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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1368 5点 誘拐殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2023/01/12 12:05登録)
 木に登って見張り(10章)。
 振り子運動が止まるまで一時間、ゴム栓が乾くまで一時間半、と根拠が非常に薄弱な推論(12章)。
 等、ヴァンスとマーカムの言動が “趣味の捜査ごっこ” って感じ。かと思えば三人殺しは何か有耶無耶になりそう。これは作者の公権力に対する批判的な反骨精神の表れなのである。多分。

 兄の義妹に対する隠れた(隠せてない)恋情を考えると、事件への対応は難しいところ。弟に対する情は当然あり、死んでいれば良いと思う程に非情なキャラクターではないだろうし、そんな態度を彼女に見せるわけには行かないが、チラリと心をかすめて困ったりもしてそう。
 読み返すと(ヴァン・ダインにしては)そのへんちゃんと解釈可能な書き方になっていると言えなくもなかったり。


No.1367 5点 僕はいつも巻きこまれる
水生大海
(2023/01/12 12:03登録)
 能力はある作家がそこそこの気持で書いたような。いや、逆の見方をすべきか → 変な重さを感じさせずにサクッと読めるのが美点。ネット社会に対する切り口はありがちだが、清夏のキャラクターは良い。一人称の地の文が、あくまで “流行の言い回しを後追いしたセンス” って感じだ。まぁ匙加減は難しいよね。


No.1366 8点 幻坂
有栖川有栖
(2023/01/06 11:25登録)
 読みながら六回泣いた。泣けば良いってもんじゃないけど。作中から引用すれば、ここにあるのはまさしく “道理を抜きにした確信” の嵐。自由な翼を手にした如くハズレ無しの作品集。有栖川有栖がミステリを選んでしまったことで、日本は優秀なホラー作家を一人失っていたんだな~。


No.1365 7点 ループ・オブ・ザ・コード
荻堂顕
(2023/01/06 11:24登録)
 設定と展開は興味深いのだけれど、末尾4分の1が消化試合になってしまった感がある。勿論、判っている終幕へ上手に着地させるのも作家の腕であり、その意味で良く出来てはいるが、ラストにもう一つドカーンと驚きが欲しかったなぁ。原因が判明してもそれで事態が収束するわけではない、と言うのは示唆的。


No.1364 7点 時鐘館の殺人
今邑彩
(2023/01/06 11:22登録)
 頭から4編は、それぞれ良く出来た作品だと思う。しかしその出来の良さ故に、却って伏線の張り方等の見当が付いてしまう。真相を全て見抜けたわけではないが、“あぁやっぱり……” の連続だった。
 「恋人よ」は、あまりにも下らないオチ、だからこそ予測出来なかった。
 表題作は楽しいね。私もあんな手紙を出してみたい。何か手頃な作品は無いものか。


No.1363 6点 ロリータ
ウラジーミル・ナボコフ
(2023/01/06 11:21登録)
 実際に読んでみると、とても本書が “スキャンダラスなベスト・セラー” だったとは思えないのである。コレからそこまでのものを読み取れた当時の読者は凄かった。何が?
 期待したようなエロティックなものでは全然ない。語り手ハンバートの煮え切らなさと保身、時たま頭に血が昇って起こす行動の突拍子の無さ、ばかりが前面に出ている。ロリータは決して無垢なだけのキャラクターではないが、かといってその早熟さも案外印象が薄く感じた。悪くはないが、長過ぎ。
 ところがラスト4分の1くらい、ロリータが消え去って以降が、坂を転げ落ちるような面白さ。あの手紙はショッキング! そして、“陪審席のみなさん” 云々の記述による基本設定について、ずっと騙されていたことに気付く。それこそ『アクロイド殺し』ばりの叙述トリック。いや、“少女との逃避行” って時点で犯罪か。じゃあ全編クライム・ノヴェルか(笑)。


No.1362 6点 ライダーは闇に消えた
皆川博子
(2023/01/06 11:19登録)
 半端に退廃的な青春群像劇、かと思いきや存外にきちんとしたミステリに着地して好印象。中盤のバイク話に引き込まれて、気付いていた筈の伏線をいつの間にか忘れていた私。
 “作者が死んだら賞金が宙に浮く” と言う部分がピンと来ないが、そういうもんなの?


