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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.439 6点 アイルランドの薔薇
石持浅海
(2011/03/26 23:07登録)
作者のデビュー長編。
本格ミステリーにアイルランド問題を絡めた硬派な作品です。
~南北アイルランドの統一を謳う武装勢力NCFの副議長が、スライゴーの宿屋で何者かに殺された。宿泊客は8人、そこには正体不明の殺し屋が紛れこんでいた。やはり犯人は殺し屋なのか? 宿泊客の1人、日本人科学者フジの推理が「隠されていた殺意」を炙り出していく~

古くから南北が激しく対立しているアイルランドという土地、警察が介入できない隔絶されたB&B(宿屋)というクローズド・サークル・・・作者らしさは、デビュー作から健在って言わんばかりの特殊設定下で殺人事件が発生します。
フーダニットで言えば、真犯人はやや意外、殺し屋は「いかにも!」という感想でした。
まぁ、たいへん丁寧かつ生真面目に作りこまれたストーリー&プロットですし、アイルランド問題という政治的なトピックを使ってうまい具合にミスリードさせている辺りは「さすが」と思わせます。
ただ、評価としては「可もなく不可もなく+α」というレベルでしょうか。
(探偵役のフジについては、あまりデータが示されなかったので、最後に何か企みでもあるのかと思いきや、何もなくスルー・・・だったら、単発で終わらせず再登板してもらいたいですねぇー・・・なかなか魅力的な造形なので)


No.438 7点 鬼流殺生祭
貫井徳郎
(2011/03/21 01:14登録)
九条&朱芳シリーズの第1作。
明治維新から数年たった東京を舞台とする本格ミステリーです。
~維新の騒擾燻る帝都東京の武家屋敷で青年軍人が殺された。被害者の友人で公家の三男坊、九条惟親は事件解決を依頼されるが、容疑者・動機・殺害方法、すべて不明。調査が進むほどに謎は深まるばかり。困惑した九条は博学の友人、朱芳慶尚に助けを求める~

呪われた血を持った大家族の旧家、「雪密室」、バラバラ死体など、本作はいわゆる「コード型ミステリー」の条件を1つ1つ踏まえた作りになってます。
ただし、フーダニット&ハウダニットについてはかなり評価が分かれるでしょうねぇ。この真相に行き着くにはロジックだけでは不可能でしょうから・・・
まぁ、それをカバーするためのホワイダニットなのでしょう。
真犯人は、「如何にも犯人らしい」人物なので読者も気付きやすいでしょうし、「裏の真犯人」とでも言うべき人物もまぁ想定内・・・
こういった「血の呪い」系のストーリーは、横溝や二階堂黎人などが得意とする分野ですし、既視感はどうしても感じてしまいます。本作の隠れキーワードになっている「○○○○○」についても、最初から伏線は見え隠れしてましたので、「やっぱりそうか」という感じでした。
まぁ、こういうコード型は好き嫌いがはっきり分かれるでしょうが、個人的にはストライクですね。ただ、二階堂氏らに比べるとどうしても迫力不足なのは否めないかなぁ。
(こういう作品は古い時代設定が似合いますね。本作も例に洩れずで、その辺の雰囲気はなかなかいいものを持った作品だと思います。)


No.437 5点 アメリカ銃の秘密
エラリイ・クイーン
(2011/03/21 01:12登録)
国名シリーズ第6作。
2万人の観客が見守るなか、ロデオのスターが銃殺されるというド派手な事件の謎をエラリーが追及します。
~NYのスポーツの殿堂でロデオが行われていた。40人のカウボーイが拳銃を片手に荒馬を操りトラックを駆け巡る。一斉に銃声がとどろく・・・その瞬間、先頭に立つロデオ・スターの体が馬上から転げ落ちた。2万人の大観衆が見守る中で、犯人は如何にして犯行を成し遂げ、凶器を隠せたのか?~

