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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.508 6点 完全犯罪に猫は何匹必要か?
東川篤哉
(2011/07/16 00:09登録)
烏賊川市シリーズの長編3作目。
鵜飼・戸村のおバカコンビ+烏賊川署刑事が今回も大(?)活躍。
~回転寿司チェーンを経営する資産家が殺害された。犯行現場は自宅のビニールハウス。そこでは、10年前にも迷宮入りの殺人事件が起こっていた。資産家に飼い猫の捜索を依頼されていた探偵・鵜飼と、過去の事件の捜査にも関わっていた砂川刑事がそれぞれの調査と推理で辿り着いた真相とは?10年の時を経て繰り返される消失と出現の謎?~

ここまで「猫」がキーワードになっているミステリーは初めて読んだなぁ。
まさか「三毛猫ホームズ」が伏線になってるとは思いませんでした。(ネタバレっぽいですが・・・)
なる程、だからビニールハウスですか! 変だとは思ったんだよねぇー。何で「ビニールハウス?」っていうのが。
レベル的には、推理クイズレベルの仕掛けを相当膨らまして仕上げたという感じはするんですが、もともとこんな作風ですから・・・
ただ、それでも、第2の殺人はちょっと頂けないかなぁ・・・
凶器が「○○○○」なんて! これ本気か! 味噌汁もいるか?
なんていう読者のツッコミも当然織り込み済みなんでしょうね、作者は。
招き猫の薀蓄もなかなか興味深く拝読させていただきました。
(今回は、砂川刑事も大活躍で、よかったよかった・・・)


No.507 6点 虚夢
薬丸岳
(2011/07/11 22:42登録)
「天使のナイフ」・「闇の底」に続く長編第3弾。
前2作に続いて、犯罪捜査&司法の問題点をテーマに現代社会を抉っていきます。
~愛娘を奪い去った通り魔事件の真犯人は「心神喪失」で罪に問われなかった。運命を大きく狂わされた夫婦はついに離婚するが、忌まわしい事件から4年後、元妻が街で偶然すれちがったのは、忘れもしない「あの男」だった・・・~

「少年犯罪」そして「幼女への性犯罪」に続いて、今回のテーマは「刑法39条」。いわゆる「心神喪失者は罪に問われない」・・・
相変わらず重たいテーマを出してきますねぇー。
重大犯罪には付き物のようなテーマですが、確かにこれも判断が難しい問題ではあります。
犯罪者にも人権はありますが、それ以上に被害者、そして被害者の家族の人権・権利は尊重すべきではないかというのが個人的な意見ではあります。
「統合失調症」についても、以前仕事の関係でいろいろと話を聞いたテーマであり、興味深く読まさせていただきました。
本作については、この「刑法39条」を逆手にとったようなトリック(?)が終盤に炸裂!
まぁ、それが本作のメインプロットとなるわけですが、前2作と比べるとやや弱いかなというのが正直な感想です。
前2作は、終盤のサプライズが見事だっただけに、どうしてもインパクトで劣ってしまうような気がする。
ラストももう一捻りあればなおよかったかなぁ・・・
(すすき野のキャバクラってそういうシステムなんですね。へぇー変わってる!)


No.506 5点 フレンチ警部とチェインの謎
F・W・クロフツ
(2011/07/11 22:40登録)
フレンチ警部登場作品としては、「フレンチ警部最大の事件」に続く第2作目。
純粋なミステリーというよりは、冒険小説とでもいうべき作品でしょうか。
~快活な青年チェイン氏は、ある日ホテルで初対面の男に毒を盛られ、意識を失ってしまう。翌日自宅へ帰ると、家は何者かに荒らされていた。一連の犯行の目的は何か? 独自の調査を始めたチェイン氏を襲う危機また危機。いよいよ進退窮まったとき、フレンチ警部が登場し事件の全貌解明に乗り出す~

