虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:2011件 |
No.1471 | 7点 | 鬼 今邑彩 |
(2023/06/16 12:32登録) 短編集の統一感と多様性のバランスについて考えさせられた。高品質な作品揃いなのだが、どれも似たようなものに思えるのだ。 勿論それが作者の持ち味だから当然だけれど、「セイレーン」だけはやや毛色が違う感じで、このくらいの差異が全作品の間にもあったほうが私は楽しめる。 |
No.1470 | 5点 | 飛奴 泡坂妻夫 |
(2023/06/16 12:32登録) 表題作。それは “いかさま” なのだろうか。情報収集の為に工夫を凝らしただけに思えるが。当時の基準ではインサイダー取引みたいなもの? 許容範囲のことしか認めないさまは、反語的な文明批評である。 「仙台花押」の花火見物が涼しげで楽しそう。「向い天狗」は亜愛一郎ものの再利用だけど、そこそこ上手く処理している。「夢裡庵の逃走」は唐突だ。先生のあんなキャラクターについての伏線は殆ど感じられなかったけどなぁ。 |
No.1469 | 8点 | 傷物語 西尾維新 |
(2023/06/16 12:31登録) このシリーズは一作ごとにヒロインが増えるインフレのハーレムだけれど、実はストレートにえっちな場面はさほど多くない。しかし、その点で本作は、厳密な定義とカウントは難しいが少なくとも三箇所、中でも体育倉庫での行為は屈指の煽情力。いや別にだから高評価と言うわけではなく、バッドエンドに縺れ込む流れで爆発する気持のカタルシスに巻き込まれて死にかけたのだから私の涙腺は如何ともしがたい。 改めて読むと阿良々木暦は切れ方が戯言遣いそっくり。 |
No.1468 | 5点 | 黄金仮面 江戸川乱歩 |
(2023/06/16 12:30登録) (令嬢殺害事件はともかく)追い詰められて口封じ、宝物を盗まれ自死、人違いで手下が爆死と、つまらない成り行きで人死にが幾つも発生。ミステリ的には、立派な被害者なら堂々と死ねるのに(?)、こんな死は気の毒だ。 黄金仮面のデザインは魅力的。だからこそ、キャラクターを無駄に浪費してしまった感じ。正体があの人ってのも余計な設定だと思う。 |
No.1467 | 8点 | 四日間家族 川瀬七緒 |
(2023/06/16 12:30登録) まず、基本設定の紹介が上手く組み立てられていて最初の山場。粗筋を予め読んでしまうと最初の100ページの面白さが半減すると思う。 とは言えエンタテインメントである以上、例えば集まった目的がアレならそれは成就せず、トゲトゲバラバラな関係性は転回し、伏線の回収としてアレとアレをぶつけて着地――“状況は変化する” と言う意味で実は予想通りな流れ。 そこを如何に読ませるかに適切に注力しており、ネット社会が敵にも味方にもなる様は皮肉が効いている。話を転がす為に出し惜しみナシの総力戦って感じが痛快だ。 終盤、敵の稼業がさほどショッキングではなかったのが残念(鈍くなってるか、私?)。 本書に限らないが、死体にせよ生体にせよ隠す(隠れる)のがどの程度難しいのか実感しづらいので、隠す側が甘かったのか探す側が優秀だったのか今一つ良く判らないな~。 |
No.1466 | 5点 | 三つの棺 ジョン・ディクスン・カー |
(2023/06/09 12:45登録) この作品、〈密室講義〉で徒に知名度が高くなって、そのせいで(まず読まれないと評価が下されないと言う意味で)過大評価されてない? 持ち上げた江戸川乱歩に抗議したい。 作者の目的は、分類の一番目に “さまざまな偶然が重なる例” を挙げることで本作中のトリックの御都合主義をフォローすることだと思う。 とは言え、トリックの構造は面白い。まず拳銃で一発 → 加害者被害者双方が現場から離れようとしてドアを開けたらまた鉢合わせ。これは笑うところだ。血塗れの笑劇である。 時計の件。この錯誤は(作者が)大胆だな~と感嘆した。私は肯定的。 あと、フーダニットが良かった。“意外な犯人” など既に出尽くし読み尽くした心算でいたが、近年はこの程度の軽い捻りで大いに驚いている自分に気付く。一周回って素直になれたか。 一方で、判りづらい記述があちこちに見られ、内容を読み取るのに余計なストレスがかかった。“何を書くか” ではなく “どのように書くか” の重要さが逆説的に表現されている。作者にもっと文才があればな~。 |
