虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:2011件 |
No.1531 | 5点 | 私を猫と呼ばないで 山田正紀 |
(2023/09/14 13:25登録) ミステリは薫り付け程度。これは飛び道具無しで二十枚を如何に凌ぐかと言う挑戦なのだろうか。エンタテインしないことこそがエンタテインメントである、みたいな。私としては切り込む糸口が摑めない話が多く困惑したが、最も意味不明な「つけあわせ」が最も印象に残っているのはどうしたことか。 ところで猫が登場すると無条件で好感度が上がるな~(と言うのは実物の猫のことであって表題作のことではない)。 |
No.1530 | 7点 | 梅雨物語 貴志祐介 |
(2023/09/07 13:14登録) 「皐月闇」。前半は想定通りでつまらないが、展開を鑑みるとそれは必定。後半はスリリングで興奮した。この言霊ミステリを楽しめる自分を誇ろう。 しかし、作品集の構成としては如何なものか。「皐月闇」と「ぼくとう奇譚」には、共通の要素として罪悪感と記憶が扱われている。そしてそれが「くさびら」に対するミス・ディレクションとして働いている。少なくとも私はそんな思い込みを抱いてしまった。作者の意図かどうかは判らないが、あまり良い組み合わせではないと思う。 「くさびら」の、相続に関する説明は間違っており、それを修正すると動機が無くなってしまう。 |
No.1529 | 7点 | 覆面作家の夢の家 北村薫 |
(2023/09/07 13:13登録) レッド・へリングが殆ど無いんだ。再読なので良く判る。カードを伏せて一列に並べて、“こうですよ” と捲って見せるだけ。そのカードの並べ方が意外と真相そのまんまで、捻りや工夫が見られないかも……。 「覆面作家と謎の写真」。一番不思議なのはどこでしょう、と言う切り口は上手い。 「覆面作家、目白を呼ぶ」。この方法は殺人罪に問えるのだろうか。車の落ち方がじっくり描写されていて息が止まってしまいそう。 「覆面作家の夢の家」。厳しく言えば、ゲームと言う形で逃げている。この格調高過ぎる暗号を、現実の事件として作品に出来る人がいるのではないか、そういう風に書かなきゃ、と思ってしまう。 “東江戸川女子大” って『おじゃまんが山田くん』からの借用だよね。 やはり、ミステリ要素以外の部分はとても好ましいんだけどな~。キャラクターは大好きなんだけどな~。 |
No.1528 | 6点 | まだ、名もない悪夢。 山田正紀 |
(2023/09/07 13:12登録) “TVの深夜ドラマのシノプシス” なる設定はどの程度意味があるのだろうか。敢えてその趣向に乗っかるなら、映像化に向いていそうなのはせいぜい半分程度。モノローグが多過ぎると思う。御色気サーヴィス回もアリ? その設定は単なる体裁だから! と言う作者の開き直りが、完全にSFの「冷凍睡眠の悪夢」や不条理なオチの「訪問販売」の収録を許したのではなかろうか。でも無理のあるものほど、映像を脳内でイメージするのが面白かったりもする。 中途半端な設定は気にせず、単なる奇妙な味の作品集として読んでも良し。 |
No.1527 | 6点 | 殺人ダイヤルを捜せ 島田荘司 |
(2023/09/07 13:10登録) 最初から最後までズ~ンと沈んだ気分で、語り手にも共感しづらく、しかし話は割と最初から走り出すので、さほど楽しくはないのについ乗せられちゃった感じ。 勢いで殺してしまい、即興的にあのトリックを思い付いたと言うことは、犯人達は事前に語り手の行為についての情報を共有してたんだろう。“こういうトリックを思い付いたんだけど、知り合いにイタズラ電話をしてる奴いない?” って順序ではないだろう。 他人の秘密をペラペラ喋る慎みの欠けたパートナーは嫌だな~。犯人(女)はそういう品の無さを男に見せて平気だったんだろうか。犯人(男)は新旧どっちの女を選んでもガッカリなんじゃないだろうか? あまりナイスなペアには思えないんだよね。一時的な愛人関係ならともかく、捕まらずに一緒に暮らしたら、いずれ男が女を殺したのでは……? |
No.1526 | 6点 | 怪盗グリフィン、絶体絶命 法月綸太郎 |
(2023/09/07 13:09登録) 作品の基本設定として、国際的謀略がゲームのように冗談交じりで進行する、言ってみれば “楽しい騙し合い” の世界観が成立している。ナイス。 それだけに渦中で人死にが発生したのは痛恨事である。バタバタ死ねばそういう作品なんだなと切り替えられるが、一人だけと言うのがまた辛い。あれさえなければなぁ(ジュヴナイルだからってわけではなく)。 |
No.1525 | 7点 | 月灯館殺人事件 北山猛邦 |
(2023/08/31 12:25登録) こんな風に自作のトリックをネタバレ&リユースしちゃうのはアリなの? あっちも既に読んでたから被害は無かったが、是非はともかく、そういうことをやっている、と言う事実のせいで以降ちょっと斜に構えた読み方になってしまった。それさえなければ。 |
