home

ミステリの祭典

login
E-BANKERさんの登録情報
平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.499 7点 戻り川心中
連城三紀彦
(2011/07/02 23:43登録)
いわゆる、作者の「花葬シリーズ」を収めた作品集。
今回は光文社文庫版で読了。(ハルキ文庫版の方がよかったかな?)
①「藤の香」=このシリーズらしさを感じる作品。起承転結が効いていて、「名人芸」を感じる。
②「桔梗の宿」=何だか切なくなるような真相。大正末期~昭和初期という暗い時代と相俟って、作品世界の「叙情性」を引き立たせる。
③「桐の柩」=これも作者にしか書けないような作品世界。ラストが余韻を引き摺る。
④「白蓮の寺」=母子の情愛の深さ・・・心に染み入るねぇ・・・
⑤「戻り川心中」=さすがにこれは「名作」と言われるだけのことはある。特に、「創作」と「現実」とが入れ替わるというカタルシスは見事! この作品を読むだけでも買う価値ありでしょう。
以上5編。
これは、本当に独特の「作品世界」。時代設定もありますが、暗くジメジメしていて、それでいてどこか「耽美的」な香り・・・
これこそが「連城ワールド」と呼べそうです。
是非一度ご堪能あれ!って感じ。
(やっぱり⑤が抜けている。あとは①②かな)


No.498 8点 第二の銃声
アントニイ・バークリー
(2011/06/26 16:12登録)
R.シェリンガム・シリーズ。
最近発売された「創元文庫版」で読了。
~高名な探偵作家の私邸でゲストを招いて行われた推理劇。だが、そこで被害者役を演じる男は、2発の銃声ののち、本物の死体となって発見された。事件発生時の状況から、殺人の疑いを掛けられたピンカートンは、素人探偵シェリンガムに助けを求める。二転三転する論証の果てに明かされる驚愕の真実。探偵小説の可能性を追求し、時代を超えて高評価を得ている傑作~

確かにこれは「傑作」と読んでも差し支えないかもしれません。
作者の推理小説家としての技巧を「これでもか!」と詰め込んだような作品ですねぇー。
まぁ、「手記」という形式を取っている時点で、これは読者を「騙しにかかってるな?」という察しがつくわけです。
途中、検死審問の場面辺りから、「推理」やら「仮説」やら「偽証」やらが次々と語られはじめ、徐々に騙され感が増していくような思いが増していく・・・
そして、やや唐突に一旦事件は解決したかと思いきや・・・ここからが「さすがバークリー!」というべき騙しのテクニックが開陳されていきます。
銃声に関するトリックそのものは、よくある「手」であり、驚きはないのですが、非常に凝縮された時間内でアリバイやら、○○殺人の仕掛けやらが謀られ、そこに偶然の要素まで絡んでくるわけですから、もはや読者に全貌を把握するのは困難では?・・・
今回は、もしかして、シェリンガムは普通の「名探偵」の役どころなのかと思ってたら、やっぱり、シェリンガムはシェリンガムだったんですねぇ・・・(何か可哀想)
トータルでは、「さすがの1作」、「一読の価値十分」という評価です。
(これほどハズレのない作家というのも珍しい気がしますねぇ・・・)


No.497 7点 被害者は誰?
貫井徳郎
(2011/06/26 16:09登録)
P.マガーの名作にインスパイアされた作品集。
いわゆる、通常の「真犯人探し」ではない「○○探し」を主題に作品が展開されます。
①「被害者は誰?」=真犯人の手記を元に、3人の被害者候補から、真の被害者を絞り込む。トリックの「種」は、叙述系トリックでは基本中の基本の「アレ」。
でも、結構騙されやすいかも?
②「目撃者は誰?」=痴情絡みの殺人事件の目撃者を絞り込む。これも叙述トリックの基本技が炸裂! 
③「探偵は誰?」=いわゆる「作中作」を使った作品。「作中作」の方は、どっかで読んだことのあるような○○○○の伏線がメイン。でもって、本作の探偵役であるところの「吉祥院先輩」は、登場人物の誰に当たるのかを推理する趣向。なかなかの面白さ。
④「名探偵は誰?」=これは確かに騙されたが、「そんなところで騙すなよ!」って思わされる。
以上4編。
なかなかよく練られたプロットですし、トリックこそ叙述系トリックの基本技ですが、使い方に作者のセンスを感じますね。
肩の凝らない軽いタッチの文章については、「貫井って、こんな作品も書けるんだ・・・」という感想・・・。
P.マガーは未読のため、今後機会があれば読んでみようかと思います。
(③は中篇というべき分量で、なかなかよい。①もまずまず)


