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ミステリの祭典

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E-BANKERさんの登録情報
平均点:6.00点 書評数:1851件

プロフィール| 書評

No.191 4点 夢見る黄金地球儀
海堂尊
(2010/02/24 21:32登録)
作者としては珍しく、医療モノ以外のミステリー。
ただし、事件の舞台はいつもの桜宮市で、登場人物の中にも旧知の2人が出てきます。
ストーリー的には中途半端ですねぇ。「褒めるところ」が1つもありません。
ドタバタ劇の末、最後は丸く収まるのですが、純粋な意味でのミステリー作家としての氏の力量には疑問符をつけざるを得ません。
まぁ、いつものようにキャラクターは立っているので、こういう作風が好きな方はどうぞ。


No.190 8点 クロイドン発12時30分
F・W・クロフツ
(2010/02/11 23:23登録)
倒叙物の古典名作の1つ。
主役とはいえませんが、フレンチ警部が探偵役として登場。
とにかく、読んでいるうちに引き込まれます。
本作は冒頭とラストを除いて、すべて真犯人の視点で語られ、恐れや疑惑、安堵といった彼の心情が読み手の心とシンクロし、まさに感情を共有している気分にさせられます。
完全犯罪を遂行したと思い込んだ矢先に訪れたピンチ、それを乗り切ったと思い込んだあとに、フレンチ警部の明晰な推理力の前に敗北を喫する彼の挫折感・・・
できれば最後に”一捻り”あれば言うことなしですが、時代を考えればそこまで望むのは酷というものでしょう。


No.189 6点 天使の傷痕
西村京太郎
(2010/02/11 23:13登録)
第11回の乱歩賞受賞作。
ミステリーとしては単純な作りですが、被害者が残したダイイングメッセージ「天使」についての謎を中心に話が展開され、意外な犯人に行き着くという構成。
動機や事件の経緯という部分に、やや「社会派」寄りの”暗さ”が窺え、発表された時代背景かなぁと感じさせます。
デビュー間もない作品ですが、氏の文章力の確かさは十分に印象づけられました。
無駄な描写や無意味な薀蓄は一切なし、読みにくい部分も一切なく読ませます。
評点はこんなものですが、大作家「西村京太郎」を知るうえでは欠かすことのできない作品といえるでしょう。


No.188 7点 御手洗潔の挨拶
島田荘司
(2010/02/11 23:02登録)
御手洗潔シリーズの短編集。
4つの短編とも有名作かつ御手洗の魅力を堪能できます。
①「数字錠」:割合地味。トリックは、青梅街道~新宿通り界隈を知っていればすぐに思いつきます。
②「疾走する死者」:御手洗と中村警部、隈能美堂巧の3人が一同に会する豪華版!? 読者への挑戦もありますが、島田氏のある有名作を読んでいれば、あの物理トリックがすぐに思い浮かぶでしょう。
③「紫電改研究保存会」:ホームズ物の名作「赤毛連盟」を彷彿させます。
④「ギリシャの犬」:暗号については、東京の下町方面に詳しければすぐにピンとくるかもしれません。


No.187 7点 ベンスン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2010/02/05 23:29登録)
ファイロ・ヴァンス探偵譚の記念すべき1作目。
点数はかなり甘めです。
まぁ、何といっても、本作ではヴァンスの名探偵ぶりを堪能できます。
皮肉たっぷりの話し方や主に芸術関係の様々な薀蓄・・・本筋と関係ない部分を省略すれば、長さは半分くらいになったかもしれません。
とにかく、ヴァンスの主張は首尾一貫。「状況証拠には価値はない。心理的推理のみが唯一の探偵法である。」
時代が時代ですから、驚くようなトリックがあるわけではないですが、それでも歴史に残る作品という評価には十分値すると思います。


No.186 3点 思いがけないアンコール
斎藤肇
(2010/02/05 23:19登録)
かなり昔に買ったまま読んでなかった作品。
読まなくてもよかったかな・・・という印象です。
ロジックは感じるんですよね・・・一応。
狙いは悪くないと思うんですけどね・・・作者の。
「読者への宿題」を前半に提示して、さらにヒント付で「読者への挑戦」を挿入するという凝った趣向もあります。
シャム双生児のくだりではさすがにゲンナリしましたが・・・
ただ、本作は小説として決定的によろしくないと思います。読後に何らの感情も抱かせない、上滑りした書き方はどうしようもありません。(ちょっと酷評すぎるか?)


