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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1748 8点 螺旋
山田正紀
(2024/07/05 12:35登録)
 序章を読んで “え、これSF?” と訝ったのだけれど、実際には現代社会の生活者視点と神学的象徴論の二重写し。ともすれば頭でっかちな観念論に陥りそうなところ、見事な反転と共にきちんと着地している。
 単なる物理的トリビアではなく、そのときにそれが起きることで “奇跡” たり得ている “史上最長の密室” トリック。それに対抗するかのような “××に対するペテン”。この物語はまるで “神シリーズ” のアナザー・サイドだ。


No.1747 7点 火星の大統領カーター
栗本薫
(2024/07/05 12:34登録)
 愛の溢れるパロディ集。
 ところが、あとがきが不釣合いにヘヴィで、楽しく笑って読み終えられないのだ。読者を追い詰めて選択を迫っているよう。これは『ぼくらの世界』で信が薫くんに語ったことと通じるかも。そこだけ勢いで書き殴っている感じ。この人の多作っぷりは或る意味でライヴ・パフォーマンスだったんだなぁ。

 そして、言わずにはいられない。「君の瞳は百万ボルト」→正しくは「10000ボルト」だっ!


No.1746 6点 エーリアン殺人事件
栗本薫
(2024/07/05 12:34登録)
 うーむ。確かにフェアプレイだ。全ての謎はとけ、私の頭も溶けた。

 エーリアン餡を抜いたら良く切れる。
 エーリアン営利抜いたら赤毛の子。
 日の本じゃ絵には描けないその姿。
 あの豹とどっちが強いエーリアン。
 異世界でグインが胸を撫で下ろし。
 今も尚ねずみ算式ペリー・ローダン。
 えいり庵 隣に建つは伊集院。
 著者近影 中島梓に良く似てる。
 SFやモブの命の安さかな。
 年ふれば宇宙に吠え~るエーリアン。しまったネタバレ。


No.1745 6点 陰陽師 飛天ノ巻
夢枕獏
(2024/07/05 12:33登録)
 “あちこちの雑誌にちらほらと書いてきた” ものを纏めた成り立ちの為か。時代設定上あまり入り組んだエンタメ展開はしづらいのか。このシリーズはとても雰囲気があって面白いんだけど、二巻目にして早くもパターン化しつつあると言うのが正直な感想。
 後半ちょろっとリミッター解除した気配はあるものの、何処を守って何処で攻めるか様子見な感じ。一編ずつバラしてのんびり読むが吉。


No.1744 5点 十一月に死んだ悪魔
愛川晶
(2024/07/05 12:33登録)
 愛川晶がこの便利な題材を使い回すのは何度目か。まぁ過去の類似作よりは良く出来ている気がする。しかし細かな味付けの差異よりも “またか” と言う印象が先に立ってしまう。だから戦略的にも損だと思うんだよね。もしかして “記憶喪失もの” と言うサブジャンルが成立していて一定数のファンが居るのだろうか?


No.1743 7点 ファラオの密室
白川尚史
(2024/06/27 12:30登録)
 AC『死が最後にやってくる』に期待していた世界はこんな感じかも。導入部の冥界探訪エピソードがとても良い。
 神官は神官、奴隷は奴隷、と立場に応じて思考にリミッターがかかっているあたりも世界設定を巧みに補強している。その観点で言えば “お前の人生はお前のものなのだ” と語るセティの父イセシが最も現代的でリベラル?