ちょっと微妙な感じの作品。
クロフツといえば、地道な捜査による「アリバイ崩し」がハイライトですが、本作はそれとは無関係。
第1部では、チェイン氏が何度も犯人グループに襲われ、どうやらその理由が友人から受取った手紙に関係していることが分かる。そして、仲間に加わった女性が拉致されるに及んで、フレンチ警部に救いを求めるところから第2部が始まり、主題は「暗号の解読」に・・・というのが大まかな粗筋。
あまり捻りはなく、正統派の冒険小説という感じですし、暗号も複雑に見えましたが、フレンチ警部があっさりと解明してしまいます。
唯一、犯人が手掛かりとして残した紙切れをもとに、フレンチが問題の都市とホテルを捜索する場面にクロフツらしさを感じてしまいました。
(確かに、ブルージュもアントワープもいい街です)
でも、フレンチ警部にはバカ正直な捜査&アリバイ崩しが似合うなぁというのが1ファンとしての正直な感想ですね。


No.505 6点 UFO大通り
島田荘司
(2011/07/11 22:37登録)
御手洗潔シリーズ。
御手洗=石岡の名コンビが贈る中篇2作を収録。
①「UFO大通り」=鎌倉の自宅で異様な姿で死んでいる男が発見される。そして、同じ頃、御手洗は死亡した男の近所に住む老婆の家の前でUFOや宇宙人が行き交ったことを聞き及ぶ。この摩訶不思議な事件を御手洗はどう推理するのか。
②「傘を折る女」=ある豪雨の夜、名古屋市郊外の路上で、傘の柄を車に轢かせている若い女性が目撃される。その話を石岡から聞かされた御手洗は、その超人的な推理で瞬く間に背後にあった事件を推察するが、事件は意外な方向に・・・

作品の出来はともかく、御手洗が海外へ旅立つ前の石岡とのコンビは「やっぱりいい!」。御手洗シリーズはこうでないと!
最近は、世界を股にかけ、超人的な活躍を見せる姿ばかり読まされてきましたので、多少なりともホッとさせられる作品でした。
そこで、感想&書評ですが・・・
『マズマズの満足感』というところでしょうか。
①は御手洗シリーズの典型とでもいいたくなるプロットですね。新興宗教に侵されていたとしか思えないような殺害現場、現場の隣では宇宙服を着た異星人が光線銃を撃っている! こんな謎分かるわけないですよ。
まぁ、真相は現実的収束のギリギリラインという感じですよねぇ・・・結局はいつもの「偶然の連続」という大技が繰り出されてしまうわけですから。
②の方は、珍しく完全な「安楽椅子探偵」モノ。
まぁ、「折られた傘」から鬼のように推理を展開する姿はロジック全開と言えなくはないですが、要は「好きなように言ってるだけ」にも思えます。
ここまで突飛な状況を出されたら、ロジックもクソもないという感じがどうしても拭えません。
しかも、まさか「アレ」が両方に出てくるなんて・・・(途中で気付いちゃいましたけど)
というわけで、不満を挙げればキリはないのですが、冷静な評価をすれば、平均点+αかなっと。
(①は舞台がなぜ鎌倉か分かりましたが、②はなぜあそこだったのかな?)


No.504 6点 探偵を捜せ!
パット・マガー
(2011/07/06 23:37登録)
「被害者を捜せ!」などに続く作者の長編第3作目。
貫井徳郎の作品に触発されて、「本家」の方を手に取ってみました。
~病弱な夫を殺して、金と自由を手に入れようとした美貌の若妻。だが、殺人を決行した夜、その山荘を訪れた4人の中に、夫が死ぬ前に呼び寄せた探偵がいるらしい。妻は探偵を探し出そうと必死の推理を展開。目星を付けた男を殺したが、探偵はまだいなくならない、さらに次の人物を・・・~

なかなか楽しめる作品だとは思います。
もちろん、50年代の作品ですから、いろいろと細かな齟齬や、「もう少しやりようがあるだろ!」的な部分は目に付きますが、それでも作品のプロット自体はよく練られているのではないでしょうか。
犯人側からみた一種の「倒叙」に、真犯人探しならぬ「探偵探し」を加えているわけで、考えようによっては、通常のフーダニットよりも気が利いていると言えなくもないような感じ。(言い過ぎか?)
マーゴットのキャラは、紋切型といえばそれまでかもしれませんが、終盤に向かうほど徐々に追い込まれていく心理がよく追われていて、サスペンス的な要素も楽しめます。
まぁ、ラストがちょっとあっけないというか、捻りがないというのが不満といえば不満ですが、トータルでは十分に水準レベルの作品ではないかと思います。
(自己チューの女って、ホントに怖いね!)


