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ミステリの祭典

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りゅうさんの登録情報
平均点:6.53点 書評数:163件

プロフィール| 書評

No.103 8点 偽のデュー警部
ピーター・ラヴゼイ
(2011/05/30 21:09登録)
 本格作品ではありませんが、粋でお洒落な上質のミステリ作品で、好印象を持ちました。最後のどんでん返しが実に洒落ています。叙述トリックが好きな新本格ファンが読んでも、きっと満足できる内容だと思います。
 物語の序盤は2つのストーリーが並行して進みますが、豪華客船モーリタニア号に関係者全員が乗り込んでからは一つの物語として収束します。やがて、海上で遺体が発見されるのですが....。登場人物相互の関係が描かれている序盤はやや読みにくい印象を受けましたが、船旅が始まってからは意外な展開が続き、息もつかせぬ面白さです。読後感がさわやかで、ユーモアもあって、センスの良さを感じさせる作品でした。


No.102 5点 黄色い犬
ジョルジュ・シムノン
(2011/05/28 22:30登録)
 シムノンの作品を始めて読みました。5つの事件が起こるのですが、それぞれの事件に意味を持たせて、複雑化した謎の造形は面白いと思いました。本格作品ではないので、論理的にこの真相を推理できるとは思いませんが。物語の進行に釈然としないところが何箇所かありました。市長が事件の鎮静化のために誰でもいいから逮捕しろと言ったり(実際に容疑不十分な人物を保護という目的はあるにせよ、逮捕してしまうのですが)、タイトルにもなっている黄色い犬が事件の現場に居合わせたと言うだけで群衆から石を投げつけられたり....。また、メグレ警部は、2人の人物が空家で密会することがどうしてわかったのでしょうか。
 メグレ警部(警視)シリーズは謎解きを重視したものではなく、捜査の過程や犯罪心理の描写に重点を置いているようなので、個人的好みからは外れており、ちょっと辛い採点となりました。


No.101 7点 謎のクィン氏
アガサ・クリスティー
(2011/05/24 19:49登録)
 本格ミステリ作品ではありませんが、読後に独特な余韻を醸し出す、叙情性のあるミステリ短編集です。クイン氏が探偵役かと思っていましたが、実際に問題を解決するのはサタースウェイト氏です。謎の人物クイン氏は、どこからともなく現われ、サタースウェイト氏にヒントを与えると、いつの間にかいなくなってしまいます。サタースウェイト氏は老人で、普段は人生の傍観者なのですが、クイン氏の言葉に励まされて、人生で自分に与えられた役割をこなそうと努力するようになります。クイン氏とは何者なのか、それがこの短編集の最大の謎だと思いました(文学的な意味が込められているのでしょうか)。
「海から来た男」
 文学性の高い作品で、ミステリとは言えませんが、最も印象に残った作品です。
「ヘレンの顔」
 ミステリとしてみた場合に、最も面白かった作品です。奇抜なトリックが使われています(〇〇を経由してそんなことが本当にできるのか、実現可能性には疑問を感じますが)。


No.100 9点 星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン
(2011/05/22 14:38登録)
 この作品の種明かしには驚かされました。よくこんなアイデアを思い付くものだと感心しました。
 ジャンル分けをするとハードSFですが、この作品が書かれたのは1977年、作品の設定は2028年なのですが、今読んでも全く古さを感じさせません。月面調査隊が発見した5万年前の死体が、いったいどこから来たのかという謎の解明が主題で、謎を解明する科学的・学術的な過程が丁寧に描かれています。色々な仮説が示されるのですが、それぞれ矛盾点があり、うまく状況を説明出来ません。主人公ハントが矛盾点を解決し、さらに、生物学者ダンチェッカーの補足説明があるのですが、個人的にはハントの説明の方により感心しました。ダンチェッカーの説明には、説明不十分と思われるところが1箇所ありました(〇〇が知識や技術をことごとく失ったにちがいないとしているところ)。読みやすい訳で、難しい技術的内容が出てくるわけでもないのですが、気楽に読める作品ではありません。私は理系人間なのですが、読み進めていくのには若干抵抗がありました。ただ、その読みにくさの先に、素晴らしい種明かしが待っています。個人的には、説明に付いていくのがやっとで、謎解きを考える余裕はありませんでした(この種明かしに気付く人はいないと思いますが)。
 「星を継ぐもの」というタイトルにはどういう意味があるのだろうと思っていましたが、読んでみて理解できました。


