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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.399 6点 ファンレター
折原一
(2011/01/21 22:10登録)
講談社版では「ファンレター」ですが、文春文庫版では「愛読者」と改題し、同社の「~者」シリーズの1つとして発売されてます。
今回は文春文庫で再読。
謎の覆面作家「西村香」をめぐって巻き起こる事件の数々が、連作短編形式で綴られます。
①「覆面作家」=徐々に高まる人間の「狂気」。折原得意のプロットですね。
②「講演会の秘密」=これも同様。オチは想定内。
③「ファンレター」=これも同様。オチも想定内。
④「傾いた密室」=「手紙」形式が最後に効いてくる。決して「密室物」ではありませんので・・・
⑤「二重誘拐」=「だから何?」
⑥「その男、凶暴につき」=北野武とは何の関係もありません。パクリでもありません。
⑦「消失」=中西智明の作品とは何の関係もありません。パクリでもありません。
⑧「授賞式の夜」=①~⑦のオチ的作品。
⑨「時の記憶」=⑧で終わりでよかったんじゃない?
以上9編+αあり。
共通するプロットが何度も登場します。全体的にシャレのような作品なので、あまり目くじら立てずに軽~い気持ちで読みましょう。
(覆面作家・西村香とは、もちろん北村薫氏のことですが、ここまで下世話に書かれて、よく出版させたなぁーと思ってしまいます)


No.398 6点 新幹線殺人事件
森村誠一
(2011/01/21 21:56登録)
アリバイ崩しを主題とした作者初期の本格ミステリー。
光文社の新装版で読了。
~「ひかり66号」に流れる鮮血。殺された男は、芸能プロダクションの実力者だった。折しも、万博の音楽プロデューサーという巨大な利権をめぐり、2大芸能プロの暗闘が続いていた。犯人はライバルプロダクションの人間か? 「ひかり」に絶対追いつけない「こだま」、新幹線の時間の壁が捜査陣の前に立ち塞がる~

仕掛けられたアリバイトリックは2つですが、2番目のトリックは非常に分かりやすくてやや低レベル。(推理クイズなんかによく出てくるたぐいのものです)
やはり、メインは新幹線を舞台にした最初のトリック。
もちろん、今読めば「なぁーんだ」という程度の感覚なのですが、トリック自体、作者らしく非常に丁寧に作りこまれているのがウレシイ・・・
何より「発想の転換」とでもいうべき解法(作中では「水平思考アリバイ」などと呼んでますが・・・)がいいです。「ひかり」に決して追いつけないはずの「こだま」に乗っていた男が、いかにして殺人を行ったのか? 新幹線電話を使ったトリックというのも当時は斬新だったのでしょう。
「大阪万博を間近に控えた頃の芸能界」という舞台設定もなかなか面白く読ませていただきました。
(この頃の日本は、活気や夢があってきっといい時代だったんでしょうねぇ・・・)


No.397 7点 モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編-
エドガー・アラン・ポー
(2011/01/21 21:42登録)
E.A.ポーのミステリー(的な作品も含む)作品集の新潮文庫版。
小難しい例え話などがいろいろ挿入されていて読みにくいですが、やはり歴史的意義は感じさせてくれます。
①「モルグ街の殺人」=言わずと知れた第1号ミステリー。もちろん、現代的感覚からすれば穴だらけの作品なのですが、「密室」や「意外な犯人」などその後の作品に与えた影響は計り知れないものがあると感じます。
②「盗まれた手紙」=これまた言わずと知れた作品。ポーミステリーの最高傑作という評価も多いようですし、こういう発想自体に作者の力量を感じてしまいます。
③「群衆の人」=「!?」 哲学的な話なのでしょうか? 高尚過ぎてよく分かりませんでした。
④「おまえが犯人だ」=これは傑作。オチが何とも言えずブラックで、インパクト抜群。
⑤「ホップフロッグ」=寓話的な勧善懲悪話。よくある話のように思いましたが・・・
⑥「黄金虫」=これも有名な暗号モノ。暗号の仕掛けについては今となっては古典的ですが、何とも言えぬワクワク感を抱かせます。
以上6編。
珠玉の作品集と言っていいかもしれません。現代の目の肥えた読者にとって満足できるかといえば疑問符なのですが、ミステリー好きならば、やはり一度は手にとって読むべきでしょう。
(①②⑥辺りは有名ですが、④⑤もなかなか深い作品だと思います。)