No.503 7点 エコール・ド・パリ殺人事件
深水黎一郎
(2011/07/06 23:35登録)
芸術ミステリーシリーズの第1作目。
芸術(絵画)とミステリーをうまい具合に融合させた佳作です。
~エコール・ド・パリ-第2次大戦前のパリで、悲劇的な生涯をおくった画家たち。彼らの絵に心を奪われ続けた有名画商が密室で殺された。死の謎を解く鍵は、被害者の遺した美術書のなかに潜んでいる! 芸術とミステリーを融合させ、知的興奮を呼び起こす作品~

さすがに評判どおりで、一定水準にある佳作だと思いますね。
「密室」や「作中作」、そして「読者への挑戦」など、本格ファンの心をくすぐるガジェットが目白押しで、ワクワクしながら読み進めてると・・・
「策士」ですよねぇーこの作者は!
簡単な密室講義まで挿入しながら、読者を煙にまくような密室の解法。確かにその方向しかないんですよねぇ・・・
要は、そのトリックを成立させるための「エコール・ド・パリ」であり、「作中作」なわけです。この辺りは、本格ミステリーの理想型とさえ言えるかもしれません。
ただ、フーダニットのレベルが低いのが実に惜しい!
「真犯人」らしき人物がほぼ特定されてしまうので、この辺りをもう少しうまく処理できなかったのかなぁというのが正直な感想ですね。
それにしても、「カ○○○○」ですか! 思い出しましたよ、中学の社会科の授業を。
エコール・ド・パリの画家を含め、美術関係の薀蓄もなかなか興味深く読ませていただきましたし、後の作品も必ず読んでいこうと思います。
(これだけ本格志向の作品なら、もう少し重厚な作風の方が好みなんだけどなぁ・・・その辺もちょっと残念。あと、警部のキャラの謎は後の作品で何らかのネタバラシがあるのかな?)


No.502 7点 ジョーカー・ゲーム
柳広司
(2011/07/06 23:31登録)
「魔王」と恐れられる男「結城中佐」が設立したスパイ養成機関"D機関”を舞台に繰り広げられるスパイ・ミステリー(?)
日本推理協会賞受賞作。
①「ジョーカー・ゲーム」=ポーカーを使って1人を罠に嵌めるゲームのことだそうです。まさに、ジョーカー・ゲームのようにD機関に嵌められた佐久間が主役。本作がどういう小説なのかよく分かりました。
②「幽霊(ゴースト)」=完璧にスパイ役を演じる男"蒲生”。でも、それを上回るのが結城中佐。プロットが秀逸。
③「ロビンソン」=スピッツではない(ちょっと古いか?)。ロビンソン・クルーソーに引っ掛けた暗号だが、こんなに複雑な暗号よく分かったなと思うし、やっぱり「結城中佐恐るべし!」
④「魔都」=といえば、やっぱり租界時代の「上海」・・・というわけで、スパイが暗躍するにはまさにうってつけの舞台ですね。都会の夜は人間を狂わせるっていうことですかねぇ・・・。
⑤「XX(ダブル・クロス)」=英語の俗語で"裏切り”という意味らしい。最終的に飛崎が下した判断は余韻をひく。結城中佐の器の大きさはさすが!
以上5編。
切れ味たっぷりの作品集。
第2次世界大戦前のきな臭い日本・世界という舞台が、実に作品世界にマッチしてます。
プロットも秀逸ですし、やはり「結城中佐」という特異なキャラクターがよく「効いている」。
世間的な評価の高さにも十分納得させていただきました。
(②がベストかな。①や④も十分面白い)


No.501 7点 悪魔はすぐそこに
D・M・ディヴァイン
(2011/07/02 23:51登録)
ディバインの第5長編。
本作もやはり正統派の英国パズラー・ミステリー。
~大学の数学講師ピーターは、横領容疑で免職の危機にある亡父の友人ハクストンに助力を乞われた。だが、審問の場でハクストンは教授たちに脅迫めいた言葉を吐いた後変死する。次いで、図書館でも殺人がおき、名誉学長暗殺を予告する手紙までもが舞い込む。相次ぐ事件は、ピーターの父を死に追いやった
8年前の醜聞が原因なのか?~

