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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2011件

プロフィール| 書評

No.1591 5点 タカイ×タカイ
森博嗣
(2023/12/07 13:52登録)
 死体を高く掲げたホワイとか曖昧な真相とか、面白そうな要素は含まれているが、わざと面白くない書き方をしてそれこそがクールだと思っていそうな感じが面白くない。
 あと、事件関係者と小川が同級生だった、そういう人間関係の偶然をフィクションで使うのは好きじゃないな~。


No.1590 8点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/11/30 12:54登録)
 この手の作品を読むたび思うのだが、一作だけ別名義でイコール語り手にすれば?
 こんなしょーもないことを思い付き、あまつさえ実行してしまった時点でスタンディング・オヴェーション。その上で、仕掛けに正当性を持たせる為の設定が上手く出来ている。割と典型的なキャラクターばかりだが、噛み合わせ方が良いので物語としても面白い。

 ただ、宣伝文句が……。


No.1589 7点 ジャグラー
山田正紀
(2023/11/30 12:53登録)
 『ジュークボックス』の、続編、とはちょっと違うな、緩やかな姉妹編? どちらもJで始まる七文字。
 初期作品の “神” の代わりに、ここでは “言語” そして “コンピュータ” が触媒だ。
 “現実” も脳と言うセンサーのフレームに限定されたヴァーチュアル、との認識に則るなら、1~2章では日本中を巻き込んでいるかのような闘争が、3章では噂話レヴェルの遠景に後退する格差こそ本作のキモのように思う。重層構造のミステリに通じるところもある。
 ただ、個人的にはアメ・コミ(映画も含む)に馴染みが無いので、“余所のネタ” で終わってしまった。アトムやドラえもんで書いてあればなぁ……。


No.1588 6点 巫女の館の密室
愛川晶
(2023/11/30 12:52登録)
 本作に限らず、謎の文書が送られて来て云々の設定は、物語の複数の軸が最後に一つにつながる妙味がある反面、何故そのようにまどろっこしい伝え方をするのか納得しづらい。
 思えば根津愛は文書の内容を鵜呑みにして、初対面の相手に対する反感を事前に募らせている。ならば謎めいたアプローチは “名探偵の操縦法” と言えなくもない。

 そしてこれを言うと野暮なんだけど――密室トリックに関する愛の推理は、“犯人は抜け穴から出入りしてはいない” ことを前提にしている。それを踏まえた上で諸条件から “真相はこれしかない” と断じているわけで、真相や犯人を示す直接的な証拠は無い(よね?)。
 “警察が抜け穴の有無をきちんと調べた” と言っても、相応の規模の特殊な建物で、しかも十年前の話である。調査の無謬性と真相の突飛さを並べて、前者を優先する(=調査結果はあくまで正しいから、そこから導かれる真相はどんなに突飛でも真実である)のは、ミステリの約束事としてはアリだけれど、今回のそれは却ってロジカルさを殺いでいる気がするのだ。

 ところで、確認しようが無いことを “史上初” とかは書かない方が良いと思う。そんなに自信があったのだろうか。
 “刑事になりたがる理由” もピンと来ない。犯人はアレで説得されたのか……?


No.1587 6点 炎舞館の殺人
月原渉
(2023/11/30 12:52登録)
 おいおい、悪魔憑きの犯行か。
 それはともかく、ちょっと効率的に書き過ぎではないか。ところどころで “必要な手続きをこなしているだけ” に感じられて残念。せっかく雰囲気のある舞台を作ったのだから、もっと味わいを重視しても良いのでは。いや、そうすると本格度が下がっちゃうのかな~?


No.1586 6点 探偵ガリレオ
東野圭吾
(2023/11/30 12:51登録)
 シリーズ連作であること自体が弱点。確かに不思議な現象だけどどれも科学的に説明が付くんでしょ、と言う視点でつい読んでしまう。
 しかし、第一章の妹の件とか、第二章で犯人の意図ではなくああいうものが生じた巡り合わせとか、科学ネタ以外の外堀が面白い。そのへん書き方が上手いね。


No.1585 7点 弔鐘の荒野
山田正紀
(2023/11/24 14:16登録)
 手堅い下請け企業謀略もの、かと思ったら後半で大いなる飛躍、しかし無体なツギハギではなくシームレスにつながって、一つの物語として自然に成立しているあたりは流石。死者はどうあるべきか、AIが問題になる現在、改めて読むと発表時よりリアルに考えさせられた。“橋を渡る/渡れない” の例えが切ない。あの政治家の “想像力の無さ” も凄いな。