No.396 8点 天使のナイフ
薬丸岳
(2011/01/16 16:58登録)
第51回江戸川乱歩賞作品。
確かに近年の乱歩賞受賞作の中でも出色の出来と言っていいでしょう。
~生後5か月の娘の前で妻は殺された。だが、犯行に及んだ3人は、13歳の少年だったため罪に問われることはなかった。4年後、犯人の1人が殺され、檜山は容疑者となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺してない」。裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描く!~

本作のテーマは「少年(少女)犯罪」・・・。
少年3人に最愛の妻を殺された主人公桧山貴志が、加害者が殺されていく新たな事件に巻き込まれながら、過去の妻殺しの謎に迫っていきます。
まぁとにかく「重いテーマ」ですよねぇ・・・「少年犯罪と少年法」といえば、例の山口県光市で起きた母子殺人事件が思い浮かびますが、権利を保護すべきなのは「未成年」なのか「被害者家族」なのか・・・たいへんに難しい問題ですし、立場変われば意見も変わるという見本のような気はします。
それはさておき、ミステリーとしても本作はなかなかのレベル。処女作ですから、もちろんいろいろとアラはあるのですが、割と静かに淡々と進んでいく前半部分から一変、後半は隠されていた構図が次々と明らかになり、怒涛のラストへ・・・という展開。息つく暇がありません。
過去の「少年犯罪」がここまで複雑に、そして偶然に絡み合ってしまうやりきれなさ、そして最後に知る驚愕の事実・・・というわけで作者渾身のプロットと言っていいでしょう。
「こんな偶然あるわけない!」というのは当然の意見かもしれませんが、それが本作のエネルギーになっているんだろうという気がしますねぇ・・・
(作者の拘りと熱い思いに敬意を表します。)


No.395 8点 オレたち花のバブル組
池井戸潤
(2011/01/16 16:41登録)
前作「オレたちバブル入行組」に続く、銀行員半沢直樹を主人公としたシリーズ2作目。
経済ミステリーなどという中途半端なジャンルとは無関係・・・あえて言うなら「痛快! 銀行版勧善懲悪シリーズ」とでも言うべき作品です。
~東京中央銀行営業第2部次長・半沢は、巨額損失を出した老舗ホテルチェーンの再建を押し付けられる。おまけに近々、金融庁検査が入ると言う噂が・・・金融庁には、史上最強の「ボスキャラ」が手ぐすね引いて待ち構える。一方、出向先で執拗ないびりにあう近藤は、またも精神のバランスを崩しそうになるが・・・空前絶後の貧乏くじを引いた男たち。絶対に負けられない男たちの戦いの行方は?~

細かいストーリーや設定はさておき、「これ、越後屋。そちも悪じゃのぉー」「お代官様こそ!」という時代劇お決まりのシーンが、そのまま架空の銀行、「東京中央銀行」という本作品の舞台で繰り広げられます。
主人公・半沢のポリシーや行動力は、同じサラリーマンとしては羨ましい限り! 「自分もこんなセリフを上司(アイツとアイツ・・・)に言ってみたい!」などという熱い気持ちにさせられました。(無理だろうなぁ・・・)
本作のもう一人の主人公、近藤が悩みの中から自分自身を取り戻し、立ち直っていく姿にも大いに勇気付けられます。
いろんな意味で、日頃、会社や上司、社会、その他モロモロに虐げられているすべてのサラリーマン必見の一冊!と言いたい気分です。
ラストはやや中途半端でしたが、これは次回作への含みでしょうか?
(「!」が非常に多い書評になり失礼しました。ついつい興奮したもので・・・)