No.185 7点 列車消失
阿井渉介
(2010/01/31 22:00登録)
牛深警部の列車シリーズ。
「不可能状況設定」がウリのシリーズで、本作は、7両編成の列車の6号車だけの消失&胴体だけの死体が列車内を動く・・・などなど趣向満載です。
トリックの1つは、島田荘司のある名作の転用ですが(阿井氏自身がそう書いています)、列車の一部だけを消失させる”仕掛け”は着想がなかなか面白いです。
(ホームズ物の有名なトリックも捨てトリックで出てきますが・・・)
氏は刑事ドラマの脚本を多く手掛けた経歴のためか、犯人像や動機、事件の背景といった部分にも深みを持たせ、独特の「重い作風」に仕上げています。
本作も、まさに氏の特徴を色濃く出した作品でしょう。


No.184 4点 十三の墓標
内田康夫
(2010/01/31 21:24登録)
岡部警部シリーズ。
ただし、今回の主人公&探偵役は部下の坂口刑事です。(坂口刑事の姉夫婦が殺されたという設定のため)
初期~中期の氏の作品群では、歴史上の人物の伝説を作品背景としているケースがままありますが、本作は「和泉式部」伝説が事件の背景に見え隠れします。
”読者に謎を解かせる”という視点はそもそもなく、トリックやロジックというものとも無縁の作品のため、気合を入れて読む必要はなく、通勤時にでも軽い気持ちで読むのがオススメです。
まぁ「和泉式部」の薀蓄だけは読む価値ありでしょう。


No.183 5点 メビウス・レター
北森鴻
(2010/01/31 20:57登録)
北森氏初期の長編。
地の文の主人公、過去の手紙の筆者、共に正体をぼかしておいて、ラストで「実は・・・」という構成。
過去の事件の登場人物と現在の登場人物がシンクロしているという設定も、正直、何度も読んだ覚えのある設定です。
まぁ、叙述トリックという括りなのでしょうが、「驚き」のない”叙述”では、高い評価は望めないでしょうし、長編としてはキツイとしか感じませんでした。
他に良作も多い作者ですので、先日の早逝のニュースは残念でなりません。


No.182 5点 0の殺人
我孫子武丸
(2010/01/27 21:51登録)
速水3兄妹シリーズの第2弾。
まさに、プロット重視の一発勝負といった作品です。
ただ何となく、全体的に創りが粗いというか、もったいない感じがしますねぇ・・・
プロット的には面白いはずなので、もう少しうまい具合に料理できなかったのかなぁという印象が残りました。
冒頭の「作者からの注意」も要るかなぁ? なくても容疑者は2人程度しか増えないので、必要ないと思いますが・・・
個人的には前作(「8の殺人」)の方が好みですね。


No.181 4点 丹波家の殺人
折原一
(2010/01/27 21:36登録)
黒星警部シリーズ。
これはまさにイマイチですねぇ。黒星警部シリーズ中でも面白くない部類でしょう。
巻頭、思わせぶりに家系図が挿んであり、さもドロドロした一家連続殺人事件を想起させますが、まともなトリックは1つもありません。(あえて言えば、いわゆる足跡のない殺人でのトリックですが・・・)
ラストもドンデン返しというほどではないので、あまり気合を入れて読んでいると、肩透かしを食うかもしれません。
動機もなぁ・・・弱いよなぁ・・・


No.180 10点 風化水脈 新宿鮫VIII
大沢在昌
(2010/01/24 16:53登録)
新宿鮫シリーズの超大作。
「スゴイ作品」です。読了後もその一言しか思い浮かびませんでした。
今回の登場人物はこれまで以上に印象的です。
藤野組のヤクザ真壁、その内縁の妻・雪絵、雪絵の母、そして西新宿の謎の老人・大江・・・
鮫島を含め、すべての登場人物が「新宿」という特殊な街に翻弄されながら、どうしようもない「時の流れ」に巻き込まれていきます。
特に、雪絵の母の言葉は印象的です。「・・・せめてこの街からは逃げちゃいけないと思ったの・・・」(どういうシーンかは言えませんが) 読んでいて息が詰まりそうになりました
ラストは鮫島がかっこよく締めてくれます。
本作は、できれば単独で読まないでください。「新宿鮫シリーズ」を読み続けた読者のみが味わえる感動だと思いますので・・・


No.179 6点 八つ墓村
横溝正史
(2010/01/24 16:23登録)
金田一耕助シリーズの超有名作。
冒頭の「津山三十人殺し」と彷彿させるシーンはまさに戦慄ものです。
主人公の周りで次々と殺人事件が起こる謎、「なぜ殺されるのか?」という部分が本作のキモでしょう。
これまでの書評でも書かれていますが、本作にはロジックというものはなく、金田一も事件当初から一貫して「傍観者」的な立場であり、最後になって「実は・・・」という展開です。
まぁ、これをどうこういう気はないのですが、本作については映像の方がうまく世界観を表せるような印象です。


