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ミステリの祭典

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E-BANKERさんの登録情報
平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.39 4点 乱鴉の島
有栖川有栖
(2009/08/25 22:37登録)
火村・アリスシリーズの作品。
タイトルから見れば「島」・・・孤島ものと言えなくもありませんが・・・
~臨床犯罪社会学者・火村は、友人の作家・有栖川と休暇に出かける。だが、彼らがたどり着いたのは目的地とは違う場所だった。鴉が群れ飛ぶ絶海の孤島・通称「烏島」。そこには世間と隔絶された生活を送る作家、謎の医師、奇妙な起業家など、不可解な目的を持った人々が集まっていた。訝る火村たちの
前でついに殺人事件が発生する。事件の背後に隠された彼らの「秘密」とは何なのか?~

ちょっと中途半端感が残る作品。
謎の提示までは実に魅力的でした。
絶海の孤島にある館に集まった人々、様々な職業や年齢、奇妙なふるまい・・・なぜなのか? そして起こる殺人事件。
ここまで書けば、期待感は高まるばかりなのですが、いかんせん尻つぼみ。
事件の背後に隠された「秘密」については、中盤になれば読者にも想像がつくようになり、あとは殺人事件そのものの仕掛けに移る。
そこが弱いんですよ。結局、フーダニットもハウダニットも今ひとつで終了。
やっぱり、このシリーズとは相性悪いんですよねぇ。
(江神・アリスシリーズとの格差は何なんでしょうか?)


No.38 8点 倒錯のロンド
折原一
(2009/08/24 22:02登録)
「叙述の折原」を世に出した記念すべき作品。
乱歩賞は逃しましたが、島田荘司氏が絶賛したのもよく分かる(気がする)。
~推理小説新人賞盗作事件をめぐる驚愕の真相。精魂こめて執筆し、受賞間違いなしと自負した応募作が盗まれた! 巧妙な仕掛けと衝撃の結末で読者に挑む~
「盗作」事件に関わる登場人物たちが徐々に「倒錯」していくプロット・・・
いわゆる本格的な「叙述トリック」に始めて接した作品だったため、最初は「訳が分からない・・・」という感覚になりましたが、頭を整理して理解すると、作者の狙いや技巧に唸らされましたねぇ・・・
「倒錯」シリーズは物語の舞台や登場人物が同じフィールドで書かれており、お馴染みのキャラや新手のキャラが絡み合いながら、妙な方向に進んでいくというのも面白さの1つでしょう。
とにかく、頭を真っ白にして是非1度読んで欲しい「快作」です。
(本作を読んで、私が折原に嵌ったのは間違いない。)


No.37 10点 BT’63
池井戸潤
(2009/08/24 21:53登録)
作者初期の最高傑作。
文庫版で上下分冊となった大作ですが、息つく暇を与えない緊張感と愛情につつまれたストーリーが見事です。
~父が残した謎の鍵を手にすると、主人公の目の前に広がるのは40年前の風景だった。若き日の父が体験した運送会社での新規事業開発、秘められた恋。だが凶暴な深い闇が父に迫っていた。心を病み妻に去られた主人公は自らの再生を賭け、現代に残る父の跡を追い掛ける。~
う~ん。素晴らしい感動巨編でした。
タイムスリップして、父親と同化してしまう主人公。若き日の父は、自分のまったく知らないような情熱と強さを持つ人物だった。勤務先の倒産を何とか防ごうと孤軍奮闘する父にさらに襲い掛かる闇の手。それは、密かに父が愛していた女性にも魔の手を伸ばしていた・・・
そして、ついに起こる殺人事件。果たして、若き日の父は愛する女性や会社を救うことはできるのか・・・
特に後半は一気読みして、ラストは涙が出そうになりました。
自分の目には寡黙で愛情を注いでくれなかった父親に、こんな過去があったことを知った主人公に、なんだか自分の姿を重ねてしまう・・・親子の愛情、特に父と息子の愛情って割と難しいものですが、これこそが「愛」なのだというのを感じさせられます。
「池井戸潤」といえば、経済や金融関係の小難しいストーリーという先入観のある方にも、是非読んで欲しい1冊。
(氏の作家としての資質を十二分に感じ取れる作品です。とにかくお薦め! 因みに、BTとはボンネット・トラックの略)


