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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.479 6点 終末のフール
伊坂幸太郎
(2011/05/28 21:14登録)
ノン・シリーズの連作短編集。
数年後に小惑星が衝突し、地球が滅亡する、というかなりストイックな設定です。
①「終末のフール」=学業が優れているのが「天才」ではない。特に、こういうストイックな場面では「バカ」の方がよっぽど価値がある・・・ということ?
②「太陽のシール」=世界一(?)優柔不断な男が登場。こんなストイックな状況で、妊娠した妻。果たして生むべきか生まざるべきか?
③「籠城のビール」=確かに、無責任なマスコミは嫌だ! でもマスコミ人も迷っているのだ!
④「冬眠のガール」=何とも魅力的な女性です。やっぱり、死ぬ前に恋人欲しいよねぇ・・・
⑤「鋼鉄のウール」=苗場さんが実にかっこいい。どんな状況になろうと、「やるべきことをやる」という姿勢こそ最も美しいのだと思わされる。
⑥「天体のヨール」=やっぱり、「自分の決めた道」を持ってる人は強い・・・っていうことかな?
⑦「演劇のオール」=何となく虚無的。
⑧「深海のポール」=ほぼ全編に登場するレンタルビデオ屋の渡部氏が主役。一本筋の通った父親のキャラが魅力的。
以上8編。
地球滅亡が迫り、人間の心が一旦荒廃した後、落ち着きを取り戻しつつあるといった状況設定。
「仙台」という設定のせいかもしれませんが、大震災後の今現在を何となく想起させる・・・
ただ、結局、伊坂は何が言いたかったのか? ちょっと不明。
(キャラ的には⑤の苗場さんがベスト。誰もがどうしていいか分からないような状況下では、自分ができることを休まずやることが一番大切なんだと気付かされる)


No.478 5点 夜は千の鈴を鳴らす
島田荘司
(2011/05/28 21:12登録)
吉敷刑事シリーズ。
タイトルからして、W.アイリッシュの名作「夜は千の目を持つ」を意識している?
~JR博多駅に到着した寝台特急「あさかぜ1号」の2人用個室から女性の死体が発見された。検死の結果、死因は心不全と判明。だが、前夜、被害者が半狂乱になり口走った「列車を止めて、人が死ぬ、ナチが見える」という意味不明の言葉に吉敷は独自の捜査を開始する~

正直、吉敷刑事(警部)シリーズの中では「凡作」だと思います。
事件の最大の謎とも言える「ナチ」の謎は、割と早い段階で判明してしまい、その時点でちょっとトーンダウン。
後は、いわゆる「アリバイ崩し」がメインとなるわけですが、そのアリバイトリックも氏の他作品(例えば「はやぶさ1/60」や「出雲伝説7/8」)に比べても、かなり低レベルでは?
(島田ファンとしての)救いは、この時期、徐々に事件に対してストイックになっていく吉敷の姿や、後に氏のライフワークにもなる冤罪事件への傾倒の萌芽がかいま見えることでしょうか。
また、吉敷シリーズには、毎回魅力的な女性が登場しますが、本作も同様。こういう女性を書かせるとさすがにうまい。
ただ、明らかにワンパンチもツーパンチも足りない作品としか言えないなぁ・・・
(「あさかぜ」も随分前に運転停止になってしまいました。21世紀の現在はトラベル・ミステリーを書くのも一苦労ですねぇー)


No.477 5点 帽子収集狂事件
ジョン・ディクスン・カー
(2011/05/22 20:16登録)
「魔女の隠れ家」に続くフェル博士シリーズの第2作目。
創元推理文庫から最近出た新訳版で読了。
~"いかれ帽子家”による連続帽子盗難事件が話題を呼ぶロンドン。ポーの未発表原稿を盗まれた古書収集家もまたその被害に遭っていた。そんな折、ロンドン塔の「逆賊門」で彼の甥の死体が発見される。古書収集家の盗まれたシルクハットを被せられた格好で・・・~

