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ミステリの祭典

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砂の城
鬼貫警部シリーズ

作家 鮎川哲也
出版日1963年01月
平均点7.31点
書評数13人

No.13 6点 nukkam
(2022/07/17 17:48登録)
(ネタバレなしです) 1963年発表の鬼貫警部シリーズ第6作の本格派推理小説です。このシリーズらしく鬼貫以外の警察官による地道な捜査と犯人絞り込み、そして犯人のアリバイ崩しがとん挫した後半に探偵役が鬼貫に交代してアリバイトリックを見破って解決というプロットパターンです。本書の個性は2つの事件で異なるアリバイが用意されていることでしょう。片方は鉄道アリバイですがもう片方がちょっと変わっており、鍵付き鞄の中の雑誌トリックとでも言うのでしょうか。時刻表を見るのが苦手な私としては鉄道トリックばかりではありませんよという作者の主張は褒めてあげたい気持ちもありますけど、何というか最初から小手先トリックの雰囲気がぷんぷんしていているところが微妙でした(トリックは結構コロンブスの卵的で意表を突かれましたけど)。あと鉄道トリックについては光文社文庫版の巻末解説で、作者が用意した正解以外のトリックもあることを指摘されて(慌てた?)作者が他のトリックが使えないような仕掛けを追加して改訂したというのが面白いです。測量ボーイさんのご講評での指摘の通り、現代だったら警察が時刻表検索アプリを使って一発解明して鬼貫の出番なしに終わっちゃうんでしょうけど(笑)。

No.12 8点 mediocrity
(2021/07/09 05:16登録)
<ネタバレあり>


犯人の様々な工作の徹底ぶりには苦笑してしまいました。特に雑誌の指紋の件は印象に残りました。やりすぎて墓穴を掘ることになる(レコードとそれを入れるカバンの件)のも面白い。
鉄道アリバイ部分は、新幹線がないというだけで70年代以降の物と随分印象が違って新鮮でした。解説のついていない電子書籍で読んだので加筆・修正に関しての情報が得られなかったんですが、「関西本線経由の方が楽なのに」と指摘されて、加筆して霧で延着させることにしたということなんですかねえ。自分はそちらのルートの方がすぐにわかりましたがどうなんでしょう。
ところで、鉄道のアリバイ崩しものは電子書籍とは相性が良くないですね。5つくらい挿入されていた時刻表を行ったり来たりするのは大変だし、そもそもスマホだと良く見えないし。


作中に登場した謎の歌手ビクター・カーンについてちょっと気になったので調べてみました。
Victor Carneはイギリスのテノールで、1920年代には歌手として活躍しSPも数枚出ています。しかし、若くして引退し、レコード制作側(EMIなど)にまわったようです。戦後は歌手活動も時々やっていたようで、1951年にWestminsterから、作中で言及された『冬の旅』全曲を出しています。Youtubeにあります。

No.11 7点 クリスティ再読
(2021/02/28 22:43登録)
いやね、評者関西在住なんだ。そんなわけで、本作の鉄道トリックというのは、生活感覚的にすぐに見当がつく(本命もそうだし、別解に当たる霧による延着の方もそう。今はない電車だが、似たような路線はある)。だから、本作の鉄道トリックに価値がない...と即断する方がいる、というのは分かるんだけど、そういう判断基準だと「鮎川哲也の面白さ」をどこまで味わえるのだろう...と危惧する部分も大きいんだ。
評者が今回読んだのは角川文庫版なんだけど、この本の解説が栗本薫でね、実は評者この解説が鮎哲の本質論として、実に当たってる、と思うし、共感するところ大なんだ。

第二の時刻表、そして行動のスケジュール表。見出される第三の乗替駅。鈍行が急行においつき、準急が特急を追いこすこのひそやかで心やさしい奇蹟。そうだ―奇蹟はこの世にまだ存在していた。空間はゆがめられ、時間はメビウスの輪となって振出しにもどってゆく。この贅沢な永劫回帰、証明された、時間旅行の秘密。