No.36 5点 ナイチンゲールの沈黙
海堂尊
(2009/08/24 21:34登録)
大好評の田口&白鳥シリーズ第2弾。
名作「チームバチスタの栄光」と同じ大学病院が舞台です。
~東城大学医学部付属病院・小児科病棟に勤務する浜田小夜。担当は眼球に発生する癌-網膜芽腫(レティノプラストーマ)の子供たち。眼球を摘出されてしまう彼らの運命に心を痛めた小夜は、子供たちのメンタルサポートを不定愁訴外来・田口に依頼する。その渦中に患者の父親が殺され、警察庁から派遣された加納警視正は、院内捜査を開始する。小児科病棟や救急センターのスタッフ、大量吐血で入院した伝説の歌姫、そこに厚労省の変人・白鳥も加わり、事件は思いもかけない展開を見せていく・・・~

前作に比べるとミステリー感は薄まってますね。
相変わらずスピード感ある展開と、魅力的なキャラたち・・・
今回から加わった白鳥の天敵、加納警視正もキャラ立ってるねぇ。
ただ、ミステリー的な観点からはちょっとよく分からないというのが正直な感想でしょうか。
殺人事件が起こることは起こるけど、ロジックやトリックなどというものからは離れてしまいました。
まっ、シリーズ作品ということで、ファンならば読んでおくべきなのかもしれません。


No.35 7点 虚貌
雫井脩介
(2009/08/21 22:31登録)
スポーツ系ミステリー(「栄光一途」「白銀を踏み荒らせ」)に続いて発表されたのが本作。
今回は一転して、サスペンス感あふれるミステリーに仕上がってます。
~21年前、岐阜県美濃加茂地方で運送会社を経営する社長一家が襲われた。社長夫妻は惨殺され、長女は半身不随、長男は大やけどを負う。間もなく従業員3人が逮捕され、事件はそれで終わったかに見えたが・・・~

好きな作品です。(あまり評判はよくないようですが)
いわゆるトリックなどとは無縁ですし、ロジック的にどうかという箇所は確かにありますが、終盤・ラストに向かって徐々に高まっていく緊張感。
やはり、こういう作品には必須の条件ですね。
何よりタイトルが効いてます。まさに「虚貌」なわけで、こういう作品を書かせるとうまい作家なのだと思います。
若干、TVの2時間ものサスペンスっぽさを感じるところが不満ですかねぇ。
そういう点を差し引いても、買って損のない1冊だと思います。


No.34 8点 永遠の仔
天童荒太
(2009/08/21 22:24登録)
文庫版で5分冊という長さの間に、「親子の愛情」や「人間の業」という深いテーマをたっぷりと感じさせてくれます。
子供の心って、こんなに傷つきやすくもろいものなんですね。最後に罪を告白する主要登場人物のひとりには同情を禁じえませんでした。
著者は昨年やっと直木賞を受賞しましたが、遅すぎっていうかんじですねぇ。


No.33 4点 帝都衛星軌道
島田荘司
(2009/08/21 22:16登録)
表題作の前編・後編の間に「ジャングルの虫たち」という別の短編を挟み込んだ珍しい構成になっています。この2編は広い意味ではつながっていますが、直接の関連はありません。
「東京という都市論」と「冤罪事件」という、島田氏の2つのライフワークが融合された作品ですが、ミステリーという面では今一歩としか言いようがありません。何か消化不良といった感触が残る作品です。


No.32 7点 華麗なる誘拐
西村京太郎
(2009/08/20 22:51登録)
私立探偵左門字シリーズ。
本シリーズは「誘拐もの」のバリエーションが豊富ですが、本作も大胆不敵なプロットが特徴。
~「日本国民全員を誘拐した。身代金5,000億円を支払え」・・・首相官邸に入った1本の電話。『蒼き獅子たち』と名乗った男は、3日後に人質を殺すと通告した。果たして、新宿の喫茶店で若い男女が死亡した。死因はシュガーポットに混入された青酸カリによる中毒死。偶然現場に居合わせた私立探偵・左門字進と妻の史子は、捜査へ協力することに。だが、警察をあざ笑うかのように北海道で男が殺され、ついには航空機爆破事件まで起きてしまう! 犯人の狙いとは何なのか?~