何か、カーらしくない作品のような気がします。
「密室」や「オカルト」といったカー独特のエッセンスも希薄ですし、仕掛けやトリックについてもやや小粒な感じがしました。
何で、乱歩はこの作品をカーNO.1かつミステリーベスト10にも選出したのでしょうか?
文庫版あとがきで、戸川氏もその点に触れてますが、どうやら戸川氏も今ひとつそれが納得できてない様子・・・
アリバイトリックは、非常にポピュラーな手法。
見せ方がうまいので、面白く感じますが、長々と引っ張るほどのものではないですねぇー。
動機についても後出しで、読者にその動機を推理できる伏線はないような気がするのですが・・・
そう悪いという訳でもないのですが、そこまで評価するほどかなあ?という印象ですね。
(新訳版は実に読みやすい! やっぱり翻訳物は訳の良し悪しで大きく印象が変わっちゃいます)


No.476 6点 魔法飛行
加納朋子
(2011/05/22 20:14登録)
前作「ななつのこ」に続く、「駒子シリーズ」の第2作目。
本作もやはり「加納朋子」ワールド全開の連作短編集。
①「秋りん・りん・りん」=複数の名前を持つ美しい女子大生に纏わるちょっとした謎。瀬尾さんも言ってますが、男性にとってこういう女だけの世界って、まさに"ワンダーランド”ですねぇー。
②「クロス・ロード」=街中の十字路でひき逃げに遭った一人の少年。幽霊の正体は「彼」なのか? 徐々に骸骨化していく「絵画」の謎。
そうか、確かにそういう画法ってあったような気がする。
③「魔法飛行」=懐かしいね「糸電話」! 最近の子供も知ってるのかな? 卓見クンと野枝さんの関係もなかなか微笑ましい。
④「ハローエンデバー」=エンデバーって、一昔前のスペースシャトルの愛称。①で登場した謎の女性も再登場。
以上4編。
本作は、駒子が書いた物語を瀬尾に送り、それに対して瀬尾が感想&謎解きを行うという趣向をメインに、「謎の手紙」が絡まる展開。
「ななつのこ」と同じく、最終編で連作の謎が明らかになるのですが・・・なんかちょっと分かりにくい、というかパズルがきちんと当てはまらないような感覚。
ということで、前作よりはちょっと落ちるかなという印象です。
ただ、好きですけどね。たまにはこんな作品を読んで、ほのぼのした感覚になるのもいいもんです。
(やっぱり③が一番いいね)


No.475 8点 暗色コメディ
連城三紀彦
(2011/05/22 20:13登録)
作者の長編第1作目。
何とも表現できないような独特の世界観が味わえる作品。
~もう1人の自分を目撃してしまった主婦。自分を轢き殺したはずのトラックが消滅した画家。妻に「あんたは1週間前に死んだ」と告げられた葬儀屋。知らぬまに妻が別人にすり替わっていた外科医。4つの狂気が織り成す幻想のタペストリーから、やがて浮かび上がる真犯人の狡知!~

いやぁ・・・正直これは驚いた!
「序章」から「第一部」までは、どう読んでも推理小説的ロジックやリアリティーのかけらも感じられない展開・・・何か、精神疾患の患者を主人公にした幻想小説を読まされているようにしか思えない・・・
これがどう転んだら、「本格ミステリー」として収束させられるのか? 興味津々といった感じで「第二部」へ突入。
まさに、1つ1つ糸が解かれていくように、「幻想」というハリボテがはがされていきます。そして残ったのは現実感のある解決と狡知な真犯人!
連城マジックを見せられた思いです。
敢えて言えば、やはりロジックの無理矢理感はありますし、現実と仮想の「ギリギリ」感は好みが分かれるのかもしれませんが・・・
ただ、それを押しても、読む価値十分という作品で間違いなし。
(直線道路とエレベーターのトリック?はかなり無理があるように思う。あと、外科医のキャラは相当コワイ・・・)


No.474 5点 「信濃の国」殺人事件
内田康夫
(2011/05/15 21:25登録)
別名「信濃のコロンボ」、長野県警の竹村警部が活躍するシリーズ。
舞台は作者お得意の長野県です。
~信州毎朝新聞の編集者の絞殺死体が長野・水内ダムで発見され、部下である1人の記者が疑われた。しかし、恵那山トンネル・長楽寺・寝覚の床でも次々と絞殺死体が発見され、それが長野県歌「信濃の国」に歌われる名勝であることに記者の妻は気付いたが・・・~

