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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.428 7点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2011/03/05 00:04登録)
英国本格ミステリーの系譜を引き継ぐ作者の長篇作品。
翻訳物と思えないほどの読みやすさがGood。
~人気作家ジョフリーの居宅「ガーストン館」に招かれた幼馴染のモーリス。最近様子のおかしいジョフリーを心配する家族に懇願されての来訪だった。彼は兄ライオネルから半年にわたる脅迫を受けており、加えて自身の日記の出版計画が人間関係に複雑な緊張をもたらしていた。そして、ついに・・・~

まさに、「ザ・本格ミステリー」というテイストたっぷりの作品。純粋なフーダニットが存分に楽しめます。
ただし、他の方も指摘されてますが、犯人特定のロジックは正直弱い。
アリバイにしろ、「動機」にしろ、真犯人を特定できるほどの伏線はないような気が・・・登場人物のほぼ全員を怪しくするために、いらない追跡劇などが挿入されてるのもちょっと冗長なかぁと感じてしまいました。
まぁ、全体的には満足できるレベルだとは思います。
ラストも、「(やや)意外な犯人」でサプライズ感も味わえますし、何より安定感たっぷりの筆致なのが一番のセールスポイント・・・
ということで、安心して手に取れる「佳作」という評価です。
(英国でも日本でも、本格ミステリーには「ドロドロした人間関係」というのは不可欠なんですねぇ・・・)


No.427 6点 死びとの座
鮎川哲也
(2011/03/05 00:03登録)
鬼貫警部シリーズ。
大作家、鮎川哲也最後の連載長篇作品です。
~一人目の被害者は東京・中野区の公園に置かれたベンチに座っているところを、拳銃で打ち抜かれて息絶えていた。捜査陣は次々に現れる容疑者に困惑する。スチュワーデス、フリールポライター、同業者たち・・・動機を持つ人間が多すぎる! 鬼貫警部は奔走し、彼らのアリバイを崩そうとするが、やっと
嘘を見破っても、即逮捕とならないから厄介だ・・・~という粗筋。

例によって、容疑者が順次登場し、鬼貫警部がアリバイの壁に阻まれるものの、ついに光明が・・・という定型のプロットが展開されます。
ただ、今回はちょっと「変化球」気味。
被害者の設定自体に「企み」が秘められており、それが分かることで、容疑者の特定→アリバイ崩しという流れになってます。この辺りは老練なプロット&筆致ですね。さすがです。
ただ、全体的にはやはり「ネタ切れ感」が漂うなぁ・・・という感想ですね。作者あとがきにも、「なかなか連載に踏み切れなかった」様子が書かれてますが、往年の作品のような「切れ」は到底窺えません。
ということで、評点的にはこの辺が精一杯ということに・・・
(今回は鬼貫警部の登場シーンも少なめ。相棒の丹那刑事もだいぶ年をとったように書かれていて何だか切ない・・・)


No.426 5点 行きずりの街
志水辰夫
(2011/02/27 17:49登録)
日本冒険小説協会大賞受賞作。
作者の代表作といっていいでしょう。
~女生徒との恋愛がスキャンダルとなり、都内の名門校を追放された元教師だが、失踪した教え子を探すため、再び東京へ足を踏み入れた。そこで、彼は自分の追放劇に学園が関係していることを知る。過去を清算すべき時がきたことを悟った男は、孤独な戦いに挑んでいく~というストーリー。

昨年、映画化もされた有名作ですし、期待感十分で読んだわけですが・・・正直「期待はずれ」に近い。
本作が、ハードボイルドなのか冒険小説なのか、はたまた恋愛小説なのか判然としませんが、何よりこの手の小説に必要不可欠な「緊張感」や「スピーディーさ」が如何せん欠けてます。
あまり小説作法に詳しくはないのですが、台詞に比べて「地の文」の量が多いのが原因のような気がする・・・
(どうしても説明口調が目に付きすぎて、台詞の「行間」を読むことができない・・・)
プロットも今となっては、目新しさはなく、主人公の造形が弱いためか、盛り上がりにも欠けている印象ですね。
ということで、辛らつな書評になりましたが、まぁ期待感の裏返しということで、ファンの方がいらしたら許してください。
(他にも有名作品の多い作者ですから、中には面白いと感じるものもあるのかも・・・)


