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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:1195件

プロフィール| 書評

No.1115 4点 死への招待状
西村京太郎
(2023/10/22 21:19登録)
 6作が収録された短編集。いずれも私立探偵が登場しますが、同一の探偵が登場するのは2作(危険な男・危険なヌード)の秋葉京介のみ。
 作者は、人事院を辞めて作家を志す過程で、探偵事務所に勤務していた時期(1963年頃)がございました。収録された各短編の初出が1964年から1976年までらしいので、おそらくは、自身の勤務経験も踏まえて書かれたものと思われます。
 短編集全体として見ると、結末があまりにも予測しやすい短編や、単に筋書きを読まされただけでは…といった短編もあって、積極的な評価はしにくいかなぁ…というのが正直な印象。その中でも、個人的には、作者の探偵事務所経験が新鮮であったであろう、1964年初出の「罠」という短編が、作者の初期作品を辿るという意味で興味深かったかな。


No.1114 6点 天久鷹央の推理カルテⅡ ファントムの病棟
知念実希人
(2023/10/20 22:25登録)
 シリーズの続編で、2つの短編のあとに中編が続く構成。
 2つの短編の「謎」自体は、いずれも疾病や医学の知識がないと解きようがないのですが、反転などの工夫は施されていて、印象は悪くなかったですね。
 中編については、医学の知識の有無は別として、ストーリーの流れや結末を容易に察することができますが、終盤のあるシーンには涙腺が緩みました。ベタと言えばベタ。でもこういう物語って、やっぱり沁みる。


No.1113 6点 W県警の悲劇
葉真中顕
(2023/10/15 21:52登録)
 架空の県警を舞台とした連作短編…なのだけれど、横山秀夫とは全然異なるテイスト。こっちもイイですねぇ。個人的には、「交換日記」のあざとさが好きです。
 ただし、後半になるとこちらも構えがとれてきて、特に「破戒」は序盤からの予想どおりの着地。最終話「消えた少女」の伏線も分かりやす過ぎたかも(別の角度での驚きはあったけどね)。
 総合的には、読み得な連作短編だったなぁ、という感想。


No.1112 6点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/10/13 22:23登録)
 売れているようですねぇ。今年最大の話題作と言ってもいいのかもしれません。こうなったからには(?)読まずにはいられない、ミーハー気質の私であります。
 正直、最大のポイントというか特徴については、途中で気づいてしまいます。タイトルからも…ねぇ。その必要性を追いかける展開になることも、想像がつきます。なので、“驚き”という面では、決して大きいものではなかったです。
 一方で、制約がある中での各種工夫は素直に評価したいと思いますし、その前提として、一定のページ数を書き上げた努力には敬意を表します。記憶に残りそうな作品ではあります。(この種の作品を1年以内に複数読むことになった点も記憶に残りそうです。)


No.1111 8点 女王国の城
有栖川有栖
(2023/10/08 19:04登録)
 世にも珍しい高価な食材などを使わなくても、一つ一つ丁寧に調理することで、多くの人の舌を満足させられる料理に仕上げられる…そんな印象。宗教団体「人類協会」の描き方に作者らしさを感じたりも。
 シリーズものとして楽しめるのもいい。このシリーズは長編5作で完結する予定とのことなのですが、いつになるのだろう。早く読みたいような、もう少し待ってほしいような…。


No.1110 7点 サクリファイス
近藤史恵
(2023/09/24 13:51登録)
 エースとアシストの役割、他チームとの駆け引き…サイクルロードレースの魅力が伝わってきました。ミステリとも巧く融合させていますし、スポーツ・ミステリとして極めて良質だと思います。グイグイ読まされました。
 一方で読後に振り返ってみると、ある人物の動機?には相当な違和感が。また、別のあの方の好み?がどうなっているのか、全く理解できない…等々気になる点があったことも事実。この作品の魅力を全て削ぐものではないけれどね。


No.1109 6点 思い出列車が駆けぬけてゆく
辻真先
(2023/09/18 20:32登録)
 鉄道好きで有名な辻御大の、鉄道ミステリ短編12編。発表順に掲載されており、1983年から2011年までの鉄道ミステリ短編からチョイスしたようです。印象的だった短編は1作目の「お座敷列車殺人号」と最終話「轢かれる」。つまり約30年の開きがあるわけで、その内容やタッチも対照的ということも興味深い。後半になるにつれて、〝人生〟を感じさせる作品が多くなっているような気がします。
 鉄分多めの私としては、旅情とか風景といった面だけではなく、鉄道をとりまく状況だとか「鉄道そのもの」を取り上げようとする作者の姿勢にも好感。作者らしい技巧とともに、感慨深く読ませていただきました。