内田氏の父親が長野県出身であり、氏自身も軽井沢在住ということで、信濃・長野県に対する「愛情」が窺われる作品になってます。
北信(長野市周辺)と中・南信(松本市や飯田市など)がいろいろな面で対抗しているという話は確かに耳にする機会はありましたが、歴史上こんな事件があったわけなんですねぇ・・・
本作の肝は、トリック云々ではなく、大きすぎるくらい大きい「事件の背景」と「動機」にあります。
ですから、読者が竹村警部に対抗して推理していこうなんて全く無理。事件の構図は途中で明らかになりますが、「誰が」という点はもはやどうでもいいという気さえします。
個人的に、浅見光彦シリーズにはTVドラマを始め食傷気味のため、本シリーズか岡部警部の登場作品だけ読んでるような状況。
量産作家としての作者を毛嫌いする方も多いでしょうが、「旅のお供」には一番なんですよ!これが。
(別に縁もゆかりもありませんが、長野県、特に松本周辺は好きなんですよねぇー。神々しい山々に囲まれながら暮らす生活に憧れさえ持ってます。)


No.473 6点 マルタの鷹
ダシール・ハメット
(2011/05/15 21:23登録)
私立探偵サム・スペードが活躍する伝説のハードボイルド作品。
大昔にジュブナイル作品で読んだ記憶が・・・でもほとんど忘れてた!(当たり前か)
~私立探偵スペードは、若い女性からある男の尾行を依頼された。だが、その仕事を買ってでた相棒は何者かに撃たれ、問題の男も射殺される。その嫌疑はスペードにかけられたが・・・黄金の鷹像をめぐる金と欲の争いに巻き込まれたスペードの非情な行動を描く、ハードボイルド不朽の名作~

本作が発表された年代(1930年)を考えれば、"異例”な面白さを持つエンターテイメント作品だと思いますね。
21世紀の現在では当たり前のように書かれているハードボイルド作品の原型というか、「雛形」がここにあったという感じです。
確かに、他の方の書評どおり、プロット的には首を捻る箇所が多いのも事実で、「鷹像」を巡る攻防戦も緊張感に欠けてますし、事件の中心人物としてスペードを振り回すオショーネシーの行動も意味不明?な気がしてなりません。
ただ、何ともいえない「雰囲気」があるのも事実。
スペードの「この街(サンフランシスコ)は俺の街だ」的セリフが何ともカッコいい!
この後、チャンドラーやロス・マクにつながるハードボイルドの系譜の始まりとして一読する価値は十分ありと断言しましょう。
(登場後、すぐに殺される相棒アーチャーは気の毒。でも、こんな艶っぽい作品をジュブナイル作品として出していいんでしょうか?)


No.472 6点 ブロンズの使者
鮎川哲也
(2011/05/15 21:21登録)
創元推理文庫版の三番館シリーズ第3弾。
作者らしい軽妙かつ洒脱な味わいを感じる作品集です。
①「ブロンズの使者」=事件の舞台、熊本県人吉市へ探偵が出張。事件を解く鍵がかなり後半になってから出てくるというのは如何なものか?
②「夜の冒険」=よく目にするプロットのような気がするが、見せ方が熟練の技。
③「百足」=要は、「木は森へ隠せ」的趣向でしょう。
④「相似の部屋」=プロットはなかなか面白いが、トリックはかなり危なっかしい気がしてならない・・・裏の裏をかくというのはいいね。
⑤「マーキュリーの靴」=いわゆる「雪密室」を扱った作品。アリバイトリックを含め、なかなか練られている作品。④と⑤は意外な犯人を狙ってる?
⑥「塔の女」=単純な算数(1-1=0)の問題(?!)
以上6編。
作品のレベルとしては「たいしたことない」というのが素直な感想になるのですが・・・
なぜか楽しく読めちゃうんですよねぇー、この「三番館シリーズ」は・・・やっぱり、その辺が鮎川先生のスゴさというべきかもしれません。
偉大なるマンネリズムを味わってみるのも一興かと思います。
(面白いのは④と⑤、後もそれほど悪くない・・・)