No.1361 6点 神の手
望月諒子
(2022/12/28 16:19登録)
 何が起きているのかの判らなさで引っ張って読ませる力量はなかなか。でも物語を上手く畳めず引き伸ばし過ぎ。登場人物の情を雰囲気モノでなく説明する書きっぷりも、後半はややきつくなってしまった。誘拐とのつながりは唐突だけど、寧ろそれ故に作品世界とは合っている。パズラーじゃなくて、主題は “業” だから。
 作中作がそこまで凄い文章には思えないが……まぁそこは “設定” と言うことで大目に見よう。


No.1360 7点 可制御の殺人
松城明
(2022/12/28 16:16登録)
 コレは後を引く。鬼界の思考にはそれなりに共感。私もこういう感想を出力するように入力されたのか……。
 そして本書は作者にとっても振り払えない呪いになってしまうのではないか。一作目にコレを書いた作家の、二作目に同様のシステムが仕込まれていないと誰が言えるだろうか?

 それはそれとして、事件の順番。殺人の後に窃盗が来るとちょっと気が抜けてしまうな。
 或る意味でミステリをつまらなくする機械工作を臆せずぶちこむ度胸とセンスは買う。生物と無生物の区別が不要ならば、ロボットが不気味に見えるのは筋が通っているしね。


No.1359 7点 ブラディ・ローズ
今邑彩
(2022/12/28 16:15登録)
 真相を知った上で見直すと、本作は麻耶雄嵩のアレの元ネタみたいだ。こちらの方がスケールは小さい反面、辻褄は合っている。
 ダミーの推理はJDC? 狙って書いたのかは判別しがたいが、こっちを先に読んだらあっちを読んだ時がっかりしちゃいそう。但し理屈としてはあの可能性に思い至るのも妥当ではある。悩ましいところだ。
 生家へ逃げる場面が、ごく短いけれど、妙にツボに嵌まった。


No.1358 6点 バレエ・メカニック
津原泰水
(2022/12/28 16:13登録)
 第一章と第二章はウロボロスの蛇? 私はただ作者の幻視に寄り添うのみ。しかしサイバーパンク化した第三章を読むと、ハードウェア絡みの部分で頭が過熱してしまう。最も包容力のありそうな千夏の出番があれっぽっちなのは勿体無い。


No.1357 5点 裏切りの塔
G・K・チェスタトン
(2022/12/28 16:12登録)
 そもそもチェスタトンには、コレがベストの書き方なのだろうかと首を捻らされることが多いけれど、本書収録の小説4編はみなその傾向が顕著で、つまり首を捻らせることが目的なのであろう。
 一方、戯曲「魔術」は名品。ストレートに楽しめた。芝居じみた台詞回しだから芝居に御誂え向き。成程やってみれば当然の帰結である。


No.1356 7点 濱地健三郎の呪える事件簿
有栖川有栖
(2022/12/22 16:31登録)
 このシリーズ、巻を重ねるにつれて有栖川有栖の本道から斜めの方向へゆっくり逸れて来た感じ。収録作品から “謎” が減ったのは、作者が変節したわけではなく、その系統は純ミステリ作品の方で書くからだ、と希望的観測をしたい。但し、代わりに台頭して来た “シンクロニシティ” は、純ミステリに於ける “名探偵” の意義付けにも重なりそうなテーマだから、根っこはつながっているのだ。「伝達」のラストに薄ら寒さを感じた。


No.1355 7点 バイオスフィア不動産
周藤蓮
(2022/12/22 16:29登録)
 御仕事小説にしてバディもの、教養小説にして未来予測シミュレーション。萌え要素もあり(いや、無いか?)。
 第一話、第二話はミステリっぽいけど、以降やや違った方向へ進んでしまった。第四話の理屈はなんだか苦しい。
 表紙で示されたような “なんじゃこりゃ” な異物感が小説全体にもっとばらまかれていて然るべき、かとは思う。特に、ユキオの入れ物がアレで中身がアレな設定は生かされていない。世界設定を言葉で描き切れていないのだから、意地悪く言えばアニメの原作に最適。こういうのは挿画を入れてもいいんじゃないですかハヤカワさん?

 正直なところ、この世界はかなり楽しそうだ。


No.1354 7点 紅蓮館の殺人
阿津川辰海
(2022/12/22 16:27登録)
 高校生二人の憧れの作家が松本清張フォロワーとの設定は意外。EQ系じゃないんだ。
 吊り天井の部屋と隠し部屋。事故防止を考えるなら、後者から前者の中を見られるきちんとした窓があって然るべきでは。と言うか、吊り天井に関する安全装置が皆無で、それこそ “殺人の為の部屋” って感じ。
 “塔の中のエレベーター” が、ミステリ的ガジェットとしては全然生かされていない。
 たいした根拠もなく “金庫=50キロ以上” と推定して、そのまま推理を進めている。極論、ハリボテかもしれないのに。