No.496 6点 名探偵が多すぎる
西村京太郎
(2011/06/26 16:08登録)
「名探偵なんか怖くない」に続く、名探偵パロディシリーズの第2作目。
今回は、ポワロ・メグレ・クイーン・明智の他に、ルパンそして怪人二十面相までもが登場!の豪華版。
~別府航路の船上で一堂に会した世界の名探偵、メグレ・クイーン・ポワロ・明智の4人に対し、かのルパンから届いた挑戦状。ルパン対4人の名探偵の虚虚実実の対決はかくして幕を上げるが、ルパンに狙われた宝石商は鍵の掛かった船室で殺害され、宝石も奪われる。ルパンは密室殺人で挑戦してきたのか?~

よくできてると思います。
もちろん、パロディですし、冗談半分のような「軽い」ノリなのは間違いないですが、プロットの骨格はそれなりにしっかりとはしているでしょう。
「密室殺人」のトリックというか解法は、まぁご愛嬌っていうところでしょうか。
前作では「読者への挑戦」まで挿入するサービスぶりでしたが、さすがに今回はそこまではできなかった様子ですねぇ・・・
本作では、4人の名探偵やルパンというよりも、休暇中なのにやたら張り切る吉牟田刑事やメグレの妻の方が何だか目立っている?
特に、吉牟田刑事の小市民ぶりには「悲哀」すら感じる・・・
まぁ、本作も,作者の懐の深さを示す作品の一例って感じですかねぇー。
(各章の名前もなかなか面白い。「災厄の船」や「Lの悲劇」などなど・・・)


No.495 3点 孤島の鬼
江戸川乱歩
(2011/06/21 23:11登録)
乱歩の長編代表作との声もある作品。
いつもの"乱歩節”が堪能できることは間違いなし。
~箕浦金之助は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨てられた子で、先祖の系図帳を持っていたが、先祖がどこの誰とも分からない。ある夜、初代は完全に戸締りをした自宅で、何者かに心臓を刺されて殺された。恋人を奪われた箕浦は、友人である深山木幸吉に事件解明を依頼するが・・・~

春陽堂版で読了。
これは、だた一言、「好みに合わなかった!」
「これはなんなんだ?」って感じでしたねぇー。
不可能状況で連続殺人が起こる序盤はまぁ問題なしですが、殺人事件の解決が「○○○の殺人」ということでほぼ解決した中盤以降は、正直ちょっと萎えた。
まぁ、これが「乱歩の世界だ」と言われればそのとおりなのでしょうし、本作こそ乱歩らしさが"いい匙加減”で出された作品という世間的評価にも頷けるものはある。
ただねぇ・・・シャム双生児やら○○○男(今では放送禁止用語では?)やら登場させ、結局これが「動機」にもつながっていくんですが、これには相当食傷させられた。
終盤の洞窟シーンは有名ですし、緊張感ある展開はいいんですけどねぇ、ラストは何かあっけないですねぇ・・・
というわけで、嗜好性の問題かもしれませんが、個人的にはお勧めしません。
(ちょっと評価辛すぎかな?)