No.471 5点 騙し絵の檻
ジル・マゴーン
(2011/05/11 22:20登録)
作者の第4長編。
出版当時、「このミス」等のランキング上位を賑わした本格ミステリー。
~無実だとの叫びも虚しく、ホルトは冷酷な殺人犯として投獄された。それから16年後、仮釈放された彼は真犯人を探し始める。自分を罠に嵌めたのは誰だったのか? 次々に浮かび上がる疑惑と仮説、そして終幕で明らかにされる驚愕の真相とは?~

とにかくベタ誉めなんですよ。
他の書評を見ても、文庫版解説の法月綸太郎氏も・・・とにかく良質なミステリーだという評価の様子。
確かに、ラストで主人公が容疑者の1人1人を消去法モドキで次々に消しながら、事件の構図をガラリと変えて見ることで真犯人を指摘する場面はいい。
女流作家らしい繊細で丁寧な筆致や、男には理解不能(?)な女心を下地とした愛憎劇などもなかなか読ませる・・・
ただ、個人的には正直「面白さがよく分からなかった」。
特に、中盤がまだるっこし過ぎるし、アリバイ(トリック?)の部分も説明があまりにもラフだと思う。
ついでに言えば、16年前の回想と現在のパートの境目が分かりづらく読みにくい!(訳のせいかもしれませんが)
というわけで、300ページ程度の手軽な作品のはずが、かなり時間のかかる読書になってしまいました。
(う~ん。最近ようやく翻訳物アレルギーから脱却したかと思いきや、何か再発しそうな感じ・・・)


No.470 6点 氷の森
大沢在昌
(2011/05/11 22:18登録)
元"麻取”の私立探偵、緒方洸三を主人公とするハードボイルド作品。
新装版で読了。
~私立探偵、緒方が調査する先で関わった若者たちが次々殺されていく。最も弱い部分を突かれ、非業の死を迎える彼らは、ヤクザすら自在に操る冷血漢に支配されていた。緒方は六本木の街で1人、暗黒に心を支配された男と対峙し、その正体に迫るが・・・~

ストーリーやプロット、主人公・サブキャラの造形などなど、まさに「ザ・大沢’Sハードボイルド」そのもの!
本の帯には、「新宿鮫シリーズ」につながる原点とありますが、同シリーズほどの完成度ではないかなという印象。
巻末解説によれば、作家デビュー以来不遇な時代を過ごしてきた作者が、乾坤一擲、自身のハードボイルド作品の集大成として書いたのが本作とのことで、もちろん十分に水準以上の面白さはありますし、グイグイ読まされました。
冒頭から、複数の事件が同時進行。ラストではそれが有機的につながり、「ボスキャラ(影の黒幕)」の正体が明らかになっていく・・・やっぱり「うまい」ですね。
ただ、その「影の黒幕」の正体が分かった段階では、すでに○○でいた・・・というのがちょっと不満。もう少し盛り上げる方法があったんじゃない?という気がしますし、「動機」に今ひとつ真実味が感じられない結果になってます。
まっ、でも十分に面白い。敵キャラとの対決シーンは手に汗握るし・・・
(時代で言えば、バブル絶頂期の六本木が舞台ですから、あの頃を懐かしみながら読むのも一興かも・・・)


No.469 7点 死亡フラグが立ちました!
七尾与史
(2011/05/11 22:16登録)
「第8回このミス大賞」の「隠し玉」(!)作品。
どこかで読んだことのあるようなないような・・・一風変わった怪作。

~「死神」と呼ばれる殺し屋のターゲットになると24時間以内に偶然の事故によって殺される。特ダネを追うライターである主人公は、ある組長の死が実は死神によるものだと聞く。一方で、退官間近の窓際警部と新人刑事もまた独自に死神を追い始めていた・・・~