No.99 7点 ジェゼベルの死
クリスチアナ・ブランド
(2011/05/17 20:59登録)
 300ページ足らずの作品にも拘らず、読むのに苦労しました。この作者は状況説明や情景描写が下手なのではないでしょうか。クリスティーがこの内容で書いていたら、もっと高い評価を得ていたと思います。鎧兜を身にまとった騎士が大勢登場する野外劇の最中に、衆人監視下で悪女イゼベル(ジェゼベル)が殺されるのですが、どのようにして犯行が行われ、途中で人物の入れ替わりがあったのか、なかったのかという興味で引き付けられます。後半は、容疑者の自白合戦、2人の警部の推理、犯人の自白と続きますが、自白合戦はちょっと漫画的で滑稽です。舞台設定をうまく使ったトリックやミスディレクションは、高く評価できます。首切りの意味、小道具の使い方などには感心しました。犯行計画そのものは、こんなにうまく行くのかなという気もしますが。


No.98 7点 招かれざる客たちのビュッフェ
クリスチアナ・ブランド
(2011/05/14 19:57登録)
 いずれもハイレベルなどんでん返しを持った短編集です。「O・ヘンリー短編集」のブラック版といった印象。「ジェミニー・クリケット事件」の評価が高いですが、個人的ベスト作品は「事件のあとに」、次点は「もう山査子摘みもおしまい」です。後半の作品はやや失速気味に感じました。全般的に、プロットが複雑で、わかりにくい話が多いです。また、人物が唐突に登場してきて相互の関係がわかりにくい、代名詞が誰を指しているのかわかりにくい、会話文で誰の発言なのかわかりにくい、など文章も若干読みづらい印象を受けました。
「事件のあとに」
 幾重にもひねられた真相には驚かされました。
「ジェミニー・クリケット事件」
 使われているトリックは某有名古典作品と同じものです。かなり危険で成功の確率は低そうに思いますが。
「スケープゴート」
 「きみの父親は無実だ」という言葉が真実であったことがわかります。
「もう山査子摘みもおしまい」
 子供の秘密を知られたくないという思いによって、ひとりの人間が救われないことに。


No.97 5点 ホロー荘の殺人
アガサ・クリスティー
(2011/05/10 21:46登録)
 ミステリ小説と言うよりも、人間描写に重点を置いた恋愛犯罪小説です。クリスティー作品の中では文学性の高さで評価されているようですが、個人的には文学性では「杉の棺」、「無実はさいなむ」、「忘られぬ死」の方を高く評価します。主人公のヘンリエッタのジョンに寄せる思いが理解できず、ミッジとエドワードの関係進展も安直に感じられました。そもそも、このサイトは文学性で評価するようなサイトでもありませんが。元々ミステリを志向していないこともあってか、ミステリ要素は弱く感じます。謎解きになっておらず、真相を読んでも、犯人の設定、拳銃が複数使われていた理由や隠し場所などは想定の範囲内であり、感心するようなところはありません。ポアロが殺人事件の第一発見者になっているのですが、ある人物に相談を持ちかけられるまで推理に確信が持てないままで、探偵役としても機能していません。ミステリとしての期待を持って読むと、十中八九失望すると思います。


No.96 6点 カナリヤ殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2011/05/07 17:08登録)
 使われている2つのトリックそのものは、今となっては確かに陳腐に感じますが、謎の造形という面では優れた作品だと思います。容疑者それぞれが謎めいた行動をした結果に出来あがった謎は非常に面白いもので、謎の見せ方や提示の仕方も魅力的です。ポーカーなどのカードゲームによる心理面からの犯人推理手法は、普遍性が無くて説得力に欠けますが、作品の見せ場にはなっていると思います。


No.95 6点 災厄の紳士
D・M・ディヴァイン
(2011/05/02 21:49登録)
 ジゴロのネヴィルが金持ちの娘アルマに接近し、目的を達成したと思った矢先に殺害されるのですが、アルマの姉サラが傷ついた妹のために真相の解明に尽力します。前半はネヴィルの策略はどういったもので共犯者は誰なのかという謎、後半は殺人事件の犯人は誰なのかという謎で、興味を引っ張っています。非常に読みやすい文章で、巧みな人物造形と人間関係の設定、前半と後半で視点を変えた構成など、物語としては良く出来ていると思うのですが、ミステリとしてみると物足りなさを感じました。犯人はこの人物だと思わせておいて最後はひねってあるのですが、登場人物が限られていることもあって、意外と言うほどのことはありません。犯人を特定するロジックも示されるのですが、説得力にやや欠け、感心するほどのものではありませんでした。