No.494 7点 日本庭園の秘密
エラリイ・クイーン
(2011/06/21 23:07登録)
国名シリーズなのか、そうでないのか、いろいろな意見・見方が可能な作品。
「日本」が題材になっている点でも興味深いのですが・・・
~流行作家のNYの邸内に美しい日本庭園が作られた。だが、結婚を控え、幸せの絶頂にあった彼女がその庭を望む1室で謎の死を遂げる。窓には鉄格子がはめられ、屋根裏部屋へ通じる扉は開かず、事件現場に出入りした者は誰もいないようにみえた。密室と思われる状況下の悪夢の死に、エラリーの推理は?~

これは、いい意味で予想を裏切られた感じ。
国名シリーズも回を重ねるごとにクオリティが落ちており、本作もその延長線上なのかと思いきや・・・というわけです。
そういう意味では、国名シリーズのラストというよりは、やはり「中途の家」へつながる後期クイーンの端緒を切る作品という見方が合っているのでしょう。
邦訳の作品名よりは、原題の「The Door Between」の方が、この作品の本質を捉えており、「言い得て妙」のタイトルかなと思います。
そして、本作の「鍵」となるのが、「密室殺人」の謎。
ほぼ完全に密閉された部屋での殺人、唯一開閉可能なドアの前には、1人の人間の目が光る・・・という状況。
ただ、その解法については「鮮やか」とは言い難いのも事実・・・
「樫鳥」(琉球カケス?)の存在も、凶器との関連での「仕掛け」はちょっとミエミエでしたねぇー。
ラスト、大方の謎解きが終わった後の、更なるエラリーの悲痛な謎解きは、何となく後期クイーン作品を彷彿させられます。
なかなかの力作という評価でいいのではないですか。
(今回、創元版で読みましたが、キヌメの台詞が「・・・アル」って、中国人じゃないんだから・・・これってワザとか?)


No.493 4点 退職刑事4
都筑道夫
(2011/06/21 23:04登録)
国産安楽椅子探偵物の定番「退職刑事シリーズ」の第4弾。
徹底したロジックが特徴的だった1~3に比べるとやや変化が見られます。
①「連想試験」=大昔にあったNHKの番組「連想ゲーム」をなぜか思い出した。連想自体は事件の本筋とあまり関係がない気がする。
②「夢うらない」=全体的には本シリーズらしさを感じる1編。
③「殺人予告」=まるで1編の「詩」のような殺人予告に纏わる謎を解く・・・と書くとカッコいいんですが・・・
④「あらなんともな」=本シリーズに登場するサブキャラ、推理作家の椿氏の友人が残した作品の謎を解く。あまりパッとしない。
⑤「転居先不明」=プロットそのものは短編らしくていいと思うが・・・如何せんラストが不満。
⑥「改造拳銃」=2度も息子の改造拳銃で殺人を犯した父親の謎。動機解明がメイン。
⑦「著者サイン本」=ある本の余白に書かれた物騒な落書きを巡る謎。
⑧「線香花火」=昔の東京の風俗や落語、歌舞伎など、作者の好みが窺える。(本筋と関係ないが・・・)
以上8編。
正直いって、1~3と比べると明らかにクオリティはダウンしています。
まぁ、やりたいことは一応前3作でやり尽くしたんで、「違う趣向を取り入れて」ってことだとは思いますが、本シリーズに求めるものとは違っている。
マンネリズムは念頭に入れて書き始めた本シリーズですが、さすがにここまで重ねてくると、ちょっと方向性を変えなければという感じになっちゃったんでしょうね。
(まっ、1~3を読めば本シリーズは十分ってことですかねぇー。)