No.425 7点 悪意
東野圭吾
(2011/02/27 17:47登録)
加賀恭一郎シリーズの4作目。
シリーズ最高傑作との呼び声も高い作品。
~人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、被害者の妻と幼馴染の男。犯行現場に赴いた刑事、加賀恭一郎の推理、逮捕された犯人が決して語らない動機とは? 人はなぜ人を殺すのか~

一言で言い表すなら、「究極のホワイダニット作品」というところでしょうか。
犯人は早い段階で確定し、事件の構図もはっきりしたかと思いきや、さらなる「二番底」のような真相が判明する・・・
それこそがまさに「悪意」なわけです。
いやぁ・・・何かやりきれないようなストーリーですねぇ。人間の弱さというか醜さというのも、ここまで示されると目をそらしたくなってしまいます。
加賀恭一郎という男が何とも恐ろしく感じてしまいました。
作者のストーリーテリングのうまさを十二分に味わえる佳作という評価で間違いなしです。
(加賀刑事が教師をやめた理由も分かってすっきりした。でも、こんなこと現実の事件でもありそうな感じ)


No.424 7点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2011/02/25 23:13登録)
飄々とした名探偵、ブラウン神父シリーズの第3弾。
作者の独特の感性が垣間見える作品が数多く集録された佳作です。
①「ブラウン神父の復活」=シリーズの舞台がアメリカ大陸へ移動した様子。導入部のような1篇。
②「天の矢」=かなり仰々しい舞台設定&タイトルですが、真相はかなりライトなもの。それくらい他の誰かが気付いてもよさそうですけど・・・
③「犬のお告げ」=名作(らしい)。一読後は意味がよく分かりませんでした。準密室の設定自体はミステリーっぽくて好感。
④「ムーン・クレサントの奇跡」=これは密室からの死体の消失を扱ってます。発想はたいへん面白いですが、相当強引な気がする。(島田荘司的発想)
⑤「金の十字架の呪い」=ブラウン神父お得意のロジック。まさに「逆説」的解決です。
⑥「翼ある剣」=これも名作の誉れ高い1篇。確かに面白いし、やっぱり「逆転の発想」そのもの。でも、これって読者には表現的に分かりにくいけど、ブラウン神父にとっては「見え見え」だったということですよねぇ・・・とするとかなりアンフェアな気もする。
⑦「ダーナウェイ家の呪い」=再三再四触れますが、これも「逆転の発想」。
⑧「ギデオン・ワイズの亡霊」=これもロジックの効いた小品。面白いですね。
以上、8編。
さすがに「名作」ぞろいの作品集。読み応えのある作品が並んでいます。
ただ、「ひたすら読みにくい!」
このシリーズだけは「ながら読書」では理解が絶対に不可能。どなたか、もう少し読んですっと頭に入る訳をしてくれないかな?
(個人的ベストは④か⑥で迷う。③は今ひとつ理解しきれなかった。あとは⑤)