この鮎哲讃歌を、評者はぜひ紹介したくて仕方がなかったのである....いやこういう奇跡とかロマンの瞬間が、きっちり決まるか決まらないか、で鮎哲の作品を判断してもいいんじゃないか。本作では、そういう奇蹟がちゃんと、起きている。それだけではなくて、鬼貫がそれを発見していくさまも、本作だとちょっと皮肉に作者が誘導しているのが、実にナイスな成り行き。この誘導の筋が評者は早々と見えたこともあって、頬が緩みっぱなし。いやいや、「すぐに、わかる、だからダメ」とかミステリの楽しみって、そういうものじゃないと思うんだ。

鮎川哲也の本を手にして、ぼくが最初に思うこと。―それは、奇妙なことだが、いつも同じある深い<安心感>とでも呼ぶほかないものだ。

とこの栗本解説だと、冒頭で鮎哲の「安心感」を掲げている。ワンパと言うなかれ。鮎哲は日常の中に埋もれた「奇蹟」を起こして見せるが、その「奇蹟」はそれを「奇蹟」と見る目のある読者にしか、「奇蹟」として見えないのかもしれない。それでもね、それは実に心休まるなつかしい「奇蹟」なのである。

(いや本作だと、フェアさ、という意味だと、本線の手がかりになる時刻表をどこに入れておくか、というので工夫しどころがあると思う。この時刻表がどういう目的で入っているか、に注意して読むと作者の意図が見えて面白いと思うよ)

No.10 7点 斎藤警部
(2016/06/22 11:45登録)
とっくの昔に読んだと永年勘違いしてたのを初読、家にあった古い角川文庫。未発表の長篇を発掘された様でちょっと得した気分。
タバコ屋のおやじに通話料を払ったり、合鍵一つ作るのに一手間だった(従ってアリバイ成立にじゅうぶん関わり得た)時代か。。浜松町辺りの本屋の名前が粋だねえ。7.49で惜しくもの7点。

鉄道と雑誌、二つのアリバイトリックの衝撃は弱くスマートとも言えませんが、それぞれの捜査過程、それぞれ更に地方刑事篇と鬼貫篇(但し一部の地方刑事と同行)に分かれるその過程がそれぞれに滋味深く面白く(めちゃそれぞれ言うてます)、やはりどこを切っても玩読出来る、ありがたい一冊でした。そうそう、二つの事件の接点が見えた瞬間から急速に繋がり始める、真相解明の有機的拡がりがね、地味ながら腹にずっしり来る要所連峰でしたね。
言い間違えてネズミイラズw なにしろインテリタイプ、てどないなタイプやw パンをたべているふたり連れ。。
複数のアレを使ったアリバイトリック、黒いやつや朱のやつもそうだけど、クローズアップマジックを連想させる脳内手品が本当に鮎川さんは得意なんですなあ。
 
贋作ローンダリングの遡及追跡はポイント過多で眩惑の魅力満載!まるでハードボイルド流儀を思わす込み入り様ですが、一方でその最中に忍び込むクスクス笑いを誘う鮎川さんの珍妙な名前趣味、いつもながらキュイっとやられてしまいました。
「だけど、あのふたりはそのどちらでもなかったです。」 おぉう、そこのアナタ見てたねぇ。
鬼貫の登場も最高、それ以前の刑事達も最高。鬼貫登場から瞬殺で捜索の空気が引き締まり、一ページ、一ページが冷静にしてスリルに満ちた偽装アリバイ崩しの水際立った領域を敢然と航行。このせいぜい数十頁の、表情は厳しくも語り口はアットホーム、どこか寂しげで濃密な最終コースは、それ迄の主に地方刑事達による、激しい展開にもどこかしら緩さと優しさを見せた捜査物語の存在感あったればこその際立ち。
最終章、警察側第二の主役と見える島根の槇刑事(EXILEオリジナルメンバーMAKIDAIの親類筋かも知れん)の口から全真相の纏めが語られるという細やかな構成の妙も良い。彼は鬼貫と違って酒がイケる口の所帯持ち。。

No.9 6点 いいちこ
(2016/01/13 16:58登録)
時刻表の盲点を突いたアリバイトリックは、非常に古典的なもので、現代の読者にとっては、いささか古さを感じさせる印象。
しかも、犯行に利用された経路以上に合理的な経路が存在することが判明し、後日加筆・修正されているのだが、相当に苦しいエクスキューズとなっている。
サブトリックも含めて、論理性・合理性・フィージビリティには見るべき点もあるのだが、トリックの難易度が低く、衝撃を演出できていない。