今回の謎は、フーダニットのほか、密閉された競技場というクローズド・サークルから忽然と姿を消した凶器(22口径)について・・・
ということは、変格の「密室モノ」という見方もできるわけですが、その真相はかなり強引というか、「そんなこと!」というようなもの・・・
(2万人の観客やロデオの関係者に対して、さんざん凶器探しをさせられたクイーン警視の立場はどうなる?)
フーダニットの方も、「ご都合主義」と揶揄されてもしようがないかもしれませんねぇ。「読者への挑戦」の中で、「ハリウッドへの手紙」云々という記述をわざわざ入れているのが伏線になってるのが、唯一納得させられたくらいです。
まぁ、ロジック的にはそれほど変ではないような気はするんですが、舞台設定がちょっと難しすぎたような気がします。(なぜ、こんな場所で殺人を起こしたのかが納得いかない)
他の良作に比べて評価が低くなるのも仕方ないかなという感じ。
(エラリーが最初から○○○に気付いていたというのは驚き。いかにそれが推理の帰結とはいえ、いきなりそんな結論になるかなぁ?)


No.436 6点 聯愁殺
西澤保彦
(2011/03/21 01:09登録)
(引き続き、ミステリーを楽しむことのできる喜びを噛み締めながら・・・)
ノンシリーズ。
なかなか手の込んだ面白い手法を盛り込んでいる作品。
~大晦日の夜。連続無差別殺人事件の唯一の生存者である梢絵を囲んで推理集団「恋謎会」の面々が集まった。4年前、彼女はなぜ襲われたのか、犯人は今どこにいるのか。ミステリー作家や元刑事などのメンバーが様々な推理を繰り広げるものの・・・~という粗筋。

前半から中盤に渡って繰り広げられる推理合戦は、バークリーの名作「毒入りチョコレート事件」を完全に意識したプロット&展開のように見えます。
しかしながら、真相&ラストは、本家とは異なっていて、ある明確な回答が示される。(それがサプライズ!)
フェアかアンフェアかと聞かれれば、確かに後出しジャンケン的なところもあるため、アンフェアな気はしますが、これはこれでプロットの妙という見方もできるのでは?
冒頭部分もうまい具合に「効いて」おり、サプライズ感を増す結果に。
ただ、この真相なら、果たして途中の推理合戦にそれほど意味があるのかという気がしないでもないところが「ちょっと気になります」かねぇ・・・
まぁでも、現代ミステリーらしい切れ味とテクニックを感じられる佳作っていう評価でいいでしょう。
(ラストは割りとブラックなオチ。あと登場人物の名前がややこしくてなかなか覚えにくい・・・)


No.435 7点 邪馬台国はどこですか?
鯨統一郎
(2011/03/19 14:53登録)
作者のデビュー連作短編集。
日本史・世界史で馴染みの深い題材について、「アッ」と驚く解法を見せてくれます。
①「悟りを開いたのはいつですか?」=ブッダ(釈迦)は本当に悟りを開いたのかという謎。ブッダは想像よりも実に人間くさい人物だったんでしょうか?
②「邪馬台国はどこですか?」=本作の白眉。邪馬台国は「北九州」か「畿内」にあったというのが定説ですが、作者(宮田)が主張するのは、「邪馬台国東北説!」。でも「そうかもしれない」と思わされてしまう。邪馬台国は大いなるミステリーですねぇ・・・
③「聖徳太子はだれですか?」=これも大胆な仮説。「聖徳太子=推古天皇=蘇我馬子説!」。まぁ、聖徳太子が架空の人物というのは割りによく目にする説ですが、ここまで大胆な説だと面白い。藤原不比等ってホント歴史上のフィクサーですねぇ・・・
④「謀反の動機はなんですか?」=これは「本能寺の変」がなぜ起こったのかという謎。作者(宮田)の回答は「信長の○○」・・・ドラマ等の影響で、信長といえば「豪快な英傑」というイメージですが、これを読むとイメージが一変しちゃいます。
⑤「維新が起きたのはなぜですか?」=明治維新の謎。確かにいろいろおかしなことが多いんですよねぇ・・・これもある一人の人物の暗躍があったからという説。でも「○○術」には驚いた。
⑥「奇跡はどのようになされたのですか?」=イエス・キリスト復活の謎。この辺の宗教絡みはアレルギーのある分野ですが、分かりやすく解説されていて頭にスッと入ってきました。
以上6編。
歴史好きにとってはたいへん面白いテーマが並んでます。(本当のマニアの方にはレベルが低いのかもしれませんが)
どれも、現在の通説が虚構にすぎず、ちょっと角度を変えて見れば、こんな見方ができるんだということですよね。なかなか面白い!
やっぱり、歴史って「大いなるミステリー」ということを改めて感じさせられました。
(やっぱり、②がベストでしょう。③や④、①も興味深い)


