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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1428 6点 フェルメールの憂鬱 大絵画展
望月諒子
(2023/04/12 10:23登録)
 主要キャラクター(と言うか黒幕)が『大絵画展』と共通なせいで、広い意味での落としどころになんとなく見当が付いてしまったのは大きなマイナス。
 題材は好きなんだよ。田舎の純朴な信仰と、集金装置としての新興宗教と、並べて描くと本質的な差は無さそうなところが面白いと言うか意地が悪いと言うか。


No.1427 5点 星くずの殺人
桃野雑派
(2023/04/11 10:58登録)
 説明的だと感じる部分が少なくない。しかしそういう書き方だから真相(動機)が受け入れ易いとの側面もある(ちょっと皮肉)。陰謀論を登場させたのは上手い手だと思う。
 スタッフ達の退去は事前に読めなかった筈で、“状況の想定外の変化が犯人の行動に与える影響” が何か欲しかった。
 そもそも一人ずつ殺すやり方は目的にそぐわないのでは(本来なら12対1だ)。私だったら、一人を人質にして残りを宇宙船で還らせ、人質には脱出ポッドを使う、かなぁ。

 Kiken! Mada modoruna.
 これは、会社の存続を優先して “(今すぐ帰還したいとの希望は)聞けん!” が真相だろうと思っていた。
 後にメールの全文が明らかになってもこれと言った効果は上がっていないでしょ。読者に対する引っ掛け?


No.1426 7点 怪人デスマーチの退転
西尾維新
(2023/04/07 14:35登録)
 父の正体を知って三者三様に踏み外した子供達。家族の崩壊と再生の物語? うそうそ、そんなまっとうなものではない。
 奇人変人大集合。“あ、大変だ、殺さなきゃ” に、つい共感してしてしまう怖い話。最初の殺人のホワイが曖昧なままなのは残念。
 実は、待葉椎が私の頭の中で『ハコヅメ』(勿論オリジナルの漫画版)の川合みたいなイメージで固まってしまい困っている。ミスキャストだ。


No.1425 7点 三体0 球状閃電
劉慈欣
(2023/04/07 14:29登録)
 読むと世界の見え方が変わってしまう与太話。
 この人の作風には、ぶっきらぼうな書き方故に却って感傷を読者が勝手に奥から引っ張り出してしまう、みたいなところがある。その点ではやっぱり、本当は過剰なエモーションを持つのにそれに陶器で蓋をして固めたような林雲のキャラクターからは目が離せない。ロマンスにならないところがまた良し。
 これが(登場人物はともかくストーリー的に)どうして『三体0』なの? とずっと思っていたが、最後につながって納得。成程ね!


No.1424 6点 野火の夜
望月諒子
(2023/04/07 14:29登録)
 プロローグを始めとして、非常に残酷かつ美しい場面が要所要所に配されており印象に残る作品ではある。
 しかしここまでとっちらかってしまうなら、ポイントを絞ってメインの事件だけにした方が良かった。本来関連の無い案件が木部美智子をハブにして交錯しているだけのような設定は効果が無い。
 12年前、記者の事故死は結局、純然たる事故? 大雨の中を出掛けて死んだジャーナリストの心情も曖昧なまま。25年目の偶然の出会い、はまぁ大目に見るか。


No.1423 7点 腐葉土
望月諒子
(2023/04/01 14:20登録)
 基本的にはとても面白かった。様々な正義が絡み合って依拠したり反発したりするさまが有機物っぽいニオイを発する力作。“長過ぎでは?” と思いつつ読んでいたら意外なところがミステリ要素につながったりして、濃度が高く必然的な長さであると納得。

 ただ、最終章で真相①犯人は誰でその動機はこうだ、と言うところがミステリとしての頂点。ここでせっかく驚いたのに真相②実は主導者は別にいて本当の動機は云々、と畳み掛けるのはどうも戦略ミスに思える。①より②の方が衝撃度が低いんだもの。ソフトに引き戻してどうする。
 私だったら、まず②で或る種の感動を誘った後に①が来て “結局、カネかッ?” と落とす方がいいな。
 それに、②に関してはこれといった証拠が無い(よね?)。自供内容に頼るのみである。つまり情状酌量狙いの犯人が舌先三寸で切り抜けた、のかも。作者の意図はどうあれ、リドル・ストーリーとして成立してしまっている。

 粗探しをもう一つ:やはり最終章。“睡眠薬の濃度を上げる為に酒の量を減らした” との説明には首を傾げてしまう。薬の量を増やせば済むじゃないか。酒が少ないと盗み飲みしづらい。
 作者は、何らかの齟齬を生じさせておかないと手掛かりが少な過ぎる、と思ったんじゃないかな~。でもこれは悪手だな~。


