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平均点:6.00点 | 書評数:1848件 |
No.468 | 10点 | 香菜里屋を知っていますか 北森鴻 |
(2011/05/06 23:40登録) ついに香菜里屋シリーズも完結! 今回もまさに「珠玉」の連作短編集になってます。 ①「ラストマティーニ」=工藤や香月も通う1軒のバー。老練のバーテンが香月に供したマティーニにいつもの味がないのはなぜか? 小粋なラスト。 ②「プレジール」=シリーズの1作目「花の下にて春死なむ」からの「常連組」、飯島七緒も新たな人生への旅立ちが・・・そして、香月も結婚。 ③「背表紙の友」=こんな偶然あったらすごい! でも、「このまま今の会社しか知らない人生でいいのか?」という東山の思いには同感。 ④「終幕の風景」=ついに「香菜里屋」が閉店! そしてマスター工藤の過去が明らかに・・・ ⑤「香菜里屋を知っていますか」=香菜里屋そして工藤なき今・・・工藤や香月に纏わる過去の因縁が明かされる。冬狐堂や蓮丈那智など、他作品のキャラクターまでもが工藤を懐かしむ・・・ 以上5編。 とにかく、本シリーズは素晴らしい。 解説の中嶋某氏は、「香菜里屋シリーズでは、登場する人物たちの時間がきっちり流れている。そして、登場人物たちが体験したであろう時間の重みをシリーズを通読することで一緒になって追体験できる・・・」と書かれてますが、まさにその通りだと思います。 だからこそ、マスター工藤の発する言葉が読者の胸にも響き、心地よい余韻となっていく・・・そんな気がします。もちろん、素晴らしい料理の数々も・・・ 今回は本作だけでなく、シリーズ通じての評価として「10点」進呈! こんなに高貴で繊細で、どこか温かみのあるシリーズなんてもう読めないかもしれませんし、若くして逝去された作者については、やはり本当に残念でなりません。 (どこかに「香菜里屋」みたいなビアバーないかなぁー。日常生活で背負った「重荷」や「鎧」を解ける店・・・) ※因みに、文庫版では「双獣記」という未完の作品も併載してます。 |
No.467 | 4点 | シャーロック・ホームズ最後の挨拶 アーサー・コナン・ドイル |
(2011/05/06 23:37登録) シャーロック・ホームズものの作品集第3弾。 全盛期から比べると、やはりパワーダウンした作品が多くなってますね。 ①「ウィステリア荘」=ホームズ物でよくあるパターン。何度も焼き直されるプロット。 ②「ボール箱」=憎き奴の耳を削いで贈る奴・・・怖い! ③「赤い輪」=これもよく登場するプロット。もはや定番。 ④「ブルーズ・パティントン設計書」=「・・・思い出」で一度登場したホームズの実兄、マイクロフト氏が再度登場。でも結構わがままな人物。 ⑤「瀕死の探偵」=これは大昔にジュブナイルもので読んだことあり。オチは最初からモロ分かり。 ⑥「フランシス・カーファックス姫の失踪」=う~ん。とりたてて印象に残らず。 ⑦「悪魔の足」=なるほど、これですか・・・。訳の分からない「毒○」って! なんか「サリ○」っぽいですよねぇー。 ⑧「最後の挨拶」=冒頭は「ん?」という感じですが、途中でネタバレがあり、最後にはオチがつく。60歳のホームズも相当精力的です。 以上、8編。 とにかく、これまでの作品集でお目にかかったプロットの焼き直しが相当目立ちます。 もはや、「謎の提起」→「推理、探究」→「解決」という手順はなく、犯人逮捕に至るまでの「冒険譚」という感じでしかありません。 時代背景かもしれませんが、とにかく英国人以外(特にアジア、アフリカ系)は、危険で謎が多く、よく分からない人間だという書き方が目立ち、その辺もちょっと気になる・・・ この頃、「ネタ切れ」は明白だったわけで、乾いた雑巾を絞るように執筆せざるを得なかった作者の苦悩が伝わってくる気がしました。 (やっぱり⑧は哀愁を誘う。歴史的価値はある作品。) |
No.466 | 5点 | 最後の一球 島田荘司 |
