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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:1195件

プロフィール| 書評

No.855 6点 季節はうつる、メリーゴーランドのように
岡崎琢磨
(2019/10/22 22:30登録)
 文庫版背表紙のあらすじから引用します。「ウィットに富んだ日常の謎から、誰もが目を瞠る驚きのラストへ。切なさ最大級の青春片愛ミステリ」。誰もが目を瞠るのか、そして最大級の切なさなのかは別として、内容としては概ねそんな感じですね。
 評価は微妙で、個人的にも、相反する気持ちが入り混じっています。全体として「巧く纏めている」と思う一方で、「結局何を読まされたのやら」との感情も否定できません。夏樹と冬子の心情に関しても、とある一点では絶妙なリアリティを感じるのだけれども、「そこまでして2回も拒絶しないよね」という超絶な違和感も抱きます。最終的には「どっちもどっちだよね」と思いつつ、「どちらかと言えば(敢えてここでは特定はしないけど)Aさんが悪いよね」との思いも残ります。
 まぁ、中途半端な書評で申し訳ないのですが、色々な意味で記憶には残りそうです。


No.854 6点 カナダ金貨の謎
有栖川有栖
(2019/10/14 23:32登録)
 火村シリーズの中短編集。個人的に、このシリーズは安心して読めるので好きです。
①「船長が死んだ夜」
 新本格30周年記念アンソロジー「7人の名探偵」収録作で、ワタクシとしては既読だったのですが、アレの使い方については結構分り易かったかな。
②「エア・キャット」
 コンパクトな短編。猫好き火村を活かした面白さがあります。
③「カナダ金貨の謎」
 国名シリーズ初の倒叙モノ。そういった点での新味はありますが、平均レベルかな。
④「あるトリックの蹉跌」
 これもコンパクトな短編で、火村とアリスの出会いの一コマ。
⑤「トロッコの行方」
 トロッコ問題を絡めたことのメリットは認めつつも、何となく中途半端感が残ったのは私だけでしょうか?


No.853 5点 京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道
円居挽
(2019/10/10 22:53登録)
 「クローバー・リーフをもう一杯」の続編。ちなみに、「クローバー・リーフをもう一杯」は、文庫化の際に「京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ」に改題されているのですが…すごく紛らわしい。間違って既読の前作の文庫版を買っちゃうところでした。
 内容としては、京都を舞台にした、大学生たちの物語。ミステリーとしては相当に軽めで、ちょっと肩透かし気味だったかな。前作を読んだのが約5年前なので、はっきりと記憶しているわけではないのですが、何か全体のイメージか変わっているような気もしましたね。脇を固める登場人物たちの活躍が増した分、謎解きバー「三号館」の存在意義がフワッとしたからかな。
 ちなみに、恋愛要素については、個人的にはむず痒さだけが印象に残った感じ。どうでもいいことだけれど、主人公には青河さんよりも灰原さんの方がお似合いのような気がしたのですがね。


No.852 6点 罪の声
塩田武士
(2019/10/06 16:48登録)
 ワタクシとしては、年代的(?)にグリコ・森永事件の記憶がいまだに鮮明です。キツネ目の男の似顔絵や犯人からの挑戦状は勿論のこと、男児の音声による「指示」も、一定年齢以上の国民の記憶に残る部分でしょう。その音声が、自宅で見つけたカセットテープに録音されていたとしたら。そして、その声が幼い頃の自分の声だったとしたら…。
 この導入部には魅かれますね。本作では「ギン萬事件」と表現しているものの、発生日時や場所、脅迫の内容等が史実どおりであるため、フィクションとノンフィクションの狭間の感覚は楽しかったですね。一方で、導入部での引き込みからすれば、中盤での多少の冗長感は否めず、終盤に再度盛り返してきたという印象もあるかな。
 いずれにしても、本家の事件とともに、バブル前の三十数年前に想いを馳せる、いい機会になりましたね。


No.851 6点 光と影の誘惑
貫井徳郎
(2019/09/28 22:22登録)
 4篇から成る、ノンシリーズの短編集。
1 長く孤独な誘拐
 子供を誘拐された両親に対する犯人の要求は、身代金ではなく、犯人が指定する別の子供を誘拐すること。設定の妙が光るのですが、ラストは何とも切ない。
2 二十四羽の目撃者
 サンフランシスコを舞台にしたハードボイルド調の作品。実験的な面もあったのでしょうか、作者としては非常に珍しいタイプ。トリック自体は、王道とも言えるけれども、拍子抜け感の方が強かったかな。
3 光と影の誘惑
 してやられました。なるほど、巧く構成されています。
4 我が母の教えたまいし歌
 この真相には、相当前の段階で多くの読者が気付くのではないでしょうか。 伏線が判りやす過ぎたかも。