No.1422 5点 栞と噓の季節
米澤穂信
(2023/04/01 14:19登録)
 最低限の現実感を保持しようとして小さくまとまってしまった。それこそが狙いだと言われたらまぁ頷くしかない。リミッターを一つ二つ解除すれば小市民シリーズくらいにはなるだろうに。
 小ネタは効いている。on the road は “ドサ回り” じゃ。 


No.1421 4点 ペニス
津原泰水
(2023/04/01 14:18登録)
 語り手の頭の中だけで勝手にホラーが進行しているみたい。アメーバが仮足を広げるように連想が結び付いて現在地の意味を見失わせる。それが最後に反転して納得させてくれることは遂に無い。
 但し、そのワカラナサに乗れなかったのは、エロスの指向が私の嗜好と合わないことが大きい。と言うか読者に嫌悪感を催させる目的でそれら性的な事象を書いたとしか思えない。つまり私のこういった感想は作者の思う壺なのではないだろうか。雑誌連載で細切れに読めばまだ呑み込み易かったのだろうか。初出は小説推理だぜ。


No.1420 8点 無実はさいなむ
アガサ・クリスティー
(2023/03/24 12:41登録)
 はっきりと伏線が示されていたのに何故気付かなかったのだろう。
 それぞれ方向性の違う子供達のキャラクター、その更に異分子である車椅子のフィリップの存在感も良い。心情描写が交錯して、こんなに書いちゃって矛盾しない真相に着地出来るのか? と心配になったが、この視点の変遷が面白く、シリーズ探偵を起用しなかったのは正解。

 以下ネタバレ。
 クリスティー文庫版解説で指摘されている、“犯人は真相を暴露して自分の罪状を軽くしようとするのではないか” と言う件について。
 これは状況が或る種のチキン・レースになっているんだね。
 暴露してしまうと、罪状は軽くなっても、家族の中の元のポジションに戻って遺産を受け取ることはまぁ出来ない。一方、アリバイ自体は本物なのだから、自分が頑張っているうちに証人が出頭すれば晴れて無罪放免でポジション復帰が出来る。何故か未だ証人は見付からないが、それは明日かもしれない……。
 なかなか難しい判断だろう。六ヶ月程度では思い切れなかったのも不自然ではない、と私は思う。獄死は結果論であって、当人にしてみれば命まで賭けていた心算はないのでは。
 但し、あくまで故人の心情なので、作者としてはこの苦悩を描く視点を確保出来なかったのかもしれない。


No.1419 8点 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック
鴨崎暖炉
(2023/03/24 12:40登録)
 御見逸れしました。前作よりかなり良い。トリックは馬鹿馬鹿しいものも含めて皆合格点。異常者が揃ってキャラ立ちも充分。
 しかし、こんな “アイデア大放出” みたいな書き方では遠からず消耗戦になってしまうと思うのだが大丈夫なのだろうか。作家として長生きする気はないのかもしれない。それともストックがまだごっそりあるのだろうか。

 ところで初版、“クレッシェンド錠” と一貫して書かれているけど、正しくは……。


No.1418 7点 リア王密室に死す
梶龍雄
(2023/03/24 12:39登録)
 潔癖さと傲慢さを併せ持った蛮カラ青春記。山頂に集い議論! 写真一枚でリーベ! そんな経験など無いのにノスタルジーを誘われてしまう。
 “蓮の実のはじける音なの”、くーっ。

 それを、あんな真実に落とし込む作者の何と残酷なことよ。前半に比して、後半で描かれる諸々、事件の真相はともかく、卒業後の彼等の行く末が美しくない点が、がっかりだった。綺麗事で終わらせたっていいじゃないか……。


No.1417 6点 魔空の迷宮
山田正紀
(2023/03/24 12:38登録)
 発表時点で作者は十年選手だが、本書は最初期の “神シリーズ” に回帰したような伝奇サスペンス。(いつものことだが)世渡り出来ない主人公。その周りに現れては消える人の連鎖。都市のもう一つの貌。
 面白い歴史ネタを絡めたが、説明だけで終わってしまった、裏側に潜り切れなかった、との感が強い。黒幕との対決がもっとじっくりあっても良かった。
 武藤に関しては、何故そこまで入れ込むのか、人物像の裏打ちが甘いのでは。途中で死ぬ奴ならそれでもいいけどさ……。

 C-NOVELS 版の表紙イラストはイメージと違うな。サイズが明記されているわけではないが、あんな肉感的な “男が悦ぶ女” 的なキャラクターは出て来ないでしょ。みんなもっと棒みたいな身体だと思う。主題に関わる重要な問題なので厳しく指摘しておきたい。その反省を踏まえてか、文庫版の表紙はそれなりに嵌まっている。 


No.1416 5点 中野のお父さんの快刀乱麻
北村薫
(2023/03/24 12:34登録)
 歌の上手い人の、コールユーブンゲン(合唱教則本)での基礎練習を延々聴かされている気分である。上手いのは判っているから、もっと面白い歌を歌って欲しいのである。

