まさむねさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:5.87点 | 書評数:1230件 |
No.870 | 6点 | 恋するおしい刑事 藤崎翔 |
(2019/12/09 19:09登録) 冴えた推理を披露しながら、いつも「惜しい」ところで手柄をモノにできない「押井刑事」を主人公に据えた短編集の第二弾。 今回は、美人の後輩女性刑事が配属され、押井刑事が新人教育係に任命される、そしてタイトルどおりに…という設定。正直、そこはかとない安っぽさを感じつつ読み始めたのですが、設定はともかくとして、各短編の内容自体は本格指向。捨て推理を噛ませたりもして、一定の水準は保たれており、最終的な印象は悪くなかったですね(とはいえ、驚きのトリックがあるものではないですが…)。タイトルや表紙で損をしているような気もします。 |
No.869 | 6点 | 9の扉 リレー短編集 アンソロジー(出版社編) |
(2019/12/08 23:14登録) 9人の作家によるリレー短編集。次の作家を指名して「お題」を手渡すという形式です。「お題」といっても、「猫」とか「一千万円」とか、ワード単位での指定ですので、手渡された作家さんの裁量の幅は広いと言えましょう。設定を引き継ぐ必要もないのですが、敢えて従前の設定を活用したり、発展させたりする作者さんもいて、その辺りはニヤリとさせられました。 北村薫・法月綸太郎・殊能将之・鳥飼否宇・麻耶雄嵩・竹本健治・貫井徳郎・歌野晶午・辻村深月と、そうそうたる作家さんが繋げています。ミステリーの味付け度合いは人それぞれで、全体としては相当に薄口なのですが、まぁ、各作家さんの特長を楽しもうということで、それはそれで楽しかったですよ。ちなみに、マイベストは、捻りが「らしかった」歌野センセイの作品かな。 |
No.868 | 6点 | ゆるキャラの恐怖 奥泉光 |
(2019/12/05 23:19登録) クワコーシリーズ第三弾。 「文壇のマエストロの脱力系ミステリー」と紹介されていますが、確かにそのとおり。千葉の奥の「たらちね国際大学」における、クワコーこと桑潟幸一准教授の生活、そして彼の内心の表現などは、流石は芥川賞作家であり、もはや純文学と呼ばざるを得ません(嘘)。彼を囲む、文芸部のメンバーも素晴らしい。特に大学唯一の男子学生であるモンジ。彼の教育勅語論などは、笑わせてもらいつつ、ちょっと考えさせられます。「みうらじゅん」とか「ベネッセ」とかも実名で利用しちゃったりして、奥泉センセのノビノビ書かれていている感じも何かイイな。 ちなみに、ミステリー色は相当に弱めです。その点は期待せずに、肩の力を抜いて楽しみましょう。 |
No.867 | 6点 | 神とさざなみの密室 市川憂人 |
(2019/11/30 23:59登録) 「マリア・ソールズベリー&九条漣」シリーズ以外では、初の作品となりますね。同シリーズとは雰囲気がガラッと変わって、政治色が強い内容。このチョイスは結構意外でした。 政治的な話題に興味がない方にとっては、内容的にちょっと辛いかも。前半で投げ出す可能性もありそう。中盤から終盤に盛り返してはくれますが、犯人の動機を含めた最終的な違和感は否定できないかな。 |
No.866 | 5点 | 法月綸太郎の消息 法月綸太郎 |
(2019/11/26 22:23登録) 2017年以降に書かれた「法月綸太郎シリーズ」の中短編をまとめた作品集で、同シリーズ開始30周年(「雪密室」の刊行から30年)を記念する一冊とのことです。 正直、本格短編と言えるのは「あべこべの遺書」と「殺さぬ先の自首」の2作。前者はアンソロジー「7人の名探偵」で既読であり、初読時には穴はあるけどなかなか面白いと思ったのですが、二度読みであったからなのか、加筆修正されたといえ、むしろ犯人(側)の行動の不自然さに今さらながら引っかかった次第。「殺さぬ先の自首」も確かに面白いけれども、「~冒険」「~新冒険」「~功績」に収録されている好短編と比べると…といった印象。 他の2作品「白面のたてがみ」と「カーテンコール」については、法月綸太郎シリーズの場を借りた研究発表(推論展開?)といった趣向が強く、おそらく好きな方は堪えられない面白さがあるのでしょうが、個人的に求める「法月綸太郎シリーズ」ではなかったなぁ…と。 まとめると、このシリーズの短編は個人的に大好きなだけに、ちょっとハードルを上げ過ぎて読んでしまった感があったのかなぁ…と反省。 |
