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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.139 6点 金融探偵
池井戸潤
(2009/11/21 23:50登録)
こちらも作者の十八番(おはこ)「連作短編集」。
講談社でのシリーズとは若干趣が変わっていますが、主人公はリストラされた元銀行員という設定や経済・金融関連が背景に潜む事件を解決する・・・という部分は変わりありません。
金融ミステリーというニッチな分野では、他に追随を許さない作者ですが、やっぱり「金」という犯罪や事件に付き物の存在をリアリティー十分に書けている・・・のがいいですね(やっぱり、元銀行員ですから)
ただ、他の短編集よりはやや落ちる印象なので、評価はこの程度です。


No.138 5点 QED 竹取伝説
高田崇史
(2009/11/21 23:36登録)
QEDシリーズ。
まぁ、本シリーズの特徴かもしれませんが、ストーリーの半分以上は「竹取物語」に関する歴史的考察と薀蓄で占められています。
本編の殺人事件の方は、作者の得意分野である薬学関係のトリックが使われていますが、ほとんど付録的な印象。
読者の側も、殺人事件の解決云々よりは、「竹取物語」の真相究明の方が面白く感じるんじゃないでしょうか。
作者の狙いとしては、歴史ミステリーと本格ミステリーの融合なのかもしれませんが、結果としてはどちらも中途半端になっている感は拭えません。


No.137 7点 マークスの山
高村薫
(2009/11/15 17:57登録)
直木賞受賞作。
作者の代表作でしょう。
精神疾患を持つ犯人が起こす猟奇的殺人事件と、そもそもの背景である過去の南アルプスでの殺人事件・・・この2つがどのようにつながっているか、というのが本筋です。
ただ、それよりも主人公の合田刑事を含む警視庁の捜査員たちのセリフや動きが実に生き生きして、なるほど警察官というのはこういう人種なのかというのがよく理解できます。(どこまで本当か分かりませんが・・・)
トリックや凝ったプロットが出てくるという訳ではないですが、読み応えのある大作という評価で良いでしょう。
ただ、長い・・・


No.136 7点 ゼロ計画を阻止せよ
西村京太郎
(2009/11/15 17:47登録)
左門字探偵シリーズの秀作。
あまり知られていない本シリーズですが、特に「誘拐物」のバリエーションの広さは秀逸モノです。
本作では、最初「ゼロ計画(プラン)=総理大臣の誘拐」をメインに事件は進んでいきますが、時間の経過とともに事件の本当の背景・意図が見えてくる・・・という展開です。
左門字と犯人グループの知恵比べはチェスや将棋にも似て、どちらが相手を読み切り、先手を打てるかという緊張感ある面白さ・・・
ラストは完全解決ではなく、含みを残した終わり方になっているあたりも、野心的だった初期の作者の心意気でしょうか。


No.135 7点 ケンネル殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2009/11/15 17:38登録)
ファイロ・ヴァンス探偵譚の6作目。
作者のヴァン・ダインが、「一人の推理小説家が生涯で書ける優秀なミステリーは6作が限界」という言葉を残したのは有名ですが、本作がちょうどその6作目で、確かに本作以降は明らかに作品の質が落ちていきます。
ただ、本作はなかなかの出来。他の方の書評どおり、「グリーン家」や「僧正」に比肩すると言ってもいいでしょう。
第一の殺人は密室がメインになりますが、本筋の機械仕掛けのトリックよりも、「被害者が、自身の傷がたいしたことはない、と思い込んで自分で部屋に入って鍵を閉めた後に死んだ・・・」という捨て筋の方がなんか印象に残ってます。


No.134 7点 消えたタンカー
西村京太郎
(2009/11/11 22:37登録)
氏、初期の海洋ミステリー。
トラベルミステリーでブレイクする前の十津川警部が主人公です。
本作、結構面白いです。特に謎の呈示と、それを追跡する十津川の推理がうまい具合に絡み合い、意外な真相にたどりつきます。
海洋上でのタンカー事故と事故で生き残った乗組員の殺人事件・・・この2つの事件がまさに意外な方向へ進み、最後は世界的な事件に・・・という具合。
初期の氏の作品はなんとも奥行きのある味わい深い良作も多いんです。


No.133 5点 沈黙者
折原一
(2009/11/11 22:29登録)
「~者」シリーズ。
しかし、このシリーズもよく続いてますね。
ただ、やはりシリーズも重ねるごとにパワーダウンしている感は否めません。
本作での叙述トリックは、まさにラストに明かされる一点のみです。たしかにうまい具合にミスリードはしていると思いますが、これだけのことに前半の長い「手記(日記?)」部分は果たして必要なのか?と感じざるを得ません。
あとは、何か緊張感が足りないような・・・氏の良作は、やはり独特の緊張感を維持して「驚きのラスト」という展開でないとダメでしょう。


