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ミステリの祭典

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犬神館の殺人
ツユリシズカシリーズ

作家 月原渉
出版日2019年10月
平均点5.67点
書評数6人

No.6 6点 虫暮部
(2023/10/12 12:52登録)
 “犯人の自殺” を前提にするとトリックの可能性は広がるけれど、反面それ相応の特異な心理状態について納得させてくれる必要がある。冷徹な傍観者たるツユリシズカの立ち居振る舞いは、今回そこにブレーキを掛けてしまった気がするのだ。この犯人の気持は “説明” では説明し切れない。もっと情緒的で演出過多な方が読者を巻き込めたのではないだろうか。

No.5 6点 makomako
(2021/01/19 21:06登録)
首なし館の殺人でもうこのシリーズはないかと思っていましたが、嬉しいことに続編が出ました。さらにそのまた次も出ているようですので、とても楽しみです。
ところでこの作品について。
前作と大分感じが異なってかなりシュールな雰囲気です。
本格は同じトリックが許されないため突き詰めていくとネタ切れとなり、無理に新しいトリックを作ろうとすると、現実とはかけ離れたお話となってしまうのは避けられないのかもしれません。
事実本格推理小説が一時衰退したのはこういった状況が打開できなかったからなのでしょう。
 作者は本格推理小説にこだわった作品を新しく読ませてくださる作家さんとして期待しておりますが、この作品ではあまりに密室にこだわりすぎて、登場人物がまるで将棋の駒のような印象を受けてしまいます。とんでもない建物ととんでもない発想の人物が登場して、人の命など密室の理論が成立するためにはどんどん切って構わないといった印象を受けてしまいます。
 本作では読んでいてそのあたりが気になりました。

No.4 6点 ミステリ初心者
(2020/11/12 19:40登録)
ネタバレをしています。

 旧作の本格推理小説の雰囲気と、すらすら読める文章で、個人的に好きなシリーズです。本の厚さはそれほどでもないですが、それほど変に軽くなくていいです(?)。
 今回はシリーズ過去作よりももっと変わったシュチュエーションです。3年前と非常に似た事件で、3重の密室であり、最深部には凍った死体があります。興味を引く要素が満載です。
 また、シリーズ過去作品よりも、もっと"なぜやったのか?"がストーリー面でも語られている気がします。
 あとは、シズカの特徴"満月の夜にへべれけ"、"猫が嫌い"、新ロシア語罵倒の"アホ"が登場しました(たぶん初のはず?)。

 以下、あまり好みではなかった部分。
・3重の密室はかなり特異な設定の密室ですが、結局は犯人の自殺で終わっており、密室というよりかは狭いクローズドサークルみたいな感じでした。結末も"まあ、そうだろうな"の範疇であり、少なくとも犯人がどうやって入りどうやって出たのか?という問題を楽しむことではありませんでした。
・シズカの隠した3年前の情報は、叙述トリック的演出ですが、とくに大きくトリックにはかかわってきませんでした。バッドエンディングを予想していた読者を裏切ってのハッピーエンドという演出には貢献しています。
・地図が欲しかったです(笑)。

No.3 6点 まさむね
(2020/07/28 23:40登録)
 ツユリシズカシリーズの第三弾。
 三年前の三重密室と現在の三重密室の二重奏。密室を構成しているのは「鍵箱」と呼ばれる棺桶のような装置。「鍵箱」の中に人間が固定され、施錠される。戸が開けられると、鍵箱の中のギロチンが首を…。「人を殺してまで密室に踏み込もうとする者はいない」という発想ですね。「ほほう」って思いますよねぇ。(私だけか?)
 なお、他の評者の方も書いておられましたが、交互に語られる「三年前」と「現在」の書き分けがイマイチで読みにくい。シズカ以外の登場人物の描き方も薄いため、どっちのパートを読んでいるのか、結構混乱します。工夫できる余地は大いにあったと思いますね。それと、最終的に、三年前と現在をリンクさせた効果がそれほど大きくないような気も…。
 とは言え、このシリーズを通して、個人的には嫌いではないです。全体の「作り物感」がイイ(現実味とか考えてはいけないのだな、と自分を納得させられますし)。そして何よりも、ド直球を投げ込み続けようとする作者の気概が天晴。続けてほしいです。