No.865 | 6点 | 使用人探偵シズカ 横濱異人館殺人事件 月原渉 |
(2019/11/23 21:57登録) 時代は明治。横浜の外国人居留地に建つ異人館に集まった6人の男女。嵐の中、何者かによって外界との唯一の繋がりである吊り橋が落とされる…。嗚呼、いいね。そして、中盤に至って使用人探偵ツユリシズカが発する「なるほど、見立て殺人でございましたか」との台詞。いやぁ、グッときますね(俺だけか?)。 ちなみに、犯人自体は、「まさか!」って驚くくらいに明白でしたねぇ。ちょっと判りやす過ぎるかな。とは言え、最後の反転も嫌いではないし、実直にド本格に攻める姿勢は買います。 |
No.864 | 5点 | 伊勢佐木町探偵ブルース 東川篤哉 |
(2019/11/16 18:45登録) 新シリーズ。主人公に男性を据えるのは久しぶりのような気がしますね。 横浜・伊勢佐木町の私立探偵「桂木圭一」は、助手、というより舎弟の「黛真琴」とともに、日々活躍中。ある日母親が再婚したとのことで訪ねると、相手(つまりは義父)は神奈川県警本部長、かつ、自宅は大豪邸。その息子(つまりは義弟)は伊勢佐木署の刑事だった。義兄弟は次第に信頼関係を…という設定の短編集。 ミステリー要素も、ギャグ要素も、いつもより相当に低い印象です。ハードボイルドっぽくはあるのですが、何となく中途半端な印象を受けましたね。「平塚おんな探偵の事件簿シリーズ」をほんの少しだけ引用していたけれど、今後何か展開しようとしているのかな、気のせいかな。 個人的な結論としては「やっぱり烏賊川市シリーズを読みたい」ということになりますね。 |
No.863 | 8点 | 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 倉阪鬼一郎 |
(2019/11/11 21:55登録) 2010年「世界バカミス☆アワード」を受賞した、バカミス界の名作。ネタの一つ(二つ?)は、国内に超有名作な前例があるため、独創性という意味では一段落ちますが、ここまでやったらバカ過ぎて、尊敬の念を抱かざるを得ません。様々な評価もよく分かるのですが、個人的には、終盤の脱力感と作者に対するある種の畏敬、これらが混在した感覚は嫌いではありません。否、こういう作品って、実は大好きなんです。ごめんなさい(誰に謝っているのだろうか)。素晴らしいバカミスと評価いたします。 |
No.862 | 6点 | 奇譚を売る店 芦辺拓 |
(2019/11/10 22:22登録) 奇妙な読み味の連作短編集。全短編が「また買ってしまった」で始まるのも印象的です。確かに、古書や古書店そのものが幻想的な空気感を持っていますし、その辺りを巧く活かした作品集と言えましょう。雰囲気もあって好きなのですが、最終話だけは、ちょっと蛇足感が残ったかな。 |
No.861 | 7点 | ネタバレ厳禁症候群~So signs can’t be missed!~ 柾木政宗 |
(2019/11/10 22:11登録) アイ&ユウシリーズの続編。個人的に、「NO推理、NO探偵?」で痛い目に遭っているのに、思わず続編を手にしてしまったワタクシは歪んでいるのでしょうか?何かに疲れているのでしょうか?でも、興味ってそんなもんですよねぇ。 で、結果としては、色々な意味で読んだ意味はありました。メタメタにメタった上での、前代未聞の着地点。やりたい放題とも言えるのですが、確かに、見たことのない展開ではありました。敢えて詳しくは書かないけれども、いやはや、やってくれちゃってます。何なんだこれは、そしてこれってアリなのか?等々考えさせられます。 ちなみに、決して広くお薦めしたい訳ではございませんし、読んでどう思われようと、責任は持ちかねますので、ご了承ください。 |
No.860 | 5点 | 賢者の贈り物 石持浅海 |