No.94 8点 五匹の子豚
アガサ・クリスティー
(2011/04/30 16:18登録)
 個人的には好印象の作品です。ポアロが、16年前の事件を関係者との面談や手記に基づき解決する話です。特にこれといったトリックが使われているわけでもないし、物証に基づく精緻なロジックがあるわけでもありません。ポアロが、犯人の心理のみならず被害者・容疑者の心理をも考察した上で真相を推理する、「心理ミステリ」といった趣のある作品で、こんなミステリもありかなと思いました。私は、最終的な真相の1つ手前の真相までは予測出来ていたのですが、最終的にはうっちゃられてしまいました。ポアロの推理には、いささか当て推量も含まれていて、厳密な意味では必然性がないようにも思いますが。被害者と容疑者の間の会話の意味が、真相を知ることによって反転する構図を持っているのも面白いところです。
 事件の本筋からは外れますが、事件時の関係者の証言や手記の中に、当時5才だったカーラに関する記述が全くないのは何故だろうと、読みながら思っていました。


No.93 6点 隅の老人の事件簿
バロネス・オルツィ
(2011/04/27 22:10登録)
 隅の老人については、名前は以前より知っていましたが、作品に関しては、先日、「世界短編傑作集」で「ダブリン事件」を読んだのが初めてでした。今回、ハヤカワ・ミステリ文庫の方で短編集を読みました。いずれの作品も、喫茶店の片隅で隅の老人が婦人記者ポリーに迷宮入り事件の経過や推理を語って聞かせるというパターンで、最後に隅の老人は事件の意外な真相(?)を浮かび上がらせます。隅の老人の推理は仮説に基づくもので、警察の捜査には一切協力せずに放置したままなので、その推理が真実なのかどうかははっきりしません。隅の老人の推理には必然性がないので、私の推理でも良いのではと思った作品もありました。全作品ともそれなりに面白いのですが、特筆すべき出来栄えの作品はありませんでした。最終話の「パーシー街の怪死」は意味深な終わり方をしています。隅の老人って、いったい何歳なのでしょう?


No.92 6点 杉の柩
アガサ・クリスティー
(2011/04/25 21:40登録)
 登場人物が魅力的で、2人の女性の間の心理的葛藤が丁寧に描写されており、第1部は特に引き込まれました。残念なのは謎解きになっていないことです。真相を推理するための決定的な証拠が第3部の法廷場面になって始めて明らかとなる後出しです(使われているトリックや、犯人を特定するにいたった理由などから、後出しになるのは仕方がないともいえますが)。本格推理小説と言うよりは探偵小説、謎解きよりもストーリー性を重視した作品だと思います。

(完全にネタバレをしています。要注意!)
・ 法律関係には疎いのですが、日本の法律に照らして考えると、ローラはメアリイを娘として認知していないので、メアリイが死んでも、犯人はエリノアがメアリイに譲渡した金額しか手に入らないのではないでしょうか。犯行の計画段階では、エリノアがメアリイに金銭を譲渡することすらわかっていなかったので、こんな犯罪を行う事自体意味がないように思います。英国の法律でどうなっているのかわかりませんが。
・ メアリイはホプキンズにそそのかされて遺言状を書いているのですが、いくら父親にお金を渡したくないといっても、顔も見たことのない叔母に遺産を遺すような内容の遺言状を書くというのは不自然に感じます(そもそもメアリイの若さで遺言状を書くこと自体が不自然です)。
・ モルヒネの容器のラベルが発見された件に関しては、犯人がこれほどまでの致命的ミスを犯すというのは普通考えられないことです(まるで逮捕してくださいと言わんばかりのミスです)。また、警察が、このラベルをちゃんと調べていないというのも普通はありえないことです。


No.91 5点 義眼殺人事件
E・S・ガードナー
(2011/04/23 20:31登録)
 ペリー・メイスンシリーズは初めて読みました。プロットがかなり複雑で、展開も急です。メイスンは、お抱え探偵のドレイクと共に縦横無尽に動き回って問題解決にあたります。メイスンは依頼人を救うために2つの策略を企てるのですが、1つは完全な裏目に終わります(これは警察の捜査妨害でもあり、やり過ぎだと思います)。もう1つの策略は何のためにやるのか、メイスンの最後の説明を読むまではその意味がわかりませんでした(この策略が期待どおりの結果になる確率はそれほど高いとは思えず、失敗したら大損です)。真相説明は一応状況をうまく説明しているのですが、感心するほどのものではありませんでした。また、ブルノードからの依頼内容が取って付けたようで不自然です。義眼が盗まれ、自分を陥れるために犯罪の現場に残されるおそれがあるので何とかしてほしい・・・・・・。こんなことを弁護士に依頼する人はいないでしょう。