なかなかよくできているんじゃないでしょうか。
本作には多くの人物が登場し、その分、容疑者候補にも事欠かないような展開。普通の翻訳物なら、読みながらこんがらがってしまうような状況になるはずです
が、そこはディバイン! 人物描写が並じゃないです。
特に、探偵役となるラウドンと2人の女性(ルシールとカレン)の描写はスゴイ。読みながら、性格や考え方が手に取るように分かります。
フーダニットについては、途中から容疑者が5名ほとに絞られたものの、なかなか1人に特定できないというもどかしい展開。
ただねぇ・・・ちょっとしたミステリーファンなら、それ以外に「意外な犯人」がいるのには気付きますねぇ・・・しかも作品タイトルが「あれ」ですからー。
巻末解説で法月氏が「本作は再読した方がよい」旨言及してますが、まさにそのとおりかもしれません。初読時では、どうしても作者が埋蔵した伏線や仕掛けには気付かないかも?
とにかく、「正統派の翻訳ミステリー」好きには堪らない作品でしょう。
(本筋とは関係ありませんが、ダメな上司に振り回されるカレンとフィニー警部補に何となくシンパシーと感じてしまった・・・)


No.500 9点 絆回廊 新宿鮫Ⅹ
大沢在昌
(2011/07/02 23:49登録)
記念すべき(?)500冊目の書評は、「新宿鮫シリーズ」の最新刊で。
本シリーズがパート10を迎えるなんて・・・感慨深い!
~巨躯、凄みのある風貌、暴力性、群れない・・・ヤクザも恐れる伝説的アウトローが「警官を殺す」との情念を胸に22年の長期刑を終え帰ってきた。すでに初老だが、いまだ強烈な存在感を放つというその大男を阻止すべく捜査を開始した鮫島。しかし、捜査に関わった人々の身につぎつぎと・・・親子、恩人、上司、同胞、しがらみ、恋慕の念。各々の「絆」が交錯したとき、人々は走り出す。熱気、波乱、濃度、そして疾走感~

シリーズ第1弾からすでに20年が経過しましたが、第10弾を迎えても、決して褪せることのなく、読者の心を沸き立たせてくれる・・・やっぱり凄いね!
今回も、実に「新宿鮫シリーズ」らしいストーリー&展開。
前半は、鮫島を中心に、登場人物たちの"人となり”や心の動きが順に語られながら、割と静かに流れていく。
中盤以降、物語は加速度的に進行し、登場人物たちがまるで運命に吸い寄せられるように新宿・歌舞伎町の「ある場所」へ・・・
そして、物語が最高潮を迎える瞬間、ついに「○○○が×××しまう」(!)
こうやって書いていると、新宿鮫っていつも「交響曲」のような作りになってるんですねぇ。それだけ起承転結がしっかりしているということなのでしょう。
でも、本作ではついに恐れていたことが現実になってしまったなぁ・・・(「狼花<新宿鮫Ⅸ>の書評で書きましたが)
後悔と悲嘆に暮れ、号泣する鮫島の姿が目に浮かんでしまって、思わずもらい泣きしちゃいました。
それと、ラストの新宿署副署長の台詞がまた泣かせる・・・(言いこというねぇ!)

今回、新しいステージへの予感を抱かせるような作りになってましたので、まだまだ本シリーズは続いていくのでしょう。
晶や香田との関係も気になりますが、いつまでも鮫島は鮫島でいて欲しいなぁと思わずにはいられません。
(帯に書いてる「鮫島は歯をくいしばる・・・」という台詞が胸を打つ! 鮫島の姿に、自分が忘れかけた「使命感」とか「熱いこころ」という奴を追い求めているんですねぇ。スイマセン。新宿鮫シリーズについて語り始めると、ついつい熱くなってしまいます・・・)


No.499 7点 戻り川心中
連城三紀彦
(2011/07/02 23:43登録)
いわゆる、作者の「花葬シリーズ」を収めた作品集。
今回は光文社文庫版で読了。(ハルキ文庫版の方がよかったかな?)
①「藤の香」=このシリーズらしさを感じる作品。起承転結が効いていて、「名人芸」を感じる。
②「桔梗の宿」=何だか切なくなるような真相。大正末期~昭和初期という暗い時代と相俟って、作品世界の「叙情性」を引き立たせる。
③「桐の柩」=これも作者にしか書けないような作品世界。ラストが余韻を引き摺る。
④「白蓮の寺」=母子の情愛の深さ・・・心に染み入るねぇ・・・
⑤「戻り川心中」=さすがにこれは「名作」と言われるだけのことはある。特に、「創作」と「現実」とが入れ替わるというカタルシスは見事! この作品を読むだけでも買う価値ありでしょう。
以上5編。
これは、本当に独特の「作品世界」。時代設定もありますが、暗くジメジメしていて、それでいてどこか「耽美的」な香り・・・
これこそが「連城ワールド」と呼べそうです。
是非一度ご堪能あれ!って感じ。
(やっぱり⑤が抜けている。あとは①②かな)