No.1584 6点 水族館の殺人
青崎有吾
(2023/11/24 14:14登録)
 出た、忍切蝶子さまっ! 爽やかで傲慢そうで実は生真面目そうな実力者。台詞がいちいち様になって決まってる。対する佐川部長だって負けてないぞ。“そういうところは嫌い” と言ってのけるのは愛だね。うーむ、どっちのキャラも美味しい。強敵と書いて友と読む。竜虎相打つ決勝戦は事件のせいで見損なってしまったが、非公式の頂上対決なんて贅沢な。

 あ、殺人の方は、手掛かりがやたらチマチマしている。容疑者が属性だけ貼り付けたロボットみたいで、11人は流石に多過ぎ。EQ的ロジックを重視した結果そうなってしまう(こともある)のは判るが、もっと上手く書いている作家だっているわけで。試行錯誤の途中経過、って感じ。


No.1583 6点 相馬野馬追い殺人事件
皆川博子
(2023/11/24 14:14登録)
 フーダニットはなかなか意外なところを突いている。事件を二つ重ねた煙幕に引っ掛かった。犯人は、一人殺したら歯止めが利かなくなって行動のハードルが下がってしまった感じ。犯人じゃなくても板挟みで素直に供述出来ないとか、皆がバラバラなことを考えて錯綜して行くとか、面白いドラマ。
 しかし、描き方がごちゃごちゃし過ぎ。しばしばページを遡らないと状況が判らなくなってストレスの多い読書になってしまった。


No.1582 4点 第三の女
アガサ・クリスティー
(2023/11/24 14:13登録)
 どうしてもネタバレしちゃうなぁ。
 犯行計画全体の構図としては良いんだけど、その真ん中に余計なトリックがドンと鎮座している、と思う。
 金髪の鬘を使ってあんなことをする必要があるのだろうか? ポアロはアリバイ云々と言うが良く判らない。読後に振り返ると “犯人は多忙で疲労困憊したんじゃないかな” と言う印象ばかりが残っている。


No.1581 5点 夜獣使い 黒き鏡
綾里けいし
(2023/11/24 14:11登録)
 何がしかの美意識をアピールしているのは判るが、個々のエピソードが表層をなぞっているだけに思える。かと言って “すべてはどういうことであったのか” だけが重要、と割り切るのは本末転倒っぽい。第壱、肆、陸話あたりに絞ってもっと掘り下げれば良かったのでは。


No.1580 9点 終りなき夜に生れつく
アガサ・クリスティー
(2023/11/18 12:31登録)
 半ば過ぎまで普通の、と言うかミステリにならないロマンスを、自分が中だるみせずに読めたことがまず驚き。
 全身全霊こめて作った女神像を自ら落として粉々に砕く、みたいで、そこまでやるか。でも先が見えててもやるしかないんだろうなぁ。そこに嘘は無いんだよね。もうほぼ悲しみと安堵が綯い交ぜになった自殺者の心情なんじゃないかと思った。


No.1579 6点 ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
(2023/11/18 12:30登録)
 第一部は見事で、これだけで充分だったんじゃないかなぁ。
 粗探しをするなら、受話器のコードを切っただけなら素人でも応急処置は出来るんじゃないか、と言うことくらい。受話器、捨てときなよ。

 一方、第二部は、眼の付け所は良いが、内容がやや不自然。
 “第一発見者が狙われる” とのルールに対して、警察の対処があまりにも速い。第二被害者は第一被害者の親類なわけで、それに由来する共通の動機だと考えるのが自然。第三被害者が出て即座にルールに気付くなんて、犯人が警察関係者で誘導したのかと思った。
 第一の事件の三日後に第二、その三日後に第三。真相を踏まえると、このペースも速過ぎ。ほとぼりが冷めるまで待つのがアレのセオリーでしょ。それに、犯人は彼女の仕事のスケジュールをこの短期間で把握したのか?
 あと、その “動機” なら、彼女に対する殺害予告の方が確実。どのみち一度の失敗で奴が諦める保証は無いから、その場凌ぎにしかなっていない。殺人を辞さないなら、対象は無関係な人じゃなくて元を断たないと。