No.394 5点 天使の歌声
北川歩実
(2011/01/16 16:26登録)
元出版社社員、嶺原克哉を探偵役とする短編集。
一捻りの効いた作品が並びます。
①「警告」=ラストがやや唐突。事件全体の構図が分かりにくいせいか、サプライズ感は今ひとつ感じませんでしたねぇ・・・
②「白髪の罠」=プロットとしては面白い。こんな偶然の連続を看破する嶺原はなかなかスゴイ。登場人物すべてに何らかの役割が割り振ってるのがどうか?
③「絆の向こう側」=実の親と育ての親、そしてそれぞれの「絆」・・・感動するというほどではないですが・・・
④「父親の気持ち」=これも何となく全体的な構図が分かりにくい。作者の狙いはよく分かりますが・・・
⑤「隠れた構図」=殺人事件と盗撮事件そして、不倫。3つの事件の裏の繋がりを探るのが本作のプロット。
⑥「天使の歌声」=表題作だが一番の駄作では? 
以上、全6編。
「家族」や「親子」などがテーマになっている作品が多く、近しい人の間で意外な関係が! という仕掛けがあちこちに用意されてます。
「小粒でもピリリと辛い」という見方もできますが、ちょっとインパクトに欠け、何となくモヤモヤした作品が多いような気がしますねぇ・・・
(中では②か⑤辺りがお勧めレベルでしょうか)


No.393 5点 フレンチ警部と紫色の鎌
F・W・クロフツ
(2011/01/10 22:30登録)
フレンチ警部シリーズの第5作。
映画館の切符売りの女性だけが狙われる連続殺人事件の謎にフレンチが挑みます。
~映画館の切符売りをしている娘がフレンチ警部の元に助けを求めてきた。ふとしたことから賭け事に深入りして大きな借りをつくり、怪しげな提案を受け入れざるを得なくなったというのだ。ところが、相手の男の手首に鎌のような紫色のあざを見たとき、変死した知り合いの娘のことが思い出されて・・・~

フレンチ警部といえば、地道かつ丹念な捜査を続けていくなかで、「ついに光明が!」という展開がいつものパターンですが・・・
今回はいつにも増して苦労の連続。
自宅で捜査の助言を愛妻に頼るほど行き詰ることに・・・(フレンチの妻は実際、「フレンチ警部最大の事件」で事件を解く鍵をフレンチに与えた実績あり!)
殺人事件の謎よりも、切符売りの女性を利用してある大きな犯罪が行われており、本作ではこれを暴くことがメインテーマになります。
ただ、読者にとっては、事件のカラクリ自体の想像はつくものの、だからといって特にトリックやロジックがあるわけでもなく、サスペンス性もそれほどないわけで、どこを楽しんでいいのか分からない作品。ただ単に、フレンチがもがき苦しむさまを延々と読まされる感じになってしまいました。
ラストは犯人グループとの格闘シーンまであり!(ただし、ハードボイルド的な要素も特になし)


No.392 8点 御手洗潔のダンス
島田荘司
(2011/01/10 22:16登録)
タイトルどおり、御手洗物の短編集。
久し振りに再読しましたが、この頃の「御手洗物」はよかったなぁ・・・という思いを新たにしました。
①「山高帽のイカロス」=いかにも「御手洗物」の短編といった典型的作品。トリックの奇想天外さも作者らしさがよく出てます。普通の作家なら「空飛ぶ死体」止まりだと思いますが、東武電車まで登場しちゃいますからねぇ・・・(小田急も)
②「ある騎士の物語」=名作「数字錠」などとテイストが重なる暖かい作品。トリックは奇抜ですが、冒頭の地図を見た時点で予想の範囲内。あと、秋元静香に向けて言った御手洗のセリフが秀逸。(なかなか真似できないけど・・・)
③「舞踏病」=これも「御手洗物」らしく実に荒唐無稽である種笑える作品。伏線がかなりあからさまなので、石岡君以外なら真相に迫れるはず。
④近況報告=読者の期待に応えて、御手洗の近況を報告するというレポート?(斬新!) わざわざこんなものを入れる意味はともかく、途中出てくる医学的な話題(DNAとか脳科学とか)はこの後の御手洗シリーズのメインテーマになっていくという意味では興味深い。
以上、3編+1。
やっぱり、御手洗物の短編集ならば「~挨拶」か「~ダンス」が突出してる気がします。
作品が短い分だけ、氏の奇想天外トリックが「唐突で付いていけない」という感覚を与えてしまう面もありますが、個人的には、やはり”島田荘司はこうでないと・・・”という気がしてなりません。