No.498 8点 第二の銃声
アントニイ・バークリー
(2011/06/26 16:12登録)
R.シェリンガム・シリーズ。
最近発売された「創元文庫版」で読了。
~高名な探偵作家の私邸でゲストを招いて行われた推理劇。だが、そこで被害者役を演じる男は、2発の銃声ののち、本物の死体となって発見された。事件発生時の状況から、殺人の疑いを掛けられたピンカートンは、素人探偵シェリンガムに助けを求める。二転三転する論証の果てに明かされる驚愕の真実。探偵小説の可能性を追求し、時代を超えて高評価を得ている傑作~

確かにこれは「傑作」と読んでも差し支えないかもしれません。
作者の推理小説家としての技巧を「これでもか!」と詰め込んだような作品ですねぇー。
まぁ、「手記」という形式を取っている時点で、これは読者を「騙しにかかってるな?」という察しがつくわけです。
途中、検死審問の場面辺りから、「推理」やら「仮説」やら「偽証」やらが次々と語られはじめ、徐々に騙され感が増していくような思いが増していく・・・
そして、やや唐突に一旦事件は解決したかと思いきや・・・ここからが「さすがバークリー!」というべき騙しのテクニックが開陳されていきます。
銃声に関するトリックそのものは、よくある「手」であり、驚きはないのですが、非常に凝縮された時間内でアリバイやら、○○殺人の仕掛けやらが謀られ、そこに偶然の要素まで絡んでくるわけですから、もはや読者に全貌を把握するのは困難では?・・・
今回は、もしかして、シェリンガムは普通の「名探偵」の役どころなのかと思ってたら、やっぱり、シェリンガムはシェリンガムだったんですねぇ・・・(何か可哀想)
トータルでは、「さすがの1作」、「一読の価値十分」という評価です。
(これほどハズレのない作家というのも珍しい気がしますねぇ・・・)


No.497 7点 被害者は誰?
貫井徳郎
(2011/06/26 16:09登録)
P.マガーの名作にインスパイアされた作品集。
いわゆる、通常の「真犯人探し」ではない「○○探し」を主題に作品が展開されます。
①「被害者は誰?」=真犯人の手記を元に、3人の被害者候補から、真の被害者を絞り込む。トリックの「種」は、叙述系トリックでは基本中の基本の「アレ」。
でも、結構騙されやすいかも?
②「目撃者は誰?」=痴情絡みの殺人事件の目撃者を絞り込む。これも叙述トリックの基本技が炸裂! 
③「探偵は誰?」=いわゆる「作中作」を使った作品。「作中作」の方は、どっかで読んだことのあるような○○○○の伏線がメイン。でもって、本作の探偵役であるところの「吉祥院先輩」は、登場人物の誰に当たるのかを推理する趣向。なかなかの面白さ。
④「名探偵は誰?」=これは確かに騙されたが、「そんなところで騙すなよ!」って思わされる。
以上4編。
なかなかよく練られたプロットですし、トリックこそ叙述系トリックの基本技ですが、使い方に作者のセンスを感じますね。
肩の凝らない軽いタッチの文章については、「貫井って、こんな作品も書けるんだ・・・」という感想・・・。
P.マガーは未読のため、今後機会があれば読んでみようかと思います。
(③は中篇というべき分量で、なかなかよい。①もまずまず)


No.496 6点 名探偵が多すぎる
西村京太郎
(2011/06/26 16:08登録)
「名探偵なんか怖くない」に続く、名探偵パロディシリーズの第2作目。
今回は、ポワロ・メグレ・クイーン・明智の他に、ルパンそして怪人二十面相までもが登場!の豪華版。
~別府航路の船上で一堂に会した世界の名探偵、メグレ・クイーン・ポワロ・明智の4人に対し、かのルパンから届いた挑戦状。ルパン対4人の名探偵の虚虚実実の対決はかくして幕を上げるが、ルパンに狙われた宝石商は鍵の掛かった船室で殺害され、宝石も奪われる。ルパンは密室殺人で挑戦してきたのか?~