No.434 6点 能面殺人事件
高木彬光
(2011/03/19 14:51登録)
処女作「刺青殺人事件」に続く作者の第2長篇。
神津恭介ではなく、作者自身を探偵役として登場させるなど、凝った作りになっています。
~資産家の当主が、寝室に置かれた安楽椅子で死んでいた。現場は完全な密室状態で、死体には外傷がなかった。傍らには呪いを宿すという鬼女の能面が残され、室内にはジャスミンの香りが妖しく漂っていた~

「古きよきミステリー」というべきガジェット満載の作品ですが、いろいろと問題点を含む作品のようです。
「密室」については、ほぼ完全無欠な密室ですが、トリックがやや分かりにくい。「回転窓」というのはどういう窓?
殺害方法については、あとがきで作者も反論を試みてますが、やや化学的論拠を欠いているというのは事実のようです。
そして、一番の問題点は例の「アクロイド的手法」・・・まぁ、冒頭から叙述的トリックを仕掛ける雰囲気をプンプンさせてますから、ラストのドンデン返しは想定内ですが、探偵役が都合3人入れ替わるのはちょっと分かりにくいプロット。
というわけで、評価が分かれる作品ですが、全体的な雰囲気やプロットそのものは個人的に好みの範疇ですし、十分楽しめました。
今回、光文社の復刻版で読みましたが、同時集録されてる短編の方がむしろ出来のいい作品のような気がします。
「第三の解答」=ポーの名作「盗まれた手紙」に載せたプロットが面白い。
「大鴉」="顔のない死体”もの。


No.433 6点 魔女の隠れ家
ジョン・ディクスン・カー
(2011/03/19 14:48登録)
(今こうしてミステリーを味わえる喜びを噛みしめながら、書評を考えてます・・・)
フェル博士の初登場作品。
カーらしい怪奇趣味に溢れた雰囲気が味わえます。
~チャターハム牢獄の長官を務めるスタバース家の者は、代々首の骨を折って死ぬという伝説があった。この伝説を裏付けるかのように、今しも相続を終えた長子マルティンが謎の死をとげた。『魔女の隠れ家』と呼ばれる絞首台に不気味に漂う苦悩と疑惑と死の影・・・~

不気味な伝説や舞台設定、小道具がオカルティズムを盛り上げており、何ともいえないカーらしい作風です。
ほとんどの登場人物にアリバイが成立するなかで、唯一アリバイがなく、いかにもダミーの犯人らしい登場人物は最後に○○・・・
アリバイ崩しについては、要は使い古されたトリックですが、それを作者特有の怪奇趣味でうまい具合にコーティングしてあるため、読者に見えづらくなってる、ということですよね。その辺は割と単純です。
「暗号」についてもそんなに捻りはなく、恐らくイギリス人だったら苦労せず解けるだろうレベル・・・
まぁ、カー全盛期の始まりともいうべき作品ですし、トータルの出来としては悪くないでしょう。「カー入門編」としてはいいかもしれません。
(フェル博士初登場作のためか、博士の人となりが割りとよく紹介されてるのが興味深い。それにしても、カーの怪奇趣味とは相容れない「天真爛漫な性格」ですねぇ・・・)