No.391 5点 ジェシカが駆け抜けた七年間について
歌野晶午
(2011/01/10 21:58登録)
「葉桜~」の次作のノン・シリーズ作品。
少々変わった味わいを感じました。
~米国ニューメキシコ州にある長距離専門の陸上競技クラブ。日本人が主宰するこのクラブの所属選手、エチオピア出身のジェシカは、日本人選手アユミ・ハラダの異変に気付いた。アユミは夜ごと合宿所を抜け出し、呪殺の儀式を行っていたのだ。アユミがそこまで憎む相手とは誰なのか。彼女の口から明かされたのは意外な人物の名前と衝撃の過去だった!~

ワン・アイデア一発勝負の叙述物ですよね?
普通の叙述作品では、読者にバレないよう時間軸がズラされるわけですが、本作の場合では設定そのものに「時間軸をズラす(というか解釈の違い?)」仕掛けが施されているということになります。
これを楽しめるかどうかで評価が分かれるということでしょう。
ごく最初に「エチオピア時間」なるものが出てきた時点で、作者の企みの方向性が分かってしまうことになってしまい、個人的な評価は微妙に・・・
あと、作品の構成自体ちょっといびつな気が・・・この章のあそことあの章のこの部分ねじれて・・・というのが正直分かりにくいし、やや唐突。(そもそも、ねじる意味あるの?)
ということで、高い評価はできない作品ですが、やはり「目の付け所」には感心させられますねぇー
(結局、「分身」の件は意味があったんでしょうか?)


No.390 7点 獄門島
横溝正史
(2011/01/06 23:05登録)
金田一耕助シリーズの超有名作。
一応初読ですが、TVシリーズ(古谷一行の)や映画(石坂浩二の)で何度も見てるため、中味についてはほとんど知っている作品。
~ニューギニアで共に戦った鬼頭千万太の最後の言葉を胸に、鬼頭家が網元として君臨する獄門島へ降り立った金田一耕助。耕助がそこで見たものは、雪枝・月代・花子の3姉妹がいる本家と、志保・儀兵衛が取り仕切る分家とが反目しあう一族の姿だった。やがて、千万太の予言どおり血も凍る殺人事件が発生する!~

まぁ何というか、一種の「様式美」というような気がしましたね。
金田一はやはり金田一で、途中、何度も殺人事件を防ぐチャンスがあったのに、いずれも邪魔が入り、結局三姉妹は全員殺されてしまうという展開・・・
例の有名な「見立て」は、やっぱり映像で見るほうがいいですね。「見立て」というと、どうしてもその必然性が問題になるわけですが、本作ではトリック的な意味ではなく、いわば”強迫観念”とでもいうべき背景があり、あまり謎解きの面白みはないところが微妙です。
これも有名なフレーズ、「気○ちがい」(今では放送禁止用語?)については、作中に”これでもか”というくらい繰り返し出てきます。ただ、これも「与作松」が結局、事件に全く絡まないままフェードアウトしたところがちょっと物足りない気が・・・
何となく辛口の書評になってしまいましたが、時代性を考えれば十分に評価できる作品だと思いますし、やはり「様式美」溢れる作品という評価で良いと思います。


No.389 6点 ななつのこ
加納朋子
(2011/01/06 22:48登録)
作者デビュー作の連作短編集。
作中作として出てくる「ななつのこ」を巡って、主人公の駒子が作者である佐伯綾乃に送る書簡の中で日常の謎が鮮やかに解決されます。
①「スイカジュースの涙」=道路に転々と落ちている赤いシミは血かスイカジュースか? 登場人物(と動物)を当て嵌めていけば自然に答えは出てくるような気がします。
②「モヤイの鼠」=わずかの時間に絵画が入れ替わった謎は? 真相は「そんなこと?」という程度。
③「一枚の写真」=アルバムの中から1枚だけ抜き取られた写真の謎? 真相は心温まる内容。
④「バス・ストップで」=ここから本作中での重要人物”瀬尾”が登場。語られる老婦人の謎はちょっとしたこと。
⑤「一万二千年後のヴェガ」=デパートの屋上にあるゴム製の恐竜が空を飛ぶ謎とは? 本筋よりも一万二千年後にはヴェガが北極星になるということの方が「へぇ-」という感想。
⑥「白いタンポポ」=文字どおり白いタンポポの謎とは? 子供は元気ハツラツなだけがいいわけではない・・・ということ?
⑦「ななつのこ」=表題作に相応しいオチ。連作短編集らしく、これまでの話にも一連の”流れ”があったことが分かります。「ななつのこ」にも二重の意味があったんですね。
以上7編。
さすがに評判の作品だけあって、作品世界にどっぷりと浸ってしまいました。
いわゆる「日常の謎」ですが、個人的にはそれほど”ストライク”ではないのでこの程度の評点で・・・