No.90 6点 殺意
フランシス・アイルズ
(2011/04/19 21:11登録)
 倒叙物の名作ですが、実際に犯行が行われるまでが長く、主人公ビクリー博士と彼をとりまく女性との色恋沙汰が延々と続くので、やや冗長に感じられました。ビクリー博士は完全犯罪が行えるような沈着冷静な人物ではなく、卑小な劣等感に悩み、その反動で女性を追い掛け回さずにはおられず、精神的な振れ幅の大きい、身勝手で倫理観に欠けた小人物です。本人は犯行の完全さに自信を持っていますが、私から見ても杜撰な犯行です。マドレインが法廷で証言した事項など、その過失にもっと早く気付くべきでしょう。最後のひねりがこの作品の評価されているところだと思いますが、読後すぐにはその意味が理解できませんでした。結局、「crime doesn't pay. 犯罪は割に合わない」と言うことでしょうか。作品の終わり方が、我孫子武丸氏の「殺伐にいたる病」に似ていると思いました(もちろん、この作品の方が先に書かれているのですが)。

 倒叙形式で、主人公の心理描写に重点を置いた作品ということから、ドストエフスキーの「罪と罰」を思い出しましたが、両作品の主人公の犯行後の様子は全く異なっています。「罪と罰」の主人公ラスコーリニコフは踏み越え理論に基づいて殺人を行うのですが、犯行後は踏み越えることが出来ずに苦悩します。一方、ビクリー博士は、利己的な理由で殺人を行うのですが、犯罪を実行することで自信と力を感じるようになり、良心の呵責に苦しむことはなく、裁判でも無罪判決を勝ち取ることだけを考えています。ビクリー博士には、殺人という行為に文学的な問題は存在していないのです。 


No.89 6点 赤後家の殺人
カーター・ディクスン
(2011/04/17 07:37登録)
 読後の感想を単刀直入に言えば、複雑でわかりにくく、すっきりしていないということです。私の読んだカー作品の中でも、「三つの棺」に次ぐ読みにくい作品でした。「三つの棺」は翻訳に問題があると思いますが、この作品はカーの表現や設定のわかりにくさに問題があると思います。この作品の不可能状況も、相変わらず、多くの偶然の積み重ねに助けられて成立しているのですが、このような魅力的な不可能状況を創造する作者の手腕にはいつも感心します。フーダニットとしても、犯人の必然性は納得できるものです。ミステリとして面白い要素が詰め込まれていると思う反面、瑕疵も多い作品だと思います。


(完全にネタバレをしています。要注意!)
・ 設定上でいくつか理解できない、不自然と思われる箇所があります。アーノルドは家族の中に狂人がいないかどうかを調べることを依頼され、調査するためにベンダーを潜入させているのですが、こんなことをするとは思えず、取って付けたような設定に感じました。また、後家部屋での実験の際に、ベンダーは自分が選ばれるように細工をするのですが、選ばれようとした理由が釈然としません。
・ 2つの事件で使われているトリックは、それぞれ面白いものですが、問題点もあります。毒殺トリックに関しては、検視で本来調べられ、発覚するはずの事項だと思います。催眠術による偽証トリックに関しては、それを行いうる人物が選ばれており、個人的には納得できるのですが、人によってはアンフェアと感じるのではないでしょうか。
・ 第1の事件で、アーノルドは第一発見者となって、酒壜等を回収することが出来ましたが、アーノルドは現場の後家部屋を見たことがないし、第一発見者となって、酒壜等を回収出来るかどうか確信が持てなかったはずです。それにも拘らず、アーノルドは無用心にも酒壜をベンダーに渡した際の話をガイに聞かれています。そのおかげで、ガイは後家部屋での実験時に死人に代わって返事をすることになった....。かなりのご都合主義だと思います。


No.88 6点 連続殺人事件
ジョン・ディクスン・カー
(2011/04/11 20:08登録)
 真相自体は非常に面白いものですが、謎解きとしては少し不十分な印象です。フーダニットとしては、犯人の必然性に乏しいと思います(犯人の設定に関しては、真相とほぼ同じことが推測出来ていましたが、真犯人は別の人物というか、もう一人の人物だと思っていました)。第1の事件と第2の事件のトリックに関しては、こんな方法で本当に人が殺せるのかなと思いました(カーの勘違いのようですが)。第3の事件における密室のトリックに関しても、手法はわかりませんでしたが、感心するほどのものではありませんでした。また、この邦題は、正確な訳ではなく、作品の内容とも一致していないので適切とは思えません。