No.423 7点 退職刑事3
都筑道夫
(2011/02/25 23:11登録)
国産の安楽椅子型探偵シリーズ第3弾。
相変わらず親父(元刑事)の鋭いロジックが決まってます。
①「大魔術の死体」=電話ボックス内で射殺されたのに、ガラスに銃弾の跡が全くないという謎。まぁ、これしかないという解決。お手本のようなミステリー。
②「仮面の死体」=死体がなぜ般若の面をかぶっていたかという謎。これも「見せ方」が老練。
③「人形の死体」=殺された人形家の作品(人形)までもが殺される(壊される)という謎。ダミーの容疑者が多いので騙されやすい。
④「散歩する死体」=殺されたはずの男が散歩する姿を見られたという謎。結構無理やり感のある真相。
⑤「乾いた死体」=ダイイング・メッセージもの。「雨さえ降っていればなぁー」と言い残して死んだ男の謎。真相は小粒。
⑥「筆まめな死体」=これはちょっと変わった「ダイイング・メッセージ」或いは「暗号」もの。推理クイズのようで面白い。
⑦「料金不足の死体」=これもダイイング・メッセージもの。死体の額になぜか切手が貼られている謎。死ぬ前にこんなこと考えますかねぇ?
以上、7編。
タイトルはすべて「・・・の死体」となっていて、ダイイング・メッセージものが3編連続で続いてます。現実性というよりは、パズル的な面白さを追求した作品集という位置づけでしょう。
まぁ、これはこれで面白いし、ありだと思います。ロジックをこね回しているだけという感想がなくもないですが・・・
(個人的ベストは①。④はちょっと分かりにくいけど、発想そのものは奇抜で面白い)


No.422 7点 霧に溶ける
笹沢左保
(2011/02/20 21:24登録)
ミステリーから時代小説まで多くの作品を残した作者の本格ミステリー代表作。
光文社の復刻版で読了。
~ミスコンテストの最終予選に勝ち残った5人の美女。最終審査を前に脅迫・交通事故などの事件が次々と発生し、ついには怪死事件が起こる。自殺か他殺か? 警視庁特捜班の前には、巧妙なアリバイ工作、鉄壁の密室など複雑に絡み合った殺人連立方程式が立ちはだかる~

さすがに「名作」と呼ばれるだけあります。何よりプロットが秀逸。
後年の作品で、本作のプロットを応用したものを時折見かけますが、本家の切れ味はかなり鋭い!
気付かないでもないようなプロットなのですが、うまい具合に作者に隠蔽されていて、それが明かされる瞬間にはなかなかサプライズ感があります。
ただ、他はちょっと誉められない。
「密室」は「う~ん」というレベル。それに、このプロットで連続殺人を計画した犯人が、この殺人だけ事故死を装うのかが納得いかない・・・
「動機」はすさまじいですね。時代が時代だから(1960年)ということかもしれませんが、21世紀の現在からすれば、ちょっと想像できない・・・
まぁ、60年代を代表する「本格ミステリー」として、読む価値十分の1冊という評価で良いでしょう。
(最後の、女2人の会話は物凄い・・・いやぁー欲深い&嫉妬深い女って怖いね)


No.421 6点 歯と爪
ビル・S・バリンジャー
(2011/02/20 21:22登録)
袋綴じミステリーとして有名な作品。
先駆的叙述トリックを味わうことができます。
~彼の名はリュウ。生前、彼は奇術師だったが、フーディニらができなかった一大奇術をやってのけた。第一にある殺人犯に対し復讐を成し遂げた。第二に自分も殺人を犯した。そして、第三に彼はその謀略工作の中で自分も殺された・・・奇才バリンジャーが仕掛ける驚くべき前代未聞のトリック~

というのが本作の「紹介文」ですが、「驚くべき前代未聞のトリック」というのはやっぱり大げさかなぁ。
いわゆる「カットバック」の手法については、さすがにうまい具合に使われてます。終盤までは、リュウの身の回りで起こった事件を語る場面と、ある法廷の場面が交互に書かれ、それがどのように絡んでくるのか読者には分からない。そして、終盤、2つの場面が急速に接近し、サプライズのラストへ・・・
最近の叙述系作品では何度となく読んでいるプロットではあります。
特に、折原が本作にかなり影響を受けたことは有名ですし、今回読んでみてそれがよく分かりました。
まぁ、サプライズを期待する読者にとっては、やや喰い足りないかもしれませんが、シンプルかつ洗練された文書を味わってみるのも悪くはないでしょう。
(今回、ブックオフで袋綴じがそのままの状態で購入。ということは、売った方は結末を読んでないということ? 勿体無い!)