よくできてると思います。
もちろん、パロディですし、冗談半分のような「軽い」ノリなのは間違いないですが、プロットの骨格はそれなりにしっかりとはしているでしょう。
「密室殺人」のトリックというか解法は、まぁご愛嬌っていうところでしょうか。
前作では「読者への挑戦」まで挿入するサービスぶりでしたが、さすがに今回はそこまではできなかった様子ですねぇ・・・
本作では、4人の名探偵やルパンというよりも、休暇中なのにやたら張り切る吉牟田刑事やメグレの妻の方が何だか目立っている?
特に、吉牟田刑事の小市民ぶりには「悲哀」すら感じる・・・
まぁ、本作も,作者の懐の深さを示す作品の一例って感じですかねぇー。
(各章の名前もなかなか面白い。「災厄の船」や「Lの悲劇」などなど・・・)


No.495 3点 孤島の鬼
江戸川乱歩
(2011/06/21 23:11登録)
乱歩の長編代表作との声もある作品。
いつもの"乱歩節”が堪能できることは間違いなし。
~箕浦金之助は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨てられた子で、先祖の系図帳を持っていたが、先祖がどこの誰とも分からない。ある夜、初代は完全に戸締りをした自宅で、何者かに心臓を刺されて殺された。恋人を奪われた箕浦は、友人である深山木幸吉に事件解明を依頼するが・・・~

春陽堂版で読了。
これは、だた一言、「好みに合わなかった!」
「これはなんなんだ?」って感じでしたねぇー。
不可能状況で連続殺人が起こる序盤はまぁ問題なしですが、殺人事件の解決が「○○○の殺人」ということでほぼ解決した中盤以降は、正直ちょっと萎えた。
まぁ、これが「乱歩の世界だ」と言われればそのとおりなのでしょうし、本作こそ乱歩らしさが"いい匙加減”で出された作品という世間的評価にも頷けるものはある。
ただねぇ・・・シャム双生児やら○○○男(今では放送禁止用語では?)やら登場させ、結局これが「動機」にもつながっていくんですが、これには相当食傷させられた。
終盤の洞窟シーンは有名ですし、緊張感ある展開はいいんですけどねぇ、ラストは何かあっけないですねぇ・・・
というわけで、嗜好性の問題かもしれませんが、個人的にはお勧めしません。
(ちょっと評価辛すぎかな?)


No.494 7点 日本庭園の秘密
エラリイ・クイーン
(2011/06/21 23:07登録)
国名シリーズなのか、そうでないのか、いろいろな意見・見方が可能な作品。
「日本」が題材になっている点でも興味深いのですが・・・
~流行作家のNYの邸内に美しい日本庭園が作られた。だが、結婚を控え、幸せの絶頂にあった彼女がその庭を望む1室で謎の死を遂げる。窓には鉄格子がはめられ、屋根裏部屋へ通じる扉は開かず、事件現場に出入りした者は誰もいないようにみえた。密室と思われる状況下の悪夢の死に、エラリーの推理は?~

これは、いい意味で予想を裏切られた感じ。
国名シリーズも回を重ねるごとにクオリティが落ちており、本作もその延長線上なのかと思いきや・・・というわけです。
そういう意味では、国名シリーズのラストというよりは、やはり「中途の家」へつながる後期クイーンの端緒を切る作品という見方が合っているのでしょう。
邦訳の作品名よりは、原題の「The Door Between」の方が、この作品の本質を捉えており、「言い得て妙」のタイトルかなと思います。
そして、本作の「鍵」となるのが、「密室殺人」の謎。
ほぼ完全に密閉された部屋での殺人、唯一開閉可能なドアの前には、1人の人間の目が光る・・・という状況。
ただ、その解法については「鮮やか」とは言い難いのも事実・・・
「樫鳥」(琉球カケス?)の存在も、凶器との関連での「仕掛け」はちょっとミエミエでしたねぇー。
ラスト、大方の謎解きが終わった後の、更なるエラリーの悲痛な謎解きは、何となく後期クイーン作品を彷彿させられます。
なかなかの力作という評価でいいのではないですか。
(今回、創元版で読みましたが、キヌメの台詞が「・・・アル」って、中国人じゃないんだから・・・これってワザとか?)