No.492 6点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅰ〉
エドワード・D・ホック
(2011/06/18 14:16登録)
短編の名手、E.D.ホックの生み出した名シリーズの作品集。
何と、年齢2千歳(?)のオカルト研究家、サイモン・アークが神秘に包まれた謎を解き明かします。
①「死者の村」=作者のデビュー作でもある本編。新興宗教に犯され、突然73人もの住民が飛び降り自殺した謎を解き明かす。
②「地獄の代理人」=いにしえの著作「悪魔崇拝」に絡んだ殺人の謎。部屋のドアに貼り付けにされた死体など、面白そうな要素はあるのだが・・・
③「魔術師の日」=舞台はエジプト、テーマは「魔術」というわけで、こちらも舞台設定は申し分ないのだが・・・トリックはちょっと無理があるのでは?
④「霧の中の埋葬」=世界大戦で敗れ、敗走した日本兵が残した宝物をめぐる事件。短編らしい切れ味を感じる作品で好感。
⑤「狼男を撃った男」=男が狼男と間違えて撃った男は、普通の若者だった・・・。オカルトの仮面を剥がせば、人間の欲望や嫌らしさが垣間見える事件。これもなかなか。
⑥「悪魔撲滅教団」=これも謎の新興宗教がテーマ。普通の解決と見せかけて、最後にドンデン返しあり。
⑦「妖精コリアダ」=よく分からなかった。単なる「妖精」ではなかったってこと?
⑧「傷痕同盟」=絵画切り裂き事件がテーマ。これも短編らしい捻り。
⑨「奇跡の教祖」=三たび新興宗教ネタ(好きだねぇー)。自動洗車機からの消失はやや子供だまし。
⑩「キルトを縫わないキルター」=うーん。普通。あまり印象に残らず。
以上10編。
全編に共通するのは、オカルト的な外観をまとった事件を、サイモン・アークが現実的な事件として解決するというパターン。
ちょっとした発想の転換で事件を解決するというのは短編のよさを十分に引き出していて、さすがですねぇー。
ただ、作品ごとでかなり出来栄えに差があるような気はしました。
(④⑤が面白かった。①はそれほどでもない。全体的にはまあまあレベルなかぁ・・・)


No.491 8点 赤い指
東野圭吾
(2011/06/18 14:14登録)
加賀刑事シリーズ。
今回は、加賀の父親も登場。少しづつ加賀の秘密が明らかになってくる感じです。
~少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。いったいどんな悪夢が彼らを狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼ら自身の手によって明かされなければならない」。加賀刑事の謎めいた言葉の意味とは?~

いやぁ、これは「重い」。ひたすら「重い」というか「痛い!」。
主人公である前原の姿に思わず自分を重ねてしまいました。(特に妻との関係・・・)
父親として、夫として、そして年老いた親を持つ「子供」として、前原の「なさけない姿」がなんともいえず、読んでて「つらく」なってしまいました。
やっぱりすごい作家ですよ、東野圭吾は!
ここまで、人間の嫌なところを抉り出して、さらけ出すなんて・・・。
そして、それを解明する加賀恭一郎のキャタクター! この短さで、濃厚な人間ドラマを作り上げる手腕にとにかく感心。
ラストもにくいねぇ・・・特に、将棋!
かっこよすぎ!
最後に効いてくる「赤い指」の仕掛けも見事です。
(自分の子供がこんな奴にならないように祈るのみ・・・)


No.490 7点 山魔の如き嗤うもの
三津田信三
(2011/06/18 14:12登録)
刀城言耶シリーズ4作目。
ホラーと本格物が見事に融合した意欲作です。
~忌み山で人目を避けるように暮らしていた一家が忽然と消えた。「しろじぞうさま、のーぼる」一人目の犠牲者が出た。「くろじぞさま、さーぐる」二人目の犠牲者。村に残る六地蔵の見立て殺人なのか、ならばどうして? そして・・・。六地蔵に纏わる奇妙な童唄、消失と惨劇の忌み山。そこで、刀城言耶が見たものは何か?~

相変わらず見事な本格ミステリー。まさに、現代に甦った「横溝」・「金田一耕助」といった雰囲気。
今回のテーマは「見立て殺人」。
途中、「見立て殺人」の分類を試みるなど、本格ファンの心理をくすぐってくれますよねぇ・・・
そして、本シリーズ最大の特徴とも言える、真相解明前の「疑問点の列挙」とドンデン返しの連続。
こうやって書いていると、本当にすごいミステリーに思えてしまいます。
ただ、「首無」と比べると、やはり1枚落ちるかなという印象はやむなしでしょうか。
「首無」のトリックには相当サプライズを感じましたが、今回は「そこまで」ではなかった。
(確かに、「一家の○れ○○り」にはアッと思わされたが、「見立て」についてはちょっと弱いか?)
それにしても、「顔を焼かれた死体」とか「旅芸人一座」というのは、まさに「金田一シリーズ」を思い起こさせますねぇ・・・(よく出てきたギミックです)
トータルでは、読む価値十分の力作という評価でよいでしょう。