No.432 6点 福家警部補の挨拶
大倉崇裕
(2011/03/09 21:12登録)
「刑事コロンボ」シリーズをこよなく愛する作者が贈る短編集。
全作「倒叙」形式。コロンボ&古畑系統がお好きな方には恐らく「ド・ストライク」でしょう。
①「最後の一冊」=異常なほどに本を愛する図書館司書が登場。凶器&小道具がなかなか効いてます。
②「オッカムの剃刀」=これは犯人のキャラ設定が秀逸。福家警部補が犯人に迫る際のロジックもよく練られます。
③「愛情のシナリオ」=動機はどうかと思いますし、ロジックというよりは犯人側のミスにより真相に到達するというプロットになってる。
④「月の雫」=アリバイ崩しのロジックが面白い。
以上4編。
まさに、刑事コロンボシリーズを読んでるような感覚。探偵役は、本家の中年男性から年齢不詳(?)の女性に変わってますが、軽妙な筆致は共通。いつも刑事に見られず、事件現場で足止めをくってしまう場面などは、思わず「ニヤッ」とさせられます。
倒叙形式らしいロジックも練られており、その辺りは好印象。
ただ、倒叙形式自体、フーダニットというミステリー最大の面白さを放棄しているわけで、その点を差し引きすればこの辺の評価かなというところに落ち着きました。
(中では②がダントツで面白い。あとの3つは同レベルかなぁ)


No.431 5点 英国庭園の謎
有栖川有栖
(2011/03/09 21:10登録)
火村&アリスの国名シリーズ。
ワンアイデアものの作品が並んだ短編集といった感じがします。
①「雨天決行」=電話の○○間違いが肝とは! ちょっと脱力感。犯人像もやや陳腐。
②「竜胆紅一の疑惑」=どっかで読んだことのあるプロット。まぁ、怪しい登場人物といったらあの人しかいない。
③「三つの日付」=ちょっと意味が分からなかった。
④「完璧な遺書」=なるほど。確かにロジックが効いてなくもない。
⑤「ジャバウオッキー」=巻末の作者解説で、本作は島田荘司の名作「糸ノコとジグザグ」を目指したとありますが・・・本家の出来には遠く及ばず、ではないかな?
⑥「英国庭園の謎」=暗号はまあまあの出来。全体的にモヤモヤした作品。
以上6編。
とにかく、『たいしたことない』という感想。
このシリーズ通しての問題かもしれませんが、まずキャラクターに全く魅力がないのがそもそもの問題点では? 作者がなぜにこれほど本シリーズ&探偵役に拘るのかが理解できませんね。(ちょっと辛口すぎるか?)
(正直、お薦め作品が見当たらない。敢えて言えば④くらいかなぁ)


No.430 8点 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー
(2011/03/09 21:08登録)
偉大なミステリー作家、A.クリスティの長篇デビュー作。
かつ、「灰色の脳細胞」を持つ名探偵、エルキュール・ポワロの初登場作品。
~旧友の招きでスタイルズ荘を訪れたヘイスティングは、到着早々事件に巻き込まれた。屋敷の女主人が毒殺されたのだ。難事件の調査に乗り出したのは、ベルギーから亡命して間もないE.ポワロだった~というのが粗筋。