結構面白く拝読。新人作家ですけど、読ませる力は感じます。
プロットは過去どこかで読んだような匂いがしますねぇ・・・ただ、あたかも「偶然の事故」のようにしてターゲットを始末していくというところが斬新といえば斬新。しかも凶器はバナナの皮(ありえる?!)
途中で犯人&黒幕はあからさまになるため、フーダニットの興味は削がれますし、「入○○○り」については、材料がやや後出し気味。
ただ、最初から、本筋と一見無関係のサイドストーリーを複数絡ませながらテンポよく読者を惹き込む手腕はなかなかですし、ラスト前ではサイドストーリーもきれいに収束させ、問題のラストへ・・・
ラストは「う~ん?」ですねぇー。せっかくここまできたなら、一応キリよく終わらせて欲しかったなと思わずにはいられません。
まぁ、トータルでは十分面白いと思いますし、楽しい読書が出来るかと思います。
(ギャグを織り交ぜながらの文体は、東川篤也をなんとなくオーバラップさせる・・・)


No.468 10点 香菜里屋を知っていますか
北森鴻
(2011/05/06 23:40登録)
ついに香菜里屋シリーズも完結!
今回もまさに「珠玉」の連作短編集になってます。
①「ラストマティーニ」=工藤や香月も通う1軒のバー。老練のバーテンが香月に供したマティーニにいつもの味がないのはなぜか? 小粋なラスト。
②「プレジール」=シリーズの1作目「花の下にて春死なむ」からの「常連組」、飯島七緒も新たな人生への旅立ちが・・・そして、香月も結婚。
③「背表紙の友」=こんな偶然あったらすごい! でも、「このまま今の会社しか知らない人生でいいのか?」という東山の思いには同感。
④「終幕の風景」=ついに「香菜里屋」が閉店! そしてマスター工藤の過去が明らかに・・・
⑤「香菜里屋を知っていますか」=香菜里屋そして工藤なき今・・・工藤や香月に纏わる過去の因縁が明かされる。冬狐堂や蓮丈那智など、他作品のキャラクターまでもが工藤を懐かしむ・・・
以上5編。
とにかく、本シリーズは素晴らしい。
解説の中嶋某氏は、「香菜里屋シリーズでは、登場する人物たちの時間がきっちり流れている。そして、登場人物たちが体験したであろう時間の重みをシリーズを通読することで一緒になって追体験できる・・・」と書かれてますが、まさにその通りだと思います。
だからこそ、マスター工藤の発する言葉が読者の胸にも響き、心地よい余韻となっていく・・・そんな気がします。もちろん、素晴らしい料理の数々も・・・
今回は本作だけでなく、シリーズ通じての評価として「10点」進呈!
こんなに高貴で繊細で、どこか温かみのあるシリーズなんてもう読めないかもしれませんし、若くして逝去された作者については、やはり本当に残念でなりません。
(どこかに「香菜里屋」みたいなビアバーないかなぁー。日常生活で背負った「重荷」や「鎧」を解ける店・・・)
※因みに、文庫版では「双獣記」という未完の作品も併載してます。


No.467 4点 シャーロック・ホームズ最後の挨拶
アーサー・コナン・ドイル
(2011/05/06 23:37登録)
シャーロック・ホームズものの作品集第3弾。
全盛期から比べると、やはりパワーダウンした作品が多くなってますね。
①「ウィステリア荘」=ホームズ物でよくあるパターン。何度も焼き直されるプロット。
②「ボール箱」=憎き奴の耳を削いで贈る奴・・・怖い!
③「赤い輪」=これもよく登場するプロット。もはや定番。
④「ブルーズ・パティントン設計書」=「・・・思い出」で一度登場したホームズの実兄、マイクロフト氏が再度登場。でも結構わがままな人物。
⑤「瀕死の探偵」=これは大昔にジュブナイルもので読んだことあり。オチは最初からモロ分かり。
⑥「フランシス・カーファックス姫の失踪」=う~ん。とりたてて印象に残らず。
⑦「悪魔の足」=なるほど、これですか・・・。訳の分からない「毒○」って! なんか「サリ○」っぽいですよねぇー。
⑧「最後の挨拶」=冒頭は「ん?」という感じですが、途中でネタバレがあり、最後にはオチがつく。60歳のホームズも相当精力的です。
以上、8編。
とにかく、これまでの作品集でお目にかかったプロットの焼き直しが相当目立ちます。
もはや、「謎の提起」→「推理、探究」→「解決」という手順はなく、犯人逮捕に至るまでの「冒険譚」という感じでしかありません。
時代背景かもしれませんが、とにかく英国人以外(特にアジア、アフリカ系)は、危険で謎が多く、よく分からない人間だという書き方が目立ち、その辺もちょっと気になる・・・
この頃、「ネタ切れ」は明白だったわけで、乾いた雑巾を絞るように執筆せざるを得なかった作者の苦悩が伝わってくる気がしました。
(やっぱり⑧は哀愁を誘う。歴史的価値はある作品。)