No.1108 5点 フォトミステリー ―PHOTO・MYSTERY―
道尾秀介
(2023/09/16 20:22登録)
 写真と(超)ショートショートを組み合わせた作品を50編収録。「いけない」シリーズの発想を突き詰めるとこうなるのか?何となく某テレビ番組の「写真で一言」的なものかと思っていたのですが、ちょっと(かなり?)違っていて、瞬間的な面白みというよりも、一瞬考える“間”を楽しめるかどうか。
 作者のチャレンジ精神は買うのですが、「こういった解釈(楽しみ方)でいいんだよね?」と不安?になったり、ちょっと意図が掴み切れなかった作品も正直ございました。


No.1107 7点 南神威島
西村京太郎
(2023/09/14 22:59登録)
 作者が「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を受賞したのが昭和40年。しかし、活字となった作品を読み返して「自分の下手さ加減に呆れ、もう一度、勉強し直そうと考えた」そうです。その結果、当時長谷川伸氏が主宰していた新鷹会に加わり、その機関誌で発表した作品から選出した短編を収録したのが本書。そもそもは昭和45年に私費出版で刊行されました。「気取っていえば、推理小説もまた文学でなければならない」、「真のサスペンスは、現実の事件の表面を撫ぜることでは生まれない」。こう言い切る作者の熱意には、今更ながら素直に拍手を送りたいと思います。人間の内面に切り込む作品が揃っています。
①南神威島:人口400名に満たない離島に赴任した医師が遭遇した出来事。伝奇性と合理性。
②幻想の夏:ミステリ的な点は本短編集で最も高いか。愛と裏切り。
③手を拍く猿:北海道から東京に集団就職した青年の自殺。都会の孤独と故郷への想い。
④カードの城:動機は何であったか。挫折とプライド。
⑤刑事:捜査に執着する刑事の内面を描く。刑事の職務と刑事たる個人。


No.1106 7点 すべてはエマのために
月原渉
(2023/09/04 23:09登録)
 ツユリシズカシリーズ第6弾。タイトル(「九龍城の殺人」はシズカシリーズじゃないのね…)はもとより、第一次世界大戦中のルーマニアが舞台ということもあって、これまでのシリーズ作品とはちょっとテイストが異なるのかな?と思っていましたが、作者の変わらぬ本格愛を感じる作品でありました。
 決して斬新な大技が炸裂するものではないですが、複数のピースを巧みに組み合わせ、かつ、歴史的背景を絡めた展開には好感。切り上げてこの採点。
 このシリーズ、続けてほしいなぁ。


No.1105 7点 レモンと殺人鬼
くわがきあゆ
(2023/08/31 21:05登録)
 転がしまくりますねぇ。単なる反転ではなくソコに「歪み」を噛ませていることがポイントで、特に主人公のとあるシーンは記憶に残りそう。不安定さの中の安定さ(意味不明?)とでも言いましょうか、先が気になってグイグイ読まされました。切り上げてこの採点。売れているのも頷けます。
 一方で、最終盤の展開は、やや力技が過ぎるような気がしないでもありません。それと、173ページの、ある人物表記は明らかなミスですよねぇ。


No.1104 5点 怖ろしい夜
西村京太郎
(2023/08/27 17:36登録)
 タイトルに「夜」が含まれる6作品を収録した短編集。各短編の初出は1960年代から1970年代まで。トラベルミステリ偏重前の西村短編に以前から興味があり、手にした次第です。
 特筆すべき「何か」があるものではないのですが、スッと興味を引き付ける出だしの巧さは流石です。
 「見せ方は違うけど、確実に同じ発想の下で書いたよねぇ」と感じた2作品の初出を比べると1ヵ月しか違わなかったとか、色々と興味深かったです。


No.1103 5点 化石少女と七つの冒険
麻耶雄嵩
(2023/08/24 19:15登録)
 化石少女の続編。順番どおりに読んだ方がいいですね。
 前作同様、舞台は京都北部の名門私立高校・ペルム学園。学園内でこれだけ殺人事件が頻発すれば、マスコミとしては化石少女どころの話じゃないだろう、などと考えちゃいけないことが気になって仕方がなかったワタクシ。ダメな読者でしょうか。
 で、内容としては、麻耶雄嵩らしいとも言えるし、らしくないとも言えそう。最終的には作者の初期長編「あいにくの雨で」を思い起こしました。当該作品を読んだ時にも、同様の感想をもったものですから。パターンは両作品で異なるのですがね。