読後にまず思ったのは、「これがデビュー作?」
さすが、ミステリーの歴史に燦然と輝く作者だけのことはあります。デビュー作とは思えないほどのクオリティ!
もちろん、細かい点では不満なところもあります。例えば、薬局でストリキニーネを買ったという場面・・・いくら相手のことを知らないとはいっても、そこまで間違うのかは大いに疑問。毒殺トリックの真相も、その辺りの専門知識なしではやや苦しいかなぁ・・・
まぁ、全体的にはその程度の齟齬は気にならないほどのプロットでしょう。ポワロの発言自体にかなりの伏線が張られている辺りもニクイ・・・
というわけで、ミステリー黄金世代の幕開けを飾る作品として、万人にお勧めできる良作という評価でいいのでは?
(ヘイスティングの道化ぶりはなかなか哀愁を誘います。ポワロも後年の作品よりも人間味があって好感が持てる・・・)


No.429 7点 イン・ザ・プール
奥田英朗
(2011/03/05 00:07登録)
大好評の伊良部シリーズの第1弾。
とにかく面白い。面白いけど、最後に(ちょっと)ホロっとさせらる(ような)何ともいえないテイスト・・・
①「イン・ザ・プール」=「プール依存症」の男が登場。ただ、この中では一番マトモな患者では? ラストはなかなかいい感じに・・・
②「勃ちっぱなし」=「勃起しっぱなし」の男。これはツライ!!(自分だったら相当困る!) まぁ「言いたいことをグッとこらえる男性」は最近多いんでしょうねぇ。(かく言う私もそうだったりする)
③「コンパニオン」=「自意識過剰すぎる」女。これもどっかにいそうな感じがします。こんな女には近づかないにこしたことはない。
④「フレンズ」=「携帯電話中毒」の高校生。これも大げさだけど、いそうな感じ。携帯の料金が3万円を超えるような奴って、みんなこういう感じじゃないのかな?
⑤「いてもたっても」=「火事心配性」の男。とにかくかわいそう・・・
以上、5編。
それぞれの患者にしろ、伊良部にしろ、とにかくキャラが立ってて、スイスイ読めちゃう。
ホント、人間ってちょっとした精神(=心の持ち方)次第で幸せだったり、不幸だったりするんでしょうし、何だか勇気付けられました。
読み物としては10点でもいいんですが、まぁ「ミステリー」ではないでしょうから、この評点ということで・・・
(ちょうど今やってるTVドラマですが、伊良部役が徳重っていうのはあまりにもイメージと違う・・・)


No.428 7点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2011/03/05 00:04登録)
英国本格ミステリーの系譜を引き継ぐ作者の長篇作品。
翻訳物と思えないほどの読みやすさがGood。
~人気作家ジョフリーの居宅「ガーストン館」に招かれた幼馴染のモーリス。最近様子のおかしいジョフリーを心配する家族に懇願されての来訪だった。彼は兄ライオネルから半年にわたる脅迫を受けており、加えて自身の日記の出版計画が人間関係に複雑な緊張をもたらしていた。そして、ついに・・・~

まさに、「ザ・本格ミステリー」というテイストたっぷりの作品。純粋なフーダニットが存分に楽しめます。
ただし、他の方も指摘されてますが、犯人特定のロジックは正直弱い。
アリバイにしろ、「動機」にしろ、真犯人を特定できるほどの伏線はないような気が・・・登場人物のほぼ全員を怪しくするために、いらない追跡劇などが挿入されてるのもちょっと冗長なかぁと感じてしまいました。
まぁ、全体的には満足できるレベルだとは思います。
ラストも、「(やや)意外な犯人」でサプライズ感も味わえますし、何より安定感たっぷりの筆致なのが一番のセールスポイント・・・
ということで、安心して手に取れる「佳作」という評価です。
(英国でも日本でも、本格ミステリーには「ドロドロした人間関係」というのは不可欠なんですねぇ・・・)


No.427 6点 死びとの座
鮎川哲也
(2011/03/05 00:03登録)
鬼貫警部シリーズ。
大作家、鮎川哲也最後の連載長篇作品です。
~一人目の被害者は東京・中野区の公園に置かれたベンチに座っているところを、拳銃で打ち抜かれて息絶えていた。捜査陣は次々に現れる容疑者に困惑する。スチュワーデス、フリールポライター、同業者たち・・・動機を持つ人間が多すぎる! 鬼貫警部は奔走し、彼らのアリバイを崩そうとするが、やっと
嘘を見破っても、即逮捕とならないから厄介だ・・・~という粗筋。