No.493 4点 退職刑事4
都筑道夫
(2011/06/21 23:04登録)
国産安楽椅子探偵物の定番「退職刑事シリーズ」の第4弾。
徹底したロジックが特徴的だった1~3に比べるとやや変化が見られます。
①「連想試験」=大昔にあったNHKの番組「連想ゲーム」をなぜか思い出した。連想自体は事件の本筋とあまり関係がない気がする。
②「夢うらない」=全体的には本シリーズらしさを感じる1編。
③「殺人予告」=まるで1編の「詩」のような殺人予告に纏わる謎を解く・・・と書くとカッコいいんですが・・・
④「あらなんともな」=本シリーズに登場するサブキャラ、推理作家の椿氏の友人が残した作品の謎を解く。あまりパッとしない。
⑤「転居先不明」=プロットそのものは短編らしくていいと思うが・・・如何せんラストが不満。
⑥「改造拳銃」=2度も息子の改造拳銃で殺人を犯した父親の謎。動機解明がメイン。
⑦「著者サイン本」=ある本の余白に書かれた物騒な落書きを巡る謎。
⑧「線香花火」=昔の東京の風俗や落語、歌舞伎など、作者の好みが窺える。(本筋と関係ないが・・・)
以上8編。
正直いって、1~3と比べると明らかにクオリティはダウンしています。
まぁ、やりたいことは一応前3作でやり尽くしたんで、「違う趣向を取り入れて」ってことだとは思いますが、本シリーズに求めるものとは違っている。
マンネリズムは念頭に入れて書き始めた本シリーズですが、さすがにここまで重ねてくると、ちょっと方向性を変えなければという感じになっちゃったんでしょうね。
(まっ、1~3を読めば本シリーズは十分ってことですかねぇー。)


No.492 6点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅰ〉
エドワード・D・ホック
(2011/06/18 14:16登録)
短編の名手、E.D.ホックの生み出した名シリーズの作品集。
何と、年齢2千歳(?)のオカルト研究家、サイモン・アークが神秘に包まれた謎を解き明かします。
①「死者の村」=作者のデビュー作でもある本編。新興宗教に犯され、突然73人もの住民が飛び降り自殺した謎を解き明かす。
②「地獄の代理人」=いにしえの著作「悪魔崇拝」に絡んだ殺人の謎。部屋のドアに貼り付けにされた死体など、面白そうな要素はあるのだが・・・
③「魔術師の日」=舞台はエジプト、テーマは「魔術」というわけで、こちらも舞台設定は申し分ないのだが・・・トリックはちょっと無理があるのでは?
④「霧の中の埋葬」=世界大戦で敗れ、敗走した日本兵が残した宝物をめぐる事件。短編らしい切れ味を感じる作品で好感。
⑤「狼男を撃った男」=男が狼男と間違えて撃った男は、普通の若者だった・・・。オカルトの仮面を剥がせば、人間の欲望や嫌らしさが垣間見える事件。これもなかなか。
⑥「悪魔撲滅教団」=これも謎の新興宗教がテーマ。普通の解決と見せかけて、最後にドンデン返しあり。
⑦「妖精コリアダ」=よく分からなかった。単なる「妖精」ではなかったってこと?
⑧「傷痕同盟」=絵画切り裂き事件がテーマ。これも短編らしい捻り。
⑨「奇跡の教祖」=三たび新興宗教ネタ(好きだねぇー)。自動洗車機からの消失はやや子供だまし。
⑩「キルトを縫わないキルター」=うーん。普通。あまり印象に残らず。
以上10編。
全編に共通するのは、オカルト的な外観をまとった事件を、サイモン・アークが現実的な事件として解決するというパターン。
ちょっとした発想の転換で事件を解決するというのは短編のよさを十分に引き出していて、さすがですねぇー。
ただ、作品ごとでかなり出来栄えに差があるような気はしました。
(④⑤が面白かった。①はそれほどでもない。全体的にはまあまあレベルなかぁ・・・)