(2011/05/06 23:33登録) 御手洗潔シリーズ。 ただし、主役は御手洗ではなく、2人のプロ野球選手。 ~母親の自殺未遂の理由が知りたいという青年の相談に、御手洗はそれが悪徳金融業者からの巨額の債務であることを突き止める。裁判に訴えても敗訴は必至。流石の御手洗も頭を抱えたが、後日、奇跡のような成行きで債務は消滅。それは1人の天才打者と生涯二流で終わった投手との熱い絆の賜物だった~ どう表現すればよいか迷いますが、正規の御手洗シリーズではなく「番外編」のような感じですね。 途中から唐突に「野球小説」モドキに変わります。 確かに、ストーリー自体はそれなりに感動しますし、特に「最後の一球」に関する逸話などは作者のストーリーテラーぶりを十分に感じさせてはくれますが・・・ ただ、かなり「やっつけ」を感じさせるんですよねぇ・・・ いくら御手洗が超人とはいえ、最初に示されたデータだけで、悪徳業者の債務問題だと判断するのは相当無理があると思いますし、「野球」についての部分も、どれほど取材したのか分かりませんが、野球賭博やマル暴絡みの部分などはちょっと安直すぎる! 唯一、屋上で火事を起こす「仕掛け」だけに、島田テイストを感じることができました。 (作中では、契約書への署名・捺印だけで裁判では業者に勝てないとありますが、現実ではそんなことはありません。業者にも当然、説明義務はありますし、契約者が契約内容を理解したのかを確認する義務もありますので・・・悪しからず。) |
No.465 | 8点 | 空中ブランコ 奥田英朗 |
(2011/05/03 18:59登録) 大好評の伊良部シリーズ第2弾。 なんと「直木賞」受賞作。 ①「空中ブランコ」=表題作に相応しい出来。でも、そんなことより伊良部が空中ブランコをやる姿なんて・・・そりゃ観客も大爆笑でしょう! ②「ハリネズミ」=尖ったものが苦手のヤクザ・・・これも笑えるけど、すごく人間臭い話。心の弱い人間ほど「ハリ」を立てて威嚇するってことですね。 ③「義父のヅラ」=これはもう大爆笑!! ウチの社内にもいます。誰もが「ヅラ」と知ってる人! 主人公がついに義父のヅラを取り外してしまう場面なんて・・・読書で久し振りに笑わせていただきました。でも最後はちょっと「ホロッ」とさせられる。 ④「ホットコーナー」=ありますよねぇ・・・相手を変に過大評価してしまうこと。どんなに優秀に見える人だって、しょせんは人間ですし・・・あと、努力と経験は決して裏切らないってことかな。 ⑤「女流作家」=これもうまい。こんな悩みを持った人っていっぱいいそうな気がする。何事も「こだわり」と「信念」が大事ってことでしょう。 以上5編。 いやぁ・・・さすがの面白さ!直木賞受賞作だけあります。 人間の悩みや変なプライドなんて何の意味もない、肩肘張らずに、自分に正直に生きていこうよ・・・って思わされますねぇ・・・ これこそが、ドクター伊良部のカウンセリング。 読み物としては15点くらい進呈したい気分ですが、ミステリーではないでしょうから、まぁこの程度の評価ということで・・・ とにかく未読の方がいらっしゃいましたら(特に仕事や人間関係に悩む大人の方)、カウンセリングのつもりで是非読んでください。お薦め! (③は最高に笑える。他も十分面白い。) |
No.464 | 7点 | 兄の殺人者 D・M・ディヴァイン |
(2011/05/03 18:56登録) ディヴァインの処女長編。 発表当時、かのクリスティーも絶賛したレベルの高い作品です。 ~霧の夜、弁護士事務所の共同経営者である兄から急にオフィスに呼び戻された弟は、そこで兄の射殺死体を発見する。仕事でも私生活でもトラブルを抱えていた兄を殺したのは一体何者か?警察の捜査に納得できず独自の調査を始めた弟は、兄の思わぬ秘密に直面する~ 評判に違わない良作。 英国伝統の本格ミステリーらしく、非常に丁寧に作り込まれてます。 