(2019/11/04 19:06登録) Whyに特化した日常の謎系の短編10本で構成されています。作者らしく、複数の人物による会話又は個人の自問自答の中で思考が深められていくのですが、まぁ、しつこく感じてしまう短編もありましたねぇ。「それ、さっき考えたよね」みたいな。また、どの短編も昔話や童話をモチーフにしており、なるほど巧く紐づけている短編も無くはないけれども、全般的にはこじつけ気味か。 それよりも、個人的に最も気になったのが全短編に登場する長い黒髪の美人、磯風さん。各短編が独立しているし、磯風さんが同一人物とも書いていない、つまりは各短編に登場する彼女は別人と捉えることも可能だけれども、仮に同一人物だとして…と想像するのも一興かな。 女子たちとの自宅での鍋パーティー解散後に、女性モノの靴が一足残っていた。誰も申し出てこないけれど、なぜ?(ガラスの靴)や、彼女が自分の素性を明かそうとしないのはなぜ?(泡となって消える前に)あたりが、悪くなかったかな。単にハッピーエンドに弱いだけなのかもしれないけれど。 |
No.859 | 7点 | 死体を買う男 歌野晶午 |
(2019/10/31 22:22登録) 作中作を効果的に使った作品で、私はすこぶる楽しく読むことができました。 まずは、作中作の乱歩調の筆致がイイ。江戸川乱歩と萩原朔太郎の探偵譚も面白い。そして、それを活かした多層的な工夫が何とも心憎い。確かに、個々のトリックや仕掛けは地味というか、ありがちな部分もありますが、その組み合わせ方、読者への見せ方については、さすが歌野センセイ!と感じましたね。 |
No.858 | 7点 | 消人屋敷の殺人 深木章子 |
(2019/10/31 22:19登録) 読中、明確な違和感を抱いたものの、リーダビリティの高さから、とにかく先が知りたくなり、ソコを追究することなく読み進めてしまいました。結果、作者の狙いどおりに嵌った訳で、何と素直でいい読者なのだろうと自画自賛(?)しつつ、やはり悔しさが残ります。でも、読み返してみると、非常に巧妙な書きっぷりで、仮にその時点で立ち止まって追究したとしても、結局のところは気付けなかったような気もします。過去の「消人」の真相自体はかなり肩透かし気味でしたが、全体構成としては好きなタイプですね。 |
No.857 | 7点 | 殺人犯 対 殺人鬼 早坂吝 |
(2019/10/25 22:00登録) 既存トリックの組み合わせではあるものの、種類が豊富だし、組み合わせ方も巧みです。この分量の中によくも詰め込んだものだと感心。(読みやすい反面、表現的にはあっさりし過ぎていないかとの印象も無くはないけれど。)どんどん読まされつつ、楽しめました。 ちなみに、とある面に関しては、「『屍人荘の殺人』での読者への親切心のパクリかな?まぁ、読みやすくなるから個人的には助かるけどね」といった緩い感想だったのですが、最終的にはニヤリとさせられましたね。らいちシリーズから感じていたのですが、なかなかに芸達者な作家さんです。 |
No.856 | 6点 | ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで 真梨幸子 |
(2019/10/23 21:00登録) 百貨店の外商部(時に地下食品売り場)を舞台にした連作短編集。著者初の「笑えるイヤミス」と紹介されているのですが、確かに、これまでの作品のような「ドロドロ感」は薄まっています。とは言え、最終的にはやっぱり真梨幸子だったなぁ。 サクサク読み進めつつ、頭の中では裏の裏を想定。それでも斜め上から持ってこられる…という楽しさがありましたね。 |
No.855 | 6点 | 季節はうつる、メリーゴーランドのように 岡崎琢磨 |
(2019/10/22 22:30登録) 文庫版背表紙のあらすじから引用します。「ウィットに富んだ日常の謎から、誰もが目を瞠る驚きのラストへ。切なさ最大級の青春片愛ミステリ」。誰もが目を瞠るのか、そして最大級の切なさなのかは別として、内容としては概ねそんな感じですね。 評価は微妙で、個人的にも、相反する気持ちが入り混じっています。全体として「巧く纏めている」と思う一方で、「結局何を読まされたのやら」との感情も否定できません。夏樹と冬子の心情に関しても、とある一点では絶妙なリアリティを感じるのだけれども、「そこまでして2回も拒絶しないよね」という超絶な違和感も抱きます。最終的には「どっちもどっちだよね」と思いつつ、「どちらかと言えば(敢えてここでは特定はしないけど)Aさんが悪いよね」との思いも残ります。 まぁ、中途半端な書評で申し訳ないのですが、色々な意味で記憶には残りそうです。 |
