ちぎれた鎖と光の切れ端 |
---|
作家 | 荒木あかね |
---|---|
出版日 | 2023年08月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 8人 |
No.8 | 7点 | パメル | |
(2024/10/28 19:27登録) 島原湾に浮かぶ孤島・徒島の海上コテージを訪れた高校時代の仲良しグループを中心とする8人の男女。主人公は先輩の人生を破滅させた連中に報復するため、それも皆殺しするために毒物を忍ばせていた。偽りの友情を築いていたのもこの目的のため。しかし計画実行を目の前にして生じ始めた迷い。そんな彼をあざ笑うかのように殺人事件が起きてしまう。通信手段はない環境で次々と殺人は続く。被害者には、「前の殺人の第一発見者」という共通点があり、なぜか全ての遺体は舌が切り取られていた。犯人は誰でその目的は何なのか、果たして主人公は孤島のクローズド・サークルから生還できるのか。 第二部は、孤島の殺人事件から三年後。同居する男を「兄」と呼び、疑似家族の関係を築いて暮らしていた横島真莉愛はある朝、ごみ収集の仕事中に遺棄されたバラバラ死体を発見してしまう。そして真莉愛は、徒島事件の再来と思しき事件に巻き込まれていく。真莉愛の物語が第一部とどのような形で結びついていくのか、第一部の視点人物の立ち位置の工夫、意外な人間関係の妙味、その技巧に感嘆させられた。 多重性を重んじるこれからの社会を見据えた視線が、作品全体の大事な屋台骨になっていることが分かる。憎しみ一色に塗りつぶされた状態で始まった物語が、行き着く結末「ちぎれた鎖」という言葉がネガティブからポジティブな意味に変化する様が素晴らしい。 |
No.7 | 8点 | sophia | |
(2024/03/25 00:20登録) デビュー作からいきなり終末モノだったので2作目以降が心配だったのですが、この人は本物だと確信しました。「十角館の殺人」を思わせる冒頭と怒涛の連続殺人。他にも「十角館の殺人」を思わせる箇所はいくつもあります。海上コテージという変な舞台設定は十二分に活かしていますし、小道具に着目した推理合戦や第一発見者が連続して次の被害者になってしまう意外な理由も面白く、第一部は文句なしの10点。しかしながら第二部は6点。第二部でやりたかったことは分かるのですが、予定調和のゴールへ向かって駆け足でまとめたという感じがしますし、第一部のコテコテの本格ミステリーとの食い合わせが悪いです。もっと歴史的傑作たり得た惜しい作品でした。最後にひとつ。「お前は背の低い人間を何だと思っているんだ」には笑いました。 |
No.6 | 7点 | HORNET | |
(2024/02/11 19:51登録) ある孤島に夏のバカンスを楽しむために集まった8人の男女。その中の一人、樋藤清嗣はうえ、自分以外の全員を殺害する計画でいた。ところが、滞在初日の夜、樋藤ではない何者かの手によって参加者の一人が殺害される。混乱し、焦る樋藤を尻目に、殺害は次々実行されていく― 連続殺人を企図していた人間の目の前で、自分ではない誰かによって進められていく惨殺劇。斬新というほどではないが十分魅力的な展開で、第一部は本格ミステリを堪能できた。 場面が変わっての第二部も、一転して現代的な小気味よいテンポで、その対照性が作品の面白さを増していたと思う。総じて面白い一作だった。 ロジカルな謎解きに仕立て上げるために、物語を緻密に仕組んでいる手腕は十分わかるが、それゆえに強引にならざるを得ないところがあったのも確か。場の勢いで一人の男を殺めてしまった犯人が、一気にここまで犯罪を飛躍させるか?(それをここまで隙なくやり遂げるか?)クーラーボックスの中身を見ただけで、皆殺しの企みを「確信的に」知りえるか?…など。 まぁ、ミステリとしての謎解きを楽しむため、と振り切って楽しむべき。 |
No.5 | 6点 | 虫暮部 | |
(2023/11/18 12:30登録) 第一部は見事で、これだけで充分だったんじゃないかなぁ。 粗探しをするなら、受話器のコードを切っただけなら素人でも応急処置は出来るんじゃないか、と言うことくらい。受話器、捨てときなよ。 一方、第二部は、眼の付け所は良いが、内容がやや不自然。 “第一発見者が狙われる” とのルールに対して、警察の対処があまりにも速い。第二被害者は第一被害者の親類なわけで、それに由来する共通の動機だと考えるのが自然。第三被害者が出て即座にルールに気付くなんて、犯人が警察関係者で誘導したのかと思った。 第一の事件の三日後に第二、その三日後に第三。真相を踏まえると、このペースも速過ぎ。ほとぼりが冷めるまで待つのがアレのセオリーでしょ。それに、犯人は彼女の仕事のスケジュールをこの短期間で把握したのか? あと、その “動機” なら、彼女に対する殺害予告の方が確実。どのみち一度の失敗で奴が諦める保証は無いから、その場凌ぎにしかなっていない。殺人を辞さないなら、対象は無関係な人じゃなくて元を断たないと。 |