No.388 7点 緋色の研究
アーサー・コナン・ドイル
(2011/01/03 13:07登録)
名探偵シャーロック・ホームズ初登場の記念すべき作品。
小学生時代にジュブナイル版で読んで以来の再読。
~異国への従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトソン。下宿先を探していたところ、同居人を探している男を紹介され、共同生活をおくることになった。下宿先はベーカー街221番地。相手の名はシャーロック・ホームズ。2人が始めて手掛けるのは、米国人旅行者の奇怪な殺人事件。その背後に広がる、長く哀しい物語とは?~

プロット云々とうよりは、ホームズとワトソンの出会いや、探偵方法に対するホームズの考え方や姿勢など、それ以外のパートがなかなか興味深かった印象。
本作の白眉は、やはり「動機」について十二分にスポットを当てた「第2部」でしょう。ミステリーが単なる謎解きではなく、一つの「文学、読物」なのだという作者の強い意志を感じさせられます。
まぁ、ミステリー好きであれば、絶対に一度は接するべき作品という扱いでいいでしょう。
作品中の一場面、ホームズがデュパンやガボリオをこき下ろすシーンは、御手洗潔がホームズをこき下ろすシーン(「占星術殺人事件」)とぴったり符号するんですねぇ・・・


No.387 5点 ダナエ
藤原伊織
(2011/01/03 12:56登録)
作者らしい作品が並ぶ短編集。
全体的には他の作品に比べて「やや弱いかな」という感想。
①「ダナエ」=展示中にナイフで刻まれたレンブラントの名画「ダナエ」と同じように、刻まれ硫酸をかけられたある「絵画」をめぐる作品。一人の画家が有名になる過程では、その犠牲となった一人の女性がいた・・・作者らしいプロット。
②「まぼろしの虹」=マスコミ関係者が主人公の作品は藤原氏お得意のプロット。登場する一人の女性がなかなか印象的。
③「水母(クラゲ)」=これもマスコミや映像関係が舞台の作品。あまり印象に残らず・・・
以上3編。
割合暗めの作品ばかりで、死期が迫っていたこの頃の作者の内面が表れているような気がします。
①以外はちょっと駄作かなぁ・・・


No.386 7点 ジーン・ワルツ
海堂尊
(2011/01/03 12:44登録)
クールウィッチ(冷徹な魔女)と渾名される産婦人科医、曾根崎を主役に据えた医療ミステリー。
来月には映画公開も控える話題作(?)
~帝華大学医学部の曾根崎理恵助教は、顕微鏡下体外受精のエキスパート。彼女の上司である清川五郎准教授もその才を認めていた。理恵は大学での研究のほか、閉院間近のマリアクリニックで5人の妊婦を診ている。年齢も境遇も異なる女性たちは、それぞれに深刻な事情を抱えていた。生命の意味と尊厳、そして代理母出産という難問に挑む~

これは深い「テーマ」。
正直、短いスパンで乱発気味の海堂作品は「もう(読まなくて)いいかなぁ・・・」的気分だったんですが、本作は例外で「十分面白く」読ませていただきました。
作品の主題となる不妊治療や人工授精、代理母の問題などは、仕事の関係で一時期リサーチをしていた経緯もあって、曾根崎の主張や、それに敵対する医学界・清川医師の保守的な考え方など、かなり興味深く、また考えさせられる問題だなぁという気分にさせられます。
確かに「ミステリー的要素」はあまりないのですが、そもそも「妊娠」そのものが今でも十分「ミステリー(神秘的という意味で)」でしょうから、まぁそれでよしということで・・・
それにしても、相変わらず海堂ワールドはスゴイですねぇ・・・ この人があの人とつながっていて、この女性はあの関係者で・・・ということですよねぇ。
(続編「マドンナヴェルデ」も楽しみ・・・)


No.385 8点 マリオネットの罠
赤川次郎
(2010/12/29 23:11登録)
実質的に作者の処女長編作品。
(出版順では「死者の学園祭」の方が早いようですが・・・)
~父は私のことを「ガラスの人形」だと呼んでいた。脆い、脆い、透き通ったガラスの人形だと。その通りかもしれないが・・・森の館に幽閉された美少女と、大都会の空白に起こる連続殺人事件の関係は? 錯綜する人間の欲望と息もつかせぬストーリー展開で、日本ミステリー史上に燦然と輝く赤川次郎の処女長編~