No.850 5点 シーソーモンスター
伊坂幸太郎
(2019/09/21 11:50登録)
 中央公論新社130周年を記念した小説誌「小説BOC」の発刊にあたって企画された「螺旋プロジェクト」の一作。これは、8人の作家が原始時代から未来までの日本を舞台とした物語を描くという競作企画で、伊坂サンは「昭和バブル期」と「近未来」の2作を担当したようですね。この2作をまとめたのが本書で、つまりは中編2本(シーソーモンスター+スピンモンスター)により構成されています。各中編には一定の繋がりがあるので、連作中編集といったところでしょうか。
 作者らしい軽快でスリリングな展開は楽しめたのですが、表題作の転換は想定内であったし、スピンモンスターもモヤモヤした読後感というか、ちょっと食い足りない印象も受けましたね。


No.849 5点 死者の輪舞
泡坂妻夫
(2019/09/15 15:32登録)
 容疑者が次々に殺害されていく一連の殺人リレーの部分は、軽快なテンポに乗って、期待感を持って読み進めることができました。一方で、終盤の捻りとしては想定の範囲内といったところで、他の泡坂長編と比較すると数段落ちる印象は否めません。勿論、楽しく読ませてもらったのですが。


No.848 5点 今だけのあの子
芦沢央
(2019/09/07 11:22登録)
 「女の友情」を共通のテーマとした短編集、と言ってよさそうですね。「女の…」という点もポイントで、典型的なイヤミス設定からの展開具合が読みどころ。個々の短編としては巧さが見えましたが、全短編の基本線が同じであることによるデメリットも感じたかな。
 ちなみに、「いやいや、自分だったらそんなことはしない(そんなことは悩まない)」って思ったことに対し、自分自身で一抹の哀しさを感じたりして。単にあなたが男性で、かつ中年になったからだろう、と指摘されると、確かにその通りなので。


No.847 6点 ダブル・ジョーカー
柳広司
(2019/08/31 23:01登録)
 読者としてはどうしても、どこでD機関が絡むのかという視点で読んでしまうという面はあるのですが、それでも読み進めさせるリーダビリティーの高さは流石だと思います。


No.846 6点 双孔堂の殺人~Double Torus~
周木律
(2019/08/25 21:46登録)
 「堂」シリーズの第二弾。スケール感は前作に及ばず、密室の真相には拍子抜け感も残ります。とはいえ、全体としてはシリーズの「肝」を押さえつつ、最終盤の捻りも含めて巧く纏めていらっしゃるなぁ…という印象。ポイント自体はシンプルで、それが判明した時点でスルスルと解けていくようなスタイルって、個人的には好きなんですよね。
 でも、数学的な記述は、私には難しすぎるというか、ちょっと苦しい。いや、作品として記す意義は分るのだけれども、ソッチ系の部分をかなり軽めに読み飛ばした同志(?)も多いような気がするなぁ。


No.845 6点 占い師はお昼寝中
倉知淳
(2019/08/19 22:48登録)
 霊感はないけど推理は鋭いぐうたら占い師と、その姪っ子のコンビによる短編集。
 安楽椅子探偵モノに分類されるのでしょうが、占い師が推理した内容が真実なのかは最終的に不明であること、さらには、占い師として推理(推測)した事実をそのまま顧客に提示するものではない(敢えて全てを提示しない)ことに、作者らしさを感じますね。特に後者は、真相(と思われること)自体の驚きは決して多くない中で、占い師がなぜ顧客にそのような回答をしたのかという点を含めて、この短編集の面白味を形作っているような気がします。マイベストは、収束具合にほっこりとした「ゆきだるまロンド」でしょうか。


No.844 6点 空想オルガン
初野晴
(2019/08/13 20:51登録)
 ハルチカシリーズの第三弾。今回は、清水南高校吹奏楽部が東海地区大会出場まで果たした夏の物語。本作の時点で主人公は高校2年生という設定なので、今後の成長も楽しみです。
 で、内容としては、切なさの中に連作短編最終話としての切れ味を感じた表題作「空想オルガン」が印象的なのですが、個人的には「ヴァナキュラー・モダニズム」の大技(?)も捨てがたいですね。へー、初野さんって、こういったタイプの作品も書かれるのですね…という軽い驚きがありました。