やっぱり、初期の作品はよくできてます。何よりプロットが素晴らしい。
こんなプロットは最初にやったもん勝ちで、2度と同じものは使えないですからねぇー
途中、犯人グループと左門字の知恵比べ的な展開もかなり面白い。
大胆不敵な犯行に打つ手なしと思われた矢先、左門字の冷静沈着な推理が冴え渡る・・・結構シビレます。
中盤以降はスピーディーな展開で、飽きることなくラストまで一気呵成!
十分に楽しめる作品でしょう。
(姉妹編に短編ですが、「1千万人誘拐計画」という作品もあります。こちらは東京都民全員が誘拐されちゃいます。)


No.31 6点 弥勒の掌
我孫子武丸
(2009/08/20 22:33登録)
文芸春秋社の本格ミステリー・リーグでの発表作。
作者らしい「仕掛け」が楽しめるかどうかが鍵でしょう。
~愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が失踪して途方にくれる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた2人は、やがてある宗教団体の関与を疑い、ともに捜査を開始するのだが・・・驚天動地の結末があなたを待ち受ける~

とにかく、ラストの反転の衝撃に賭けた作品。
「新興宗教」という素材はミステリーでは頻出しますが、この素材をどのように扱うかが作者の腕の見せ所という奴かもしれません。
本作では、さすがに我孫子氏らしい「騙し」のテクニックが味わえる。
そういう意味では、前半から終盤にかけては、長々と作者のミスリードに嵌っていく過程を踏んでいるようなものです。
ただ、ちょっと衝撃度が少ないのが玉に瑕。
「新興宗教」を持ち出してきている段階で、何となく騙しの方向性に感付いてしまいました。
別に面白くないわけではなく、それなりに楽しめる作品とは言えるでしょう。
(誉めてない?)


No.30 9点 無間人形 新宿鮫IV
大沢在昌
(2009/08/20 22:26登録)
新宿鮫シリーズのパート4。
何と、直木賞受賞(本作だけというよりシリーズ通してということですが)の記念すべき作品。
~新宿の若者たちの間で、舐めるだけで効く新型覚せい剤が流行りだした。薬を激しく憎む新宿署刑事・鮫島は執拗に密売ルートを追う。一方、財閥・香川家の昇・進兄弟の野望、薬の独占を狙う藤野組・角の策略、麻薬取締官の露骨な妨害、そして恋人・晶は昇の手に・・・~

いやぁー、「直木賞」受賞に恥じないだけの、圧倒的な迫力!これぞ「新宿鮫シリーズ」でしょう。
今回も、登場人物の造形が冴えてますねぇー
「アイスキャンディー」という新型覚せい剤に人生を翻弄されていく人々・・・特に香川兄弟と晶の元バンドメンバー。
割と静かに流れていく前半とは裏腹に、中盤からはまるで激流に飲み込まれるように次々と登場人物たちが「ある場所」へ集まっていく・・・
どうしようもない「運命」に巻き込まれる人々と、運命に1人抵抗し、必死な捜査を続ける孤高の男・鮫島。
やっぱりカッコいいですよ。
お勧め!
(今回は晶もかなりカッコいい!)


No.29 5点 生首岬の殺人
阿井渉介
(2009/08/18 22:03登録)
警視庁捜査一課事件簿シリーズ。
引き続き不可能趣味溢れるプロットが冴えてますが・・・
~都内の住宅街で偶然カメラマンが写真に捕らえた、男の生首をくわえた黒い犬の姿。そして時を同じくして、女性銀行員の誘拐事件が発生。犯人の要求は、指定する5つの会社に融資を行うこと。各社は倒産寸前という共通点のほか、何のつながりも見当たらない。奇妙な2つの事件の、点と点が結びついた結果の先にあるものとは?~

相変わらず重~い作風です。
阿井氏の作品といえば、以前の「列車シリーズ」から一貫して不可能趣味と背後に横たわる過去からの怨恨・・・といったところでしょうが、
本作もそれに倣ってます。
ただ、本シリーズになって、大胆な物理トリックはさすがに鳴りを潜め、現実的な路線にややシフト。
今回は、アリバイトリックがメインですが、従来からの手法を一捻りしてあり、その点だけが救いでしょうか。
全体としては、ちょっと低調な作品かもしれませんねぇー
(真犯人の執念に脱帽!)