No.2 5点 名探偵ジャパン
(2019/12/30 22:53登録)
現在と三年前、同じ場所で違う時間の出来事を交互に描くという構成が、綾辻行人の『水車館の殺人』を思い起こさせます。ただ、『水車館』が過去と現在を、三人称と一人称という書き分けをしているのに対して、こちらはどちらも視点人物こそ違えど同じ一人称で、かなり紛らわしいです。『水車館』のほうは、場所に加えて登場人物もほとんど一緒で、それでも過去と現在の書き分けが明確にされていて、『水車館』の凄さを再認識することになりました。
「ぎろちん扉」という、本作だけにしか登場しない特殊なギミックが出てきますが、これを使う理由付けのためだけにかなりの紙幅を費やしていて、いくらトリックを成立させるために逆算的に世界を作るのがミステリとはいっても、これはちょっと強引すぎた気がします。あと、その「ぎろちん扉」の図解と館の見取り図、登場人物一覧も欲しかったです。

不満点ばかり書いてしまいましたが、こういう直球本格を書き続けている作者(と出し続けている出版社)がいるということは、本格ミステリファンとしてとても喜ばしいことです。今後にも期待。

No.1 5点 人並由真
(2019/11/25 22:51登録)
(ネタバレなし)
 没落と復興を繰り返した東北地方の豪族・雪島家は明治維新の時代に、風変わりな西洋館「犬神館」を建てた。そして18XX年の冬。雪島家の親戚筋の令嬢・芹沢妃夜子は、侍女の栗花落静(ツユリシズカ)を伴って、同家に赴く。そこでは雪島家の面々が傾倒する新興宗教「人の会」の儀式「犬の儀式」が行われていた。儀式は密室状況の中で進行し、その出入り口すべてには「人間鍵」というべき、強引に出入りしようものなら、その場に組み込まれた人間たちの首を断頭する奇怪なギロチン装置が設けられていた。強行的に殺人を犯してまで儀式の場に侵入する者などいないはず? であったが、しかし結局はそこで生じる不可思議な惨劇。そしてそこまでの状況は、シズカが3年前に遭遇したもうひとつの殺人事件との関連を示していた?

 表紙周りのあらすじのどこにも「シズカシリーズ」の表意がないので、あれ? ノンシリーズ!? あるいはシズカシリーズはシリーズでも、もしかしたら<あの新本格の大メジャーシリーズのアレ>みたいな変化球パターン? かと思った。
 そうしたらフツーにシズカシリーズの正編・第三弾でした。いらん前情報語るなって? いや、作者ご本人もTwitterで、シズカ、シズカと連呼してますので(笑)。
 ちなみに今回はシズカについて、妙に笑えるパーソナルデータも手に入る。

 それで今回は、現在形の事件と3年前の過去の事件(どちらもシズカがからむ)、二つのストーリーが並走。ほぼ完全に一章単位のカットバックで二つの時系列が語られ、B・S・バリンジャーみたいな構成で話が紡がれる。
 しかし紙幅がない分、登場キャラの書き込みは全般的に薄いわ、双方の語り手は別人なれど、どっちも似たような文調でいまどちらを読んでるんだっけと、ところどころ区別しにくくなるわ、で、非常に読みづらい(汗)。
 これなら3年前の事件の方の本文の書体を変えるとか、そっちの方の行頭を全部一字分ずつ下げるとか、書式デザイン的にもわかりやすく差別化してほしかった。

 でもって本作のキモのひとつは、あらすじに書いたイカれた舞台装置(人間鍵)だけど、この辺の強引なまでにおバカな趣向はまあ笑える。ただしその装置に組み込まれるキャラたちの造形が先述のとおりに揃って記号的なので、あんまりゾクゾク感はないんだけれど。

 でまあ、ミステリ的な真相だけど、……うーん、これなら3年前の事件だけで良かったのではないの? 苦労して読んだ二重構造の物語に見合う効果が育まれていない。そもそもこの現代編、いろんな意味でチョンボだよね。
 とはいえ一方で過去編だけにしちゃうと、際だった独創性のない謎解き作品になってしまうだろうしなー。過去編にあと2割、現代編にもう1割、合計で3割くらい全体のボリュ―ムを増やしてデティルを足していけば、もうちょっと完成度は高くなったような。

 まあ奇妙な館ものシリーズを毎年一本、相応のチャレンジ精神で送り出してくれる作者の心意気は大いに買いますが。

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