No.132 6点 君たちに明日はない
垣根涼介
(2009/11/11 22:21登録)
山本周五郎賞受賞作。
シリアスな作品の多い作者ですが、本作はまったく違う雰囲気の作品。
突然、会社からリストラ宣告される社員と商売として「リストラ業」を行う主人公。まさに悲喜こもごもの心情が読み手にも伝わります。
でもなぜか、読後はさわやかな後味が残るんですが・・・
まぁ、ほとんどミステリー色はないといっていい作品ですが、さすがに権威ある賞の受賞作だけはあるという内容でしょう。


No.131 6点 霧越邸殺人事件
綾辻行人
(2009/11/07 22:53登録)
「館」シリーズの番外編というべきでしょうか。
何か評価の難しい作品です。
トリックやロジックというものは横に置いといて、作品世界の雰囲気を味わうべきなのでしょう。
ただ、複雑な「館(邸)」の内部や一癖ありそうな住人など、思わせぶりな舞台装置はたっぷりあるのに、それが単なる”飾り”でしかないような印象。
その辺は、「暗黒館の殺人」にも通じる部分です。
「見立て」殺人も今一つ煮え切らない感じなので、この程度の評価ですね。
あと、とにかく長い。


No.130 9点 奇想、天を動かす
島田荘司
(2009/11/07 22:43登録)
吉敷シリーズの到達点的作品。
解説とかで書かれているとおり、本格ミステリーと社会派ミステリーが見事に融合した作品でしょう。
何より、吉敷が熱いです!(松岡修造ばりに)
今回、久しぶりに再読しましたが、トリック部分については偶然に偶然が重なって・・・というところが初読時以上に目に付いたり、豪雪の中アレとアレを持って犯人が簡単に移動できる? という部分が気になったりはしました。
そんなことより、島田氏は本作で「日本人の罪深さ」というものを吉敷の名を借りて主張したかったのでしょう。
それにしても、吉敷の台詞は泣かせます。「俺は・・・白は白、黒は黒と言い続けて死んでいきたいんだ!」
かっこいい!


No.129 7点 銀行総務特命
池井戸潤
(2009/11/07 22:12登録)
都市銀行総務部、指宿課長を主人公とする連作短編集。
作者お得意のスタイルです。
指宿が上司の特命を受け、銀行内部の不正や犯罪の調査を秘密裏に行っていく・・・というのが基本展開ですが、企業というか銀行のドロドロした内部や、サラリーマンというか銀行員の悲しき習性といったものが身につまされます。
短編のため、どの一作も無駄のない筆致と余韻を残したラストが印象に残る良作でしょう。


No.128 7点 黄金の島
真保裕一
(2009/11/03 20:58登録)
ベトナムに逃げ込んだ主人公が、現地で出会ったベトナム人とともに「黄金の島」=日本を目指して、大海原の真っ只中航海に出て・・・という粗筋。
相変わらず、何というか舞台設定がうまいですね、真保氏は。
これだけのストーリーを創るためには、毎回毎回相当な取材量じゃないかなと感じます。
本作はミステリー色の薄い、「冒険小説」とでもいうべき展開ですが、夢を賭け主人公とともに無茶な航海に出るベトナム人の少年たちには胸を打たれるものがあります。
結構な分量ですが、気にせず読める一作。


No.127 7点 峠に棲む鬼
西村寿行
(2009/11/03 18:06登録)
寿行氏といえば、大藪春彦氏と並んで70~80年代のハードボイルド小説を牽引してきた人物でしょう。
本作はそんな寿行氏の魅力を感じることのできる作品。
主人公は一族に伝わる棒術を操る美女、それだけでも氏のファンならニヤリですが、まさに期待以上の”大活躍”・・・
日本→ドイツ→孤島→日本と世界を跨いで寿行ワールド全開です。
続編もあるようなので、是非読みたいと思ってます。


No.126 8点 グレイヴディッガー
高野和明
(2009/11/03 17:47登録)
デビュー作「13階段」を上回る面白さ。
まさに帯のコメントどおり、「ノンストップ・サスペンス大作」です。
主人公の犯罪者とそれを追う謎の集団、その謎の集団を追う謎の人物(それがグレイヴディッガー=墓堀人です)が、夜の東京を舞台に三すくみの追走劇を行いますが、警察側(読み手の視点)からは、なぜそのような状況になっているのか謎のまま話がどんどん展開していきます。
必死で逃げる犯罪者と徐々に明らかになっていく事件の背景・・・まさに一気読みでラストシーンを迎えます。
ちょっと描きこみが甘い部分も目立ちますが、欠点を補って余りある面白い作品でしょう。