No.466 5点 最後の一球
島田荘司
(2011/05/06 23:33登録)
御手洗潔シリーズ。
ただし、主役は御手洗ではなく、2人のプロ野球選手。
~母親の自殺未遂の理由が知りたいという青年の相談に、御手洗はそれが悪徳金融業者からの巨額の債務であることを突き止める。裁判に訴えても敗訴は必至。流石の御手洗も頭を抱えたが、後日、奇跡のような成行きで債務は消滅。それは1人の天才打者と生涯二流で終わった投手との熱い絆の賜物だった~

どう表現すればよいか迷いますが、正規の御手洗シリーズではなく「番外編」のような感じですね。
途中から唐突に「野球小説」モドキに変わります。
確かに、ストーリー自体はそれなりに感動しますし、特に「最後の一球」に関する逸話などは作者のストーリーテラーぶりを十分に感じさせてはくれますが・・・
ただ、かなり「やっつけ」を感じさせるんですよねぇ・・・
いくら御手洗が超人とはいえ、最初に示されたデータだけで、悪徳業者の債務問題だと判断するのは相当無理があると思いますし、「野球」についての部分も、どれほど取材したのか分かりませんが、野球賭博やマル暴絡みの部分などはちょっと安直すぎる!
唯一、屋上で火事を起こす「仕掛け」だけに、島田テイストを感じることができました。
(作中では、契約書への署名・捺印だけで裁判では業者に勝てないとありますが、現実ではそんなことはありません。業者にも当然、説明義務はありますし、契約者が契約内容を理解したのかを確認する義務もありますので・・・悪しからず。)


No.465 8点 空中ブランコ
奥田英朗
(2011/05/03 18:59登録)
大好評の伊良部シリーズ第2弾。
なんと「直木賞」受賞作。
①「空中ブランコ」=表題作に相応しい出来。でも、そんなことより伊良部が空中ブランコをやる姿なんて・・・そりゃ観客も大爆笑でしょう!
②「ハリネズミ」=尖ったものが苦手のヤクザ・・・これも笑えるけど、すごく人間臭い話。心の弱い人間ほど「ハリ」を立てて威嚇するってことですね。
③「義父のヅラ」=これはもう大爆笑!! ウチの社内にもいます。誰もが「ヅラ」と知ってる人! 主人公がついに義父のヅラを取り外してしまう場面なんて・・・読書で久し振りに笑わせていただきました。でも最後はちょっと「ホロッ」とさせられる。
④「ホットコーナー」=ありますよねぇ・・・相手を変に過大評価してしまうこと。どんなに優秀に見える人だって、しょせんは人間ですし・・・あと、努力と経験は決して裏切らないってことかな。
⑤「女流作家」=これもうまい。こんな悩みを持った人っていっぱいいそうな気がする。何事も「こだわり」と「信念」が大事ってことでしょう。
以上5編。
いやぁ・・・さすがの面白さ!直木賞受賞作だけあります。
人間の悩みや変なプライドなんて何の意味もない、肩肘張らずに、自分に正直に生きていこうよ・・・って思わされますねぇ・・・
これこそが、ドクター伊良部のカウンセリング。
読み物としては15点くらい進呈したい気分ですが、ミステリーではないでしょうから、まぁこの程度の評価ということで・・・
とにかく未読の方がいらっしゃいましたら(特に仕事や人間関係に悩む大人の方)、カウンセリングのつもりで是非読んでください。お薦め!
(③は最高に笑える。他も十分面白い。)