No.28 5点 展望塔の殺人
島田荘司
(2009/08/18 21:46登録)
短編集。久しぶりに再読しました。初読のときは「とても良質な短編集」だったという覚えがあるのですが、今回はなにか食い足りないような感覚でした。
中では表題作が一番良いと思うのですが、動機については「どうかなぁ」という気がします。他の作品も初読時感じたほどの面白さは味わえませんでした。時代が変わったからですかねぇ・・・


No.27 7点 ダイスをころがせ
真保裕一
(2009/08/18 21:36登録)
作者らしい小気味いい展開が光る作品。
名付けるなら「青春選挙小説」!
~事業失敗の責任を押し付けられ嫌気がさし、総合商社を辞した駒井。元中央新聞記者で、故郷・静岡県秋浦市からの衆院選立候補を決意した駒井の高校陸上部での親友にして恋敵、天知。2人は理想とある目的とを胸に、徒手空拳でコンビを組んだ。夢と情熱にほだされて、応援に立ち上がった同級生たち。
私たちが手にしているダイスを今こそ転がそう。この国を変えるために、そして自分を変えるために!~

まぁ、面白いですよ。さすがです。
「選挙」という身近なようで、身近でないテーマをうまい具合に生かして、瑞々しい青春エンタメ小説に仕上げてます。
選挙というフィルターを通すと、人のいろいろなエゴイズムとか考え方が浮かんでしまうところもウマイ。
途中、さまざまな紆余曲折を経て、いよいよ衆院選本番が始まる・・・盛り上げ方も心得てます。
「34歳」という中途半端な年齢の男が、自信を取り戻し、本当の男に成長していく姿も妙に共感。
ミステリーとは言えないでしょうから、評価としてはこんなものですが、読んで損のない1冊と言えるでしょう。
(また、織田裕二主演で映画化されるかと思ってましたが・・・)


No.26 8点 悪霊館の殺人
篠田秀幸
(2009/08/16 00:44登録)
弥生原公彦シリーズ。
横溝作品に深く影響された作者こだわりのシリーズ第1作。この後10作近くシリーズは継続されますが、本作がNO.1の出来なのは衆目が一致するところ。
平成5年7月下旬に始まり、ひと夏かけて不気味に進行した挙句、9月14日の深夜、ある悲劇とともに突如として終結した「小此木家霊魂殺人事件」。白マスク男、密室殺人、交霊会、幻影の塔・・・次々と現れる謎に挑む、精神科医にして名探偵の弥生原公彦。複雑にして因縁絡む人間模様に潜む遠大なる
罠とは何か?・・・実に魅力的です。
とにかく、過去のいろいろな作家の「いいとこどり」をしたような作風。であれば、当然素晴らしい作品になっているはず。(「いいとこどり」ですから)
これは別に皮肉でもなんでもなく、確かに重厚かつサプライズ十分な作品に仕上がってます。おまけに「読者への挑戦」までも挿入するサービスぶり・・・
まさに、平成の現世に、古き良き探偵小説を蘇らせたいと願った作者の思いは叶ったといっていいでしょう。
特に、ラストの真犯人指摘のシーンは、良質なミステリー特有の緊張感、何ともいえないワクワク感を満喫できます。
というわけで、マイナーな作家ではありますが、本格ファンであれば、是非手にとって欲しい作品という評価となります。
(ワトスン役の築山の造形がちょっとウルサイ。あまりにも凡人に書かれているので、読んでてちょっとかわいそうになる。石岡和己と同じですね)