 娯楽小説の読者に、純文学の薫りを気軽に味わわせてくれるシリーズ?
 と言うか北村薫はそもそもデビュー時からそういう部分が存在意義のような作家であった。僻みも込めて言うとそれは “純文学の方が上” との不文律の下に成り立っているところがあり、変な劣等感を刺激する危うさも孕んでいた筈だ。しかしこの人は同時にミステリ愛もだだ漏れだったので、スノッブ扱いされず支持を得たのだと思う。
 しかし本書。そういう、太宰治とEQを同列に語る或る種の力業が希薄になってしまうと、私なんぞは北村薫に対して僻みが沸々と再燃してしまう。その意味で、夫人問答で嵯峨島昭や南里征典の官能ミステリをスルーしたのは看過出来ないぞ。


No.1415 8点 幻象機械
山田正紀
(2023/03/17 12:23登録)
 “日本人の正体” をスケールの大きなSFミステリの形で暴いている。全体を貫く薄暗い空気が、押入れに隠れた遠い日の記憶のようで心地良く怖い。思い切り曲解するなら、連城三紀彦『戻り川心中』をSFの鏡に映した反射像。虚実綯い交ぜ、だが引用されている不気味な歌は “実” だ、ってところが凄いね。真相も実だったらどうする?


No.1414 7点 ソマリアの海賊
望月諒子
(2023/03/17 12:21登録)
 ハンドメイド感溢れる国際? 謀略? 冒険? 小説。与太話を読んでいる心算がいつの間にかえらいことに。
 所謂発展途上国に対する “学問と秩序は無いが純朴” と言った型通りの先入観を利用して作者に上手く乗せられた気分。現地人のキャラクターが似通っており紛らわしい、と感じるのも私が先入観のせいでそう読んでしまうのかな。
 それほど緻密ではないが全体のムードと相俟ってOK。多少の問題意識を笑い泣きのエンタテインメントで挿んで差し出す意図は達成されていると思う。


No.1413 7点 少女Aの殺人
今邑彩
(2023/03/17 12:19登録)
 ミステリとしての出来は良いが、それを飛び越えてググッと迫る小説としての強さには欠ける。

 “偽装工作として犯人がラジオに投稿したのでは?” との意見に対して “採用される保証が無い” と反論は誰もしていないが、そこを突き詰めればもっと早く解決出来たかもね。
 “埋める” エピソードは使い回しが過ぎると思う(読むの三作目)。
 チョイ役で “聖子” が登場するのは洒落?


No.1412 6点 俺が公園でペリカンにした話
平山夢明
(2023/03/17 12:18登録)
 食あたりしそうで1日2話が精一杯。頭痛発熱悪寒を堪えて2週間かかってなんとか読了。
 ぐちょぐちょでべろべろなロード・ノヴェル短編集?“おれ” がみんな同一人物で実は連作長編? 嫌がらせのように下種なエピソードばかり20も並んでいるのは平山夢明だもの仕方がない。他のものを期待する方が悪い。
 但しコレ、汚さ下品さを除けば、或る種の経典や神話のワケの判らなさに通じる気もするのである。


No.1411 4点 心霊探偵八雲1/赤い瞳は知っている
神永学
(2023/03/17 12:16登録)
 見事に何も無いな~。この “特筆すべきポイントの無さ” が、読書習慣の無い層への入門編としては有効なのだ、とでも思うしかない。

 ファイルⅢ。設定がやや曖昧だが、亡き兄の妻が死んだら、相続権は彼女の子・親・兄弟姉妹にある。弟には総取りどころか一銭も入らないだろ。


No.1410 6点 郵便配達は二度死ぬ
山田正紀
(2023/03/09 12:12登録)
 “警察小説” とまでは行かずとも半分くらいは警察官の視点で描かれている、にもかかわらず雲を踏むようなふわふわした空気に包まれ、入り組んだ真相もリアリティ云々ではなくそんな空気込みで成立する様は、ミステリの型を借りて真夏の夜の夢を演じているよう。
 しかしこの公演、大成功とは言い難い。原因はスターの不在? 群像劇が裏目に出て、はぐらかされたような読後感。それはそれで一つの表現コンセプトだと言えなくもない(か?)。
 暗号はまぁ御愛嬌。読者の楽しめる暗号ってなかなか無いな~。


No.1409 6点 田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察
望月諒子
(2023/03/09 12:07登録)
 今までの作品とは随分違う。森博嗣の水柿君シリーズみたい。謎や物語の本筋より、脱線(とも言い切れないか?)する部分の方が面白い。
 それなりの年齢の作者の、若い世代に対する理解と疑問と羨望が反映されている、と見えるようにわざと書いている気がする。桜子のキャラクターも微妙に批評性が滲んでいるし。
 犯人(と言っていいのかな?)の出番が少ないので、明らかになっても “誰?” な状態。花瓶を落としたことは認識したのに、片付けどころか状況確認すらせず帰っちゃうのは如何なものか。

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