっかり。


No.756 6点 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題
法月綸太郎
(2020/07/26 14:49登録)
 決定的な傑作は無いが、どれもまぁそれなりに良く出来ている。“交換殺人のカラクリ”や“背理法推理”がマーヴェラス。
 元ネタのあるネーミングを犯人役に割り振るのは如何なものか。芸能人なら喜ぶかな?


No.755 5点 キス・キス
ロアルド・ダール
(2020/07/21 11:52登録)
 間抜けな人物ばかり登場するが、それが“愛すべき~”と言う感じではないのでイライラした。「豚」「天国への登り道」以外は、期待し過ぎたせいで相対的に物足りない。だって『チョコレート工場の秘密』の作者だよ。何かもっと物凄いものを期待しちゃった私を誰が責められるだろうか。


No.754 5点 ダブル・ダブル
エラリイ・クイーン
(2020/07/21 11:51登録)
 諸々の構成要素や明かされた真相を鑑みるともっと楽しめてもおかしくないのだが、実際にはいまひとつ話に乗れなかった。
 周りの登場人物達はリーマをとても魅力的な女性として扱っているけれど、彼女を直接描写した文章を読むとそうでもない。


No.753 8点 虎よ、虎よ!
アルフレッド・ベスター
(2020/07/21 11:49登録)
 もっとガチャガチャしたイメージがあったが、読み返してみると意外にシンプルな物語。第一部の末尾の逃走劇、ケンプシイから情報を引き出す為の無茶な手術、スコプツィ植民地に於ける間接的なコミュニケーション法、等が特に鮮やかな“絵”として胸に残っている。
 ところで私、いわゆるハードボイルドはあまり好まないけれど、SFに混ぜるとサラッと読めるな。


No.752 7点 都市と都市
チャイナ・ミエヴィル
(2020/07/21 11:49登録)
 筒井康隆の某短編を思い出した。基本設定がコレならああいうスラップスティックな喜劇になって当然なところ、真顔でリアルに書くのがこの作者の芸風か。
 実は最初のうち、二つの都市が異次元で一つに重なって二重写しのようになっている的な完全にSFの設定なのかと思った。あと、何を漂白するのかと思った(スペル書いてよ)。終盤での〈ブリーチ〉の使い方が面白く感じた、ってことはそれだけ作品世界に馴染めたのだろう。主犯との対決がだらだらした解説になってしまったのは残念。
 ところで私、いわゆる警察小説はあまり好まないけれど、SFに混ぜるとサラッと読めるな。


No.751 7点 ニンギョウがニンギョウ
西尾維新
(2020/07/21 11:48登録)
 意味不明、なのだが此の判らなさには覚えがあり、私には判る気がする。西岡兄妹の漫画の如きものを小説でやってみたかったのではないだろうか。然様な試みは試みられた時点で宙に浮かぶことを約束されており、成功失敗を問う地平とは遠く隔たった場に在るのは言うまでもないのでもう言わぬ。売れているからこそ許された実験。権力の使い方としてはまぁ正しい。
 とシニカルなことを嘯く私は気取り過ぎで、実は結構素直に面白い。


No.750 6点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題
法月綸太郎
(2020/07/17 15:14登録)
 作者がわざわざ“プロフェッショナルな仕事”“娯楽奉仕に徹したミステリー集”と謳っているのは、“議論を巻き起こす問題作”ではないことに対する引け目のようで痛々しい。それなりに出来の良い作品集だし堂々としていいのに。
 “双子ネタ”や“コラムで暗号を用いた理由付け”がナイス。
 揚げ足取りをすると、「ゼウスの息子たち」の犯人は、余計な偽装工作をしたせいで捕まってしまうけれど、警察ではなく綸太郎に対してその証言をしたのは何故? 恰も“探偵役はこの人”と言うメタ的な御約束に合わせたかのように。


No.749 8点 銀色の国
逸木裕
(2020/07/17 15:13登録)
 3分の1くらいで全体像はなんとなく読め、そして概ねその通りのところへ物語は巧みに着地した。これは褒め言葉。的確な伏線や安定した文章力があるからこそ、予想通りの成り行きでも心揺さぶられたのだ(“素人の調査が上手く行き過ぎ”なのは大目に見る)。但し、出来が良さが却って個性の弱さにつながっている感もある。
 人を死なせることでしか居場所を得られない者はどうしたらいいのか。実は私は割と肯定的で、人間社会はそういう諸々も呑み込んで成立しているのだから、そういう者がいるのも止むを得ないと思う(しかない)。
 他者の作品をネタバレ含めて取り込んでキャラクター設定の補強に使ったのは感心しない。


No.748 6点 奇想天外殺人事件
横田順彌
(2020/07/10 14:27登録)
 旗本退屈男そして007の血を引く私立探偵・早乙女ボンド之介。今日も今日とて、真暮警部が持ち込む難事件を見事解決! 内容は無いよー。全編、無意味さを競う展開。『六枚のとんかつ』より非道い。


No.747 8点 九尾の猫
エラリイ・クイーン
(2020/07/10 14:23登録)
 残念なのは、題名の Many Tails を“九尾”と訳したこと、及び登場人物表。そして冒頭の一文(“九幕の悲劇”)。
 9人死んだところでついホッと一息ついてしまった。本来そう思う根拠は何も無い筈なのに。

 電話の加入者が3~4人に1人って、私もちょっとびっくり。


No.746 8点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2020/07/05 11:26登録)
 ABCパターンは(少なくともそれ単体では)机上の空論に思える。従って、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧、と言う状況で再読するにあたり、正直期待薄だったが――いやいやとんでもない。
 作者は私のツッコミなど予め呑み込んでその先を書いていたのだ。『ABC殺人事件』を名乗りつつ、実は重要なのはABCではなく裏テーマじゃないか。思い返せば全編を通じて退屈な場面が皆無だったのも凄い。でも髪に関するいじりは御手柔らかに!
 “ABCパターン”なる呼称を生み出す程に本作があのプロットの代表例として評価されている事実こそ、此度の私にとって最大のミス・ディレクション。


No.745 8点 人間に向いてない
黒澤いづみ
(2020/07/02 11:07登録)
 これは力作。アイデア一本勝負ではなく、その表現の為の諸々の要素を(ちょっとステレオタイプではあるが)一つ一つ積み上げ、愚直に説得力を生み出している。私は必要以上に警戒してしまったが、書き方自体は直球なので、もっと素直に読んで嫌悪感を楽しめば良かったと反省。
 それだけに、三章の長い夢の場面は不要だと強く思う。“物語全体が壮大な妄想オチ”と言う情ない可能性を読者の頭に植え付ける以外の働きはしていないんじゃないか。

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