No.420 7点 眩暈
島田荘司
(2011/02/20 21:20登録)
御手洗潔シリーズ。
「暗闇坂」・「水晶のピラミッド」に続く大作第3弾。久々に再読。
~切断した男女が合成され両性具有者となって蘇る。窓の外には荒涼たる世界の終焉の光景が広がっているばかり。「占星術殺人事件」を愛読する青年が書き残した戦慄の日記が指し示すものは何か? 奇想の作者が放つ驚天動地のトリックとは?~というのが大まかなストーリー。

「摩訶不思議な手記(日記)が読者に示され、探偵役が的確なロジックに基づいて解決していく」というのはミステリーではよく見かけるプロットだと思いますし、本作にも登場する「占星術殺人事件」もまさにこのパターン。
そもそも、事件の正体そのものはそんなに大したことはないんですよねぇ・・・メイントリックそのものは、注意して読めば気付く程度ですし、「両性具有者」の件は煽るだけ煽って、ちょっとがっかりな結末かなと思ってしまいます。
ただ、さすがに島田荘司! 他の作家では感じることのできない「スケール感」があります。ストーリーの前段、古井教授との会話で語られる「脳科学」の話などは、この頃の作品から作者のメインテーマとなっていく題材であり、この辺の取材力だけでも賞賛に値するでしょう。
とにかく、「長さ」は仕方ないとして、一読する価値のある作品という評価です。トリック部分に目新しいものがないので、評点はこの程度。
(「畸形児」の話はなかなか衝撃的。「サリドマイド」は今となっては古い話ですが、過去確かにあった話なのです。TVで何度も見た・・・)


No.419 6点 化人幻戯
江戸川乱歩
(2011/02/18 20:54登録)
明智小五郎登場の著名作。
稀代の名探偵も50歳を過ぎ、トレードマークのモジャモジャ頭にも白髪が増えて・・・ということで作者後期の作品になります。
~庄司武彦は元公爵大河原義明の秘書役を務めることになった。大河原家に出入りする2人の青年、姫田と村越の間には険悪な空気が流れていた。熱海にある別荘に出掛けた大河原夫妻と武彦は、断崖から転落する姫田の姿を目撃。姫田は果たして殺されたのだろうか?~

戦前の通俗小説、スリラーと呼ばれた作品に比べると、「密室」や「アリバイ」など、本作は完全に「本格ミステリー」の体裁をとっています。
アリバイトリックは「見せ方」に老練さを感じました。読者の前に「完全なアリバイ(不在証明)」が呈示されるわけですから、なかなか挑戦的だとも言えますね。
ただ、その解法はちょっといただけない・・・特に、第2の殺人の方はどうですかねぇ? 時代が時代だとは言え、かなり偶然性に頼った危なっかしいトリックとしか思えません。
他の方の書評と同じですが、ハウダニットとしてもちょっと喰い足りない・・・
逆に言えば、それだけ真犯人のキャラが強烈ということで、こういうキャラクターを書かせたらさすがに「うまい」ですよねぇ。
この作品は最後に明かされる「ホワイダニット」だけが見所といってもいいかもしれません。
(「カマキリ」の例えがなかなかグロい。本書のタイトルも実に意味深です)


No.418 6点 猿丸幻視行
井沢元彦
(2011/02/18 20:51登録)
第26回江戸川乱歩賞受賞作。
本作は、高橋克彦「写楽殺人事件」など、その後続いた「歴史ミステリー」受賞作の先駆的な作品。新装版で読了。
~「いろは歌」に隠された千年の秘密とは? 猿丸太夫、百人一首にも登場する伝説の歌人の正体は? 友人の死の謎を解き明かす若き日の折口信夫の前に意外な事実が姿を現す~