No.25 7点 双頭の悪魔
有栖川有栖
(2009/08/15 23:10登録)
学生アリスシリーズの3作目であり、最高傑作との呼び声高い作品。
火村&アリスシリーズより、数段勝るロジックが魅力的です。
~四国山中に孤立する芸術家の村へ行ったまま戻らないマリア。英都大学推理研のメンバーは大雨の中、村への潜入を図るが、程なく橋が濁流に呑まれて交通が遮断。川の両側に分断されたマリア・江神とアリス・・・双方が殺人事件に巻き込まれ真相究明が始まる。~というストーリー。
本作最大の魅力は、何といっても3回も繰り返される「読者への挑戦」。
それだけロジックに自信があるということなのでしょうし、江神が語る解決編は、E.クイーンを彷彿させる「これぞ王道パズラー小説」だと思います。
伏線の貼り方もフェアですし、フーダニットの魅力が十分に味わえる良作という評価でいいでしょう。
ただし、読む前に「ハードル」を上げすぎたところがあって、その辺やや評価が辛くなってしまったようです。
個人的には、前作「孤島パズル」の方がより好きかな。
(作者には、是非火村シリーズよりも、こちらをメインに書いて欲しいんですけどねぇ・・・)


No.24 6点 99%の誘拐
岡嶋二人
(2009/08/15 23:00登録)
「誘拐ミステリー」の白眉とも称される作品。
第10回吉川英治文学新人賞受賞作。
~末期がんに侵された男が、病床で綴った手記を残して生涯を終えた。そこには、8年前息子をさらわれたときの記憶が書かれていた。そして12年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける~

面白くないわけではない・・・という感想。
コンピュータで完全制御された誘拐という発想は(この当時は)斬新だったでしょうし、面白い視点だと思います。
ただ、途中で事件の構図がほぼ分かってしまうというのは如何なものかとは思いますね。
欲張りかもしれませんが、もう一捻りあればなという気持ちにさせられました。
(99%というのがミソ。いいタイトルですね)


No.23 5点 魔術王事件
二階堂黎人
(2009/08/15 22:42登録)
二階堂蘭子シリーズ。
怪作(?)「双面獣事件」と同時進行という設定で、日本の南北に分かれた両事件を股にかけて蘭子が大活躍?します。
~時は昭和40年代。所は北海道・函館。呪われた家宝として、名家宝生家に伝わる"炎の眼”"白い牙”"黒の心”。この妖美な宝石の略奪を目論み、宝生家の人間たちを執拗なまでに恐怖へと引き擦り込む、世紀の大犯罪者「魔術王」。密室殺人、死体消失、大量猟奇殺人。名探偵二階堂蘭子が、冷静沈着かつ
美的な推理で偽りの黄金仮面に隠された真犯人に挑む~
いやはや、まさに「乱歩&二十面相」作品へのオマージュ全開です。
「ロジックよりもトリック」と公言して憚らない作者ですから、現実性云々は脇にどけても、古きよき、おまけにザワザワした恐怖感を煽るようなグロい殺人事件のオンパレード・・・並みの読者では面食らってしまうこと請け合いです。
ただねぇ・・・これまでの蘭子シリーズはここまでヒドくなかったですし、曲がりなりにも読者に「アッと」いわせるプロット&ロジックがあったはず・・・
前作「恐怖のラビリンス」から続く、名探偵対怪人という構図は、フーダニットという本格ミステリー最大のプロットを犠牲にしているわけですから、作者の意図するところがちょっと理解できないですねぇ。(まぁ共犯者探しというフーダニットは味わえますが)
とにかく、蘭子シリーズがおかしくなった作品という位置づけで間違いなし。
(全10作と公言していた「蘭子シリーズ」ですが、果たして今後どのようなクロージングが用意されているのか? 期待と不安が半々。)


No.22 9点 火刑都市
島田荘司
(2009/08/15 12:34登録)
吉敷刑事の上司、中村警部が活躍する珍しい初期作品。
「社会派」と称されることも多い作品ですが・・・
~東京・四谷の雑居ビルの放火事件で若い警備員が焼死する。不審な死に警察の捜査が始まった。若者の日常生活に僅かに存在した女の影・・・。女の行方を追ううちに次の放火事件が発生した。今度は赤坂。そして、現場には「東京」という謎のメッセージが残される~