No.178 7点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2010/01/24 16:09登録)
奇才、泡坂氏の処女長編作品。
マジックに絡んだ短編集を作中作として挟み込むなど、処女長編とは思えないほどの技巧を凝らしてあり、「さすが・・・」と思わせます。
作中作はいわゆるミスリード的な使われ方ですが、あまり本筋には関係ないように感じますし、単純にマジックをテーマにしたショート&ショートとして読めば面白い出来です。
最後の解決シーンで、○○○症について伏線を指摘され、第1部(マジックショーのくだり)を読みながら感じていた違和感に思い至り、「成る程ねぇ・・・」と納得。
「乱れからくり」より好きかもしれません。


No.177 6点 頼子のために
法月綸太郎
(2010/01/16 23:14登録)
悩めるリンタローの契機となった長編。
久々に再読。
初読した10数年前は「ロジックをこねまわしているだけ」や「なんか、優柔不断な作風」と感じ、即座に「駄作」と思い込んでいた本作ですが・・・
今回再読してみると、「それ程悪くはないなぁ」という評価に変わりました。
手記や日記の仕掛けは作者の得意とするところですが、その点でも本作はよくできている部類だと思います。
個人的には真犯人の考え方や動機については、全然納得できないのですが、タイトルはいいですね。
まさに「・・・のために」なんですねぇ。


No.176 4点 湯煙りの密室
中町信
(2010/01/16 23:03登録)
叙述の名手の放つ中途半端?な長編。
本作、「叙述物」としても「密室物」としてもクオリティーは低いと言わざるを得ません。
受験生である被害者が、大雪の試験日に偶然乗り合わせた1台の車・・・その「同乗者」が誰か?というのが本作の「仕掛け」に繋がっていくのですが、魅力的なプロットに比して、解答は陳腐な出来です。
温泉場での準密室トリックも、○○(そんなの知らない!)が伏線になってますし、ちょっと肩透かしですねぇ・・・
捻りも少ないので、ミステリー好きなら真犯人はすぐに分かってしまうかもしれません。


No.175 9点 網走発遙かなり
島田荘司
(2010/01/11 23:43登録)
シリーズ外の作品。作者には珍しい連作短編集。
「丘の上」「化石の街」「乱歩の幻影」そして表題作の全4作の構成。
久々に再読して、地味ですが味わいのある「名作」だという思いを新たにしました。
それぞれは独立した短編ですが、ある人物とある一家が共通して登場しており、途中まではそれがどういう関係を持っているのかが謎になっています。そして、最終作ですべての関係・謎が明らかになり、感動・・・
全体的には、「都市論」や「徐々に狂気に支配される女性」といった島田氏らしいテイストも盛り込まれており、特に最終作は、名作「奇想、天を動かす」を思い起こさせます。
氏の作品に関しては、派手なものより、本作のような”しみじみ系”の方にむしろ良作が多いと思いますね・・・


No.174 7点 銀行狐
池井戸潤
(2010/01/11 23:26登録)
作者の処女短編集。
表題作のほか、「金庫室の死体」「現金その場限り」「口座相違」「ローンカウンター」の全5作。
本作は、氏得意の連作短編集ではなく普通の短編集ですが、どれもなかなかの”切り口”で、短編の醍醐味が味わえます。
中では「金庫室・・・」が一番面白いですかねぇ・・・
被害者の預金通帳一つでさまざまな推理が展開されるシーンは、「銀行ミステリー」の第一人者(他にいませんけど)たる作者の面目躍如といった感じですし、ラストのどんでん返しも効いています。
やっぱり、「人間の欲望」と「金」「事件」は切っても切れない関係なんでしょうね。


No.173 8点 テロリストのパラソル
藤原伊織
(2010/01/11 23:13登録)
史上初の乱歩賞&直木賞のダブル受賞作。
さすが、その看板に偽りなしで、面白い小説だと思います。
途中、なかなか事件の全体像や背景が見えにくくなっていて、ちょっとモタモタ感があるのが玉に瑕かもしれませんが、ラスト、黒幕の○○と対決する場面は名シーンですね。
それまでの謎が一気に解決していきます。(そんな偶然が重なるか?という気もまぁしますけど・・・)
処女作としては、浅井や塔子といったサブキャラの造形も魅力的ですし、やはり、つくづくも作者の早すぎる死が惜しいなぁと思ってしまいます。


No.172 7点 死体を買う男
歌野晶午
(2010/01/07 23:16登録)
「作中作」の中で、乱歩と萩原朔太郎を探偵役とした珍しい設定の作品。
「双子トリック」をはじめ、細かい部分については特段見るべきところはないような気はしますが、作品全体の設定というか”試み”がいいですね。
「~家の殺人」シリーズでは、まだまだ”若さ”が目に付いていましたが、氏が作家として成熟していくきっかけとなった作品なのでしょう。
しかし、新本格の作家って「アナグラム」が好きですね・・・個人的にはあまり魅力を感じないんですけど。

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