No.489 7点 九マイルは遠すぎる
ハリイ・ケメルマン
(2011/06/12 22:34登録)
ニッキイ・ウエルト教授のロジックが切れまくる!作品集。
純粋な推理だけを武器に、些細な手掛かりから難事件を次々に解き明かしていきます。
①「九マイルは遠すぎる」=有名作。「ほんの少しの言葉から意外な真相を導く!」で有名。でも、それほどとは感じなかった。
②「わらの男」=むしろこっちの方が①より感心。「安楽椅子探偵」のお手本のような作品。
③「10時の学者」=これも秀逸! 恐らく真犯人は「こいつ」と最初から想像はつくが、そこまでのロジックが見事。
④「エンド・プレイ」=捜査陣が見落としたちょっとした手掛かりから、真相解明! これぞ名探偵もの。
⑤「時計を二つ持つ男」=これって「遠隔殺人」でしょうね。
⑥「おしゃべり湯沸し」=封筒の中身を推理する場面が面白い。
⑦「ありふれた事件」=いかにも犯人らしい奴はやっぱり犯人ではなかった。
⑧「梯子の上の男」=チェスと犯罪を絡めての推理法がなかなかGood。犬や梯子といった小道具も効いている。
以上8編。
評判どおりの面白さ。
「安楽椅子型探偵」の見本のようで、ロジックが小気味よく効いてます。
気の利いたラストもよい。ミステリー好きなら1度は読むべき作品でしょう。
(①はそれほどでもない。それよりは②~⑤がお勧め)


No.488 6点 リピート
乾くるみ
(2011/06/12 22:33登録)
敢えていえば、「SFミステリー」(?)
タイムトラベルとミステリーを融合させた意欲作。
~もし、現在の記憶を持ったまま10か月前の自分に戻れるとしたら? この夢のような「リピート」に誘われて、疑いつつも人生のやり直しに臨んだ10人の男女。ところが、彼らは1人また1人と不審な死を遂げて・・・「リピート」の正体は?~

設定は面白い! よく練られてます。
なぜ、「リピート」した男女が次々と殺されていくのか? その「動機」こそが本作のメインテーマでしょう。
「なるほど」と思いましたね。
だからこそのメンバーの選抜であり、このタイムトラベルの設定(条件?)ということなんですねぇ・・・
その辺りの「仕掛け」はよく分かりました。
「イニシエーションラブ」といい、本作といい、読者の騙し方は流石です。
ただ、ちょっと冗長かなぁー。特に前半。
「リピート」の説明が長々と続いて、最初の事件が起こるまでかなり待たされます。
ラストもちょっと薄味ですかねぇ・・・
バタバタ終わったなぁという読後感が残ってしまいました。
(でも、トータルでは水準以上。楽しめます。)


No.487 5点
今邑彩
(2011/06/12 22:31登録)
ブラック風味の短編集。
後半に進むほどブラックの度合いが増していく印象です。
①「カラス、なぜ鳴く」=家庭や子供に無関心な父親。「ドキッ!」とさせられる世の父親は多いんじゃない?
②「たつまさんがころした」=こういう姉妹の力関係ってなんかドラマに出てきそう。子供を巻き込むところが嫌らしいね。
③「シクラメンの家」=最後にひっくり返される展開。「まさかねぇ・・・」っていうのがこういう短編の醍醐味。
④「鬼」=これはまぁ、軽いホラーだよなぁ。オチにもう一捻りあるといいんだろうけど・・・
⑤「黒髪」=「ザ・女の執念」的なストーリー。こんな「髪の毛」見たら怖い!
⑥「悪夢」=これも、ちょっと「軽い」(怖さが)。カウンセラー視点というのは分かりやすくていい。
⑦「メイ先生の薔薇」=「子供って無邪気」では済まされない!
⑧「セイレーン」=これが1番まとまってて面白かった印象。こういう「薄幸な美人」てやつに男は弱いよねぇー。
⑨「蒸発」=これは「軽いSFミステリー」? プロットは膨らませ方次第では面白い筈。
⑩「湖畔の家」=過去の忌まわしい記憶が甦る・・・というのはよくあるプロット。
以上10編。
全体的な印象は「軽い」。まぁ、ブラックはブラックだけど、ちょっとまとまりすぎで、「怖さ」とか「サプライズ」に欠ける印象。
もう少し、「後味わるいなぁ・・・」的なインパクトが欲しかった。
(どれも平均点かなぁ・・・敢えていえば⑧)