No.4 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/10/03 16:32登録) (ネタバレなし) 2020年。熊本県の沖にある孤島・徒島(あだしま)。そこに「俺」こと大学生の樋藤清嗣(ひとう きよつぐ)は、同年のそして年長の6人の友人たちと離島でバカンスを楽しむ。だが樋藤のひそかな真の目的は、樋藤と縁があった者に数年前にさる加害行為を働いた現在の友人6人全員に復讐し、命を奪うことであった。だが樋藤は復讐開始の前になって、現在の友人たちへの複雑な思いが生じ、殺意を鈍らせる。そんな流れと前後して、閉ざされた島では樋藤の仕業でない謎の密室殺人が発生。それはやがて連続殺人に及ぶが、そこにはある法則性があった。 大設定を聞いて青春ミステリ版『恩讐の彼方に』みたいなのを予期していたが、相応に違った。 前半の展開は良い意味で昭和期、1960~70年代あたりの当時の新世代作家たちがフーダニットパズラー分野のなかで、何か突き抜けた新しいものを書こうとしていた時代の意気込み(作家でいうなら笹沢や佐野の初期作、さらに少し時代が下って森村や大谷あたりの)めいたものを感じさせた。 その思いは、後半のさらに思わぬ方に舵を切る物語全体の構造を実感し、またあらためて加速させられる。 とはいえ後半、フーダニットパズラーとしての興味のひとつを作者みずから放棄しちゃうのはかなりもったいなかったが、一方で、後半のクライマックスで明かされる<殺しの法則性の意味>には、かなり愕然とさせられた。個人的には、このアイデアひとつでもそれなり以上に評価したい。 たしかに長すぎる気はするし、極端な話、前半部だけで再構成しても60~65点クラスのパズラーには十分仕上がったような感触もあるが、あえて高みを目指した作者の気概は本気で称えたい。 次作もまた楽しみにしています。 |
No.3 | 7点 | mozart | |
(2023/09/14 19:23登録) 乱歩賞の前作はちょっと合わなかったのですが、今作はかなり雰囲気が違って所謂本格ミステリー度がパワーアップした感があります。第一部終盤の謎解きについても(犯人同様「急に頭が良くなった彼」に戸惑いましたが)ロジックがしっかりしていて感心しました。 第二部は如子のキャラに既視感がありましたがそれほど気になることはなくて(ウザく感じることもなくて)、なかなか好印象を持てました。読後感はちょっと微妙ですが。 |
No.2 | 7点 | みりん | |
(2023/09/10 15:25登録) 【ネタバレなし】 乱歩賞作家の2作目繋がりでこれを読もうと手に取った。ハードカバーで450ページとなかなかのボリュームです。 前作『此の世の果ての殺人』の魅力的な舞台設定には敵いませんが、本格としては数段パワーアップしている印象を受けました。前作が合わなかった方も本格好きや人情モノが好きなら一読の価値は大いにあると思います。私だけかもしれませんが、第二部を読んで2000年代のあの国内作品を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか(伝わるんかなこれ) とりあえず本ミスで3番には入って欲しいなと期待を込めて8点を付けたいところですが、この分量を支えるにはあと一つ衝撃成分が欲しかったのでこの点数で…申し訳ない。 あと帯の「Z世代のクリスティ」ってのいる?? |
No.1 | 7点 | 文生 | |
(2023/09/02 08:03登録) 孤島で起きた連続殺人の物語を描いたあとでさらに第2部が始まるという凝ったプロットを採用し、本格ミステリとしての充実度ではデビュー作の『此の世の果ての殺人』を遥かに凌駕しています。 特に、死体発見者が必ず次の犠牲者になるという殺人連鎖の謎を第一部及び第二部に提示し、それぞれ別の解答を用意しているのが素晴らしい(加えて第一部におけるダミー推理もなかなかユニーク)。 一方、不満点としては安易な伏線のせいでかなり初期の段階で犯人の予想がついてしまった点が挙げられます。いくらフーダニットが主眼の作品ではないとはいえ、最初から犯人がバレバレでは興が削がれてしまいます。それがなければ8点を付けたかったところなのですが。 とはいえ、小説として読ませる力もあり、全体的には非常によくできた作品であることは確かです。1998年生まれの24歳でこれだけの作品をものにした作者の技量に唸らされます。今後が楽しみな作家です。 |