No.1465 | 7点 | 七週間の闇 愛川晶 |
(2023/06/09 12:45登録) 浮世離れした価値観に金銭欲が絡む曼荼羅。どっちでどっちをカムフラージュしているのか。もはや渾然一体。 ホワイダニットには驚き、しかし確かに平仄は合うと納得もし、但し私は血縁にこだわる気持にはまるで共感出来ず、別次元から眺めている気分だった。 記述が曖昧で不確定な事柄だが、福島で一度会っただけの相手を東京で探し出せるか、その人と更に偶然再々会出来るか。この点は御都合主義だな~。 |
No.1464 | 5点 | 九龍城の殺人 月原渉 |
(2023/06/09 12:44登録) 殺人周りのアレコレはたいしたことない。多指の件もあまり上手く使えていない。本格ミステリではなく、“主人公のルーツへ向かう魂の遍歴に伴う異郷冒険活劇” みたいな読み方のほうが楽しめたかも。その場合このタイトルは不適格だ。 もう一つ。英題が単数形、つまり殺人は一件のみ? ならば普通は溺死が事故だろうが、そこは裏をかいて来るだろう。事件の責任を問われて苦しい死を賜るよりはと、潔く自らを処したところ、恨みを持つ者が遺体を辱めたのである。と私は推測した、虚しく。 |
No.1463 | 7点 | あと十五秒で死ぬ 榊林銘 |
(2023/06/09 12:43登録) 変なことばかり考える人だ。いいねいいね。十五秒でどこまで出来るか。それは厳しいだろうって部分もある。でも些細なことだ。 短編1作目から単行本デビューまで6年。執筆速度が課題? 頑張ってもっと変な話を読ませて欲しいな。 |
No.1462 | 6点 | 四万人の目撃者 有馬頼義 |
(2023/06/09 12:42登録) 高山検事、大した根拠も無いまま暴走してるな~。誰が訴えたわけでもないのに。目立つ形の “官憲横暴!” ではないが、矢後選手にはえらい迷惑だし、独断で家捜しやら押収やらするし、容疑者は撃たれるし。穏やかに描かれた権力批判として読んだ。見込み捜査が別の事件を誘発する話か、とも予想した。 そして結局、毒物に関しては決定的な記述が無く曖昧なまま。殺人罪で起訴は難しいと思う。そもそも、銃器犯罪の隠蔽で殺人、って割に合わないのでは。ミステリとしてはスジを通し切れていない。 ただ、読後感は必ずしも悪くなかった。それは検事の気持自体はまっとうだからか。切れ者ではない “才人気取り” の右往左往する様が、想定外の(?)愛すべきアンチヒーロー的ユーモアを醸し出しているようだ。 |
No.1461 | 7点 | ルームメイト 今邑彩 |
(2023/06/03 12:54登録) 第一部が何だか曖昧な構造じゃない? Zさんに関して、AさんがBさんに話す。知り合ったばかりの人の言うことをBさんは鵜呑みにしてCさんに話す。みたいな感じで事実確認をなおざりにしたまま基本設定が示されて、“これどこまで確かなの?” と思った。そのはっきりしない気持悪さは都市伝説系ホラーでも読んでいるような味わい。 そんなモードで入っちゃったから以降も今一つ記述が信用出来なく感じたりして、まぁそれはそれで面白い気分だったが、ミステリ的な仕掛けにつながってはいないので、作者が意図的にそんな風に書いたわけじゃないんだろうね。 |
No.1460 | 6点 | SAKURA 六方面喪失課 山田正紀 |
(2023/06/03 12:53登録) 読んだ印象は “B級” で、まさに作者の狙い通りだ。最後の大ネタは噴飯もの(良い意味)だが、盆暗刑事達の逆転劇はやや唐突で、個々のキャラクターが十二分に生きているとは言いがたい。一話ごとの小ネタを無理の無い範囲で小ネタとして上手く使っているとは思う。 でも、後藤とか佐藤とかは駄目だろう、イントネーションが全然違う。第五話とその延長は、血の滲むような愛憎がショッキング。 |
No.1459 | 6点 | 哄う北斎 望月諒子 |
(2023/06/03 12:51登録) 個々のキャラクターはしっかり描かれていると思う。好ましい奴はいないが、絶対悪もいない、一長一短たちの群像劇。 騙し合いの話なので、後半は本当に入り組んで状況が読み切れなくなってしまった。裏事情をどのように読者に判らせるか、工夫の余地がある。驚愕の真相!と言う感じでもないしね。 美術関係の薀蓄は面白いが、こういう書き方をされると書画もお金もただの紙切れに思えて来るな。 |