兄弟やそれぞれの妻、義父、そして職場の同僚といったごく「近しい」人々との間のドロドロした人間関係を軸に、ダミーの犯人役が次々に登場し、読者を迷わせるプロットは、本格好きの読者にはやっぱりたまりません。 アリバイトリック自体は、「ふーん」という程度のものですが、フーダニットについてはサプライスも十分あり、伏線の置き方なども満足できる水準でしょう。 敢えて難を言えば、真犯人の「秘密(○○○○)」の部分ですかねぇ・・・(何となく気付きましたが) 作中では簡単に流してましたが、実際やるとすればリスキーかなぁと思ってしまいます。(周りに気付かれそうな気がする) まぁ、重厚な本格物好きの方なら十分に満足できるという評価で良いでしょう。 (ロンドンの霧ってやっぱりすごいんですね・・・変な所に感心) |
No.463 | 8点 | 黙示録殺人事件 西村京太郎 |
(2011/05/03 18:54登録) 十津川警部&亀井刑事のお馴染みの名コンビシリーズ。 いつものような「列車」や「旅情」は一切なし。社会派的要素も取り込んだ意欲作。 ~休日の銀座に突然、蝶の大群が舞った。蝶の舞い上がった後には、聖書の言葉を刻んだブレスレットをはめた青年の死体があった。これが十津川警部をきりきり舞いさせた連続予告自殺事件の始まりだった。次々に信者の青年を自殺させる狂信的集団。指導者は何を企んでいるのか?~ これは「掘り出し物」的面白さ。 都内の繁華街などで起こる連続自殺事件など、冒頭から読者を惹き付ける謎があり、中盤以降も十二分に読ませる展開が続きます。 新興宗教の狂信さを事件のバックボーンに置いているので、てっきり「オウム真理教」の影響下かと思いきや、本作の出版の方がかなり早いんですねぇ・・・ (本作が1980年初版、オウムの地下鉄サリン事件が1995年) カリスマ性のある指導者の姿や、女性信者を性の奴隷にしたり、信者の生死さえも決めてしまう権力など、まるで後年の事件を予言しているかのような内容には軽い驚きすら感じます。 特筆すべきはラストシーンの美しさ! 事件は十津川たちの尽力で一応の解決をみますが、一人の女性信者の姿を描いた場面はかなり強烈な後味を読者に残します。 個人的に、作者の作品については、いわゆる「トラベル・ミステリー」以外の佳作を本サイトでなるべく紹介してますが、本作もミステリー作家としての作者の非凡さを十二分に示した良作ではないかと思いますね。 (作者としては珍しく2つの「密室トリック」も出てきます。ただし、トリックのレベルそのものは・・・あまり触れないでおこう!) |
No.462 | 5点 | かばん屋の相続 池井戸潤 |
(2011/04/29 23:27登録) 「オール讀物」誌に断続的に発表した作品をまとめた短編集。 大田区にある「とある銀行の店舗」を舞台とした作者得意の金融ミステリー。 ①「十年目のクリスマス」=かつて会社を倒産させたはずの社長が高級車を乗り回す? 現実的には債権者もそんなに甘くないような気はするし、本来ならこれって保険金詐欺に当たるのでは? ②「セールストーク」=作者の作品に良くある、銀行を舞台にした「勧善懲悪」もの。「浮き貸」はダメですよ、支店長! ③「手形の行方」=取引先の手形が銀行内で紛失した? 真相は割と在り来たり。 ④「芥のごとく」=ラストに救いがなくてちょっと・・・まぁ、商売の世界は厳しいということだよね。まさに「弱肉強食」。 ⑤「妻の元カレ」=これも、ラストは丸く収まるかと思いきや、救いのない感じに・・・自分の希望と待遇(現実)の格差って、サラリーマンにとっては何となく悩んでしまうことだよね。 ⑥「かばん屋の相続」=これはあまりに「勧善懲悪」すぎて、ちょっと現実感に薄い。いかにも作り物っぽくて、表題作には相応しくないと思うが・・・ 以上6編。 まぁ、安定感たっぷりといえばそうかもしれないが、ちょっと「いかにも」すぎる作品という印象。 作者の作品を読んでると毎回感じますが、「お金」ってやつは人間をとことん嫌な奴に貶めるものなんですねぇ・・・ それでも人は生きていくために「働き」、「お金を稼ぐ」しかないわけですけど。 (あまりお勧めというべきものはなし。敢えて挙げれば②か④) |