No.1742 6点 永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした
南海遊
(2024/06/27 12:29登録)
 本格ミステリ流のフェア・プレイ精神(従)を備えた時間テーマのファンタジー(主)、と言う感じ。ちょっと苦手な奴だ、と読み始めてから気付いた。物理トリックとかキャラクター造形とかは高く評価するけど、死に戻りを繰り返すタイムループの説明は案の定こんがらがったコンガ。


No.1741 6点 サロメの断頭台
夕木春央
(2024/06/27 12:29登録)
 明かされた真相は、意外な道筋でありつつ圧巻。但し、盗作の理由には首を捻った。
 そして、途中の展開はやや退屈だったと言わざるを得ない。判ってみればそれなりの事情があり、希釈したような中盤を経てラストでギュッと濃縮する読み味は、事件の構造上の必然のようだけど、間延びした時間を楽しく読ませるのは難しいね。


No.1740 6点 天使の囀り
貴志祐介
(2024/06/27 12:28登録)
 この題材は私の守備範囲内(と言うと大袈裟だが、アレコレ調べたことがある)なので、作者が多分意図しただろう驚きみたいなものはあまり感じなかった。
 でも上手に料理しているなぁと嬉しくなった。骨格まで変わるさまをイメージすると恐ろしや(どうせ手の打ちようが無いのだから、生死の確認なんて不要だろうに)。ラスト、アレを今後も保持しておいてホスピスで使おう、と言うオチを予想したんだけど……。
 食されているあの虫の味は蟹だとかピーナッツだとか諸説あるけど美味らしい。


No.1739 4点 鍾乳洞美女殺人事件
南里征典
(2024/06/27 12:26登録)
 キャラクターはそれなりに立っている気がする。しかしこんなに芝居がかった脅迫劇を計画するか? 多分に読者の視線を意識した演出であって、例えば犯人がもっと愉快犯なら許容出来たかも知れない。


No.1738 8点 盤上の敵
北村薫
(2024/06/22 12:39登録)
 結局自己保身じゃないかと言う印象を避けるには相応のやむにやまれぬ事情が求められ、すると “傷付けられた人” が必要になる。状況のヘヴィさは単なる飾りではなく、騙しの構造上必然的なものである。しかも、この物語の奥にこんな痛快なトリックが潜んでいるとはなかなか思わないから、目晦ましとしても機能している。
 そう考えて納得はしているものの、あの人物の “弱さ” には苛立ちを覚えた。と正直に書いておこう。


No.1737 7点 兎は薄氷に駆ける
貴志祐介
(2024/06/22 12:38登録)
 被告人の狙いがそうなら、読者にとって最も意外な展開はこうかな? と考えた真相が的中した。でもそうやって先の読めているプロットを面白くスラスラ読ませる筆力はたいしたものである。
 自分が被告席に座っていたら、とも考えた。きっと余計な揚げ足を取って心証を悪化させるに違いない。一番笑ったのはここ。

 “被告人には偽証罪が適用されないことをご存じですか?”

 はい、たった今あなたが教えてくれたので知っています、と答えちゃいそう。


No.1736 5点 ミステリーズ
山口雅也
(2024/06/22 12:37登録)
 これは、ミステリではないから『ミステリーズ』と名付けたのか。言ったもん勝ち的な、アンディ・ウォーホルのスープ缶とかマルセル・デュシャンの泉みたいなものか。変に大上段に構えず普通の短編集として読めば、幾つか非常に面白いものも含まれているのだけれど、トータルなコンセプトが成功しているとは思えない。


No.1735 5点 悪霊島
横溝正史
(2024/06/22 12:37登録)
 おぉう、このプロローグ。この短さなのに、心を鷲摑みにされた。
 ところが後が続かず。話の本筋もなかなか進まず。まことに自烈体。
 ラスト4分の1でようやく面白くなる。コレやれるなら最初からやってよ。
 しかし思えば、このおどろおどろは犯人サイドのごく一部で共有されていたに過ぎないわけで、物語全体が黒々と染まらないのも仕方が無い。
 いや、仕方が無いのは作者がとても素直な書き方をしているからで、このプロット、今時の若手なら視点の転換や叙述トリックを駆使して全編スリリングに仕上げられるんじゃないだろうか。

 ところで、プロローグを録音した “テープレコーダー” って何だろう。
 本作は雑誌連載が1979年(78年末?)開始だが、作中の時代設定は1967年。その時期に普及していたのは、オープンリールテープ。一箇所、“カセット” と言う文言が使われているのは作者のミスだと思うがどうだろうか?