例によって、容疑者が順次登場し、鬼貫警部がアリバイの壁に阻まれるものの、ついに光明が・・・という定型のプロットが展開されます。
ただ、今回はちょっと「変化球」気味。
被害者の設定自体に「企み」が秘められており、それが分かることで、容疑者の特定→アリバイ崩しという流れになってます。この辺りは老練なプロット&筆致ですね。さすがです。
ただ、全体的にはやはり「ネタ切れ感」が漂うなぁ・・・という感想ですね。作者あとがきにも、「なかなか連載に踏み切れなかった」様子が書かれてますが、往年の作品のような「切れ」は到底窺えません。
ということで、評点的にはこの辺が精一杯ということに・・・
(今回は鬼貫警部の登場シーンも少なめ。相棒の丹那刑事もだいぶ年をとったように書かれていて何だか切ない・・・)


No.426 5点 行きずりの街
志水辰夫
(2011/02/27 17:49登録)
日本冒険小説協会大賞受賞作。
作者の代表作といっていいでしょう。
~女生徒との恋愛がスキャンダルとなり、都内の名門校を追放された元教師だが、失踪した教え子を探すため、再び東京へ足を踏み入れた。そこで、彼は自分の追放劇に学園が関係していることを知る。過去を清算すべき時がきたことを悟った男は、孤独な戦いに挑んでいく~というストーリー。

昨年、映画化もされた有名作ですし、期待感十分で読んだわけですが・・・正直「期待はずれ」に近い。
本作が、ハードボイルドなのか冒険小説なのか、はたまた恋愛小説なのか判然としませんが、何よりこの手の小説に必要不可欠な「緊張感」や「スピーディーさ」が如何せん欠けてます。
あまり小説作法に詳しくはないのですが、台詞に比べて「地の文」の量が多いのが原因のような気がする・・・
(どうしても説明口調が目に付きすぎて、台詞の「行間」を読むことができない・・・)
プロットも今となっては、目新しさはなく、主人公の造形が弱いためか、盛り上がりにも欠けている印象ですね。
ということで、辛らつな書評になりましたが、まぁ期待感の裏返しということで、ファンの方がいらしたら許してください。
(他にも有名作品の多い作者ですから、中には面白いと感じるものもあるのかも・・・)


No.425 7点 悪意
東野圭吾
(2011/02/27 17:47登録)
加賀恭一郎シリーズの4作目。
シリーズ最高傑作との呼び声も高い作品。
~人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、被害者の妻と幼馴染の男。犯行現場に赴いた刑事、加賀恭一郎の推理、逮捕された犯人が決して語らない動機とは? 人はなぜ人を殺すのか~

一言で言い表すなら、「究極のホワイダニット作品」というところでしょうか。
犯人は早い段階で確定し、事件の構図もはっきりしたかと思いきや、さらなる「二番底」のような真相が判明する・・・
それこそがまさに「悪意」なわけです。
いやぁ・・・何かやりきれないようなストーリーですねぇ。人間の弱さというか醜さというのも、ここまで示されると目をそらしたくなってしまいます。
加賀恭一郎という男が何とも恐ろしく感じてしまいました。
作者のストーリーテリングのうまさを十二分に味わえる佳作という評価で間違いなしです。
(加賀刑事が教師をやめた理由も分かってすっきりした。でも、こんなこと現実の事件でもありそうな感じ)