No.461 | 5点 | スペイン岬の秘密 エラリイ・クイーン |
(2011/04/29 23:25登録) 国名シリーズ第9作目。 「ニッポン樫鳥の謎」は本来、国名シリーズではないですから、実質本作が同シリーズ最終作ということに。 ~スペイン岬と呼ばれる花崗岩塊の突端にある別荘の海辺で発見されたジゴロの死体。事件が発生した当時、問題の家にはいずれも一癖ある客が招待され、そのうえ3人の未知の人物まで加わっていたらしい。被害者はなぜ裸になっていたのか?魅惑的で常軌を逸した謎だらけの事件・・・~ 国名シリーズもここまで回を重ねると、当初の純粋パスラー小説から、かなり趣が変わったような気がします。 もちろん、最終章でのエラリーの推理には、真犯人たる条件が列挙され、お得意の消去法的推理も開陳されてますし、ロジック重視を念頭に置いていることには違いないんでしょうが・・・ 本作の「肝」は、最初から徹底して、「なぜ被害者が裸になっていたのか?」という1点に尽きます。 ただ、相当引っ張った割には、真相はかなり呆気ないもの・・・(そりゃ当然だろ!って突っ込みたくなります) 中盤以降かなり冗長感がある分、ラストのサプライズ感を削いでいますねぇ。 やっぱりシリーズものは続けすぎると、どうしても「マンネリ感」が出るということなのかな? (フーダニットも不満。途中から"あの人物”に関する記述が明らかに消されてるのは如何なものか?) |
No.460 | 7点 | シリウスの道 藤原伊織 |
(2011/04/29 23:22登録) 大手広告会社に勤める男、辰村祐介を主人公にした傑作企業小説。 文春文庫版では上下分冊のボリュームです。 ~大手広告代理店に勤める辰村祐介には、明子・勝哉という2人の幼馴染がいた。この3人の間には、決して他人には言えないある秘密があった。その過去が25年の月日を経た今、何者かによって察知された・・・緊迫した18億円の広告コンペの内幕を主軸に展開するビジネス・ハードボイルド!~ 一言でいうなら、「藤原伊織」という作者のエキスがすべて詰まった作品という感じ。 ストーリーやプロットは代表作である「テロリストのパラソル」や「てのひらの闇」と相通じる部分が多いですし、特に主人公の造形は、それぞれの作品に登場する「島村」と「堀江」と相似形・・・ 本作は、脇役を含めた1人1人のキャラが立ってます。 特に「戸塚」の存在はなかなか胸を打ちます。それだけにラストの扱いには不満が残る・・・もう少し彼にハッピーエンドを用意して欲しかった。 後は、「社長!」・・・かっこよすぎ! 私も、ビジネスの世界に生きる端くれとして、「いい仕事とは何か」、「男の矜持ってなに?」・・・思わず考えさせられしまいました。 ミステリーと言えるかどうかは置いといて、乾いた世界に生きる(?)企業戦士の方々には、自身の仕事や職場を振り返りながら読んでみるのも一興かも。 (「テロリスト・・・」の登場人物の1人、元警官・浅井が本作にも登場。ホットドックしか出さない新宿裏通りの例のバーも出てくるのが嬉しい・・・) |
No.459 | 5点 | 黒猫・アッシャー家の崩壊 -ポー短編集Ⅰ ゴシック編- エドガー・アラン・ポー |
(2011/04/24 19:52登録) ポー生誕200周年を記念して新潮文庫から出版された作品集の第1弾。 第1弾は「ゴシック編」として、ミステリージャンル以外の作品が集録されています。(第2弾のミステリー編はすでに書評済) ①「黒猫」=ポーといえば「この作品」という方も多いのかもしれません。はずみで殺してしまった黒猫と妻。そして、ラストでは黒猫の祟りとでも言うべき現象が起こる・・・実にブラック&詩的です。 ②「赤き死の仮面」=? 「赤き死」というのは、「黒死病=コレラ」を想起させるとのことですが・・・ ③「ライジーア」=これも詩的ですが・・・解説によれば、「美女再生譚」の1つとのこと。 ④「落とし穴と振り子」=実は、個人的にはポーの作品で一番面白いと思ってるのが本作。ラストに救いがあるのがいいね。 ⑤「ウィリアム・ウィルソン」=これも難解な話。正直なにが言いたいのか理解できませんが、オチは他の作品でもよく見られるサプライズ・・・ ⑥「アッシャー家の崩壊」=これもポーといえば本作というべき作品の1つ。ここでも、突き放したようなオチが何ともブラックだし、尾を引く感じなんだよねぇ・・・ 以上6編。 タイトルどおり、いわゆるミステリーというジャンルに含まれる作品ではないですが、さすが「珠玉の名作」と思わせるものはあります。 文学的すぎて、小市民の私では理解できないところもありますが、たまにはこういう作品に接することも貴重な機会かもしれません。 解説では、ポーの生涯にも触れてますので、ポーという作家のバックボーンを理解したうえで本作を読むことをお薦め! (個人的には④が大好き。もちろん、①や⑥も名作) |
No.458 | 6点 | 遠きに目ありて 天藤真 |
(2011/04/24 19:50登録) 脳性麻痺を患う信一少年を探偵役とした連作短編集。 成城署の真名部警部が持ち込む事件を信一少年が解き明かすという完全なアームチェア・ディテクティブものです。 ①「多すぎる証人」=ポーの歴史的名作「モルグ街の怪事件」を思い起こさせるプロット。多くの証人がいろいろな証言をしているが、一体真犯人はどういう人物なのか? ②「宙を飛ぶ死」=奇術でいう「人間大砲」の仕掛けをモチーフにした作品。東京にいたはずの被害者が、なぜか諏訪で死体となって発見される? ただ、関係者がゴチャゴチャしていてやや分かりにくい。 ③「出口のない街」=1つの街を舞台にして、衆人監視の準密室で殺人が起こる謎。「密室」ものの変格であり、お手本のような作品。アリバイも絡めたプロットはなかなかの出来だと思います。 ④「見えない白い手」=中篇というべき分量。肝心の犯行時の描写がやや分かりにくいのが難。メイントリックも現実的に可能なのかやや疑問。 ⑤「完全な不在」=タイトルからするとアリバイものっぽいですが、要は「○○○○り」トリック。登場人物が役者という時点で、まぁ気付くよなぁ・・・ 以上5編。 出来はなかなかいいと思います。 アームチェア・ディテクティブですから、現実性云々というよりは、ロジック重視の純粋パズラー小説。 主人公にハンディキャップを持つ少年を配して、障がい者にも優しい社会を願う作者の思いも作品の端々から伝わってくる・・・そんな作品。 (③が一番の好み。①もまずまず。他はちょっと落ちる印象) |
No.457 | 6点 | 緑衣の鬼 江戸川乱歩 |
(2011/04/24 19:48登録) フィルポッツの名作「赤毛のレドメイン家」を翻案した小説として有名な本作。 明智小五郎ではなく、乗杉龍平という素人探偵が登場。 ~銀座の街頭で奇禍に遭ったところを救われ、連日の不穏な出来事を訴える可憐な女性、芳枝。人妻と知りつつも探偵作家大江の胸は騒ぐ。その翌日、緑衣の怪人物に襲われる芳枝夫妻。1か月後、夫を喪い伊豆で傷心を癒す芳枝から便りが届くが、またも緑衣の影が・・・~ なんと言うか、実に「乱歩らしい」作品ですよねぇ。 ①美しい女性が登場し、主人公がその美しさにまいる。②その女性が何らかの犯罪に巻き込まれる。③周りの人間は殺されていくが、その女性はなんだかんだいいながら殺されず助かる。④もちろん真犯人は「○○○」・・・ もはや分かりきった展開で、分かりきったラストを迎えます。 トリックは恐らく成立しないんじゃないかというものも多い。特に「腹話術」・・・普通、気付くだろ!(乱歩を読んでると、「腹話術」万能かと思わされる) などと貶してしまいましたが、もちろん乱歩らしい「ハラハラ・ドキドキ感」を堪能できるという長所もありますし、ラストに向け徐々に盛り上げ、読者を惹き付ける展開にも唸らされます。 ロジックで凝り固まったパスラー小説に飽きたら、こんな作品を読んでみるのも一興かもしれませんね。 (全身緑ずくめの男・・・本当にいたらかなり怖い!) |