No.1524 | 7点 | 高山殺人行1/2の女 島田荘司 |
(2023/08/31 12:24登録) 自動車やファッションのネタはピンと来なかったが、次第に泥沼化して行くサスペンスには引き込まれた。愛らしくない間抜けな人物を一人称でこれだけ書けるのはなかなかなもの。 細かいことだが、ミステリ界には強引な聞き間違いが多いけれど、靴屋の発言を取り違える部分は自然で上手いと思う。 しかし真相は……そんなことで(別れるでなく)殺そうとするか? バイカーも何故ああまでしつこくした? 隠されたホワイがあれば良かったのだが。 |
No.1523 | 6点 | 覆面作家の愛の歌 北村薫 |
(2023/08/31 12:23登録) 全体的に強引。謎の為の特殊な状況を作り出す為に犯人に特殊なメンタリティを付与した感じ。でもそもそも探偵役のそれが特殊だからねぇ。 「お茶の会」のホワイは上手いところを突いていると思った。“どこかで聞いたような三人組” は横溝正史のアレだよね。 ミステリ要素以外の部分はとても好ましい。 因みに、ストーンズが a poison kiss と歌うのは「 I Go Wild 」と言う曲。 |
No.1522 | 6点 | 大金塊 江戸川乱歩 |
(2023/08/31 12:22登録) 暗号文を奪い取ったものの解けない。そこで一旦返却し、明智小五郎に解かせて彼の探索の跡をつける。賊の作戦勝ちだ。最後に油断したのは惜しかったね。 |
No.1521 | 5点 | ヒッコリー・ロードの殺人 アガサ・クリスティー |
(2023/08/31 12:19登録) ネタバレするけれども、結局、盗難騒動って何? はっきり書かれていないが、リュックサック破壊事件と言う “木の葉” を隠す為の “森” を、無関係な者を唆して作り上げた、と言うことなのか。 しかしあれは実行犯が露見して気を引くところまで計画に含まれていて、すると “リュック事件は別” と言うことも明らかになるわけで、最終的にあまり意味が無いと思う。 それとも、裏で進行中の違法行為とは無関係に、あんな行動を唆したと言うこと? (それは何かズルい……) あと、最後に従犯者が色々話しているが、あれが全て正しい保証は無いよね。要約すると “主犯と或る程度の情報共有はしてたけど、私はそんなに悪くはありません” と言っている。 自分の罪状を軽くする為に犯行の主導権を相手に押し付けようとしているのかも。そのへんの曖昧さ、私は面白く感じたので、作者にはもっと意図的に突っ込んで(主犯にも供述させて)欲しかった。 最後の事件のトリックは、単純だけど鮮やかで見事に引っ掛かった。 |
No.1520 | 7点 | AIとSF アンソロジー(国内編集者) |
(2023/08/26 13:14登録) タイトル通りのSFアンソロジーだが、謎とその解明を軸にした作品やミステリ的な捻りを備えた作品も多い。人ならざるものの意思、と言うことで神仏ネタが重複しているのは、示し合わせたわけじゃなくて必然なのだろう。中には1編くらい、AIに書かせた作品が密かに混じっているかも。 注目作を挙げます。『AIとミステリ』があったらそのまま収録されそうな高山羽根子「没友」と品田遊「ゴッド・ブレス・ユー」。喚起させられるイメージの倒錯具合が可笑しい十三不塔「チェインギャング」。野﨑まど「智慧練糸」は反則、だがテーマをもっとも体現している(かも)。 |
No.1519 | 6点 | その謎を解いてはいけない 大滝瓶太 |
(2023/08/26 13:14登録) これは恐ろしい。キャラミス殺しの、しかも大量殺人鬼だ。今後アレもアレもメタ的ギャグとしてしか読めなくなったらどうしてくれる。迂闊に読んではいけないあがら。 表紙イラストが遠田志帆、ってのもわざとだよね。同氏のイラストが飾った某作の中二病的探偵の真実をこっちでは始めからネタとしてバラしちゃってる。そこまでやるか……。 |
No.1518 | 6点 | アリアドネの声 井上真偽 |
(2023/08/26 13:13登録) 感動してしまったのは認めざるを得ないが、こんな捻りの無い話で手も無く感動しちゃっていいの? と突っ込む天邪鬼も私の中にいるわけでどうしたものか。 ふと思ったのだが、もっとフィクション度の強い、宇宙時代だったり異世界だったりの話ならすんなり読めたような気もする。現実と地続きだとエンタテインメントとして受け止めづらい。 しかしハンディキャップを持つ名探偵の話なら普通に読めるしなぁ。やはりハンディキャップ自体をテーマにしたストレートさ、クッションの無さ、に何かひるんでしまうところが私にあり、こういうのをもう一冊、とは思わない。 |
No.1517 | 8点 | 北の夕鶴2/3の殺人 島田荘司 |