No.424 7点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2011/02/25 23:13登録)
飄々とした名探偵、ブラウン神父シリーズの第3弾。
作者の独特の感性が垣間見える作品が数多く集録された佳作です。
①「ブラウン神父の復活」=シリーズの舞台がアメリカ大陸へ移動した様子。導入部のような1篇。
②「天の矢」=かなり仰々しい舞台設定&タイトルですが、真相はかなりライトなもの。それくらい他の誰かが気付いてもよさそうですけど・・・
③「犬のお告げ」=名作(らしい)。一読後は意味がよく分かりませんでした。準密室の設定自体はミステリーっぽくて好感。
④「ムーン・クレサントの奇跡」=これは密室からの死体の消失を扱ってます。発想はたいへん面白いですが、相当強引な気がする。(島田荘司的発想)
⑤「金の十字架の呪い」=ブラウン神父お得意のロジック。まさに「逆説」的解決です。
⑥「翼ある剣」=これも名作の誉れ高い1篇。確かに面白いし、やっぱり「逆転の発想」そのもの。でも、これって読者には表現的に分かりにくいけど、ブラウン神父にとっては「見え見え」だったということですよねぇ・・・とするとかなりアンフェアな気もする。
⑦「ダーナウェイ家の呪い」=再三再四触れますが、これも「逆転の発想」。
⑧「ギデオン・ワイズの亡霊」=これもロジックの効いた小品。面白いですね。
以上、8編。
さすがに「名作」ぞろいの作品集。読み応えのある作品が並んでいます。
ただ、「ひたすら読みにくい!」
このシリーズだけは「ながら読書」では理解が絶対に不可能。どなたか、もう少し読んですっと頭に入る訳をしてくれないかな?
(個人的ベストは④か⑥で迷う。③は今ひとつ理解しきれなかった。あとは⑤)


No.423 7点 退職刑事3
都筑道夫
(2011/02/25 23:11登録)
国産の安楽椅子型探偵シリーズ第3弾。
相変わらず親父(元刑事)の鋭いロジックが決まってます。
①「大魔術の死体」=電話ボックス内で射殺されたのに、ガラスに銃弾の跡が全くないという謎。まぁ、これしかないという解決。お手本のようなミステリー。
②「仮面の死体」=死体がなぜ般若の面をかぶっていたかという謎。これも「見せ方」が老練。
③「人形の死体」=殺された人形家の作品(人形)までもが殺される(壊される)という謎。ダミーの容疑者が多いので騙されやすい。
④「散歩する死体」=殺されたはずの男が散歩する姿を見られたという謎。結構無理やり感のある真相。
⑤「乾いた死体」=ダイイング・メッセージもの。「雨さえ降っていればなぁー」と言い残して死んだ男の謎。真相は小粒。
⑥「筆まめな死体」=これはちょっと変わった「ダイイング・メッセージ」或いは「暗号」もの。推理クイズのようで面白い。
⑦「料金不足の死体」=これもダイイング・メッセージもの。死体の額になぜか切手が貼られている謎。死ぬ前にこんなこと考えますかねぇ?
以上、7編。
タイトルはすべて「・・・の死体」となっていて、ダイイング・メッセージものが3編連続で続いてます。現実性というよりは、パズル的な面白さを追求した作品集という位置づけでしょう。
まぁ、これはこれで面白いし、ありだと思います。ロジックをこね回しているだけという感想がなくもないですが・・・
(個人的ベストは①。④はちょっと分かりにくいけど、発想そのものは奇抜で面白い)


No.422 7点 霧に溶ける
笹沢左保
(2011/02/20 21:24登録)
ミステリーから時代小説まで多くの作品を残した作者の本格ミステリー代表作。
光文社の復刻版で読了。
~ミスコンテストの最終予選に勝ち残った5人の美女。最終審査を前に脅迫・交通事故などの事件が次々と発生し、ついには怪死事件が起こる。自殺か他殺か? 警視庁特捜班の前には、巧妙なアリバイ工作、鉄壁の密室など複雑に絡み合った殺人連立方程式が立ちはだかる~