No.1578 6点 美しい蠍たち
山田正紀
(2023/11/18 12:30登録)
  “思い切り人工的なミステリーをめざした” とは作者の弁。でも骨組みを剥き出し過ぎだと思う。色々な説明が台詞だけで済まされているけど、信頼出来る発言者などいないじゃないか。もうちょっと肉付けして欲しかった。それを排した点こそ “人工的” たる所以か?
 最初と最後でのヒロインの変化と、出番は少ないながらメイドの存在が効いている。戸籍上の続柄や相続に関する説明には疑問点アリ。


No.1577 5点 那智伝説殺人事件
醍醐麻沙夫
(2023/11/18 12:30登録)
 鐘撞きを支えるくだりは、のっけから名場面。旅情は彩り程度だが、私にはこのくらいでちょうどいい。
 UFO信者や降霊がシレッと混ざったりして、微妙にスピリチュアル的要素強めの世界。伝奇ミステリと言う程ではない。あくまで微妙に。“なぜ霊に犯人の名を言わせなかったのだ?” と刑事が発言したりする。
 もう少し上手く書ければ、和歌の暗誦なども絶妙な言霊となって独自のロジックを作れたかも知れない。
 殺人のトリックも、窒息のイメージを逆手に取って、良く考えると意外な方法だと思うが、平坦な書き方で損をしている。


No.1576 5点 鏡館の殺人
月原渉
(2023/11/18 12:29登録)
 館は館でもあっちの館か……冷静に考えると、登場人物を一人浮かせる有効な手法ではある。こっちを先に読んでいればもっと高評価出来ただろう。
 総体的に “館の中の小さな世界だから成立した事件” と言う感が強い。しかし崖崩れは偶然であり、本来なら即座に警察沙汰だからね。そのへんの箱庭っぽさの為の設定をもう少ししっかりすべきでは。犯人が無知だから却って大胆になれた?


No.1575 7点 あの魔女を殺せ
市川哲也
(2023/11/10 15:57登録)
 特殊設定の本格かと思いきや、そこからも逸脱した怪作。その要素を前提にしても、真相がフェアプレイだとは認めがたい。実行犯が伏線無しで想定外過ぎ。
 でも好き。ラストで結ばれるこの二人、肉体的にはアレだね。ひぇ~。


No.1574 7点 十戒
夕木春央
(2023/11/10 15:56登録)
 キャラクターが一人一人きちんと別の人になっていて、この立場でこれを知っている人ならそういう風に動くよな~、と言った部分がしっかり押さえてある。読み返すとまた面白かった。
 『方舟』と似てるな~と、つい余計なことを考えてしまう。しかも、タイトルに共通性を持たせたせいで、実際以上に類似性が強調されてない?
 最後の最後に出て来るサプライズ、実は他の方の書評を読むまで全然気付かなかった。でも “あー成程ね~” と言った、オマケ程度の印象しかない。
 現時点では、せっかくの良作につまらない悪戯を加えている、と言う気もする。いずれ壮大なサーガになるんだろうか?

 あと細かいことだが、“犯人が、足跡から特定されるのを防ぐ為に、大股で歩く”。
 厳密に言えば、小股なら誰でも出来るが大股は人によって限界が異なる。“自分はこんなに大股では歩けない” と言う者がいたら(言っちゃまずいけど)容疑者から除外されてしまう。


No.1573 7点 茶色の服の男
アガサ・クリスティー
(2023/11/10 15:55登録)
 作者がノって書いている雰囲気に好感が持てる。でも気分のままに引き伸ばし過ぎ。気が付いたら一ヶ月経過していた、とは随分長い。何かのトリックかと思った。


No.1572 6点 ヴァンプドッグは叫ばない
市川憂人
(2023/11/10 15:54登録)
 最初からパラレル・ワールド設定とはいえ、大胆な世界改変だ。
 面白いんだけど楽しみ切れなかった。ウイルスの謎云々は、題材について考え抜いた作者には下地があったのだろう。が、殺人事件を追ってきた私にしてみれば、ベクトルが明後日の方へ振られたようで頭が切り換わらないよ。“アウトサイド” の連続殺人は動機が弱いし、“本格” の看板を掲げるよりもノン・シリーズの医療系SFスリラーとして書いた方が良かったのでは。
 シリーズの世界が今後どのように変貌するか、期待が半分、整合性を失くしてグダグダになってしまわないか心配が半分。

 初版にミスあり(知らない筈の名前を呼んでいる)。版元に報告したが、首尾良く修正されるかな?

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