赤川次郎に対する世間の一般的なイメージ(「軽い」とか「多作であり駄作が多い)からはかけ離れた作品ですし、読了後の感想は「いやぁー面白かった」の一言でした。
次々と殺人を犯す美人殺人鬼と精神病院を騙る謎の組織、その巨悪に立ち向かう大学院生とその婚約者という構図なのですが、ハッピーエンドで終わるかと思えた後にさらなるサプライズが待ち受けます。
個人的にはいわゆる叙述的なトリックで時間軸がずらされてるのか? という疑いを持ちながら読んでましたが、そういう種類のサプライズではなかったわけですね・・・
まぁ、とにかく「赤川次郎」という作家の力量を改めて認識させてくれる作品ですし、読んで損のない1冊という評価でよいでしょう。
(フェアかアンフェアかというのは別に気にしなくてよいのでは?)


No.384 6点 ひらいたトランプ
アガサ・クリスティー
(2010/12/29 22:57登録)
ポワロ物の長編。
トランプの代表的な遊びである「ブリッジ」が事件を解く鍵になる。
~名探偵ポワロは、偶然から夜ごとゲームに興じ、悪い噂の絶えないシャイタナ氏のパーティーに呼ばれていた。が、ポワロを含めて8名の客が2部屋に分かれブリッジに熱中している間に、客間の片隅でシャイタナ氏が刺殺されていた。しかも、居合わせた客は殺人の前科を持つ者ばかり・・・ブリッジの点数表を通してポワロは真相を追究するが~

一種のクローズドサークル内での事件ですし、最初から容疑者はほぼ4名に絞られています。
ポワロはブリッジの点数表や会話の中から真犯人を特定していく・・・というわけで、容疑者たちの心理が推理の大きな要素になるという展開。
まぁ、確かにラストは作者らしいサプライズが用意されているわけですが、やっぱり全体的に地味な印象はぬぐえず、真相も何となくスッキリしない気がしてなりませんでした。(ポワロの途中の発言も「ミスリード」というよりは、故意に捻じ曲げているといった感じなんですよねぇ・・・)
ブリッジについては別にルールを知らなくてもあまり本筋には関係ありませんのでご安心ください。
以前に二階堂黎人の短編(作品集「ユリ迷宮」中の「劇薬」)を読んでたので、個人的にはルール等理解して読むことができました。


No.383 7点 悪魔はここに
鮎川哲也
(2010/12/25 23:48登録)
星影龍三登場作品をまとめた光文社版の作品集。
4編どれも”小粒ですがピリリと辛い”というべき、高レベルの作品です。
①「道化師の檻」=密閉空間からの脱出が問題となるアリバイ崩し。真相はアリバイ崩しの基本-「時間軸の錯誤」です。
②「薔薇荘殺人事件」=犯人当て小説として発表された作品。なかなかの秀作で、ロジックによる見事な解決が気持ちいい! 「○○○○」を見抜くところまでは迫れましたが、真相はさらにもう一段階捻りがあるんですよねぇ・・・冒頭の場面に騙されてしまいました。
③「悪魔はここに」=「どの殺人現場にも逆向きのものが・・・」というあらすじ紹介を見て、てっきり「チャイナ橙?」と早とちりしましたが、真相はもっと単純なもの。でも分かりやすくて、こっちの方が好きですね。
④「砂とくらげと」=絞殺死体とくらげに刺された死体が同居する現場って・・・かなり突飛な設定ですし、ちょっと偶然要素が強すぎる気はしました。鮎川氏も自分を卑下しすぎ!
以上、4編。
②~④は鮎川氏本人が星影の友人という設定で登場するというサービス振り。その辺も、洒落っ気ある作者らしいとこですね。
②は評判どおりの名作だと思います。
(他の短編集収録作と重なってると思いますが、ご容赦ください)