(ネタバレをしています。注意!)
 第2の事件で、コーリンはアンガスと同様に塔屋から墜落しているのですが、この真相だと室内で倒れているのではないでしょうか。


No.87 5点 キドリントンから消えた娘
コリン・デクスター
(2011/04/10 11:32登録)
 女子学生失踪事件を引き継いだモース警部は、自分に任された限りは殺人事件に違いないとの勝手な思い込みのもとに、捜査に乗り出していきます。モース警部が自分の推理に確信を抱き、捜査が終了間近と思った直後に、その推理を根底から覆す事実が明らかとなって失意に打ちのめされるというパターンが繰り返されます。モース警部の推理は、仮説に基づいて組み立てられたもので、根拠に乏しいのですが、意外性に富んでいて、楽しめました。ロジックで推理するには手掛かりが不足していて、作品中でクロスワードパズルになぞらえているように、この推理には想像力の補完が必要です。最後に、モース警部はバレリーの通知簿を見て真相に気付くのですが、ラストのひねりが弱い気がします。また、曖昧さを残したまま終了しているのは、個人的には大きなマイナスポイントです。


(以下、ネタバレをしています。注意!)
 モースの最終章での説明どおり、ベインズが手紙を書いたのだとしたら、その理由が(作中で問題となっていたにも拘らず)示されずに終わっているのはいかがなものかと私も感じました。ベインズが手紙を書く理由を考えてみましたが、思い浮かびません。私見ですが、モースはやっぱり最後まで誤っていて、手紙を書いたのはベインズではなく、バレリーだったのではないかと思います。


No.86 6点 世界短編傑作集1
アンソロジー(国内編集者)
(2011/04/05 20:20登録)
 昔、「十三号独房の問題」を読んで面白かった記憶があり、再読したいと思っていましたが、この度古本が入手でき、再読することが出来ました。いずれの作品も書かれた時代が時代なだけに、古色蒼然とした印象は否めません。個人的ベストはやはり「十三号独房の問題」で、次点が「レントン館盗難事件」です。
「レントン館盗難事件」
 盗難事件で使われていたトリックは、ユニークなものでした。
「十三号独房の問題」
 思考機械ことドゥーゼン教授が、脱出不可能と見做されている十三号独房からの脱出に挑戦する話です。今読むと、ドゥーゼン教授に都合の良い状況が揃いすぎているようにも思いますが、良く出来た作品であることには間違いありません。
「放心家組合」
 恥ずかしながら、読後、真相がよく理解できませんでした。ネット検索して確認し、なるほどということに。「放心症」という単語は、少なくとも現在では使われていない言葉ですね。


No.85 6点 危険な童話
土屋隆夫
(2011/04/03 07:21登録)
 本格と社会派の中間的な印象の作品。序章や各章の冒頭にある童話が真相とどう結びつくのかなと思いましたが、ちゃんと真相に活かされていました。複数トリックの組み合わせは見事で、凶器消失の謎や投書の謎の解明は鮮やかでした。ただ、指紋の謎の真相はちょっと苦しいかなと思います。こんなことをするとは思えません。また、江津子が警察に逮捕される件は、十分な理由がなく、確かに不自然ですね。


No.84 8点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2011/03/28 19:37登録)
 クイーンの文章は退屈で読みにくい印象があり、本作品も読みやすいとは言えませんが、ストーリーに起伏があって、法廷場面は特に楽しめました。エラリイの法廷での発言には驚かされました。毒殺事件の犯人とその手法については私も推測どおりで、ある程度ミステリを読んだ人にはわかりやすいと思います。ただし、全体の謎は複雑で、私は見抜くことが出来ませんでした。エラリイが確認したある事柄によって、完全にミスリードされてしまいました。エラリイの説明には、複雑に絡んだ糸がスルスルとほどけていくような爽快感があるのですが、謎作りのためのご都合主義と感じられる部分もあります。


(完全にネタバレをしています。要注意!)
・ エラリイが、ローズマリーの受取りのサインとローズマリーから来た手紙の筆跡を鑑定することによって、ローズマリーがジムの妹であることを証拠立てる場面があるのですが、これによって見事に騙されてしまいました。
・ (エラリイの説明によると、)ジムは、元の妻(ローズマリー)の殺害を計画した際に、自分に罪がないように見せかけるため、日付の異なる三通の手紙を妹あてにあらかじめ書き残しています。結局殺害は実行されなかったので、手紙も発送されず、この手紙が後日発見されて、毒殺事件の欺瞞のもととなっています。しかし、こんな手紙がカモフラージュになるとは思えませんし、あらかじめ書き残しておく理由がわかりません。この手紙の存在は不自然で、謎作りのためのご都合主義に感じられます。

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