No.491 8点 赤い指
東野圭吾
(2011/06/18 14:14登録)
加賀刑事シリーズ。
今回は、加賀の父親も登場。少しづつ加賀の秘密が明らかになってくる感じです。
~少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。いったいどんな悪夢が彼らを狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼ら自身の手によって明かされなければならない」。加賀刑事の謎めいた言葉の意味とは?~

いやぁ、これは「重い」。ひたすら「重い」というか「痛い!」。
主人公である前原の姿に思わず自分を重ねてしまいました。(特に妻との関係・・・)
父親として、夫として、そして年老いた親を持つ「子供」として、前原の「なさけない姿」がなんともいえず、読んでて「つらく」なってしまいました。
やっぱりすごい作家ですよ、東野圭吾は!
ここまで、人間の嫌なところを抉り出して、さらけ出すなんて・・・。
そして、それを解明する加賀恭一郎のキャタクター! この短さで、濃厚な人間ドラマを作り上げる手腕にとにかく感心。
ラストもにくいねぇ・・・特に、将棋!
かっこよすぎ!
最後に効いてくる「赤い指」の仕掛けも見事です。
(自分の子供がこんな奴にならないように祈るのみ・・・)


No.490 7点 山魔の如き嗤うもの
三津田信三
(2011/06/18 14:12登録)
刀城言耶シリーズ4作目。
ホラーと本格物が見事に融合した意欲作です。
~忌み山で人目を避けるように暮らしていた一家が忽然と消えた。「しろじぞうさま、のーぼる」一人目の犠牲者が出た。「くろじぞさま、さーぐる」二人目の犠牲者。村に残る六地蔵の見立て殺人なのか、ならばどうして? そして・・・。六地蔵に纏わる奇妙な童唄、消失と惨劇の忌み山。そこで、刀城言耶が見たものは何か?~

相変わらず見事な本格ミステリー。まさに、現代に甦った「横溝」・「金田一耕助」といった雰囲気。
今回のテーマは「見立て殺人」。
途中、「見立て殺人」の分類を試みるなど、本格ファンの心理をくすぐってくれますよねぇ・・・
そして、本シリーズ最大の特徴とも言える、真相解明前の「疑問点の列挙」とドンデン返しの連続。
こうやって書いていると、本当にすごいミステリーに思えてしまいます。
ただ、「首無」と比べると、やはり1枚落ちるかなという印象はやむなしでしょうか。
「首無」のトリックには相当サプライズを感じましたが、今回は「そこまで」ではなかった。
(確かに、「一家の○れ○○り」にはアッと思わされたが、「見立て」についてはちょっと弱いか?)
それにしても、「顔を焼かれた死体」とか「旅芸人一座」というのは、まさに「金田一シリーズ」を思い起こさせますねぇ・・・(よく出てきたギミックです)
トータルでは、読む価値十分の力作という評価でよいでしょう。


No.489 7点 九マイルは遠すぎる
ハリイ・ケメルマン
(2011/06/12 22:34登録)
ニッキイ・ウエルト教授のロジックが切れまくる!作品集。
純粋な推理だけを武器に、些細な手掛かりから難事件を次々に解き明かしていきます。
①「九マイルは遠すぎる」=有名作。「ほんの少しの言葉から意外な真相を導く!」で有名。でも、それほどとは感じなかった。
②「わらの男」=むしろこっちの方が①より感心。「安楽椅子探偵」のお手本のような作品。
③「10時の学者」=これも秀逸! 恐らく真犯人は「こいつ」と最初から想像はつくが、そこまでのロジックが見事。
④「エンド・プレイ」=捜査陣が見落としたちょっとした手掛かりから、真相解明! これぞ名探偵もの。
⑤「時計を二つ持つ男」=これって「遠隔殺人」でしょうね。
⑥「おしゃべり湯沸し」=封筒の中身を推理する場面が面白い。
⑦「ありふれた事件」=いかにも犯人らしい奴はやっぱり犯人ではなかった。
⑧「梯子の上の男」=チェスと犯罪を絡めての推理法がなかなかGood。犬や梯子といった小道具も効いている。
以上8編。
評判どおりの面白さ。
「安楽椅子型探偵」の見本のようで、ロジックが小気味よく効いてます。
気の利いたラストもよい。ミステリー好きなら1度は読むべき作品でしょう。
(①はそれほどでもない。それよりは②~⑤がお勧め)

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