今回の本筋は、東京の中心部で起こった連続放火事件と、ある1つの殺人事件。特に、放火事件の方は、まるで何かを象徴するように、地図上で「円」を描きながら続発していきます。
そして、現場に残された犯人のメッセージ「東京」(※本当は「京」の字が違うんですよねぇ・・・ただし、この字は変換できない!)。
島田氏のライフワークとも言える「都市論」、特に「江戸」と「東京」という2つの都市の歴史、相違点に気付いたとき、真犯人が浮かび上がります。
本作は、いわゆる「社会派的作品」と称されることが多いわけですが、確かに島田氏の明確な主張や考え方が読み手にもよく理解できるような気がします。
中村警部は、本作の主役としてまさに適役。
御手洗シリーズのような派手なトリックやプロットは全くありませんが、初期島田作品で共通する、何ともいえない味わい深い作品に仕上がっています。
(本作を読了後は、是非古地図を片手に外堀通り辺りをブラブラ散歩することをお勧めします。まさに「ブラタモリ」か「地井さんぽ」・・・)
因みに、中村警部は御手洗シリーズの短編「疾走する死者」にも登場。そこで御手洗のスゴさを実感したことで、その後「斜め屋敷」事件で困惑する牛越刑事に対して御手洗を推薦する・・・という展開につながっていきます。


No.21 7点 チーム・バチスタの栄光
海堂尊
(2009/08/15 12:26登録)
映画化もされた田口&白鳥シリーズの記念すべき第1弾。
第4回「このミステリーがすごい」大賞受賞作。
~東城大学医学部付属病院では、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」をつくり、次々に成功を収めていた。ところが、3例続けて術中死が発生。しかも、次回の手術は海外からのゲリラ少年兵士が患者ということもあり、注目を集めていた。そこで、内部調査の役目を押し付けられたのが神経内科教室の万年講師で不定愁訴外来責任者・田口と、厚生労働省の変人・白鳥だった・・・

さすがに「グイグイ」惹き込みますね。
医療ミステリーというと、どうしても専門的なため説明が多くなりすぎるきらいがありますが、本作にはそんなの関係なし。
何といっても、登場人物のキャラ立ちが尋常じゃない。
フーダニットについては、ちょっと分かりやすかったかなという気はしましたが、デビュー作でここまで書ければ上出来でしょう。
「最後に明らかになる衝撃の事実」というプロットも秀逸。
やっぱり現役医師は視点が違いますよね・・・
現代医学界の問題点や課題などもなかなか興味深く読ませていただきました。
有名作になりましたが、毛嫌いせずに読んで欲しい1冊。
(基本的に好きなんですよねぇ、医療ミステリーは)


No.20 6点 迷路館の殺人
綾辻行人
(2009/08/15 12:19登録)
「館」シリーズ第3作目。
迷路を模して地下に作られた「迷路館」が今回の舞台です。久々に再読。
~奇怪な迷路の館に集合した4人の作家が、館を舞台にした推理小説の競作を始めた途端、惨劇が現実に発生! 完全な密室と化した地下の館で発生する連続殺人の不可解さと恐怖。逆転また逆転の末に到達する驚愕の結末とは?~ というストーリー。
今回の舞台設定は、本格ファンにとってはたまらないものでしょう。クローズドサークルで「作中作」になぞらえて起こる連続殺人、消えた招待主、そして謎の多い登場人物・・・いやぁ大盤振る舞いですよね。
ただ、残念ながらこの設定を十分生かしきってるとまでは言えない。
ラストのどんでん返しも確かに「うまさ」は感じるけど、サプライズとまでは感じなかったなぁ・・・(惜しいけど)
「迷路館」にしても、トリックまたはプロット上どうしても必要な条件とは言えないような気がするのも減点材料ですかねぇ・・・
ということで、いろいろと「アラ」は目に付きますが、全体的には及第点は付けられる内容というところでしょうか。
(初読のときは割とよくできていると印象でしたが、今回再読してみると、やっぱり不満点の方が目立ったんですよね)

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