No.456 | 7点 | 七回死んだ男 西澤保彦 |
(2011/04/19 23:11登録) 作者の代表作(と言えるかな?)。 ギャグも散りばめた、お得意の「SF系本格ミステリー」。 ~どうしても殺人が防げない!不思議な時間の「反復落とし穴」で、甦るたびにまた殺されてしまう、渕上零次郎老人。「反復落とし穴」を唯一認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘のすえ、少年が思いついた解決策とは?~ これぞ「西澤作品!」とでも言いたくなる、変な設定です。 作者あとがきを読むと、「デジャブ」を主題にした映画を見て、本作のプロットを思いついたとありますが、普通の感覚なら本にしないですよ。 ただ、さすがに「計算」されてます。伏線の設定は見事。(まあ、それがないとそもそも成立しないプロットではありますが・・・) 要は「時間軸」なんですよね。 「時間軸」をズラすのは「叙述系トリック」の王道なわけで、それをかなり「大技」かつ「荒唐無稽」にしたのが、本作の「反復落とし穴」ということでしょう。 でも、さすがに「久太郎が○○○いた」のには気付かなかった! まさかね、そういうオチとは・・・ 未読の方がいらっしゃいましたら、騙されたと思って一度読んでみてはいかがでしょうか。 (「久太郎が年齢よりも大人びて見える」ことにも何か仕掛けがあるのかと思いきや、スルーされてましたね。そこがちょっと残念。) |
No.455 | 6点 | ウッドストック行最終バス コリン・デクスター |
(2011/04/19 23:10登録) モース警部シリーズの長編第1作目。 人間味溢れるキャラクターで、ニヤリと笑わせてくれるシーンも多い作品。 ~夕闇の迫るオックスフォード。なかなか来ないウッドストック行きのバスにしびれを切らして、ヒッチハイクを始めた2人の娘。その晩、ウッドストックの酒場でヒッチハイクをした娘の1人が死体となって発見された。もう1人の娘はどこに消えたのか。なぜ名乗り出ないのか?~ 本シリーズと言えば、「仮説」を立てては壊し、立てては壊し・・・というイメージでしたが、本作はそれほどのクドさはありません。 ヒッチハイクをしたもう1人が分かりそうで分からないというもどかしい展開が続き、ダミーの犯人も次々に容疑者から消えていく・・・ ただ、個人的には前評判ほど面白いとは感じませんでしたねぇー。 なにか、単純な問題をわざと分かりにくく紆余曲折させているような感じといえばいいのか・・・モース警部の推理法も、読みながら今ひとつ伝わってこなかったんですよねぇ・・・ 文庫版解説を読むと、作者は安楽椅子型の探偵を理想としており、指紋等の科学捜査やアリバイといった従来の警察捜査に関するくだりを敢えて省略しているとのこと・・・ まぁ、それはそれでいいんですけど・・・何かワンパンチ足りないようなモヤモヤ感が残ってしまいました。 (モース=ルイスのコンビのやり取りはなかなか面白い。) |
No.454 | 6点 | 崩れる 結婚にまつわる八つの風景 貫井徳郎 |
(2011/04/19 23:07登録) 「結婚」に纏わる男女あるいは女性同士などの「感情のもつれ」をテーマにした短編集。 既婚者にとってはなかなか考えさせられるお話が満載。 ①「崩れる」=表題作。夫と息子の両方が無職のごくつぶし・・・そんな状態に耐えられなくなった妻は・・・ ②「怯える」=しつこいモトカノに悩まされる男。確かに、いくらカワイくてもこんな女は嫌だ。 ③「憑かれる」=ラストは軽~いホラーめいた話に・・・ ④「追われる」=今で言う「ストーカー」の話。確かに、「草食系男子」が増加するなか、こんな奴は結構いるんだろうな。そして、変に勘違いする女も。 ⑤「壊れる」=ひと昔まえに流行った「W不倫」の話。まぁ、因果応報ってことですね。 ⑥「誘われる」=最近、これをテーマにしたフジTVのドラマも始まった・・・「ママ友」。