「なかなかの力作」というのが読了後の感想。歴史ミステリーも嫌いな分野ではないですし、井沢氏の著書は「逆説の日本史シリーズ」で十二分に接してますから、氏の歴史観や考え方がスムーズに頭に入ってきました。
「柿本人麻呂」という人物は、歴史上でもなかなか興味深い研究対象なのでしょう。(江戸時代から名だたる歴史家が研究しているわけですから・・・)
特に古代日本史においては、「貴族の怨霊信仰」がキーワードになるというのが、「逆説シリーズ」でも繰り返し主張されてる点ですし、その考え方が本作でもかいま見えますね。(菅原道真や崇徳上皇などが代表的)
まぁ、「歴史」そのものが大いなるミステリーそのものなのですから、これがつまらないわけはありません。
ただし、それ以外の純ミステリーとしてはあまり見るべきところはなく、「付け足し」のような扱いなので、評点としてはこの程度。
「歴史好き」の方ならば、1度は読んでみる価値は有りだと思います。
猿丸村での殺人事件のトリックは綾辻の某作品を思い出してしまいました。(本作の方が先ですけど・・・)
(これと「占星術殺人事件」が同時に応募されてた訳ですから、相当ハイレベルな争いだったんでしょうねぇ・・・)


No.417 4点 四つの署名
アーサー・コナン・ドイル
(2011/02/18 20:48登録)
シャーロック・ホームズ作品。
「緋色の研究」に続く2作目の長編。
退屈にまかせてコカインを注射するホームズの姿が書かれる冒頭のシーンから始まるストーリー。(この辺り、昔読んだジュブナイル版では当然カットされてました)
そんな中、依頼主(モースタン嬢)から、インドの財宝にまつわる事件の話が舞い込み、早速ホームズは事件解決に乗り出す。
ストーリーとしては、「推理小説」と言うよりは「冒険小説」と言った方がしっくりくる感じです。ホームズの推理もあまり目立たず、途中からは、如何にして犯人グループを捕らえるかというアクション部分に重きを置かれてます。
殺人事件についても、窓やドアには鍵がかかっており、「密室か?」と思ってると、屋根裏部屋から侵入可能なのがすぐに判明するなど、「謎解きもの」としてはかなり中途半端な印象。
犯人逮捕以降、動機や経緯が語られるのは「緋色の研究」と同じパターンを踏襲してます。(「緋色」ほどは長くないですが・・・)
まぁ、ミステリーの歴史的価値という以外では誉めるのが難しいですねぇ。仕方ないかな?
(本作でワトソンが依頼主の女性と結婚するエピソードが有名。完全に「一目ぼれ」だったんですねぇ。)


No.416 5点 蜃気楼の殺人
折原一
(2011/02/18 20:45登録)
旧タイトル「奥能登殺人行」でノン・シリーズの1冊。
当時流行していたトラベルミステリーをベースに、叙述トリックを融合した「意欲的(?)」な作品。
~銀婚式を迎えた野々村夫婦は、新婚旅行の思い出を辿るように能登半島へと旅立つ。だが夫は殺され、妻は失踪。両親の足跡を追いかける一人娘の主人公万里子は、25年前の2人がもう1組の男女と接触していたことを知る。過去と現在が錯綜する折原マジックが炸裂!~といった粗筋。

う~ん。中途半端なんですよねぇ・・・初期は作者も何作かトラベルミステリー風味の作品を発表してますが、この手のミステリーにはお決まりのアリバイトリックではなく、得意の叙述トリックを合わせたら、「きっと面白いに違いない!」と思ったんでしょうか?
「残念」。狙いどおりにはいきませんでした。何しろ、途中でネタがバレバレ。伏線の貼り方が拙なすぎです。
何しろ、ごく最初に○○が同じ人物が登場し、よく分からないうちにフェードアウトするんですから、「何かあるな」と気付かずにはいられませんでした。
これを最後にトラベルミステリーは書かなくなりましたから、作者もこの融合は失敗という判断だったのでしょう。
(能登半島の名所がいろいろ出てきますので、その辺りに土地勘のある方にとってはシンパシーを感じるかもしれません)