No.1734 5点 複製症候群
西澤保彦
(2024/06/22 12:36登録)
 〈ストロー〉はどこかで川と交差しているわけだから、溺れて流されたサトル1号がいずれ接触してコピーが生まれる筈。水中に生み出されたコピーは直後、流れに煽られてまた〈ストロー〉に触れてしまう可能性が高い。するとコピーのコピーが生じ、それがまた〈ストロー〉に触れてしまう。と言う風に多重コピーが繰り返されそう。
 と言うのが伏線になると思ったんだけどなぁ。

 結局、人間のコピーは、生じたらすぐ殺しておくのが正解だろう。と言うか誰かがその結論に辿り着くのを期待していた。
 ミステリではなくパニックSFだと思えばまぁ許容出来るか。


No.1733 7点 愛と髑髏と
皆川博子
(2024/06/14 12:59登録)
 幻想的な犯罪的な短編集。理屈で割り切れない機微をロジカルに(?)描いているものが幾つか。割り切れないまま描いているものが幾つか。“判らなさを楽しむ” にはあまりにも人間が生々しいので、“何故そうなる?” と口走ってしまう私。修行が足りません。


No.1732 7点 渋谷一夜物語(シブヤンナイト)
山田正紀
(2024/06/14 12:58登録)
 発表順ではない作品配列がなかなか効いているんじゃないか。サスペンスから少しずつ捩れて条理が失われ、徐々に足場がズレて行く感覚で意識がキーンと冷えるようだった。“幕間” で一旦リセットしたのが異化効果と言えなくもない。平均値の高さ故に却って突出して目立つ作品は無いが、「死体は逆流する」の “動機” が出色と言うか何と言うか。


No.1731 7点 垂里冴子のお見合いと推理
山口雅也
(2024/06/14 12:56登録)
小説のユーモアとはしばしばメタ的なものになりがちだと思う。例えば “垂里冴子” なるネーミングにしてもストレートに笑えるわけではなく “そういう洒落ですよ” と言う作者の意図を読者が共有することで成立しているのである。
 本作をユーモアの側面から見ると、その辺の匙加減はやや甘いけれど、“共有” へ読者を誘う居心地の良い雰囲気作りに長けておりそこに救われている。中でも冬の章の類友エピソードが良い。
 まぁその割に深刻な真相ばかりだが……。


No.1730 6点 浴槽で発見された手記
スタニスワフ・レム
(2024/06/14 12:56登録)
 積み重なる不条理劇は、体制批判である、社会風刺である、世界そのものの隠喩である、スパイ合戦そのものが一歩引いて見れば無意味な道化芝居である。そりゃあ判るよ。でもあまり安易にそうやって済ませて何でもアリに堕するのも考えもので、手綱は相応に締めておく必要もあるなぁと私は少々反省したのだ。作家を甘やかしてはいけない。

 本作は、ナンセンスのヴァリエーションが増えたのと、不条理さが徐々にグレード・アップして行く構成のおかげで、『捜査』よりは読み進めるハードルが低い。静と動のバランスで読ませるセンスも良い。作者も学習したんだと思う。
 しかしラストをきちんと纏めていないので、形式を模倣しただけ、思わせ振りに答えをチラつかせただけ、と言う疑惑も拭えないのである。


No.1729 5点 仮面舞踏会
横溝正史
(2024/06/14 12:55登録)
 横溝マナーを排して “普通の” ミステリを書こうとしたような作品。強烈な個性はマンネリズムと紙一重なわけで、違うことをやりたい気持は判る。分厚くて展開が地味、なのにスイスイ読めたのは流石の筆力。
 しかし、“これもまた良し” とならないのが表現の残酷なところ。本作を読んで、やはり横溝はおどろおどろの表層こそが本質(変な言い方だけど)なのだと改めて思った。読者を怖がらせようと言う意志が無いと、ここまで半平みたいにフヤフヤした歯応えになるなんて。

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