No.125 7点 Yの悲劇
エラリイ・クイーン
(2009/11/01 21:39登録)
世界的、歴史的名作というべきでしょうか。
ドルリー・レーンというのは名探偵として非常に魅力的な人物ですね。真犯人や事件の背景を知ってしまって苦悩する本作は、彼の魅力が強く出ている作品だと思います。
ものすごい作品だという評判を聞いたうえ読んだため、世間的な評価よりは厳しめの点数かもしれません。
有名な「マンドリン」という凶器の選択やヴァニラの匂いなど、読者が真相を解くヒントは多いですし、とにかくドラマティックな作品という印象です。
ただ、やっぱり私も”Y”よりは”X”の方がミステリー的には優れているとは思いますが・・・


No.124 4点 名探偵水乃サトルの大冒険
二階堂黎人
(2009/11/01 21:23登録)
水乃サトルシリーズの短編集。
4編とも軽い作品でサラッと読めすぎる内容。
「ヘルマフロディトス」・・・児童向けの推理クイズみたいな作品。「なんじゃこりゃ」的です。
「『本陣殺人事件』の殺人」・・・元ネタの解決について異を唱えているところのみが読みどころ。
あとの2つも評価には値しないでしょう。
蘭子シリーズの合い間にやっつけで書いたんですかね?


No.123 6点 時の密室
芦辺拓
(2009/11/01 21:12登録)
森江春策シリーズの大作。
非常に長い作品ですが、作者の意気込みは買います。
明治、昭和そして平成の現在に起こる3つの事件の謎が提示され、特に昭和と平成の2つの事件は大きな関連性があります。
途中の万国博覧会(明治時代の)についての挿話は確かに暗号的な面白さはあるんですが、ちょっと趣向が強すぎるような気がします。
現在の事件の真犯人は「えっ!」というような人物ではあるんですが、動機その他なにか納得できないですね。
全体として、プロットは面白いんだけど、なにか消化不良というか、モヤモヤ感の残る一作っていう感想になりました。


No.122 6点 死者の木霊
内田康夫
(2009/10/27 17:25登録)
”信濃のコロンボ”こと、竹村警部(本作では部長刑事ですが)シリーズの第1作。
それ以上に意義深いのは、現代の大流行作家である内田康夫を世に送り出した作品ということでしょう。
作品の内容としては、解決した殺人事件に疑問を感じた竹村が、様々な障害を乗り越えて、真相に辿りつく・・・というもの。
何となく、コロンボというよりは、フレンチ警部を思い起こさせます。(多少のアリバイ崩しもありますし)
氏の作品というと、テレビの2時間物を思い浮かべて敬遠する方も多いと思いますが、”浅見光彦物”のワンパターン旅情ミステリーに比べて、本作は作者のエネルギーのようなものを感じさせる分良いと思います。
氏のもう一人のキャラクター、岡部警部補と竹村の出会いも本作の魅力の1つでしょうか。


No.121 6点 失踪者
折原一
(2009/10/27 16:59登録)
「~者」シリーズ。
前作「冤罪者」よりは落ちます。また、作品の舞台が前作までの高円寺周辺から、氏の作品ではお馴染みの場所、埼玉県北部(久喜~白岡)に変わります。
しかし長いですねぇ。最終章の途中までは正直「どうなってるの?」と感じながら読まされます。(それが作者の狙いでしょうけど・・・)
要は、「昔の少年Aと現在の少年A」、「ユダとユダの息子」について読者が混同するように巧妙にミスリードされてるわけですよね。
今回、再読したらその辺の狙いがよく分かりました。


No.120 9点 悪霊の館
二階堂黎人
(2009/10/27 16:32登録)
二階堂蘭子シリーズ。
二階堂氏の書評は本当に好き嫌いがはっきり分かれますね。作風からいってもしようがないかもしれませんが・・・
私にとっては、本作はかなり”嵌まった”作品でした。これほどまでに「古き良き探偵小説」を復活させた作品は他にないでしょう。
秘密のある不気味な館、悪意のある遺言に端を発した一家連続殺人事件、魔術めいた密室殺人、動き出す西洋甲冑・・・etc
(横溝+乱歩+カー、ってとこですか)
どんな結末が用意されているかドキドキしながら読み進めていきました。そして、劇的な真犯人指摘の場面・・・
どんな悪評も批判も聞こえなくなるような瞬間ですねぇ。

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