No.486 6点 人格転移の殺人
西澤保彦
(2011/06/05 20:24登録)
作者お得意のSFミステリー。
相変わらず奇妙奇天烈な設定によるミステリー。
~突然の大地震でファーストフード店にいた6人が逃げ込んだ先は人格を入れ替える実験施設だった。法則にしたがって6人の人格が入れ替わり、脱出不能の隔絶された空間で連続殺人事件が起こる。犯人は誰の人格で凶行の目的は何なのか?~

変な「設定」です。
他の方も書評でもありますが、正直ややこしい! 
「見た目」と「精神?」が別人格になっているだけでなく、しかもそれが超頻繁にマスカレード(転移)していくわけで、読んでいるうちに訳が分からなくなってしまいます。
事件もアッという間に進行して、アッという間に終わるので、「何が何だか・・・」って思っているうちに終局へなだれ込むという印象。
メインの「謎」については、伏線がはっきりしているのでちょっと分かりやすいかもしれないですねぇー。
まぁでも、これはアイデアの勝利としか言いようがない!
動機にしろ、最終的な真相にしろ、凝った設定の割には正直ショボイかなという気もしますが、まずはこんなアホなことを考える作者に敬意を表したくなります。
たまには変わったミステリーを読みたいという方は1度手にとってみてはいかかでしょうか?
(せめて、関係者を日本人にして欲しかった。ただでさえ複雑な設定で、しかも名前が覚えにくいのがツライ!)


No.485 6点 ブラウン神父の知恵
G・K・チェスタトン
(2011/06/05 20:22登録)
名作「ブラウン神父」シリーズの第2短編集。
いつものとおり「読みにくさ満点」の作品。でも面白い!
①「グラス氏の失踪」=もしかしてダジャレ(?)的なオチ。短編らしい切れ味は感じる。
②「泥棒天国」=いかにもこのシリーズらしいプロット。「真相は裏側から見よ!」ということ。
③「ヒルシュ博士の決闘」=確かに「アッ」とは言わされますが、現実的にこんなことありえるのか?
④「通路の人影」=やっぱり名作と言われるだけある。「へぇー」って感心させられる。
⑤「器械のあやまち」=いわゆる「嘘発見器」の話。ブラウン神父は信用してないということらしい。器械を使うのは所詮人間だから・・・という理屈。
⑥「シーザーの頭」=これも③と同じプロット。要は「○○二○」。
⑦「紫の鬘」=これも本シリーズらしい「逆説」が主題。
⑧「ペンドラゴン一族の滅亡」=うーん。ちょっとよく分からない。
⑨「銅鑼の神」=ポーの名作「盗まれた手紙」に比較される作品。確かに発想のポイントは同じかも。
⑩「クレイ大佐のサラダ」=のんびりしたタイトルですが・・・当時の英国人のアジアの国に対する感覚も何となく窺える。
⑪「ジョン・ブルノアの珍犯罪」=「珍犯罪」って・・・妙なタイトル付けたねぇー。
⑫「ブラウン神父の御伽噺」=珍しくドイツが舞台というか、ドイツの伝承の謎をブラウン神父が解く。
以上12編。
確かに、本シリーズらしい「逆説」の効いた作品も多く、「短編」の見本のような気もします。
ただ、如何せん読みづらくて、なかなか頭に入ってこない・・・(もちろん、こちらの読解力不足もあるでしょうが)
というわけで、近いうちに再読してみようと思います。
(①④⑦辺りが面白かった。⑩以降はあまり頭に入らず・・・)