(2023/08/26 13:12登録) まずツッコミ。妻二人の死体発見の状況がきちんと書かれていない。 藤倉兄弟が、妻が一晩戻らないと言って警察に捜索願を出した。妻達は同じマンションの加納通子の部屋へ行くと言っていた。 それだけの根拠で第三者の部屋に無断で踏み込むのは、正当性が弱いと思う。作者の書き忘れか。いや、これはわざとじゃないかな~? 具体的にどういう成り行きで錠を開けさせるか思い付かず、伝聞なのをいいことに曖昧に誤魔化した、とつい邪推してしまう。 吉敷襲撃事件もやや不自然。 彼の言動、そんなに脅威だろうか? 寧ろあのタイミングで襲撃したら自白みたいなものだ。証拠能力は無くても、当事者同士では通じ合っちゃったんじゃないだろうか。 確かに、謎解きはともかく、通子を確保されるリスクはあった。但し、吉敷が牛越に期限付きで頼み込んだことを犯人は知らない筈。なのにまるで犯人が読者視点で吉敷の思考を読んで襲撃したようじゃないか。 共犯者へのフォローが無さ過ぎ。被害者との関係性を鑑みれば当然疑われるポジションなのに。アリバイを偽証するくらい出来ると思う。 現場で共犯者が悲鳴を上げた意味が判らない。“隣室の者が不審がってやってきたらどうするのか” と疑問を呈しておきながら(私もそう思う)、解答を示していない。 “保険金の額の差” はあまりにわざとらしい。 と色々思うところはある変な話だけれど、このトリックは馬鹿馬鹿しくて好き。また、再読で流れは知っていたのに、武者の写真のくだりはゾーッとした。 島田荘司の文章を上手いと思ったことはあまり無いが、本作は全体的に迫力があり驚いた。 加納通子のキャラクターは好きになれないな~。主体性の無さ。別れた相手に対する中途半端な期待感。自分にも相手にも無駄なコストを強いる感じが苦手。吉敷は重い鎖を背負ってしまった。公私混同も甚だしい。 しかし、それ故に彼の無駄にエモーショナルな刑事としての生き方が推進されたような側面もあるし、そのストレスへの反発が熱い描写を生んだのかも知れない。だから一概に否定も出来ないのである。作者はどこまで意図してこの人をこの段階で投入したんだろうか。 |
No.1516 | 5点 | 鳩のなかの猫 アガサ・クリスティー |
(2023/08/26 13:12登録) まず中東の革命騒ぎで、この話の軸は宝石の取り合いだと示される。そりゃまぁこの件を後出しにしたら御都合主義だって言われるよね。 だから読者にそういうイメージを植え付けるのは良いけれど、作者もうっかりそれに囚われちゃってる気がするのだ。 学校内で連続する事件の描き方が妙にカラッとしてない? まるで教師も生徒も4章までを読んでいて、こういう背景があるんだと、だから自分がいきなり襲われることはないんだと、安心して “事件関係者” を演じているような感じ。作者も “本題は宝石だから、閉鎖社会のドロドロはあまり書かなくていいよね” との意識(無意識?)を反映した書き方になっている感じ。 いや、でもそれが一部の動機についてはミスディレクションになっているから、全て作者の掌の上なのだろうか。 |
No.1515 | 7点 | おやじに捧げる葬送曲 多岐川恭 |
(2023/08/17 12:17登録) 語り口が “距離感を内包した親愛の情” みたいなものを非常に上手く表現していると思う。信頼出来ない語り手のスタンスが、おやじさんとの或る種の信頼関係に依拠している構図。それを成立させる人物造形。ミステリ的要素を人情話でカムフラージュする作者の企みは成功していると言えるだろう。いや、読んだ後にグッと残るものがあるから人情話の方がメインか。 |
No.1514 | 6点 | 花の旅 夜の旅 皆川博子 |
(2023/08/17 12:17登録) まるで新本格と言う感じの凝った構造。各短編は深みがありつつ結末を書き過ぎない美意識が好ましい。メタ部分は、前半で期待した程に盛り上がる真相ではなかったので、やや失速との印象が残ってしまい惜しかった。 |
No.1513 | 6点 | 地獄の道化師 江戸川乱歩 |
(2023/08/17 12:16登録) この犯人の設定はあんまりと言えばあんまりだが、それだけに捨て身のトリック(他作品では、リスクが大きい、そこまでしなくても、と感じることが多いパターン)に説得力がある。 後半では捜査陣を利用して犯人が被害者に接近。“巨人の影”~“屋根裏の怪異” は警察が相応の対処をする前提のショウ・タイムであって、そのへんを解決編でもっと強調してもいいのに。 |
No.1512 | 5点 | 霊名イザヤ 愛川晶 |
(2023/08/17 12:15登録) またこーゆーネタか……カタリ派の薀蓄は興味深く、母の悪意には息を呑む思い。 しかし、論理が破綻して幻想性だけ肥大したものを本格の枠に押し込むのだから無理が生じて当然。反転の重ね過ぎで人物の行動がどんどん不自然化。“彼女が前世で殺された記憶の真相” あたりでやめて綺麗にまとめるべきだったのでは。 |