No.854 | 6点 | カナダ金貨の謎 有栖川有栖 |
(2019/10/14 23:32登録) 火村シリーズの中短編集。個人的に、このシリーズは安心して読めるので好きです。 ①「船長が死んだ夜」 新本格30周年記念アンソロジー「7人の名探偵」収録作で、ワタクシとしては既読だったのですが、アレの使い方については結構分り易かったかな。 ②「エア・キャット」 コンパクトな短編。猫好き火村を活かした面白さがあります。 ③「カナダ金貨の謎」 国名シリーズ初の倒叙モノ。そういった点での新味はありますが、平均レベルかな。 ④「あるトリックの蹉跌」 これもコンパクトな短編で、火村とアリスの出会いの一コマ。 ⑤「トロッコの行方」 トロッコ問題を絡めたことのメリットは認めつつも、何となく中途半端感が残ったのは私だけでしょうか? |
No.853 | 5点 | 京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道 円居挽 |
(2019/10/10 22:53登録) 「クローバー・リーフをもう一杯」の続編。ちなみに、「クローバー・リーフをもう一杯」は、文庫化の際に「京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ」に改題されているのですが…すごく紛らわしい。間違って既読の前作の文庫版を買っちゃうところでした。 内容としては、京都を舞台にした、大学生たちの物語。ミステリーとしては相当に軽めで、ちょっと肩透かし気味だったかな。前作を読んだのが約5年前なので、はっきりと記憶しているわけではないのですが、何か全体のイメージか変わっているような気もしましたね。脇を固める登場人物たちの活躍が増した分、謎解きバー「三号館」の存在意義がフワッとしたからかな。 ちなみに、恋愛要素については、個人的にはむず痒さだけが印象に残った感じ。どうでもいいことだけれど、主人公には青河さんよりも灰原さんの方がお似合いのような気がしたのですがね。 |
No.852 | 6点 | 罪の声 塩田武士 |
(2019/10/06 16:48登録) ワタクシとしては、年代的(?)にグリコ・森永事件の記憶がいまだに鮮明です。キツネ目の男の似顔絵や犯人からの挑戦状は勿論のこと、男児の音声による「指示」も、一定年齢以上の国民の記憶に残る部分でしょう。その音声が、自宅で見つけたカセットテープに録音されていたとしたら。そして、その声が幼い頃の自分の声だったとしたら…。 この導入部には魅かれますね。本作では「ギン萬事件」と表現しているものの、発生日時や場所、脅迫の内容等が史実どおりであるため、フィクションとノンフィクションの狭間の感覚は楽しかったですね。一方で、導入部での引き込みからすれば、中盤での多少の冗長感は否めず、終盤に再度盛り返してきたという印象もあるかな。 いずれにしても、本家の事件とともに、バブル前の三十数年前に想いを馳せる、いい機会になりましたね。 |
No.851 | 6点 | 光と影の誘惑 貫井徳郎 |
(2019/09/28 22:22登録) 4篇から成る、ノンシリーズの短編集。 1 長く孤独な誘拐 子供を誘拐された両親に対する犯人の要求は、身代金ではなく、犯人が指定する別の子供を誘拐すること。設定の妙が光るのですが、ラストは何とも切ない。 2 二十四羽の目撃者 サンフランシスコを舞台にしたハードボイルド調の作品。実験的な面もあったのでしょうか、作者としては非常に珍しいタイプ。トリック自体は、王道とも言えるけれども、拍子抜け感の方が強かったかな。 3 光と影の誘惑 してやられました。なるほど、巧く構成されています。 4 我が母の教えたまいし歌 この真相には、相当前の段階で多くの読者が気付くのではないでしょうか。 伏線が判りやす過ぎたかも。 |