No.415 5点 顔のない男
北森鴻
(2011/02/12 21:02登録)
「顔のない男」という異名が付けられた被害者、空木精作を巡って展開されるストーリー。
連作短編集というべきか長編というべきか迷うような作り。(正解は連作短編集なのでしょうけど・・・)
~多摩川沿いの公園で、全身を骨折した惨殺死体が発見される。空木精作は周辺の住民と接点も交友関係もない男だった。原口と又吉、2人の刑事は空木の自宅で一冊の大学ノートを発見する。ノートを調査するうち、2人は次々に新たな事件に遭遇。空木とは一体何者なのか?~

非常に魅力的なプロットだと思いつつ読んでいきました。
「謎の男」を捜査する過程で、次々と事実が明らかになり、それがなお一層事件を複雑にしていく・・・これをうまくまとめれば、たいへんよくできた「連作集」ということになるのですけども・・・
いかんせん、ラストがよくない。オチがこれでは、途中のプロットがいくら魅力的でもねぇ・・・
もう1つ言えば、犯罪者側がここまで事件を複雑化する目的・意図が今ひとつ不明。他の方の書評にもありますが、登場人物がかなり入り組んでいるので理解&整理するのにかなり苦労させられました。
(途中、三軒茶屋のビアバーが登場しますが、これはやはり「香菜里屋」のようです。どうせなら、マスター工藤にも登場してもらいたかったなぁ)


No.414 6点 愛国殺人
アガサ・クリスティー
(2011/02/12 21:00登録)
エルキュール・ポワロ作品のNO.19
いつもより多めの登場人物ですが、この登場人物の中に「欺瞞」が仕掛けられている・・・
~憂鬱な歯医者での治療を終えて一息ついたポワロのもとに、当の歯科医が自殺したとの連絡が入る。しかし、自殺の兆候を示すものは何もなく、本当に自殺なのか、それとも巧妙に仕掛けられた殺人なのか? マザーグースの調べにのって起こる連続殺人事件の果てに辿り着いたポワロの推理とは?~

ということですが、マザーグースは特に本筋とは関係なし。
実にクリスティらしい作品だなというのが読後の感想ですね。「動機」の謎から始まった自殺(殺人)事件が第2・第3と連続し、さらに複雑化していくうち、作者の術中に見事嵌っていく・・・そんな感じです。
動機も「顔をつぶされた死体」も、ミスリードするために読者に示された「手品のタネ」なんですよねぇ・・・まぁ普通騙されます。
ポワロの推理により、事件の構図がガラッと一変させられるラストのカタルシスが本作の白眉でしょう。
ポワロ物も中期に入ると、派手な展開よりは緻密な構成とでも表現すべき作品が多くなりますが、本作もその例に漏れず、円熟した作者の手技を堪能できる作品だと思います。ただ、ちょっと中盤ダレるのでそこがやや不満かな。
(タイトルの「愛国」っていうのはやっぱり違和感がある。けど、二重のミスリードになってるので、そういう意味ではうまいタイトル?)