さすがに「名作」と呼ばれるだけあります。何よりプロットが秀逸。
後年の作品で、本作のプロットを応用したものを時折見かけますが、本家の切れ味はかなり鋭い!
気付かないでもないようなプロットなのですが、うまい具合に作者に隠蔽されていて、それが明かされる瞬間にはなかなかサプライズ感があります。
ただ、他はちょっと誉められない。
「密室」は「う~ん」というレベル。それに、このプロットで連続殺人を計画した犯人が、この殺人だけ事故死を装うのかが納得いかない・・・
「動機」はすさまじいですね。時代が時代だから(1960年)ということかもしれませんが、21世紀の現在からすれば、ちょっと想像できない・・・
まぁ、60年代を代表する「本格ミステリー」として、読む価値十分の1冊という評価で良いでしょう。
(最後の、女2人の会話は物凄い・・・いやぁー欲深い&嫉妬深い女って怖いね)


No.421 6点 歯と爪
ビル・S・バリンジャー
(2011/02/20 21:22登録)
袋綴じミステリーとして有名な作品。
先駆的叙述トリックを味わうことができます。
~彼の名はリュウ。生前、彼は奇術師だったが、フーディニらができなかった一大奇術をやってのけた。第一にある殺人犯に対し復讐を成し遂げた。第二に自分も殺人を犯した。そして、第三に彼はその謀略工作の中で自分も殺された・・・奇才バリンジャーが仕掛ける驚くべき前代未聞のトリック~

というのが本作の「紹介文」ですが、「驚くべき前代未聞のトリック」というのはやっぱり大げさかなぁ。
いわゆる「カットバック」の手法については、さすがにうまい具合に使われてます。終盤までは、リュウの身の回りで起こった事件を語る場面と、ある法廷の場面が交互に書かれ、それがどのように絡んでくるのか読者には分からない。そして、終盤、2つの場面が急速に接近し、サプライズのラストへ・・・
最近の叙述系作品では何度となく読んでいるプロットではあります。
特に、折原が本作にかなり影響を受けたことは有名ですし、今回読んでみてそれがよく分かりました。
まぁ、サプライズを期待する読者にとっては、やや喰い足りないかもしれませんが、シンプルかつ洗練された文書を味わってみるのも悪くはないでしょう。
(今回、ブックオフで袋綴じがそのままの状態で購入。ということは、売った方は結末を読んでないということ? 勿体無い!)


No.420 7点 眩暈
島田荘司
(2011/02/20 21:20登録)
御手洗潔シリーズ。
「暗闇坂」・「水晶のピラミッド」に続く大作第3弾。久々に再読。
~切断した男女が合成され両性具有者となって蘇る。窓の外には荒涼たる世界の終焉の光景が広がっているばかり。「占星術殺人事件」を愛読する青年が書き残した戦慄の日記が指し示すものは何か? 奇想の作者が放つ驚天動地のトリックとは?~というのが大まかなストーリー。

「摩訶不思議な手記(日記)が読者に示され、探偵役が的確なロジックに基づいて解決していく」というのはミステリーではよく見かけるプロットだと思いますし、本作にも登場する「占星術殺人事件」もまさにこのパターン。
そもそも、事件の正体そのものはそんなに大したことはないんですよねぇ・・・メイントリックそのものは、注意して読めば気付く程度ですし、「両性具有者」の件は煽るだけ煽って、ちょっとがっかりな結末かなと思ってしまいます。
ただ、さすがに島田荘司! 他の作家では感じることのできない「スケール感」があります。ストーリーの前段、古井教授との会話で語られる「脳科学」の話などは、この頃の作品から作者のメインテーマとなっていく題材であり、この辺の取材力だけでも賞賛に値するでしょう。
とにかく、「長さ」は仕方ないとして、一読する価値のある作品という評価です。トリック部分に目新しいものがないので、評点はこの程度。
(「畸形児」の話はなかなか衝撃的。「サリドマイド」は今となっては古い話ですが、過去確かにあった話なのです。TVで何度も見た・・・)

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