No.464 7点 兄の殺人者
D・M・ディヴァイン
(2011/05/03 18:56登録)
ディヴァインの処女長編。
発表当時、かのクリスティーも絶賛したレベルの高い作品です。
~霧の夜、弁護士事務所の共同経営者である兄から急にオフィスに呼び戻された弟は、そこで兄の射殺死体を発見する。仕事でも私生活でもトラブルを抱えていた兄を殺したのは一体何者か?警察の捜査に納得できず独自の調査を始めた弟は、兄の思わぬ秘密に直面する~

評判に違わない良作。
英国伝統の本格ミステリーらしく、非常に丁寧に作り込まれてます。
兄弟やそれぞれの妻、義父、そして職場の同僚といったごく「近しい」人々との間のドロドロした人間関係を軸に、ダミーの犯人役が次々に登場し、読者を迷わせるプロットは、本格好きの読者にはやっぱりたまりません。
アリバイトリック自体は、「ふーん」という程度のものですが、フーダニットについてはサプライスも十分あり、伏線の置き方なども満足できる水準でしょう。
敢えて難を言えば、真犯人の「秘密(○○○○)」の部分ですかねぇ・・・(何となく気付きましたが)
作中では簡単に流してましたが、実際やるとすればリスキーかなぁと思ってしまいます。(周りに気付かれそうな気がする)
まぁ、重厚な本格物好きの方なら十分に満足できるという評価で良いでしょう。
(ロンドンの霧ってやっぱりすごいんですね・・・変な所に感心)


No.463 8点 黙示録殺人事件
西村京太郎
(2011/05/03 18:54登録)
十津川警部&亀井刑事のお馴染みの名コンビシリーズ。
いつものような「列車」や「旅情」は一切なし。社会派的要素も取り込んだ意欲作。
~休日の銀座に突然、蝶の大群が舞った。蝶の舞い上がった後には、聖書の言葉を刻んだブレスレットをはめた青年の死体があった。これが十津川警部をきりきり舞いさせた連続予告自殺事件の始まりだった。次々に信者の青年を自殺させる狂信的集団。指導者は何を企んでいるのか?~

これは「掘り出し物」的面白さ。
都内の繁華街などで起こる連続自殺事件など、冒頭から読者を惹き付ける謎があり、中盤以降も十二分に読ませる展開が続きます。
新興宗教の狂信さを事件のバックボーンに置いているので、てっきり「オウム真理教」の影響下かと思いきや、本作の出版の方がかなり早いんですねぇ・・・
(本作が1980年初版、オウムの地下鉄サリン事件が1995年)
カリスマ性のある指導者の姿や、女性信者を性の奴隷にしたり、信者の生死さえも決めてしまう権力など、まるで後年の事件を予言しているかのような内容には軽い驚きすら感じます。
特筆すべきはラストシーンの美しさ! 事件は十津川たちの尽力で一応の解決をみますが、一人の女性信者の姿を描いた場面はかなり強烈な後味を読者に残します。
個人的に、作者の作品については、いわゆる「トラベル・ミステリー」以外の佳作を本サイトでなるべく紹介してますが、本作もミステリー作家としての作者の非凡さを十二分に示した良作ではないかと思いますね。
(作者としては珍しく2つの「密室トリック」も出てきます。ただし、トリックのレベルそのものは・・・あまり触れないでおこう!)