No.413 7点 影踏み
横山秀夫
(2011/02/12 20:59登録)
「ノビカベ」の異名を持つノビ師、真壁を主人公とした連作短編集。
いつもの警察小説とは一味違い、犯罪者視点でのプロットが逆に新鮮な作品。
①「消息」=真壁が逮捕されるきっかけとなった事件関係者である美貌の人妻を巡って物語はスタートします。
②「刻印」=真壁の少年時代の友人、刑事の吉川が殺害される事件が発生。そこにも例の人妻が関係し・・・最終的には意外な真犯人が明らかになります。聖職者も一皮向けば・・・ですね。
③「抱擁」=真壁の恋人とその友人。見かけとは裏腹な人間模様。人間の心って一筋縄ではいかないものですね・・・
④「業火」=市内で次々と泥棒が襲撃されていく中、ついには真壁にも魔の手が・・・瀕死の重傷を負っても病院を飛び出す真壁は不死身?
⑤「使途」=真壁が獄中で知り合った男から頼まれた「代打サンタクロース役」。人物関係を探っていくうちに、謎が深まって・・・ラストは「いい話」でまとまる。
⑥「遺言」=ある犯罪者の死。なぜか真壁に残された遺言の謎。犯罪者の親子に果たして愛はあったのか?
⑦「行方」=またも真壁の恋人を巡って事件が発生。昔、ある事件で双子の弟を失った真壁の前に、もう1組の双子が現れ・・・これもやや意外なラスト。
以上7編。
どの作品でも高レベルな横山短編集。この作品も例外ではありませんでした。
警察視点のストーリーの場合、組織のしがらみや人間関係の難しさなどをベースにしたプロットが目立ちますが、本作の場合は「真壁」という特異なキャラが存分に生かされてます。
ということで、いつものとおり「読んで決して損のない」横山の短編集という評価でいいと思います。
(これを読むと、犯罪者と警察って決して「水と油」ではなく、ある種同じカテゴリーに属する存在なのがよく分かる・・・)


No.412 6点 あした天気にしておくれ
岡嶋二人
(2011/02/08 23:16登録)
作者の第二長編。
出版順では乱歩賞受賞作「焦茶色のパステル」が先ですが、執筆順では本作の方が先のため、実質的には処女長編というべき作品のようです。
競馬界を舞台にしたミステリーの傑作。北海道の牧場で3億2千万もの値が付いた1頭のサラブレットが誘拐され、2億円の身代金が要求される。衆人環視の中、思いもよらぬ方法で大金が奪われるが・・・というのが大まかな粗筋。(「傑作」は帯のことばですが、ちょっと言いすぎかな?)
「焦茶色」に続いて、競馬界を舞台にしたミステリーであり、しかも今回は作者得意の誘拐もの。(馬が誘拐されるというのも珍しいですけど)
まずは、プロットがうまいですね。一種の倒叙形式ではじまり、犯人(?)側の視点から事件が書かれるわけですが、途中から思いもよらぬ邪魔が入ってきてさぁどうなる? 
既視感があると言えばあるのですが、読者にとっては作者の手のひらで遊ばれてる感じが心地よい・・・
メインプロットは、競馬に詳しい人ならば、正確ではなくてもある程度は予想のつくものだとは思います。(私も気付いた)
「あとがき」でも触れてるとおり、舞台となった昭和56年当時では、こういった初歩的なやり方も想定できる時代だったのでしょう。
全体的な評価としては、「まあまあの面白さ」という感じでしょうか。もう一捻りあっても良かったかなというのが正直な感想。
(今思えば、この頃の馬券は単純だったんですよねぇ・・・今や、馬単・ワイド・三連複に三連単、おまけに、5レースの1着馬を当てる5連単も近々発売されるとか・・・ 1レースの1着馬さえ当てられない奴が、5レースも当てらるわけないだろ!)


No.411 5点 四つの終止符
西村京太郎
(2011/02/08 23:13登録)
作者初期のノン・シリーズ。
昭和40年代前半という時代を反映してか、「社会派」という形容詞がピッタリの作品となっています。
下町のおもちゃ工場で働く佐々木晋一は聾者だった。ある日、心臓病で寝たきりの母親が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な状況で彼は獄中で憤死し、無実を信じた一人のホステスも後を追う。彼をハメたのは一体誰か?
いやぁ・・・読んでて何とも「暗~い」気持ちになりました。
まだまだ日本が貧しかった頃、しかも不治の病を抱えた母親をもつ聾者・・いろいろと考えさせられますね。
途中、聾学校の教師の口から語られる「聾者の真実」が特に重い・・・「耳が聞こえない」ということは「目が見えない」ことよりもつらいことなのだという事実は健常者ではなかなか気付けないことでしょう。
作者の社会派ミステリーといえば、乱歩賞を受賞した「天使の傷跡」が有名ですが、本作も隠れた名作としてもう少し評価されてもいいかと思います。
ただ、ミステリーそのものの出来としては評価しにくいんですよねぇ・・・
というわけで、高い評点をつけるのはちょっと難しいなぁというのが正直な感想になっちゃいます。
(意味深な「タイトル」ですが、まさに、このタイトルどおりの内容)