 推理に没頭する葛城は鼻に付いた。いっそ “謎は解けたが、それに時間を浪費したせいで炎に巻かれて全員死亡” なんて結末はどうだろう? 実はエピローグは死に際に見た幻覚であった……。

 ※吊り天井の前例としては、江戸川乱歩『白髪鬼』、更にそれをネタとして借用した米澤穂信『インシテミル』がありますね。


No.1353 6点 九マイルは遠すぎる
ハリイ・ケメルマン
(2022/12/22 16:26登録)
 作者が序文で自作を “古典的推理小説” 及び “もっぱら読者に喜びを与えることに専心する現代的な表現様式” と称したのは全く以て正当な自己評価だと思う。頭皮マッサージを受けているような心地良い読み味。そのぶん地味だが止むを得まい。
 でも「ありふれた事件」の犯人をもっと緻密に活写したら結構不気味かも。

 「時計を二つ持つ男」は何か変だ。
 犯人はあんなトリックで誤魔化せると本気で考えたのか。しかし実際に通用してしまった。関係者が超自然現象を信じ易い背景が欲しいところだ。宗教団体の内部で起きた、とかさ。
 人々がそれを信じる場でないとカムフラージュにならないが、信じるが故に “現世の法では裁けないが、彼が死んだのはアイツのせいだ” と断罪される。信じない場なら、トリックは判らなくても行動があまりに怪しく、事件に関わっていると自白しているようなものだ。どっちにせよ後ろ指を差されるではないか。
 そこはまぁ起訴されなければ良し、と開き直っていたのかもしれない。しかしそもそも、この件は “超自然現象” の演出など無くても、事故に見せかけた遠隔殺人が可能なのである。
 犯人がしたこと:①時計をずらす。②絨毯に仕掛け。③夜中に発砲。④超自然現象の演技。
 ここで③の代わりに、⑤夜中に何かの音を発する仕掛けを施す。
 すると①②⑤があれば、翌朝には階段から転落した死体が見付かる、と言う寸法だ。
 更に言えば、トリックを推測出来たからといって、それが超自然現象を否定する根拠にはならないと思う。

 「梯子の上の男」、そんな写真を部外者にポロッと見せるのは如何なものか。


No.1352 5点 世界の望む静謐
倉知淳
(2022/12/22 16:24登録)
 犯人のキャラクター小説として面白い。“最初から疑われていたポイント” も上手い点を突いている。しかし、どこでミスをしたのか、と言う興趣は今一つ。犯行そのものではなく、その後の不用意な行動で露見するパターンもあまり好きではない。
 「一等星かく輝けり」の作中歌の♪スターダスト~ は “スターの屑” と言う洒落?


No.1351 7点 冬の雅歌
皆川博子
(2022/12/15 15:33登録)
 本作中の某の過去を深掘りしたような長編が後に書かれており、各々単独で読めば傑作なのだが、2冊並べると “中途半端にリメイクしたんだな” と言う印象に変わってしまう。作者はこっちで自分役を死なせていることになる。
 精神病院、アングラ劇団、学生運動、新興宗教(的な精神修養)。私好みの要素がバラバラのピースのようにちりばめられ……バラバラなまま幕切れ。このエンディングは、しかし割とストンと腑に落ちたな。 


No.1350 7点 卍の殺人
今邑彩
(2022/12/15 15:31登録)
 取り入れるべき要素が予め或る程度定められていて、それらを如何に確実にこなしたか、がジャッジの対象になる、いわばフィギュア・スケートのような作風か。
 5回転ジャンプ! みたいな奇跡は無い。先鋭的なオリジナリティがあるわけでもない。寧ろ先の流れが読めて変な安心感があったりする。しかし各々の技が綺麗に決まって上手に着地出来れば、やはり拍手も沸き上がると言うものだ。

 思わせぶりなプロローグ。仮にあの睦言が叙述トリック的なミスディレクションだったら、と考えた。そしたらそれに相応しい二人がいるじゃないか。
 ってことで、実は義務教育の少年少女の早熟な濡れ場でした、と言う仕掛けを期待したんだけどね。


No.1349 7点 ガラスの街
ポール・オースター
(2022/12/15 15:30登録)
 “謎は解かれるべし” と言う思い込みを逆手に取った “謎を作る為の” ミステリ。安部公房の『燃えつきた地図』あたりを都会的(なのかな?)なセンスで書き直したみたい。でも作者と同名なあたりは伝統に忠実である。
 ピーターの長台詞はカフカか。スティルマン父との対話はチェスタトン。11章、クインも町を徘徊して何か書いたのかと思ったが……? まぁ曲解は読者の権利である。

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