No.462 5点 かばん屋の相続
池井戸潤
(2011/04/29 23:27登録)
「オール讀物」誌に断続的に発表した作品をまとめた短編集。
大田区にある「とある銀行の店舗」を舞台とした作者得意の金融ミステリー。
①「十年目のクリスマス」=かつて会社を倒産させたはずの社長が高級車を乗り回す? 現実的には債権者もそんなに甘くないような気はするし、本来ならこれって保険金詐欺に当たるのでは?
②「セールストーク」=作者の作品に良くある、銀行を舞台にした「勧善懲悪」もの。「浮き貸」はダメですよ、支店長!
③「手形の行方」=取引先の手形が銀行内で紛失した? 真相は割と在り来たり。
④「芥のごとく」=ラストに救いがなくてちょっと・・・まぁ、商売の世界は厳しいということだよね。まさに「弱肉強食」。
⑤「妻の元カレ」=これも、ラストは丸く収まるかと思いきや、救いのない感じに・・・自分の希望と待遇(現実)の格差って、サラリーマンにとっては何となく悩んでしまうことだよね。
⑥「かばん屋の相続」=これはあまりに「勧善懲悪」すぎて、ちょっと現実感に薄い。いかにも作り物っぽくて、表題作には相応しくないと思うが・・・
以上6編。
まぁ、安定感たっぷりといえばそうかもしれないが、ちょっと「いかにも」すぎる作品という印象。
作者の作品を読んでると毎回感じますが、「お金」ってやつは人間をとことん嫌な奴に貶めるものなんですねぇ・・・
それでも人は生きていくために「働き」、「お金を稼ぐ」しかないわけですけど。
(あまりお勧めというべきものはなし。敢えて挙げれば②か④)


No.461 5点 スペイン岬の秘密
エラリイ・クイーン
(2011/04/29 23:25登録)
国名シリーズ第9作目。
「ニッポン樫鳥の謎」は本来、国名シリーズではないですから、実質本作が同シリーズ最終作ということに。
~スペイン岬と呼ばれる花崗岩塊の突端にある別荘の海辺で発見されたジゴロの死体。事件が発生した当時、問題の家にはいずれも一癖ある客が招待され、そのうえ3人の未知の人物まで加わっていたらしい。被害者はなぜ裸になっていたのか?魅惑的で常軌を逸した謎だらけの事件・・・~

国名シリーズもここまで回を重ねると、当初の純粋パスラー小説から、かなり趣が変わったような気がします。
もちろん、最終章でのエラリーの推理には、真犯人たる条件が列挙され、お得意の消去法的推理も開陳されてますし、ロジック重視を念頭に置いていることには違いないんでしょうが・・・
本作の「肝」は、最初から徹底して、「なぜ被害者が裸になっていたのか?」という1点に尽きます。
ただ、相当引っ張った割には、真相はかなり呆気ないもの・・・(そりゃ当然だろ!って突っ込みたくなります)
中盤以降かなり冗長感がある分、ラストのサプライズ感を削いでいますねぇ。
やっぱりシリーズものは続けすぎると、どうしても「マンネリ感」が出るということなのかな?
(フーダニットも不満。途中から"あの人物”に関する記述が明らかに消されてるのは如何なものか?)


No.460 7点 シリウスの道
藤原伊織
(2011/04/29 23:22登録)
大手広告会社に勤める男、辰村祐介を主人公にした傑作企業小説。
文春文庫版では上下分冊のボリュームです。
~大手広告代理店に勤める辰村祐介には、明子・勝哉という2人の幼馴染がいた。この3人の間には、決して他人には言えないある秘密があった。その過去が25年の月日を経た今、何者かによって察知された・・・緊迫した18億円の広告コンペの内幕を主軸に展開するビジネス・ハードボイルド!~

一言でいうなら、「藤原伊織」という作者のエキスがすべて詰まった作品という感じ。
ストーリーやプロットは代表作である「テロリストのパラソル」や「てのひらの闇」と相通じる部分が多いですし、特に主人公の造形は、それぞれの作品に登場する「島村」と「堀江」と相似形・・・
本作は、脇役を含めた1人1人のキャラが立ってます。
特に「戸塚」の存在はなかなか胸を打ちます。それだけにラストの扱いには不満が残る・・・もう少し彼にハッピーエンドを用意して欲しかった。
後は、「社長!」・・・かっこよすぎ!
私も、ビジネスの世界に生きる端くれとして、「いい仕事とは何か」、「男の矜持ってなに?」・・・思わず考えさせられしまいました。
ミステリーと言えるかどうかは置いといて、乾いた世界に生きる(?)企業戦士の方々には、自身の仕事や職場を振り返りながら読んでみるのも一興かも。
(「テロリスト・・・」の登場人物の1人、元警官・浅井が本作にも登場。ホットドックしか出さない新宿裏通りの例のバーも出てくるのが嬉しい・・・)

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