No.843 5点 向田理髪店
奥田英朗
(2019/08/06 23:51登録)
 「過疎の町のさまざまな騒動と人間模様を、温かくユーモラスに描く連作集」という解説通りの連作短編集。舞台は、北海道の架空の自治体「苫沢町」なのですが、このモチーフは誰が考えても夕張市でしょうねぇ。夕張を訪れたことのある身としては、想像しやすい舞台設定でスッと入り込めましたね。
 全般において、スラスラと、しかも一定考えさせつつ読ませる巧さがあります。すごいスーパーマンもいないけれど、すごく悪い奴もいない、これって、落ち着いた心持ちで読み進められますよね。だからこそ、と言っていいものか分かりませんが、反転度合は相当に少ないかな。これらを総合的にどう捉えるかで評価も変わってくるのだと思います。個人的には楽しめたのですが、どう贔屓目に見てもミステリー作品とは言い難いので、この採点とします。


No.842 5点 展望塔の殺人
島田荘司
(2019/07/31 22:30登録)
 いかにも島荘!といった短編集。その印象が最も強く残ったのが「発狂する重役」で、これは様々な意味で凄い。いやいやあり得ないだろう…とか考えてはダメなのでしょう。この短編集に根強いファンがいることも分かる気がします。


No.841 5点 本と鍵の季節
米澤穂信
(2019/07/28 21:00登録)
 男子高校生のコンビでしたが、「古典部シリーズ」や「小市民シリーズ」から連なる雰囲気を感じることができましたね。コンビといっても、ホームズ&ワトソンという位置づけにしていない辺りもイイと思います。でも、ミステリーとしての驚きは少なかったかも。ちょっと無理やり感も抱いたりして。


No.840 6点 乱鴉の島
有栖川有栖
(2019/07/17 22:10登録)
 火村シリーズ初の「孤島モノ」です。とはいえ、孤島であるべき必然性は認めつつも、個人的には「うーん、思っていたのと違うかも」と感じちゃったりして。
 導入部も謎の提示もなかなかに魅力的なのです。作者らしいロジックも楽しめたのです。一方で、ヒトコトで言えば「地味」ということになるのでしょうか、どうにも普通な印象でしたね。いや、決して悪くないし、火村とアリスのやり取りも含めて、楽しく読ませてもらったのですが。


No.839 6点 初恋ソムリエ
初野晴
(2019/07/14 22:52登録)
 ハルチカシリーズの第二弾ですね。第一弾「退出ゲーム」を読んだのが相当に前だったのでどうなのかなぁ…と思っていたのですが、ブランク(?)を感じることなくスイスイと読むことができました。
 ちなみに、「退出ゲーム」と比べるとミステリとしては薄味になっていますし、現実味としても積極的な評価はしにくいような気がします(「退出ゲーム」の各短編のレベルが高かったという見方もあり得るのでしょうが)。一方で、吹奏楽部の面々の魅力も含めて、シリーズ全体としての雰囲気としての印象の良さは、個人的に継続していますね。


No.838 6点 失はれる物語
乙一
(2019/07/07 00:23登録)
 「Calling You」、「失はれる物語」、「傷」、「手を握る泥棒の物語」、「しあわせは小猫のかたち」の5作品は既読だったのですが、内容をよく覚えていなかったため、2度目でも十分に楽しめました。作者には申し訳ないですが、何てお得な読者なのだろうかと、自分勝手に満足しました(笑)。
 さて、書き下ろしの「マリアの指」。分量的にもこの短編集中で1番だし、ミステリ的な面も強そうなので楽しみにしていたのですが…。うーん、作者らしいし、決して悪くはないのだけれども、結末にスッキリしない感情も残ったかな。
 全体としては、作者の良さを知ることができる短編集と言えると思います。個人的には「手を握る泥棒の物語」が好き。真逆の世界観「失はれる物語」も響きますが、読む時点の精神状態に評価は大きく左右される気がしますね。


No.837 6点 金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲
アンソロジー(出版社編)
(2019/07/01 22:16登録)
 タイトルどおり金田一耕助への愛(むしろ横溝正史先生への愛かも)に溢れたアンソロジー。筆者は、五十音順で赤川次郎、有栖川有栖、小川勝己、北森鴻、京極夏彦、栗本薫、柴田よしき、菅浩江、服部まゆみの9名です。
 バラエティには富んでいますが、出来栄えは作品によってマチマチといった印象。正直、ちょっと評価し難い短編もありましたね。
 個人的ベストは、パロディとして楽しかった北森鴻氏の「ナマ猫亭事件」でしょうか。動機の脱力さ加減が秀逸でした。


No.836 6点 赤いべべ着せよ…
今邑彩
(2019/06/24 22:41登録)
 リーダビリティが高く、次々にページをめくらされました。作者がこの小説の根底に据えようとしたテーマが、事件の展開や真相の中にキッチリと織り込まれていた印象。その織り込ませ方に、この作者らしい美しさを感じました。

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