No.484 5点 黒い森
折原一
(2011/06/05 20:20登録)
表からも裏からも、どちらからも読める。その上、袋綴じあり!
折原らしい、というか折原しか書かないんじゃないか? そんな作品!
~「ミステリーツアーの目的地で待っている」。駆け落ちする2人の恋人に同じ内容のメールが届いた。行き先は樹海の奥、作家が家族を惨殺したと伝えられる山荘。ツアー客が1人、また1人と樹海の闇に消えていくなか、恋人が待つ目的地へ辿り着けるのか。そして、山荘の固く閉ざされた1室で待つものとは?~

「倒錯の帰結」で1度仕出かした失敗をまた繰り返してる?
確かに趣向、技巧としては相当の高レベルの筈です。
何しろ、前からも後ろからも読め、2つのストーリーのオチが「袋綴じ」の中に待ち受けているわけですから・・・
でもねぇ、いかんせん内容が趣向に追いついていないとしか言いようがない!
他の方の低評価も分かる気もします。
ただ、これこそが「折原!」というのもまた事実。叙述トリックとは、詰まるところ読者をいかに欺けるかということですから、こういう趣向にチャレンジしていくという姿勢も第一人者としては必要なのかも?(ホントか?)
相変わらず、話の盛り上げ方は巧みですし、そんなに「ヒドイ」こともないと思うんですけど・・・
(いかんせん、オチに捻りがなんだよねぇー)


No.483 8点 杉の柩
アガサ・クリスティー
(2011/05/31 22:25登録)
E.ポワロが登場する18番目の作品。
ミステリーとラブストーリーがうまくミックスされた佳作。
~婚約中のロディとエリノアの前に現れた薔薇のごとき女性メアリー。彼女の出現でロディが心変わりし、婚約は解消された。激しい憎悪がエリノアの心に湧き上がり、やがて彼女の作った食事を食べたメアリーが死んだ。犯人は私ではない、エリノアは否定するが・・・真実は?~

これは、隠れた(?)名作では!?
最近読んだクリスティ作品の中ではダントツに面白かったような気がします。
事件の鍵は、関係者がついた少しづつの「嘘」と不可解な行動・・・その1つ1つがポワロの灰色の脳細胞によって解明されていく・・・
途中まではエリノア以外に「これは怪しい」という容疑者も浮かばないまま、最終章へ突入。
裁判シーンが描かれる「第3部」で真相が明かされるわけですが、これまで全くノーマークだった1人の事件関係者が真犯人として糾弾されるカタルシス!
読者が解明するのは厳しいですが、2つの「物証」もなかなか効果的です。(相変わらず知らない薬物が出てきますが・・・)
ネームバリューでは、他の有名作に劣りますが、高いクオリティーの良作という評価で間違いないでしょう。
(何というか、実に気品のある作品でクリスティらしさが十二分に出ています。ラストのポワロのセリフもなかなか味わい深い・・・)


No.482 6点 ルパンの消息
横山秀夫
(2011/05/31 22:22登録)
作者の処女長編作。
サントリーミステリー大賞「佳作」受賞作です。
~15年前自殺とされた女性教師の墜落死は実は殺人だった。警視庁に入った1本のタレコミで事件が息を吹き返す。当時、期末テスト奪取を計画した高校生3人が校舎内に忍び込んでいた。捜査陣が2つの事件の結び付きを辿っていくと、戦後最大の謎である3億円事件までもが絡んでくるのだった。時効まで
24時間。果たして事件は解明できるのか?~

デビュー作としてはまずまずの出来ではないかというのが率直な感想。
事件関係者3名が、刑事の尋問を通じてそれぞれ過去を回想、徐々に真実が明らかになってくる過程がなかなか読ませる・・・
別に派手なトリックや叙述的な仕掛けがあるわけではないですが、作者らしく丁寧に作りこまれたプロットは一読に値すると思います。
ただ、「3億円事件」まで絡ませたのは、相当無理がある! 本筋に無理やりくっ付けた感がありありで、ラストのドンデン返しも微妙。
まぁ、でもやっぱり横山秀夫は「短編」でこそという思いを強くしましたね。
数ある珠玉の短編集に比べれば、本作の読み応えが薄く感じてしまうのはやむなしというところでしょう。
(不良高校生が自身を賭けてやることが「テスト問題を盗み出すこと」なんて!ある意味平和すぎでしょ!)