No.382 6点 鬼面村の殺人
折原一
(2010/12/25 23:28登録)
黒星警部シリーズの長編。
旧タイトル「鬼が来たりてホラを吹く」名のノベルズで読んで以来の再読。
~「あいつを殺してやる!」・・・黒星警部は、フリーライター葉山虹子と訪ねた鬼面村で、そう呟く異様な老婆に遭遇した。なぜか村人はその言葉に震え上がる。翌朝、奇怪な事件が起きた。5階建の合掌造りの家が、1人の男と共に一夜にして消え去っていたのだ!大消失トリック、密室殺人、驚天動地のドンデン返し!?~

本シリーズは、黒星と虹子や竹内刑事(本作では未登場)とのドタバタな絡みを中心に毎回展開されますが、プロット的には本格ミステリーの醍醐味を味あわせてくれるはず・・・
設定からすると、横溝の「悪魔の手毬歌」のパロデイ狙いに見えますが、今回のメインはあくまでも「家屋消失」トリック--
「家屋消失」については、作中でも触れられているE.クイーン「神の灯火」や泡坂「砂蛾家」、あと二階堂蘭子シリーズの短編でお目にかかったくらいで、かなり難しいプロットなのだと思います。
結局、物理的なトリックではなく、「錯誤」を取り入れた解法にならざるを得ず、本作もその線で解決されます。ただ、伏線はそれなりに張ってるのは分かるんですが、基本的に無理がある感じなんですよねぇ・・・(まぁ、これしかないかとは思いますけど)
ラストは、解決と思いきや・・・で2回ほどひっくり返されますので、その辺りはなかなか楽しめるとは思います。


No.381 5点 眠りの森
東野圭吾
(2010/12/25 23:09登録)
「卒業~雪月花ゲーム」に続く加賀恭一郎シリーズの第2弾。
加賀は警視庁の刑事として登場。
~美貌のバレリーナが男を殺したのは、本当に正当防衛だったのか。完璧な踊りを求めて一途に稽古に励む高柳バレエ団のプリマたち。美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡美緒に惹かれ、事件の真相に肉薄する。華やかな舞台の裏の哀しいダンサーの悲恋の物語~

前作の後日談も多少織り交ぜてはありますが、一旦教職に就きながらも刑事になった経緯については不明なままです。
ストーリーについてはさすがに東野圭吾というべきで、バレエ団という特殊な舞台設定をうまく絡ませ、読者を引き込んでいきます。
他の方の書評どおり、ラストシーン、未緒に対する加賀の一途な愛情は、やはりたいへんに感動的でした。
ただ、ミステリーとしては評価しにくい・・・
ホワイダニット中心で事件が進みますから、読者にとっては途中から出てくる手掛かりらしきものをもとに、加賀が解決していく過程を見守るだけ、ということになっちゃいます。
(それにしても、悲しい女性ですねぇ・・・未緒。胸が痛くなります。)


No.380 8点 エジプト十字架の秘密
エラリイ・クイーン
(2010/12/22 23:43登録)
国名シリーズ第5弾。
確か小学生のとき図書館のジュブナイル版で読んで以来の再読・・・(当然内容は覚えてませんでした)
~T字型のエジプト十字架に次々と磔にされていく小学校長、百万長者、スポーツマン、未知の男! その秘密を知るものは死者のみである。ついに匙を投げたと思われたエラリーの目が突然輝いた。近代のあらゆる快速交通機関を利用して、スリル満点の犯人の追跡が繰り広げられる~

読み終わってすぐの感想はただ「面白かった」の一言。
他の方の書評どおり、広大なアメリカ合衆国の東半分を縦横無尽に、愛車を駆って走り回るエラリーの姿は、他作品にはない躍動感やスリリング性を感じさせられます。
創元文庫版の解説で山口雅也氏が触れられてますが、この作品が発表された1932年は、「ギリシャ棺」や「X」「Y」も発表されており、まさに作家E.クイーンの最盛期とも言うべき年・・・そんな脂ののりきった作品を堪能させていただきました。
解決場面での有名な「ヨードチンキの推理」は、それだけではたいしたロジックではないのですが、真犯人が残したこの小さな齟齬から、連続殺人事件の謎が一気に解明されるという爽快感こそが本作の白眉でしょう。
「T」の謎自体は、従来の「首切り殺人」の理論を踏襲するものですし、確かに中盤やや冗長な部分もあるため、最終的にはこれくらいの評点で・・・
あと「裸体主義の新興宗教」って結局必要だったんでしょうか??

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