男には分からん世界だねぇー ⑦「腐れる」=ちょっと日本語おかしくない? サスペンス系によく出てきそうなプロット。 ⑧「見られる」=これもストーカーっぽい話。ラストを締めくくるにはやや弱い作品。 以上、8編。 いやぁ、なかなか身につまされる話もあって面白く読まさせていただきました。 大半がバッドエンドになっていて、若干ムズムズ感が残るのが作者の狙いなんでしょうね。 男女の愛情だけではない、損得勘定やプライドやエゴ、その他人間の諸々の感情が集積されるのが「結婚」や「結婚生活」ってやつですから、こういうテーマも十分ありですね。「読み物」としてもなかなか面白いと思います。 (①③⑥辺りがおすすめでしょうか。他もまあまあかな。) |
No.453 | 7点 | 三幕の殺人 アガサ・クリスティー |
(2011/04/15 23:09登録) ポワロ物としては9番目の作品。 かなり以前、確か新潮文庫版で読んで以来の再読。 ~引退した俳優が主催するパーティーで、老牧師が不可解な死を遂げた。数か月後、あるパーティーの席上、俳優の友人の医師が同じ状況下で死亡した。俳優、美貌の娘、演劇パトロンの男などが事件に挑み、名探偵ポワロが彼らを真相へと導く~ 個人的には、非常に高いレベルで、出来のいい作品だと思います。 もちろん、「動機」の問題はいろいろな方々が書評しているとおりで、まぁ「問題あり」ではありますが・・・ 「こんな理由で殺人を犯すか?」というのは正常な感覚ならば当然なのですが、そこは推理「小説」なのですから・・・ プロットとしてはよく練られていると思いますし、いかにもクリスティらしさに溢れた作品だと感じますね。 本物の「劇」の如く、ラストで鮮やかにある人物の姿が反転させられる、ましてやその人物とは「○○」なのですから、舞台効果は満点でしょう。 というわけで、作者の格調高い作品の1つとして、十分にお薦めできる作品です。 (相変わらずポワロは最後までもったいぶってくれますが、今回は本当に第1の殺人の「動機」が分からなかったんですね・・・) |
No.452 | 9点 | 私が彼を殺した 東野圭吾 |
(2011/04/15 23:08登録) 加賀刑事シリーズ第5弾。 「どちらかが彼女を殺した」に続く、"最後まで犯人の名前が明かされない”究極のフーダニット! ~婚約中の男性の自宅に突然現れた1人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺を図った。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルとその行方~ いやぁ、これはスゴイ作品ですね。 「どちらかが・・・」にもかなり感心させられましたが、今回はそれ以上。 前回の「三人称一視点」から、「一人称一視点」に変わったことも、読者をさらに煙に巻く効果を発揮しているようです。 加賀刑事シリーズには何かしら毎回感心させられてますが、今回の「毒入りカプセル」の推理もかなりのもの。 毒入りカプセルを被害者に仕掛ける機会ばかりを考えているところへ、「○○物」自体の伏線まで張られていたとは・・・(袋綴じ解説を読んで初めて気付いた) ネタバレサイトもいくつか閲覧したため、一応真犯人については理解しましたが、個人的にはもうちょっと飛躍して考えてたので、やや拍子抜け感はありますけど・・・ とにかく、ミステリー作家としての作者の「腕」の確かさを改めて感じることのできる「必読の書」という評価で間違いなし。 (そんなに短いわけでもないのに、あっという間に読了してしまいました。さすが東野圭吾・・・) |
No.451 | 6点 | バラ迷宮 二階堂黎人 |