No.410 7点 ジャンピング・ジェニイ
アントニイ・バークリー
(2011/02/08 23:11登録)
ロジャー・シャリンガムシリーズ。
バークリーらしい皮肉に満ちた作品に仕上がってます。
~屋上の絞首台に吊るされた藁製の縛り首の女・・・小説家ストラトン主催の「殺人者と犠牲者」パーティーの悪趣味な余興であった。シェリンガムは有名な殺人者に仮装した招待客の中の嫌われ者、主催者の妹・イーナに注目する。そして宴が終る頃、絞首台には人形の代わりに、本物の死体が吊るされていた!~

という粗筋なのですが、ここから名探偵?にあるまじき、シェリンガムの迷走が始まります。
他の方の書評にもありますが、警察に真相を悟られないため、普通の名探偵とはまさに逆のベクトルで行動するなど、他のミステリーでは考えられないプロット!
「ある致命的な事実」を隠蔽し、警察をミスリードするため、「ああでもない」「こうでもない」と迷い続けるシェリンガムのキャラは、頼りなくもまぁ微笑ましく映るのですが・・・
「結局本筋はどうしたんだ?」 と思っているうちに、ラスト1行で見事にオチが付いて、何か良質な「コント」でも見せられたような気にさせられました。
巻末の解説で、「バークリーの入門編として最適」とありますが、その評価が正鵠を得ているような気がします。
個人的な好みからどうかと聞かれれば、決して「ドストライク」とは言えませんが、重厚な本格物に飽きたら、変化球としてこういうのを読んでみるのもありだなぁという感じですかねぇ・・・
(被害者は本当に嫌なヤツですが、シャリンガムが「殺されて当然」と言ってるのは「オイオイ!」と突っ込みたくなります)


No.409 7点 煙の殺意
泡坂妻夫
(2011/02/05 17:21登録)
ノン・シリーズの短編集。
「これぞ泡坂の短編!」とでも言うべき、一味違う作品群を味わわせてもらいました。
①「赤の追想」=「うーん。評価しづらい作品」という感じ。泡坂作品に期待する方向性と違っているのは間違いない。
②「花山訪雪図」=名画に仕掛けられた作者の企みが、ある殺人事件を解明するきっかけになる・・・何となく既視感のあるプロットではあります。ただ、よくできている作品なのは間違いない。
③「紳士の園」=「スワン鍋」に笑っているうちに、最後の仕掛けにビックリさせられる。近衛のキャラクターは何とも魅力的!
④「閏の花嫁」=手紙交換によるストーリー展開というのがいい味出してる。オチはちょっとブラックですけど、「毬子を○○る」ということですよねぇ・・・
⑤「煙の殺意」=プロットは斬新。でも、さすがに「ここまでする奴はいないだろう!」と思わずにはいられません。まぁ、でも面白い。
⑥「狐の面」=本筋よりも、山伏が人を騙す手口・テクニックの方が面白かった。さすが、奇術師です。
⑦「歯と胴」=これもブラックですけど、かなり面白い。変形の倒叙形式といえばいいんでしょうか? ラストのオチもうまい!
⑧「開橋式次第」=本筋はちょっと誉められないが、こんな一家いたら面白いだろうなぁ・・・
以上8編。
作者の短編集としては、「亜愛一郎シリーズ」が有名ですが、ノンシリーズの本書も十二分に作者のテクニックやロジックを楽しませてくれます。
捻じ曲がった人間の心が、捻じ曲がった犯罪を生み出すということなのでしょうね。
(個人的に⑦がベスト。③や⑤も水準以上。)

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