No.1458 | 5点 | 体育館の殺人 青崎有吾 |
(2023/06/03 12:51登録) 緻密、と言うよりはチマチマしたロジック。リ-ダビリティも微妙に高くない。心意気は買うが、それに免じて一歩歩み寄った上で、こちらが楽しみ方を心得ているからこそ楽しめた、との印象である。 体育館はサイズが大きく、抜け道なんかは色々ありそうで、“視線の密室” を納得しづらい。実際、見取図に描かれている二階通路が作中で軽視されてない? 皆が死体に注目している隙に通路から飛び降りて外に逃げた、との可能性は? |
No.1457 | 5点 | ネメシスの契約 吉田恭教 |
(2023/06/03 12:50登録) 現在進行形の事件はともかく、過去の事案の再調査を始めた途端に新しい手掛かりが都合良くポロポロ出て来る。事件当時は真面目に調べてなかったのかと失笑を禁じ得ない。 最後の銃撃事件(=ダミーだけど)は必要? 別にその人が疑われていたわけではない。寧ろトリックが露見したせいで犯人も特定されている。余計なことしなきゃ良かったのに。 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞からデビューしただけあって島田荘司系のトリックだが、ストーリーの不自然さまで真似しなくてもいいんだってば。 |
No.1456 | 7点 | 戦物語 西尾維新 |
(2023/05/26 13:16登録) “何も起こらなさ” はシリーズ中屈指ではないか。悩んで考えて議論を戦わせるだけ。静けさは微風に戦ぐ木の葉の如し。しかし怒ったひたぎさんには戦いた。 |
No.1455 | 7点 | 蘆屋家の崩壊 津原泰水 |
(2023/05/26 13:13登録) 旅情ホラーにしてグルメ小説(豆腐、蟹、蟲など)にして舌先三寸の与太話。言葉の積み上げ方が味わい深い。同作者の長編の体力を削られるような感じは無くて助かる。 白髪になったり、拒食になったり、語り手は踏んだり蹴ったり。見た目はどういうことになっているのか。 |
No.1454 | 6点 | シュレーディンガーの少女 松崎有理 |
(2023/05/26 13:12登録) この作者は、秀逸なアイデアを示しつつも、ズバッと切れ味鋭いタイプではなく、寧ろややナマクラでデレッとした部分に味わいを感じさせる、と私は認識している。 その作風が生きているのが「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」「ペンローズの乙女」。 一方、「六十五歳デス」の、世界設定。そこでは(偽薬効果と承知の上で)ああいう稼業が成立する、そこまではいい。しかし、施術のパフォーマンスがあまりにチャチ、あの程度で大金を稼げる、非合法である、しかも警察があそこまでしつこく追いかけて来る、となると疑問符が幾つも頭に浮かんで来たのだった。 |
No.1453 | 5点 | 赤い矢の女 山田正紀 |
(2023/05/26 13:10登録) 山田正紀作品にトラウマを背負った主人公が登場する度 “またか” と苦笑したものだが、それは必然的なキャラクター設定なんだな~と反語的に良く判った。 これと言った傷跡の無い本作のヒロインが、一体どのような動機付けで事件の渦中に踏み込んで行くのか、さっぱりピンと来ない。そこまで彼氏のことを深く愛していた感じではないし、ソ連に対する因縁があるわけでもない。単なる意地と勢いに流されて何度も殺されかけているのであって、しかしそんな意地を張るような性格にも見えない。こういう不自然さがここまで不気味だとは。 彼女以外の登場人物はそこそこ生きているし、80年代のソ連紀行文としての面白さは感じた。 |
No.1452 | 4点 | 小樽湊殺人事件 荒巻義雄 |
(2023/05/26 13:08登録) 期待外れ。作中のミステリ談義で黄金時代に対する共感をアレコレ述べているが、それに見合う実作では全然ない。前半、やる気ありそうでなさそうな主人公と事件との距離感が、私小説とミステリとエッセイの混合みたいな、ちょっと今まで読んだことの無い独特な感じではあったものの、進行につれてどんどん散らかって興味が雲散霧消してしまった。 |