No.8 7点 あびびび
(2015/09/07 16:57登録)
時刻表のアリバイトリックは、他にも可能性があることを指摘されたみたいだが、殺人犯が使ったルートが分かればそれで良しではないか。

急行いずもが、豊岡、浜坂と、いわゆる山陰本線を通っていたことが興味深い。現在は姫路、上郡から智頭急行線を通って鳥取へ出るのが定番である。さらに、鳥取市の人口が5万人と言うことに驚いた。松江市の方が大都市ぽく書かれていたが、現在ではそうは変わらないだろう。

No.7 8点 ボナンザ
(2014/04/07 15:24登録)
初期の傑作の一つ。この頃から旅先の情緒なども取り入れる様になってきた。トリックは当然一級品。

No.6 7点
(2010/07/06 21:01登録)
鳥取砂丘での死体発見から被害者の身元特定、動機になった絵の発見、容疑者の絞込と、アリバイ崩しに入るまでも、いかにもクロフツ由来の地道な捜査が描かれます。冒頭の山陰の雰囲気も、知的な興味を邪魔しない程度になかなかよく出ています。
二つの事件のそれぞれ異なるアリバイについては、崩していくプロセスがやはりうまいと思います。
問題の絵の署名は、私が読んだ角川文庫版ではBlamancとなっていて、これは『死者を笞打て』で妙な作家名を連発していた作者らしい遊びかとも思っていたのですが、現在出版されている光文社文庫版では、Vlaminckという実在の画家名に変更されていました。以前のは単なる凡ミスだったのでしょうか?

No.5 6点 E-BANKER
(2010/03/20 18:15登録)
鬼貫警部シリーズ。
典型的な「時刻表アリバイ崩し」物です。
メインの東京・鳥取間のアリバイトリックは、鉄道ファンくらいにしかウケないレベルですねぇ・・・
確かに昔はこういう純粋な「鉄道路線と時刻表の盲点」を付いたトリックが成立していましたが、21世紀の現代ではありえないトリックになってしまいました。(私が最後に読んだ純粋な盲点利用トリックは、多分、西村京太郎「寝台特急『あかつき』殺人事件」)
ただ、サブのアリバイトリックは、解決方法こそ残念ですが、カバンと鍵と週刊誌をうまく絡ませてある点で、さすが「鮎川」と感じさせます。

No.4 8点 測量ボ-イ
(2009/06/13 10:51登録)
(多少ネタばれ有)

時刻表を用いたアリバイ破りの教科書的(?)作品。
そういうのが好きな人には自信を持ってお勧めできます。
舞台が山陰(鳥取、島根)でロ-カル色も豊かです。
でもこういう列車、国鉄末期~JR化後の合理化で今は
もうないんでしょうねえ。

(2019.8.17 追記)
この夏休み中に再読。メイントリックも今となっては
時刻表検索アプリで一発・・・なんて味気ないことは
やはり考えたくない(苦笑)。

No.3 6点 ギザじゅう
(2004/02/17 14:50登録)
とある刑事がアリバイ崩しに挑んで敗れた後を鬼貫警部が引き継ぐという鮎哲のゴールデンパターン・・・ながらも、今回のアリバイはさほど堅固には感じられなかった。
解決に至るプロセスも鉛筆や笹団子といった小物からヒントを得るといったパターンにも乏しかったのも残念。
単なる偶然でアリバイが立証されるというのも手落ちのようだし、丹那刑事が出てこないのも残念かな?
とは言っても、充分に楽しめることは間違いない。

No.2 9点 myk
(2003/11/12 22:54登録)
いつもながら非常に緻密に考えられていて楽しかった。週刊誌のトリックはいささか残念?でしたが時刻表のほうはなかなか満足できました。やはり偉大な人でしたね。

No.1 10点 岩永 寛毅
(2003/08/08 17:28登録)
週刊誌と時刻表の2つのトリックがあるけど私はだんぜん時刻表が好き 初めて読んだときに、ある駅にある列車が到着するシーンでは背筋がゾーとしたことを20年経った今も憶えています

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