No.481 7点 新・世界の七不思議
鯨統一郎
(2011/05/31 22:21登録)
「邪馬台国はどこですか?」の姉妹編。
今回は、世界の古代史について、静香と六郎の論争(?)が交わされます。
①「アトランティス大陸の不思議」=幻の大陸「アトランティス」は本当にあったのか? どこにあったのか?がテーマ。古代ギリシャ云々については、ギリシャ神話をはじめ、ミステリーの世界ではお馴染みですが・・・「プラトン」って久し振りに聞いたなぁ。
②「ストーンヘンジの不思議」=ストーンヘンジってイギリスにあったんですね。知らなかった。でもストーンヘンジ=日本の○○というのは、なかなか説得力があるような気がする。
③「ピラミッドの不思議」=世界の七不思議といえば、やはりこれでしょう。残念ながら現物を見たことがないので、死ぬまでに1度は見ておきたいものです。宮田の説はちょっと説得力に欠ける気がする・・・
④「ノアの方舟の不思議」=そういやぁありましたねぇ、こんな伝説が。確かに「洪水系伝説」というのは世界中に伝播しているようで、ここでの宮田の説は信憑性があるように聞こえる。
⑤「始皇帝の不思議」=暴君として名高い「始皇帝」の真の姿とは?というテーマ。これは逆説的ですが、古代中国の場合、為政者が変わるたびに、前代の為政者を徹底的に貶めるというのは常識のようですし、結構納得。でも、最後の邪馬台国との関連性については、さすがに眉唾かな?
⑥「ナスカの地上絵の不思議」=確かに不思議です。まぁ、常識的に考えればこういう考え方に落ち着くんでしょうねぇ・・・さすがに、宇宙人説はちょっとねぇー。
⑦「モアイ像の不思議」=ピラミッドと並んで、七不思議といえばコレ的なテーマ。ホント、こんな太平洋の離れ小島にこんな謎の物体が多数造られてるなんて、世界は謎で一杯です。宮田の説は割りと受け入れやすい。
以上7編。
確かに、「謎」のスケールが大きい分、前作よりは解釈の切れ味は劣るかもしれません。
ただし、謎そのものが十二分に魅力的ですから、存分に楽しめる。世界史や古代史好きならば手に取る価値は十分でしょう。
(個人的ベストは⑤。中国史は中国という国を知る上でも面白い!)


No.480 7点 さらば愛しき女よ
レイモンド・チャンドラー
(2011/05/28 21:16登録)
ハードボイルドの巨匠、R.チャンドラーの名作。
私立探偵フィリップ・マーロウが実に格好いい!
~前科者大鹿マロイは、刑務所を出たその足で別れた女性を探しに黒人街を訪れた。だが、そこで彼はまた殺人を犯してしまう。現場に居合わせたマーロウも取調べを受ける。その後、高価な首飾りをギャングから買戻すための護衛を依頼されるが、マーロウは自らの不手際で依頼人を死なせてしまう。苦境に立った彼に待っていたものは・・・~

確かに何ともいえない「香り」を感じる作品。
L.Aという街もハードボイルドにはピッタリ! マーロウの渋い格好よさを引き立ててる気がしますね。
大鹿マロイの謎の元カノを探すというプロットは単純ですし、中盤がちょっとダレるように感じましたが、やはりラストが秀逸。
マロイにとっては悲しい結末ですが、それを見届けるマーロウには本物の「男」を感じさせられる・・・
というわけで、大人の男だったら、一読の価値は十分有りでしょう。
(マロイがなぜそこまでヴェルマに拘るのかが分からない・・・今のヴェルマにはそこまでの魅力はなさそうですから・・・)

1859中の書評を表示しています 1361 - 1380