No.1102 5点 空想の海
深緑野分
(2023/08/19 23:37登録)
 デビュー10周年記念作品集ということで、児童文学や幻想ホラーも含め、バラエティ豊かな短編が収録されています。
 前半は非ミステリが続くこともあって、「ちょっと求めていたのと違う…」といった感想。きっと良作なのだろうと認識しつつも、私の感性が追いついていけなかった感じ。
 とは言え、最も印象に残った短編も非ミステリである最終話「緑の子どもたち」。児童文学という位置づけなのだろうと思いますが、結構沁みたなぁ。「本泥棒を呪う者は」も良かったのだけれど、これは多分、別長編「この本を盗む者は」を読んでいれば、もっと楽しめたのかな。「御倉館に収蔵された12のマイクロノベル」も同様(なのだと思う)。


No.1101 6点 濱地健三郎の幽たる事件簿
有栖川有栖
(2023/08/15 20:29登録)
 シリーズ2作目。純然たるホラーあり、ホラーだけどコミカル・タッチもありの短編集です。個人的ベストは、弟の依頼で姉の失踪の謎を解く「姉は何処に」でしょうか。ミステリの味付けが最も濃く、ホラーとしても成り立たせています。
 江神二郎も火村英生も好きですが、濱地健三郎もイケています。助手の志摩ユリエの効果も大きいかもですが。


No.1100 6点 寝台特急(ブルートレイン)殺人事件
西村京太郎
(2023/08/12 20:56登録)
 所謂トラベルミステリーの第一作と言われる作品。それまで多彩な作品を発表しつつもベストセラーには恵まれなかった作者の名を、全国に広く浸透させた作品と言えましょう。その後の作者のトラベル偏重路線に関しては、様々なご意見はありましょうが、本作が作者にとって大きな意味を持つ作品であることは間違いないと思います。
 あらためて読んでみたのですが、出だしからの興味深い謎の提示、そこから引っ張っていく力は流石だなと思います。後半のサスペンス要素も作者らしい。勿論、突っ込みたくなる点も種々あるのだけれど、それもまたお楽しみポイント、ということで。


No.1099 6点 君のクイズ
小川哲
(2023/08/08 21:03登録)
 生放送の対戦型早押しクイズ番組。その決勝戦で、一文字も問題文が読まれていないのに正答し、優勝を果たすという事象が起きた。何故そのようなことが可能だったのか?
 シンプルかつ魅力的な謎で、一気に読まされました。真相自体は、想定の範囲を超えてこないというか、やっぱりそういったことだよねぇ、という感じ。でも、何やら深いトコロを突いているような気もします。どうでもいいことだけれど、個人的には恋人の桐島さんとの件をもう少し深掘りしてほしかったかな、という願望も。


No.1098 5点 T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか
詠坂雄二
(2023/08/06 13:14登録)
 孤島で撮影された映像を基に事件を再構成した部分(奇数章)については、敢えて淡々と書かれているのだろうと思いながら、個人的にはそう退屈することもなくある種の期待感をもって読み進めることができました。しかし読後感としてはう、うーむ…。
 真相らしきものは、まぁ置いておくとして、相変わらず捻くれているんだよなぁ。作者らしいと言えばそうかもしれないけれど、その捻りは真に読者の満足感につながっているのだろうか。少なくとも私は消化不良だったかな。狙いは分かるのですが…。関連作を読んだのが随分前で月島凪探偵の記憶がない私が悪いだけ、もしくは私の読み方が浅すぎるだけかもしれませんが。


No.1097 5点 九度目の十八歳を迎えた君と
浅倉秋成
(2023/08/03 21:07登録)
 私が年をとって、頭も固くなったからなのだと思うのですが、同年齢を繰り返すことは「あり得ること」と周りが違和感を持たないという設定に最後まで馴染めず、ちょっと入り込めなかったですね。それと、青臭さが何とも…。「だから?」みたないな感じも…。色々とストンと胸に落ちてこない部分があるのです。
 すみません、私が年をとってしまったのです。頭の柔軟性もなくなってしまったのです。そのせいです。ちなみに、教頭先生は素敵でした。ロックスター真鍋もいい。


No.1096 6点 the TEAM
井上夢人
(2023/07/30 23:48登録)
 連作短編。各短編自体、興味深く読ませていただきました。ゴシップ週刊誌記者との駆け引きなど、なかなかに痛快。四人のチームプレーにも好感。連作全体としては、「人を救うとは何ぞや」みたいなことを考えちゃったりして。
 楽しく読んだのだけれど、ミステリとしては…という点を勘案してこの採点。

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