(2011/04/15 23:05登録) 二階堂蘭子シリーズの作品集。 第1作品集「ユリ迷宮」に続く第2弾です。 ①「サーカスの怪人」=人間大砲というのがかなり血生臭い。こういう奇術的トリックは作者の得意技ですね。 ②「変装の家」=トリック自体は普通。「盲目」の人物が出てきた時点で想像がつく。 ③「喰顔鬼」=ホラーじみた話だが、真相には特に捻りがなかった・・・ ④「ある蒐集家の死」=ダイニング・メッセージもの。推理クイズのようなストーリー&プロット。なんかスッキリしないなぁ・・・ ⑤「火炎の魔」=ある化学物質を使えば人間を簡単に焼死させられる・・・ということ。 ⑥「薔薇の家の殺人」=フーダニットについては読み応えあり。最後の捻りもなかなか効いている。まあまあの秀作。 以上6編。 蘭子シリーズとしてはちょっと喰い足りないような印象。やっぱり長編向きの探偵&シリーズだと思います。 クドイくらい大時代的で、薀蓄やドロドロした展開で、というんじゃないと満足できない! これぞファン心理。 (⑥はなかなか面白い。他はどれも今ひとつの出来ですねぇ) |
No.450 | 8点 | 幻の女 ウィリアム・アイリッシュ |
(2011/04/10 21:43登録) 450冊目の書評は、サスペンス界の巨匠が贈る不朽の名作で。 「ファントム・レディ」の追走劇がNYの街を舞台に繰り広げられます。 ~1人街を彷徨っていた男は、奇妙な帽子をかぶった女に出会った。彼は気晴らしにその女を誘い、自宅に帰ると喧嘩別れした妻の絞殺死体を発見してしまう。刻々と迫る死刑執行の日、彼のアリバイを証明してくれる唯一の目撃者"幻の女”はどこにいるのか?~ さすがに「不朽の名作」と冠されるだけはあります。 事件の日以降姿を消してしまった「幻の女」の謎、そして幻の女を追い掛ける中で、次々と消されていく関係者の謎・・・読者の煽り方がうまいですね。 そして、ラストの大ドンデン返しはサプライス感たっぷり! ○○○○の言動は確かに不自然なんですよねぇ・・・「謎」の部分が、そのまま「仕掛け」に直結しているわけで、読者は「なるほどねぇ」と思わされるわけです。(ちょっと分かりにくい書き方ですけど・・・) もちろん、論理的にみておかしなところはいろいろ目に付きます。 特に、「真犯人が危険を冒してそこまでやるか?」というのは感じるところですし、単に買収しただけですから、警察関係者が少しでも疑問を持てば、犯人側の目論見が瓦解するのは明らかなわけで、かなり結果オーライな計画には違いありません。 ただ、本作にそういう目線は不必要でしょう。 ロジックなんて脇に置いといて、「小説」としての何ともいえない雰囲気や香りを楽しむべき作品だと思います。 本作のほかにも、氏の作品に多大なる影響を受けた作家は大勢いるでしょうし、そういう意味も含めて、”敬意を表すべき作品”という評価で間違いなし! (「夜は若く、彼も若かった。夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」・・・確かに名フレーズかも) |
No.449 | 7点 | ソロモンの犬 道尾秀介 |
(2011/04/10 21:35登録) ごく初期に書かれた青春3部作の1つ。 作者に対する個人的なイメージとは真反対の爽やか系ミステリー。 ~秋内たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい助教授に相談に行く。そして、予想不可能な結末が・・・~ これは、「予想外」に面白かった! そんな大したトリックやら、叙述的仕掛けがあるわけじゃないですが(多少はありますけど)、なぜか引き込まれるものがある・・・そんな作品。 特に「犬」の生態に関してはなかなか興味深かったですね。 「事故」に付随して起こった「犬」の不可思議な行動・・・それを動物生態学から解き明かしていくというのも割りと新鮮な感じがしました。 「叙述系のトリック」はちょっと上滑りしているかなぁー いわゆる「○○オチ」に近いので、ちょっとレベルが低い気がする・・・ フーダニットもややいただけない。ラストまでに真犯人の情報がなさすぎるためちょっと唐突。 というような欠点も垣間見えますが、トータルでは十分お薦めできる水準の作品かと思います。 後味も爽やか・・・ (こんなウブな大学生、今どきいるのかな?) |